学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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この作品は原作既読推奨です。


『吸血暴姫』

鳳凰星武祭(フェニックス)』二日目、中央区商業エリア。凜堂とユリスはアスタリスクに三つある大型ドームの一つ、通称プロキオンドームへと向かっていた。そこで試合を行なう紗夜と綺凛を応援するためだ。

 

「にしても、凄ぇ人の数だな」

 

 通りを埋め尽くさんばかりの人の群れに辟易とした様子で凜堂は呟いた。真っ直ぐに進むことはおろか、その場で立ち往生するなんてこともままある。

 

 レストランやカフェなどの店は満席状態。空間ウィンドウを開いて、試合中継を見ながら歩いている者すらいる。

 

「『星武祭(フェスタ)』開催中はここいら一帯、人口密度が数十倍に跳ね上がる。歩き難いのも致し方ないことと言えばそれまでだが……」

 

 と言いつつも、どこかげんなりとした顔をしているユリス。歩いていたら突然話しかけられ、握手やサインを求められたり応援されたりと、とにかく色々な事で時間を食われていた。

 

「やっぱ、昨日の試合見たからかねぇ。星導館以外の奴にも声かけられたぞ。話題はアルルカントに全部掻っ攫われたと思ってたんだが」

 

 ふと、二人の足が止まる。思い出すのは昨日、シリウスドームで行なわれた第三試合。アルルカントとレヴォルフの試合だ。

 

「強かったな、あいつら」

 

「あぁ。薄ら寒いものを覚えるくらいにな」

 

 結果だけ言おう。試合はアルルカント側の圧勝だった。相手が弱かったわけでもない。どちらかといえば強いの部類に入るだろう。

 

 レヴォルフ黒学院の序列十二位、即ち『冒頭の十二人(ページワン)』の一人、モーリッツという男子学生と、舎弟のゲルトのペアだった。

 

 このモーリッツという学生は魔術師(ダンテ)であり、『螺旋の魔術師(セプテントリオ)』という二つ名で呼ばれている。その能力は単純明快で、発生させた風をドリル状にさせて相手を抉り抜くというものだ。能力名は『暴風の螺旋(ボレアスピラ)』という。

 

 応用力に乏しい能力ではあるが、反面破壊力はずば抜けている。レヴォルフの中でも最上位に入っていることは間違いない。その桁違いの攻撃力が災いし、残虐行為として過去に反則を取られてしまったことすらあるほどだ。

 

 一方、アルルカントのペアは両者共に擬形体(パペット)だった。一方は優に二メートルを超える背丈と甲冑を纏ったようなフォルムが特徴的な自律型擬形体試作AR-D、通称アルディ。

 

 もう一方は完璧すぎる作られた美しさを持つ自律型擬形体試作RM-C、通称リムシィだ。こちらは厳しいアルディとは対照的に人間の女性のような姿をしている。

 

 この二体、非常によく喋った。そりゃもう、中に本物の人間が入ってるのではないかと疑ってしまうくらい流暢に。

 

 アルディは創造主である偉大(らしい)なマスターの威容を示すため、一分間無抵抗に攻撃を受けることをとんでもなく尊大な口調で相手に約束した。かと思えば、リムシィが無駄なエネルギーを使うなと冷淡かつどぎつい、それでいて機械的な口調で言いながらアルディのどたまに光弾を撃つという過激な突っ込みを見せる。それに対し、アルディは文句は言えどもやり返しはしなかった。どうも、この二体の間には明確な上下関係があるようだ。

 

 で、両者の試合だが先述した通り、擬形体二体の圧勝だった。レヴォルフの二人は相手に傷一つつけることすら出来なかった。

 

 まずアルディ。モーリッツの『暴風の螺旋』を光の壁のようなもので防ぎ、これを完封した。しかもその光の壁はアルディの周囲三百六十度全てに展開できるようだ。実際、アルディは背後からの攻撃を身動き一つせず、光の壁で防いでいる。そしてリムシィの方は銃撃で銃撃を防ぐという離れ業をやってのけた。

 

 今や『鳳凰星武祭』はその圧倒的なまでの強さと能力を遺憾なく発揮し、勝利を掴み取ったアルルカントの擬形体を中心に回っていると言っても過言ではなかった。

 

「リムシィの銃撃能力も恐ろしいが、何よりも厄介なのはアルディのあの光の壁だな。沙々宮の言うとおり、あれが防護障壁を応用したものとなると、『黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)』でも突破するのは難しいかもしれんな」

 

 防護障壁とは万が一の時のために観客を守るための装置の事だ。並大抵の攻撃ではびくともしない分、発動させるには大規模な装置と大量のエネルギーが必要になる。これを人間大まで小型化かさせ、尚且つ同等の性能を発揮させるアルルカントの、正確にはエルネスタの技術力には舌を巻くばかりだ。

 

「凜堂、お前はあの光の壁をどう突破する?」

 

 話を振られ、凜堂はそうな~、と天を仰ぐ。ギラギラと輝く太陽が目に痛い。

 

「多分、俺の技じゃあの光の壁をぶち破るのは無理だろうな。どうにかなりそうな技は一、二個あるけど、溜めが大きすぎて当てるのは無理だ。やっぱ、『黒炉の魔剣』が通用するかどうかがネックだな。つかよ、皆あの光の壁のことばかり言ってるけどさ、俺としてはそれ以上に気になることがあるんだよね」

 

 何? とユリスの眉が顰められた。

 

「何だそれは?」

 

「あの二体の力関係だよ。何だってあのデカ物は頭に煌式武装(ルークス)の弾ぶち込まれたってのに文句を言うだけなんだ? あの口調から考えて、あいつは相当プライドが高いと見た。一発、ぶちかましたとしても不思議はねぇ」

 

 だが、アルディは反論するだけであって、決して反撃はしなかった。言われてみて、ユリスは考え込む。試合前のやり取りから見るに、両者の関係は対等なとは呼び難いものだ。明らかに女性型のリムシィの方が上の立場にいる。

 

「つまり、アルディはリムシィに逆らえないよう設定されているということか。しかし、何故そんなことを?」

 

「そこまでは分からんさ。可能性だけなら幾らでも考えられる」

 

 例えば、二体を作ったエルネスタとカミラが女尊男卑の考えを持っているとか。もしくは、そうしておかないと危険だからか。

 

「ま、情報は追々入ってくるだろ。対策はその時考えりゃいい。今はサーヤとリンが無事に勝つことを祈ろうや」

 

「そうだな。いや、しかしあの二人がそう簡単に負けるとはとても思えんが」

 

 更に言うなら、紗夜には新たな武器が送り届けられている。送り主は彼女の父、沙々宮創一だ。一体、どのような武器をが届けられたのだろう。紗夜の使っている武器のコンセプトから考えて、大艦巨砲主義なものであることは間違いない。

 

「見るのが楽しみなような、怖いような不思議な気持ちだ」

 

「奇遇だな、ユーリ。俺もだ……しっかし、一向に進まねぇなおい。何かあったのか?」

 

 遅々として進まない歩みに凜堂は苛立たしげに前を見る。見えるのは人、人、人の壁だけだった。これだけでも癇に障るというのに、容赦なく照り付ける日光が苛々に拍車をかけている。

 

「落ち着け、凜堂。顔が怖い事になっているぞ。しかし、この遅さは異常だな……うん?」

 

「どしたユーリ……あん?」

 

 二人は同時にそれに気付いた。少し進んだ辺りで人の動きが滞っている部分がある。何やら揉め事が起こっているようだ。何時から始まったか定かではないが、人々の進行の妨げになっていることに間違いは無い。

 

「何だ、揉め事か?」

 

 こちらに逃げてくる人もいるくらいなので、穏かな状況ではないのは確かだ。二人は頷き合うと、人ごみを掻き分けて渦中へと進んでいく。

 

 人垣を超えて最前列に顔を出してみると、一人の少女を複数の男が取り囲むという非常によろしくない光景に遭遇した。どちらもレヴォルフの制服を着ている。

 

「……この間の連中といいあれか? レヴォルフの連中は一定期間毎に騒ぎを起こさないと死んじまうのか?」

 

 ユリスとペアを組む前、凜堂はレヴォルフの連中に襲われた時のことを思い出し、苦々しい表情で身構える。

 

「よく見ろ。今回は純粋に揉め事のようだぞ」

 

 ユリスに胸を拳で小突かれ、凜堂は構えを解いた。確かに彼女の言うとおり、通りには既に少女がぶちのめしたであろう男共が数人横たわっている。

 

「へぇ。煌式武装持った連中相手を素手であそこまで圧倒するたぁ中々のもんだな」

 

 少女が男達を血に沈めていく中、彼女の首に巻かれたマフラーが激しくなびく。仮○ライダー? と凜堂は場違いな感想を抱いた。

 

「あの女、『吸血暴姫(ラミレクシア)』だな」

 

「え、そんなライダーいたっけか? 吸血鬼関係だったらキ○がいるが。そもそも、女のライダーってそんなにいなかったような」

 

 何を言っているんだお前は、と呆れた様子でため息を吐くユリス。それは公衆の面前で堂々と暴れる少女に対してのものなのか、それともバカなことを言っている隣の相方へのものなのか。

 

「冗談だ、ユーリ。レヴォルフの序列三位だろ。お前さんが最も危険って言ってた」

 

 名は確か、イレーネ・ウルサイス。

 

「しかし、どんな事情があるかは知らないが、奴は何を考えているんだ? この時期にこんなことをするなんて正気とは思えんぞ」

 

 基本として『星武祭(フェスタ)』開催期間中、市街地での決闘は全面的に禁じられている。無論、それはアスタリスク外から来る、非星脈世代(ジェネステラ)の人達のことを配慮してのことだ。

 

 一応、防護障壁のある場所での決闘は認められているが、防護障壁のあるような場所は『星武祭』の試合に使用されているため、市街地で決闘を行うのはほぼ不可能な状況になっている。

 

 決闘が許されないのだから乱闘など問題外だ。しかもその騒動の真っ只中にいるのが『星武祭』参加者ともなればそれ相応のペナルティが科せられる。最悪、参加資格を剥奪される可能性もあった。

 

「しつけぇんだよ手前等。お礼参りなんていつの時代の人間だよ?」

 

 荒っぽい口調で吐き捨てながらイレーネは九人目の男を片付ける。十人近く立っていた男達も、今や一人だけになっていた。

 

「う、うるせぇ! このままお前を放っておいたら、うちの面子が丸潰れなんだよ!」

 

 若干、声が震えてる。それでも引かないのは意地があるからか。

 

「高々、カジノを一つ二つ潰したくらいでうるせぇなぁ。そもそもの原因はそっちがイカサマしやがったからだろうが。それにあんまり勝手がすぎるとあの小デブに怒られちまうぜ?」

 

「あんなクソ生徒会長なんざ知らねぇよ! 俺たちには俺たちの」

 

「あーもう、そろそろ黙れ」

 

 イレーネの上段蹴りが男の頭部に炸裂する。それ以上、言葉を続けることは出来ずに男は地面へと倒れた。動かなくなった男を冷めた目で見下ろしながらイレーネは大きく息を吐いた。さっきの上段蹴りを見るに格闘技を学んでいる、という訳でも無さそうだ。凜堂と同じ様に我流の動きだろう。

 

「見世物じゃねぇぞ、じろじろ見てんじゃねぇよ!」

 

(こんな往来のど真ん中で見世物になるようなことして無茶言うなおい)

 

 凜堂は心の中で囁く。その時、偶然か必然か、野次馬を睥睨していたイレーネとバッチリ目が合った。

 

「あん?」

 

「あれま」

 

 二人の声が重なる。イレーネはそのまま凜堂の顔をまじまじと見つめた。

 

「へぇ、まさかとは思ったが、『双魔の切り札(ディアボロス・ジョーカー)』じゃねぇか。こりゃ手間が省けた」

 

 にやっ、と笑ったイレーネの口元から鋭い牙が覗いた。こちらを知っていることに凜堂とユリスは少なからず驚いた。互いに顔を見合わせる。どういう経緯でイレーネが凜堂のことを知ったかは分からないが、こんな公衆の面前で暴れるような人物と関わって碌な目に会うとは思えない。凜堂は誤魔化す事にした。

 

「イエイエ、人違イデスヨー。赤ノ他人ノ空似デスヨー」

 

「凜堂……誤魔化すにしたって、もっとマシな方法があっただろうに……」

 

 片言で似非外国人のように話す凜堂の横でユリスは深々と嘆息する。凜堂の言葉を無視し、イレーネは観察するように凜堂を見た。やがて、嘲るように鼻を鳴らす。

 

「……分からねぇな。こんなののどこが怖いんだ、あいつ?」

 

「私のタッグパートナーに何の用だ、『吸血暴姫(ラミレクシア)』?」

 

 きつい口調でユリスが二人の間に割って入る。

 

「『華焔の魔女(グリューエンローゼ)』か。お前に用はねぇ。引っ込んでな」

 

「ほざけ。こんな人ごみのど真ん中で、それも『星武祭』開催中に乱闘を起こすような危険人物を大切な相棒に近づかせる訳にはいかんからな」

 

「ありゃ向こうから吹っかけてきたんだぜ? あたしゃ悪くねぇよ」

 

 少しだけ言い訳じみた口調だ。はん、と今度はユリスが鼻を鳴らす番だった。

 

「時と場所を考えろ。どんな理由にせよ、こんな一般人を巻き込むかもしれないようなところで応戦など有り得ん」

 

 どうにも不穏な空気だ。両者、互いに一歩も引かない。

 

「あ~……ちょいと落ち着きませんかね、お二人さん?」

 

 凜堂が二人の間に入るよりも早く、イレーネは行動に移る。

 

「そうかよ。なら、あんただったらどう対処するか教えてもらおうじゃねぇか!」

 

 言うや、イレーネはホルダーから煌式武装を取り出した。

 

「っ!? 下がれ、凜堂!」

 

「マジか。正気の沙汰じゃねぇぞおい」

 

 瞬時に二人はイレーネから距離を取る。二人の視線の先、イレーネの手に身長を超えるほどの巨大な鎌が現れた。紫に光る刀身は言い知れない禍々しさを感じさせる。

 

「へぇ、思ったよりいい動きするじゃねぇか。人ってなぁ見た目で判断しちゃいけねぇな」

 

「こいつが『覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)』か」

 

 レヴォルフが所有する、重力を操る純星煌式武装(オーガルクス)。凜堂の有する『無限の瞳(ウロボロス・アイ)』同様に誰に対しても高い適合率を示す、珍しい純星煌式武装。使用者の精神を崩壊させるような無限の瞳とはまた違うベクトルで危険なもののようだ。それに使いこなせた者は過去の『星武祭』を振り返ってみてもいない。

 

「どうする、ユーリ?」

 

「決まっている。逃げるぞ」

 

「だよな~……でも、あれ相手に逃げられると思うか?」

 

 苦笑いを浮べながら凜堂はイレーネを指差す。瞳に殺意を伴った凶暴な光を湛え、覇潰の血鎌を構えている。

 

「……厳しいだろうな。だが、ここでやり合う訳にもいかんだろう」

 

 背筋に氷柱を突っ込まれたような寒気に眉根を寄せながらユリスは逃走のチャンスを窺った。凜堂もいつでも動けるように身構えている。息の詰まる緊張感が漂う中、野次馬も事の成り行きを固唾を呑んで見守っていた。

 

 その時。

 

「こらぁーーーっ!」

 

 何とも場違いな声が凍り付いていた空気を破壊する。

 

「お姉ちゃんの馬鹿! また勝手に喧嘩なんかして……大人しくしててって言ったよね、私!?」

 

 その場の全員が呆気に取られる中、その声の主はイレーネに凄まじい剣幕で詰め寄る。三つ編みに垂らされた髪はイレーネと同じ色だ。顔立ちも非常に良く似ている。制服も彼女と同じレヴォルフだ。

 

「プ、プリシラ!? こ、これは違うんだ!」

 

「何がどう違うのよ! こんな大勢の人に迷惑かけて何してるの? 説明して!」

 

「いや、その、それはだな……」

 

 少女の詰問にたじたじになっているイレーネを二人はぽかんとした顔で見ていた。状況の変化が急すぎてついていけない。イレーネに問い質していた少女も二人の視線に気付いたようだ。慌てて頭を下げる。

 

「ごめんなさい! うちのお姉ちゃんがとんだご迷惑を……!」

 

「いや、別に、迷惑など。なぁ、凜堂?」

 

「あ、あぁ。実害被った訳でもないし……」

 

 完全に毒気を抜かれ、ユリスと凜堂は何ともいえない返事を返した。言動から察するにイレーネの妹なのだろうが、それにしてはイレーネの腰が低すぎる。

 

「ほら、お姉ちゃんもちゃんと謝って!」

 

「な、何であたs「お・ね・え・ちゃ・ん?」分かった! 分かったからそんな怖い顔しないでくれよプリシラ!」

 

 少女の勢いに尻込みし、イレーネは渋々といった顔で凜堂達に頭を下げる。その悔しそうな表情から察するに、全く悪いと思って無さそうだが。

 

「わ、悪かった……もう、用も無いから行けよ」

 

「お姉ちゃん! もう、何でちゃんと謝る事も出来ないの!」

 

 少女はイレーネの頭を掴んで無理矢理下げさせる。自身も平身低頭して謝り続けていた。

 

「本当にごめんなさい。よく、言い聞かせておきますから」

 

 いや、そんなペットとかじゃないんだから、と突っ込む間もなく、少女はイレーネを引き摺って人ごみの中へと消えていった。

 

「「「……」」」

 

 怒涛の展開に凜堂達は勿論、ギャラリーも何も言えないようだ。

 

「……なぁ、今のってイレーネ・ウルサイスのパートナーか?」

 

「う、うむ。恐らくな。イレーネを姉と呼んでいたのだから間違いあるまい」

 

 完全に仕切りなおした訳ではないが、ユリスは携帯端末を取り出してデータを確認する。イレーネのデータを開くと、予想通り先ほどの少女の顔があった。

 

 プリシラ・ウルサイス。イレーネ・ウルサイスの実妹にしてタッグパートナー。使用武器が書かれているイレーネと違い、プリシラのデータは殆ど無い。

 

「にしたって、何が目的だったのかね。あの人? 怨まれるようなことした覚えはないんだけどな」

 

 本気で思い当たる節はなく、凜堂は困惑顔で頭を掻く。それも仕方の無い事で、凜堂はアスタリスクに来てからまだ日が浅い。同じ学園の星導館の学生相手ならともかく、他校の、それも『冒頭の十二人(ページ・ワン)』に名を連ねる人物の恨みを買うようなことをした覚えはなかった。

 

「まぁ、狙いはお前だというのは間違い無いな。私が文句をつけたにも関わらず、あいつの狙いはお前から変わらなかった。どうしてかまでは分からんが、あいつにはお前を狙う理由があるということだ」

 

「マジで心当たりねぇんだが……俺が序列一位だからか?」

 

「可能性としては大いに有り得るだろう。だが、相手はレヴォルフだ。良からぬことを企んでても、何ら不思議は無い」

 

 そう言い切れてしまうのがこの都市の恐ろしいところだ。

 

「お前を狙う理由が少しでも分かれば御の字だったのだが、お前を危険に晒しただけだったな。すまない、凜堂」

 

「気にすんな。本当なら俺がやらなきゃいけないことをお前さんがやったってだけだ。寧ろ、俺から礼を言わなきゃな」

 

 殊勝に頭を下げるユリスに凜堂は手を振ってみせる。この事でどうこう言う気は彼に無かった。ふと我に返り、凜堂は時間を確認する。試合開始時間まで少ししかない。

 

「つか、そろそろ急がないとサーヤ達の試合に間に合わないぜ」

 

「そうだな。とりあえず、会場に急ぐとしよう」

 

 二人がプロキオンドームに向かおうとしたその時、再び通りの先の方がざわめきだした。

 

「今度は何だ……これはまずいな、警備隊か!」

 

「警備隊ってこたぁ星猟警備隊(シャーナガルム)か」

 

 人ごみを掻き分けて向かってくる二人組の姿が見えた。その制服はアスタリスクにある六学園、何れの物でもなかった。

 

「暢気な事を言っている場合ではない、逃げるぞ!」

 

「何故に? 別に俺ら何もしてないぞ?」

 

 ユリスに手を引っ張られ、凜堂は不思議そうに訊ねる。

 

「こんなことを言うのも難だが、警備隊の連中はとにかく融通が効かん。この状況を説明して、その上で納得させるのにどれだけの時間がかかるか分かったものではないぞ」

 

 な~る、と凜堂は得心した顔で周囲を見回す。道上にぶっ倒れた男達に『鳳凰星武祭』出場ペア。そして彼らを中心に取り巻いている一般人のギャラリー。

 

「確かに面倒だな。しっかし、何でまたあいつらプロキオンドームの方から来るかね……!」

 

 忌々しそうに舌打ちしながら凜堂は考え込む。警備隊の二人から逃げる=目的地から遠ざかる事になる。それは紗夜と綺凛の試合に応援に行けないことを意味した。

 

「……ちょい待ち。何でこんな訳の分からん騒動のせいで俺達は応援にいけなくなるんだ? 何か腹立ってきたな……」

 

「何をぶつぶつ言っている! とにかく逃げ、きゃっ!」

 

 再びユリスは凜堂の手を引っ張るが、びくともしない。それどころか、逆に引っ張られた。相棒の予想外の行動にユリスは可愛らしい悲鳴を上げながら倒れかけるが、凜堂に抱き止められて事なきを得る。

 

「お、おい凜堂! お前、何をして」

 

「ユーリ、舌噛むなよ!」

 

 え? とユリスに問い返す間も与えず、凜堂はユリスをお姫様抱っこしたまま駆け出す。それも警備隊の二人組に向かって。

 

「おい! そこの君達、止まりなさい! 止まれぇ!」

 

「止まれと言われて止まる馬鹿がいるかってぇの!!」

 

 居丈高な声に軽口を返しながら凜堂は大きく足を踏み切った。そして高々と跳躍する。おぉ! と周囲から驚きの声が上がる中、凜堂はある場所に着地した。それは警備隊の一人の頭の上だった。

 

「失礼!」

 

「ぐぇ!」

 

 警備隊の片割れの頭を次の足場にし、凜堂は再び跳び上がる。弧を描くように宙を舞い、軽やかに着地した。二回目のジャンプで相当距離が稼げたようで、警備隊は遥か後方にいる。

 

「うし、このまま逃げるぞユーリ!」

 

「あぁ、もうお前という奴は……早く行け!」

 

 真っ赤になったユリスにあらほらさっさー、と答えながら凜堂はプロキオンドームに向けて駆け出した。後ろから俺の頭を踏み台にしたぁ!? という声が聞こえるが、無視した。

 

 後日、この時の出来事。正確に言うと凜堂がユリスを抱き抱えて逃げ出す場面が一時アスタリスクを騒がせる事になるのだが、それはまた機会があった時に話すとしよう。




ども、北斗七星なのです。アスタリスクの二次創作は増えない。そして感想は来ない。心が粉々になりそうな日常を送っています。

うん、まぁ、んなこと言うなら読んだ人が感想を書きたくなるような面白い話を書けってことになりますよね。

二次創作増えないかなぁ。アスタリスクももう五巻も出てるんだから、それなりに知名度上がってもいいと思うんだけど……前にもこんなん書いた記憶があるぞ。

感想が来ると更新の速度が心持早くなると思います。では、次の話で。
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