窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】   作:朽葉周

11 / 18
10 真理への扉教団の終焉

「怪しい連中? あぁ、此処最近この辺り(ロアナプラ)をうろつきだした黒ローブの連中か」

「どこぞから流れ着いたカルト教団の一派だろう? 怪しげな活動をしてるとは小耳に挟んでるけど」

そうしてたどり着いたラグーン商会で、案外あっさりと件の殲滅目標に関する情報を手に入れることが出来た。

レヴィとロックさんの上司と同僚であるダッチ氏とベニーの二人に挨拶を済ませ、早速依頼の話に入ったところ、どうやらこの二人は既に情報を掴んでいたらしく、ベニーが更に詳しい情報を見せてくれた。

目標組織の名前は真理の扉教団(T∴D)。最近ロアナプラに入植し、何処からとも無く信徒を呼び込んでおり、最近現地組織との摩擦が問題になってきているのだとか。

「そういやホーの奴が黒ローブの怪しい連中と揉めたって話をしてたな。なんでも馬鹿でかいナイフで撃たれても撃たれても斬りかかって来るゾンビ野郎で、良い年してちびりそうだったとか」

「ソレだ。その連中に関する情報を売ってほしい」

「まぁ、それ自体は幾つか電話をかけりゃ情報も集まるとは思うんだが、然し先に報酬に関して話を詰めておきたいんだが?」

遠まわしに支払い能力はあるのか? という視線を向けてくるダッチ氏。とりあえず二万ドルほど取り出し、それを机の上にドンと置いて見る。

「手付け二万、情報に二万、道案内に一万を順次支払いで如何かな?」

「ふむ。……件の怪しい連中を探すだけで、その後にはノータッチって条件で5万ドルってんなら確かに良い条件だな」

「おいおい、受けるのかよダッチ」

即座に反応するダッチに、レヴィがそう疑問の声を上げる。多分だが、ドンパチする機会の無いつまらない仕事、みたいに認識したのだろう。

「レヴィ、最近どっかの二丁拳銃がバカスカ無駄弾撃ちまくってくれた所為でラグーン商会の予算が赤字何だよ」

「オゥケーオゥケー、あたしゃ文句ねーぜ。ヘイロック、手前は如何なんだよ」

「俺も文句は無い。が、依頼を受けるなら、幾つか聞いておきたいことがある」

「……宜しいかな?」

「どうぞ」

ダッチ氏の問い掛けに頷き、ロックさんへと向き直る。

「先ず一つ。ISってのはトンデモナイ代物だ。今では数あるコアを自分達の国家こそが一つでも多く確保する為に政治が動いてる。『国家』とか『世界』に管理される兵器で、間違っても個人所有なんてありえない。……で、そんな『トンデモナイ代物』を持った、『男性操縦者』キミ、いったい『何処』の人間だ」

日本人にしては矢鱈と鋭い、濁ったような澄んだ様な、度し難い瞳を此方に向けてくるロックさん。レヴィは理解してないみたいなのだが、ダッチ氏とベニーが此方をじっと見つめてくる。

「その認識は正しいけど、一つだけ間違ってる。開発者の存在が抜けてる」

「……まさか、篠ノ之博士の私兵だとでもいうのかい?」

「さぁ? もしかしたらそうかも知れないし、違うかもしれない」

言って肩をすくめる。まぁ殆ど言ったも同然なのだが、それでも明言しているのとしていないのとでは多少は違う。

仮にこの会話が録音されていたとしても、こう言って置けば証拠能力としては不十分になるし。

「……次だ。キミが探している連中に関する情報だ。万が一の場合を考えて、ある程度此方にも事情を話して欲しい」

そう来たか。確かに、例えば、俺が狙うのがこの街の名立たる悪党組織だったとしよう。

俺がラグーン商会から情報を買ってその組織を叩き潰したとして、此方に加勢こそせずとも情報を売ったラグーン商会にどんな目が向けられるか。

確かに自己防衛を考えるのであれば、ある程度の情報を握っておくのは間違いではない。

……のだけれども。

「……かなり胡散臭い話に成るけど、いいか?」

「ああ」

まぁ、依頼を受けてもらう以上最低限の説明も必要かと、そう考えて、仕方無しに格納領域から円盤型のデバイスを取り出す。

これはいつもつけているメガネ型の端末とは別物で、他人に情報を開示する場合を考えて用意しておいたモノだ。

此方の操作に従って起動するその円盤型端末は、途端にその円盤の上面から立体映像を投影する。

「ワォ!? 立体映像!? え、マジかよ」

で、そのデバイスの立体映像に大興奮のベニー。其処まで喜ばれると此方もちょっと嬉しい。

因みにコレ、此方の言葉が法螺ではなく、少なくともこの程度の技術力を持つ存在であるという証明の、パフォーマンス用のデバイスでもあったりする。

「俺が此処に来た理由っていうのが、この邪神崇拝教団を追いかけてきた、っていうのがある」

「ハァ!? 邪神崇拝!?」

言った途端にレヴィがそんな声を上げる。まぁ、ガチの鉄火場に来ていきなり邪神崇拝なんてオカルトを持ち出されれば誰だってそうなる。

「オィオィ、デモニズムの連中を追いかけてきたって、ならアンタは教会の聖堂騎士(パラディン)だってか?」

「アーメンハレルヤピーナッツバターって? まさか。俺は正体不明の観光客だよ」

「……この悪徳の街に、観光ねぇ?」

一体何を観光しに来たのやら。言外にそんな空気をにじませるベニー。

「で、だ。話は変わるけど、この邪神崇拝組織、マジで危ない連中で、神に至るためって言って色々ヤバイ研究をしてたわけだ」

「ヤバイって――なんだ、トライオキシンでも研究して他のかい?」

「正にそんな感じでな」

ジョークのように軽く言うベニーの言葉を肯定する。因みにトライオキシンってのは正式名称トライオキシン245。古典ゾンビ映画に登場する死者をゾンビにする化学薬品だ。

「薬物強化、遺伝子改造、機械化手術、何でも有りで人を外れたミュータントを生産してる糞野郎どもだ」

言いながら、ホログラフィックで件の『改造人間』のデータを表示する。

正にゾンビといった腐乱死体の映像やら、不気味に盛り上がった筋肉で人の形をしていない怪物、下半身が機械の逆脚になって腕が鎌になった怪人。

此処ロアナプラに入る前に束さんから送られてきたデータの一つ。正直俺もあんまり見たくないし、ここまでぶっ飛んでいると逆に信用されにくいかもしれないのだが。

「……なんだこれ、何時からこの世界は特撮になったんだよ……」

「そりゃ……怪獣が出たときからじゃね?」

そんな俺の言葉にロックさんは顔に手を当てて溜息を吐いた。

「で、この糞野郎共、周囲の一般人をさらってバケモノにして戦力に加えてて、かなり危ない連中でさ。どこぞの正義の国も目の仇にしてるんだよね」

これも束さんから貰った情報なのだが、この邪神崇拝組織、なんでも元はアメリカ本土にその拠点をおいていたのだとか。

それを大学教授やら警官やら芸術家に学生という謎の混成パーティーが、組織をどうやってか壊滅させ、更にソレを追撃した某国の対テロ組織によって土地を追われたのだとか。

そんな連中の残党が逃げ込んだのが、このロアナプラ、悪徳の街だったのだとか。

「コイツラを放置しておくと、下手すりゃ明日にはロアナプラはラクーンシティーって有様になって、その日の内に核で綺麗さっぱり消毒されちゃうワケだ」

「……オイオイ、今サラッととんでもない事言わなかったか!?」

「そうならない様に今此処に俺が来てるんだって」

実際既にTPCを介して国家間同士の話し合いは既に終わっている。まぁ核になるかN2ミサイルになるかは知らないが、ロアナプラがまるごと消し飛ぶ事は間違いない。

もしそんな事に成ったら、間違いなく俺の住んでる日本にも影響が出る。それが困るから、今こうして俺は此処に着ているのであって、放置して何も影響が無いと言うなら今頃火星探検にでも出かけている。

「ま、オカルトSF云々って話はおいておいて、とりあえず俺の依頼はこの頭の螺子が二三本どころか全部抜けて良い感じにキまってる連中を探し出して欲しい、って事だ」

「見つけ出して、その後は?」

「言わせんな恥ずかしい」

言いつつ両手を上げ、一瞬だけリフェーザー砲とビームガトリングを展開させる。それで大体の事を察してくれたらしい

「オゥケィ、仕事内容は理解した。理解できない部分も、理解できないって事を理解した」

「それで十分だよ。それで、仕事は請けてくれる?」

「情報収集と道案内まで、だな?」

「勿論」

「なら受けよう。時間はどの程度ある?」

「ちょっとでも早い方が良いね」

「なら一時間だけコーヒーでも飲んで待ってるといい。その間に情報を纏めとく」

そう言うとダッチ氏は席を離れ、そのまま電話を手に何処かへと連絡を取り始めた。

ベニーもソレにあわせて奥の部屋へと姿を消し、その場に残ったのはロックさんとレヴィの二人だけと成った。

 

「なぁボーズ、さっき言ってた連中の生物兵器ってどんなのがあるんだ?」

と、何を思ったのか急にそんな事を問い掛けてくるレヴィ。何かと思って彼女の顔を見れば、その表情はキラキラと輝いていて。

もしかしてコイツ、改造人間とか生物兵器とヤりあってみたいとか考えてるのか?

「……基本的に遺伝子調整体も機械化兵士も『人間の範疇を超えた人間』らしい。つまり、頭をぶち抜けば死ぬ。ぶち抜ければだけど」

「そりゃ如何いう事だ?」

「銃弾を弾くスーパーマンになってる可能性が高い」

もしくは撃たれた途端に再生を始める怪物とか。ありえないと言い切れないのが恐ろしいのだ。

故に、殺し切るにはISの、それも出力的に通常のISを圧倒的に上回るこのアークプリズムを持って、完全に焼滅させる必要があるのだ。

「んなバケモンが実在……そういや知り合いにも一人いたな……」

「いや、彼女は未来から来た殺戮マシンじゃ……うーん……」

いや、ミスロベルタは特殊訓練を受けただけの兵士ですよね? 別に改造人間とかじゃないでしょ?

「本当、度し難いよ」

「アタシは結構楽しみなんだけどな」

「……度し難いよ」

この戦闘狂め。

 

 

 

 

 

 

件の相手側の改造生物について話したり、最近のIS登場による世界の情勢変化についてなんかをロックさんと話したりしているうちに、ダッチ氏に言われた一時間が過ぎたころ。

丁度タイミングよく現れたダッチ氏は、一時間丁度で見事に件の邪神崇拝組織に関する情報を集めて見せた。

その組織の名を『T∴D(真理への扉)教団』。厨二病クサい名前だが、既にロアナプラの連中ともめ始めていたらしい。

ダッチ氏曰く『黄金夜会』とかいうマフィアの組合と既に交戦し、その所属組織を一つ潰しているのだとか。

「今その連中は潰した組織の溜り場を接収して、其処に拠点を築いてるらしい」

なんでもT∴Dが現在立て篭もっている場所と言うのが、その昔日本軍が立てた拠点のひとつで、小さな砦のようになった建物なのだとか。

現在では黒ローブの歩哨が時代遅れな剣をかついで巡回する、物凄く怪しい場所に成り果てているのだとか。

喧嘩を売るにしても理由も利益も無く、黄金夜会にしても組合であって一つの組織ではないから、個人ならともかく喧嘩を売るメリットもないと判断したらしく、今のところ誰も手を出そうとはしていないらしい。

その話を聞き終えて、確りと目的地をデータ上に入力。いざ攻め込まんと椅子から立ち上がろうとした所で、不意にアークプリズムのコアネットワークに通信が入った。

「もしもし。如何かした?」

『もしもしまーくん!! 今日本政府の情報網から拾ったんだけど、なんか関係者の娘さんが件の連中に誘拐されたらしいんだよ!』

「? なんで日本人が……っていうか、なんでそれで束さんが焦る?」

『プライベートジェットをハイジャックしたらしいんだよ。そうじゃなくて、問題はあの国の大統領令嬢っていうのが一緒に捕まっちゃったんだよっ!!』

「……はぁ!?」

何でそんな話に成ったのか。送られてきたデータを参照しながら詳しく話を聞いてみたところ、要するに件の大統領令嬢と言うのが、今度新設される事になったIS学園に興味を示したとかで、お忍びで日本を訪れていたのだと言う。

日本に来ていた大統領令嬢は、日本と向こう側のエージェントに護衛されつつIS学園が建設される人工島、建設中の施設やISなんかを見学して、その後プライベートジェットで首都に向かう途中にハイジャックを喰らったのだとか。

『大統領令嬢云々は別に如何でも良いんだけどね! でももし彼女が死んじゃってみなよ! 絶対あの国報復で核打ち込むよ!?』

……もしそんな事に成れば。ご近所である日本は間違いなく何等かの影響を受ける。

近代の核なんて威力は原爆型のソレの何十倍もあるのだ。海流やら気候やらが大異変を起すのは確実。

それだけでも恐ろしいのに、それでもし邪神が召喚され、それを核で撃退仕切れなかった場合。……俺が放射能汚染地域に飛び込んで邪神と戦うのか? 宇宙活動前提な存在に変質しているし、放射線事態は別に問題ないのだが、流石に気分的な問題で嫌なんだけど……。

『束さん光って爆発するグールとかデスククロー先生が闊歩する地球なんてヤだよ!?』

「それは不味い。つまりそれまでに事を済ませるべきだと」

しょーゆーことー、と引き攣った表情で告げる束さん。いざとなればミサイルをジャックすれば良いとも考えられるが、然し『核ミサイルが発射された』という事実が生まれたその時点で不味いのだ。

「もう余裕は無いか。……ラグーン商会の皆さん、此処で契約満了としたいのですが、宜しいですか?」

「そりゃ此方としては宜しいんだが、道案内は良いのかい?」

「ええ。これだけデータが有ればあとは此方で何とかします。勿論、報酬は全額で」

ダッチ氏の言葉にそう返しながら、格納領域から更に札束を取り出して机の上に置く。

「ヘィヘィ、アタシのモンスターハントは無しかよ」

「言ってる間に始末をつけないと、ロアナプラが世界地図から焼滅しかねないんだよ」

怪訝そうな表情を浮かべるロアナプラ商会の面々。が、もう正直面倒なので説明する心算はない。……と、そうだ。

「ベニーさん、これ上げる」

「……まっ、マジかい!? いいの!?」

「どうせ半年後には日本でも発売するし、ソレまでは修理も出来ないから玩具にしか使えないけどね」

「有難う! この恩は忘れないよっ!!」

はしゃぐベニーを見遣り、次いで視線をダッチ氏に戻す。

「ダッチさん、お世話になりました」

「ま、正直電話を掛けただけで今一仕事をした気分じゃないんだが……またのご利用をオマチシテイマス、ってな」

「レヴィさんとロックさんも。お世話になりました」

「お~」

「事情はよく解らないんだけど、キミも気をつけて」

其々と軽く握手を交わして早々にラグーン商会の事務所を後にする。

目的地の位置情報を参照し、GPSでナビゲートを開始。その手続きを始めると同時に、周囲に点在する高強度字祷子反応を確認。

ハイパーセンサーを介して周囲を確認すると、黒いローブに身を包んだ巨大な人型が数体、事務所の入ったビルの出入り口、その周囲を囲うように配置されていた。

さすがはロアナプラと言うべきか、周囲一体はつい先程までの混沌とした賑わいは何処へやら、地震を予知するナマズの如く周囲からは人の気配というモノが綺麗さっぱり消えうせていた。

「探ってるのが勘付かれた? 根が広がってるか。 ――アークプリズム!」

声と共に光が溢れる。左腕に装着された赤と白のツートンカラーで彩られた腕輪、アークプリズムが待機状態から量子変換され、フォトンと共にその姿を顕現させる。

僅か0.05秒で蒸着、もとい変身でもなくて、装着を終えたアークプリズム。身体は自然と宙に浮き上がり、その姿は現在の身長140センチ強のソレから2メートル近い巨大な機械の物となって。

「…………ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

「う゛お゛お゛お゛お゛お゛――」

と、周囲の黒ローブが唸り声を上げて此方に襲い掛かってきた。

即座にレーザー手刀を一閃。黒ローブは笠懸に両断され、その未舗装の地面へと崩れ落ちる。

「ぅぇ、何かと思ったらゾンビか……」

そうして崩れ落ちたローブのしたから現れたのは、半ば腐乱し崩れ落ちた人体の姿。人に扮するならグールか寄生型、もしくは変装型かとおもったんだけど、よりにもよってゾンビか……。

そのグロい姿にかなり気分を悪くしつつ、更にこれが相手の兵力なら、間違いなくこれから乗り込む先にはもっとたくさんのコイツラがうようよしているのだろうな、と考えて尚更憂鬱に成る。

とりあえず、お前等は殲滅する。

ハイパーセンサーで敵対目標を視認。その射線を確認し、格納領域から呼び出したビームガトリングを即座に起動。

オルタ(対魔能力)を纏わせ、尚且つ最低出力(対人出力)。そうして唸りを上げるガトリングを振り回し、四方八方にビームを撃ちまわす。

そうして放たれたビームの弾幕は、其々が狙い違わず全ての黒ローブゾンビに直撃。その邪悪なのろいに縛られた器を、オルタを纏う苛烈な熱量に焼かれ、まるで元からその場に存在などしていなかったかのように綺麗さっぱり消え去っていった。

「焼毒完了、ってか」

「ヒュー、マジモンのゾンビだ!」

「……嘘だろ。此処は何時からロメロの映画の世界になったんだよ……」

綺麗にゾンビを消し飛ばしたガトリングの砲身を冷却していると、背後からそんな声が聞こえてきた。

どうやらお見送りに出てきてくれたらしいその二人の姿。けれどもその表情は、方や口元がニヤつき、方や顔色を真っ青に染めて何処か遠いところに視線が向いている。

「然し、綺麗に消し飛ばしちまったな」

「ああでもしないとな。ゾンビだし、頭吹き飛ばした程度じゃ普通に起き上がってくる」

「マジかよ……」

ニヤニヤが止まらないレヴィと、ガクブルが止まらないロック。そんな二人に今度こそ別れを告げて。

「それじゃ、また機会があれば」

「ひひひ、またのご利用を、ってな!」

「出来ればもうこんな所には来ないほうが良いと思うんだけどね……じゃあね」

笑う(といっても片方「嗤う」で片方「引き攣った笑み」)二人に軽く手を振って、アークプリズムの出力を上昇させて、そのまま目的地へ向かって空へと翔け出した。

 

 

 

 

 

 

 

目標地点近隣に到達したことを確認し、その時点から特殊光学霊子迷彩を起動する。

アークプリズムに新たに装備されたこの機能は、機械による光学迷彩に加え、言ってて胡散臭いのだが、生物の持つ霊的なエネルギー、ひいては字祷子反応を誤魔化す能力があるのだとか。

まぁ大丈夫だとは思うのだが、この霊子迷彩によって字祷子反応を抑える事で、字祷子を扱う魔導師の直感、第六感のセンサーをすり抜ける事ができるのだとか。

俺も気配を抑える訓練はしているのだが、この霊子迷彩と組み合わせてしまえば「目で見ているのに其処に居ると認識できない」というとんでもないレベルでの気配遮断が可能となる。

とまぁ、そんな状態で目的地の敵T∴D教団の拠点にたどり着いたわけなのだが。

「大きい……」

目の前に見えるのは、薄暗い霧に覆われた巨大な洋館。何でタイに洋館なんだ、とか思いつつ、霧の中をハイパーセンサーで探索。

……うわ、いっぱい居る。

熱反応は無いのに移動する人型の影――多分ゾンビだと思う。

熱反応はあるけど、異常な程の熱反応を見せる巨大な人型――何処のB.O.Wだ。

熱反応はあるが、頭が真っ二つに裂けた犬のような姿の何か――だから何処のB.O.Wだと。

もう既にいやな予感はビンビンなのだが、とりあえずさっさと目標を探し出して救助、然る後にこの場所を焦土に還すべく、迷彩を掛けたままISの展開状態を部分(陸戦)展開に変更し、こそこそとその洋館に忍び込んだ。

忍び込んだ洋館の中には、顔色の悪い(多分ゾンビ化はしてない)黒ローブが定期的に巡回しているらしい。あれはそのうちゾンビ化なり発狂なりしそうな顔色だ。

そんな事を考えながら、この洋館の中をハイパーセンサーで探査する。宇宙空間で生活する為に特殊素材を用いた構造体で出来ている、とかならまだしも、ただの西洋建築の建材程度でハイパーセンサーを如何にかできる筈も無い。

サラッと探索した結果、どうやら件の大統領令嬢とやらはこの建物の二階奥の部屋に幽閉されているらしい。

こういうのはテンプレなら地下牢だろうと思ったのだが、そっちのほうにはなにやら真っ黒な模様のついた牢獄やら蠢く巨大な何かが居るようで。ミナカッタコトニシヨウ。

とりあえず建物の中に侵入したはいいのだが、さて此処から如何やって二回の件の部屋に行くべきか。

通路は鍵の掛かったドアで遮られ、その奥には巡回の歩哨がウロウロしているし、見付かればあのゾンビなりを此方に嗾けてくるだろう。そうなったところで俺自身は大丈夫なのだが、問題は救助対象。荷物を抱えて乱戦なんて冗談ではない。

どうしたものかと考えて居る内に、今居る正面ロビーに巡回が来たらしい。とりあえず正面ロビーから見える小部屋に身を隠す。中に誰も居ない事はハイパーセンサーで確認済みだ。

さて如何しようか。巡回が居るし、ああいう広い部屋では余り目立つ事はできない。こういう洋館は多少の物音は問題ないのだが、見付かってしまうのは大問題。

どうしようかと考えて、ふと思いついた。そうだ、ドアの鍵とか無視できるなら、正面から突っ込んでは如何かと。

まぁ当然このプランは却下だ。俺がむこうにたどり着くまでの僅かな時間に、大統領令嬢とやらが人質に取られる可能性がゼロとは言い切れないのだから。

然しこの考えは一点において天啓のような物を齎した。それはつまり、『固定観念の破壊』と言うものだ。

『ドアに鍵が掛かっている→鍵を探す』ではなく、『ドアに鍵が掛かっている→ドアをぶっ壊す』という考え。

とんでもない考えではあるのだが、考えてみればある意味当然だ。緊急時で急いでいるときに、なんで態々鍵つきのドアの鍵を探すなんて面倒な真似をしなきゃいけないんだ。ぶち破れば良いだろう。

しかしそう考えると、これは考えるまでも無くヌルゲー、イージーモードと言うやつなのではないだろうか。何せ俺にはISが、アークプリズムがあるのだから。

――そうと決まれば行動だ。

先ず最初に、ハイパーセンサーで壁の向こうを探査。ひと気の無い隣室を探し、其処に向けて壁に穴を開ける。

低出力のリフェーザー砲で溶けた壁の穴を通り、次の小部屋へ。穴自体は本棚なりロッカーなりを移動させてカムフラージュさせておく。

そうして小部屋から小部屋への移動を更に何度か続け、偶に歩哨の目を盗んで廊下を渡り、そうしてたどり着いた目的地。

「よし、此処から上へ……」

真上へ向けてリフェーザー砲を低出力で打ち抜く。途端に消し飛ぶ天井を確認しつつ、PICでゆっくりと天井の穴へ向けて飛び上がる。

そうしてたどり着いたその部屋。つまり、『大統領令嬢の監禁されている部屋の中』というわけだ。

――廊下も糞も無く、目的地まで穴を開けて突き進めば良い。

まさにカミナ式、いやラガン式、ドリル思想でもいいか。とりあえずそんな感じで目的地へ到着したのだ。

「だ、誰……?」

と、そんな事を考えていると此方に声が掛けられる。視線を向ければ其処には、此方に向けて身構える金髪少女と青髪の少女が――ってあれ? 二人居る?

「篠ノ之博士配下の人間――で解るかな?」

「ならその鎧はIS……って、男? だ、男性操縦者!?」

と、青髪の少女のほうがそんな事に気付いたらしく、小さく声を上げた。もう説明は面倒くさいので省略するとして、とりあえず向こう側に尋ねておこう。

「此方の情報だと、捕らえられたのは大統領令嬢だって話なんだけど……」

「私は、更識刀奈……」

「カタナ? いや、更識って、日本政府の暗部の?」

「知ってるの?」

更識――日本政府における暗部を担う一族で、政府関係者の護衛や海外からのスパイの始末など、表沙汰に出来ない仕事を担う一族。一応ISの原作知識、殆ど使ってないヤツだけど、そこにも更識と言う言葉は出てくる。

あれは確か更識楯無と簪だっけ? カタナなんて名前は知らないし、多分本編には関係ないキャラなのだろう。

確か姉の楯無がお姉さん系キャラで、妹がオタ系ボッチ。年齢的には逆算すると姉のほうに近いのだが、このガクブル少女とあのお姉さん系キャラでは結構違うように感じるし……。別に一族が本家直系しか居ないなんて誰も言ってないし、多分血縁とか分家とかそんなところなのだろう。

二人の話を聞いてみたところ、彼女等はハイジャックを受けた後、護衛の面々は殺され、二人だけがこの場所へと連れ込まれたらしい。

因みにカタナ嬢は、更識の娘としてアシュリー嬢の護衛……という名目での顔合わせとして引き合わされたのだとか。

「まぁ、一応。俺は――オルタと名乗ってる。この機体はアークプリズム」

「私はアシュリー。アシュリー・グラハム」

そういって手を差し出してきた金髪の大統領令嬢。……アシュリー・グラハム? 何処かで聞いた覚えが……。

「それで、ミスター・オルタ、私達の脱出をコーディネートしてくれると考えて良いのかしら?」

「ああ。というかソレ目的で此処まで来たわけで――それで、キミ達の他に捕まってる奴は?」

「…………」

沈痛な表情で首を振る二人。目的の二人以外は皆殺しってか。――ん? だれか来た。

「お嬢さんがた、そろそろ儀式の祭壇に――何者だっ!?」

話の途中、不意に扉が開く音と共に割り込んできた人間が一人。即座に低出力・オルタ・リフェーザー砲で一撃。高熱とオルタの力に焼かれた男性は、そのまま一瞬で灰となって消えうせた。

「「「ど、導師様ぁぁぁあああああ!!????」」」

「……あれ? 何かいきなりボスっぽいヤツだったかな?」

「というか貴方、余りにも容赦無いわね」

アシュリー嬢からのそんな突っ込みを受けつつ、ついでに撃ちぬいた奴の傍に控えていた二人も撃っておく。

とたんに周囲から悲鳴が響くが、その声に反して此方に近付いてくる動体反応は無く、逆にこの部屋から遠退いていく気配が1~2つ。逃げたかな?

「それじゃ、さっさと此処から逃げましょうか」

「ど、如何やって逃げるの?」

「良くぞ聞いてくれました!」

リフェーザー砲の出力を調整。光り輝くリフェーザー砲の薄紅色の輝き。放たれた途端それは屋敷の壁を二枚、三枚と貫いて、その果てに見事屋敷の外壁を貫き、外の景色を遠目に見せていた。

「わぁ、見事な力技」

「う、うわぁ……」

アシュリー嬢とカタナ嬢が何か言ってるが、どうせこの建物は中の人間ごと消し飛ばすのだ。先に多少損壊させたところで問題は無いだろう。

次いで準備を整え、ISの展開状態を陸戦部分展開から完全な展開状態へと移行する。途端身体が浮き上がり、脚部に大型スラスターが展開される。

「お嬢さんがた、悪いけれども、何処か適当にしがみ付いてくれるかな?」

「え、ええ」「…………」

少しためらいがちなアシュリー嬢と、何も言わずに腰にしがみついてくるカタナ嬢。

PICを調整し、二人に負荷が掛からないように注意を払いながら、リフェーザー砲で空けた風穴を通って屋敷の外へ。

 

そうして飛び出した屋敷の外。そのままふわりと高度を上げて、上空から見下ろした屋敷は次第にざわめきを増していく最中、といったところ。けれども俺の目的としては、このざわめきが小さいうちこそが望ましい。

「よし、二人とも、確り掴まっておくように」

「ちょっ、何をする気!?」

「浄火する!!」

右腕リフェーザー砲の射撃モードを拡散に設定。出力最大、オルタをプラス!!

ヴヴヴという低い唸り声のような音。オルタの輝きが空間自体に強い圧力を掛け始めている。

「さぁ、消し飛べ!!」

ギュォォオオオ!! という、まるでアニメのSEのような響きと共に放たれる黄金色の野太い光線。放射状に放たれたそれは、次の瞬間件の屋敷を覆いつくすようにして着弾し、屋敷はその黄金の光に完全に飲み込まれてしまった。

数秒、黄金の光に中てられた屋敷。光が収まった頃には、つい先程まで屋敷と庭があった空間は、最早その跡形も無く。ただただブスブスと焼け焦げた土と灰が堆積しているだけだった。

……いや、屋敷(跡地)の中心に何かある?

屋敷をまるごとリフェーザー砲で消し飛ばしたのだ。幾ら拡散して威力が分散していたとはいえ、地上に存在する純マテリアルが形を残していると言うのは不自然。本来なら綺麗な竪穴になるはずなのだが……もしかして、始末しそこねた?

見ているうちに屋敷(跡地)の中心にあった黒い塊は、徐々にその表面をボロボロと崩していく。

次第に姿を現していくそれ。見知った物で例えるのであれば、それはミミズに似ていた。ピンク色で、土を食って畑を肥やすというあのミミズだ。

……ただし、全長が20メートルを超えていて、頭には物凄い数の触手がうようよと蠢いていたが。

「な、ナニアレ!?」

「また気持ち悪いのが出てきた……」

えーっと、なんだったか、確かあの怪物、C系モンスターだ。確か、クトゥーニアン……だっけ? 邪神そのものならともかく、怪生物とまでいくと……萌え系のクトゥルフ神話辞典とか買っておくべきだったかな?

少し強めにオルタを展開し、抱きついてくる二人をあふれ出す瘴気から守りつつ、その巨大なミミズを睨みつける。

「束さん束さん」

『もすもすひねもす、みんなのアイドル、大・天・災!! の、束さんだよんっ!! なになにどしたのまーくん!!』

「束さん、クトゥーニアンって知ってる?」

『モチのロン! タンピンドラドラ!! えっとアレだよね、触手モチのミミズみたいなの』

「弱点ってわかる?」

『……え゛っ、出たの?』

と、それまでの西博士ばりのハイテンションから一転、奇妙なまでに声を上擦らせた。

何事かと思って問い掛けて、返ってきた言葉を聞いて此方まで血の気が引いてきた。

『クトゥーニアンの弱点は水か放射線。幼生なら炎も効くらしいけど、あんまり期待できないよね。気をつけるべきは精神攻撃。直視のSAN値チェック以外に相手を混乱させる毒電波を出してくるみたいだよ!』

「放射線っておい……」

『要は体力値にプラス特殊装甲があるんだよ。その装甲を壊す手段が水か放射線、だと思うんだけど……』

束さんに礼を言って意識を戦場に引き戻す。道理で此方のリフェーザー砲が通用しなかったわけだ。が、弱点がわかってしまえば此方のもの。

さっさとあの巨大ミミズを駆逐してしまおうと考えたところで、不意に視線の先の巨大ミミズがピクリと動き始めた。何事かとミミズの触手が伸びる先を見てみると、其処にはガンベルトを身体に巻いて、呆然と巨大ミミズを見上げる金髪の男性が一人。

「レオン!?」

と、俺に抱きついていたアシュリーが不意に声を上げた。どうやら知り合いらしい。お迎えかな? とか思いつつ、ふと気付いた。

……そうか、バイオだ!

今回クロス多いな、なんて思いつつ、とりあえずレオン氏を回収すべく彼に向かって移動を開始する。二人も抱えての移動のため、慎重を期して少し遅めの飛行。けれどもそんな俺達の視線の先で、事態は更に進んでいく。

どうやらレオン氏をターゲットと定めたらしい巨大ミミズ。その触手をバチンバチンと唸らせ、レオン氏に襲い掛かったのだ。

唸る触手が瓦礫をぶっ飛ばし、そのままレオン氏を吹き飛ばそうとしたところで、レオン氏が華麗にその場を飛び退いて回避する。うーん、見事。

「きゃー!!! レオン!! ちょっとアナタもっと早く飛びなさいよっっ!!」

「んな無茶な!!」

今現在、俺は普通に飛行しているのに加え、二人の少女を抱え、更にPICを調整して二人を与圧、オルタを展開し彼女等を瘴気から守っているのだ。この状態でこれ以上機敏に動けと言うのは流石に無理が有る。

……と、そんな事を考えながらゆっくりとレオン氏に向かって飛行する最中。レオン氏は遅い来る触手をショットガンで迎撃し、なんとクトゥーニアンを怯ませる事に成功していた。さすが主人公、と変なところで関心を覚えつつ、けれども再び動き出したごんぶとミミズ。

――やはり弱点を突かない限り殺すのは不可能か。

視線の先で徐々に押されて行くレオン氏。このままでは間に合わないか……。

「よし、ちょっと急ぐ。二人とも確り掴まっておけよ!!」

「いいから早く! GO!GO!GO!!」

「へ、ちょ、きゃあああああああ!!!!」

はやし立てるアシュリーに、可愛らしい悲鳴を上げるカタナ。加速した事で二人を押さえつける力が若干弱まったが、けれども今度こそ触手につかまりそうなレオン氏を先に捕まえるにはこの速度でもギリギリなのだ。

「まにあえっ!!」

視線の先で打ち放たれるごんぶとミミズの触手攻撃。ソレを回避しながら、レオン氏の胴体をラリアット気味に回収!!

ドンッ、という音と共に右腕の中に納まったレオン氏。酷く咳き込んではいるが、どうやら無事ではあるようだ。

「失礼。肋骨に皹くらいイッたかもしれないけど、死ぬよりはましだろ?」

「キミは――「レオン!!」――アシュリー!?」

「ちょ、暴れるなっ!!」

アークプリズム、というか俺の身体の上を伝って、互いに無事を喜び合うレオンとアシュリー。けれども此方としては一人用のISに余分に三人も乗せて、結構気を使ってバランスを取っているのだ。

必死に制御を取りつつ、レオンを回収したまま一気にその場から距離をとる。

「ちょ、キミは――ISを男性が!?」

「もう説明はしないぞ!! 篠ノ之博士配下の人間だ! このままあんた等を離れたところまで運ぶから、一刻も早くこの町から撤退しろ!」

「ちょっと、アナタはどうするのよ!?」

「アレの始末をしなきゃならんでしょ」

言いつつ視線をクトゥーニアンに向ける。天壌へ向かって禍々しい咆哮を上げる極太ミミズの怪物。あれを放置した結果、ロアナプラがミミズに制圧されました、なんてことに成ったら洒落にならない。

故に、そして何より、俺の最大の目的は地上を侵す邪悪の駆逐。いや、正確には、遠縁成りとも俺の平穏な日常を壊す要因の排除。全ては俺が平穏な日常を謳歌する為に。

その為に、取り敢えずはこの三人を無事に其々の家(ホーム)へ還す必要がある。

とりあえずそこそこひと気のある地域に戻ってきたところで、レオン氏に1000ドルほど渡し、これをつかってロアナプラから脱出するように言っておく。因みにラグーン商会を推薦しておいた。

「よし、それじゃ俺は現場に戻る。ちゃんと家に帰れることを願ってるよ」

「ええ、有難う。貴方も無事で」

「オルタさん、ありがとうございました」

礼を言う二人に軽く手を振り、最後にレオン氏と頷きあって、再びその場から空へと飛び上がる。

「……不味いな、段々人口密集地区に近付いてきてる。急がないと」

先ず最初に、大急ぎで向かったのは、クトゥーニアンから真逆の方向。ロアナプラの街を飛び越えた先、其処にある海。

勢いをそのままに海へ突っ込み、海水を一気に格納領域へと取り込んだ。

突然周辺から水が無くなった所為か、かなり水流が乱れ、若干体制が乱れてしまう。が、なんとか体勢を立て直すと、再び海中から空中へと離水。そのまま今度こそクトゥーニアンの元へと飛び出して。

「さぁ、コレでも喰らえ、なんちゃってウルトラ水流!!」

言いつつ、アークプリズムの格納領域から、その中に取り込んでいた海水を思い切りぶちまけてやった。

――ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

甲高い悲鳴のような声をあげて悶えるクトゥーニアン。海水を浴びたその身体は、まるで焼け爛れたかのようにシュウシュウと煙を上げて。

先程までのその光沢を持ったピンク色の肉体は、然し最早ドロドロに焼け爛れ、あのリフェーザー砲を防いだ時ほどの強度は最早有り得ないだろう。

――今なら、奴を倒せる!

全開放し、共振し増幅されたオルタの輝き。それをリフェーザー砲へと収束させる。

通常砲撃モードで戦闘出力。下手に収束させる必要は最早無い。

ピンク色の粒子共振エネルギーが、オルタの輝きで黄金色に染まっていく。

「さぁ、今度こそ、久遠の虚無に還れ!!」

ゴッ、という音と共に噴出す黄金の輝き。解き放たれたその光は、有象無象の区別無く、その射線上の一切を飲み込んで。

その迸る輝きの奔流。先の一撃とは違い、威力が拡散しておらず、尚且つそれを受けるクトゥーニアンは水によって身体中を大きく傷つけていた。

そんな状態ではご自慢の特殊な防御能力も上手く動かない。クトゥーニアンのあげた奇妙な悲鳴のような鳴き声は、然し黄金の濁流に飲み込まれ、音すらも逃すことなく完全にこの世界から消滅したのだった。

 

 

『レオン・S・ケネディー含む三人はまーくんの指示通りラグーン商会と接触。そのまま陸地沿いにタイを脱出しようとしてたんだけど、その途中で米軍の部隊に回収されたみたい』

「つまり、無事に帰還できた、と考えても?」

『うん、良いとおもうよ。まぁ、米軍の空母が突如クトゥルーの餌場から伸びてきた触手に襲われて深き者共と一緒に海深く沈んじゃうなんて可能性も皆無じゃないけどっ!』

「んな飛行機の墜落事故並の確立の話されても……というかそういう話はやめてくれ。フラグが立ちかねない」

クトゥーニアンを完全に消し飛ばし、更に滅菌消毒。字祷子反応が完全に消滅した事を確認し、その時点で漸く追いついてきたTPCの部隊に現状を引きついた。

まぁ引き継いだとは言っても、纏めたデータをネットワーク経由でTPC本部と現場の作戦部隊に送信しただけなのだが。何せ此方は非公式の私設戦力なのだ。あまり堂々と顔見世するわけにも行かない。

「然し、邪神崇拝教団、本気で怪物を飼ってたとは……」

『解ってた事なんじゃないの?』

「知ってるって言うのと、実際見るのとじゃ、大分違う、かな」

何せ人間とあの手の怪物は絶対的に相容れない。何故なら連中は人間を知的生命体として認めていない。精々塵か埃くらいの現象の一部くらいにしか見ておらず、寧ろ人類を認識しているのなら、それはそれで凄い事だと思う。

……いや、人間を認識されてしまうと、それはそれでどこぞの這い寄る混沌みたいに嬉々として人間で遊び始めるかもしれないので、知られるという事も考え物なのだが。

「――束さん」

『どしたの?』

「少し、ペースを上げた方が良いかもしれない」

脳裏に過ぎる強い感覚。それは危機を知らせるアラート。クトゥーニアンを倒した辺りから、また少し強まったその感覚。

――そう遠くない内に始まる戦いの予感。

半ば以上ヒトをやめている俺の直感は、一種の超能力染みた物でもある。そんな俺の直感から来る言葉を聞いた束さん。言葉にならない危機感というモノを理解してくれたのだろう、小さく確り頷くと、いつものようにニコニコ笑って。

『おーけーおーけー、なら束さんは一層ハードにヒートしちゃいましょーか! ホーキちゃんやイッくん、ちーちゃんの平和を守る為に!!』

そんな束さんのさり気無い気遣いに内心で感謝を述べて。

最後に、クトゥーニアンの在った、リフェーザー砲の高熱により生み出されたそのクレーターを睨みつけて。

何時訪れるとも知れない“次”に備える為、海底基地へと転移するのだった。

 




■真理への扉教団T∴D
ロアナプラに逃げ込んだ厨二病クサい魔術結社。元々某国で活動をしていた物の、同国の探索者に教団本部を『焼き討ち』に逢い逃げ出した。
人の生き胆を喰うことで不老に成り、更に喰った人間はゾンビに。
究極的な目的は『クトゥーニアン』を触媒とした『門にして鍵たる神』の招来であったが、潰されて弱体化した直後に追い討ちを喰らい、文字通り問答無用で完全に消し飛んだ。
・導師
何の出番も無く一瞬で粒子共振砲によって影も残さず蒸発した人。他の魔術結社と情報交換をしたりと中々のやり手では有ったが、相手が悪過ぎ尚且つ時期を見誤った。
・狂信者
導師が消し飛ばされて混乱しているところをリフェーザー砲によって影も残さず消滅した。
・クトゥーニアン
目の無いイカ、もしくは触手を持つミミズ。繁殖能力は低めで、そのため卵を必死に守る習性を持つ。デカイ、グロイ、キモイの三拍子を併せ持つクトゥルフモンスターの中でもそこそこヤバめ。本来は門にして鍵たる神を召喚する為の触媒に用いられる筈であったが、教団が消し飛び事由の身に。その後完全な自由を得るために真幸に挑むも、相手が悪く、弱点の水で装甲をはがされた後、光に飲まれて巣ごと蒸発した。
■更識刀奈&アシュリー・グラハム
誘拐されていた少女達。日本にお忍びで訪れていた大統領令嬢と、その護衛として日本側から配置された少女。
真幸は原作の大雑把な流れ、それもアニメ一期くらいまでしか確りとは覚えていません。
・レオン
某国に属するエージェント。大統領になりそうな名前をしてるとか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。