窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】 作:朽葉周
目が覚めて一番最初に俺が行った事は、目の前に眠る女性の顔を見て思わず飛び出しそうになった悲鳴を飲み込むことだった。
何かのどの変な筋肉に負担をかけたらしく、飲み込んだ悲鳴そのまま喉を押さえて悶絶する羽目に成り、ベッドから起き上がって床の上で悶絶するハメになってしまった。
「……っっ、ここ、は……」
暫くして、漸く喉を押さえながら周囲を見回す。なんというか、極普通の木造建築の住宅に見えるが、少なくとも俺にはこんな建造物に見覚えは無い。ましてこの女性にも……あ。
そう、その女性――確か篠ノ之束とか名乗っていた女性だ。確か彼女とは、墜落した光を追いかけて行った左記でであって、それで――。
其処まで考えたところで、不意にフラッシュバックするように記憶が蘇る。
濁流のように流れ込んでくる記憶。それは、光の巨人との出会い。現れた暗黒の怪物。助けられなかった彼。託された光。
……なるほど。末尾の記憶が跳んでしまっている所為で今一つ判別できないのだが、俺が光を纏ったような記憶までは存在している。その後なんとか生還できた俺達を、多分束さんが回収してくれたのではないだろうか。
幾ら力を託されたとはいえ、俺は結局ヒトなのだ。けれども俺は確かに託された、彼から、光を。
物は試しとばかりに、床に座り込みながら軽く握り拳に意識を移す。途端、握りこんだ手の平が薄ぼんやりと金色の光を纏ったように見える。
「ふーん、いきなりそこまで制御できるんだ。彼が君を選んだのも、やっぱり意味があったんだろうね」
「び、びっくりした……おはようございます束さん。それと、拾ってくれて有難うございます」
「如何いたしまして。まぁ、彼に頼まれちゃったしね。それに、君が進むにしろ引くにしろ、託された者同士、少し話し合っておかないといけないからね」
その言葉に小さく頷く。そう、俺と同じようにまた、彼女も同じく彼から何かを託された存在なのだ。
彼に託されたもの――この先現れるであろう、地球を狙う外敵、内側に潜む怪物、魔に魅入られた人間達。そんな存在と戦う為に与えられた力。
「予想は出来てたけど、真幸くんが貰ったのは、戦う為の『力』みたいだね」
「予想は出来てた? それに、『俺』が貰ったのは、ってことは、束さんは違うものを?」
「うん。私は『知識』を。予想がついてたって言うのは、君があのイブ=ツトゥルを倒したところを見てたからね」
「……あんまり記憶に無いんですけど」
「あの時は彼の残滓が力を貸してたみたいだし、殆どトランス状態に入ってたんじゃないかな?」
そう言う束さん。まぁ、確かに。いきなり力を渡されただけの俺が、あんな邪神相手に如何にかできる筈も無く。ならディラクが何らかの形で介入してくれたのだと考えたほうがよっぽど理解できる。
「で、とりあえず最初に一つ聞いておきたいんだけど」
「なんですか?」
「君は、如何する? 此処で諦める? それとも……」
束さんに問われて、一度目を閉じて考えてみる。
昨日の戦い、ともよべない、神話のような出来事。光の巨人と暗黒の怪物の戦い。現実には到底ありえるはずの無かった非日常、非現実的な世界。
恐かった。何よりもそう思う。そして同時に、今生き残れた事がいかに奇跡であるか、ソレを俺は理解できている。
故にわかる。これは彼女の『情』なのだろう。確かに此処で引き返せば、俺は今までと同じ、何一つ変わらない日常に戻る事ができるだろう。
――けれども、俺は既に知ってしまったのだ。この平穏な日常がいかに薄っぺらで、何時何処から破綻するかも分らないほどに曖昧なものであるという事を。
「そういう束さんは如何するんです? 今ならまだ引き返せますよ」
「束さん? 束さんは寧ろこんな変化を望んでたようなところがあるからね。寧ろウェルカムかな。報酬も貰っちゃったしね」
そういってニコリと微笑む束さん。けれどもその巫山戯た様な表情の中、瞳に灯る光は紛れも無く澄んだ光で。決してそれだけで判断をしたような、半端な感情は感じなかった。
――それで? 問い掛けてくる束さんに、俺は彼女の目を見てはっきりと頷いて見せた。
「勿論、俺も前に進みますよ。託されたものもあるし、何より俺は、今が結構好きだし」
「そっか……うん、そっか。まぁ、束さんは天才だからね! その内君の力に頼らなくても大丈夫な発明だってして見せるんだよ! それまでは宜しくね!!」
そういって少し淋しそうに、けれども何処か嬉しそうに。そんな矛盾した二つの感情を載せた笑顔を浮かべて、束さんはそういった。
そんな束さん。これからの協力者との挨拶もかねて、ガッチリと握手を交わしていると、不意に束さんが「そういえば」と首を傾げるような仕草をして見せた。
何事かと首を傾げる俺に、束さんは何処からとも無く一つの四角い物体を俺の眼前に突き出してきた。
チクタクと音を立てるソレ。所謂時計と呼ばれる代物で。
「そういえば今日平日なんだけど、真幸くん……うん、親愛を込めてまーくんと呼ぼう!……まーくんは学校とか大丈夫なのかな?」
目の前でチクタクと音を鳴らす時計。其処に表示されている時刻を見て、顔から血の気が音を立てて引いていくような感覚に襲われた。
「……拙い」
「やっぱり?」
「昨日の晩、こっそり家を抜け出してきたんだ」
「ありゃりゃ、無断外泊で、しかも女の子と同衾!」
オトナだー! なんて言ってコロコロと笑っている束さんだが、俺にしてみればこれは結構拙い事態だ。時刻は朝の7時。最初に親が起こしに来るのが7時で、タイムリミットが7時半と考えると……。
拙い! 7時半までに自宅のベッドの上に帰らないと、下手すりゃ行方不明で通報される!! ウチの親ならやりかねない!!
「スイマセン束さん! 俺すぐに帰らないと!!」
「あー、うんうん。おっけーだよっ! でも色々やっておきたい事とか、話しておきたいこととかあるから、また後でウチに来てくれる?」
「ソレはもう。……因みに、此処、束さんの家ってどこら辺ですかね?」
「あれ、知らない? ウチ、篠ノ之神社って言うんだけど」
そういえばウチの隣の学区に、そんな名前の神社が有ったような気がする。確か、夏祭りだか何だかで来た事があったはずだ。
記憶を手繰れば後は問題ない。数少ない経験ではあるが、確かにこの辺りに来た事は有るのだ。なら家への最短ルートもある程度予想できる。
「それじゃ束さん、また後ほど!」
「うん、それじゃまた後でまーくん」
手を振る束さんに、とりあえず部屋から出ようとして、ふと気付く。そういや俺が束さんの家の中を歩き回るのは拙くないだろうか?
少し考えた結果、幸い何故か自分の靴が束さんの室内に放置されていることを確認して、そのまま束さんの部屋の窓から室外へジャンプ。部屋の外で靴を履いて、そのまま一気に自宅へ向けて走り出したのだった。
「って俺の自転車!? あとで回収しとかないと……」
慌てて自宅に帰り、まどからこっそりと自室へ侵入。靴を部屋の中に入れてしまったが、まぁうちの家族だ。靴の有無なんぞ気にはしないだろうと判断して、とりあえず自室から顔を出しておく。
そうして何時も通りの朝を装う為、いつものように顔を洗って身支度を整えて。多少「いつも遅いアンタが珍しいわね」なんて言われはしたが、たまにはあることだ、なんて言って誤魔化しておいた。
朝食を食べて、身を整えて、さっさと学校に行く準備を始める。現在の俺は、中学一年生。本来なら小学生が制服に着られているような印象を受ける程度の年齢である筈が、何故か成長速度の速い俺は、既にそこそこ良いガタイの少年へと成長している。
とはいえ前世あわせても中身がオッサンを軽く超えている所為や、生まれ変わってから妙に頭が良くなってしまった所為で、どうにも周囲と馴染みきれずに要たりする。
さて、そんな俺だが、いつものように学校に通い生活を送る最中で、いつもと違う妙な感覚を覚えていた。
例えば朝から感じていた違和感。篠ノ之神社から自宅までの距離は結構ある。例えイノベイターであって肉体が常人を上回っていたとしても、それでも走れば疲れる距離。だというのに今日の俺は妙に体力が有り余っていた。
そして昼間。確かに生まれ変わってからの俺は妙に頭が良かったが、ソレに加え今の俺は妙に思考速度が上昇している。
今までの俺の思考は、『他人の斜め右の思考』を持っていたのだが、ソレに加えて『頭の回転』が凄まじいレベルで向上しているのだ。
更に更に未だ違和感は続く。俺の持つイノベイターの能力、脳量子波。これは脳の発する素粒子信号の領域拡大によるテレパシーのようなもので、これを応用する事でパッシブソナーのような使い方も出来、身の回りの危機管理なんかに便利だったりする。
この通信能力の感度が、今朝から妙に良くなっているのだ。今までなら、例えば周辺を飛ぶ動物の気配だとか、知人の気配を朧気に判別できる程度だったのだが、現在の俺は意識する事でその対象の気配をはっきりと識別できる。
まとめてしまえば、俺の持っていた能力が、全体的に底上げされているような気がするのだ。
まぁ原因は明らかだ。先ず間違いなく、ディラクからもらった『光』が原因だろう。
ただでさえイノベイターという存在は、『人類が覚醒して生まれる新たな種』であるのだ。それが更に『光』という要素を受けて変質したのではないか、と言うのが俺の考えだ。
つまり、『イノベイター』+『ELS』=『ハイブリッドイノベイター』が存在するのであれば、
『イノベイター』+『光の巨人』=『俺と言う存在』が生まれるという可能性は、無きにしも非ず、なのではないだろうか?
なんだか若干気分が高揚してしまっていて、今なら空も飛べそうな気がする。そう思って昼休み、屋上のヒトが来ない場所で少し試してみたところ、マジで空を飛ぶことに成功してしまった。
コレはヤベェと即座に判断して飛行を中止。手からビームを撃てそうな気もするのだけれども、このノリだと間違いなく撃ててしまうのだろう。仮に撃ててしまえば、大惨事になる予感もある。
使わないのが一番なのだろうが、俺の役目として考えれば、使える手段は多いに越した事は無い。後で束さんと合流したときにでも何か方法を考えなければなるまい。
でもこの事を相談するのであれば、先ず最初に『イノベイター』という存在に関して、束さんに情報を渡す必要がある。
一応イノベイターという存在に関するレポートやら、俺が内包していた所謂『イノベイター因子』に関してはレポートをまとめてある。
これでも男の子。宇宙には何時までも憧れを持っている。俺と言うイノベイターを解析することで、其処から逆説的にGN粒子なりミノフスキー粒子の思念伝播粒子の存在を定義できれば、それは宇宙進出の大きな足掛りになることだろう。……なんて事を考えて。
人体実験の範疇にガッツリ食い込んでいたりするが、どうせ被検体は自分なのだしと手加減無しに調べた――嘘ですめっちゃビビリながら調べました――結果、イノベイター因子らしき物を発見する事に成功。
GN粒子に関しては、ソレらしきものを発見こそしたものの、生成方法に関してはまだ確立していない。自分の身体を調べればいいだけの因子に比べ、GN粒子の発見はやはりそう簡単ではなかった。イオリアさんマジ天才というのを再び認識しました。まる。
なんだっけ、設定資料では、「重粒子を蒸発させることなく質量崩壊させ、陽電子と光子を発生させることにより、莫大なエネルギーを半永久的に得る」だとかなんとかだったような。と歩ロジカルディフェクトだとかそういう単語は覚えてるんだけどにゃぁ?
そんな事を考えて丸一日を過ごした俺は、持ちうる限りの情報を全てノートパソコンに詰め込んで、再び篠ノ之神社へと赴いた。
「なるほど。面白いねコレ」
そうして訪れた篠ノ之神社。今度は正面から神社を訪問してみたのだが、インターホンで名乗った後、「束さんの友達」と名乗ったら物凄い反応された。
宅内から束さんの両親が飛び出してきて、見開いた目で此方を凝視した後、涙ながらに俺の両手を握ってぶんぶんと大げさに握手をした後、妙に歓迎されながら束さんの部屋へと送り込まれたのだ。
……なんだあれ?
そんな事もありつつ訪れた束さんの部屋。本日二度目になるのだが、こう改めて女性の部屋にお邪魔するというのは多少違和感があるのは、前世含めて俺の人生が女性とは縁の薄い人生だったからだろうか。皆無ではなかったと述べておく。
で、訪れた束さんの部屋。そこで束さんは、ゴチャゴチャと複数つなげられたPCと、そのPCから伸びた線につなげられた白い箱を弄っていた。
「や、まーくん。早速来てくれたんだね」
「ええ、早速お邪魔します束さん。で、早速なんですけど、なんですかソレ」
「これ? これはね、ディラクの石像の粉を回収したものだよ」
何となく感覚に触れるものを感じながら束さんに問い掛けると、束さんはそんな返答を返してきて。
あーもう把握したぞコレ。石像の巨人、ヒトは誰でも光になれる。つまり彼、ディラクは、分類的にはティガ系列のウルトラマン、という事に成るのだろう。
「アーク、か」
「アーク? 契約の箱、聖櫃だっけ? なるほど確かにそんな感じだね。うん、じゃ以降この箱はアークと呼ぶよ」
ぼそりと呟いた言葉に、束さんはそうに頷いた。なんだろう、そう考えるとあの近所の山での出会いってコスモスっぽいのだろうか。でもいきなりクトゥルフの邪神ってどんな無理ゲーだよ、なんて考えつつ。
とりあえず束さんの前に、俺の持てる情報を全て束さんに公開することにした。多分ディラクが束さんに『知識』を与えた事には意味があるはず。そう考えて、俺の持てる情報――イノベイターに関する情報を、先ず公開してみたのだ。
そうして最初に束さんが呟いたのが、先程の面白いという発言だった。
「人類の革新、外に向かう進化、ね。束さんはこういう生物方面からのアプローチじゃなくて、機械・物理方面からのアプローチばっかり考えてたからなぁ。でも漸く理解できたよ。なんで君がディラクの言葉を聞き取る事ができたのか。この脳量子波で交信してたわけだ」
「交信って言われると、なんだか電波をやり取りしてるみたいな言われよう……」
「実際似たような代物でしょ? まぁ、束さんがやろうとしてた量子コンピュータって、実際人間の脳味噌こそが量子コンピュータに一番近いものだ、なんて話もあるくらいだし、分らないでも無いんだけど」
なんだかなぁ、なんていいつつ落ち込む束さん。なんでも束さんは、量子コンピュータや量子通信の技術的確立を目論んでいたのだとか。ぶっちゃけそれ、人類をイノベイター化させれば大分話が進んじゃうよね?
「因みに、イノベイター因子は保存して有るんで、やろうと思えば束さんもイノベイター化できますよ?」
「マジデっ!?」
「ただ問題点として、太陽炉の製造が出来てない所為で、強制的にイノベイター覚醒を促すのが出来ないんですよね」
イノベイター因子を注入すればイノベイターに覚醒できる、と言うわけでもない。イノベイター因子を持つものが、脳量子波などの刺激を受けたり、GN粒子の刺激を受けることでイノベイターとして覚醒する。コレだけは如何足掻いてもひっくり返す事は出来なかった。
「まぁ、俺の脳量子波で地道に覚醒を促す、なんて方法もありますけど」
「やるよ是非っ! そのかわり太陽炉の開発は束さんもてつだってあげちゃうから!!」
つれたくまー。じゃなくて。
とりあえず束さんをイノベイター化させることは決定したらしい。あれ? なにか嫌な予感を感じたんだけど?
そんなこんなで、束さんにイノベイターと言う存在を知らせた後、次に俺の身に起こった変化について、束さんに少し話してみた。
「ふむふむ、身体能力、思考速度、脳量子波の性能が向上した、と」
「多分あの『光』の影響だと思うんですけど、他にも空を飛べるようになったり、多分ビームも撃てると思うんですよね」
「……まーくん割と人間やめちゃってるね」
「言わないでください自覚してますから」
イノベイドでさえ人類からは大分離れてしまっているというのに、光を得て更になんだか良く分らないものになってしまった現在。まぁソレでも俺は人間を名乗り続けるのだけれども。
「因みに、ウルトラマンといえば変身なんだけど、まーくんは変身って出来る?」
「――そういえばソレは考えてなかった。ちょっと試してみますね」
いいつつ、『自分の内側』に意識を集中する。先程の空を飛んだときと同じ、自分の内側の『輝き』の感覚。それを表に引っ張り出そうとするのだが、結果は自分の身体が薄ぼんやりと金色の輝きを帯びただけ。
「変身は……ダメみたいだね」
「確かに今までと違う、って感覚はあるんだけど、その総量は人よりもちょっと大きいくらい、かな?」
「でもあの時まーくんは、イブ=ツトゥルを倒したんだよ。あの時の光はこんなものじゃなかったんだけどなぁ?」
俺にしてみれば、例え光を託されたとしても、戦場に出たことも無い平和な国の人間である俺が、いきなり邪神と戦って勝利した、何て話のほうがトンデモ話にしか聞こえないのだが、俺の生存自体がそのトンデモ話を裏付ける証拠に成っている辺り頭がいたい。
「とは言われても。俺だけじゃ足りないっていうなら……ディラクの力とか?」
「それだっ!」
突如として声を上げた束さん。何事かと感じていると、束さんはいきなり立ち上がり、机の上に安置された白い箱――アークを手に持つと、それを床に座る俺の膝の上にドスンと置いた。結構重いぞこれ。
「あの時まーくんは、そのアーク、っていうかディラクの石像の粉に共鳴してた様に見えたんだよ。だから試しに……」
「なるほど、アークが補助になるかも」
いいつつ、膝の上に置かれたアークに手を載せ、再び意識を集中させてみる。と、今度は脳裏に過ぎる光のイメージが、先程よりも明確に感じ取れる。
……と、いうか、なんだろうか。星間宇宙、惑星の輝きを眺めるように、次々と光があふれ出すイメージが……。
「わっ、ちょ、まーくんストップ!!」
不意に聞こえてきた束さんの声に、集中する為に閉じていた瞼を開く。と、そこには真っ白に染まる束さんの部屋が見えて。……ってこれ俺が光ってるのか!?
慌ててあふれ出した光を内側に仕舞うイメージで力を抑える。と、光はあっさりと俺の意思に従って沈静化してしまう。
「これは……成功、でいいんだろうか」
「成功だと思うよ? で、変身できそうな感覚はあった?」
「いえ。俺はあくまで人間で、光になれるかもしれないけど、光の巨人じゃないですから」
そう。確かにあふれ出る輝きを感じ取る事はできたが、だからといって俺の真の姿は『コレ』なのだ。まぁ、成ろうと思えば成れない事も無いような気はしないでも無いような。
「ふーん……何となく分ってきたよ」
「というと?」
「多分今まーくんは光に……ディラクに似た存在に変質しつつある最中なんじゃないかな? で、だからその完成形であるディラクの肉体がその変質を促進する形でまーくんを補助した、と」
そんなところじゃないかな? なんて呟く束さん。俺がヒトを止めつつある事は理解してたけどね。うん。
「まぁ、アークがまーくんの補助になるっていうのは理解できたよ。何か有ったときには、アークを補助に使えばいいわけだ」
「いやでも、その箱は邪魔ですよ?」
「そりゃ分ってるよ。要は邪魔にならない形でアークを持ち運べればいいわけでしょ? 大丈夫大丈夫、束さんに任せておきなさい!」
この短時間で分った事が幾つか。この人、篠ノ之束さんは間違いなく本物の天才だ。しかも多分、マッドとか付くタイプの。間違いなくいい人ではあるんだろうけどなぁ。
とりあえず俺に関する情報はこんなところだろう。イノベイター、光の力、更にアークによる輝きの増幅。相手にも寄るだろうが、準備さえ整えれば侵略者と戦う事も不可能ではないだろう。
「俺に関してはこんなところか。じゃ、次は束さん」
「あいあい。束さんが調べた情報は、主に石像の砂……『アーク』に関してかな」
そういって束さんは俺にデスクトップPCのモニターを押し付けてくる。其処に表示されているのは……これは、成分表?
「アークに関して分った事は、先ず『石像の砂』が、物質でありながら同時に光と同じような性質を持っていた、という事」
これは正にウルトラマンって感じだねー、なんていう束さん。まぁ、光の巨人と言うくらいだし、そういうモノなんだろう。
「で、次。この石像の砂、構成素材の差こそあるものの、信号の配置と座標の99.89%までは、人類の遺伝子とおんなじだったんだよ」
「……突っ込んでいいのかな、コレ?」
「アハハ、まぁ、ウルトラマンが元ネタらしいし? 案外円谷監督も庵野監督ももしかしたら過去に宇宙人に関わってたのかもしれないよ?」
そういわれてふと思い出したのは、ウルトラマンティガ第49話『ウルトラの星』。あれ見たときは、思わずチャリジャとハモって懐かしい!って呟いちゃったし、画面が歪んで見えなくなりそうだったなぁ。……じゃなくて。
「で、さっきのまーくんの光に共鳴するっていうのが新しく分った事に加えて、もう一つ、この『アーク』が面白い性質を持つみたいでね、このアーク、如何いう仕組みかヒトが近寄ると、微妙にエネルギーを放出するみたいなんだよね」
「アークが、エネルギーを?」
「そそ。しかも未発見、新種のエネルギー。いやぁ、このアークに関して論文書くだけで、多分現在の学会がひっくり返るんじゃないかな?」
なんて事を気軽に言う束さん。このエネルギーに関して研究していけば、例えば宇宙船のバリアだとかビームだとか、そんな感じの防衛兵器の基礎エネルギー研究につなげられるかもしれない、と。
ただまだ発表は控えてほしい。流石に現在の状況で、下手に侵略者に身を狙われては如何する事もできない。
「でも、これで取り敢えずの目標は決まったね」
その束さんの言葉に頷いてみせる。
「とりあえずの俺の目標は、この託された力を、ある程度使いこなす事」
「束さんの目標は、まーくんの装備の開発と、アークの研究、イノベイター化、あと太陽炉とかマキシマの開発とかかな? イノベイター化はゆっくりやってけばいいし、太陽炉も後回し。最優先はやっぱりアークの研究だね」
「よし、それじゃ、一緒に頑張るぞ!」
「おー!」
とりあえずの課題目標を設定して、二人で和やかに声を上げあう。来るだろう辛い戦いの前の一時。
けれどもその時は確かに俺達の胸には希望があって。それこそが『光』何だという事を心で感じながら、束さんと一緒に空高く腕を掲げたのだった。
「ね、姉さんにおとこどもだち……(震え声」
「あの子にも友達が……」
「よかったわね、良かったわね束……」
そんな俺達の姿を、何処からとも無く覗いていた姿が有ったりしたらしいのだが、そのときの俺達が気付く事は終ぞ無かった。
■ここで諦める? それとも……
変える為に動く? というキャッチフレーズで思わず買ってしまった思い出。ブランドが変わったけど続編っぽいものが出てて、そっちもかなり面白かった。
もう結構古いけど、それでも印象に残ってるソフト。
■アーク
元ネタはウルトラマンティガ。ティガと共に有った、砕かれた巨人の石像。その砕かれた粉を納めた箱を指す。これを盗まれたりF計画に用いられたりで、イーヴルティガを生み出したりテラノイドを生み出したり。キーアイテムではあるが悪用しかされてない。
本作においては『ウルトラの光』が変身ではなく超能力扱いなので、それを補助する為の重要アイテムとしてや、後のキーアイテムの素材としてなど用いられる。
■イノベイター化
イノベイター化すると、人類の基礎スペックがぐっと跳ね上がる。寿命も130くらい(脳の限界寿命?)まで延びるらしい。
束さんはただでさえ篠ノ之流の娘で身体能力が高く(原作基準)、頭脳も天災級であるが、この処置によりどうなる事か。
■ウルトラの光
ディラクから真幸が託された力。『ウルトラマンに変身する光』ではなく、『人が光になるための切欠』。つまり濃縮ディファレーター光線みたいなもの。ウルトラマンになったわけではない。ただし『光』を『器』に注ぎ込めば……。
■太陽炉、マキシマドライブ
GNドライブとマキシマ・オーバードライブの事。
真幸が趣味で開発していた宇宙開発の未来にいたるためのキーアイテム。
ぶっちゃけ太陽炉は便利ではあるが戦い前提である為、真幸はマキシマの開発を優先していた。理論は殆ど完成しているが、開発施設・設備が存在しない為、データ上だけの存在。
■しののの!
両親は友達が織斑家しか存在しないと思っていたところに別の友達が存在していた事を知り一安心。
某妹は、自分と同類(コミュ障)と思っていた姉に友達がいてガクブル。