窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】   作:朽葉周

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16 真幸vsギル

 

 

(さて、本当に一夏が勝っちまったわけなんだけど……)

まさか原作ブレイクに成功してしまうとは、と小さく胸の内で呟いた真幸。

確かにこの世界は既に原作など表面的な部分でしか残っていない。そもそも本来のISにおける原作世界には、当然怪獣も宇宙人も存在せず、インフィニット・ストラトスとは宇宙活動用のパワードスーツなのだ。

ところがこの世界には、怪獣がいれば宇宙人もいて、ISはそもそもからしてそういった人類の脅威に対する切り札、『兵器』として開発されている。

根本的なところが大きく違うこの世界。形骸しか残らない原作だが、逆に言えば形骸は残っているのだ。

実際セシリア・オルコットとのクラス代表決定戦は開催されたわけだし、形骸的には『原作』がこの世界にも適用されるのだろう。

だというのに、一夏はこの『原作』を見事に破って見せたのだ。無論俺達の干渉による物もあるのだろうが、それでもソレをやってのけるには一夏自身の努力が大切なのだ。

居や此処は原作が如何こうと言うよりは、男を見せた一夏こそを称えるべきだろう。

と、そんな事を考えている真幸の視線の先。競技場からピットに向けて帰還する白の機体。白桜はそのままカタパルトデッキに着陸すると、淡い光を残してその姿を消し、後に残るのは一夏一人。

「おう、勝って来たぞ、千冬姉ぇ、箒」

「良くやった一夏っ!」

「まぁ素人にしては及第点だが……良くやった」

いつものムッツリした表情をどこかに放り投げた篠ノ之箒の賛辞と、逆にツンデレ丸出しでそう告げる織斑千冬。

そんな二人に苦笑を返し、一夏はその視線を真幸へと向けた。

「おぅ、ちゃんと勝ってきたぞ」

「ん、初戦にしては上出来だ。白桜のこともちゃんと信じられたみたいだしな」

言いつつ真幸の視線は一夏の左腕に向けられる。其処には、手の甲から腕を覆う白く流麗なデザインのガントレットが取り付けられていた。

「ああ。お前の言う通り、俺一人じゃなくて、白桜との二人三脚だったから何とか成った、って感じだよ」

言いつつ、白桜の待機形態である白のガントレットを撫でる一夏。と、途端に白いガントレットに桜色の光のラインが奔る。それはまるで撫でられた事を喜ぶ犬の尻尾のようにも見えた。

「んで、だ。次はお前の番だぜ、真幸」

「ん、あぁ、そう言えばそうだったな……」

「そう言えばっておま」

一夏にそう返された真幸は、如何した物かという風に頭をポリポリと掻いてみせる。

「なんだ木原、こうして一夏が勝って見せたのだ、それに続かんとするのが漢と言うものだろう!」

「いやぁ、そうは言われてもなぁ」

一夏の勝利に燃え滾る篠ノ之箒のそんな言葉に、けれどもさすがに無理が有ると返す真幸。それも当然の意見で、真幸には専用機が無く、この試合においても宛がわれるのは多少カスタマイズされた量産型の打鉄なのだ。

本来真幸にはアークプリズムという愛機が存在している。最早ISとは言い難いその機体は、然し篠ノ之束直下で動く特機として一部界隈では有名になりすぎてしまっている。『木原』真幸としてIS学園に潜入行動を行なっている以上、一部に公開している情報であるとはいえ、出来る限り隠密に動くべきなのだ。

ならばアークプリズムではなく、別の専用機を改めて用意すれば良いのではないか、と言うことなのだが、それに関しては真幸の側が拒否してしまっていた。本人曰く「浮気イクナイ」である。

そうした経緯から、結局真幸は新たな専用機を用意せず、こうして学園の量産機を使う事になっているのだが……。

「打鉄で第三世代型の、それもイスラエルの最新鋭機と戦えってのはねぇ?」

「えぇい軟弱なっ!」

「うーん、そんなもんなのか?」

「…………」

憤慨する箒、唸る一夏、そしてなんとも表現し難い胡乱な視線を此方に向けてくる織斑教諭。そんな三人に苦笑を返しつつ、真幸はチラリと視線を時計に向ける。

「試合間の休憩時間も決まってるし、そろそろ俺は準備に移るよ」

「おぅ、頑張って来いよ!」

「ああ、怪我しない程度に頑張ってくるよ」

鼓舞する一夏に手を上げ見せた真幸は、そのままカツカツと足音を立てて、一夏たちのピットインから自らの機体が用意された場所へ向けて歩き出したのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「あ、真幸くん!」

そうしてたどり着いた場所。予め用意されていた真幸用の打鉄が設置されたその場所で真幸を出迎えたのは、真幸の副担任でもある山田麻耶であった。

「麻耶ちゃん、打鉄は問題なく?」

「はい、頼まれていた通りの反応速度重視のセッティングで、システム側はアレを入れておきました。それと学校では山田先生ですよ!」

「そだね麻耶ちゃん、アリガト」

「もうっ!」

プンプンと膨れて見せる麻耶に、クスクスと笑う真幸だったが、その視線を改めて室内に設置された台車、その上に鎮座する一機のISを見る。

濃緑色にカラーリングされた、日本の国産第二世代量産型IS『打鉄』。織斑千冬の搭乗機である暮桜を量産化を前提に第二世代機で構成された、防御重視の機体だ。

「アークプリズムが使えれば、態々こんな手間を取らなくても圧勝なんですけどねー」

「だから此処には潜入で来てるんだって。無理を言わない」

「でもですよ? 真幸君が篠ノ之博士直轄で、アークプリズムの搭乗者だって言うのは、最早暗黙の了解として知れ渡ってるじゃないですか」

「暗黙の了解はあくまでも暗黙の、なんだよ」

そういって麻耶を宥める真幸は、静かに用意された打鉄へと近づいていく。

山田麻耶と真幸。この二人、実のところを言うとIS学園で出会う前からの知り合いだったりする。それも、真幸やアークプリズムの能力に関しても一定の知識を得ているほどの。

素早く打鉄に乗り込んだ真幸は、手早く機体を起動させ、そのままシステム面をチェックしていく。投影される幾つ物ステータスメニューは、流れるようにその内容を次々と映し出していく。

「……ん、流石麻耶ちゃん。問題なく整ってるよ」

「えへへ、まぁそれくらいは普段から使いますから……ただ、モーションコマンドの方は本等に手付かずですよ?」

「それは問題ないよ。こっちは俺のお手製だしね」

言いながら真幸は更にシステム画面をスクロールさせる。そうして一分も経たないうちに全てのデータを確認し終えたらしい真幸は、そのモニターをプツリと閉ざしたのだった。

「よし、コマンドログの同期を確認。問題なくいけそうだね」

「ええっ、もう終わったんですか!? って、真幸君ですもんね」

言いつつ麻耶は真幸を誘導し、フィールドへ続くカタパルトへと打鉄を固定する。

後は麻耶が中央管制室へ連絡する事で、次の試合……第一試合勝者、ギル・モーゼスと、シード選手である木原真幸との戦いが始まるのだ。

「では真幸君、何か問題が無ければ準備完了の合図を送りたいと思いますが、まだ何か有りますか?」

「全てよし。何時でもいける」

「それでは――ンンッ、此方第五ピット、山田です。ま、木原君の準備が整いましたので確認お願いします」

『此方中央管制、はい、確認しました。モーゼス君も準備は出来ている様なので、それではコレより試合を開始します。選手の方にお伝えください』

そんな通信が有って、会場では第三試合の開始が放送で宣言される。

「真幸君、頑張ってくださいね!」

「まぁ、負けない程度には」

「またまた、“MCP”まで持ち込んで、勝つ気は有りますよね!」

「……ま、無様は晒さないさ」

そうして会話が途切れたところで、フィールドから響く試合開始の合図。

「んじゃ、行ってきます」

フィールドを睨むように見据えた真幸。誰に言うでもなく零れたような呟きを残して、瞬時に機体は加速する。

そうしてカタパルトによって打ち出された真幸の打鉄は空高く舞い、フィールドの中央へ向けて飛びあがる。

 

「来たか真幸」

フィールドの中央。腕を汲み真幸を待ち構えていたのは、一回戦勝者であるIAMI所属のギル・モーゼス。搭乗機は、白を基調に蒼と黒でペイントされた機体『ソルグレイブ』。

けれどもその機体を知る者が見れば、きっと誰もがこういうだろう。あれはフリーダムだ、と。

「ああ。ソッチは解りやすい機体だな」

「だがそれ故に脅威も伝わるだろう? シンプルな火力と機動性! そこに俺が加われば、このソルグレイブは無敵に成る! お前こそ、見たところそれは量産機の打鉄みたいだが、それで戦えるのか?」

ギルに問われた真幸はニヤリと笑うと、その手の中に一本の武装を顕現させる。

それは巨大な大剣だ。全長三メートル、大型のIS程も有ろうかと言う片刃の大剣だ。その巨大な大剣をみたギルは、虚を突かれたかのように目を丸くして、呆然とそれを見つめる。

「確かに、量産機で専用機に抗するのは難しい。でも、不可能ってわけじゃないんだぜ?」

――第二世代特殊兵装、イグニッションバスター(偽)。

第二世代型IS用に開発された汎用装備。その最大の特徴は、大剣の背に設置されたエネルギースラスターだ。

IS本体から微量のSEを供給する事で、この大剣はただ振るうだけでは実現し得ない強烈な斬撃を与える事ができるのだ。

本来は対怪獣戦において、第二世代型の火力不足を補う為に開発された装備で、剣のスラスターを利用した加速斬りに加え、ブレード部分にエネルギー刃を展開することで更に火力を上げる事ができるのだが、さすがに試合では過剰戦力という事で、(偽)……つまりエネルギーブレード部分に制限を掛けているのだ。

「まぁ貴様の事だ。只々闘うわけが無いとは思っていたが……」

「フフン! さぁ、言葉は一先ず此処までに。あとは闘いで語れば良い!」

そう言って大剣を構える真幸。既に準備は万端とばかりに武器を構えるその姿は、言い表しようの無いすごみを放っていた。

けれども、だが然し! そんな真幸に相対するのは十把一絡げの雑魚ではない。彼に相対するのは、自らを鍛え、自身と誇りを持って剣を駆る事を選んだ男なのだから。

「良かろう、成らば篤と見せよう! オレと、我がソルグレイブの力をっ!」

それはまるで舞台劇場で舞い、スポットライトを浴びて王を演じる役者のようで。真幸のスゴ味に圧されるどころかそれを圧し返さんとするかのように、威風堂々と武器を構えるのだった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

そうして最初に動いたのは、ギルの駆るソルグレイブだ。抜き撃つようにして顕現するビームライフル。その顕現を感知した真幸は、即座にその場から真横に飛び退いた。

バシューン! という独特の発射音が観衆に届く中、真幸はそのままスラスターを点火。瞬時加速(イグニッションブースト)によって一気にその距離をつめる。

「ちっ!」

そうして振り下ろされる必殺の一撃。巨大な質量の塊が、更に刀身の背に設置されたスラスターの推力に押されて加速する。

まるでその質量を感じさせないかのように圧倒的な速度で振り下ろされるその一撃。然しそんな一撃を、ギルはソルグレイブの背のウィング・スラスターをまるで羽ばたかせるようにして回避する。

「墜ちろっ!」

そうしてAMBAC(能動的質量移動)によって離れた間合い。その時間を利用したギルは、即座に腰部ジョイントからビームサーベルを引き抜く。

イグニッションバスターを振り下ろしたばかりの真幸はギルから見て隙だらけ。威力はあっても隙は大きいのだと即断した真幸は、開いた間合いを即座に詰め、そのビームサーベルを振りぬいた。

――バシィッ!!

「なにぃっ?!」

「甘い、イグニッションバスターは偏向スラスタなんだよ!」

まるで地面に突き刺した大剣を引き抜くようにして、振り下ろした大剣の腹でビームサーベルを受け止めた真幸。バチバチと音を立てる刃の接触は、然し次の瞬間真幸が大剣ごとギルを蹴り飛ばした事で中断された。

そのまま若干開いた距離。その隙間を縫うようにして大剣――イグニッションバスターを振り回す。轟々と風を斬り散らしながら振るわれるその刃を、ギルのソルグレイブは左腕に顕現させたシールドで受け流しながら、何とか距離をとって見せた。

「馬鹿な、偏向スラスタを武器に搭載した!? そんなモノ、第二世代機で如何やって操っているというのだ!?」

「その辺りは、企業秘密……まぁ、間をおいて公開されるまでのお楽しみだ」

ISにおける第二世代機と第三世代機の差異とは、イメージインターフェイスを利用した第三世代型兵装の有無に存在している。

このイメージインターフェイスによる第三世代兵装というのは、要するに思考コントロール……トリガーを引けば銃弾が放たれる、のようなロジカルなものではなく、例えばオールレンジ兵器のような、あるいは静止結界のような、人の認識を利用した多様性の高い兵器を指す。

イグニッションバスターと呼ばれる真幸の駆る大剣。単にスラスターが付いた武器だというのであれば、コレはトリガーを引けば良いだけの汎用兵器で、火力が大きいだけのパイルバンカー等の同類だ。

だが然し、此処に偏向スラスタと言うものが入ってくると話は変わる。偏向スラスタとは、要するに方向を変えられる推力器の事だ。

そんなモノを制御しようと思えば、ある程度の電子端末によって制御する必要があり、更にそれを実戦投入しようとすれば間違っても簡単なモノでは済まない。

――有るとすれば、イメージインターフェイスを利用した第三世代兵装なんだが……。

内心でそう考えるギルだが、同時にそれは有り得ないと断じる。

確かに打鉄のような第二世代ISにもイメージインターフェイスは搭載されている。が、それはあくまで搭乗者とISを繋ぐ『神経』のような存在として、だ。第三世代型はその神経を武装にまで伸ばす事ができるからこそ、なのだ。第二世代型に第三世代兵装が扱えないというのは此処が原因となる。

悩み躊躇するギルを眺め、ニヤリとほくそ笑む真幸だが、内心ではかなり冷や汗をかいていた。

実際のところ今の動きはかなりギリギリだった。ビーム兵器なんて、打鉄で喰らえば間違いなく一気にSEを削られて落とされてしまう。

そしてガードに関しても、ギルは特殊なイメージインターフェイスの利用法なんかを疑っていたのだが、実のところそんな複雑なものではない。

単純に、イグニッションバスターには幾つかの機動パターンが登録されており、真幸はそれらのモーショントリガーを適宜選んで動作させているだけなのだ。

ぶっちゃけこの『モーションパターンを使う』というもの、かなり自由度が低い。今のモーションで言えば、剣を引き戻す挙動を予め登録していたからこそ盾にすることが間に合ったが、仮に真幸が攻撃ばかりを考えて、『納刀』を考えて居なかった場合、間違いなく今のカウンターを喰らっていただろう。

――まぁコマンドを用意さえしていれば、『反応速度において劣る』という汎用機の弱点をある程度補う事もできるんだけども……。

ただ、使いすぎれば『読まれ』る。格闘ゲームでコンボパターンを読まれてしまうのと同じだ。故に多用は出来ない。

――やっぱり第二世代型汎用機と第三世代型専用機の差は大きいねぇ

技術者側としてある程度の知識は持っている真幸ではあったが、常に最新鋭機というか実験機なアークプリズムを駆っていた彼だ。改めて自らの身を以ってその差異を実感して、思わずそんな感想を浮かべていた。

「……ち、ええい! オマエが手強いと言うのは解っているのだ! ならば敢てその懐に飛び込み、内側から食い破ってくれるわっ!!」

と、互いに牽制しあいにらみ合う状況に、ついに我慢の限界が着たのかギルがそう咆えた。

ボッ、という音と共に瞬時加速で真幸との距離をつめたギル。

「なっ!?」

真幸にしてみればそれは不意打ちも良い所だ。第一試合、デイビッドとの戦いにおいてのギルの闘いは、その余りある火砲による空間砲撃――いや、寧ろ空爆といっても良い程の過剰火砲による殲滅戦だ。

明らかに対怪獣戦を想定したあまりの過剰火力。そしてそれを扱うギルは大げさに動くことなく、一箇所に陣取っての砲撃戦――セシリア・オルコットに近い、最低限の挙動で回避する、というタイプだと睨んでいたのだ。

ところがだ。瞬時加速などという近距離戦闘職の技能を使い、一気に真幸との距離をつめたギル。イグニッションバスターで近距離戦を牽制していた真幸にとっては意外性に溢れる選択肢だったのだ。

「ハァッ!!」

「ぬぐっ!!」

そしてギルのその選択は、真幸に対してベストとはいかずともベターな選択肢となった。

巨大な大剣を操る真幸。確かにそれは強力な武器では有るのだが、同時にかなりの面積を取ってしまうという弱点がある。

本来の使い道である対怪獣戦であれば、面積といっても対比としてたいしたものではなく、寧ろ小さなものと成ってしまう。が、殊IS同士による戦闘においては、至近距離に近付かれてしまうとイグニッションバスターはかなり振るい辛い武装となってしまうのだ。

振りかぶられたビームサーベルを辛うじて回避することに成功するが、然しギルはそのままの加速で距離を取り、振り向き様にビームサーベルを収納した。

「さぁ、砕け散れ!」

ガコンっ、という音と共にソルグレイブの姿が大きく変わる。デイビッドとの戦いで魅せたものではない。然し真幸はその姿に付いて別口での知識があった。

「フルバーストかっ!?」

レールガン、重粒子砲、ビームライフル。其々に一撃必殺レベルの威力を持つ高火力砲撃が、同時に真幸の打鉄を狙って放たれた。

真幸はそれを即座に回避。然し真幸単体ではなく一定の範囲を殲滅する心算で放たれたのだろうフルバーストは、ギリギリで回避し切れなかった真幸の打鉄、その片方のスラスターに直撃していた。

「グガッ!!」

ボッッ!! という轟音と共に爆発した背部メインスラスター。左側は直撃を喰らい、完全に大破していた。幸いと言うべきだろうか、右側のスラスターは誘爆することなく、その形を確りと残している。

(この辺り、流石防御力に優れたタイプ、なんて自称するだけはある)

スラスター同士が誘爆しなかった事に、内心でそう倉持研を称賛しつつ、真幸は改めてイグニッションバスターを構えなおす。

「諦めんか。それでこそ、ではあるが……」

「一夏相手にえらそうな事言った手前、そう簡単に諦められないんだよな、これが」

「まぁいい。ならばISの世代差が齎す圧倒的な差異、その身で知るが良い」

真幸の呟きに反応してか、ギルは高らかに歌う様に告げ、ソルグレイブを変形させる。その姿はまるで翼を広げた天使のようにも見えるが、然し同時にその姿の意味を知る者には脅威でしかない。

ギルの扱うソルグレイブ。当機建造に当って技術が共有された姉妹機に、米国との共同開発で生み出された『銀の福音』、そしてその第三世代型兵装『銀の鐘』。ギルの駆る『太陽の薙刀(ソルグレイブ)』には、コレと同系統の殲滅兵器である『銀翼の鐘』が搭載されているのだ。

イグニッションバスターを構える真幸。その視線の先では、翼に莫大なエネルギーを溜めつつあるギルの姿があった。

本来ならばこの『溜め』の隙こそを突きたい真幸ではあったのだが、ギルと真幸、ソルグレイブと打鉄の間にはかなりの距離が存在している。

打鉄には今回いくらかの豆鉄砲を搭載してきてはいるが、第二世代型の豆鉄砲など、少々SEを削る程度で、あの広範囲殲滅攻撃を阻止することは出来ないだろう。

(暫らく前線に出てなかったから鈍った……いや、言い訳だ。間違いなく、これは俺の油断だな)

仮にギルの攻撃を阻止できるとすれば、手持ちの武器の中では、矢張り唯一イグニッションバスターしかない。然し、イグニッションバスターを振るう距離まで移動しようにも肝心のメインスラスターが片方脱落。PICだけでは移動している間に撃ち落されてしまうだろう。

――詰んだ。真幸の理性がそう告げた。

(元々勝つ気は無かった。第二世代と第三世代の差もある。格闘型の打鉄じゃ汎用型のソルグレイブに相性が悪かった、エトセトラ……)

淡々と敗因を脳裏に羅列していく。一つ一つは決定的ではない。けれども、それら全てが揃えば、それは大きな敗因である。

故に、この敗北は仕方ない。しょうがないのだ――。

 

 

 

    ◇

 

 

 

――ほんとうに?

諦めようとした理性に、誰かがそう問い掛けた。

――本当に、それでいいのか?

問われれば是と答えよう。そもそも機体性能に差が有りすぎた。

世代の差もある。第二世代型と第三世代型では、兵装の汎用性、そして機体そのものの性能差も大きい。

――それを覆すのが操縦者の腕と言うものだろう。

第一、俺は勝つつもりなんて最初から――

 

……ああもう、ゴチャゴチャと五月蝿い!!

俺は何時からそんなに行儀よくなったっ!! 何時からそんなにメンドくさくなったっ!!

俺は今何を感じている! ココロは何を叫んでいる!!

簡単だ。『負けたくない』だ! 俺は、ギルに負けたくない!!

いや、もっとはっきり言ってやるっ!!

 

『俺は勝ちたいッ!!』

 

グダグダと理由をつけて、賢く負けるなんてのは俺じゃないだろうがっ!!

――けれども、今此処で下手に目立つのは……

んな事は知ったことじゃないっ!! フォローは後で考えろ!! ココロに嘘をつくなっ!!

 

何時の間にか硬く凍り付いていた理性に、『勝ちたい』なんて稚気に溢れる炎が吹きかかる。

そうだ。確かに世界には覆しようの無い、諦めるしか出来ないようなことだってある。けれども、今ココでの出来事は、諦める事しか出来ないような事態だろうか。いいや違う。ここでの諦めは、只の理由だ。

 

――理性は諦める為じゃなく、一歩前へ進む為に。

 

諦観なんてものは蹴って捨てろ、必要なのは背負う覚悟と、何かをやりたい言う意志だ。

理性(アタマ)は冷静(クール)に、感情(ココロ)は熱血(ヒート)に。

 

考えろ、考えろ真幸。どうすれば此処から巻き返せる。どうすればギルに勝てる!?

――答えはシンプルだ。今持てる最大火力であるイグニッションバスター。これを叩き込んでやれば良い。

ギルの駆るソルグレイブ。あの機体は、高機動高火力ではあるが、元ネタのPS装甲は再現できなかったのか、唯一の弱点としてその装甲に難があるのだろう。

よくよく見れば、先の第一試合でデイブに受けたダメージが、自己修復機能で完全に回復していない、装甲の所々に刻まれたダメージが未だにその各部に残されているのだ。

受けて守るではなく、避けて躱す、と言うタイプなのだろう。つまり、当てさえすれば一発逆転できる可能性は十分にあるのだ。

 

では次に、如何やって攻撃を当てるか。

現状、打鉄は片方のスラスターが脱落している。幸い機体強度そのものは第二世代中でも随一と言われる打鉄だけあって、基本的な可動自体には何の問題も無いところが凄いが。

仮にこの状態でギルに攻撃を当てようと思うのならば、先ず何よりもこの距離をつめる必要がある。

然し、距離をつめるにはスラスター推力が必須であり、PICの推力だけでは絶対に間に合わないだろう。

ならばどうするか。あの『銀翼の鐘』の殲滅砲撃を回避するか防御するかして、術後の隙を狙うか?

無理だろう。微誘導性のあるあの『銀翼の鐘』は、現状の打鉄では到底回避しきれない。そして防御するにしても、攻撃の要であるイグニッションバスターを使ってしまっては下手をするとイグニッションバスターそのものが砕かれかねない。

 

……いや、要点は見えてきた。

要するに、重要なのは三点。

・如何にかして砲撃を凌ぎきる。

・如何にかしてギルに接近する。

・如何にかしてギルをぶった斬る。

実にシンプルだ。そうだ、実にシンプル、これでいい。

 

そうだ、もっとシンプルに考えろ。理性で足りないなら野性で補えばいい。

 

 

 

 

 

――見えた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

――獲った、とそのときギル・モーゼスは確信していた。

IS学園において、織斑一夏に成り代わり、自らの名を世界に知らしめる。そんな野望を抱いていた彼は、然しIS学園に訪れたことでそれが不可能に近いという事を知る。

いや、不可能なのは『織斑一夏に成り代わる』と言う点であって、『世界に名を知らしめる』というのは未だ可能性があった。

故に彼は自らの為に武器を取り、槍を掲げて前へと踏み出したのだ。

このクラス代表決定戦にしてもそうだ。此処で勝つことは、いやクラス代表になることは、間違いなく彼の望む覇道を進む為の一歩目になる。

故にギルは万全の準備でこの闘いに挑み、一切の油断なく、一切の慢心なく、全ての障害を叩き伏せる心算でこの場に立っていた。

第一回戦の敵であるデイビッド。彼は善人であり、それ故に未だにこの世界に対する負い目のようなものを捨て切れえていない。言い換えるなら、原作知識を持つが故に、原作知識に縛られてしまっている。それ故に、クラス代表に成る心算が最初から無いのだ。

そんなデイビッド相手だ。ギルは間違っても負ける心算はなく、そして彼にとっては順当な結果として見事に勝利を収めて見せた。

そして最大の障害として睨んでいた、篠ノ之束直属のエージェントだという木原真幸。彼との戦いを警戒していたギルにとって、この闘いは拍子抜けのようなものだった。

確かにイグニッションバスターという武器、第二世代型にしては強力な兵器ではあるが、矢張り操るのが第二世代型である以上第三世代型には全体的に劣るし、距離さえとってしまえばどうと言うことも無い。

実際第二世代型、そして汎用機の反応速度を越えた攻撃に対しては回避しきれず、その左メインスラスターを破壊することに成功しているのだ。

このまま広域殲滅兵装『銀翼の鐘』を使えば、機動力を失ったあの打鉄は間違いなく落とせる。

「さぁ、銀幕の底に沈めッ!!」

ギルの宣言と共にソルグレイブの翼から放たれる銀色の光弾。その一発一発が強力な破壊力を持つ、ソルグレイブ最強にして最大の切り札だ。

ソルグレイブを中心に、華の様に宙に広がる銀の弾丸。それらは緩い曲線を描き、その矛先を次第に真幸の打鉄へと向けて――

 

―――ドドドドドドドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

轟音と共に無数の光弾はフィールドの半分を粉々にする勢いで着弾。バリアシールドによって閉ざされた広大な戦闘フィールドを、奮迅で覆いつくすほどのものだった。

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

そうして放たれた光の光弾。けれども真幸はこの時に至って諦めを完全に放棄していた。

「やーってやるぜ!」

顔に浮かぶのは不敵な笑顔。そこには諦めも絶望もない。有るのは負けたくないという意地。

即座にイグニッションバスターを格納した真幸は、高速切り替えにより両手に二丁のアサルトライフルを展開する。

59口径重機関銃『デザート・フォックス』。それを瞬時に取り出した真幸は、おもむろにその引金を引きながら、銃身をまるで我武者羅に振りまわした。

ゴッ――!!!!!!!

途端に響く爆音。何の事は無い。真幸はデザート・フォックスの弾幕によって、ソルグレイブの『銀翼の鐘』によって放たれたエネルギー砲弾を“撃ち落している”のだ。

然し、銀翼の鐘の弾幕も然る者で、徐々にではあるがその銀色の幕は真幸の駆る打鉄へと近付いてきていた。

「弾幕薄いぜ!」

デザート・フォックスの掃射を終え不敵に笑う真幸は、即座にデザート・フォックスを破棄、次いで先の織斑千冬戦でも活躍したレッド・バレットを高速展開する。

両手に広げられたレッドパレットは、再び掃射によって放たれる。弾丸はまるで闇雲に飛んで行くように見えて、然し確実に真幸の打鉄、そしてその周囲へと飛来するエネルギー弾を撃ち抜いていく。

然し、ついに銀幕の砲弾は真幸の弾幕を貫き、打鉄近隣の地面で爆発、その大地を大きく穿った。

「未だ未だぁ!」

けれども、それでも。爆風に煽られる機体を御しながら、真幸は即座に弾切れに陥ったレッド・パレットを投げ捨て、今度は一丁の機関銃を取り出した。

62口径・対空機関散弾砲『アースラ』。対空砲といいつつ、IS戦闘に用いることを想定した、馬鹿げた速度で散弾を撒き散らす機関銃だ。

ブイイイイイイイイイイイ!!!!!!!と言う独特の駆動音を響かせて撒き散らされる鉛の散弾。それらはISのシールドエネルギーに反応するように加工されており、同様に近いエネルギーで構成された銀翼の鐘の砲弾にも反応し、それらを誘爆させていく。

「………!!!!」

散弾砲の射程は、実際のところそれほど広くない。ましてやエネルギー砲弾を誘爆させようと言うのなら、更に射程は狭くなる。

そうなれば当然、例え誘爆させられたとしても、それが爆発する距離はかなり近い。

すぐ傍で次々起こる爆発。それらを堪え、爆風に煽られる機体を立て直し、それでも続く砲撃を更に迎撃し続ける。

そうしているうちに砲撃は次々と機体にダメージを与えていく。爆風で、そして爆風によって飛ばされる飛来物によって削られる装甲。SEこそ持っているが、打鉄の装甲は既にボロボロになっていた。

けれども。それでも打鉄本体の基本動作、骨格自体に至るダメージはほぼ皆無。

(打鉄にして良かったよっ!!)

コレがラファールRであったのならば、きっと爆風を食らった時点で何処かの機能に障害が出ていたのだろう。打鉄の強靭性に感謝しつつ、真正面を見据える。

そうして、漸く、ついに、その時が訪れた。ギルのソルグレイブ、その切り札である銀翼の鐘がついに止まったのだ。

「さぁ、いくぞ。あと少し付き合ってもらうぞ、打鉄っ!!」

小さく、けれども曲げる事の無い決意を口にする。そんな真幸に、彼の専用機でもない打鉄が、まるで答えるようにスラスターを唸らせた。

そんな打鉄にクスリと笑った真幸は、自らの切り札であるイグニッションバスターを左肩に背負い、地面と水平に構える。――そう、丁度壊れたスラスターの位置に、翼のように。

そのままマニュピレーターの間接をロックし、更に残る右スラスターとイグニッションバスターのスラスター推力比を調節する。

「イグニッション!!」

 

――瞬間、炎が爆ぜる。

最早満身創痍の打鉄は、然し最も堅牢な第二世代の名に恥じることなく、それでも尚真直ぐに動作する。

失われた左メインスラスターは、イグニッションバスターの高出力スラスターの推力を調節し、腕で固定化して代用。

最早滅茶苦茶。打ち出された砲弾の如く、まるで滅茶苦茶に、吹き飛ぶようにして加速する打鉄。

そのままソルグレイブの生み出した粉塵に突っ込み、問答無用とばかりに突き抜けた。

 

「――なっ!?」

 

そうして粉塵を突き抜けた先に現れるのは、勝利を確信し、完全に油断していたギル・モーゼスと、銀翼の鐘の事後硬直で動きを止めたソルグレイブ。

 

「腕部ロック解除! 砕けて爆ぜろ、イグニッション!」

 

瞬間、真幸の腕の中で龍が咆えた。

轟音と爆炎を撒き散らすイグニッションブレード。最早コレが最後といわんばかりに炎を吹き上げるその大剣は、然し自らの炎に自身すらも燃え砕けながら驀進する。

そうして水平一文字に振り切られたその大剣は、最後の瞬間、ギルの駆るソルグレイブを吹き飛ばし、それと同時に自らの炎に焼かれるようにして崩れ落ちた。

(…………)

そんな、最後まで自らに尽くした武器、イグニッションバスターに感謝の気持ちを籠めて黙祷した真幸。そんな彼の耳朶には、少し送れて、何処か驚いたようなナレーターの声が聞こえてきた。

 

『試合終了! 勝者、木原真幸っ!!!』

 

途端響き渡る、『歓声』と言う名の爆音。次いで打鉄に小さく感謝を述べた真幸は、力強く右手を空に掲げて。

 

――ボフンッ!

 

「……あれ?」

 

不意に響いた爆音。それを真幸が耳にすると同時に、その視界はクルクルと回転し、最後にドスッ、という音と共に視界は完全に黒く閉ざされたのだった。

 

 

 

 




■木原(柊) 真幸
一夏に中てられて、ついつい手加減して負ける筈が、本気でギルにぶつかる。
結果辛うじて勝利、と思ったところで打鉄が過負荷から大破。試合に勝って勝負に負けた状態。
因みに試合後気絶したのではなく、打鉄が墜落して頭から地中に埋まった。
■打鉄(真幸機)
イグニッションバスターなるネタ兵装をガチで運用されたうえ、機体固定用のロック機構を戦闘に使うなんて無茶をしたり、つぶれたスラスターをイグニッションバスターで代用して瞬時加速をするなんて無茶苦茶をした結果過負荷でブッ潰れる。
全損大破、コア以外は壊滅状態。
■イグニッションバスター
偏向ノズルを搭載し、刀身が瞬時加速を使うことが出来るというネタ兵器。または、本来イメージインターフェイスを必要とするような兵装を自動化し第二世代兵装に落とし込むことを目的に研究開発された装備。
元々はスラスターの付いた鉄骨だったが、改良されてスラスター付きの剣になった。
戦闘で酷使された結果全損。粉々に砕け散って跡形も無い。但し良質なデータは大量に取れたため、柊電子工房は大満足。
■ギル・モーゼス
油断も無く、全力で勝ちに行くも、やはり世代差から若干の油断があったらしく、無駄に接近戦を挑んだ結果、トリッキーな動きに翻弄されて敗北。
操縦技術自体は高く、その技量の高さをIS学園の全生徒に見せ付けた。
但しフィールドを穴ボコにした為織斑教諭の雷が落ちた。
■ソルグレイブ
対怪獣戦闘用に高機動大火力を搭載した後期第三世代型IS。
スラスターと兵装を一体化した第三世代兵装「銀翼の鐘」や、重粒子砲、レールガン、連結ビーム砲、ビームサーベルなど、凄まじく高威力かつ面制圧能力の高い機動砲撃戦型の機体。
運用には単純な操縦技量の他に、フルバーストの隙やエネルギー消費の計算などを含めた戦術的な構想が必要と成る。
試合用リミッタを外すとかなりエネルギー効率がよくなる。
敗北はしたものの、機体損壊自体は装甲などの一部破損だけで、被害は少なめだったり。

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