学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

44 / 50
遅くなって申し訳ないです。


紙一重の勝利

 予想通りと言うべきか、(ソン)(ルオ)は試合開始と同時に二手に別れて凜堂を狙ってきた。

 

「咲き誇れ、九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

 そうはさせるかとユリスは焔の桜草で凜堂を援護するが、迫る炎を宋は素手で払いのける。拳に星辰力(プラーナ)を込めているからこそ出来る芸当だ。

 

(苦もなくユーリの焔を掻き消すか。やるねぇ)

 

「参る!」

 

 感心する凜堂に宋が肉薄する。一息に間合いを詰め、宋は拳を繰り出した。棍で受け止める凜堂。ずん、と重い衝撃が棍を通して伝わってくる。気を抜けばガードごと吹き飛ばされそうな威力だ。

 

「はっ!」

 

 そこから宋はくるりと体を回転させ、裏拳で棍を弾いた。勢いをそのままに、ガードを崩された凜堂の頭部目掛けて回し蹴りを叩き込もうとする。咄嗟に凜堂は頭を伏せて紙一重でかわした。頭上すれすれを宋の蹴りが通り過ぎ、髪が逆立つ。

 

「『一閃(いっせん)穿血(うがち)”』!」

 

 後ろに跳んで距離を取ると見せかけ、凜堂は星辰力を纏わせた棍で突きを放った。宋は体を沈めて突きを避け、滑るような動きで凜堂の懐へと入り込む。体ごとぶつけるように凜堂の腹へ体当たりした。

 

「ぐっ……」

 

 咄嗟に後ろへと下がって威力を殺した上に星辰力で防ぐが、それでも内臓に響くような痛みが凜堂を襲う。もろに攻撃を喰らってしまったが、間合いを離すことは出来た。

 

「『一閃(いっせん)轟気(とどろき)”』!」

 

 追撃をかけようとする宋を衝撃波のドームで吹き飛ばす。衝撃波の直撃を受けるが、宋は両腕で顔と校章を守りながら危なげなく着地する。目立ったダメージは無いようだ。宋から目を離さず、凜堂はステージから棍を引き抜いた。

 

「成る程。どうやら、噂は本当のようだ」

 

「ご想像にお任せするさ」

 

 両腕を解き、宋は構えを取った。腰を落として左足を大きく前に出すといったものだ。どんな拳法の流派かは知らないが、中国武術であることは間違い無さそうだ。凜堂は腹部に走る鈍痛に顔を顰めながら棍を宋へと向ける。想像以上の強さだ。十全の状態ならともかく、今の凜堂に近接戦は分が悪い。

 

(これ)じゃ厳しいか……)

 

 かと言って、棍を他の形態に変えるのはかなり厳しい。武器を変形させる刹那の隙を宋は見逃さないはずだ。

 

(普通に変えたらその瞬間を狙われる。このまま戦闘を続けてもジリ貧……ユーリの援護が少しでも入ってくれりゃあ楽なんだが……無理か)

 

 ちらっと視線をユリスに向ける。ユリスは周囲に焔を躍らせて羅と渡り合っているが、険しい表情を浮べている。劣勢という訳ではないが、凜堂に手を貸すほどの余裕はないだろう。

 

「余所見とは余裕だな、切り札(ジョーカー)!」

 

 自身から注意が逸れた一瞬を逃さず、宋は凜堂へと打ちかかった。すぐに意識を宋へと戻し、凜堂は迎撃に神経を集中させる。矢継ぎ早に繰り出される拳打と足技を凜堂は後ろへと下がりながらどうにか捌いていった。一撃一撃が重く、反撃に移る隙がない。

 

『これは驚きの展開! あの高良選手が一方的に攻められています! 確かに宋選手の攻撃が素晴らしいという事もありますが、それを抜きにしても予想外の試合模様です! あの噂は本当だったのでしょうか!?』

 

『あのパフォーマンスもないっすからねー。星辰力の量も練り込みもウルサイス選手との試合に比べると月とすっぽん……これは間違いないんじゃないっすかねー』

 

(月とすっぽんって、もっとマシな例えがあっただろ!)

 

 心の中で毒づいていると、実況と解説に混じってユリスの声が凜堂に届いた。

 

「凜堂、すまん! 抜けられた!」

 

「マジか!?」

 

 目の前から宋がどいたかと思うと、すぐそこまで迫っていた羅が回転を加えた棍の一撃を放ってくる。内心で冷や汗をかきながらも凜堂は薙ぐように棍を振るって羅の攻撃を弾いた。そのまま勢いを殺さずに体を捻り、背中越しに棍をステージに突き刺して反対側から回り込もうとしていた宋を牽制する。

 

「あらよっと!」

 

 ステージに刺さった棍を支えにして凜堂は体を持ち上げ、宋と羅を蹴りつけて距離を離す事に成功した。

 

一閃(いっせん)(ひょう)”!」

 

 曲芸師のような身のこなしでステージに着地し、凜堂は棍に星辰力をチャージ。端に踵落しをして棍を跳ね上げさせ、同時に星辰力を解放する。衝撃で舞い上がったステージの破片が星辰力に押し出され、散弾のように宋達を襲った。

 

 顔と校章を両腕で庇おうとする宋の前に羅が飛び出し、棍を風車のように回してパートナーを守る。二人に出来た隙を逃さず、凜堂は跳び上がって落下中の棍を掴んで星辰力を注ぎ込んだ。

 

「おぅらぁ!!」

 

 黒光りする棍が振り下ろされる。羅は両手で棍を掲げて上からの強打を防いだが、威力に耐え切れずに片膝を突いた。凜堂は棍を振り上げて更なる一撃を羅に与えようとするが、頭上を跳び越えて背後に着地した宋によって阻まれる。

 

「しぃっ!!」

 

「あぶね!」

 

 上に持ち上げた棍を即座に背後に回し、宋の掌打を防いだ。その一撃はガードを超えて凜堂にダメージを与えるが、彼を怯ませるには至らなかった。だが今度は立ち上がった羅が前から突きを繰り出してくる。

 

「うぉっとぉ!」

 

 後ろ手に握った棍を支えに凜堂はサマーソルトよろしく体を持ち上げ、羅の一撃を蹴り上げた。更に棍の先端を足場に跳躍し、宋と羅から距離を取ろうとする。着地後の隙を突こうと、二人は凜堂に向けて走り出した。

 

三車(みぐるま)離烈(はなれ)”!!」

 

 凜堂の声を合図に持ち主の手から離れていた棍が瞬時に三つの戦輪(チャクラム)に変わり、凜堂に迫ろうとする二人の背中へと襲い掛かる。突然の奇襲だったが、宋と羅は危なげなく戦輪を捌いて見せた。だが、一瞬だけ二人の動きは止まった。その一瞬の内に凜堂は両手をつく体勢でステージに着地する。

 

三車(みぐるま)旋天(せんてん)”!!」

 

 逆立ちを崩さず、凜堂はカポエラのような動きで回り始めた。その周囲を戦輪三つが凜堂の動きに追従するように回転しだす。戦輪の威力と速さは相当なもので、凜堂を中心に小型の竜巻が出来ていた。無策で突っ込めば手痛いしっぺ返しを貰うだろう。僅かに宋と羅は凜堂への追撃を躊躇った。

 

六弁の爆焔花(アマリリス)!!」

 

 その刻を逃さず、針の穴を通すようなタイミングでユリスが火球を放つ。火球は二人の丁度間に飛び込み、焔の花弁を開かせた。爆風でステージが抉れ、舞い上がった黒煙と砂塵が宋と羅を飲み込んだ。

 

「凜堂、大丈夫か?」

 

「お陰さまで」

 

 飛び跳ねるように立ち上がり、凜堂は走り寄ってくるユリスに礼を言う。手元に戻ってきた戦輪を棍に組み替えつつ、視線を黒煙から外さない。ユリスも凜堂同様に微塵も油断せずに細剣を構えた。

 

『これは予想外の展開! 高良選手、黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)無限の瞳(ウロボロス・アイ)が使えない状態であるにも拘わらず、宋選手と羅選手の攻めを見事に凌いで見せました!』

 

『リースフェルト選手の援護で一旦仕切りなおしって感じっすねー。高良選手のさっきの攻防は見事だったっすけど、二人を同時に相手にした分、消耗もかなりのもののはずっす。試合が長引くと厳しいでしょうねー……そろそろ黒煙が晴れてきたっす』

 

 解説の言葉通り徐々に黒煙が薄れていき、宋と羅が姿を現す。どちらも微かな火傷を負っているが、決定的なダメージは受けていないようだ。

 

「これで決まるとは欠片も思ってはいなかったが、私の六弁の爆焔花をもろに喰らってほとんど無傷だと?」

 

「星辰力で防いだんだろ。何にせよ、至近距離の爆発であれだけしか手傷を与えられなかったんだ。やっぱ、大技が必要だな」

 

 二人は頷きあい、それぞれの得物を構えた。それを見て、宋と羅も構えを取る。迂闊には動けそうにない、緊迫した空気に観客も固唾を呑んで試合を見守っていた。

 

「咲き誇れ、大紅の心焔盾(アンスリウム)!」

 

 沈黙を破ったユリスの行動に虚を突かれ、宋と羅は目を見開いた。それもそうだろう。遠距離の攻撃方法を持ち合わせていない二人に対し、ユリスは焔の盾を作り出したのだから。更に次の凜堂の行動に二人は開いた口が塞がらなくなる。

 

「んじゃ、頼んだぞ!」

 

 何と、凜堂は焔の盾越しにユリスを後方へと蹴り飛ばしたのだ。凜堂の蹴りが当たると同時に後ろへと跳んでいたユリスは大きく吹き飛ばされ、ステージから落ちるギリギリの所に着地する。

 

『こ、これは一体どうしたことでしょう! 高良選手、相棒のリースフェルト選手を蹴って吹っ飛ばしてしまいました! 星導館ペア、ここに来てまさかの仲間割れかぁ!?』

 

『んな訳ないやろ、落ち着きナナやん。多分、リースフェルト選手が大技を決めるための準備を始めたんじゃないっすかねー。それを宋選手達に邪魔させないために高良選手はリースフェルト選手を遠くに蹴り飛ばしたんだと思うっす……距離を取らせるにしたって、もうちょっと別な方法があると思うっすけど……』

 

「……と、言っているが、どうなのだ?」

 

「我々も今のやり方は正直ないと思うぞ」

 

 うるせぃ、と凜堂は呆れ返った様子の宋と羅に歯を剥いて見せた。凜堂とユリスは一番手っ取り早いやり方を選んだだけの事だ。それを他人に、それも対戦相手にとやかく言われる筋合いは無い。

 

「まぁ、何だっていい。お前達が何をやってこようが、それが完了する前にお前達を倒せばいいだけのことだ」

 

「やらせないさ。そのために俺がここにいる」

 

 宋と羅、凜堂の闘気がぶつかり合い、微妙に弛緩していた空気が再び引き締まった。数秒の沈黙の後、二人が打って出る。対して凜堂はその場から動かず、トーントーン、と一定のリズムを刻みながらその場で小さく跳んでいた。

 

 凜堂とユリスがどのような策を立てているかは分からないが、そんなこと宋達には関係のないことだ。さっきも言ったとおり、策が成される前に倒してしまえばいいだけのこと。幸いな事に、状況は二対一と宋達にとって有利だ。可能な限り早く凜堂を倒し、その後にユリスを降せばそれで試合は終わる。

 

 その考えは間違ってはいない……ある決定的な一点を除いて。

 

 既に二人は目前に迫ってきている。それでも尚、凜堂は反撃しようともせずに小さな跳躍を続けていた。宋が拳を握り締め、羅が棍を振り上げる。両者が攻撃を放とうとしたその時、不意に凜堂のジャンプが止まった。

 

二打(ふたつうち)瞬神(しゅんしん)”」

 

 刹那、凜堂の姿が消える。驚き、瞬きをした二人の視界に飛び込んできたのはそれぞれ二人の前に立つ凜堂の姿だった。

 

「「っ!?」」

 

 瞬時に防御の構えを取った二人が同時(どうじ)に後ろへと弾き飛ばされた。大きく距離を離されるが、二人は危なげなく体勢を立て直しながら着地する。防御を解く二人の顔には驚愕の表情が浮かんでいた。

 

「分身? まさか星仙術(せいせんじゅつ)か!?」

 

「いや、高良凜堂が星仙術を使うという情報は無かった。今まで隠していたという可能性も無くはないが、今のは星仙術ではない」

 

 長年培ってきた経験から分かる。二人に打ち込まれた一撃はどちらも本物だった。その証拠に宋と羅は防御を余儀なくされ、放たれた打撃によって距離を取らされた。星仙術によって作られた幻影の分身にそんな芸当は出来ない。

 

「高速で動いたとでもいうのか。それも残像を生み出し、二人の相手に同時に攻撃を叩き込むほどの速さで……」

 

 驚嘆を禁じえず、宋は心底感心した顔で凜堂を見る。当の本人はというと、さっきから立っている場所で変わらずに小さな跳躍を繰り返していた。両手にはそれぞれ、鉄棒三本で成るトンファーが握られている。

 

「おい、あんた……宋で合ってるよな? あんた、さっき俺に言ったよな。噂は本当のようだってな」

 

 その通りさ、と凜堂は何でもないことのように言葉を続ける。

 

「俺には昨日の試合のダメージが残ってる。そのお陰で黒炉の魔剣と無限の瞳を十全に使えない」

 

 突然の告白。これには宋と羅でだけでなく、実況と解説、観客達まで言葉を失った。何故、自分の弱点を態々相手に伝えたのか。凜堂の意図が分からずにシリウスドームにざわめきが広がる。

 

「でも、それだけだぜ?」

 

 そのざわめきも凜堂の不思議とよく通る声で静かになった。

 

「確かに今の俺には純星煌式武装(オーガルクス)は使えないさ。だからって、お宅らが俺達に勝てるほど強くなったって訳じゃねぇだろ。違うか?」

 

 不敵に、不遜に笑いながら凜堂は跳躍を止める。その体からは尋常ではないほどに練り込まれた星辰力が溢れ、周囲の空気をざわざわと揺らめかせていた。

 

「高良凜堂を舐めんなよ」

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

「ぐうっ!」

 

 視界に捉えるのが困難なほどの速さで凜堂は羅をトンファーの一撃で突き飛ばし、その一瞬後には宋の眼前でトンファーを構えていた。

 

「恐ろしい速さだな……!」

 

 凜堂の迅雷のような動きに戦慄しながらも、宋は矢継ぎ早に繰り出される一発一発を捌いていく。だが、弾幕を想起させるほどの打突の嵐に呑まれ、本命の一撃を避けきれずに吹っ飛ばされた。

 

「大した男だ」

 

「全くだ。どれだけの鍛錬を経てその速さを手に入れたのか。それを考えると尊敬の念を覚えずにはいられないな」

 

 宋と羅から惜しみない賞賛が送られるが、それに応える余裕は凜堂になかった。顔を大粒の汗が伝い落ち、両肩は呼吸の度に大きく上下している。

 

(くそ、消耗が激しすぎる。本来の性能を出さないでこれか)

 

 本来、二打“瞬神”は世界の時が止まっているかのように動く超高速体術だ。この技を発動させた凛堂を肉眼で捉えることの出来る者はアスタリスクといえど何人もいないだろう。だが、絶大な効果を発揮する反面、凛堂の負担も馬鹿にはならない。本調子の状態で、一日一回か二回発動するので精一杯だ。そんな技を効果を下げてるとはいえ昨日のダメージが残った状態でやっているため、凛堂の体は限界を超えつつあった。後、何回発動出来る? と自問しながら凜堂は小さなジャンプを繰り返す。

 

『彼は私達を何度驚かせてくれるのでしょう! 高良選手、たった一人で宋選手と羅選手を圧倒しています!!』

 

『一試合目のガラードワース両名の校章を斬った時に使った技っすね。瞬間移動と思えるあの動きに対応するのはここまで勝ち進んできた宋選手達にも難しいと思うっす』

 

 でも、と解説は一回言葉を切る。

 

『あれほどの動きを連続でやって疲れない訳ないっす。高良選手の様子を見てもそれは疑いようがないっすから、これ以上試合を長引かせると状況が逆転する可能性もあるっす。鍵はリースフェルト選手がどれだけ早く準備を終わらせられるかっすね』

 

(焦らせてくるねぇ)

 

 九割方合っている解説の見解に小さな苦笑いを作りながら凜堂は後方のユリスを確認した。技の準備も最終段階に入ったようだが、まだ数十秒の時を要するだろう。

 

 ここまで頑張って負けてたまるかと、呼吸も整え終わらぬ内に凜堂は向かって来る二人の攻撃を受け止める。が、その動きには先ほどまでの精彩はなかった。

 

「羅、ここで決めるぞ!」

 

「応っ!」

 

二打(ふたつうち)蓮華(れんげ)”!!」

 

 恐ろしいほどに息の合った宋と羅の怒涛の攻めに対し、凜堂はトンファーと蹴りを織り交ぜた連撃を放つ。双方がそれぞれ血肉を削って練り上げてきた技がぶつかり合い、ステージ上に人間が発せられるとは到底思えない打撃音が連続して響き渡った。

 

『ここに来て今試合一番の技の応酬! 私、三選手の動きが速過ぎて正直何がなんだか全く分かりません!』

 

『いや、だからって仕事放棄したらあかんでしょ、ナナやん。でもまぁ、実況と解説を入れる一瞬も無いほどの打ち合いなのは確かっす。良くスタミナも保つっすね』

 

 実況と解説、観客たちの声はステージ上の選手には一切届いていないようで、戦いを更に苛烈なものにさせていく。その矢先、凜堂の体に限界が訪れた。突如、全身を襲った激痛に寸の間、動きが止まる。その一瞬を対戦相手は逃さなかった。

 

「もらった!」

 

「くそっ……!」

 

 宋が必殺の一撃を放つ体勢に入ったのを見て、凜堂は即座に両腕でガードを固めようとする。

 

「させん!!」

 

 凜堂の防御が完成する前に羅は棍を凜堂の腕の間に強引に捻じ込み、弾き上げてガードを崩した。後は拳を打つだけの状態の宋を前に凜堂は無防備な姿を晒す。

 

「終わりだ!!」

 

 星辰力を込めた拳が凜堂の腹部に突き刺さった。メキ、ゴキと自分の体が嫌な音を立てるのを感じながら凜堂は後ろへと舞い飛んでいった。どしゃっ、と生々しい音を立ててステージの上に落ちる。倒れたまま、凜堂は腹の中から込み上げてきた血を吐き出した。幸いなことに校章を破壊されるのは免れたが、一人で起きるのは無理なほどのダメージだ。

 

「げはっ、ごほっ……まさか、ここまでの威力とはね。侮ってた」

 

 でも、と口端から血を垂れさせながら凜堂はにやっと笑ってみせる。

 

「ありがとよ。移動の手間が省けた」

 

「そして、我々の勝利だ」

 

 立てない凜堂を助け起こしながらユリスは自分達の勝利を宣言する。彼女が踵でステージを打つと、二重の魔方陣が二人の足元に現れた。

 

「咲き誇れ、栄裂の炎爪華(グロリオーサ)二輪咲(デュオフロース)!!」

 

 ユリスの声に応えるように巨大な五つの炎爪が柱のように立ち上がり、二人を包み込むように閉じられた。間髪入れずに更に巨大な炎爪が五本、炎の守りを覆っていく。傍目から見ると、それは極大の炎の繭に見えた。

 

「あの中に隠れてどうするつもりだ? 時間稼ぎか?」

 

「今更、時間を稼ぐ意味などないだろう。大技のための布石と見て間違いないはずだ」

 

 その大技がどんなものなのか想像はつかないが、と二人は油断なく炎の繭を見据える。攻撃しようにも、炎の繭が邪魔で手が出せない。宋達がどう攻めるか思案している内に炎の繭に変化が現れた。繭を内側から食い破るように一筋の線が走る。線は一本二本とその数を増やしていった。

 

「あれは戦輪?」

 

 宋はすぐにその線を作り出している物の正体を見破る。凜堂の操る三つの戦輪が炎を吸収しながら繭を削り取っているのだ。炎を纏っていくにつれて戦輪は赤熱し、加速しながら二人の周囲を旋転していく。炎を全て吸い切った時には戦輪は闇夜に飛ぶ蛍のように明るくなっており、空中に炎の軌跡を残す程だった。

 

「決めるぞ、凜堂!」

 

「一丁、派手にいきますか!」

 

 炎の繭の中から現れた凜堂はユリスに支えられながら掲げていた手を振り下ろす。凜堂の動きに従い、高速で回転していた戦輪が急降下してステージに突き立った。

 

「「咲き誇れ、銀焔の繚乱花(シルバーソード)!!」」

 

 二人の声を合図に魔方陣が展開される。それの大きさはさっきユリスが出現させた栄裂の炎爪華・二輪咲の比ではなく、ステージ全体を飲み込むほどだった。戦輪が纏った炎を魔方陣へと注ぎ込む。すると、魔方陣は目を射抜くような銀色の輝きを放ち始めた。

 

 一拍置いて、魔方陣から巨大な銀色の炎剣が芽吹いた。炎剣は一本に止まらず、次から次へと姿を現しステージを隙間なく埋め尽くしていく。数分の時を使っただけのことはあり、炎剣は一本一本が極度に圧縮された星辰力によって作られていた。ちょっとやそっと叩いたくらいではびくともしないだろうし、防げるような代物ではない。かわそうにもステージ全てが炎剣の発生圏内のため、かわしようがなかった。

 

 防ぐことも避けることも出来ず、宋と羅は繚乱する炎剣に呑まれた。 

 

『こ、これは凄まじい光景です! ステージ全体を銀色の剣が覆いつくしています!!』

 

『リースフェルト選手が技の仕込みをして、高良選手が技の規模と威力を増大させたって感じっすね。多分、高良選手、ほんの一瞬だけ無限の瞳を解放させてるっす』

 

 観客達がざわめく中、銀の炎剣が霞むように消えていく。数十秒の時間をかけ、全ての炎剣が消えた。ステージ上には肩で息をする星導館ペアと、倒れ伏し動かない界龍ペアの姿が見える。界龍ペアの傍らには粉々になった二つ分の校章があった。

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、高良凜堂&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト!」

 

 響き渡る機会音声が試合終了を報じる。大きく息を吐き出し、凜堂とユリスは仲良くステージに大の字になった。観客達から万雷の如き喝采が送られる中、二人は動けるようになるまでステージの天井を見上げていた。




六ヶ月も放置して申し訳ないです。まぁ、色々とありまして……。

次はどうなるかなぁ……可能な限り早く投稿できるように頑張るつもりでいます。


そういや、アニメ化するらしいねアスタリスク。さって、どこまでやるのかしらねぇ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。