学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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 アスタリスク、ついにアニメ化しましたなぁ。早く綺凛ちゃんに会わせろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!


羨望

「ただいまよ~っと……って、まだ帰ってきてねぇのか、ジョーの奴」

 

 明かりの灯った電灯が無人の部屋を照らす。書類やらメモやら、何が何やら分からない状態になっている英士郎の机は変わった様子が無いし、ベットも同様だった。

 

 夏休みに入ってからこんな感じだったので、今更ルームメイトがいないことに驚きはしなかった。ただまぁ、何をしているのかは気になったので、一度訊ねてみたが取材だよ、と煙に巻かれただけだった。

 

「歓楽街にでも繰り出してんのか……そういうタイプには見えんかったが」

 

 いないならいないでそれに越した事はない。凜堂は携帯端末を取り出して自身の椅子へと腰かける。これから話そうとしている相手との会話を極力聞かれたくなかったので、英士郎が留守なのは正直ありがたかった。

 

「いい加減、試合の度にぶっ倒れてユーリに肩貸してもらうなんて格好悪いからな」

 

 凜堂の右目に飛び込んできた魔眼。それについて彼は余りにも無知であり、それは周囲の人間も同様だ。凜堂には『無限の瞳(ウロボロス・アイ)』のことを知る必要があった。『鳳凰星武祭(フェニックス)』に勝つためにも、そしてこれからのためにも。

 

「さってさて~、出てくれるっかなぁ~っと」

 

 携帯端末を取り出してつい最近、登録した番号へかける。数回の呼び出し音が鳴り、空間ウィンドウが開いて通話相手を映し出した。

 

『あ、高良さん!』

 

「よぉ、ウルサイス妹。悪いな、突然」

 

 その呼び方、止めて下さいよ~、とプリシラ・ウルサイスはウィンドウの中で苦笑する。エプロン姿から察するに、晩御飯を作っている最中のようだ。場所は先日凜堂とユリスが招かれたあの部屋だろう。

 

「忙しそうだし、後でかけなおしたほうがいいか?」

 

『大丈夫です、もうほとんど作り終ってますから。それに私も高良さんにお礼を言わなきゃと思ってましたし。でも、まだ試合も残ってるしお邪魔になってしまうかと思って……その節は本当にありがとうございました!』

 

「いや、気にしなくていいぞ。俺が勝手にやったことだしな」

 

 それでもです、と頭を下げるプリシラに今度は凜堂の方が困ったような笑みを浮かべる。試合でぶちのめした相手からお礼を言われるというのは何とも不思議な気分だった。

 

『高良さんのお陰でお姉ちゃんは元に戻ってくれました。どれだけ感謝してもし足りません。そうだ、また高良さんをディナーにお誘いしてもいいですか? 勿論、リースフェルトさんも』

 

『プリシラ、いいから代われって!』

 

『え、ちょっと、お姉ちゃ』

 

 空間ウィンドウからプリシラの姿が消え、入れ替わりにイレーネがウィンドウに現れた。

 

『よぉ、高良。今日の試合、見させてもらったぜ。純星煌式武装(オーガルクス)無しでもあれだけ戦えてたのにはびっくりだけどよ、結構際どかったじゃねぇか』

 

「どこぞのシスコン馬鹿の所為でな」

 

『はっは、いい気味だ……って、誰が馬鹿だ誰が!』

 

 シスコンの部分は否定しないのね、と思わず噴出す凜堂。それが更に癇に障ったらしく、ウィンドウ内のイレーネが食って掛かってきた。鋭い目つきで凄んでくる様はかなりの迫力だが、どこか険が取れたように見える。元に戻ったというプリシラの言葉にも頷けた。

 

『んで、何のようだ? ……何て言う必要はねぇか』

 

「察しが良くて助かる。レヴォルフ(お宅)んとこの生徒会長殿に話が聞きたくてね」

 

 レヴォルフ黒学院の生徒会長。即ち、『悪辣の王(タイラント)』ディルク・エーベルヴァイン。凜堂の台詞にイレーネは微妙な表情を作る。

 

『察しがいいのはあたしって訳じゃないんだが、ディルクの野郎の受け売りさ』

 

 近い内に凜堂が自分に接触を図ろうとするだろうから、その時は知らせろとのことだそうだ。

 

「へぇ、お見通しって訳ですかぃ」

 

 流っ石、『悪辣の王』。と凜堂は僅かに眉を持ち上げて見せた。

 

「そんなら話が早い。俺の右目のお転婆について聞きたいことがあるから会って話したいって伝言しといてくれや」

 

『あぁ、それも仕事の内だからな。構わねぇよ』

 

「そいつはどうも」

 

 ここでイレーネは目つきを真剣なものにし、真っ直ぐに凜堂へと向ける。

 

『ただ、油断はするなよ。あいつが飼ってるのはあたしらだけじゃない。あの『孤毒の魔女(エレンシュキーガル)』も手札に加えてるって噂だ』

 

「現アスタリスク最強の魔女(ストレガ)をか。本当、何者よ」

 

 それだけじゃない、とイレーネは目つきをより一層鋭くさせた。

 

『それにあいつには黒猫機関もいるしな』

 

「黒猫機関?」

 

 疑問符を浮かべる凜堂の脳裏に可愛らしい黒猫の格好をしたレヴォルフ生徒がタンゴを踊る情景が浮かび上がってくる。もう一度、黒猫機関と呟く凜堂をイレーネは毒気が抜かれた顔で見ていた。

 

『何考えてるか分っかんねぇけど、それは違うからな』

 

「だろうねぇ」

 

 というか、それで合ってると言われた方が青天の霹靂だ。調子狂うなぁ、とイレーネは空間ウィンドウの中で頭を掻いた。

 

『レヴォルフの諜報工作機関だよ。どんな汚れ仕事でも命令とあらば躊躇なくやってのける冗談抜きでやばい連中だ……もっとも、ディルクの野郎は信用してねぇみてぇだけどな』

 

 要するに星導館の『影星』のようなものだ。

 

「あいあい、気をつけるとしますよ」

 

『本当か? ……本当なんだろうな。お前はそういう奴だもんな』

 

 飄々と何時もの調子で答える凜堂に疑惑の目を向けるイレーネだが、最後には諦めとも信頼ともつかないため息を吐いていた。どれだけおちゃらけた風な態度をしていても、凜堂がやると言ったらやる男だということは先日の試合で痛いほどに思い知らされている。

 

『まぁいい。それはそうと高良。お前、何でプリシラの携帯番号を知ったんだ?』

 

「は? 別にこの前飯食わせてもらった時だけど?」

 

『……そうかよ』

 

 どこか憮然とした顔のイレーネ。怒っているようにも見える。何か怒らせるようなことしたっけ、と凜堂が内心で首を傾げていると空間ウィンドウの向こうでイレーネが何やら携帯端末を操作していた。

 

「おろ?」

 

 数秒後、凜堂の携帯端末にイレーネの携帯番号が送られてきた。

 

『次からあたしに用事がある時はプリシラを通さないで直接かけてこい。プリシラの手を煩わせるな。ってか高良。お前、プリシラに手ぇ出したら承知しないぞ』

 

『ちょっとお姉ちゃん! 高良さんに何てこと言ってるの!?』

 

『黙ってろ、プリシラ。男ってのはな皆、狼なんだ。気をつけなきゃいけないんだ』

 

「どこのアリスだお前は」

 

 嘆息する凜堂をほったらかしにして画面の中で揉み合うウルサイス姉妹。

 

『そんなことよりもっと言わなきゃいけない事があるでしょ!!』

 

『そうは言うがな、プリシラ。ここは姉としてお前を守るために釘を刺しとかないとって分かった! 分かったからそのフライパンを下ろしてくれ!! お前も年頃なんだからもう少し慎みを』

 

『お姉ちゃんだけには言われたくない!!』

 

『ミギャーッ!!』

 

 スカァン!! と気持ち良さすら感じられそうな音に凜堂は思わず顔を顰める。数秒後、画面にプリシラの姿が映る。

 

『高良さん、お姉ちゃんが変なこと言ってごめんなさい』

 

「いや、まぁ気にしないでくれや。家族のことを大切に思うのは当然だし」

 

 若干、引き攣った笑みで凜堂はそれとなくイレーネをフォローする。ありがとうございます、と苦笑気味のプリシラに頭を下げられるも、彼女の右手に握られているフライパンの存在に気圧されて生返事しか出来なかった。

 

『さっきも言いましたけど、是非またいらして下さい。リースフェルトさんも一緒に』

 

「あ、あぁ。伝えとくわ」

 

『よろしくお願いします。じゃあ、次の試合、頑張って下さい。ほら、お姉ちゃん。ご飯冷めちゃうから起きて』

 

 そこまで映したところで空間ウィンドウが黒く染まる。

 

「はは、性格が似てなくても、やっぱ姉妹なんだな」

 

 苦笑いしながら凜堂は携帯端末を机の上に置き、ベットに横になった。

 

「ま、話は通したんだし、後はなるようになるか」

 

 小さく息を吐きながら天井を見上げる。特にすることもないのでぼんやりしていると、不意にイレーネとプリシラの姿が脳裏を過ぎった。

 

「お姉ちゃん、ね……姉貴」

 

 ズキリと微かに胸が痛んだその時、

 

「たっだいまーっと! いや~、やっぱ我が家はいいねぇ!」

 

 派手な音を立てながら扉が開き、ルームメイトの英士郎が入ってきた。凜堂は起き上がって机の上に色々と荷物を置いている英士郎に向き直る。

 

「よぉ、ジョー。久しぶりだな」

 

「よっす、凜堂。仕事が立て込んでてな。どうにか一区切りつけてきたんだけど、まだ山のように残ってるんだよなぁ」

 

 深々と嘆息する英士郎。後ろ姿がどこか煤けて見えた。

 

「新聞部も大変だな」

 

「まぁ、『星武祭(フェスタ)』の時期は稼ぎ時だからな。ネタはそこかしこに転がってるから取材には困らないし……っと、試合見たぜ。準々決勝進出おめでとさん」

 

 ほれ、お祝い、と英士郎は荷物の中からコーラの缶を取り出して凜堂に投げ渡した。

 

「まった安上がりなお祝いだな、おい。いや、祝ってもらえるだけ感謝しないとな」

 

 サンキュ、と礼を言いながら凜堂はコーラをサイドテーブルに乗せる。缶の膨らみ具合から察するに、ベットの上で開けたらどのような悲劇が起こるか想像に易かった。

 

「次の相手もまた界龍(ジェロン)だっけか? しかもあの双子とか災難だな、お前もお姫様も。あいつらの性格の悪さは折り紙つきだからな」

 

「知ってんのか、あの二人のこと?」

 

 データでって意味ならな、と答える英士郎。

 

「戦闘能力だけって意味ならお前さんが倒した『覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)』を持ったイレーネ・ウルサイスのほうが強いだろうさ。実際、詩の蜜酒(オドレリール)六万神殿(ヘキサ・パンテオン)でも双子の個人としての評価はそこまで高くない」

 

「ちょい待て。何だその、オートミールやらヘキサグラムってのは?」

 

「詩の蜜酒と六万神殿な。え、知らないのかお前?」

 

 意外そうな顔をする英士郎に凜堂は真顔で頷く。

 

「逆に聞くが、ジョー。俺がその手のものを知ってる時が一回でもあったか?」

 

「自慢げに言うことじゃないだろそれ……アスタリスク、というより、星武祭に関するファンサイトだよ」

 

 英士郎は携帯端末でそのサイトを開き、凜堂に見せてくれた。

 

「アスタリスクにおける序列ってのは各学園が定めたものだから、当然その学園内だけのもんだろ? うちの序列一位、要するにお前なわけだが、それとガラードワースの序列一位、『聖騎士(ペンドラゴン)』はどっちが強いのかってのは実際に戦わないことには分からない」

 

「そりゃそうだ」

 

「そうだと分かっていても、世の中には何でも比較したがる奴がいるもんなのさ。で、ネットで自分なりのランキングを作って発表したがる輩が多いってことよ」

 

「アスタリスク全生徒を対象にした非公式序列ってことか?」

 

 そゆこと、と英士郎はピッと人差し指を立てる。その最大手なのが先ほど英士郎の言った詩の蜜酒と六万神殿というわけだ。

 

「詩の蜜酒は個人が管理してる、アスタリスク黎明期からずっと更新を続けてる古参だ。ランキングはかなり正確って言われてて、賭けのオッズなんかはここを参考にしてることが多い。六万神殿は割りと最近出来たサイトなんだが、誰でも参加できる独自の評価システムを使ってる。ランキングって言うより、人気投票って言い方のほうが正しいかもな」

 

 色々あんのね、と感心する凜堂。

 

「ま、所詮は非公式だし、こんなの当てにならないって言う奴もいる。お姫様はその口のはずだ。あと、会長さんも何かのインタビューで言ってたけど、余り好きじゃないみたいだ」

 

「ユーリはまぁ分かるけど、ロディアもなのか」

 

 そもそも、ユリスは学園の序列はあてにならないと凜堂の目の前で言っていた。ましてそれが非公式のものだとしたらどんな反応をするのかは火を見るよりも明らかだ。しかし、クローディアはどうなのか凜堂には見当がつかなかった。

 

「そこら辺を弁えて見る分には問題ないさ。ちなみにどっちのサイトも一位は『孤毒の魔女』だ」

 

「そりゃ凄い」

 

 流石『王竜星武祭(リンドブルス)』二連覇を成し遂げた魔女と言うべきか。

 

「六万神殿のほうは過去の出場選手とかも交えたランキングもあるから面白いぜ。そっちだと一位は星猟警備隊(シャーナガルム)の隊長さんだ」

 

「初めて『王竜星武祭』で二連覇した人か。このランキングって基本的に『王竜星武祭』を基準にしてるのか」

 

「星武祭の中で一番盛り上がるのはそれだからな。参考までに今の凜堂の順位は詩の蜜酒だと九位、六万神殿のほうは十五位ってとこだ」

 

「あら、意外と高評価」

 

「イレーネ・ウルサイスとの試合後だとがくっと順位が下がってたんだが、今回の試合でお前さんは純星煌式武装(オーがルクス)無しでも十二分に強いって証明したからな」

 

 現金なものだ。顔に出ていたのか、英士郎は笑いながら凜堂の肩を叩いた。

 

「今年初出場のルーキーにしちゃ頑張ってるほうだよ、お前さんは」

 

「そいつぁどうも」

 

 なんの気なしに視線を泳がせると、クローディアや綺凛の名前もサイト内にあった。まぁ、現星導館学園の序列二位と元序列一位なので当然と言えば当然だ。

 

「本当、色々いるなぁ……お、サーヤもランキングに載ってらぁ」

 

「あんだけでっかい銃を使いながら接近戦をこなしたのが評価されたんだと思うぜ。話を戻すが、あの双子はそれほど個々の戦闘能力は高く評価されてないってこった。勿論、界龍の『冒頭の十二人(ページ・ワン)』だから弱いって訳じゃない。他の学園と比べればってことだ」

 

 閉じられる空間ウィンドウ。

 

「でも、単純な強さで勝敗が決まるもんでもないだろ? 俺の見立てだが、仮にイレーネ・ウルサイスと双子がぶつかり合ったらどっちが勝つかは分からないくらいには試合巧者だと思うぜ」

 

「確かに奴さんたちゃ相手の弱点を突くのが上手かったな」

 

 それが試合データを見た凜堂の印象だった。徹底的に相手の弱点を狙う。双子の基本戦術だ。それだけ見ると別段珍しいことでもないのだが、双子が特別視されるのはそのための手段が呆れるほどに豊富なところだ。

 

「連中、星仙術の利点を上手いこと使うからなぁ。相手にしてみりゃやり難いことこの上ないだろうな。どうやったらあんな風に性格が捻じ曲がるんだか」

 

「あいつらの人間性の問題だろ。にしても星仙術か」

 

 凜堂もそこまで詳しいことを知っている訳ではないが、ある程度は知識として身に着けていた。まず第一に特徴として挙げられるのは汎用性。攻撃防御支援、節操がないくらいに何でも出来る。ちなみに星仙術の使い手は道士(タオシー)と呼ばれるそうだ。

 

「『魔女(ストレガ)』や『魔術師(ダンテ)』の能力を体系かして汎用性を持たせたのが星仙術だ。『魔女』や『魔術師』の能力は何かに特化した形で発現するもんだが、それを技術にして誰にでも使えるようにしたものって定義が一番近いわな」

 

「誰にでも、か。ぶっ飛んだことやんなぁ」

 

 そうでもないぜ、と英士郎はにやりと笑う。

 

「『魔女』や『魔術師』は星脈世代(ジェネステラ)の中で数パーセントしかいないって言われてるだろ? 実際は万能素(マナ)とリンクできる素養があるけど、力が弱かったり上手くイメージ出来なかったりって色んな理由で能力を発現出来ない奴がいるみたいだ」

 

 むしろ、星脈世代で素養を持ってない方が珍しいそうだ。

 

「理論的には万能素とリンクすることが出来れば事象の改変は出来るのさ。その素養部分だけを引き伸ばして、動作や呪文、呪布なんかの道具と組み合わせた定型式を技術として教えて様々な能力を使用可能にしたのが星仙術ってこった」

 

 星仙術の技術は基本的に界龍が独占している。使い手はともかく教える側、教導師と呼ばれる存在が数えるほどしかいない上に教導師が界龍から他学園に引き抜かれたことが一度もないからだ。余程、徹底してるんだろうなというのは英士郎の言だ。

 

「星仙術の能力は分かってるだけでも数百はある。道士がそれぞれ独自に開発したものも合わせると冗談抜きで星の数ほどあるかもしれねぇや。星仙術には『魔女』や『魔術師』みたいな際立った能力はないけど、その分安定性がある。気は抜かないほうがいいぜ」

 

「気を抜くつもりは毛頭ないが、その警告は心にしっかりと留めておくぜ、ジョー」

 

 悪辣の王との一件、明後日の準々決勝。そして胸の中にある小さな、だが確かな痛み。向き合わなければならないものの多さに凜堂は無言で天井を仰いだ。

 

 

 

 

「どどーん」

 

 窓の無い壁に囲まれた射撃訓練室。気の抜けた声と共に放たれた光弾は狙い過たずに十数メートル先のターゲットに直撃した。破砕音と閃光の中に砕け散るターゲット。

 

「「おぉー」」

 

「……えへん」

 

 その光景に拍手を送る、若干歳の離れた姉弟。そして無表情でドヤ顔を決めるという中々器用な芸当を決める少女。五歳ほどの少女が自分の半身ほどの大きさもある銃型煌式武装を携えている姿はかなりインパクトが強かった。

 

「へぇ~、凄いじゃん紗夜ちゃん。撃ち始めてから一回も外してないし。百発百中ね」

 

「……練習してるから」

 

 女性、高良凛音(りおん)からの賞賛に紗夜は照れた様子で頬を赤らめる。一方、弟の凜堂のほうは紗夜の持っている煌式武装に興味津々といった様子で視線を注いでいた。

 

「サーヤ。それ、僕が撃ってみてもいい?」

 

「ん、別にいいよ」

 

 紗夜から煌式武装を受け取り、顔を輝かせる凜堂。そんな凜堂に凛音は少し意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、凜堂。あんた、ちゃんと撃てるの~? 外したら格好悪いわよ」

 

「馬鹿にするなぃ! 絶対当ててやる!」

 

「凜堂、ファイト」

 

 紗夜の応援を背に受け、凜堂は所定の位置に立つ。数秒後、紗夜の時と同じ場所にターゲットが現れた。一つ深呼吸し、凜堂は煌式武装を構えて銃口をターゲットに向ける。

 

「いっけぇぇっっ!!??」

 

 トリガーを引いた瞬間、放たれた光弾とは真逆の方向に凜堂が吹っ飛ぶ。凛音と紗夜の間を抜け、訓練室の壁に頭を強かにぶつける。思わず顔を顰めたくなるような音が響いた。

 

「ちょ、ちょっと凜堂。あんた大丈夫? すんごい音鳴ったけど」

 

「……ちょー痛そう」

 

 心配する二人に返事をする事も出来ず。凜堂は余りの傷みに頭を押さえながら蹲っていた。両手の間からは漫画に出てきそうなほどの見事なたんこぶが覗いている。

 

「うっわ、マジ痛そ……何か冷やすもの持って来ないと」

 

「……痛いの痛いの、飛んでけー」

 

 マジで泣き出す五秒前状態の凜堂を紗夜に任せ、凛音が部屋から出ようとするとどたどたと階段を下りる足音が聞こえてきた。

 

「一体、何の音だ? まさか創一、お前の銃が暴発したんじゃ」

 

「それこそまさかだ。威力は……まぁ確かに子供が扱う代物ではないが、それでも安全には十分以上に配慮しているぞ」

 

「父さん、それに創一おじさん。丁度良かった。凜堂が頭ぶつけちゃって……」

 

 

 

 

「……まった、昔の夢を見たもんだ」

 

 むくりと起き上がる。カーテンの隙間から差し込む朝陽を一瞥し、凜堂は右手を頭へと持ち上げた。勿論、そこにたんこぶなど無かった。

 

「くそが……今更、あの時の夢を見てどうすんだよ……」

 

 小さく毒づき、右手で顔を覆う。

 

「あいつ等を見て、昔を思い出したか?」

 

 ユリスとフローラ、そしてイレーネとプリシラ。紛れも無い家族の姿を見て。

 

「……こんな程度で揺らいでどうすんだよ。こんなんでユーリを護れるわけないだろうが。しゃんとしろ、俺」

 

 そう自分に言い聞かせても何も消える事は無かった。彼女たちに対する嫉妬にも近い羨望も、己の望みに対する諦めも。そして諦めていながら望みを捨て去る事の出来ない自分自身の愚かさも。

 

「……くそがぁ」

 

 もう一度、小さく毒づく。握り締められた右手は解かれる事なく、泣きじゃくる子供のように震えていた。




 ども。この前、母と一緒にガンバを見に行きました。ノロイがミュウツーにしか見えなかったよ……。まぁ、凄く面白かったからいいんだけど。あれだけのクオリティでやるんなら、一本に纏めないで前後編とかで分けてくれりゃ良かったのに。
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