窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】 作:朽葉周
束さんが国際指名手配を受けてしまいました。
おいおい、なんて戸惑っている俺を他所に、束さんは先ず最初に、俺に対する彼女への接触を禁じた。
そもそも俺が表社会で目立つ事を厭っていた事、そしてこの先の事を考えると、悪目立ちしすぎた束さんを別方向からバックアップする人間を残しておく必要があるとか。
本当ならば国際指名手配を要求した各国に攻め入り地球上を光に還してやろうかとも思っていたのだが、流石にソレは拙いと束さんに止められてしまった。
もういっその事、宇宙的悪意に魂まで貪られる前に、全部光に還してしまった方が良いような気もするんだけどなぁ。
そんな事を考えながら、束さんがニンジンロケットで地球を離脱する様を、アークプリズムで護衛しながら見送る。
アークプリズムの後付装備、ミラージュコロイドシステム。某ガンダムの光学迷彩機能なのだが、電磁波の類までシャットアウトする優れものの迷彩だ。
ニンジンロケットも地球圏を離脱する際にはコレを展開し、某国の衛星・天体観測の網をすり抜けて地球圏を離脱していった。欠点はコロイドの滞留時間と消費電力、後は他のエネルギー装備と相性が悪い事くらいか。
そうして地球を離れた束さん。一体何処へ行ったのかと言うと、どうやら天に輝く銀盤、遼天空のお月様へと逃亡したらしい。
いったい如何やって、と考えて、よくよく考えてみればISもあれば、研究の結果何とか完成した疑似太陽炉や、まだ小型化に成功しては居ないものの、開発自体には成功してしまったマキシマドライブやら。
宇宙航行技術は自分達の手で多々考えていたわけで、考え直してみればそれほど不思議でもないのか、な?
他にも量子化技術なんかで生活物資を運べば、月面にプラントを建設するまでの間は十分に生活できるのかもしれない。
うーん、束さんめ。俺より先に宇宙に上るとは。うらやましい。
今度俺も束さんの秘密基地の建設を手伝いに行こう、なんて考えつつ、此方は此方で独自行動を再開する。
世間は、日本に向けられた幾千ものミサイル、それを迎撃した白騎士を攻撃し、あまつさえ撃退されたその結果。それらの重要参考人として世界は束さんを指名手配した。
そうして押し入られた篠ノ之宅。其処に残されていたのは、467個のISコア。コレを日本は愚かにも、世界に向けて等分に配分する事を良しとした。
まぁ元々の目的――地球防衛――を考えれば好都合な選択ではあるのだが、それにしても脅しに屈して世界に貪られたというのは本当に情け無い。
因みに原作におけるこの事件は如何だったか知らないが、この世界における白騎士事件はダダによる事件である為、間違っても束さんの自作自演によるものではないと明記しておく。
世界、阿呆だなぁ。そんな感想を抱きながら、徐々に女尊男卑の世界へと変革を始めた世界を眺めながら、俺は俺でやるべきことを次々と勧めていた。
アークプリズムを扱うに当って習得した柔術の習熟の為の訓練は勿論、現在完成しているアークプリズムとマキシマドライブの改良、及びマキシマドライブ搭載機の開発など。
アークプリズムに関しては実に簡単で、第一世代型というか試製零号機であるこのアークプリズムを、第二世代型にヴァージョンアップする、と言うもの。システム面を改良し、装備の汎用性を高めるだけなので割と簡単な処置で済んだ。現在の正式名称は『アークプリズム改』となっている。
特に俺が重要視しているのは、このマキシマドライブの改良と搭載機である『ガッツウィング』の建造だ。
今現在この『ガッツウィング』……正確には『ガッツウィング一号機改良型ガッツシャドー』。ネオマキシマを搭載し、偏向マキシマ砲を持って単騎で怪獣を迎撃する事も可能なとんでもない機体だ。
本当ならエクストラジェット辺りを作りたかったのだが、俺の現在の製作環境を鑑みるに、あそこまで巨大な航空機の建造は不可能と判断したのだ。
現在開発中のこのガッツシャドー。建造場所は、束さんの退避シェルターの一つとして建設された、太平洋側の海底シェルターにて行なっている。
ピラミッド型のこのシェルター、案外施設は充実しており、更に外観は岩石により擬装を施す事で、外部からの発見はほぼ不可能と言う使用になっている。
更にこの基地の稼動エネルギーは、先の事件でダダ1207号から強奪したダダの発電機……解析結果パラジウムリアクターと判明したソレを利用することで、驚異的な独立性を実現している。ぶっちゃけTPC極東本部基地っぽいこの海底シェルター。
設備は十分なのだが、問題はガッツシャドーを建造するに当って必要な資材の入手が呆れるほどに困難である、と言う点だろう。
何せガッツウィングというモチーフは、現代の通常航空戦力を圧倒する航続能力、戦闘能力、探査能力を持ち、自由自在に空を駆るスペシャルなメカニックなのだ!
現在開発に用いている資材は、何時ぞやの白騎士が迎撃して海底を漂流していた戦闘機の残骸を回収して使っていたりする。
まぁそのまま資材を流用するのではなく、束さん謹製のマテリアル精製装置を使って、良い具合に調整した素材を使っているのだが。
このマテリアル精製装置がまたコストと時間を食う装置で、一機分の素材を精製するのにかなりの時間を喰う。コレを更に加工する時間も必要と成るのだから、遅々として進まないのは仕方のないことだろう。
これが日本の正規の工業ルートを使って生産された金属なりを使えば、大幅な時間短縮も可能なのだろう。現状非正規に兵器開発している俺はどう見てもテロリストの類だし、表から協力を依頼するのは現時点では不可能なので、ありえない仮定ではあるのだが。
そういった理由で、ガッツウィング一号機部分が完成した頃には、既にネオマキシマドライブは大幅な改良を終えてしまった後となっていた。
ネオマキシマドライブ。元ネタはウルトラマンダイナの、ネオマキシマ・オーバードライブ。
ヤオ・ナバン博士の開発したマキシマ・オーバードライブを、キサラギ・ルイ博士が改造し完成させた最新型のエンジンであり、そのエンジンを用いたワープ航法でもある。
これを搭載したフネは、火星までの往復を二時間でこなせるという、宇宙開発時代に進むならば必須ともいえるほどにとんでもない技術だ。
ただ反面、兵器利用なんかに転用する事が可能で、マキシマ砲、ネオマキシマ砲などといったそれらは、ウルトラマンすら滅ぼすほどの強力な一撃となってしまう。
俺は現在、こうしてネオマキシマドライブ搭載型の戦闘機、ガッツシャドーを建造してはいるが、もしこれを表に出す事があるとすれば、マキシマ関連技術やその他の技術は撤廃し、『対怪獣用戦闘機』として表に出す心算だ。
今の人類にマキシマの力を託す事は、さすがの俺でも無理だ。そこまで人類を信じられない。出すとしても、精々マキシマドライブを大型艦向けの、攻撃転用の難しい形でが精々だろう。
そんな状況で進むガッツシャドー系技術に比較し、予想外に簡単に事が進んでしまったのが、疑似太陽炉、元ネタは機動戦士ガンダム00から来たトンデモ装置だ。
GNドライブなどと呼ばれるこのシステム。いってしまえばGN粒子という不思議粒子を放出する発電機と言う代物だ。
このGN粒子が実弾・ビーム無効やらパイロットに掛かる重力負荷軽減だとか、脳量子波の拡大だとかイノベイター覚醒だとか、割ととんでもない多様性を持つ、正にチート粒子だったりする。
本来は高重力条件下で製造されるとある装置を組み込むことにより、永久機関として稼動させることが可能なのだが、ぶっちゃけその永久機関……太陽炉を作ったところで、あまり意味が無かったりする。
何せネオマキシマが存在している以上エネルギーは十分に存在するし、そもそもGNドライブの発電量はMS一機分。俺の目指す宇宙航行艦には若干どころかエネルギーが足りていない。
が、太陽炉の精製するGN粒子と言うものには魅力を感じる。何せコレは、人類の革新を促す装置足りえるのだから。
其処で俺が考えたのは、太陽炉を完全にGN粒子生成機として開発してしまう、と言うものだった。
このアイディアを元に開発を進めてみたところ、見事に成功。従来の疑似太陽炉に比較して、粒子生成量が1.3倍にも膨れ上がったのだ。
これによって、流石にISへの搭載は不可能だが、例えばガッツウィングの搭乗者に対する重力負荷軽減であったり、怪獣なり宇宙船からの攻撃であったりに対する強固な防御装置(GNバリア)を獲得するに至ったのだ。
まさに『俺の考えた最強の戦闘機』である。
ISが一定数世界に散布された現状、あとは世界でIS操縦者が育ってしまえば、もう俺が表に出て戦う必要は無くなる。そうなれば、あとは暢気に宇宙旅行とでもしゃれ込んでみようか。
なんて事を考えながら、ニヤニヤとガッツシャドーの建造風景を眺めながら、次は何を使用か考える。
そんな風に割りと日々を愉しんでいた俺だったのだが、ある日不意に海底シェルターに警報が鳴り響いた。
「これは……大型の生命反応……ってことは、怪獣か?」
表示されたデータを読み取って呟く。モンゴル平原に現れた巨大な生命反応。間違いなく怪獣が出現したのだろう。
「あーあ、こんな場所に出ちゃったんじゃ、隠匿は先ず不可能だろうなぁ」
マグニアの時は、場所が山奥で、怪獣の証言を出来る人間も少数。
ダダの場合は直接的な被害者が研究員数名。その数名が「宇宙人の仕業」と騒いだところで、信じる人間は少ないだろう。
まぁ社会がパニックに包まれるよりは良いか、などと考えて放置していたのだが。此処に来てついに、表社会に怪獣の存在が明かされるときが来たのかもしれない。
……なんて事を考えながらモニターを眺めていると、再びシェルター内に警報が鳴り響く。
今度は何だとシステムに情報を表示させると、今度はイースター島に巨大な生命反応が現れたという。
連続して怪獣が出現するなんていう事態は珍しいな、なんて考えつつ、MAP上に表示された二つの光点を眺めて、ふと何かが頭に引っかかった。
なんだろうかと考えながら地図を睨む。別に何か特別な事が有るわけでもなく。二つの光点は其々の地点に出現した後、其々がゆっくりと移動を開始する様が映し出されていて。
「……光学映像を表示」
システムにそう命じた途端映し出される映像。先ほどの世界地図上に光点で大体の位置を表示しているだけではない、現地の定点カメラの映像を盗んで表示した映像。ナマの映像だ。
「……げっ」
そうして其処に映し出された映像を見て、思わず呻き声を漏らす。なぜなら俺は、その画面に表示されている二体の怪獣を知っているからだ。
二つに分割され、其々の光点を近隣のライブカメラから撮影したであろう画像。
一つは、石のようにも見える材質の兜を被ったような姿の、ゴジラのような恐竜型怪獣。
一つは、同じく石のような材質の装甲を身に纏い、鋭い刃の両手を持つ、翼を持った怪獣。
方や、『大地を揺らす怪獣』ゴルザ。
方や、『空を切裂く怪獣』メルバ。
共にカテゴリCと呼ばれる、超古代に大地を焼いた怪獣の一種。と、ティガで語られた怪獣達であった。
因みにこのカテゴリCとは、クトゥルフ神話系の怪獣ということになるらしい。
またSAN値を削る怪獣かよと、思わず胸の中で愚痴を零しつつ、如何した物かと思考を進める。
先ずゴルザとメルバ。この二体は、原作『ウルトラマンティガ』において、目覚めと共にティガの巨人を滅ぼすために日本へ向かって移動を開始するという怪獣だ。
つまり連中には、ウルトラマンを敵と認識できる程度の知能は有ると考えて良い。
そんなゴルザとメルバ。共に驚異的な怪獣であり、二体同時に攻略するのは先ず不可能と考えて良いだろう。
であれば、二体の怪獣は確固撃破して行くことが望ましい。幸いこの世界にはティガの巨人なんて物は存在していない。ならばあの怪獣が日本を目指してくる事も……。
そんな事を考えながらデータ上のMAPを見て、思わず思考が凍りつく。地図上に表示された二つの光点。それは、徐々にだが、然し確かに日本の方角を目指して移動しているように見える。
「……は? 如何いうことだ??」
なんであの二体が日本に向かって移動してるんだ? 何が日本にひきつけている? ……まさか俺か? けれども普段は力を封じている俺を、如何やって感知していると?
ぐるぐる回る思考。けれども情報が足りていない現状、答えが出るはずも無く。
考えても仕方ないのならば、とりあえず確固撃破のために出撃しよう。
そう考えて、とりあえず向かう先をどちらにするかで思考する。
ゴルザとメルバ、その脅威の対比は、俺の中では間違いなくゴルザに重きをいている。
なぜなら物語始まってすぐに始末されたメルバに比べ、ゴルザは物語中に二度、続編を入れれば三度、再出現する度に力を増して再戦を挑んできたのだ。
ならば大きい脅威から排除する事を優先すべきだろう。そう考えた俺は、とりあえずゴルザを撃破すべく、アークプリズムを展開し、モンゴル平原へ向けて転移を開始するのだった。
海底シェルターからの情報支援を受けつつ転移した俺は、そうしてたどり着いた先で見た光景に思わず口元を引き攣らせる。
視線の先に広がる海。其処に消え行く尻尾のような物。転移した場所は既にモンゴル平原から遠く離れ、現在既に東シナ海へとその身を沈めた直後のようだった。
「おいおいおい!? 移動速度が速すぎないか!?」
言いながら、システムを使って海底シェルターのメインコンピューターにアクセス。ゴルザの行動ログを参照する。
そうして表示されたのは、北京、天津を盛大に破壊しながら突き進むゴルザの姿。どうやら現地メディアではっきりとその姿が放映されてしまっているらしい。
別に怪獣情報の秘匿とかいう事に対する興味は無い。ただ問題は、既に結構な被害がでてしまっているという事だろう。
人類同士で戦争をしている余裕など既に無いという事を世界が理解してくれるならば良いのだが、ソレを理解しない愚物にとっては、他国の被害は格好の隙に見えている。
その『隙』に釣られて戦争を起そうとする馬鹿は何処にだって居るのだ。
「じゃなくて、だな」
思考を一度切り替える。今やるべきことはゴルザの撃破だ。
海底に潜ってしまったゴルザ。現状の兵装で海の中に居る怪獣に対して有効打を与えられる装備は……ISの装備としてではなく、オルタのハンドスラッシュでの攻撃なんかの、オルタ系技能のみか。
それにしても俺もアークプリズムも水中戦闘の経験は皆無に等しい。此処で追いかけて水中に飛び込むのは、流石に自殺行為だろう。
しかし、だからといって放置することも出来ない。……格なる上は、水上から機雷でもばら撒くか? いやいや、そんな事をすれば後々がとんでもない事になる。俺はいやだぞ、謎の機雷、運輸船と接触! とかいう見出しの新聞が出るの。
如何した物か考えて、結局光学迷彩を展開したままゴルザの行動目標をトレースする事に。水上からでもある程度は察知する事のできる生体反応。特に怪獣の巨大な生体反応を見失う事はまず無い。
ネットワークを探り、コレまでのゴルザの移動過程を検索、それを地図上に当てはめて、大体の進行方向を予測。更に精度の高い情報を当てはめる事で、ゴルザの目的地を予想しようと言うのだが。
「……これは、また」
そうして割り出された目的地。いや、目的地かはわからないが、その進行方向。
「……モロに家のある方向じゃねーか」
このままゴルザが直進した場合、もう一度陸地を蹂躙しながら水中に沈み、そしてついには日本にたどり着くことになるだろう。そうしてたどり着いた日本。このままの予想コース通りに進むのであれば、ゴルザは間違いなく、俺の自宅ご近所を蹂躙する事に成る。
そこで、漸く一つ脳裏に過ぎる物があった。
「……もしかして、ディラクの石像、か?」
ゴルザとメルバが標的にするのは、先ず間違いなくかつて地球を守護していた光の巨人、もしくはそれに関連した物だろう。
そして現在地球上に存在している、俺の知る光の巨人に関連したものと言うと、先のイブ=ツトゥルと戦い、そして俺に光を託して還っていったあの巨人、ディラクの姿だ。
ディラクそのものは既に石像になり、その石像も風に溶けるようにしてこの世界から姿を消した。残っている石像の破片は、先に石像と化し切り落とされていたディラクの片腕のみ。その片腕も、既に研究用のアークを残して後はISコアへと加工されてしまっている。……って、ISコアに反応した可能性もあるのか!
これは完全な予想だが、ISコアが世界中にばら撒かれた事で、大元の巨人に比べればとても弱い反応ではあるが、世界の何処かで眠っていたゴルザとメルバの感覚に、ISコアの放つ波長のような物が引っかかったのではないだろうか。
結果その波長に引き摺られて目覚めたゴルザとメルバは、その波長の最も強い場所――つまり、ディラクが還った場所、自宅近所の山の中を目指して行動を開始したのではないだろうか。
「嘘だろおい……」
言いつつ、ISを海面上空で滞空させ、投影ディスプレイとキーボードを展開させる。
本来はISの調整用なんかに用いられるこのディスプレイとキーボード。ソレを用いて海底シェルターと高速での情報通信を行なう。
思考制御だけでは曖昧な情報伝達でも、こうしてキーボードを使い文字に起すことで、より正確な情報へと変換することが出来るのだ。
そうして今度はメルバの行動情報をネットワーク上から引っ張り上げ、それをゴルザの時と同じ手順でデータ上の地図に起す。
表示されるメルバの移動ルート、そして行動予測ルート。青で示されたソレを、今度は赤で示されたゴルザの地図へと重ねて。
そうして二つの線が交差する場所。それは、半ば予想しながらも違って欲しいという俺の願いを完全に打ち砕いて、見事に俺の地元を指し示していた。
「……拙い」
流石に、現状で二体の怪獣を同時に相手取るのは拙い。倒せないわけではないが、先ず間違いなく周辺に大きな被害が出るのを防ぎきれないだろう。
なんとかして一匹ずつ仕留めないといけない。……そう考えていたところで、不意にアークプリズムのコア・ネットワークに通信が入った。
といっても現在まともにコア・ネットワークの運用が可能で、かつ俺のアークプリズムにつなげられる人間なんて一人しか存在していないのだけれども。
『はろはろ、やぁやぁ束さんだよ。まーくん元気?』
「勿論元気だよ。そっちは、月の生活は馴染んだ?」
『んー、今のところアーコロジーの稼動は万事問題なし。食料の方も最低限は手に入るんだけど、でもでもちょーっと地球のジャンクフードが懐かしいかなぁ~』
案の定通信を繋いできたのは束さん。しかも言ってることは割と現在の科学常識をぶっちぎっているのだからもう。
そして俺は知っている。束さん、料理面においても割りと普通に美味しい日本食を作るのだ。余談だが。
「で、このタイミングで通信を入れてきたのはまたなんで?」
『それなんだけどね、今まーくん怪獣の片方を追っかけてるんでしょ? それを中断して欲しいんだよ』
「中断って……なんでまた」
『怪獣の脅威を、世間――世界に認知させる為に』
その言葉に、少しだけ考え込む。
これがどこぞの主人公様ならば、「そんな事のために無関係な犠牲者を~」云々と怒るのだろうが、生憎俺はチートな転生者でこそあれ、気持ち的には一般人でしかない。
それに怪獣、ひいては外宇宙の脅威が認識されていないからこその束さんへのこの扱いなのだ。どちらかと言えば篠ノ之派である俺としては、最終的に自分の周囲の人間さえ守れれば、後はぶっちゃけ如何でもよかったり。
何せ邪神群だったり邪神崇拝教団、あるいは宇宙からの侵略者を放置してしまえば、結局地球規模で被害を受ける可能性が高い。地球を守るのは結局、俺の住んでるご近所の人間を守る為の一環でしかないのだ。
『結局、私達は今まで独自に行動してきたわけ何だけど、それが地球人の外宇宙に対する脅威の認識を遅らせる原因になってたわけなんだよね』
「あぁ、それは確かに」
『で、なら実際に脅威を体感してもらえば、嫌でもそれを認識するわけでしょ』
ある意味でとても合理的な、そして残酷な答え。
確かにこの二体の怪獣を放置すれば、世間は嫌と言うほど怪獣と言う脅威を認識してくれるだろう。然し、その過程においてどれ程の被害がでるのか。想像も出来ない。
「でも、如何収集をつける心算?」
『うん、最終的になんだけど、片方はまーくんに頼む心算だよ』
「片方、というともう片方は?」
『そっちには、日本の自衛隊に頑張ってもらおうかなって思ってるよ』
また無茶なと思いはしたものの、此方が何かを言う前に、束さんは一つのデータを此方に向けて送信してきた。
「……これは……」
『束さん基本的には月にいるんだけどね、偶に火星の調査なんかもしてるんだよ! で、その最中に見つけたのがこの物質』
――束さんも流れに乗って、スペシウムと名付けてみました。
『このスペシウムなんだけど、正確にはスペシウム鉱石から発生するエネルギー体が重要で、コレを封入したスペシウム弾頭とか、鉱石自体を封入したスペシウム砲とか色々作ってみたんだ」
ミ☆、とか付きそうなテンションで喋る束さんだけれども、改めて思う。何このチート。
既に火星に進出しているとか羨ましい、じゃなくて、そんな話聞いてないんですけどっ!?
「火星は今度俺も連れて行ってもらうとして、そのスペシウム砲を自衛隊に供与すると? んな事して、後から日本叩かれません?」
『スペシウム砲を渡しちゃうと鉱石まで持っていかれちゃうから、渡すのは弾頭の方だよ。で、後のことだけど、他の国が何か言い出す前に、束さんが声明を出すつもり』
「声明って……」
『ISと、その本来の目的、それからついでに束さんの活動に関してちょっとだけ』
つまり、外宇宙と地底に潜む脅威に関してを語る心算なのか。
……まだ人類には早すぎる知識、のような気もするのだけれど、既に怪獣が現れだした今、早すぎると言っていられるほどに余裕があるわけでもないのだろう。
「了解。なら、俺は姿を隠して、ゴルザを追跡しておくよ」
『うんうん。……因みにゴルザって言うのはあの怪獣の名前だよね?』
「ああ。大地を揺らす怪獣ゴルザ、空を切裂く怪獣メルバ。どちらも邪神の眷属に相当する怪獣だよ……」
『ってことは厄介な怪獣って事かぁ。うんうん、まぁ何とか成るよね! それじゃ――』
「ちょっと待った!」
そういって通信を切りそうな束さんに慌てて待ったをかける。現状一つだけ束さんに相談しておきたい事が有るのだ。
「あの怪獣、二体とも日本に向かって直進してるみたいなんだけど、束さんなんでか解る?」
『うーん……あの怪獣は邪神眷属系の怪獣、って言うのは確かなんだよね?』
「ん。それは間違いない。近付いたときに、アレに近い闇の気配を感じた」
『それじゃ、まーくんが近付いたとき、怪獣のほうはまーくんに反応した?』
「いや、俺が近付いたのは殆ど海に潜った後だったし、第一俺は普段はオルタを表に出さないようにしてるから……」
『ふむふむ。ならあの怪獣達が追ってるのは、ディラクの残骸の気配か、もしくはイブ=ツトゥルの残した瘴気を目指してるんじゃないかな?』
なるほど。確かにその可能性はあるか。
過去地球に訪れ、そして邪神との戦いの中に倒れた光の巨人・ディラク。彼の残した力は俺が、知識と遺骸は束さんが引き継ぎ、地球を守る為の刃としての研鑽を開始したわけだ。
が、然し、ディラクの身体の一部はイブ=ツトゥルとの戦いの最中に砕かれ、自宅近所の山の中に残されてしまっている。
そしてソレと同じく、地球に舞い降りた宇宙的邪悪であるイブ=ツトゥルの瘴気もご近所の山の中に残されてしまっているのだ。
ディラクの残骸とイブ=ツトゥルの残した瘴気。これらは現状、互いが互いの影響を相殺することで、幸いにもあの裏山は名伏し難い魔界に変貌する、という惨事に至っていない。
だがしかし、その光と闇の気配は両方とも、相殺しているとはいえ確りとその場に残っているわけで。
「それがあったか……」
『でも、っていう事はつまり、まーくんが気配全開にすれば、怪獣を誘引できる可能性がある、ってことかな』
それは確かに。でもオルタ全開にすると、目立つし疲れるしで出来ればやりたくない。
『うんうん。色々情報が集まってきたね。よし、それじゃまーくんは空を飛んでるほう……メルバの方に回ってくれるかな』
「ん? でもゴルザの追跡が……いや、了解」
言いかけて、その途中で思考が追いつく。自衛隊にスペシウム弾頭を供与するとして、仮にソレを供与された自衛隊が戦いやすい相手はどちらか、と。
んなもの、如何考えても大地をノシノシと歩いているゴルザだろう。空をビュンビュン飛び回っているメルバに対して、もしスペシウム弾頭を外してしまえば。
空中戦よりは地上戦のほうがやりやすいのは間違いない。
「それじゃ、後は束さんに任せる」
『うんうん。まーくんも、メルバ相手に油断しないように』
「りょーかい」
言いつつ、秘密基地のテレポーターを遠隔操作。情報支援からメルバの進行予想地点を算出し、その進行ルート上に向かって転移したのだった。
■ガッツシャドー
真幸の持てる技術を全てつぎ込んで試作された対未確認・宇宙生物災害対策用汎用飛行機械。
元ネタはウルトラマンダイナよりブラックバスター隊の特殊仕様機『ガッツシャドー』。
航空システムはネオマキシマドライブ及び疑似GNドライブ。通常航行時、疑似太陽炉をGN粒子生成装置、推進装置として設置した事で、搭乗者に対する高い対G耐性を与え、尚且つ安定した航続距離を獲得した。尚、この疑似太陽炉は機体の電源としては用いられていない。
技術蓄積及び戦場支援の為に手加減なしで開発されており、一部には地球上では生成不可能な物質まで使用されている。
兵装は汎用レーザー砲、偏向マキシマ・ビームカノン。マキシマオーバードライブ、また汎用マルチパーパスサイロ、光学・電磁迷彩なども使用可能。
ガッツウィングを飛ばして開発された為、問題も多いが、ネオマキシマドライブに関しては共同開発を行なった束側の実験により完成度は高い。
……ただしウルトラマン的にテレポートも出来るし、飛んで行くにしてもISが有る為、本格的な運用はネオなフロンティア開拓時代だろうと予想される。
■疑似太陽炉
ガッツシャドーに搭載された推進器。元ネタはガンダム00から。
発電機としての機能を斬り捨て、粒子生成装置、及び推進器としてのみ運用する。
これによって粒子生成量が若干上昇し、対G性能、が向上し、バリア機能などが実装された。
実はガッツシャドーに関して、純マキシマ系技術で統一してもカタログスペック上ではあまり差は無かったのだが、脳量子波系の技術蓄積の為ににあえて実装された装置。
■海底シェルター基地
通称“秘密基地”。性能的には移動要塞。水の其処に沈むピラミッド型のシェルター。元ネタはウルトラマンティガより、tpc極東本部基地ダイブハンガー。但しネタだけ。動力は縮退炉。
核シェルターとしての機能を持つ強固な外殻の中に、上から情報通信設備、データ処理設備、システム・デバイス開発設備、生活フロア、樹林・生物プラント、基地運搬動力炉などの設備が詰め込まれている。
規模に反し収容人数は100人程度。ただこれはアーコロジーとしての機能を廻す場合であり、詰め込めば数千人は収容可能。
基地内部に転移装置を持ち、これによって真幸を遠地へ転移させることも可能。あとある程度の移動・戦闘も可能。運用の大半はメインフレームの量子コンピュータ及びその端末であるオートマトンによる。
マテリアル精製装置なる胡散臭いトンデモシステムを実装しているが、莫大な消費電力に比べ、得られる成果は少なめ。
■『大地を揺らす怪獣』ゴルザ&『空を切裂く怪獣』メルバ。
元ネタはウルトラマンティガ。
裏設定とかそんな感じの話曰く、“カテゴリC”に属する怪獣。Cは勿論クトゥルフ神話。イボイボ甲殻を持ってるのはこれに属するらしい。
■スペシウム砲&スペシウムミサイル
篠ノ之束博士火星において発見した物質、スペシウム鉱石を用いて開発した兵器。莫大なエネルギー=スペシウム粒子を用いた武装。要するにウルトラマンのスペシウム光線を擬似的に再現した武装。
・スペシウム砲
内部にスペシウム鉱石を内蔵したエネルギー砲。一定のエネルギーを与えることで鉱石が生み出すスペシウム粒子を収束・加圧し、一方向に向かって開放する。
・スペシウム弾頭
スペシウム粒子を圧縮・封入した特殊弾頭を搭載したミサイル。スペシウム砲ほどの威力は無いが、数を打ち込むことで同等の威力を得る事が出来る。