学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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行と行の間に一つ空白を入れてたのですが、今回はなくしてみました。空白があるのとないの、どっちが読みやすいでしょう?


魔女VS道化

 『星武祭(フェスタ)』とは世界最大規模のファン人口を誇る総合バトルエンターテイメントである。北関東多重クレーターの湖上に浮かぶ人工水上都市、六花。またの名をアスタリスクを舞台に年に一度開催されるお祭り騒ぎだ。六つの学園の生徒が己が力で覇を競い合う過激な催し物だ。

 

 過激と言っても実際に命を奪い合うわけではない。そのルールは星武憲章(ステラ・カルタ)と呼ばれる取り決めによって定められている。ざっくばらんに言ってしまえば、『相手の校章を破壊したほうが勝ち』というものだ。意図的な残虐攻撃は禁じられているが、相手の戦闘力を削ぐという名目がある以上、校章以外への攻撃も認められているし武器の使用も同様だ。当然、怪我人が出ることもあるし、怪我ではすまないこともある。

 

 だと言うのに、アスタリスクにやって来る若者は後を絶たない。それはここでなければ叶えられないものがあるからだ。

 

 そして、学生が戦う機会は『星武祭(フェスタ)』だけではない。アスタリスクではルールに則った私闘が許可されていた。それが決闘と呼ばれるものだ。その勝敗は『星武祭(フェスタ)』と同じで、校章の破壊によって決まる。

 

 特に同じ学園の生徒同士の決闘では勝敗によって序列の変動が行なわれるので、単なる私闘以上の意味があった。

 

 彼女、ユリス自身も数々の決闘で相手を下し、序列五位という立場に上り詰めたのだ。当然、実力は折り紙つきで星導館学園では勿論、アスタリスクの中でも上位に位置するものだ。

 

 だが、そのユリスでも、目の前の男、高良凜堂の実力を推し量る事は出来なかった。と言うか、何を考えているのか分からない、と表現したほうが的確だろう。

 

「咲き誇れ、鋭槍の白炎花(ロンギフローラム)!」

 

 オーケストラの指揮者のようにユリスが煌式武装(ルークス)である細剣を振るう。彼女の動きに合わせてテッポウユリの形をした青白い炎が出現した。それは槍の名に相応しいものだった。炎の槍は主の命に従い、凜堂を貫かんと飛び掛る。

 

「今度はテッポウユリかよ!」

 

 凜堂は棍を水車のように回し、迫り来る炎の槍を悉く打ち払った。その動きに野次馬の一部から感嘆の声が上がる。

 

「へぇ、あの新顔中々じゃないか」

 

「お姫様の炎を真っ向から迎え撃つなんて大した度胸だ」

 

「悪くは無いな」

 

「大方、お姫様が手加減しているんだろ」

 

 嫌でも聞こえてくる外野の声にユリスはその柳眉を曇らせた。彼女自身、手加減などしていない。全力全開で戦っている訳ではないが、彼女は真剣に本気で戦っていた。ギャラリーからはユリスが優勢で、凜堂を防戦一方に押し込んでいるように見えるのだろうが、実際は違う。彼は防戦一方なのではない。ただ、愚直なまでに防御に徹し続けているだけだ。

 

 どういう考えでそうしているのかは分からないが、凜堂は決して自分からユリスに攻撃を仕掛けようとはしなかった。ただ只管に襲い来る炎を払い、防御に専念している。

 

「しかしあいつ。あんな棒一本でよくお姫様の炎と渡り合えてるな」

 

 生徒たちの視線が凜堂の手の中にある棍へと集中する。見れば見るほど、何の変哲も無いただの金属の棒だ。それで何故、ユリスの炎が防げるのかギャラリーには分からなかったが、ユリスには大体の見当をつけていた。 

 

(こいつ、星辰力(プラーナ)をあの棍にチャージさせているのか)

 

 そうすることで棍の攻撃力や耐久力を上げているのだ。ユリスの炎で棍が熔解しないのも、棍にチャージされた星辰力(プラーナ)が棍自体を守っているからだろう。さっきの九輪の舞焔火(プリムローズ)を制服で防ぐというビックリ芸当のカラクリも、制服に星辰力(プラーナ)を集中させて防いだというのなら説明がつく。

 

(何で、そんな面倒なことを?)

 

 それが疑問だった。煌式武装(ルークス)を使わず、普通に扱えば星脈世代(ジェネステラ)に手も足も出せないようなものを態々武器として扱っているのか? 彼女の胸中で凜堂に対する興味が微かにわいた。

 

 改めて眼前の少年を観察する。顔立ちはそれなりに整っている。クラスの中で五、六番目くらい、と言えばしっくりくるだろうか。体の線は少し細いが、脆弱さは感じられない。寧ろ、その動きは躍動感と力強さに満ちていた。黒い瞳の奥には光がある。少し長めの髪はぼさぼさだが、不衛生な印象は無い。端的に表現するなら、悪戯好きの悪ガキ、といったところだろう。

 

「んで、まだ続けるのかいお嬢様? 多分、このまま続けてもお宅の攻撃は俺にゃ当たらんぞ」

 

 棍を肩に担ぐ凜堂。さっきからユリスの猛攻をかわし続けているというのに息を切らせるどころか、汗一つかいていない。それはユリスも同じことだが、ここまで余裕を見せ付けられて黙っていられるほど彼女は大人しい性格ではなかった。

 

「そういうお前はどうなんだ? さっきから避けてばかりで。少しは反撃したらどうだ」

 

「んなこと言われたってねぇ。こっちにゃお宅を攻撃する理由がございませんし」

 

 ユリスを怒らせてしまったのは凜堂の過失なので、決闘を受けることまでは了承した。しかし、凜堂自身にはユリスを攻撃する理由がない。だから凜堂は自分から彼女に仕掛けることは無かった。

 

「わざと負けるのもありかと思ったけど、んなことしたらウェルダンにされるのは目に見えてるし」

 

 引き分けではユリスは納得しないだろう。そこで凜堂が出した結論がユリスの攻撃を回避し続けるというものだった。そうして彼女の星辰力(プラーナ)が尽きるのを待つのだ。

 

「ふぅん。まぁ、それも一つの手だな」

 

 あら意外、と凜堂は目を丸くしてユリスを見る。てっきり、真面目にやれと怒るものだと思っていたのだが。

 

「何を驚いているんだ。相手を消耗させて反撃の機を待つ。それだって戦い方の一つだろう」

 

 凜堂自身、反撃に出る気など毛頭ないのだが、それもユリスには関係ないことだ。これ以上、いたずらに攻撃を続けてもこちらが疲れるだけ。ここでユリスは勝負に出る。

 

「成る程。お前の考えは分かった。ならば、これはどうだ?」

 

 言いながらユリスは細剣の切っ先を地面へと向ける。それを見て凜堂は怪訝な表情を浮かべたがそれも一瞬のこと、ハッとしながら自身の足下へと視線を落とした。

 

「遅い! 綻べ、栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!!」

 

 刹那、凜堂の立っている場所に魔法陣が浮かび上がり、彼の周囲に炎の柱が立ち上がった。その数五本。爪の如き炎柱は逃げ道をなくすように凜堂を囲む。その光景は巨大なドラゴンの手の中に収まってしまったかのような錯覚を凜堂に覚えさせた。

 

「設置型の技か。何時の間にこんなもん仕掛けてたんだ?」

 

 多分、凜堂が避けに徹していた間に仕込んでいたのだろう。幾ら回避に専念していたとはいえ、悟られる事なく足下に魔法陣を据えたユリスに凜堂は驚嘆の念を覚えた。星導館学園序列第五位の名は伊達ではないということだ。

 

「どうだ。逃げ道は無いぞ」

 

 勝利を確信した笑みを浮かべ、ユリスは細剣を振るう。炎の爪は主の指示を受け、凜堂を押し潰さんと迫る。前後左右、どっちを向いても炎の柱だ。確かにこの状況で逃げることは不可能だろう。はぁ、と一つため息を吐き、凜堂は行動に移った。

 

 ぶん、と棍を握る凜堂の右手に星辰力(プラーナ)が集中する。星辰力(プラーナ)は棍へと収束していき、光沢を放つそれをどす黒く染め上げた。星一つ無い夜空のような、常闇の黒に。

 

「『一閃(いっせん)轟気(とどろき)”』!!!」

 

 咆哮と共に棍を地面へと突き立てる。瞬間、凜堂を中心に暴風の如き衝撃波がドーム状に発生し、五本の炎爪を全て掻き消した。更に莫大な質量を持った物が力任せに叩きつけられたかのような揺れが発生し、その振動は地面を通して容赦なくユリスや野次馬達へと襲い掛かる。ユリスは咄嗟に細剣を地面に突き刺す事で転倒せずに済んだ。観客のほとんどが倒れており、立っているのはユリスを含めて数人しかいなかった。

 

流星闘技(メテオアーツ)!?」

 

 ユリスの口から驚きの声が漏れるが、すぐにその考えを打ち消す。そもそも、流星闘技(メテオアーツ)とは煌式武装(ルークス)に使用されている鉱石、マナダイトに星辰力(プラーナ)を供給し、一時的に煌式武装(ルークス)の出力を強制的に高める技だ。つまり、マナダイトがないと、流星闘技(メテオアーツ)そのものが成り立たないのだ。故に、マナダイトの無い棍を使っている凜堂に流星闘技(メテオアーツ)の使用は不可能だった。

 

(ただの棍でこの威力。もし、こいつが煌式武装(ルークス)を使ったら一体、どれだけの威力が……) 

 

 背筋に冷や汗が伝い落ちるのを感じながらユリスは衝撃で舞い上がった砂塵を見据える。その中にいるであろう凜堂の姿は見えない。不意に砂塵の中から黒い影が飛び出した。凜堂だ。姿勢を低くし、ユリス目掛けて流星の如く駆ける。さっきまで軽薄な態度だった者と同一人物とは思えないほどの動きだ。ユリスが反応した時、既に凜堂は己の間合いの中にユリスを捉えていた。

 

「なっ……!!」

 

 反射的に防御の構えを取るユリス。しかし、凜堂の眼中にユリスの姿は無かった。彼の視線は彼女の背後を見ている。凜堂はユリスの目の前で僅かに膝を曲げると、高々と跳躍した。その道のアスリートから見ても、惚れ惚れするような動きだ。跳び上がった凜堂は空中で体を思い切り捻り、棍を投げ槍のように放つ。持ち手から離れた棍は一本の槍と化し、ユリスを狙っていた光り輝く矢を打ち砕いて地面へと突き立った。

 

「……」

 

 地面に下りた凜堂はすぐに地面から棍を抜き取り、矢が飛んできた方向を険しい表情で睨んでいた。獲物を探す鷹のように目を光らせるが、既に逃げた後らしく犯人らしい人物は見つからなかった。

 

(逃げ足の速いこって……こんだけの衆目があるのに狙撃してきたってことはそれだけばれない自信があるってことか。このお嬢様も厄介なのに目ぇ付けられてるな)

 

 内心で嘆息しながら凜堂が警戒を解くのと、ユリスが事態を把握するのがほぼ同時。

 

「どういうつもりだ?」

 

「あん?」

 

「どういうつもりだと聞いている!」

 

 突然の不意打ち、それを阻止した凜堂。そしてその凜堂に詰め寄るユリス。困惑してざわめき始めるギャラリーを無視し、ユリスは凜堂を問い詰める。

 

「何でわざわざ、私を助けた?」

 

「何でって言われてもねぇ」

 

 困ったように頭を掻きながら凜堂は答えを探す。正直言って、理由など無い。ただ、ユリスに迫る矢を見つけた。そしたら体が勝手に動いていた。それだけのことだ。強いて理由を挙げるとすれば。

 

「……違うと思ったからだ」

 

 何? と問い返すユリスに凜堂はもう一度同じ言葉を返す。そう、彼はそれは違うと考えたから動いたのだ。

 

「これは俺とお前の決闘だ」

 

 これは高良凜堂とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトの戦いだ。凜堂の攻撃でユリスが倒されるのはいい。それはユリスが弱いのが原因だからだ。だが、第三者の不意打ちで彼女が倒れたとなれば話は違う。

 

「名前も面も知らない奴の不意打ちでお前が倒れるって、何か違うだろ」

 

 上手く言葉には出来ないが早い話、凜堂はこの決闘で自分以外の人間がユリスを倒す事に納得しなかったということだ。それが彼女を助けた理由。

 

(って、真面目に戦ってなかった俺が言えたことじゃねぇな)

 

 内心で自嘲していると、ユリスと視線がかち合った。不思議そうに自分を見上げる碧の瞳。出し抜けに凜堂は口元に軽薄な笑みを浮かべる。

 

「それとも何だ? 矢の直撃を受けたかったのか? マゾかお前?」

 

 な、と気色ばむユリスを凜堂はにやにやしながら見下ろす。ユリスが反論しようと口を開いたその時、

 

「はいはい。そこまでにしてくださいね」

 

 広く静かな湖畔を想起させる落ち着いた深みのある声と一緒に手を叩く乾いた音が響いた。




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