学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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今一度、決闘を

 自分と決闘をして欲しい、と綺凛が凜堂に頼み込んだのは二人が保護された翌日の事だった。

 

「不躾なお願いだということは重々承知してます。それでも、お願いします」

 

「いや、不躾とは欠片も思ってねぇけどよ……」

 

 懇切丁寧に頭を下げた綺凛に凜堂は困ったように頭を掻く。何か昨日の件で話があるのかと思って来てみれば、決闘の申し込みとは流石に予想外だった。

 

「俺は構わねぇけどよ……お前の方は大丈夫なのか?」

 

 あの鋼一郎が綺凛が勝手に決闘をする事を許すとはとても思えない。凜堂の言わんとしていることに気付いたのか、綺凛は苦笑を浮かべる。だが、そこには穏かだが、明確な意志が含まれていた。

 

「はい、大丈夫です……伯父様にはお前のような小娘一人如きに何が出来る、と言われましたが」

 

「あのおっさんの言いそうなこったな」

 

 姪の新たな門出を祝うくらいの器量を見せられないのか、と思う凜堂だが、すぐに無理だなとため息を吐く。血の繋がりのある肉親の弱みに付け込み、己の出世のための道具にする人間だ。そんな我欲の塊のような男にそれだけの度量がある訳もない。

 

「……高良先輩には関わるな、と言ってました。不愉快なガキだったとも」

 

 その時のことを思い出したのか、綺凛の顔が険しくなる。彼女らしからぬ、怒りに満ちた表情だった。それも相当に怒っているらしく、怒気と共に剣気が放たれていた。

 

「ちょいちょい。そんなんじゃ可愛い顔が台無しだぞ。スマイルスマイル」

 

 綺凛の剣気に微塵も臆することなく、凜堂は両手で自身の口角を持ち上げ綺凛に笑えという。ハッとしながら剣気を収め、あたふたと頭を下げる綺凛の頭を凜堂は優しく撫でた。

 

「俺のために怒ってくれたんだな、ありがとう」

 

「い、いえ、そんな。私はただ、高良先輩のことを何も知らないのに酷い事を言う伯父様が許せなくて……」

 

 赤面する綺凛を一頻り撫で、凜堂は話を戻した。

 

「決闘を受けることは全然構わないんだけど……何で俺なんだ?」

 

 既に二人の間で決着はついている。凜堂の敗北という形で。まだ黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)に慣れていなかった、周囲にタイムリミットのことをばらすわけにはいかなかった、と言い訳などいくらでも出来るが、凜堂が綺凛に負けたのは紛れも無い事実だ。

 

「他にももっと、お前と戦うのに相応しい奴がいると思うんだが」

 

「いえ、高良先輩じゃないと駄目なんです」

 

 きっぱり、はっきりと綺凛は言い切る。彼女自身を決意させたのは凜堂の言葉なのだ。他の誰でもない、凜堂が綺凛に言ってくれたのだ。

 

「高良先輩はこんな私でも変われる事を教えてくれました。私の物語(人生)の主人公は私しかいないと言ってくれました。こうやって、私が自分自身の意志で戦おうと決められたのも、高良先輩のお陰なんです」

 

 自分自身で選んだ道を自分自身の力で歩んでいく。今まで立ったことの無い、始まりの場所に綺凛は立っていた。そこから先は経験の無い、何も見えない未知が待っている。一歩を踏み出すにはとても大きな勇気が必要だ。

 

「私はここから始めようって決めました。伯父様、刀藤鋼一郎の道具としてではなく、刀藤綺凛としての物語を始めようって」

 

 だが、それでも凜堂と一緒になら踏み出せると綺凛は確信していた。この先に待っている道がどんなに険しくても、凜堂が背中を押してくれれば自分は歩いていけると。

 

「始めるために俺と決闘するのか?」

 

「ふふ。やっぱり可笑しいですよね」

 

 どこかからかいを含んだ凜堂の問いに綺凛は小さく笑った。何かもっと、決闘以外の始め方もあるのだろう。でも、と綺凛は腰に差した千羽切へと視線を落とした。

 

「今の私には剣術(これ)しかありませんから……これでしか自分を語れないんです」

 

 だからお願いします、と綺凛は凜堂を見つめる。何の迷いも無い、澄んだ意志に満ちた瞳だ。まるで、彼女の振るう刃その物を表したような純粋な目だった。

 

「高良凜堂先輩。私と決闘してください」

 

 今一度、深々と頭を垂れる綺凛を前に凜堂は腕組みする。何も言わず、ただ綺凛を見ていた。数秒の沈黙の後、観念したように凜堂は肩を竦める。

 

「分かった。受けるぜ、その決闘。だから、頭上げてくれ」

 

「本当ですか!?」

 

 顔を上げた綺凛に凜堂は苦笑を見せた。

 

「こんだけ頼まれて断ったら男が廃るからな。俺みたいな男でよければ幾らでも相手になるさ」

 

 刀藤、と凜堂は不敵な笑みを浮かべながら拳を突き出した。

 

「お前の物語の序章に相応しい、良い決闘にしよう」

 

「はい!!」

 

 こうやって、二人の決闘は決まった。

 

 

 

 

「……それが何だってこんなことになっちまったんだ?」

 

「あ、あはは……私にも分からないです」

 

 その翌週の星導館学園の総合アリーナ。ステージの中央に立つ二人の人影、凜堂と綺凛へと、ステージの観客席に座った生徒達の視線が注がれていた。数多の視線に晒され、二人は酷く居心地悪そうにしている。

 

(ロディアめ……何がお二人の決闘に相応しい舞台をご用意します、だ)

 

 憎々しげに凜堂はアリーナの特等席へと視線を向ける。そこにはクローディアやユリスを始めとした、凜堂と親しい面子が並んでいた……何故かいるレスターには言及しないでおこう。

 

 どこで情報を拾ったか定かではないが、凜堂と綺凛の決闘を知ったクローディアは言葉に偽り無く決闘の場を用意してくれた。オマケに無数の生徒の観客というオマケ付きで。

 

 凜堂の視線に気付いたクローディアが小さく手を振る。軽く歯を剥き出して威嚇するも、生徒会長相手では大して効果が無かった。凜堂は視線を綺凛へと戻し、ガチガチに緊張している綺凛をリラックスさせるように朗らかな声で話しかけた。

 

「何か、凄い大事になっちまったけど、周りの目は気にしないで俺達は俺達のやるべきことをやろう。悪いけど、緊張して碌に動けなくても俺は本気で行くぜ? ……いやまぁ、前も本気だったけどな」

 

「……はい、望むところです」

 

 綺凛は微笑し、千羽切の柄を握った。凜堂も鉄棒を取り出し、一瞬で棍へと組み上げる。

 

「あれ? 純星煌式武装(オーガルクス)は使わないのですか?」

 

「あぁ、少なくとも黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)はな。俺は少しばっかり、あいつの威力に頼りすぎてた。それに今の俺があいつを使っても、お前には勝てないだろうしな」

 

 贅沢を言うなら無限の瞳(ウロボロス・アイ)も使わないで勝ちたいところだが、そこまで甘い相手ではない。二つの純星煌式武装を使わない、素の状態の凜堂もかなり強いが、それでも序列一位には及ばないだろう。

 

「まぁ、安心しろや。黒炉の魔剣がなくても、それなりに強いから俺……言っても説得力無いか」

 

「いぇ、楽しみです」

 

 綺凛が千羽切を抜き放つ。光を受け、その身を輝かせる研ぎ澄まされた刃。

 

 凜堂が棍を構える。漆黒を纏い、常闇の煌きを放つ禍々しき業物。

 

「「いざ」」

 

 

 

 

 一方、アリーナ特等席に座っていたユリスは仏頂面で隣のクローディアを睨んでいた。

 

「何もこんな大事にしなくてもよかったんじゃないか? おまけにステージまで用意して……」

 

「注目の一戦なのですし当然でしょう。序列一位の刀藤さんと、その刀藤さんと互角の戦いを演じた凜堂。前の決闘も『星武祭(フェスタ)』で見れるかどうかという名勝負でしたし、誰もが二人の再戦を見たいと思うはずですよ」

 

 クローディアはユリスの怒りをどこ吹く風と受け流す。そう言われ、ユリスも言葉に詰まってしまう。もし仮に、ユリスが凜堂と何の関係もない第三者だとして、こんな試合があるといわれれば一目みたいと思ったはずだ。

 

「それに刀藤さんはともかく、凜堂の技は派手ですから。下手な場所でされるより、こういった設備の整った場所でしてもらったほうが周囲も安全です」

 

 そこは同意する、とユリスは頷く。一閃(いっせん)屠理(ほふり)”が良い例だ。あんな巨大化した刃を街中でぶん回したりしたら、それこそ大変な事になるだろう。

 

 その点、この総合アリーナではそんな心配をしなくて済む。周囲への被害を抑えるため、煌式武装(ルークス)の攻撃を防ぐための防御障壁が張り巡らされている。もっとも、この規模の防御障壁を展開させるには膨大なエネルギーが必要なため、星導館学園にはこのステージを含めて三つしかないが。

 

「しかしだな……」 

 

 尚もユリスは難色を示していた。手には凜堂から預けられた黒炉の魔剣の発動体を握り締めている。その際に凜堂が言った「今度は勝つ」という言葉を信じていない訳ではない。だが、それでも相手は『疾風刃雷(しっぷうじんらい)』だ。

 

「……大丈夫、心配するな。リースフェルト」

 

 背後に座っている紗夜がユリスに声をかける。

 

「そう言うがな、沙々宮。相手はあの序列一位なんだぞ? 心配するなというのは無理だ」

 

「大丈夫、問題ない。というか、この程度のことで心配するのは凜堂にも失礼。パートナーなら、信じてどんと構えてるべき」

 

 紗夜にしては珍しく口数が多い。それだけ凜堂のことを信頼している証拠だ。ユリスも凜堂を信じているが、それでも接していた時間が違う。そのことに妙に向かっ腹が立ち、ユリスは子供のように頬を膨らませた。

 

「だが、前回の戦いを見ても分かるとおり、刀藤綺凛の剣は相当なものだぞ。お前も見てない訳ではないだろう?」

 

「うん、見た」

 

 以前の凜堂と綺凛の決闘は既にネットなどでかなり広まっている。誰のせいでそうなった、とは明言しないが。

 

「刀藤は強い。それは確か」

 

「だったら!」

 

「でもそれは凜堂も同じ」

 

 彼女は知っている。幾つもの絶望に直面しながらも、その悉くを踏み躙って歩き続けた男の後ろ姿を。

 

「お前がグダグダ言ってもしゃあねぇだろ、ユリス。決闘を受けたのはあいつなんだ。勝とうが負けようが、そりゃ全部あいつの責任だ」

 

 これはクローディアの隣にいるレスターの言葉だった。

 

「それに俺にはあいつがそう簡単に負けるような奴だとは思えねぇ。例え相手が序列一位でもな」

 

「何だマクフェイル。お前、結構凜堂のこと買ってんだな」

 

 そんなんじゃねぇよ、と鼻を鳴らすレスターに英士郎は小さく笑う。前回同様、最も決闘が見やすいであろう最前列でカメラを構えていた。

 

「ただ、あいつが化け物じみて強いってことぐらいは知ってるぜ」

 

「まーね……お、そろそろ始まるみたいだな」

 

 英士郎の言葉に全員の視線がステージ中央へと集まる。そこでは今正に、凜堂の体から漆黒の柱が立ち上っているところだった。

 

 

 

 

「参ります!」

 

 初撃を放ったのは綺凛だった。その二つ名の通り疾風の如き動きで間合いを詰め、雷のように閃く刃を繰り出す。

 

 凜堂はその場から動かず、綺凛の斬撃を真っ向正面から受け止めた。ギィン! と硬質な音がステージに響く。

 

ー堅いー

 

 それが綺凛の抱いた感想だった。凜堂の構えている棍からは禍々しい黒色の光が放たれている。その光が星辰力(プラーナ)であることは打ち合う前から分かっていたし、武器その物の威力を底上げしている事もすぐに理解出来た。だが、これ程までに武器の硬度を高めるとは予想していなかった。

 

 基本的に綺凛は弱気な少女だが、こと剣術に関しては並ならぬ自信を持っている。ただの鉄棒如きなら、一太刀で両断することも可能だ。しかし、綺凛の一撃を受けた棍には傷一つ付いていない。それどころか、逆に綺凛の腕を痺れさせた。

 

(まるで、巨大な岩を切ったような手応え……!)

 

 恐らく、攻撃に回った時もこの棍は恐ろしいほどの威力を発揮するだろう。それこそ、厳しい修練を積んだ綺凛でも軽々と吹き飛ばすはずだ。

 

 一度でも相手に攻撃を許せば完全に後手に回る。なら、どうするか。答えは簡単。

 

(斬る……!)

 

 相手の反撃を許さないほどの連撃で圧倒するだけだ。綺凛は腕の痺れを意に介さず、次の一撃を放つ。凜堂は落ち着いてそれを受けるが、次の瞬間には防御を掻い潜るような突きが迫っていた。逃れるために凜堂が後ろへと下がると、綺凛が大きく踏み込んで次なる斬撃を打ち込んでくる。

 

 息をつくことすら許さぬ連続攻撃に凜堂は完全に呑み込まれていた。凜堂の速さが彼女に大きく劣っているわけではない。ただ、反撃しようにも、綺凛には隙がほとんど見られない。技と技の繋ぎが恐ろしいほどに滑らかなのだ。

 

 このままでは凜堂は刃の嵐に呑まれ、反撃すら出来ずに圧殺されるだろう。それは誰の目から見ても明らかだった。だが、凜堂の顔に焦りは無い。綺凛の神速の斬撃にギリギリと神経を削られながらも、反撃のチャンスを待っていた。

 

(まだ……まだ……今!!)

 

 綺凛が斬り上げから斬り下げへと繋げようとしたその時、凜堂は密かに両足裏にチャージさせていた星辰力を解放させた。

 

無手(むて)揺獅(ゆらし)”!!」

 

 後ろに下がると同時に足裏をステージへと叩きつける。すると、大きな揺れが総合アリーナ全体を襲った。地の底から突き上げてきたような衝撃に観客達はもとより、綺凛も僅かに体勢を崩す。連撃が綻んだその一瞬を逃さず、凜堂はもう片方の足をステージに打ち込んだ。

 

無手(むて)浮瀬(うかせ)”!!」

 

 再び総合アリーナが揺れる。急いで構えを取ろうとしていた綺凛の足元が光ったかと思えば、地面に直接殴られたような感触を味わいながら綺凛はステージから浮き上がっていた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に千羽切で胸の校章を守ると、狙い澄ました強打が綺凛を吹き飛ばしていた。吹き飛びながら綺凛は空中で姿勢を整え、ステージに着地する。

 

「大したもんだぜ刀藤。攻撃を崩された挙句に宙に打ち上げられたってのに、咄嗟に俺の一撃を防ぐなんて」

 

 感嘆の意を示しながら凜堂は振り抜いた棍を肩に担ぐ。一方、綺凛も心底驚嘆した様子で凜堂を見ていた。

 

「私も驚きました。まさか、高良先輩にこんな無手の技(隠し玉)があったなんて。それに“連鶴(れんづる)”から逃れられたのも初めてです」

 

「こいつが噂に名高い連鶴か……俺如きには勿体無い技だな」

 

 連鶴。それは“鶴を折るが如し”と謳われた刀藤流の奥義の名だ。

 

 その名が意味するところは、鶴を折るような正確な手順で相手を追い詰めていく連続攻撃。正しく、刀藤流を体現したような技だ。

 

 凜堂もそういう技があるということくらいは知っている。刀藤流の門下生の試合を見たことはあるし、何度か手合わせしたこともあった。だが、その誰もが奥義の領域へと達してはいなかった。こうして、刀藤流の使い手で凜堂に連鶴を披露したのは綺凛が初めてだった。

 

「“巣籠(すごもり)”、“花橘(はなたちばな)”、“比翼(ひよく)”、“青海波(せいがいは)”。刀藤流には四十九の繋ぎ手の型があります」

 

 それらを組み合わせ、完全なる連続攻撃と成す技が連鶴だ。

 

「連鶴に果無し……次は仕留めて見せます」

 

 千羽切を構え直した綺凛から研ぎ澄まされた剣気が放たれる。怖ぇ怖ぇ、と苦笑しながら凜堂も棍を構えた。

 

 剣術という一点に関しては綺凛が圧勝しているだろう。だが、技術なら凜堂も負けていない。現に彼は己の技で連鶴から脱して見せた。

 

「なら、俺は俺の全てを以ってお前に応じよう」

 

 凜堂の体から立ち上る星辰力と共に威圧感が高まる。ステージでは二人の気が嵐のようにぶつかり合っていた。観衆が固唾を呑んで見守っている中、先に仕掛けたのは綺凛だった。さっきと全く同じだ。一拍で凜堂の間合いへ入り込み、反撃を許さぬ迅雷のような一太刀を浴びせる。

 

 凜堂も棍で綺凛の刃を受けるが、その時既に綺凛は連鶴に入っていた。上段から横一文字に、袈裟斬りから刺突へと刀の軌道が目まぐるしく変化していく。

 

(にしても、この連撃を続けるなんて凄ぇ体力だな!)

 

 凜堂は感嘆せずにはいられなかった。一方的に相手へ攻撃を叩き込める半面、連鶴は体力の消耗が激しい。相手と同様に仕掛ける側も休む時間が無いからだ。なのに、綺凛からは疲労のようなものは一切感じられない。きっと、後半刻以上は連鶴を続けられるだろう。

 

 一体、どれ程の修練を経てそこまでの領域に上り詰めたのだろう。きっと、地獄という表現でも足りぬほどのものだったはずだ。どれだけの想いをその刃に込めてきたのだろう。

 

(まぁ、そこら辺は俺も負けてはないと思う。ってか、思いたい……あん?)

 

 綺凛の連鶴を受け続けながら、凜堂はある違和感に気付いた。綺凛の斬撃の威力がどんどん上がっているのだ。上昇の幅はそれ程でもないが、前のものより確実に重い一撃を叩き込んでくる。凜堂が目を凝らすと、綺凛の千羽切から星辰力の輝きが放たれているのが見て取れた。

 

(おいおい、嘘だろ……)

 

 それは紛れも無く凜堂の技、一閃(いっせん)纏威(まとい)”だった。武器に星辰力をチャージさせ、威力を底上げする技。この試合が始まった時から発動させていた。

 

(ってことは何か? 刀藤の奴、俺と打ち合いながら俺がどうやって武器強化してるのか学習したのか!?)

 

 もし仮にそれが事実だとすれば、驚愕を禁じえない。通常の武器に星辰力を伝播させたところで、大した効果を得ることは出来ない。実際、凜堂も黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)を使った時の方がより強力な技を放つことが出来る。それでも彼がただの棍を使って、煌式武装(ルークス)と渡り合えるのも人並外れた修行をしてきたからだ。

 

 だというのに、綺凛はその技を僅かに打ち合っただけで再現してみせたのだ。彼女の使っている武器が刀だから出来たのだろうか?

 

(冗談じゃねぇぞ……!)

 

 それだけじゃない。綺凛は凜堂の使っている棍の継目に刃を正確に叩き込んでいた。目で追うことすら難しい超高速で互いの武器を交えている中、そんな芸当の出来る者が一体どれだけいるだろうか。

 

 元々、凜堂の棍は六本の鉄棒を繋げて作られている。鉄棒同士を捻じ込んでいるわけではなく、星辰力で繋いでいるだけだ。使い手の手から離れれば、瞬く間にただの鉄棒へと戻ってしまう(星辰力をチャージしている場合、その限りではないが)。

 

 継目を結んでいる星辰力を斬られてもそれは同じだ。このまま綺凛の攻撃を受け続ければ、いずれ棍はバラバラにされるだろう。このまま座して武器を破壊されるのを待っているわけにはいかない。さっきのような、ステージを揺らして連鶴から逃れるという手もあるが、同じ手が綺凛に通用するとは思えない。

 

 試合が始まって初めて、凜堂の顔に焦燥が浮かんだ。そして凜堂の懸念は現実のものとなる。

 

「これで終わりです!」

 

 鋭い打ち込みが六発、棍の継目を切り裂いた。瞬間、バラバラになった六本の鉄棒が宙へと投げ出される。

 

(ここです!!)

 

 綺凛は凜堂の懐へと飛び込み、校章に狙いを定める。凜堂は器用に両手で全ての鉄棒をキャッチしたが、棍に組み上げるよりも綺凛が凜堂の校章を斬る方が早い。

 

 校章を断つため、千羽切を振り上げようとしたその時、綺凛の全身に鳥肌が立つ。反射的に飛び退いた刹那、さっきまで綺凛がいた空間を六つの光る軌跡が切り裂いた。

 

「……いや、マジで大したもんだよ刀藤。今のは本気でやばかった」

 

 紛れも無い、本心からの賞賛を綺凛に伝えながら凜堂は顔を伝う冷や汗を拭う。でも、残念だったな、と悪戯っ子のように口角を持ち上げた。

 

「悪いが、棍をバラバラにしたぐらいじゃ俺には勝てねぇよ」

 

 不敵に笑ってみせる凜堂の両手には指と指の間に鉄棒が挟まっており、それぞれが光の刃を形成していた。その数、片手に三つずつの合計六。荒い息をつく綺凛に光刃を突きつけながら凜堂は宣言する。

 

「こっから先は俺のステージだ!!」




お前はどこの奥州筆頭だ? なんて突っ込みが聞こえてきそうだ……。

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