学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男 作:北斗七星
「んげ」
凜堂がその場面に出くわしたのは全くの偶然だった。寮への近道を探そうとして、学園の中庭を抜けていった結果である。
星導館学園の中庭は結構な広さがあり、普通に公園といっても納得してしまいそうなほどのものだった。樹木もきちんと手入れがしてある。これで遊具などがあれば、完全に公園と言っていいだろう。
ふと、凜堂は若い男の怒鳴り声を聞いた。何事かと思い、声のした方に向かうと、そこには小さな四阿があった。その四阿で凜堂は四人の人物と遭遇する。その内の三人は男子生徒で見覚えが無かったが、残りの一人は忘れたくても忘れらない人物だった。ボンバーガールこと、ユリスだ。ちなみに凜堂のんげ、という発言はユリスを見つけたために出てきたものだ。
「お前、何故ここに?」
ユリスの問いに凜堂は偶然、と素っ気無く答えながらユリスに詰め寄っている三人の男子を観察する。中央に立っているリーダー格と思しき男子は大柄な体躯に相当な威圧感を併せ持っていた。その両隣にいる少し太めの男子と痩せ型の男子はいかにも取り巻き、といった雰囲気を出している。
「あぁ~、俺はただの通りすがりだ。何やらお取り込み中のようだし、さっさと失礼させてもらうぜ」
関わり合いになるのは面倒と判断し、凜堂はさっさとその場から立ち去ろうと踵を返した。しかし、そこで予想外の事態が起こる。
「あぁっ! レスター! こいつだよ! 例の転入生って!!」
「なんだと……?」
どうやら凜堂のことを聞いていたらしく、太めの男子は凜堂の背中を指差す。背後から聞こえてくる足音に凜堂は足を止め、内心でため息をつきながら振り返った。目の前にはレスターと呼ばれたがっしりした男子が立っていた。改めて近くで見ると、相当にでかいことが分かる。二メートルはありそうだ。凜堂は黙って顔を上げた。
「……」
無言でこちらを見下ろしてくるレスターと視線がかち合う。視線に物理的な威力があったとすれば、要塞すらぶち抜きそうなほどの目力だ。しかし、凜堂はそれを気にする様子も無く、ユリスへと目線を動かす。
「おい、リースフェルト。誰この人?」
「……レスター・マクフェイル。うちの序列九位だ」
すなわち、ユリスと同じ
「こんな……こんな小僧と戦っておいて、俺とは戦えないだと……」
僅かな沈黙の後、レスターは握り拳を震わせながらユリスへと振り返った。既に凜堂のことは眼中に無い様子。
「ふざけるな!! 俺は絶対にお前を叩き潰すぞ! どんな手を使ってもな!!」
ユリスに迫ろうとするレスターの背に凜堂は一言だけ囁いた。
「だっせぇ」
ピタリとレスターの動きが止まり、ゆっくりと回れ右をして凜堂へと向き直った。その形相たるや、地獄の鬼でも泣きながら逃げ出しかねない迫力を放っている。
「今、何て言った?」
こめかみの青筋をひくつかせながらレスターは凜堂の胸倉を掴んだ。身長差もあって、軽く持ち上げられる形になっているが、凜堂は臆する様子もなく口を開く。
「だっせぇって言ったんだよ、この単細胞の塊。手前にどんな事情があるのか知ったこっちゃねぇが、今の自分を客観的に見てみろよ。二人の取り巻き連れて女子に詰め寄ってる。同じ男として心の底から恥ずかしいね」
オブラートに包む気など微塵もない辛辣な物言いだった。凜堂の歯に衣着せない言葉に更に激昂するかと思いきや、レスターはハッとした表情を作る。
「レスターさん、落ち着いてください! さすがにここじゃ……」
痩せた方の男子が必死でレスターの腕に齧りついていた。
「ちっ!」
小さく舌打ちし、レスターは突き飛ばすように凜堂を放した。燃えるような目で凜堂を、それからユリスを睨んだ。
「俺は諦めねぇぞ。絶対に手前に俺の実力を認めさせてやる……!」
吐き捨てるように囁きながらレスターは四阿から出て行った。小太りの男子が慌てて追いかけ、痩せ型は二人に一礼してからその後に続く。
「やれやれだな……おい、大丈夫か?」
レスター達が完全に見えなくなってからユリスは小さく嘆息し、それから凜堂へと歩み寄った。問題ない、と返しながら凜堂はレスターに掴まれて乱れた服装を正す。
「大丈夫そうだな。すまなかったな、変なことに巻き込んでしまって」
「別にお前が巻き込んだわけじゃないだろ。偶々、俺がここを通りすがって、お前等と遭遇した。そんであいつに絡まれたってだけの話だ……随分とお前にご執心みたいだな、あのデカ物」
レスターとユリスの話を全て聞いていたわけではないが、それでもさっきの態度だけでもレスターがユリスに対して並々ならぬものを抱いていることは容易に理解できた。
「簡単な話だ。私は過去の戦闘でレスターを三度退けている。これ以上はいくらやっても無駄だと判断したから、レスターの決闘を断っている」
それだけのことだ、ユリスは軽く両手を挙げる。大方、女性であるユリスに負けた自分を許せないのだろう。女々しい限りだ。
「お前が強いのかあいつが弱いのか……いや、前者か」
仮にも
「そもそも、序列なんて言うほどあてにはならん。『
相性も重要なファクターになるしな、と続けながらユリスは凜堂を真正面から見据える。当の本人はとぼけた表情を浮べるだけだった。
「そう言えば、私もお前に一つ聞きたいことがある」
「どうぞ、何なりとお聞きください。
凜堂はわざとらしく、仰々しい仕草でユリスにお辞儀して見せた。馬鹿にされたと思ったのか、少しだけ表情を強張らせるが、ユリスは問うべきことを口にした。
「今朝の決闘でお前が使った技……一閃何たらだったか? あれは何だ?
「
質問に疑問系で返すな、とユリスは呆れた表情を浮べながら凜堂にデコピンを放った。んなこと言われてもねぇ、と凜堂は困った様子で額を擦る。
「俺もそこまで深く考えて使ってるわけじゃないしな……ま、
「そうか……しかし分からんな。何故、わざわざ
慣れだよ、と凜堂は腕を組む。
「物心ついた頃から俺の周りには煌式武装が無かった。だから煌式武装を使わないで修行をしていた。そしたら何時の間にか煌式武装よりもただの棒の方が手に馴染んでた……それだけのことさ」
すらすらと語る凜堂。嘘をついている様子は無い。煌式武装が無いという状況がピンと来ないのか、ユリスは凜堂の話に頷きながらも首を傾げていた。
「俺も聞きたいんだが、お前は何で
「知っているのか? まぁいい。確かに私はリーゼルタニアの第一王女だ。しかし、そんなことは関係ない。私は私の欲しいもののために
凛然とした、強い意志を秘めた声だった。
「ふぅん。お前の欲しいものって何だよ?」
何気なく訊ねてみる。踏み入ったことなので、凜堂は返事は期待していなかった。だが予想外なことにユリスはあっさりと答えてくれた。
「金だ」
「……へぇ」
「私には金が必要なのだ。そして金を手に入れるのならここで戦うのが一番手っ取り早い」
金ねぇ、と囁きながら凜堂は疑問を禁じえずにいた。
(一国のお姫様が金?)
常識的に考えて、お姫様というものは裕福なはずだ。そのお姫様が何故……? と考えたところで凜堂は首を振る。ユリスにはユリスなりの金が要る事情がある。それを詮索するなど、野暮を通り越して下卑の極みだ。
「余り時間の余裕も無いからな。区切りもいいし、今シーズンの星武祭を全て制覇するのが私の目標だ」
「それって……」
グランドスラム。それがどれだけ難しいことなのか。星武祭に興味のない凜堂だって知っていた。
「手始めに
星武祭の賞金は出場者が獲得したポイントに応じて決定するが、一度でも優勝すれば一生を遊んで過ごせるほどの賞金が出ると言われている。ふと、凜堂の頭の中で今朝方、クローディアがユリスに向かって言っていたことを思い出す。
『
「なるへそ。だからパートナーを探してるのか」
鳳凰星武祭はタッグ戦。当たり前のことだが、ユリス一人で出場することは出来ない。
「う……ま、まぁそうなるな」
途端、強い意志を映していた顔が曇る。どうやら、パートナー探しはかなり難儀しているようだ。尤も、ユリスの性格上、パートナーを見つけるのはかなりの難易度だろう。
「べ、別にまだ私のパートナーが見つかっていないのは私に友人がいないからではないぞ? いやまぁ、確かにこの学園には友人と呼べる者は一人としていないが……とにかく、単純に私の求めるレベルにまで達している者がいないだけだ」
それはさぞかしハードルが高そうだ。
「で、お姫様はどんな相方をご所望で?」
「そうだな……まず私と同じくらいの戦闘能力、というのは流石に高望み過ぎるから、せめて冒頭の十二人クラスの実力を持っていて、頭の回転が速くて、強い意志と清廉潔白で高潔な精神を秘めた騎士のような人物だな」
それを聞いて凜堂は確信する。この自分の目の前に立っている薔薇色の少女は、自分とは最も縁遠い場所に立っていると。少なくとも、凜堂自身はそう考えていた。ま、頑張って、という凜堂の欠片も心の籠ってない声援にユリスは大きく頷く。
「そろそろエントリーの締め切りも近い。贅沢も言ってられんな」
自分に言い聞かせるように呟き、ユリスは鞄を持って立ち上がった。
「さて、私はそろそろ寮に戻るが……そう言えば、お前はどうしてこんなところにいるんだ?」
「さっきも言ったろ。偶々、通りすがっただけだ。俺も帰るとするさ」
くるりとユリスに背を向け、凜堂は四阿を出ようとするが、不意に足を止めた。不思議そうにユリスがその背中に視線を送っていると、ボソリと囁かれた言葉が聞こえてきた。
「……道が分からん」
一瞬、ユリスはポカンとした表情を作り、
「ぷっ、はははは!」
次の瞬間、小さく吹き出し、腹を抱えて笑っていた。
「笑わないでくれませんかねぇ、お姫様」
頭を掻きながら振り返る凜堂。多少、視線をきつくしてユリスを睨んでみるも、彼女に笑い止む気配は無い。暫くして、すまんすまん、と謝りながらユリスは呼吸を整えながら目尻に浮かんだ涙を拭った。
「いやしかし、お前は本物の馬鹿なのか? 今朝、あんな目に会ったんだから、案内図を確認するなり、誰かに道を聞いておくなりしておけば良かっただろうに」
クラスメイト達からの質問攻めでそれどころではなかったのだが、今更そんなことを言っても詮無いことだ。そもそも、この学園が広すぎるのだ。それに、世間一般では浸透していないルールがここでは一般常識になっているし。そこまで考えたところで、何かを思いついたのか凜堂は景気良く指を鳴らす。
「おい、リースフェルト。早速、今朝の貸しを返して欲しいんだが」
「ん? 何だ?」
「俺に学園を案内してくれ。序に街のほうもやってくれるとありがたいんだが」
何? と凜堂の申し出にユリスは表情を曇らせた。そして、本気かと凜堂に問う。
「本気も本気だ。アスタリスク全部、とは流石に言わないけど、せめて星導館学園周辺の土地勘は鍛えたい」
そうしないと、おちおち外を出歩くことも出来ない。
「そんなことでいいのか? 今朝、不本意ではあるが私はお前に救われた。それは決して小さくない借りだ。それを案内なんてものに使ってもいいのか? 普通、もっと別な事に使うだろう。例えば、冒頭の十二人としての私の力を借りるとか」
「つまり、戦力としてお前さんの力を借りるってことか?」
「そうだ」
「……見くびるなよ、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト」
「っ!!」
凜堂の雰囲気ががらりと変わる。その迫力たるや、数々の猛者達と戦ってきたユリスを反射的に一歩退かせるほどのものだった。
「お前が俺をどんな風に評価してるかは知らねぇが、あんまり俺を舐めるな。勝負事なら、お前の力を借りないで、自分で白黒はっきりさせるさ。お前の力を借りるなんて情けないこと、死んだってしねぇよ」
抜き身の刃の如き眼光がユリスを射抜く。それはユリスに恐怖を覚えさせ、彼女の足を動かなくさせた。
(気圧されている? 私が!?)
今朝、決闘した時とはまるで別人のオーラを放つ凜堂を前にして、彼女は圧倒されていた。彼の纏っていた軽薄な雰囲気は鳴りを潜め、降り注ぐ雨のように重圧をユリスへと叩きつける。
「ま、そんな面倒なことにならないのが一番だけどな」
唐突にユリスを押さえ込んでいたプレッシャーが掻き消える。見れば、凜堂から放たれていた威圧感が綺麗さっぱりなくなっていた。本当に同一人物なのかと疑いたくなるレベルの変貌ぶりだ。少しの間、呆然としてからユリスは大きくため息を吐いた。
「お前という男が全く分からない……」
「別にいいんじゃねぇか? 誰かに理解して欲しいなんて欠片も考えちゃいねぇし。で、案内してくれるのかしてくれないのか? してくれないならそれで構わないぜ。別の奴に頼むだけだし」
「い、いや待て。誰もしないなどとは言っていない。借りは借りだ、キチンと返すさ。学園の案内は明日の放課後、街の案内は……どこか休日の予定を空けておこう」
「そうか。ありがとよ。んじゃ、早速一つ教えて欲しいんだが……男子寮へはどこからが近道なんだ?」
(……本当に読めない男だ)
雲のように飄々としているかと思えば、騎士のように誇り高い一面を見せる。なのに、どこか抜けた部分がある。どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか全く分からない男。ただ一つ言えるのは、ユリスが凜堂に抱いた興味が大きくなったということだけだ。
凜堂が男子寮についた頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。ユリスから近道を聞いていなければ、彼の帰宅時間は冗談抜きで深夜になっていただろう。
「確か、二一一号室だったな」
今度はきちんと案内図を確認する。クラシックな造りの女子寮と違い、ごく普通のマンションタイプの男子寮の廊下を歩いて部屋へと向かう。ユリスとの決闘の話が広まっているためか共有階にいる中等部や大学部の生徒が好奇に満ちた目で見てくるが、凜堂はその悉くを無視する。やがて、凜堂は部屋の前に辿り着いた。『高良凜堂』と書かれた真新しいネームプレートを確認し、扉を開ける。
「よぉ、遅かったじゃん」
「色々あってな」
部屋の中に入ると、ベットの上に寝転がった英士郎が凜堂を出迎えた。その部屋は凜堂の予想よりも広く、十畳程度はあった。そして備え付けのベットと机。ベットの上には凜堂のバックがポツンと置かれていた。
「荷物はそれだけか? 結構、少ないんだな」
「そういうお前こそ」
新聞部の資料と思しき書類などが置かれた英士郎の机を指差す。書類の数こそ多いが、それだけだ。
「無趣味なもんでね。やることと言ったら、部活動くらいしかないのさ」
「そんなもんか……あぁ、その新聞部に聞きたいことがあるんだが」
何だよ? と首を捻る英士郎に凜堂はレスターのことを訊ねた。
「レスター? レスター・マクフェイルのことか?」
「あぁ、多分そいつのことだ」
「なら『
英士郎は上半身を起こすと取り出した携帯端末を操作し、凜堂にも見えるように大きめの空間ウィンドウを呼び出した。そこに映っていたのは、紛れも無くさっき中庭で出会った男子生徒だった。
「レスター・マクフェイル。星導館学園一年で序列九位の
英士郎の口からスラスラと出てくる情報に凜堂は感心したように声を上げる。
「この辺は普通にネットで拾える情報だな。そっから先を知りたいってなると、それはまた別の話になってくるけどな」
「あ? そりゃどういう……」
首を傾げるが、すぐに合点がいったのか凜堂はポンと手を打つ。それから親指と人差し指で丸を作った。
「
「本当に察しがいいな、お前。そ、俺みたいに星武祭を諦めた連中は、こうやって小遣いを稼いでるのさ」
「諦めた、か」
そう言った連中は星武祭以外のやりがいなり、稼ぎ方を見つけて学生生活を送っているそうだ。例えば、英士郎の所属している新聞部などの広報系の部活は情報や映像などを生徒や外部の報道各社に売ったり、他には煌式武装のカスタマイズ請け負ったりなど様々だ。
「他にも、有力学生の取り巻きになるって選択をする奴もいるな。特に冒頭の十二人クラスになると、おこぼれの旨味が多い」
「取り巻き? そういやあのマクフェイルの奴にもいたな」
こいつらだな、と英士郎は凜堂の言葉に二人の学生の情報を空間ウィンドウに表示した。片方は小太りで、もう一人は痩せ型だ。紛れも無く、レスターの取り巻き二人だ。成る程、確かに言われてみればその卑屈な目つきからは覇気が感じられない。この二人も諦めた学生なのだろう。
「痩せてるのがサイラス・ノーマン。一応、
「大したもんだな」
冒頭の十二人のような有力者ならとかく、その取り巻きの生徒などよく把握しているものだ。感心した目で凜堂は英士郎を見ていた。
「そうだ。もう一つ聞きたいことがあるんだが、マクフェイルとリースフェルトって過去に戦ったことがあるのか?」
「確かにレスターの奴はお姫様に何回か負けてるな。にしても、随分とお姫様にご執心だな、お前。もしかして一目惚れでもしたか?」
「幸か不幸か、俺にあのお転婆プリンセスをエスコートするだけの器量はねぇよ」
「ま、あのお姫様をエスコート出来る奴なんてアスタリスクの中でも数えるくらいしかいないだろうな。いいぜ。本当は有料だけど、転入祝いってことでロハで教えてやるよ」
くくく、と小さく笑いながら英士郎は指を動かし、別の空間ウィンドウを開いた。そこに映っていたのは舞うように炎を操る薔薇の少女と、巨大な戦斧を振り回す巨漢の男子だった。二人は空間ウィンドウの中で戦いを繰り広げている。どちらが勝っているかは、論ずるまでもなかった。
「こいつは去年の公式序列戦だ。当時、レスターは序列五位。お姫様は序列十七位だ」
つまり、ユリスはこの試合でレスターを打ち破り、晴れて
「リースフェルトに負けたのが納得出来てないってとこか」
「あぁ。実際、レスターはこの後に二回、お姫様に公式序列戦で挑んで、見事に負けてるな」
英士郎のいう公式序列戦とは一ヶ月に一度行なわれる学園選抜試験のことだ。決闘は双方の合意の下で成り立つので、戦う気が無ければ拒否し続けることが出来る。一度、上位にランクインした生徒がその地位を守るため、逃げ続けることを阻止するのにこうして一ヶ月に一度は戦わなければいけない仕組みになっているのだ。原則、公式序列戦では序列が下位の者から指名された場合、拒否することは許されていない。
「もっとも、同じ相手、同じ序列に挑戦出来るのは二回までだ」
「ってことは、もうマクフェイルはリースフェルトを指名することは出来ないのか」
レスターがユリスと戦うには決闘以外に方法がないということだ。尤も、ユリスの態度から考えるに、それはかなり険しい道のりとなるだろう。
「レスターはプライドが高い上に気性も荒いからな。どうしてもやり返さなきゃ気が済まないんだろ。無理だと思うけどな」
お前はどう思う? と英士郎は携帯端末をポケットに戻しながら凜堂に訊ねる。
「どうだろうな。少なくとも、今のあいつじゃ無理だな。立ってるステージが違い過ぎる」
ユリスの瞳はレスターを映していない。彼女の見ているのは勝利などの分かりやすいものではなく、その遥か先にある遠いものだ。一方でレスターはユリスを、そして勝利しか見ていない。そこから抜け出さない限り、レスターがユリスに勝つことは未来永劫不可能だろう。
「ありがとよ、ジョー。お陰で色々と分かった。お礼に何か奢るぞ」
「お、マジか。んじゃ、遠慮なく奢ってもらおうかね」
出会って一日と経ってない二人だが、友人としての相性はかなり良いようだ。