学戦都市アスタリスク 『道化/切り札』と呼ばれた男   作:北斗七星

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黒き魔剣、そして……

 翌日、凜堂は純星煌式武装(オーガルクス)の適合率検査を受けるため、生徒会室を訪れていた。扉を開けると、笑顔のクローディアが凜堂を出迎える。

 

「お早うございます、凜堂。昨日は大変だったようですね」

 

「まぁな。大騒ぎにゃなるし、ジョーからは質問攻めされるし……」

 

 大変だったぜ、と肩を竦める凜堂。昨日、ユリスが襲われたことは既に風紀委員に通報してある。当然、生徒会長であるクローディアも事態を把握しているだろう。ちなみにネットニュース等にも話題として上がっていたが、あくまで『ユリスが何者かに襲われた』ということしか取り上げられておらず、一緒にいた紗夜のことは微塵も書かれていなかった。

 

(やっぱ、冒頭の十二人(ページ・ワン)と序列外の生徒じゃ扱いに相当な差があるんだな)

 

 ま、そんなもんだろ、と納得しながら凜堂は犯人を捕まえられそうか訊ねた。対して、クローディアは少しだけ難しそうな表情を作る。

 

「ん~、どうでしょう。風紀委員の人達も本腰を入れて捜査していますが、何分ほとんど手がかりが残ってないらしくて」

 

「ま、リースフェルトとサーヤを襲った連中も即行でどっか逃げたらしいからな。姿格好も黒ずくめってくらいしか分からなかったみてぇだし……一つ疑問なんだがロディア」

 

「何でしょう?」

 

「何で風紀委員なんだ? これって完全な犯罪だろ? 警察に任せといたほうがいいんじゃねぇの」

 

 凜堂の尤もらしい言い分にクローディアは困ったように首を傾げた。

 

「そこが少し難しいところでして。アスタリスクにも一応、警察に該当する組織、星猟警備隊(シャーナガルム)があるのですが、彼らは少し有能すぎるんですよ」

 

「と、言いますと?」

 

「星猟警備隊の警察権はアスタリスク市街地のみで発揮されるべきものであり、学園内に及ぶものではない、というのが各学園の考えでして」

 

 よっぽどのことがない限り、学園側は星猟警備隊を受け入れないそうだ。一生徒が謎の襲撃者に襲われたことはそのよっぽどの中に含まれないのか? と凜堂はやや呆れた風だったが、それはクローディアと論ずるべきことではないと何も言わずに口を閉ざす。

 

「探られると腹が痛いのはどこも同じという訳ですね」

 

 あっけらかんと言っていい台詞ではない。腹黒さもそうだが、目の前にいるこの美少女は胆力の方も並ではないようだ。

 

「私個人としては、警備隊にお願いしても構わないのですが、こればかりは私の権限で無理矢理にどうこう出来ることではありませんし。もう少し、ユリスが協力的だと打てる手も増えてくるのですが……」

 

「あの頑なさは異常だな。雨垂れも匙投げるっての」

 

 風紀委員に連絡こそすれ、ユリスはそれ以上の協力を頑としてせずにいた。誰の助けも必要ない、というのが彼女の言い分だった。風紀委員が警護をつけることが出来ると言っていたが、自分よりも弱い護衛など不要、とユリスはその申し出を一蹴している。

 

「きっとあの子は自分の手の中にあるものを守ることで精一杯なのでしょう。新しいものが入ってくると、今あるものがこぼれ落ちてしまう……そんな風に思っているのかもしれませんね」

 

「自分の手の中のものを守る、か……」

 

 一瞬、凜堂の瞳に敬意とも羨望ともつかぬ色が浮かんだ。しかし、それはクローディアが見咎める前に消えていた。

 

「はい。私も彼女の考えは尊重するつもりですが、それとこれとは話は別です。そこで凜堂にお願いしたいことがあるのですが」

 

「俺に?」

 

 自身の顔を指差す凜堂に頷きながらクローディアが身を乗り出そうとした時、荒々しくドアがノックされる。

 

「……あらら、タイミングの悪い。すみません、凜堂。今日はあなた以外にも来客がいらしたんでした。この続きは後ほど」

 

 言いながらクローディアは机の端末を操作して、扉を開いて来訪者達を迎え入れた。その人物達が顔見知りで、凜堂は僅かに眉を持ち上げた。それは向こうも同じで、揃って驚いた顔をしている。

 

「純星煌式武装の利用申請は色々と面倒なので、一度に済ませようと思いまして。こちらは……あら? もう皆さん、お互いをご存知ですか?」

 

「ま、色々あってね」

 

 流石にユリスとの因縁に巻き込まれたとは言えず、凜堂は適当にお茶を濁す。

 

「お、お前、何でここに?」

 

「さぁ、何ででしょう?」

 

 太った方の取り巻き、ランディがポカンとした顔で凜堂を指差す。おどけた様子で煙に巻く凜堂をレスターは不愉快そうに一瞥し、すぐに視線を逸らした。嫌われてるねぇ、と凜堂は小さく笑った。

 

「今回は凜堂とマクフェイルくんの二人に適合率審査を受けてもらいます。勿論、了承しているとは思いますが、そちらの二人は付き添いなので保管庫には入れませんよ?」

 

「あ、はい。勿論、了解してます」

 

 痩せた方、サイラスが赤べこのように何度も頷く。必要以上に卑屈なその様は少し異様だった。

 

「さっさと始めようぜ。時間が勿体無ぇ」

 

「短期は損気、と言いますが、そうですね。時間は有意義に使うべきですね。では、参りましょうか」

 

 クローディアは席を立つと、凜堂たちを先導するように生徒会室を出た。掃除の行き届いた廊下を歩きながら凜堂は純星煌式武装の貸し出しの手順についてクローディアに訊ねる。

 

「手順自体は簡単ですよ。希望する純星煌式武装との適合率を測定し、八十パーセント以上であればそれが貸与されます」

 

「……そんだけ?」

 

「はい。そんだけです」

 

 ほえぇ~、と気の抜けた表情をしながら凜堂は頭の後ろで両手を組む。もっと、複雑なものを想像していただけに何だか拍子抜けだ。

 

「ってか、んな簡単に生徒に貸し出していいわけ? ウルム=マナダイトってとんでもねぇ価値があんじゃねぇの?」

 

「はっ、何も知らないんだな。純星煌式武装を借り受けるのはそんなに簡単なことじゃねぇんだよ」

 

 嘲るように言ったのは凜堂の後ろを歩いていたレスターだ。何分、初めてなもので、と凜堂は薄く笑う。

 

「そもそも、誰でも彼でも希望すれば通るってわけじゃねぇ。序列上位者、それも冒頭の十二人に名を連ねてるレベルの奴に星武祭で活躍した連中、もしくは特待生くらいでなきゃまず無理だ。申請の段階で却下される。よしんば申請が通ったとしても、適合率が八十パーセント以上を示さなきゃ意味がねぇ」

 

 それに、仮に八十パーセントを超える純星煌式武装と巡り合えたとしても、それを使いこなせるかどうかは別問題だ。誰でも簡単に起動できる通常の煌式武装(ルークス)に比べ、純星煌式武装(オーガルクス)はクセが強い。それを扱える者はそう多くは無いだろう。

 

「随分、詳しいんだな」

 

「ふふっ、流石にチャレンジも三回目となると説得力がありますね」

 

 クローディアの言葉に得意げだったレスターの顔が歪む。へぇ~、と頷きながら凜堂は視線をレスターからクローディアへと移した。

 

「適合率の検査ってそんな何度も出来るもんなのか?」

 

「許可さえ下りれば何度でも。学園としても、宝の持ち腐れは勿体無いですからね」

 

 とはいっても、その審査が厳しい事に変わりは無いようだ。そんなこんなしている内に一行は高等部校舎の地下ブロックにある装備局へと足を踏み入れていた。地下、と銘打っているが、アスタリスクは人口島なので、正しく表記するなら水中ブロックなのだが、そんなことを気にする者はアスタリスクにはいない。

 

「あ、あの、この前はすみませんでした」

 

 白衣姿の職員が忙しそうに行きかう通路を興味津々で凜堂が眺めていると、背後から声がかけられた。振り返ると、レスターの取り巻きのサイラスが気の弱そうな笑みを浮かべている。

 

「レスターさんも悪い人ではないんですけど、その、気性の荒いところがある人なので……」

 

「別に気にしてねぇよ。正直言えばどうでもいいし」

 

 凜堂自身、レスターと積極的に関わるつもりは無かったので、心の底からどうでもいいことだった。

 

「ランディさんもあの調子ですから、また不愉快な思いをさせてしまうかもしれませんが……本当に申し訳ないです」

 

 そう言って、サイラスは深々と頭を下げる。

 

「それはお前が謝る事じゃないだろ」

 

 凜堂がサイラスの頭を上げさせたその時、前を歩いていたレスターとランディからお呼びの声がかかった。どうも、サイラスの力関係は三人の中で一番下らしい。

 

「……」

 

 慌てて二人についていくサイラスの後ろ姿を凜堂は胡散臭そうに見ていた。

 

 それから装備局の最奥にあるエレベーターの前でサイラスとランディと別れ、凜堂とレスターはクローディアに従ってさらに潜っていった。かなりの時間をかけて下っていたエレベーターが辿り着いたのはかなり広めの空間だった。見かけはトレーニングルームのようだ。

 

 片方の壁は六角形の模様がずらりと並んでいて、反対側の壁はガラス張りになっていた。その中では職員と思しき男女達が忙しなく動いていた。取り巻きの二人もそこで待機している。

 

「先にやらせてもらうぜ。いいな?」

 

 クローディアは凜堂を見る。凜堂は何も言わず、仰々しく一礼しながら先を譲る意を示した。その動作がレスターの神経を逆なでするが、構ってる暇はないとレスターは六角形が並んだ壁のすぐ傍にある端末の元へと向かった。

 

「あれは?」

 

「純星煌式武装を収めている壁を操作するものです。まず最初に星導館学園が所持している純星煌式武装の一覧が表示されて、その中から希望するものを選ぶんです」

 

 そうすると、六角形の壁の中から純星煌式武装を収納したケースが出てくる、という訳だ。ちなみに星導館学園が所持している純星煌式武装の総数は二十三。その内の七つは既に貸し出し中で、使用者の四人は冒頭の十二人なのだそうだ。

 

「ふ~ん。やっぱ強いんだな、純星煌式武装って」

 

 勿論、その純星煌式武装を扱う使い手の技量も目を見張るものがあるのだろうが。

 

「よし、こいつだ」

 

 暫くの間、二人が眺めているとレスターは一覧の中から一つを選んでウィンドウを閉じた。それと同時に六角形の模様の一つが輝き始め、それは場所を組みかえるように滑らかに動きながらレスターの前へとやって来た。低い音を響かせ、模様がせり出してくる。凜堂の予想通り、六角形は収納ケースになっていたようだ。

 

「ふふ、無駄に凝ってますよね」

 

「生徒会長のお前が言ってやるなよ。設計者も純星煌式武装を収納するんだから、気合い入れて作ったんだろ」

 

 それを無駄と言ってしまうのは設計者が余りにも可哀想だ。二人が見守る中、レスターはケースの中からそれを取り出した。その取り出されたものを見て、クローディアは目を丸くする。

 

「マクフェイルくん。『黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)』を選びましたか。これはまた……」

 

「『黒炉の魔剣』?」

 

「えぇ。かつて他学園から『触れなば熔け、刺さば大地は坩堝と化さん』と恐れられた強力な純星煌式武装です」

 

 それはまた大層な謳い文句だ、と苦笑いしながら凜堂はレスターの手に握られた黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)を観察する。見た目は通常の煌式武装と何ら変わりない。強いて違う点を挙げるとすれば、コアであるウルム=マナダイトの色が鮮やかな赤色だということくらいだ。

 

「じゃあ、行くぜぇ……!」

 

 レスターが発動体を起動させると、まず最初に柄部分が再構築された。通常の剣型の煌式武装と比べ、かなり大きい。更に間を置かずに柄部分が開き、光の刀身を露にさせる。黒炉の魔剣と名づけられているが、その刀身は透き通るような純白の色をしていた。

 

「へぇ、黒炉って名前の割には白いんだな……っ!?」

 

 もう少し近くで見ようと一歩踏み出した瞬間、凜堂の背筋に悪寒が走る。まるで、浮気なんて許さない、と殺意の籠った目でこっちを見る女性と対峙しているかのようだ……そんな経験が凜堂にある訳ではないが。

 

「どうかされました?」

 

「いや、何でも……」

 

 クローディアが不思議そうに問うてくるが、それを感じたのは一瞬だけだったので凜堂にはそれ以上何も言えなかった。

 

(何だったんだ、今の……)

 

 凜堂の思考を断ち切るようにスピーカーから声が響く。

 

『計測準備、完了しました。何時でも始めてください』

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 それを合図にレスターは裂帛の咆哮を上げながら黒炉の魔剣を握り締め、爆発的な星辰力(プラーナ)を解放する。しかし、黒炉の魔剣はうんともすんとも言わなかった。

 

『現在の適合率、三十二パーセント』

 

 スピーカーの声に凜堂はあれま、と声を上げ、レスターは焦りに顔色を変える。

 

「なぁぁぁめるなぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 レスターは吼えながら黒炉の魔剣を捻じ伏せるように更に強く握った。砕かんばかりに歯を食い縛ったその顔からは他者を力で従わせようとする強い意思が感じられた。

 

 もっとも、その意思だけで従わせられるほど、純星煌式武装は素直ではないが。黒炉の魔剣はレスターの力を歯牙にもかけず、眩い閃光を放って逆にその巨体を弾き飛ばした。

 

「ぐおっ!!」

 

 吹き飛び、壁に叩きつけられたレスターから視線を黒炉の魔剣へと戻す凜堂。どういう力が働いているのか一切分からないが、黒炉の魔剣は宙に留まってレスターを見下ろしている。

 

「拒絶されましたね」

 

「あれが話に聞いてた、純星煌式武装の意思ってやつか?」

 

 小さく頷くクローディア。

 

「意思と言っても、コミュニケーションの取れるものではありませんが」

 

『最終的な適合率は二十八パーセントです』

 

「まだまだぁ!!」

 

 低い適合率にもめげることなく、レスターは再び黒炉の魔剣を構える。

 

「あぁいう愚直に力を求める姿勢は嫌いではありませんが……強引なだけで口説き落とせる相手ではありませんね」

 

「だな。あんなアグレッシブじゃ、例え脈があっても振られるのがオチだ」

 

 二人の言葉を肯定するようにレスターは何度も黒炉の魔剣に拒絶される。その度に吹き飛ばされて壁にぶつかり、レスターはぼろぼろになっていた。

 

「くそがぁ! 何で、何で従わねぇ!!」

 

「んな態度で迫られちゃ、誰だって従わないだろ」

 

 凜堂の言葉通り、レスターは黒炉の魔剣に触れることさえ出来なくなった。近づくだけで吹き飛ばされるのだ。

 

『適合率、十七パーセントです』

 

「おいおい、そろそろ止めておいたほうがいいんじゃねぇの?」

 

 勿論、凜堂の言葉がレスターに届くわけも無い。低下するだけの適合率も意に介さず、レスターは黒炉の魔剣へと手を伸ばす。

 

「いいから、俺に従えぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 怒声と共に手を伸ばす。が、一際大きく吹き飛ばされただけだった。何度も壁に叩きつけられたつけが来たのか、レスターは呻き声を上げながら膝をつく。

 

『適合率マイナス値へシフト! これ以上は危険ですのですぐに中止して下さい!!』

 

「あぁ、これはいけません。本格的に機嫌を損ねてしまったようです」

 

 珍しく慌てた様子でクローディアが一歩踏み出すが、それは凜堂の手によって阻まれた。凜堂はそのままクローディアを庇うように前に出て、制服の中から六本の鉄棒を取り出して一瞬で棍へと組み上げ、宙に浮きながら凄まじい熱を放つ黒炉の魔剣と対峙する。それなりに距離を取っているにも関わらず、直に火に当たっているような感覚さえしていた。

 

『対象は完全に暴走しています! 至急、避難を!!』

 

「避難って言われてもねぇ」

 

 困った風で凜堂は唯一の出口であるエレベーターをちらっと見た。エレベーターまでかなりの距離がある。凜堂とクローディアの二人だけならとかく、まだ動けずにいるレスターを抱えて逃げ切れるものではない。

 

『対象の熱量が急速に上昇!!』

 

 言われるでもなく、二人はその熱を感じていた。このままでは室内にいる全員を蒸し殺しかねない勢いで黒炉の魔剣は熱を放っている。

 

「あれは本来、刀身に熱を溜め込む剣です。制御できる使い手がいないので、少々外に漏れ出してしまっているようですね」

 

「これで少々?」

 

 嘘だろおい、と戦慄しながら凜堂は黒炉の魔剣に注意を向ける。かなりの広さがあるにも関わらず、室内はサウナ状態になっていた。

 

「流石、純星煌式武装。謳い文句は伊達じゃないってか?」

 

 その時、黒炉の魔剣の切っ先が凜堂に向けられた。

 

「どうやら彼女(?)は凜堂をご所望みたいですが」

 

「おいおい、俺みたいなのを選ぶなよ。尻軽って言われても責任はとれねぇぞ」

 

 苦笑いしながら凜堂は棍へ星辰力を集中させる。それを合図に黒炉の魔剣は凜堂へと襲いかかった。飛来する黒炉の魔剣を真っ直ぐ見据え、凜堂はタイミングを合わせて棍を振り上げる。狙い過たずに棍は魔剣の切っ先を捉え、高々と打ち上げた。

 

「あっち!」

 

 星辰力で守っているにも関わらず、棍を通して伝わってきた熱に凜堂は顔を顰める。棍も星辰力で守っていなかったら、一度打ち合っただけで瞬く間に熔解していただろう。

 

 天井付近に打ち上げられた魔剣は再び凜堂を襲った。頭上から迫る魔剣を凜堂は横に跳躍してかわす。魔剣は凄まじい速度で凜堂へ肉薄するが、凜堂は焦ることなく棍を操って灼熱の一撃を打ち払う。

 

 矢継ぎ早に斬撃を繰り出す黒炉の魔剣。対して凜堂は嵐のように棍棒を振り回してその悉くを防ぎ、魔剣を寄せ付けなかった。

 

「いい加減……しつけぇぞ!!」

 

 魔剣を叩き落そうと、凜堂は棍の端を両手で掴んで力の限りに振り下ろした。その一撃に打ち負けることなく、黒炉の魔剣は凜堂と鍔迫り合いを演じる。間近で放たれる尋常じゃない熱気に目を細めながら凜堂は更に棍へ星辰力を注ぎ込んだ。

 

「あんだけしつこくされて怒ったその自分がしつこくしてんじゃねぇよ!!」

 

 力を込め、凜堂は一瞬だけ魔剣を弾き飛ばした。その一瞬で凜堂は体を一回転させ、勢いを乗せた棍で魔剣を天井へと叩き上げた。そのまま魔剣から視線を外さず、突くように棍を構える。

 

一閃(いっせん)穿血(うがち)”!!」

 

 魔剣が急降下するのに合わせたその突きは莫大な星辰力と共に放たれ、魔剣を大きく弾き飛ばした。三度、天井へとぶち上げられた魔剣は一閃“穿血”で相当な衝撃を受けたのか、錐揉みしながら落下していく。その隙を逃さず、凜堂は高々と飛び上がって黒炉の魔剣の柄を掴んだ。

 

「っ! 私に触れる奴は火傷するってか!?」

 

 予想通り、黒炉の魔剣の柄は凄まじい熱を持っていた。柄を握った瞬間、肉の焼ける嫌な音と臭いがし始めたが、凜堂は黒炉の魔剣から手を離さずに床へと突き刺す。

 

「ダンスは終わりだぜ、お嬢ちゃん」

 

 途端、室内を満たしていた熱が綺麗に消える。さっきまでの暴走が嘘だったかのように、黒炉の魔剣も凜堂の手の中で大人しくしていた。

 

「いい子だ」

 

 にっこりと微笑みながら凜堂は黒炉の魔剣のウルム=マナダイトを撫でる。すると照明が反射しただけなのか、ウルム=マナダイトが微かに輝いたように見えた。

 

「っ!?」

 

 刹那、再び凜堂の背中に怖気が走った。誰のものか分からぬ視線が凜堂へと突き刺さる。いや、その視線は凜堂よりも、彼の手に握られた黒炉の魔剣へと向けられていた。その視線に含まれているのは怒りと妬みだった。自分のものに手を出すな、と言っているかのように悪意に満ちた目を魔剣へと注いでいる。

 

 眼前で繰り広げられた攻防に呆然とする一同。その中でクローディアだけが凜堂へ惜しみない拍手を送っていた。

 

「お見事です、凜堂。それで適合率は?」

 

 少し、呆然としてから職員達は慌てて計器類を確認し、報告する。

 

『き、九十四パーセントです』

 

 結構、と頷いてクローディアはレスターへと向き直った。

 

「そういうわけです。残念ですが、異論はありませんね」

 

 その言葉にレスターは悔しさに満ちた表情で拳を床に打ち込んだ。その顔は納得してないと明白に語っていたが、もう一度やらせろなんてみっともない真似はしなかった。

 

「では、凜堂。手の治療を……凜堂?」

 

 クローディアが声をかけても、凜堂は何の反応も示さず、ある一点を注視している。その視線を追うと、六角形の一つに辿り着いた。

 

「ロディア。あの中って何が入っているんだ?」

 

 そこから視線を逸らさず、凜堂は問うた。種類や数はともかく、どこに何が収められているかまでは把握していないらしく、クローディアは首を傾げた後にガラス張りの部分へと目を向けた。クローディアの視線を受け、職員が慌てて端末を操作し始める。その顔が強張ったのは数秒後のことだった。

 

「何が入っているんでしょう?」

 

『……『無限の瞳(ウロボロス・アイ)』です』




すみません。オリジナルの純星煌式武装が詳しく出るのは次回になりそうです。

楽しみにしていた人(いるわきゃ無いけど)がいたらごめんなさい。

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