窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】   作:朽葉周

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09 全ての悪が集う場所

『篠ノ之束のネオフロンティア宣言』。

 

後にそう呼ばれる事となった、篠ノ之束による世界同時電波ジャックによる放送。それは、世界中、地球上に住む全人類にとって大きな衝撃を齎す物であった。

彼女の語る惑星の内側に眠る脅威と、惑星の外側から訪れるであろう脅威。

無論そんな言葉だけで人々の心を動かせる筈は無かったのだが、けれどもそんな事は篠ノ之束博士本人も理解していたのだろう。彼女が世界中に公開した映像。それは、過去に俺達が相対した邪神や宇宙怪獣、そして今回現れたゴルザやメルバとの戦いの様子であった。

作り物の映像だ、なんて意見も当然出た。けれども『脅威』を語る上で実際に映し出された『被災地』の様子には、否定の言葉すら飲み込ませるほどの何かがあった。

そして彼女は語る。とある宇宙人との出会いを。光の巨人との出会いの話を。

日本人にしてみれば、そして日本の娯楽を知っている人間にしてみれば、コレは性質の悪いジョークなのではないか、と言うような話。けれどもそれは実際に起こった話で、だからこそ篠ノ之束博士は途轍もない技術を手に入れてしまったのだから。

そう、そこで漸く、ISというモノの存在意義、地球防衛用の特殊兵器として開発された、ISというモノが、一部学会だけではなく、世界中の一般人に認知されるようになったのだ。

――無論、彼から受け取ったもの『技術の独占』だなんていう人も居るとは思う。けれども、正直私にだって全部が全部理解できているか、と言われるとそうでもない。

日本政府が押収した500個に満たないISコアと呼ばれるISの中枢装置。コレを用いる事で、適性のある人間は、コアからエネルギーを引き出す事ができるようになる。

ISコアはアークと名付けた宇宙人の遺骸を加工したもの。情報公開はしないのではなく出来ないのだということ。

――コアに関してはなんらブラックボックスは設けていない。寧ろ私に仕切れなかった解析を、できるならやり遂げて欲しい。

そして篠ノ之博士が最後に付け加えたのが、彼女の擁する地球を守る為の戦力について。

当然の話だが、こんな証拠が残るまでにも、篠ノ之束博士は何度も何度も地底から、宇宙から、異次元からの侵略者と戦い続けてきた。ならば当然彼女にはソレをなしえるための戦力が存在していた。

ソレこそが、彼女が『オルタ』と呼ぶ存在。『アークプリズム』と呼ばれるISを身に纏い、既に怪獣や侵略者と何度も鉾を交えた戦士。

――この『事実』が世間に出た以上、我々の活動は縮小されるとは思います。が、もしもの時は出撃すると思うので、そのときはヨロシク。

そして最後に、篠ノ之束博士は、自らの計画する『人類文明維持構想』と呼ばれるデータをネット上にばら撒いた事を告げ、その世界に対する放送を終わりとしたのだった。

 

 

 

篠ノ之束博士の宣言の後、世界は大いに揺らいだ。何しろ世界が根っこから揺らぐ事態だ。現在の人類は宇宙人との戦争なんてものは想定していないのだから。

世界経済は大いに乱れ、情報によるパニックだけで世界は大混乱を起してしまっていた。

そんな最中だと言うのに、混乱を招いた篠ノ之束博士当人ですら困惑するほどに冷静さを保っていた国が幾つか存在していた。

例えば西の大国東の大国、そして何処よりも冷静であったのが、驚く事に日本と言う国であった。

……いや、ある意味では冷静ではなかったのだろう。何せ日本は熱狂したのだ。光の巨人の存在に。怪獣の存在に。そして宇宙に広がる世界の存在に。

篠ノ之束博士の残した『人類文明維持構想』にいち早く賛同し、またそれに伴いISの訓練学校を設立。適性検査を無償で受けられるようにしたりなど、世界でもかなり早期にISに関する法律が制定されていった。

そんな中、当然ながらそんな流れに『否』を唱える勢力も存在する。全ては篠ノ之束博士による自作自演なのではないか? と。

けれども何故か、そうした否定的見解に傾きそうであった筈の大国らは篠ノ之束博士のプランを否定せず、静かにその動きに同調していた。

「まぁ、あの国らって、昔から政府が宇宙人と交渉しているとか言う噂も有ったし、案外事実だったりしたのかもな」

日本だって、『やんごとなき血筋と言うのは実は天=宇宙から来た血筋だったんだよ!!(ナ、ナンダッテー』なんて説があるくらいなのだ。円谷何某監督の一連の話だって、もしかしたら本当に宇宙人とであって、其処から着想を得た物語だったのかもしれないし。

で、大国が篠ノ之博士の用意した流れに乗った以上、それ以外の小さな集まりが幾ら否定的な意見を流そうが、所詮は大局における些事。否定的な意見は消えこそしないものの、だからと言って大きな変化を促すにも至らなかった。

 

そうした流れから進む、篠ノ之束博士の『人類文明維持構想』における国際連合の強化プラン。Terrestrial Peaceable Consortium、TPC地球平和連合の設立。

この設立には当然国家間の話し合いだけではなく、多くの人間が裏を暗躍したと言われている。

幾度にも渡る度重なる話し合いの結果、なんとこのTPCという組織は国際的に成立する事となった。ついでに設立が検討されていたIS委員会も此処に吸収されることに。

まぁ、成立までに各国の強力を引き出すため、ギガフロート技術だとかマスドライバー技術だとか食料プラント技術だとかを各国にばら撒く結果となったのだが、まぁどちらにせよ世界に広める必要のある技術であったのも事実である。

そうして成立したTPCであったが、今度はその組織において怪獣に対する戦力を如何するか、というのが問題となった。

何せISと言う兵器は数が限定されており、幾らTPCという組織が成立したとはいえ、各国は国の保有するISコアを手放そうとはしなかった。

辛うじて数機のISコアこそ渡っては来たものの、世界規模で戦う事を想定すれば、ありとあらゆる装備が足りなくなる事は明白であった。

 

……そこで、仕方がないので篠ノ之一派(俺)が手を出す事と成った。

TPCに直接関与するのは不味いので、俺が関与するのは日本政府。日本政府に対して幾つかのデータ譲渡や技術開発に協力する事を対価に、此方の思惑に協力するように持ちかけたのだ。

コレに日本政府は賛同。日本政府は秘密裏に篠ノ之一派、実質は俺と提携を結ぶ事と成ったのだ。

先ず最初に俺が表に出したのはガッツウィング。過去に開発したガッツシャドーからマキシマを外し、汎用性のある戦闘機に再設計したものだ。

かなりの量産性、汎用性、機動性を誇るこの機体、主砲にレーザービーム、また特殊弾頭を搭載する事で、高い対怪獣戦闘能力を誇る事となる。

コレを日本政府を経由し、TPCへと供与する事に成功。日本政府は『国産の戦闘機』を得る事が出来、また同時に世界から評価を受ける事ができたのでこれと言ってマイナスは無い。

で、この融通を利かせるために俺が日本政府へ供与する事になった技術が――『マキシマドライブ』に関する技術であった。

光を推進力にするこの技術。発展させればワープ航法に繋がる為、危険といえば危険では有るものの、何時かは必要と成る技術でもある。

まぁ、現在俺の持っているネオ・マキシマが戦闘機に搭載可能なサイズなのだが、日本政府に渡したマキシマは最低でも空母クラス、それこそ戦艦規模の宇宙船でも開発しない限りは実用も不可能な代物だ。

現状なら渡したところで研究開発くらいにしか使わないだろうし、問題あるまい。

 

……そう考えていたというのに。

日本政府はどうもテンション上りすぎて螺子が外れてしまったらしい。なんとマキシマ搭載型の航宇宙艦の建造計画をいきなり打ち出してきた。

その名も『ヤマト・ミレニアム』。二十世紀を代表し、尚且つ日本を代表する宇宙船ならばコレしかないだろう、という事でデザインや名前を公募することも無く、其処ありきで開発がスタートしてしまったのだ。

もうこの心意気には負けたね! 仕方がないので後々のマキシマ改良後のレストアを考えて、先を見据えて改良のしやすいブロックシステム構想を採用しておく。何せコレ、税金なんだよなぁ……。俺は宇宙開発肯定派だから無駄とは言わないが、無駄は良くない。

で、その設計図やら色々を秘密の研究施設に投げつつ、同時に某国から宇宙船に関する圧力が掛かった場合の事も考えておく事に。

ISと違いこのヤマトは技術公開義務に引っかからない。要するに、例えこのヤマトが公の場に現れたとしても、その技術を他国に公開する必要は一切無いのだ。

ただまぁ、だからと言って強固に情報開示を拒んでしまえば、社会的制裁を喰らってしまう。交易で経済をまわしている日本はあっという間にダウンするだろう。ならば予め此方で渡す用のデータを用意してしまえ、という話なのだ。

で、用意したコレ。『エンタ○プライズ号』の設計図。ヤマトみたいにブロックシステムは採用してないけど、あの国経済力あるし別に良いよね? それにちょっと外観を弄って別バージョンの開発もしやすい形になってるし、満足してもらえるだろう。

他にも圧力を掛けてくる可能性のある国は有るにはあるのだが、一番警戒するのはあの国。ご近所には適当にコロニー技術でも渡しておけば良いだろう。

 

TPCの運用が試験的に始まって以来、俺とアークプリズムが直接現場に出るような仕事は減ったかといえば一概にそうとはいえない。

現在での仕事は主に昔と同じく研究業が主となっているのだが、だからと言って全く戦場に出ないのか、といえばそうではなく。

例えば邪神崇拝組織や邪神奉仕種族の殲滅。これはTPCもやっているのだが、場合によってはISのSAN値フィルターなんぞ無視してSAN値直葬されるようなとんでもない狂気の現場というモノだって存在している。

幾らISのフィルターとはいえ、邪神の影なんて目の前にしては間違いなくSAN値直葬される。そういう場合は、オルタである俺が直接出向き、儀式を妨害するなり召喚された神性にお帰り願ったりとするわけだ。

で、他にもTPCが動かない程度の如何でも良い怪奇現象の調査だとか、TPCが他の作戦に携わっている際の別働隊としての活動だとか。特に対人殲滅戦があるお仕事の場合は俺に回ってくる事が多い。

まぁ俺は主に束さんの指示で行動しているのだが、ある日唐突に、いつものように束さんからそうした怪奇現象に関する調査依頼が届いたのだった。

 

 

「邪教崇拝教団?」

『そそ』

ある日突如として束さんから届いた知らせ。それは、某所に存在するとある邪教集団。その活動が近頃活発化してきているのだというもの。

『最近中華から南のアジア諸国で、若い娘が行方不明になるって事件が連続してるんだよ』

「若い娘って……生贄にでもされてるって?」

『その可能性が高いみたいだよ。束さんもこう、『邪神センサー』でスキャンしてみたんだけど、結構大きな字祷子(アザトース)反応が出たんだよ』

……邪神センサーって何だ。アホ毛でも使ったのだろうか。

「ふむ……場所は?」

『えっとね……此処だよ』

転送されてきたMAPデータ。表示された地図には、タイの辺りに赤い光点が示されていて。

「ふむ……路南浦? 何て読むんだこれ?」

『えっとねー……ロアナプラって読むんだって』

ロアナプラ……何処かで聞いた事のある地名なんだけど、何処で聞いたんだったか。

とりあえず胸元からメガネ型ディスプレイを取り出し、ネットワーク上から情報を引っ張ってみる。

さっと漁ってみてもネット上におけるロアナプラなる土地の情報は殆どなく、これは現地で実地調査するしかないかもしれない。

「細かい情報は掴んでないんだよね?」

『そだよ。まーくんには現地に入って、カチで情報を集めてもらいたいんだ』

「また面倒くさそうな仕事を……」

そういうのは俺じゃなくてTPCにまわしてもらいたい。折角立ち上がった組織なのだし、実績を積ませるという意味でも積極的に仕事をまわしてやれば良いのだ。

というか俺が働くとボランティアにしかならないのだし、給料貰ってるやつが積極的に働けば良いのだ。

『まーそれもそーなんだけどね、まだTPCは出来て一年くらいしか経ってないし、第一あそこは未だ対旧支配者装備なんて渡してないからさ』

そういえばそうだったかと頭をかく。

旧支配者、つまり邪神。コレに対処するには、狂気に蝕まれない強靭な精神や、邪悪と戦う強い意志が必要と成る。然し神格クラスの怪物となると、心持ちだけで正面から向かうのは自殺行為以外のなんでもない。出会う=死亡となんら変わりないのだ。

故にするべきなのは、神格クラスの怪物を召喚される前にそれを阻止する事。そして、それら邪神の眷属を殲滅する事だ。

然し眷属とはいえ属するのが邪神。やはりこれも人間の精神を蝕む狂気の産物だ。それらと相対し戦うには、やはりそれ相応の装備が必要と成る。

それがISであったり、俺達が開発している強化装備であったり。ISのシールドエネルギーは、そもそもディラク残骸を精製したコアから生成されるエネルギー。邪神の瘴気から身を守るにはうってつけなのだ。

が、残念ながら現状、TPCが保有するISは3~4機程度。その全てがアークプリズム級の戦力であるならば別だが、搭乗者がオルタを使えるわけでもなく、累計搭乗時間が100時間を越えているわけでもない。とてもではないが、対邪神戦力に採用する事は無理だろう。

「まぁ、これも選んだ事だし、仕方ないか」

『うんうん、それじゃ早速現地へ飛んでね!』

と、そんな事を話しながら、俺は転送装置で直接ロアナプラへと飛んだのだが……。

 

 

 

 

「アァン、上等な身形のガキがなんでこんな所にいやがるんだぁ?」

ロアナプラへ訪れて早速後悔した。何せ転移現場を見られないようにひと気の無い場所を選んで転送。その場にはなんと蜂の巣にされた男性と、両手に拳銃を構えた如何見てもカタギではない方々。

幸いと言うべきか、英語で会話しているようなので言葉を聞き取る事はできているのだが、伝わってくる脳量子波も言語も、共に間違っても好意的なものではない。

「おい如何する、見られるのは不味いんじゃないのか?」

「だなぁ。……ボウズ、残念だったな、テメェは見ちゃいけねぇモン見ちまった」

そう言いながら差し向けられる拳銃。うーん、ガバメント、いやコピー銃かな?

タァンッ、と音を立てて放たれる弾丸を、頭を逸らして回避し、即座にサバイバルナイフを抜いて脚を踏み出す。既に人間やめてる現在、弾丸程度当ったところで死にはしないのだが、痛い事は痛いし。

敵対対象は三人。先ず俺を撃った男性の肩をザックリと刺し、右腕を掴んで地面に引き摺り倒す。即座にその手から銃を奪い取り、その銃を残り二人の男性に射撃。

一人は上手く肩に当ったのだが、もう一人が距離がありすぎて上手く弾丸が当らなかった。

即座に刺しっぱなしのナイフを引き抜き、最後の一人の肩をバッサリ。

「うぎゃあああっっ!!」

悲鳴を上げて転がりまわる三人。その首を狙って蹴り飛ばし、其々の意識を刈り取っていく。

「……はぁ。最悪」

まさかこんなところでいきなり対人戦になるとは思ってもいなかった。

いや、別に殺人に嫌悪感云々ではない。そんなモノはとっくの昔に経験した。幾ら邪教崇拝の狂信者とはいえ、人間を如何こうするのはやっぱり後味が悪い。其処まで人間辞めるつもりはない。

ただまさかいきなり拳銃を向けられるような現場に遭遇する事になるとは、さすがの俺でも予想できなかった。……今度からは転送先の先行調査の為の装置でも作らねばなるまい。

「ロアナプラ、そう、ロアナプラか。世界の悪の闇鍋。ゴッサムすら超える坩堝」

思い出した。そう、あれは確かブラック・ラグーンだったかに登場する、その物語の中心となる都市だ。

タイに存在するその都市。三合会とホテル・モスクワの対立から一気に闇鍋化が進んだとされる世界の悪が最後に行きつく街。

人が死ぬのは当たり前。悪法により悪が律される街。

――正直な話、現時点で既に逃げ帰りたくて堪らない気分ではあるのだが、然しもし仮に邪教集団の目論見が邪神召喚だったりした日には。此処をスタート地点に世界が滅びる可能性だってあるのだ。

第一、此処があのロアナプラだとは限らない。似ただけの、治安の悪い同盟の街と言うだけかもしれない。

脳量子波にビンビン感じる悪意を無視しつつ、とりあえずこの三人の記憶処理だけやっておこうと、憂鬱な気分を振り払って、倒れこむ三人の男性へと近付くのだった。

 

 

そうして訪れた街中。街中で捕まえた、身形の確りした女性に少しのお金(米ドル)を渡して、そこそこでも信用できる探偵、ないし何でも屋は無いかと問い掛けてみた。

女性は此方の身形を見るなり、なにやら楽しそうに、いや愉しそうにニヤリと哂うと、こちらに向かってニパッと見事な作り笑いを向けてきた。

「よろし。私いい店知ってるですだよ。案内してあげル」

うわぁ、胡散臭せぇ……。

赤いチャイナドレスと、足元やら腰から除く投擲ナイフとククリ。あんまり近寄りたいタイプの女性じゃない。戦闘的な意味で。

「何ね、ボウヤ色事好きですか?」

「結構です(No,ThankYou)。それよりも案内宜しく」

「つまんないボウヤよ」

齷齪する純な反応でも見たかったのだろうか。生憎こちとら異形の怪物と戦う探索者なのだ、異形を孕む醜悪な儀式なんかに出くわす事も多々ある。触手プレイ真っ最中の狂信者を殲滅、何てこともやらねばならない事は多々あった。

今さらモロダシ程度に反応するほど純情じゃない。俺を興奮させたいのならチラリズムを初めとした属性、文化的なわびさびを持ってこなけりゃな。

そうして若干ズレた英語を話すチャイニーズに案内されて来たのは、これまたガラの悪そうな酒場。

なんとも妙な雰囲気のその酒場。

「よこそ、ロアナプラの混沌の溜り場、イエロー・フラッグですだよ」

あー、んー。オウケィ、大分昔、前世のことを思い出してきた。そう、ブラックラグーン。硝煙と悪意の香る街ロアナプラの物語。

あまり確りとは覚えてないが、確か日本人の、えーと……ロック? だか言うのがロアナプラで真っ黒なお仕事に手を染める話……だっけ?

とにかく、そんなとんでもなくブラックな物語。あと尻がエロい作品だったような。

そんなブラックラグーン。コレでもかと人がポクポク逝ってく作品で、正直なんで只でさえ光の巨人やら邪神やら怪獣やらがいる世界にクロスしてるんだとなきたくなる。

で、その中でもこのイエロー・フラッグ。この混沌の街の中でもイチオシの無法者の溜り場。

「おー、いたいた。レヴィ、アンタに客連れてきたよ」

「あ゛?」

そうしてたどり着いた店内。筋肉達磨やいかにもマフィアな人が居ると思えばカモッラっぽいのもいてもう正にカオス。

全員脇の下が盛り上がってる辺り、正直すぐにでも逃げ出したい。やっぱり人の敵は人なんだね……。

「あ゛ん? なんでぇシェンホアじゃねーか。アタシに客ぅ?」

「そですよ。正確にはオマエ違うくて、相方の方だけどね」

「ロックに? って、またガキかよ……アイツは何かこう言うのに憑かれてんのかねぇ?」

胡散臭い笑顔の中華系に声を掛けられて此方を向いたのは、これまたアジア系の顔立ちの薄着の美人。ワイルドに二丁拳銃を脇に刺した、鋭い目つきの美女だ。

……うわぁ、主人公の片割れキター……。

「んで、そこの坊主、手前ウチのロックにどんな用事だ」

「人探しと道案内、かな。探してるのは人と言うか組織というか……」

「ふーん、まぁ確かにそーゆーのはアイツが得意かもしんねーけど……問題はカネだな。坊主の小遣い程度じゃアタシらは雇えねーぜ」

「一応一万ドル程払う心算はあるけど?」

その瞬間、ざわざわと騒がしかった酒場が一瞬静かになったような気がした。

「へぇ……坊主、日本人か?」

「さぁ? 中国人かもしれないし、案外アメリカ人って可能性だって無きにしも非ずなわけで」

というか、そういう個人情報をこの街で喋りたくない。

「ハ――まぁカネ払えるなら何でも良いさ。ロックなら今ションベンの最中だよ」

ほらもう帰ってきた――そう言って酒場の一角を指差す女性。

其処には、白のワイシャツにネクタイを巻いた、このマフィアやギャングの溜り場なロアナプラにはかなり珍しい装いの人物が一人。

「ようロック、オマエに客だぜ」

「客? 俺に?」

彼女に声を掛けられた男性――ロックと呼ばれた彼は、俺を見る驚いたような表情をして。

「こんな町にキミみたいな身形の子が来てよく無事で……はじめまして、ロックだ」

「はじめまして、オルタだ。貴方が案内人をしてくれる人、でいいのかな?」

「案内?」

「シェンホアのヤツが持ってきた仕事、だとよ」

言いつつ、あの胡散臭い中国人、シェンホアと、ワイルドな二丁拳銃、レヴィと呼ばれた二人が、ロックと名乗った青年と情報交換を始めた。

俺が人探しをしていること、金払いの方はわりと確りしてる事をシェンホア女史が保障してくれた。

「……ふむ。仮に君の仕事を請け負うとして、君の探し人というのがどんな人か聞いても?」

「誰、と個人を指定して探してるわけじゃない。……この辺りでヒトが行方不明になってるのは知ってる?」

「……此処じゃ日常茶飯事だ」

「はは、なんてだ。……じゃなくて、特定の年代の女性、娼婦なんかもなんだけど、これが連続して姿を消すとかそういうのが有ったらしいんだけど」

「あー……町のヤツが言ってたな……特定の年代の娼婦が、所属問わず無差別に誘拐されてるとか」

此方の言葉にロックが即座に言葉を返してくる。……この情報、此処に来る前に束さんから貰った最新情報何だけどなぁ?

「俺が追ってるのは、その犯人、ないし犯人グループだ」

「おいおい坊主、手前ヒーローごっこでもしにここに来たのかよ」

「……まぁ、そんな所かな。但しこれは「やるべきこと」であって、「やりたくて」やってるわけじゃない」

別に此処を放置しても精々地球上の生物が滅ぶ程度で、束さんと用意したデータボックス「ミーム」があれば、人類が滅んでもゼロから人類を再生させることも不可能ではない。が、流石にそれは面倒くさいし、やりたくも無い。

仮に俺が動かなかった場合でも、本当にヤバくなる前には束さんからの情報提供で、某国あたりが世界平和のために核ミサイルをぶち込んで、一切合財綺麗に消し飛ばしてくれるだろう。

……が、流石にタイで核なんて使われると、日本にどんな影響があるか。一応程度には愛国心を持ってる俺だ、できるなら避けるに越した事は無い。

「……本気か?」

「ガキ一人で態々正体不明の変態追って、その結果が世界の果て(ここ)だ。コレで冗談ってなら俺は余程螺子が飛んでるんだろうな」

「ハッ!」

「……確認だが、キミの依頼は、その正体不明の『連中』と言うのを探して、どうする事なんだ?」

「依頼は『連中』を探し出すところまで。それ以降はコッチでやる。歩き回るだけで一万ドルなら良い方だと思うんだけど?」

「そういうのは探偵でも雇えよ」

「この街でまともに動ける探偵なんているのかよ」

ネーな!! と笑うレヴィ。そりゃ、警官だって銃声がしても目の前でドンパチ初めなけりゃ無視するような土地なのだ。最近見なくなった=死亡なこの土地。『疑わしきを罰する』な此処で、探偵なんて存在する意味も無い。

「でもよー、それ以降はコッチでってオマエは言うけど、お前みたいなナマッちょろいガキがどうする気なんだ?」

「あぁ、それは……」

「ようレヴィ、その話、俺達にもカませてくれネーか?」

不意に背中に掛かる重み。何かと視線を向ければ、其処にはいかにもチンピラといった様子のアジア系の男性が数人。

ニヤニヤと笑うその顔は、如何見ても此方を食い物にしようというヤツのソレだ。

「ちょ……」

「依頼主はソッチだぜ。雇う雇わないって話なら、アタシじゃなくてソッチにしなよ」

何か良い掛けたロックを遮り、そういって此方を指差すレヴィ。

「おー、そりゃそうだな! と言うわけだ、ボーイ。俺達も雇ってくれないか?」

ニヤニヤと笑うその男。如何でも良いが口が臭い。

「断る」

「あ?」

チャキリという音。抜いたのだろうと確認して、即座に左手にアークプリズムを部分展開。此方に突きつけようとしていた拳銃を手の平ごと握りつぶす。

「っぐぎゃああああああああああああああああ!!!???」

「聞こえてなかったか? 断る、と言った。アッチは金を払ってる間は問題ない人間に見えるが、お前らは如何見ても金を払っても背中から撃つ人間だ。んなヤツを雇う心算は無い」

言いながら、反対側の手に顕現させたアークプリズムの右手で、その男の顔面を思い切り殴り飛ばす。

只でさえ俺の筋力と言うのは人間を辞めてるトンデモだ。それがアークプリズムによって更に増幅され、結果その男は背後に並んでいた男の仲間を巻き込んで、酒場の外へと吹き飛んでいった。

「ヒュー、ソレが手前の獲物か。ISってヤツだったか?」

「え、な、ちょ、ええっ!? いや、仮にソレがISだとしても、あれって女性しか使えないんじゃ……」

「いろんな人間に何度も言ってるんだけど、ISは『女性にしか使えない』んじゃなくて、『女性の方が使える可能性が高い』って代物なんだよ」

良いながらアークプリズムを更に展開させる。いつもの脚がブースターになってる完全展開ではなく、全身を覆う鎧のような不完全状態での展開。ダダの時も思ったのだが、陸戦はこの姿のがやりやすい。

酒場『イエロー・フラッグ』の外へ吹き飛ばされていった連中が、キレた目つきで此方を睨みつけていて。――って、おいおい。

即座に右手にビームガトリングを展開し、照準を外の連中へ。

「ヘー、ISってヤツか。よくワカンネー玩具ありがたがって、世界中馬鹿みたいだとは思ってたけど、案外便利そーじゃねーか」

「言ってる場合じゃねーよ馬鹿ヤロウ!! おい馬鹿ヤメロ! 此処は俺の店だぞ!? 此処で銃をぶっ放すんじゃねぇ!!」

構えてぶっ放そうとしたところで、不意に背後から肩をつかまれた。

「……って言っても。いいの?」

「撃つなっつってんだよ俺は!!」

「じゃなくて、あれ」

言って顎で出入り口の向うを指す。其処には、血走った目でグレネードランチャーを構えるアジア系ギャングの姿が。

「先に撃たないと此処が吹っ飛ぶ……あー、駄目だ、ご愁傷様」

「んなっ、なにぃぃっ!?」

手近に有った椅子を掴んで正面へと投げ付ける。途端椅子にぶつかった小さな榴弾。轟音を立てて爆発を撒き散らすソレは、けれども肝心の俺に対してはシールドバリアを抜く程のダメージを与えることも出来ず。

「……あーあー」

改めて周囲を見回せば、他にも何発かグレネードが撃ち込まれていたのだろう。あたり一面燃えるか砕けるかした、既に酒場の面影は何処にも無く、ただただ無残な廃墟が其処にあるだけで。

「……よ、よくも俺の店を……」

「俺は別に『撃たなくても良い』。通常兵器に貫かれる程軟な装甲じゃないし。けど、アンタは『撃たなくて良い』んだな?」

問い掛ける。イエローフラッグの店主であるバオは、一体どんな答えを返してくれるのか。ちょっと面白く感じながら問い掛けると、そのオッサンは何処かキレた表情で此方を睨んで。

「――チクショウ! 知るかっ! 好きにしやがれっ!! あいつ等ぶっ飛ばすってんなら俺は此処で見ててやる。さっさとぶっ飛ばしちまえ!!」

「ヤー(了解」

右腕のビームガトリングが轟音を上げながら回転を開始し、その銃身から薄桃色のビームの弾丸を撒き散らし始める。

出力を絞っているとはいえ、対怪獣用のビーム兵器だ。途端ビーム砲が着弾した場所は、ビームの高エネルギーにまるで抉り取られるようにして消滅していく。宇宙人にだって通用するトンデモ兵器を対人戦で使えばこうもなる。

「ひひひ、ロックみたいな平和主義者かとも思ったが、中々どうして、派手じゃねーか」

「アイヤー、可愛い顔して危ないヤツだったか。というかあの武器何よ」

「ISの特殊兵器でビームガトリングガン。細かい説明を省けばSFの産物だよ」

「へー、じゃぁオマエは正義のジェダイの騎士ってか?」

「俺は正義の狂信者じゃねーよ」

いつの間にかカウンターの向こう側へと避難していたレヴィとシェンホアにそう返しつつ、ビームガトリングを格納する。

……うーん、この街に着てから悪意の脳量子波でイライラしてた所為か、どうもやりすぎた。オープンテラスどころか見事な廃墟に化けたイエロー・フラッグの店内を眺めつつ、さてどうした物かと考えて。まぁ別に良いかと考え直す。

「んで、ミスタ・ロック。俺に雇われてくれるかい?」

俺の問い掛けに、彼は頬を引き攣らせてこたえたのだった。

 

 

 

「ところで、さっき店を出るときになんかバオに渡してたけど、何渡したんだ?」

「んー、ちょっとばかし迷惑量を」

オープンカフェと言うか既に黒コゲのイエロー・フラッグを後にし、シェンホア女史に多少の謝礼を渡して分かれた後。彼女等の店舗であるラグーン商会へと足を運ぶ最中。不意にレヴィにそんな事を聞かれた。

何処からとも無く取り出した封筒。アークプリズムは他の量産型のISに比べると、エネルギー出力や格納領域が桁違いに高い性能を誇る。故に荷物を運ぶ際の格納庫としても利用したりすることが多々あるのだ。

今回彼に渡したのは、格納領域に仕舞っておいた米ドル現金の一部。大体米ドルで5,000ドル(大体五十万円)くらい置いて来たから、あれだけあれば店の再建も出来るだろう。……ロアナプラでは安全マージンが加算される、とか言われたら流石に知らないけど。

「……キミ、結構お金持ちなんだね」

「んー、まぁ、色々やってるから」

「やっぱヤクの密輸でもやってんのか? そのISってのを使えば割と簡単にできそうだもんな」

「……ISでクスリの密輸って、小銭の為に戦艦引っ張り出すようなモンだぞ? 色々あるんだよ」

「どんなんだ? 面白い仕事ならアタシを噛ませろよ」

「ちょ、レヴィ!」

その言葉に思わず目をむいて彼女の顔を見直す。

「え、IS着こんで怪獣退治するだけで数十万ドルって仕事なんだけど、やってくれるの? 依頼主はTPCで」

「あー、やっぱキャンセルで」

即座に拒否りやがった。……まぁ、俺の資金源はそっちじゃなくて、IS以外の国産機の共同開発報酬からなんだけどさ。

レヴィの追及を適当に話を逸らす事で回避して、今度こそロアナプラの街中へと足を踏み出したのだった。




・篠ノ之束のネオフロンティア宣言
要約すると『人類に逃げ場無し』。
・世界の反応
――ファッ?! エイリアン?! ナンデ!? エイリアンナンデ!?
・日本の反応
……テンション上がって来たァァアァアアアアアアアアアアア!!!!!
・Terrestrial Peaceable Consortium/TPC/地球平和連名
元ネタはウルトラマンティガ。名前そのまま。但し本作におけるTPCは地球統一政府的な存在ではなく、より力を持った国連っぽい存在。
・ミレニアム・ヤマト
ヤマト2000型。テンション上りすぎた日本人が勢いで開発を開始した航宇宙艦。
御国柄武装は積めない『ことになっている』が、『デブリ破砕用 主砲・副砲三連装ショックカノン』『デブリ破砕用宇宙魚雷』『デブリ破砕用VLS』そして『デブリ破砕用デラックスカノン(デラック砲』などを搭載している。
更に真幸が手を加えたことにより、マキシマ砲の発射は勿論、未発表ではあるがネオマキシマへの換装も可能になっている。
・エンタープライズ号
テンション上りすぎた日本に触発されて、テンション上りすぎたトラッカー達が政府を焚き付けて開発スタートした米製宇宙船。
量産前提機であり、全体的な性能はヤマトに劣るが、それでも優れた性能を持つ宇宙船。
・字祷子(アザトース)
元ネタはデモンベイン。妖気とか瘴気とかそんな感じ。
デモベというかクトゥルフ世界観では『忌まわしき知識(情報)=力』と解釈しているので、エネルギー値であると同時に情報量でもある。
・邪神センサー
元ネタは這い寄れ!ニャル子さんより、銀色のアホ毛。
あれ元々はヒューマノイド型がニャルラトホテプ星人くらいしか居ないから地球人のマヒローげふん真宥を誘拐する、とか原作一巻で言ってなかったっけ? え? 過去は踏み倒す物?
・ロアナプラ
元ネタはBLACK LAGOON。この世全ての悪が集う街。ゴッサムシティーがまともな街に見えてしまうレベルとか。詳細はニコニコ大百科辺りがオススメ。

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