学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男 作:北斗七星
『
「さて、今回は私の番だな」
「いってらっさ~い」
不敵な笑みを浮かべるユリスに凜堂はヒラヒラと手を振ってみせる。気負いなど感じさせない、何時も通り飄々とした笑みを浮かべていた。
彼もまた、信じているのだ。自分の相棒がそう簡単に負けるはずが無いと。
『さてさて、『
『一回戦は高良選手の独壇場だったっすねー。二回戦は何を見せてくれるんでしょう。楽しみっす』
何日も聞き続け、否が応でも慣れてしまった実況と解説の声を聞きながらユリスは相対する対戦相手に視線を向ける。クインヴェール女学園の序列三十七位と五十四位のタッグ。片方がポニーテール、もう片方がツインテールの女子だ。クインヴェールの学生というだけあり、二人とも整った容姿をしている。
アスタリスクで一番強い学園ってどこよ? という質問をすれば、様々な答えが返ってくるだろう。どの学園にも各々の長所があり、反対に短所もあるからだ。
じゃあ、一番弱い学園は? と質問すれば、大抵の人はある学園の事を口にするだろう。クインヴェール女学園の名を。
実際、クインヴェールが
クイーンヴェールは個性的な六学園の中でも異色で入学条件に戦闘能力と学力、それに加えて『容姿』を要求しており、星武祭で勝ち進む事よりも星武祭で学生の魅力を発揮させることに主眼を置いている。強さと同様に美も求められるのだ。
六学園の中で、ただ一つの女学校。入学条件が厳しい事もあり、規模はアスタリスクの中で最小だ。
だからといって、所属している生徒が弱いという訳ではない。確かに学園としてみれば最弱かもしれないが、それは生徒も最弱ということにはならない。現にクイーンヴェールの序列一位は前回の『
まぁ今現在、ユリスが対峙している二人も強いかと言われれば、それはまた別の問題になってくるが。
「みんなー、応援よっろしくー!」
「頑張りまーす!」
クイーンヴェールの二人が手を振ると、鼓膜が痛くなるほどの歓声が会場に木霊する。明らかにクイーンヴェールの二人を応援するものだ。
「まるでアイドルだな……」
感心と呆れが半々になった表情を浮べながらユリスは細剣、アスペラ・スピーナを起動させる。対してポニー娘は槍型の、ツイン娘は双剣型の
(……大した敵ではないな)
今まで『
「では、行ってくる」
「ユーリ、頑張ってな~」
のんびりとした凜堂の声を背に受け、ユリスは堂々と歩み出る。同時に校章が試合開始を告げた。
「いっくよー!」
最初にツイン娘が仕掛けてくる。ユリスはその場から一歩も動かず、細剣で攻撃を受け流して見せた。
「凜堂と綺凛に比べれば欠伸が出るほど遅いな」
「それーっ!」
時間差でポニー娘も戦いに加わるが、ユリスは二人の攻めを余裕の表情で捌いていく。ここ最近の特訓でユリスが一番成長したのは接近戦での戦い方だった。というか、凜堂と綺凛レベルの戦士が特訓の相手なのだから嫌でも伸びた。流石に二人と互角に渡り合うというのはまだ無理だが、それでも普通の相手なら寄せ付けないレベルまでなっている。
『
「えい!」
「このぉ!」
「遅い」
ポニー娘とツイン娘が息の合った同時攻撃をしてきたが、それすらもさらりとかわす。そして鋭い突きを二発、相手二人の校章に向けて放った。
「わわっ!」
「きゃあ!」
咄嗟に二人は煌式武装を盾にして攻撃を防ぐが、想像していたよりも遥かに良い動きをするユリスにたじろいでいた。二人が怯んだタイミングを逃さず、ユリスは後ろに跳んで距離を取る。
「次はこちらからいかせてもらうぞ」
宣言と同時にユリスの周囲で
「……トロキアの炎よ。城壁を超え、九つの災禍を焼き払え」
舞い踊る炎が形を成していき、ユリスを囲むようにして桜草を模した火球が九個現れた。
「咲き誇れ、
ユリスの指示に従い、九の火球がクイーンヴェールの二人へと襲う。
「あわわわ……!」
「こ、来ないでぇー!」
情けない声を上げながらも、クイーンヴェールの二人は煌式武装で迫る火球を打ち払っていった。火球が次々と襲い掛かるが、どうにかこうにか数を減らしていく。
「ふふーん、このくらいあたし達だって出来るんだから!」
「甘く見ないでよね!」
九輪の舞焔花を全て切り落とし、ドヤ顔をする二人。と、ここで黙って試合を見守っていた凜堂が初めて口を開く。
「あ~、お二方。得意げになるのはいいが、とりあえず上を見ることを勧める」
え? と二人は馬鹿正直に凜堂の言葉に従い、視線を上へと持ち上げた。少女達の頭上では焔の果実が解放の時を待っていた。
「弾けろ、
焔の果実が弾け、その中から飛び出した無数の小さな火球がステージへと降り注いでいく。火球は着弾と同時に小さな爆発を起こした。一つ一つはそれほど大きくなく、威力も小さい。だが、その数は人二人を軽く呑み込んでしまうものだった。
「「嘘ーっ!」」
慌てて対処しようとするも、時既に遅し。二人は瞬く間に焔の雨の中に姿を消した。
「
途切れることなく続く炸裂音に紛れ、機械音声が勝敗を告げる。それから少しして焔の雨も止んだ。ステージを覆い尽くしていた黒煙が晴れると、そこには気を失った少女二人が倒れていた。
『決着ー! 一回戦に続きまたまた一方的な試合展開でした! しかも今度はリースフェルト選手の独壇場です! このペア、タッグ戦である『鳳凰星武祭』で今だに二人揃って戦っていません! まだまだ底が見えません』
『実際、タッグとしての手の内を隠すのは有効な作戦っすよ。やってるペアもそれなりにいるっす。それにしてもリースフェルト選手は巧いっすね。能力が多彩だからどんな場面でも臨機応変に対応できるのが強みっすねー。あの九輪の舞焔花って技もあの設置型の能力に誘導するために……』
流石は解説、試合をよく見ていたようだ。ユリスがどのようにして試合を運んだか詳細に説明している。
「こんなところだな……どうだ、私の戦い振りは?」
「流石は『華焔の魔女』ってとこだな。お疲れさん」
戻ってきたユリスを笑顔で出迎え、凜堂は労いと賞賛を込めて彼女の肩を叩いた。
「今日もしつこかったねー、あの人ら。ま、仕事だから仕方ないって言っちまえばそれまでだけどよ」
「だとしても、限度というものがあるだろうに。その辺りを見切れないからパパラッチ等と呼ばれてしまうのだろうな。ぐだぐだと下らない質問ばかりして」
相も変わらず長かった勝利者インタビューを早々に終わらせ、二人は控え室へと戻ってきた。記者団の質問攻めに疲れたのか、ユリスは深いため息を吐きながらソファに座り込む。ほい、と凜堂が入れてくれたお茶を礼を言いながら受け取った。
「そういや、一つ気になったんだがよ、ユーリ」
「ん、何だ?」
「九輪の舞焔花を発動させる時に言ってた呪文みたいな奴。あんなの、唱えてたっけか?」
少なくとも、凜堂の記憶の中のユリスは技名のみを口にしていた。あの事か、とユリスはお茶を啜りながら答える。
「私なりのサービスだ。あぁ言っておくと、ギャラリーも喜ぶからな」
「……へぇ」
予想外の返答に凜堂は眉根を寄せた。ユリスがそんなファンサービスをするような人物とは思っていなかったからだ。普段のユリスを知っているだけに、とにかく意外だった。そんな凜堂の心中を察してか、ユリスは苦笑を浮かべる。
「そんなに驚くことはないだろう。私だって自分の立場くらい自覚している。あれだけの舞台なら、それくらいのことはやるさ。余裕がある時に限るがな」
『
「呪文はともかく、声に出したした方がイメージをし易い」
「そんなもんかねぇ」
「そもそも、お前が言えた義理か。やれ一閃“轟気”だ、一津奥義だ。挙句の果てにこっから先は俺のステージだ、フィナーレだという決め台詞……お前の方が技名を口にしているではないか」
言われてみれば確かにそうだ。凜堂はユリスの指摘にあ~、と自身が戦っている時の言動を思い返す。余り気にしたことは無いようだ。
「癖みたいなもんだしなぁ、あれ。それにサーヤもそうした方が格好いいって言ってたからよ」
沙々宮が、とユリスは湯呑みを近くにあったテーブルに置く。
「ちなみに技の名を考えたのは」
「俺で~す。実際、考えるの楽しいしな」
満面の笑みで凜堂はダブルピースしてみせる。お、おう、とユリスは頷いた。まぁ、技に
「ところで、これからどうする?」
「どしたもんか。サーヤとリンの応援に行きたいけど、今からじゃ間に合わねぇよなぁ」
「あの二人のことだ。会場に着く頃には終わっているだろう」
紗夜と綺凛も自分達の試合があるので、ここにはいなかった。一回戦は四日とそれなりの時間をかけて行なわれたが、二回戦は二日。三回戦に至っては一日で終わってしまう。会場が同じか余程試合時間が違わない限り、応援に行くのは無理だろう。
「そ、それに私達はまだ昼食も済ませてないだろう?」
そういやそーね、と凜堂は軽く腹部を擦った。試合が丁度、昼飯時に行なわれたため、二人はまだ昼飯を食べていない。
「んじゃ、どっか食いに行くか? 特に予定も無いし」
「お、おほん」
凜堂がドアに向かおうとすると、ユリスの口からわざとらしい咳払いが出る。余りに不自然なユリスの行動に凜堂は目を丸くして振り返った。本人も自覚はあるようで、顔が真っ赤だ。
「……どした、ユーリ?」
「あー、その、何だ。今朝は妙に早く起きてしまってな。二度寝をするのもどうかと思ったから、暇潰しにこんなのを用意してみた。あくまで暇潰しとしてだぞ」
普段と違い歯切れの悪いユリス。妙に言い訳めいたことを言いながらユリスはロッカーから大き目のバスケットを取り出す。
「……何だこりゃ。まさか、弁当か?」
「そ、そんなところだ」
極力、凜堂の顔を見ないようにしながらユリスはバスケットを差し出した。対して、凜堂も戸惑った様子でユリスとバスケットを交互に見る。何分、ユリスが弁当を持ってくるのは初めてなので、どう対応していいか分からなかった。基本的に休日の特訓の時も二人は学食で腹を満たしていた。
「ど、どうした? もしかして、腹が減ってないのか?」
不安そうに訊ねてくるユリスに凜堂は慌てて両手を振ってみせる。
「いやいや、そういう訳じゃなくて! ただ、ユーリが料理出来るなんて初耳だから、ちょっと驚いただけだ」
もしかしたら、先日、弁当を用意してくれた紗夜と綺凛に対抗してのものかもしれない。何せ、ユリスの負けず嫌いは筋金入りだ。そう思ったが、聞いても返ってくるのは否定だけだと分かっていたので凜堂は何も言わずにバスケットを受け取る。
「とにかく、断る理由はないわな。ありがたく、いただくぜ」
「か、簡単なものだぞ。そんなに期待するな」
再び目を逸らすユリス。しかし、横目でちらちらと凜堂を見て、バスケットを開けるのを今か今かと待ち侘びている。バスケットを開くと、そこには手ごろなサイズのサンドイッチが並んでいた。
「へぇ、サンドイッチ」
様々な種類があるのを見るに、かなりの労力を使って作られたもののようだ。簡単なものねぇ、と苦笑しながら凜堂は早速一つ手に取って口に運ぶ。
「ど、どうだ?」
咀嚼する凜堂にユリスは恐る恐る訊ねる。口の中のものを飲み込み、凜堂は不安を顔に浮べるユリスに笑って見せた。
「美味いぜ」
お世辞でも社交辞令でもない、素直な感想だ。凜堂の返答にユリスは顔を輝かせるも、すぐに後ろを向いてしまった。
「にしても料理出来たんだな、ユーリ。いが……」
「おい、凜堂。今お前、意外と言いかけなかったか?」
「気ノセイダヨー」
「貴様、そこに直れ!」
悪かった悪かった! とこめかみに拳をグリグリしようとしてくるユリスをかわしながら凜堂は謝罪する。
「ところで、ユーリ。お前さんは食わんのか?」
バスケットに収まっているサンドイッチはかなり多い。どう考えても、二人で食べる事を前提として作られた量だ。
「勿論食べるが……」
サンドイッチに手を伸ばしながらユリスは凜堂をちらと見る。
「何だよ?」
「いや、その……なれるか、私は?」
「あ、何だって?」
ユリスの声が非常に小さく、凜堂は反射的に問い返した。それを意地悪と思ったのか、ユリスは若干涙目になりながら再び問う。
「だ、だから、私はいいお嫁さんになれるかどうか聞いているんだ!」
嫁ぇ? と凜堂は何を言ってるんだと眉を顰めるが、以前、紗夜と綺凛が作った弁当を食べ終えた際に綺凛にそんなことを言ったのを思い出す。嫁ねぇ、とぼやきながら凜堂はユリスを見た。顔を真っ赤にしながらも、こちらに真っ直ぐと視線を向けている。適当にはぐらかせる雰囲気ではない。
「ユーリは、そうだな……苦労する嫁になると思う。相手がな」
「え……」
言葉を失うユリスに凜堂は肩を竦めて見せる。
「だってさ、ユーリって自分にも厳しいけど、他人にも厳しいじゃん。そういうストイックなとこ、付いていける人は少ないと思うぜ? それに負けず嫌いなとこもあるし、譲れない所は絶対に引かないだろ。旦那さん、苦労するんじゃないか?」
「そ、そうか……」
凜堂の手厳しい評価にユリスは俯いた。凜堂の言ってること自体、かなり的を射ているので言い返すことも出来ない。思わず、目尻から涙が零れそうになる。
「でも……ユーリと結婚出来る男はこの世で一番幸せな男だと思う」
え、とユリスはもう一度凜堂を見た。言ってる本人も気恥ずかしいのか、そっぽを向きながら頬を掻いている。
「ユーリって厳しい上に頑固だけど、それ以上に人を思いやれる優しさを持ってるし、自分のためじゃなくて誰かのために頑張る事も出来る。それってさ、凄く素敵な事だと思わないか? 俺は、そう思う」
照れ臭そうに笑いながら凜堂はユリスへと視線を戻した。
「そんな素敵な人に愛してもらって、生涯を共に歩んでいってもらえる……きっと、誰よりも幸せな男だよ、そいつは」
「そ、そうだろうか?」
「そう思うよ、俺は……って、何で泣いてんだユーリ!?」
凜堂の言葉にユリスはハッしながら頬を伝う涙を拭った。悲しかったと思えば、凄く嬉しくなって。それでいて恥ずかしかったりと感情の処理が追いつかない。
「こ、これは……目にごみが入っただけだ! だから、気にするな!」
慌てて目元を拭うユリス。不審に思いながらも、凜堂はそれ以上は追求しなかった。一方、ユリスはユリスで口元がにやけそうになるのを必死で堪えていた。さっきの凜堂の言葉がよっぽど嬉しかったようで、自然と口角が上がっていく。
「そ、そうだ! 昼食の序に他の連中の試合を見ておこう! 勝ち残ったペアの何れかが私達の相手になるのだからな」
「お、おう。今日は色々な試合があるみたいだしな」
どうにか表情を戻したユリスは嬉しさを誤魔化すようにテレビをつける。凜堂も彼女に倣って空間スクリーンを見た。そこに映った人物を見て、二人の表情が一転して引き締まる。
「こいつは……」
「そう言えば、こいつらの試合も今日だったな」
空間スクリーンの中に佇む、星導館の制服に身を包んだ巨漢、レスター。対するは、巨大な鎌を携えたレヴォルフの女子生徒、イレーネだった。
結果を書こう。試合はイレーネとプリシラのウルサイス姉妹が勝利した。レスターは時間稼ぎをして『
まず、牽制をかけようとしていたランディが試合開始早々に覇潰の血鎌の重力に押し潰され、意識を失った。続けてイレーネはレスターを仕留めようとするが、レスターのブラストネメアを喰らって吹っ飛ぶ事になる。
しかし、後ろに跳んで衝撃を流したイレーネは大したダメージも無く起き上がった。そしてプリシラの血を吸うことで覇潰の血鎌の能力を強化した。
イレーネ曰く、覇潰の血鎌は能力の代償として血液を要求する
話を戻そう。強化された覇潰の血鎌の力でレスターは得物であるヴァルディッシュ=レオを破壊された。予備の煌式武装を使うよりも早く重力に押し付けられ、それ以上の抵抗が出来ずにギブアップを余儀なくされた。
こうして、試合は幕を閉じた。
にしてもレスターのこの扱い、自分で書いといて難だけど、どうにか出来んもんかね? いや、書く努力はしたんですよ? でも、原作の大幅コピペになりそうだったんで……今更すぎるか? 一応、所々言葉を変えたりする小細工をしてますが。
レスターが名誉挽回出来る日が来るといいなぁ。では、次の話で。