学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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 どうも、大変長らくお待たせしました。ま、気が向いたら読んでやって下さい。


 しかし、長期間書かないのは本当に駄目だな。自分が何を書いてたのか、何を書きたかったのかが完全に遥か彼方に吹っ飛んじゃう。


吼え立てよ、我が憤怒

一閃(いっせん)穿血(うがち)”!!」

 

 試合開始の合図が鳴った瞬間に凜堂はステージを蹴り、星辰力(プラーナ)を注ぎ込んだ棍を繰り出した。敵を穿たんと棍は唸りを上げて沈雲(シュンユン)に襲い掛かる。

 

「おっと、流石に速いね『切り札(ジョーカー)』! でも、分かっていれば避けれないものじゃない」

 

 ここまで勝ち進んできた相手がこの程度で終わる訳もなく、沈雲は後ろに下がってあっさりと凜堂の一撃をかわした。

 

「だろうな」

 

 避けられることは承知のことだったようで、凜堂は特に悔しがるでもなく突きを放った体勢のまま棍を持つ右手を軽く捻る。

 

一閃(いっせん)伸火(のび)”!」

 

 棍のそれぞれの繋ぎ目部分がバネ仕掛けのように飛び出した。星辰力で結ばれた六の鉄棒は大蛇の如き動きで沈雲に迫る。こんなマジックじみた追撃が来るのは予想外だったようだ。顔に驚きを浮かべながら身を捩った沈雲の制服の一部が削られる。

 

「『九輪の舞焔花(プリムローズ)』!」

 

 凜堂の間合いから逃れようとする沈雲を追い詰めるように九つの炎華が舞い踊った。

 

「急急如律令、勅!」

 

 ユリスが沈雲を爆散させるよりも早く、彼の両手が高速で複雑な印を結ぶ。途端、ステージの至る所から煙が噴き出してきた。量、濃さ共に煙幕と表現して差し支えない代物だ。あっという間も無く煙はステージ全体を飲み込む。

 

「随分と手の速いことで」

 

『お褒めに預かり恐悦至極』

 

 ユリスの元まで戻った凜堂の耳に小馬鹿にしたような声が届く。当たらないと分かっていたが、ユリスは九輪の舞焔花を炸裂させた。爆裂音が轟くが、それだけ。既に双子は安全圏まで引いているようだ。

 

「ユーリ。これ、偽物だわ」

 

「だろうな。こんな目に沁みない、息苦しくもならない煙などあってたまるか」

 

 星仙術は術者の腕前次第で様々なことが出来ると聞いてはいたが、こんなセルフ煙幕まで作ることが可能とは驚きだ。凜堂は目を凝らして濃霧の中にある双子の姿を探すが、隣にいるユリスさえも見え難いこの状況で双子を捉えらる訳がなかった。

 

「この間に奴さん達は色々と仕込みをするって訳だ」

 

「序にお前の制限時間も浪費させることが出来る。奴らにしてみれば一石二鳥ということか。本当にいい性格をしている」

 

 吐き捨てるユリスにだな、と応じるも、何か可笑しい所があるのか凜堂は口元を左手で押さえながらクスクスと笑った。訝しげに見てくるユリスに謝りながらも凜堂は小さな笑いを止めない。

 

「本当にどうした?」

 

「ごめんごめん。いやさ、考えてみたら可笑しくって。試合前、あんだけ偉そうに星仙術の深奥を見せてやるとか言ってたあいつらが煙に隠れてせっせと術の準備をしているのかと思うとさ。可愛らしいというか可笑しいというか……」

 

「……言われてみれば確かに」

 

 笑いを堪えようとしている凜堂の横でユリスは納得顔で頷く。何となくだが、ユリスの中で黎兄妹の行動が故郷にいる孤児院の悪戯好きの子供たちと重なった。悪ガキ共がばれていることにも気付かないで悪戯の下準備を進めていく様は中々に愛嬌のあるものだ。

 

「確かにそうやって見てみると、何だか和むな」

 

「だろ?」

 

 二人仲良くほっこりとする星導館学園ペア。

 

「って、いかんいかん。和んでいる時では無いぞ、凜堂」

 

「ま、そりゃそうだ」

 

 慌てて正気を取り戻したユリスに倣って凜堂も表情を引き締めた。双子の行動がどれだけ可愛らしいものに見えても、今現在彼らが準備しているものは大人でも顔を顰めたくなるようなえげつないものだ。このまま指を銜えて煙が晴れるのを待っている場合では無い。

 

「意図的に外部の視覚を遮断する行為が星武憲章に違反している以上、沈雲はそこまで長く煙幕を続けはしないだろうが」

 

「だとしても、奴さんの掌で踊らされるってのも癪だぁね。やるぞ、ユーリ」

 

「やるぞと言ってもどうやってだ?」

 

 何も見えない上に相手が何をしているのか分からない以上、迂闊に手を出すことは出来ない。悔しげに唇を噛むユリスの肩に手を置き、凜堂はにやっと意地の悪い笑みを浮かべて見せた。

 

「逆に考えるんだ、ユーリ。見えないんなら見えるようにすればいい」

 

「見えるように? 何か沈雲の幻影を破る手立てがあるのか?」

 

「あぁ。この煙幕はあの性悪兄貴が生み出してるんだろ? だったら、その生み出している本人に煙が晴れたと思わせればいいのさ」

 

「思わせる? ……なるほど、そういうことか」

 

 そゆこと、と凜堂は棍の真ん中を両手で持ち、星辰力をチャージさせる。ユリスも凜堂同様に手元に火球を作り出した。普段と使う目的が違うため、慎重に星辰力を調節する。

 

「「いっせーの、せっ!」」

 

 二人はそれぞれの掛け声に合わせて足元に技を炸裂させた。骨の髄まで震えるような衝撃と爆音、爆風がステージ上に広がっていく。同時にさっきまでステージを呑み込んでいた煙幕が文字通り掻き消えた。

 

「よぉ、さっき振り」

 

 霧の中から現れた、驚愕を顔に張り付けている双子に凜堂はぴらぴらと手を振る。仕込みの最中だったようで、両者の手には何枚もの呪符があった。

 

「早速、続きと洒落込もうや!」

 

 また目晦ましをされては厄介と凜堂は双子が動くよりも先に打ちかかっていった。苛立ちを露わにしながら双子は左右に散って凜堂の一撃から逃れる。凜堂の視線は右へと避けた沈雲を追っていた。

 

「ちぃ!」

 

「させねぇよ!!」

 

 沈雲が何かをする前に凜堂は間合いを詰めながら棍を一文字に振るう。咄嗟に沈雲が放した呪符が空間を断つような一閃に引き裂かれる。沈雲は更に後ろへと跳んで凜堂の攻撃範囲内から脱した。

 

「種は分かってんだ。なら、種を潰せば仕掛けは発動出来ないよな」

 

 無惨にもばらばらになった呪符を踏み躙りながら凜堂は視線をちらっと後ろに向ける。炎を舞い踊らせるユリスが沈華を牽制しているのが一瞬だけ見えた。

 

「ふっ、やるじゃないか『切り札』。こんな品も捻りも無いやり方で僕の術を破るなんてね。呆気に取られて思わず術を解いてしまったよ」

 

「解いてしまった、だぁ? おいおい、言葉は正しく使えよ『幻影創起(げんえいそうき)』」

 

 愉快気に笑いながら凜堂は余裕を見せつけようとする沈雲に言葉を突きつける。

 

「お前が術を解いたんじゃなくて、俺とユーリに術を解かされたんだろ?」

 

 凜堂の言葉に沈雲の顔が心底忌々しそうに歪む。それは図星を突かれたことを如実に表していた。

 

『ステージの上では目まぐるしく状況が変化しています! 濃い煙幕で何も見えなくなったかと思えば今度はとんでもない爆風と爆音が煙幕を吹き飛ばしました! チャムさん、これって何が起こってるんでしょう?』

 

『まず、吹き飛ばしたって表現は正確じゃないっす。さっきの煙は沈雲選手が星仙術で作り出した幻影、物理的に吹き飛ばすのは不可能っす。煙を晴らすには発動した本人である沈雲選手が自分の意思で消すか、もしくは沈雲選手の意識を断ち切るの二択に絞られるっす』

 

『成る程。現在、沈雲選手が高良選手と対峙しているのを見るに沈雲選手は自分の意思で術を解いたということでしょうか?』

 

『自分で解いた、というのとはちょっち違うっすね。さっきの爆発、高良選手とリースフェルト選手がやったんでしょうけど、あの爆発で発生した風と音が沈雲選手に煙が吹き散らされたと錯覚させたんだと思うっす。その沈雲選手のイメージがダイレクトに術に反映されて』

 

『煙は消えてしまったと』

 

『そういうことっす』

 

『戦うんなら正々堂々真っ向からやれやという星導館ペア! ステージ上では高良選手と沈雲選手、リースフェルト選手と沈華選手がそれぞれ一対一に分かれて戦いを繰り広げています。ここからどのような展開になっていくのか目が離せません!』

 

 図らずも男と女それぞれで分かれた形になるが、今のところ星導館の二人が試合を有利に進めている。仕込みを完成させる前に戦闘に引き出された上、完全に分断されてしまった今の状況では黎兄妹は自分達の持ち味を活かせずにいた。

 

 これが凜堂とユリスの作戦だった。内容は至ってシンプル、『何かされる前に、二人が揃う前にさっさとぶちのめす』だ。黎兄妹の最大の強みである星仙術は本人達が手元で使うならともかく、ステージ上に隠して罠のように使うにはどうしても仕込みが必要になる。先の煙幕は凜堂の制限時間を削るだけでなくその仕込みをするための時間を稼ぐ役割もあったのだが、凜堂達に早々に晴らされてしまった。仕込みを半分も完成出来なかった上に一対一に持ち込まれたこの状況。双子は何時もと勝手の違う試合に苦戦を余儀なくされていた。

 

「二人同時に戦わせなければ勝てると思ったのかい? 舐めるなよ……!」

 

 思い通りに試合が進まないことに激しく苛立ちながら沈雲は印を結んで分身を生み出す。その数三つ。分身は『幻映創起』の最も得意とする幻術であり、外観で本体と分身を見分けることは不可能に近い。その上、どこぞのちゃちな人形使いと違って全ての分身に異なる動きをさせられるために対応するのは困難を極めた。

 

「舐める? お前らと一緒にするなよ!」

 

 だが、凜堂はそれがどうしたと言わんばかりに体が霞んで見えるほどの速さで四人の沈雲に肉薄し、纏めて薙ぎ払った。分身か本体かなんて知ったこっちゃないと言わんばかりの横薙ぎを沈雲は片腕で防ぐ。実体を持たない分身が一振りで上半身と下半身に分かたれる中、沈雲は防御ごと弾き飛ばされた。

 

「ぐぅ……!」

 

 防いだ腕がじんじんと痛む。憎々し気に視線を相手に向けた沈雲が見たのは微塵の慢心の無い双眸だった。

 

準々決勝(ここ)まで勝ち進んできた相手だぞ? 舐めたりなんて出来る訳がねぇだろ」

 

 そんなことをすれば負けるのは火を見るよりも明らか。だからこそ、凜堂とユリスは相手に勝ち目のある作戦を練り、全力で遂行しているのだ。

 

「本気でやってんだ。お前らみたいに相手を貶めて愉しむような性悪共に負けてたまるかよ」

 

 棍の先端を沈雲へと向ける。

 

「この試合に安全圏なんてねぇ。俺とユーリお前ら双子、同じ土俵の上での真剣勝負だ。俺達に勝ちたいんなら骨身削ってかかってこい!!」

 

 

 

 一方、女性陣の戦いは、

 

「あっつい!!」

 

「一対一に持ち込めば幾分か楽に戦えるとは思っていたが、ここまでとはな」

 

 顔擦れ擦れを掠めていく紅蓮の火球に慄く沈華をユリスはどこか呆れた様子で見据えていた。双子のコンビネーションが脅威になるなら二人で一緒に戦わせなければいいじゃないという愚直としか表現のしようがない作戦が笑ってしまうほど嵌ったことにユリスは戸惑いすら覚える。

 

 沈華が弱いという訳では決してない。ただイレーネ、宋や羅といった単純に強い者達と戦い、そして勝ってきたユリスにしてみると兄と協力出来ない状況にいる沈華が大した脅威に見えなかった。

 

「兄妹二人で相手を嬲る戦いに慣れ過ぎたな。差し出がましいことを言うが、もう少し一人で戦う時のことを想定した訓練をするべきだと思うぞ。『幻映霧散(げんえいむさん)』」

 

「好き勝手言ってくれるわね、『華焔の魔女(グリューエンローゼ)』!」

 

 怒りに顔を赤く染めた沈華の姿が消えるように見えなくなる。彼女お得意の『陰行』だ。姿は勿論のこと、気配や物音、果ては星辰力の流れまで隠してしまうというのだから驚きだ。沈華の『陰行』で隠されたものを見極めるには恐ろしいほどの集中力と見つけ出すための目がいるだろう。

 

「大したものだ。どこにいるのか分かったものではない」

 

 ただ、とユリスは視線を周辺に走らせる。ステージの所々に空間が不自然に捻じ曲がっていたり、靄がかかっている箇所がある。凜堂とユリスに散々引っ掻き回されたために自分はともかく、トラップとして設置した呪符までは完全に隠せなかったようだ。

 

「貴様は後回しだ。まずは目障りな紙切れから焼き払ってやる。咲き誇れ、『赤円の灼斬花(リビングストンディジー)』!!」

 

 ユリスの周りに幾つもの焔の戦輪が現れる。腕を一振りして指示を出すと戦輪はユリスを中心に高速で回り始めた。草でも刈り取るようにステージの上を飛び、徐々に範囲を広げながら隠された呪符を探し出していく。

 

 不意にユリスの背後で爆発が起こる。見えなくなっていた呪符の一枚を戦輪が焼き裂いたようだ。まさか一枚だけではないだろうとユリスは尚も戦輪を回転させ続ける。彼女の予想通り、ステージの至る所で爆発が巻き起こっていった。

 

(さて、どこから仕掛けてくる?)

 

 姿を隠した沈華を探してユリスは視線を右に左に走らせる。仮にも『冒頭の十二人(ページ・ワン)』。いくら宙に赤い軌跡を残すほどの速さで飛んでいるとはいえ、戦輪の間をすり抜けることくらい訳ないだろう。それにユリスは戦輪をかなり遠い場所まで飛ばしていた。もし、この瞬間に沈華が襲い掛かってきたら戦輪で迎撃するのは無理だ。

 

「考えても分からんか」

 

 ふと、凜堂ならばどうやって対応するのかという疑問がユリスの胸中に湧き上がる。一閃(いっせん)轟気(とどろき)”や“周音(あまね)”といった技で全方位に攻撃するのか、それとも……。

 

「……」

 

 徐に、無言でユリスは右斜め後ろに右手を突き出した。

 

「な、何で!? 今の私は見えないはずなのに!」

 

「勘だ」

 

 声だけの沈華にユリスは言葉短く答えた。

 

「『六弁の爆焔花(アマリリス)』」

 

「ば、爆!」

 

 ユリスの火球と沈華の呪符が同時に炸裂する。予め後ろに跳んでいたユリスは空中で爆風を受けるも、トリプルアクセルよろしくくるくると回転しながら優雅に危なげなく着地した。

 

「割と当たるものだな」

 

 凜堂の普段の様子を参考にした適当に勘でやってみる作戦が上手くいき、ユリスは驚くと同時にどこか満足そうだった。こんな重要な場面で何でそんな戦い方を思いつき、尚且つ実行したのかユリス自身分かっていなかったが、沈華を見事に迎撃出来たのでよしとしておいた。

 

「さて、仕切り直しといくか」

 

 小型の火球九発を傍らに控えさせ、ユリスは陰行を破られて姿を現した沈華と相対した。ユリスの六弁の爆焔花は呪符で相殺出来たので物理的なダメージはほとんど無いようだが、自分の陰行があっさりと破られたことで精神的にかなり追い詰められているようだ。ショックと怯えを隠し切れない様子で首を小刻みに振っている。

 

「そんな、私の陰行がこんな簡単に……」

 

「気持ちは分かるけど落ち込むのはは後回しだよ、沈華」

 

 背後からの声に振り返れば背中合わせになる形で双子の兄が立っていた。死に物狂いで凜堂を振り切って来たらしい。大きく荒い呼吸に合わせて上下する両肩がそれがどれほど困難なことかを物語っていた。

 

「悪い、ユーリ。仕留めきれなかった」

 

「謝るな、それは私も同じだ。何かされる前に早々に決着をつけるぞ」

 

 双子を挟むようにして二人は立っていた。ここまで試合を優勢に進めていたにも関わらず、二人の目に油断と慢心は微塵も見られない。

 

「その眼、苛々するなぁ」

 

 まるでお前達とは違うんだと言われているようで沈雲は歯噛みする。思い通りにならない試合展開と神経を逆撫でしてくる凜堂の目。沈雲の怒りは限界に達しようとしていた。

 

「沈華、あれを使うよ」

 

 怒気が臨界点を突破する一歩手前の精神状態で沈雲は切り札を使うことを決めた。双子の妹が驚きながら兄を振り返るも、かなり追い詰められている現状を打破するにはそれくらいのことをしなければと腹を括る。

 

「何するつもりか知んねぇが」

 

「その前に終わらせさせてもらうぞ!」

 

 双子が印を結ぶのに一瞬遅れながらも凜堂とユリスは相手との距離を一気に詰めた。凜堂は沈雲の頭部に向けて棍を振り下ろし、ユリスは沈華の胸元で輝く校章を狙って細剣を突き出す。

 

「「急急如律令、勅!」」

 

 二人の得物が黎兄妹を完璧に捉えたかのように見えた刹那、双子の体が大量の呪符となって宙を舞っていた。

 

「何だと!?」

 

「こいつは……!」

 

 ステージ上に何百枚という呪符が広がっていく光景に星導館ペアは驚きを露わにする。凜堂とユリスが打ち掛かる極短い時間の内に双子は協同して呪符で分身を作り上げたのだ。

 

「本当、コンビネーションと星仙術の練度は半端じゃないな」

 

『確かに君の言う通りだよ、『切り札』』

 

 聞こえてくる沈雲の声に二人は瞬時に背中合わせになって周囲を見回す。陰行で隠れているらしく、姿は見えず声だけが何処からともなく漂ってきた。

 

『準々決勝まで駒を進めてきた敵を相手に油断など愚の骨頂。ましてや序列一位、全力を以って当たらなければ勝てないというのはさっきまでの戦いで骨身に沁みたよ』

 

 だから、と沈雲の声がワントーン低くなる。

 

『『こちらも奥の手を使うとしよう』』

 

 双子の奥の手という言葉に二人は得物を握る手に僅かに力を込めた。

 

「奥の手だと? 一体……」

 

「まぁ、奴さん方の性格から考えて碌なもんじゃ無いのは確かっちぃ!」

 

 突如、眼前に現れた呪符に凜堂は舌打ちをしながら棍を叩き付ける。ステージに押さえつけられた呪符が何某かの効果を発する前に凜堂は棍に星辰力を通して呪符を粉々にさせた。

 

「本当に面倒だな、この陰行というやつは!」

 

 何もなかったところから迸った稲妻をユリスはギリギリのところで避ける。制服に小さな焦げ跡がつくが、ダメージは零だ。しかし、次から次へと撃ち出されてくる稲妻にユリスは後退させられ、相棒と離れ離れになることを余儀なくされる。

 

「ユーリ! って、いい加減、うざってぇ!!」

 

 自分を囲むように現れる五つの光る球体。バチバチと音を立てながら紫電を放っていることから察するに攻撃系のものだろう。炸裂する前に球体を破壊しようと凜堂の棍が唸りを上げる。閃く打突が全ての球体をほぼ同時に貫いたが間に合わなかったらしく、球体は放っていた紫電をより一層強いものにしながら弾け飛んだ。

 

「ぐぅ!!」

 

 校章を破壊されないようにと凜堂は胸の前で両腕をクロスさせ、星辰力で全身を覆う。全方位から襲い来る爆風に歯を強く噛み合せて耐えようとするが、予想したよりも爆発の威力が弱い。拍子抜けするほど軽いダメージに凜堂は軽く戸惑いながら視線を四方に走らせる。爆発で起こった黒煙でほとんど何も見えない。

 

「攻撃じゃなくて目晦ましか!」

 

 凜堂の答えを肯定するように前後左右の黒煙から四人の沈雲が現れる。沈雲の分身は本当に見事なもので、どれが本物なのか凜堂は咄嗟に判断出来なかった。四人の内のどれか一人に混ざっているのか、それとも本体は沈華の陰行でまだ隠れているのか。一閃“轟気”で一緒くたに吹き飛ばすことも考えたが、チャージの時間が足りない。頭をフル回転させた凜堂が出した答えは上に跳んで逃れることだった。

 

「掛かったな、『切り札』!!」

 

 頭上から聞こえる勝ち誇った声。見上げてみると、ステージ天井のライトが放つ光の中に人影があった。沈雲だ。

 

(バーストモードの俺よりも高く跳んだ!? どうやって……さっきの爆発か!!)

 

 沈雲は爆風を利用してステージ高く跳び上がったのだ。上に逃れようとした凜堂はまんまと沈雲に嵌められたことになる。大きく腕を引いた沈雲がもう目の前まで迫っていた。

 

「はぁっ!!」

 

 防ぐ間もなく落下の勢いを加えた掌底が凜堂の額を直撃する。飛びかける意識を歯を強く打ち鳴らして無理矢理覚醒させ、凜堂は苦し紛れに沈雲の脇腹に蹴りを打ち込んだ。

 

「凜堂!」

 

「沈雲!」

 

 ステージに落下してくる二人をそれぞれの相棒が助けようと駆け出す。ユリスはギリギリのところで凜堂をキャッチし、沈華は呪符で風を起こして沈雲を受け止めた。

 

「大丈夫か!?」

 

「あぁ、どうにかな……」

 

 体を揺さぶってくるユリスに応えながら凜堂は頭を強く振って意識をはっきりさせる。少しぼんやりとするが、すぐにでも回復するレベルだ。しっかりとした動きで立ち上がった凜堂だったが、自分の顔に何かが貼りついてることに気づく。黎兄妹の使っている呪符がキョンシーよろしく顔の前で揺れている。さっきの掌底の際に貼られたようだ。

 

「ユーリ、離れ」

 

「遅い! (どう)!」

 

 ユリスを突き飛ばし、同時に呪符を剥がそうとする凜堂よりも早く沈雲が印を結ぶ。無駄と理解しながら凜堂はきつく歯を食い縛った。いくら凜堂でも零距離で爆発を喰らえば一溜りもない。

 

「そんな!!」

 

 悲痛な表情を浮かべながらユリスは尻餅をついた体勢で凜堂に手を伸ばす。持ち主の命を受けた呪符が光だし、哀れ凜堂は爆風の中に消えていく……ことはなかった。凜堂を襲ったのは爆発でも稲妻でもない。未だかつて体験したことのない強烈な眠気だった。

 

「な、んだ、こりゃ……」

 

 膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れそうになるも両腕をステージに突いてどうにか踏み止まる。そうしている間にも眠気は強さを増していく。右目を覆っていた黒炎が見る間に勢いを失っていき、それに比例して凜堂の全身から溢れていた星辰力も弱くなっていった。

 

「どうした、大丈夫か凜堂!? 凜堂!?」

 

 ユリスの呼びかけに反応せず、凜堂はどんどん目を虚ろにさせていく。意識を落とすギリギリ一歩手前でどうにか踏み止まっている状態だ。どうやっているかは分からないが、原因が凜堂の顔に貼られた呪符であることは確かだ。

 

「これか……!」

 

 呪符を掴み、無理矢理引き剥がそうとするもびくともしなかった。

 

「無駄だよ。それは僕たちの師、対『万有天羅(ばんゆうてんら)』用に独自に作った呪符だからね。そう簡単には剥がせないさ」

 

 ユリスが声のした方に視線を向ける。愉悦の笑みを浮かべた黎兄妹が並んで立っていた。勝利を確信した笑みを浮かべて二人を見下ろしている。

 

「名を夢導符(むどうふ)。文字通り、相手を夢へと導く呪符さ」

 

 聞いてもいないのに沈雲は得意げに語りだす。曰く、貼られた者を強制的に眠らせ、その者が心の奥底に秘めている願望を夢として見させるもののようだ。願望が強ければ強いほど効力は高まり、相手を夢の中に閉じ込め植物人間状態にすることも可能なようだ。

 

「あぁ、試合が終わったらちゃんと解除してあげるから安心してくれていいよ」

 

「……聞いてもいないのにペラペラと喋るものだ。奥の手だというのにそんなにも簡単に種を明かしていいのか?」

 

「構わないでしょ。だって、貴方たち詰んでるし」

 

 ケラケラと笑う沈華をユリスは胸中で大暴れする焦りを押し殺しながら睨み付けた。彼女の言う通りだ。意識こそ完全には失っていないがほとんど動けるような状態ではない凜堂。対して黎兄妹はそれなりのダメージを負っているとはいえまだ動ける。夢導符を貼られたのがユリスであれば凜堂が彼女を抱えて双子を相手取ることが出来たのだろうが、その逆は無理だ。

 

 実質、二対一の状況。相手がダウン寸前というならともかく、今の状態での勝利は絶望的と言わざるを得なかった。

 

「正直言って、夢導符で意識を完全に落とせないのは予想外だったよ。流石は序列一位といったところかな。でも、そこまでだ。彼は起きない。彼の願望は何かは知らないけど、余程強いようだ。万が一にも立ち上がる可能性はないさ」

 

「万が一にも、か。十分だな」

 

 ユリスの小さな呟きに双子は訝しげに眉を顰める。四つん這いの状態の凜堂の肩に腕を回し、逆の腕で細剣を構えた。相棒はダウン寸前、敵は健在。誰もがもう駄目だと思うだろう。だが、彼女は諦めていない。不撓不屈の闘志を目に宿し、気高く敵を見据える。

 

「例え可能性が那由他の彼方でも私はこの男を信じる!」

 

 そう約束したから。ユリスの力強い断言に双子は深い笑みを作った。

 

「はは、こんな状況でもそんな台詞が吐けるのか。いいね、沈華」

 

「えぇ、そうね。沈雲」

 

「「その心を踏み躙ってあげるよ」」

 

 双子の両手に現れる無数の呪符。ユリスが凜堂を守るように彼の肩に回していた腕に力を込めたその時、

 

「っ!」

 

 何かが彼女の体を駆け抜けた。強い衝撃が電気信号のように体の中を奔っていく。何が起こったのか理解が追いつかず、戸惑いながらユリスは瞬きをした。瞼が瞳を覆った一瞬、何かが見えた。

 

「これは、一体」

 

 突然のことに頭が働かない。もう一度瞬きをすると、再び瞼の裏に何かの光景が映った。

 

「……」

 

 ゆっくりと視線を前に向ける。黎兄妹にも同じことが起こっているようで、足を止めて目をぱちくりさせていた。彼等にもユリスと同じ現象が起こっているらしい。双子の攻撃という訳ではないようだ。彼らも何が起こっているのか分からない様子。

 

 三度瞬きをする。刹那に映ったのは自慢の相棒の姿だった。

 

「凜堂?」

 

 意を決し、ユリスはゆっくりと瞼を下ろす。すると、はっきりと見えた。どこか分からない部屋の中で呆然と佇む凜堂。そして彼を手招きする、食卓を囲む見覚えのない三人を。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと瞼を持ち上げた凜堂が見たのは見慣れぬ天井だった。いや、見慣れないがどこか懐かしさを感じる。頭の中に靄がかかっているようだ。ぼんやりとしながら凜堂は二、三度瞬きを繰り返す。

 

「ここは……本当にどこだよ!?」

 

 瞬きをしている内に意識がはっきりし、同時に記憶が洪水のように頭の中に流れ込んでくる。跳ね起きた凜堂は酷く慌てながら部屋の中を見回した。どっからどう見てもシリウスドームのステージではない。絵だったら学生の部屋なんてタイトルがつきそうな一室の中に凜堂はいた。

 

「俺、何でこんな所に。確か、双子の片割れに何かされて……ユーリは?」

 

 余りの状況の変化に頭が混乱する。考えても考えても答えは出ず、凜堂は頭を抱えた。

 

「何だ、何が起こって」

 

『凜堂、いい加減起きなよ~』

 

 不意にノックの音が部屋に響いた。ギョッとしながら凜堂が扉を見やると、ドアノブが回されて誰かが入ってくる。顔立ちの整った二十代の美女だ。凜堂はただただ目を見開きながら美女を凝視する。彼女には見覚えがあった。いや、見覚えがあるなんてものではない。忘れたことなど一度も無かった人物がそこにいた。

 

「あ、姉貴……」

 

「何、起きてたの? 返事くらいしてよね。それにしても珍しいわね、あんたが寝坊なんて。慣れない学園生活に疲れた? 早くしないと朝ご飯冷めちゃうよ」

 

 死んだはずの凜堂の姉、凛音(りおん)は悪戯っぽい微笑を浮かべ、くるりと踵を返してドアを閉めた。とんとん、と軽い足音が廊下から聞こえてくる。

 

「何で、何で姉貴が……それにここって」

 

 思い出した。ここはかつて凜堂が住んでいた家だ。幼き自分が家族皆と暮らしていた家。

 

 幼少の頃に住んでいた家だと自覚すると途端にどこに何の部屋があるのかが頭の中に鮮明に浮かび上がった。同時にどんな風に生活していたのかも。

 

「姉貴が俺のこと起こしに来て、それで一階に降りて顔洗って、それで……」

 

 記憶にある通りに部屋を出て、階段を下りていく。一歩一歩足を進める度に鼓動が早まり、体が熱を帯びていく。一階に降りた凜堂はそのままリビングへと向かった。

 

「……」

 

 曇りガラスが嵌め込まれた扉を前に立った。そうだ。自分はこの居間の中で彼らと一緒に……。

 

 意識しなくても聞こえるほどに強くなる鼓動。息が荒くなる。ドアノブを掴んだ手が小刻みに震える。それでもどうにか扉を開き、居間へと入った。

 

「お早う、凜堂」

 

「やっと起きたか、寝坊助め」

 

「まぁまぁ、夏休みなんだしこれ位は大目に見ようよ、父さん」

 

 絶対に有り得ぬ光景に凜堂はただただ立ち尽くした。そうだ、こんなものは絶対に有り得ないのだ。

 

「親父、お袋、姉貴……」

 

 自分を置いて逝ってしまった父、母、姉が仲良く食卓を囲んで自分を待っているなんて。

 

「なん、で、親父たちがここにいるんだ」

 

「何でって、ここは俺達の家だからに決まっているだろう。ほら、座れ。いくら夏休みが長いって言っても時間は限られてるんだ。お前が星導館に戻る前に聞きたいことや話したいことが山ほどあるんだ」

 

 父、凛夜の言葉に凜堂は雷に打たれたような衝撃を受けた。そして理解した。目の前の光景は何なのか。そして自分は今どうなっているのか。つまりはそういうことだ。

 

「あんたがアスタリスク(向こう)に行ってる間、こっちは大変だったんだから。母さんが凜堂はどうしてるか、凜堂はどうしてるかうるさいのなんのって」

 

「もう、それは言わないでって言ったでしょ」

 

 ニヤニヤと笑う凛音に母、凛は子供のように頬を膨らませた。

 

「……大丈夫だよ、お袋。俺、向こうでもちゃんとしてるから」

 

「そう。なら良かった。ちゃんと楽しくやれてるか、それだけが心配だったのよ」

 

 俯く凜堂に凛はにこやかな笑みを向ける。視線を上げずに凜堂は頷いた。

 

「楽しいよ。それに充実してる。友達もいるし、それに大切な人も」

 

 大切な人。そのワードに三人の動きが止まる。そして三者三様の反応をするのだった。

 

「え、ちょっと待って凜堂。何、大切な人ってもしかしなくても恋人、恋人よね? え、私って弟よりも遅れてるの? スロウリィなの?」

 

「あら~、大変。お赤飯炊かなくちゃ」

 

「そうか。もう、お前もそんな年になったんだな……子供の成長は早いな」

 

 聞こえてくる三人の声。そのどれもが間違いなく記憶の中にある家族のそれだった。あれほど望み、焦がれたものが目の前にある。だというのに凜堂は何も感じなかった。ただひたすら虚しく、苦しい、悲しい。

 

「これは是が非でも話を聞かんとな」

 

「うん、俺も親父たちに話したいこと、聞いて欲しいことがたくさんあるんだ……でも、ごめん。無理なんだ」

 

 震える声を絞り出し、凜堂はどこからともなく現れた煌式武装(ルークス)の発動体を握り締める。起動した煌式武装が顕すのは純白の刃、漆黒の文様。

 

「だって、ここは夢の中だろ?」

 

 凜堂は分かっていた。ここは現実などではなく、自分にとって心地よい、望むがままの世界を見せる夢の中だということを。死んでしまった家族と話したい。そんな凜堂の望みが反映されたのがこの世界だ。現実じゃない、夢幻の世界。どれだけこの世界で望みを叶えようとも、それは叶えたことにはならない。妄想の中で繰り広げられる愚かで虚しい、救いようのない一人遊びだ。

 

「俺が話したいのは現実の親父たちだ。でも、それは無理だ。だって皆、死んでるんだから……もう、いないんだよ……!」

 

 溢れ出そうになる嗚咽を堪えながら凜堂は魔剣をゆっくりと振り上げる。視線を上げ、涙で滲む視界にもう会えないはずの人達を映す。皆が悲しげな、でも誇らしそうな表情をしていた。

 

「ごめん、もう行かなきゃ。俺を待ってくれる人がいる」

 

「あぁ、行って来い」

 

 流れる涙をそのままに魔剣を大上段に構えた凜堂に凛夜は頷いた。

 

「『黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)』ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 魔剣は斬り裂く。少年の未練、そして夢を。かくして目前に迫った己が望みに背を向け、少年は現実へと戻った。

 

 

 

 

『これはどういうこと何でしょうか、チャムさん。さっきから一分ほど時間が経っておりますが両学園の選手、ピクリとも動きません』

 

『う~ん、高良選手に関しては分かるんすよ。沈雲選手が精神に作用する呪符を使って意識を断とうとしてるんだと思うっす。でも、他の三選手までが動かくなった理由が……』

 

 さっきからピクリとも動かない、ステージ上の選手達に実況と解説、そして観客たちは戸惑いを露わにしていた。実況の言う通り、一分間ずっとこの調子だ。凜堂が動かなくなり、星導館学園大ピンチという場面で試合が停滞している。このまま黎兄妹が蹂躙するのか、それともユリスが奇跡の大逆転を見せるのか。そんな美味しい展開からのこのお預けである。観客の中からちらほらとブーイングが出始めていた。

 

『しかし、これは困りましたね。このままでは試合にならないって、チャムさん! 今、リースフェルト選手が動きませんでしたか!?』

 

『え、マジで!?』

 

 実況の声に観客の目が一斉にユリスへと注がれる。注意深く見なければ分からないだろうが、確かに実況の言う通りだった。

 

「あれは、凜堂の」

 

 瞼を持ち上げ、ユリスは凜堂を見やった。夢導符が凜堂に見せた夢、その全てを見た訳ではない。だが、プライベートトレーニングルームで凜堂の血を吐くような独白を聞いていた彼女は全てを理解した。夢の中で凜堂が何を見て、何を聞いたのか。何を思い、何を感じたのか。そして確信した。彼がどんな選択をするのかを。

 

「凜堂……」

 

 ユリスの確信を裏付けるように凜堂はゆっくりと目を開いて立ち上がった。傍らに立つユリスを見ようとはせず、無言で夢導符を顔から剥がす。実況が何かを叫び、追従するように観客が歓声を上げている。

 

「いや、驚いたよ。まさか、こんな短時間で僕達の夢導符を破るなんて」

 

「本当に規格外ね、貴方」

 

 ユリス同様に凜堂の夢の中から戻って来た双子は心の底から感心したように凜堂を見ていた。二人の目には紛れもない賞賛の色が湛えられていた。

 

「あれは何だ、貴様らの仕業か?」

 

「さぁ? 少なくとも僕達は何もしてないさ。考えるに『切り札』の莫大な星辰力が空気を伝達して彼が見ていた者を僕達に見せたのかもね」

 

 それにしても、と沈雲は笑みを浮かべる。相手を蔑み、甚振り嬲るあの笑みだ。

 

「随分と可愛らしい夢を持ってるんだね、『切り札』。あれだけ夢導符が強く発動したからどれだけの大望かと思えば、まさか家族と会って話がしたいなんて。ホームシックかい?」

 

「何だと?」

 

 反応を示さない凜堂に代わってユリスが剣呑な声を上げる。クスクスと嘲笑する沈雲に続いて沈華も口を開いた。

 

「家族に会いたいなら、会いに行けばいいじゃない。簡単よ。この試合を放棄して回れ右してお家に帰ればいいんだもの。お父様やお母様、お姉様に存分に甘え」

 

「黙れぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 沈華に最後まで言わせることなく、ユリスは爆発した怒りを絶叫に変えて巨大な火球と共に双子へと叩き付けた。ステージ天井にまで達しそうな巨大な火柱が熱風と大量の火の粉を吐き出しながら立ち上がる。

 

「おいおい、何を怒ってるんだい、『華焔の魔女』? 沈華、君は分かるかい?」

 

「いいえ。分からないわ。だって、私たちは本当のことを言っただけだもの」

 

「黙れと言ったのが聞こえなかったのか!?」

 

 呪符でユリスの攻撃を防いだ双子は変わらず笑みを浮かべる。彼らの笑いは唯でさえレッドゾーンに突入していたユリスの怒りを更なる危険領域へと踏み込ませようとしていた。

 

「何も知らない貴様らがこいつの夢を笑っていいと思っているのか!?」

 

「知らなくて当然さ。僕達は『切り札』について何も知らないんだし。それに悪いのは笑われるような夢を見る彼だろう……あぁ、もしかして彼は家族に迎えに来てもらわないと家に帰れないのかい?」

 

「それは大変! 今すぐここに誰かを呼んであげなくちゃ!」

 

 肩を小刻みに震わせ、凜堂をひたすらあざ笑う二人。

 

「貴様ら……!」

 

 視界が真っ赤に染まったのではないかと錯覚するような怒りにユリスは血が滲むほど拳を握り締める。頭の中を占めるのはあの双子を如何にして黙らせるかだけだった。

 

「もういい。こんな屑共はさっさと黙らせるに限る。行くぞ、凜堂……凜堂?」

 

 さっきから一言も喋らない相棒を振り返る。そしてユリスは氷漬けにされたかのような寒気を覚えた。

 

「……」

 

 何も言わず、凜堂は双子を見ていた。普段の彼とは程遠い底の見えぬ深淵のように暗く淀んだ双眸。ゆらゆらと、自分の意思ではない何かに動かされるように双子へと歩んでいく。その姿に、感じた寒気にユリスは覚えがあった。これはイレーネが『覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)』に体を乗っ取られた時に感じたものと同じ、いや、それ以上に悍ましく危険なものだ。

 

「おい、凜堂! しっかりし、きゃっ!」

 

 凜堂に突き飛ばされるも、ユリスはどうにか倒れずに踏み止まった。もう一度、凜堂の名を叫ぶように呼ぶ。しかし、凜堂が振り返ることは無く、双子へと視線を向けていた。

 

 

 

 

(俺の夢を嗤ったのは誰だ?)

 

ーあいつらだよ。目の前にいるあいつら!ー

 

(許さない)

 

ー許さないんならどうする?ー

 

(消してやる。この世から、跡形もなく、痕跡すらなく)

 

ーその為に力が必要だよね?ー

 

(そうだな)

 

ー欲しい?ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(     ヨ     コ     セ!!!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」 

 

 その日、世界は龍の咆哮を聞いた。




 タイトルから分かるとおりFGOにガッツリと嵌った大馬鹿野朗です。そろそろ自分の懐と上手く付き合えるようにならんといかんな……巌窟王は無理だったけど邪ンヌは来てくれました。やったね!




 こんなくっそ下らない自分語りは置いといて、読んでくれた方たちのほとんどが抱くであろう疑問にお答えします。

 Q.黎兄妹はこんな弱いの? 

 A.この二人の強さってコンビネーションやら仕込やらが前提だし、そこを崩されたらかなり脆いと私は思うのです。


 感想は近い内に返します。期待しないで待っててください。
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