窮天に輝くウルトラの星 【Ultraman×IS×The"C"】 作:朽葉周
ウルトラ系の怪獣と言うのには、幾つか共通する弱点というモノが存在している。
例えば角。帰ってきたウルトラマンにおけるキングザウルス三世は角を折られる事でカーテンバリアを破られ、ウルトラマンセブンやタロウにおけるエレキングは角を折られる事で大幅に弱体化する。
他にもチャンドラーみたいな翼のある怪獣は、大抵翼を?ぎられると弱体化する。
そしてそれはこの、俺の目の前を亜音速で飛行する怪獣に関しても同じ。
背中に生えた翼、その付け根辺りを狙い打てば間違いなくあの怪獣は地面に墜落する。ましてあの怪獣は現在此方の存在に気付いていない。
ミラージュコロイドを使って背後に回り込み、そのまま追尾を続けているのだ。ミラージュコロイドに関しても、戦闘機動にでも移らない限りは十分に余裕がある。
さて、後は束さんの指示をまつだけなのだが。
『ハロハロまーくん』
「お、束さん。もういいの?」
『うん、自衛隊の方も準備できたし、コッチの準備も出来たから、後はまーくんがパパーっとかたしちゃってね!』
「おっけー」
それじゃ、ご注文の通りパパッと始末してしまおう。
先ず最初にするのは、リフェーザー砲を対怪獣出力で打ち込む。狙いは前述の通り怪獣の翼の根元だ。
リフェーザー砲の高温の粒子によって大爆発を起すメルバの背中。メルバは甲高い悲鳴を上げると、そのままの速度を維持しながら一気に高度を落とす。
そしてそのままの速度で山の壁面に突っ込んだメルバ。ほぼ亜音速のまま突っ込んだのだ、凄まじい振動が台地を襲ったのだろう。山の周囲の森から一斉に大量の鳥が飛び上がって言った。
「さて、人間ならあの速度で突っ込めば即お陀仏なんだけど……さすがカテゴリCというべきか」
――キキャアア!!!
視線の先。モクモクと立ち上る砂塵の中、両手の鋭い刃を振り上げながら叫び声を上げる怪獣の影が映る。
多少足取りはふらつき、背中の羽は片方が殆どもげてしまっていて。そんな状況にも拘らず、怪獣メルバは立ち上がり、地面を歩き出していた。
やはり怪獣の中でもカテゴリCは別格か。肉を持つ怪獣であるのは事実だが、残滓ほどとはいえ邪神に近い闇を持つ存在だ。物理攻撃だけで斃し切るのは難しいのだろう。
「――オオオオオッ!!!」
声を上げてオルタを高める。金色の輝きがあふれ出し、俺の躯を包むアークプリズムを金色に染め上げる。
―――キキャアアアアアアア!!!!
加速しながら近寄ろうとする俺に、甲高い鳴き声をあげたメルバが、その鋭い両腕の刃を振り回し、その身に近付くものを切裂こうと両腕を振るう。
けれども、だ。既に半ば以上人を外れている俺の知覚から見れば、メルバの豪腕は余りにも隙が大きい。例えるならそれは赤子が癇癪で腕を振り回すのと同じような動きなのだから。
余裕を持った瞬時加速でその両腕の振りを回避し、近付いたところで右手に意識をやる。アークプリズム改の右手に搭載された新装備、ビーム手刀。
何時ぞやにリフェーザー砲を振り回してビームサーベルの如く扱っていたのだが、ならばいっその事ビームサーベルを用意してしまおう、という考えの下装備されたのがコレだ。
因みにビームサーベルからビーム手刀になったのは、ビーム手刀ならばサーベルと違い武器を持ち帰る手間が省けて、いざという時の奥の手にもなるから、というものだ。
オリジナルISコア――アーク結晶と俺のオルタが共振し、只でさえ普通のISに比べ過剰な出力を誇るアークプリズムのエネルギーが増幅される。
そのエネルギーは右手のビーム手刀に注ぎ込まれると、そこに凄まじいエネルギーを持った黄金の剣を顕現させる。
「おりゃぁっ!!」
思い切り振り下ろす右手。当れば間違いなく相手を寸断できるであろうその一撃は、けれどもメルバの両腕の刃によって寸前で受け止められてしまう。
――キキィイイイイ!!!
両腕を交叉させ、その隙間で金色のビーム手刀を受け止めるメルバ。何処か嘲るようなその鳴き声に、けれども此方こそ鼻を鳴らしてメルバを哂う。
「馬鹿め!!」
オルタを更に高めアークプリズムへと送り込む。途端に右手から伸びる黄金の剣はその輝きを増し、その輝きと同じくエネルギー量を増大させていく。
途端に寸前までのエネルギーから膨れ上がっていく黄金の剣は、メルバの両腕の剣を徐々に焼き切っていく。
――キ、キキキイイイイイイイイイイイイイ!!!!!??????
一閃。
振り下ろされたその一撃。咄嗟に後に飛び退いたのであろう、メルバを正中から両断する事は出来なかった。然しそのメルバ最大の武器であろう両腕の刃は、黄金の剣によって根元から両断する事に成功した。
最早恐れる物は無し、とは言わないが、最大の武器が失われたのは事実。
飛び退き、そのまま距離をとろうとするメルバ。けれどもそれは此方が許さない。瞬時加速により即座に最高速度に乗ったアークプリズム改。その勢いのままメルバに一気に肉薄する。
「久遠の虚無へ還れ!!」
ざんっ!
そんな音を立てて、メルバの身体に笠懸に金色のラインが走る。膨大な破壊のエネルギーを含むその裂傷は、次第にメルバの全身に黄金の裂傷を広げていく。
――キギエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!
ゴッ、と大気が荒ぶる。叩き込まれたオルタのエネルギーにより崩壊したメルバ。内側から溢れたそのエネルギーが爆発となり、メルバの身体を跡形も無くこの世界から焼滅させたのだ。
少しして落ち着いた頃。見下ろせば其処には、先ほどまで森と山があったはずの場所、しかし今は、その山の中腹辺りにぽっかりと大きなクレーターが開き、更には其処を中心として周囲の木々が外側に向けてなぎ倒されている。
まるで隕石でも落ちたかのようなその惨状。……まぁ、リフェーザー砲で山ごと消し飛ばすよりは被害も抑えられたのだし、許容範囲ないだろう。
勝手に自分でそう結論付けつつ、改めて再び周囲をサーチ。周囲にメルバないし敵性体が存在しない事を確認して、右腕を一振り。ソレと共に消えうせる黄金の剣。
更にオルタの出力を止め、ミラージュコロイドを展開。そのまま一気にその場を離脱した。
「……さて、後は自衛隊と束さんのお手並みを拝見、と」
始まった自衛隊対ゴルザの戦いは、やはりゴルザによる圧倒的な破壊が優勢となった。
ゴルザの進行ルート上に並ぶ10式戦車の120mm滑腔砲がゴルザを撃つが、然しその反撃としてゴルザの放つ超音波光線により地上の戦車部隊は一気に半壊。然し壊滅を間逃れた戦車部隊が即座に後退、距離を置きつつ砲撃を続行する。
更にAH-1S対戦車ヘリコプターにより攻撃。当然対戦車ロケット砲では怪獣に対する効果など高が知れているが、それでも複数の対戦車ヘリによるロケット攻撃は十分にゴルザの意識を引く事に成功していた。
当然ゴルザは超音波光線により対戦車ヘリを狙うのだが、対戦車ヘリはひらりひらりとその怪光線を回避する。それでも中には被弾し爆散していく対戦車ヘリもあるが、全体の損耗率としては低目を保っている。
そうして戦車と対戦車ヘリによって注意を逸らされたゴルザ。進行ルートを捻じ曲げられ、ゆっくりとひと気の少ない山岳地帯へと誘導されていく。ゴルザの踏み込んだ先、其処に待ち構えていたのは、山の所々に待ち構えていた81式短距離地対空誘導弾による短SAM改の爆撃である。
雨霰の如く降り注ぐミサイルの雨にはさすがのゴルザも怯んだようで、その場で身をかがめて丸くなることでミサイルの雨を耐えようとしていた。
けれどもそんな最中、何処からとも無く飛来するのは航空自衛隊の主戦力であるF-15。編隊を組んで飛来したF-15は、その翼に備え付けたミサイルとロケット、さらにはバルカン砲までを無造作に撃ちまくる。
そんな中、狙ったのかそれともまぐれか、身を丸め込んで耐えるゴルザの足元に一発の砲弾が命中。これがゴルザを転倒させるにいたる。
続けてゴルザに攻撃を続けようとした自衛隊であったが、然しゴルザも然る者、倒れこみながらも額から超音波ビームを放ち、不用意に近付いた対戦車ヘリを攻撃。爆散し墜落したヘリは、一部が地上のミサイル車両を巻き込んで爆発を起した。
そうして火力が減少した一瞬の隙。ゴルザは即座に立ち上がり、周囲の山肌目掛けてメチャクチャに怪光線を放ち始めた。
途端燃え上がる山肌。幾ら森の中、山の中に姿を隠そうとも、山が燃えてしまってはどうすることも出来ない。慌てて撤退を開始する地上部隊。
航空部隊は攻撃能力こそ高いが、地上部隊のように戦線を維持する力が在るわけではなく、単発的に継続してゴルザを攻撃する物の、やはり火力にも限界があり、あっというまに形勢はゴルザへと傾いてしまう。
地上がゴルザに蹂躙され、ついに不味いか、という最中。はるか上空から舞い降りた三つの白い輝き。流星のような光の尾を引いて現れたのは、三機の濃緑色と青と橙色のISらしきもの。
それら三機のISは、其々実弾火砲搭載型、エネルギー兵装実装型、近距離戦闘装備型といった感じなのだろう、自衛隊の陸上部隊の撤退を支援していた。
……ふむふむ、国防省の最新技術研究所の実験部隊をそのまま派遣したわけか。それで濃緑(陸)と青(空)色なわけね。それじゃ橙色は本当の意味で実験機と。
青色のエネルギー兵装型が、その低重量を生かし高機動でゴルザを撹乱、橙色の近接戦闘型がその特殊装備でゴルザの分厚い肌に傷をつけ、濃緑色の実弾火砲搭載型がその傷に向けて、持てる限りの火力を一点集中で叩き込む。
其々三機のISは、総合的な火力で言えば自衛隊の師団のそれにはとてもではないが届かない。
然し自衛隊では運用していない特殊な兵装や、その圧倒的な空間戦闘能力により、ゴルザの攻撃を回避しながらも的確にゴルザに対してダメージを与えているのだ。
「うーん、見事。束さん所からコアを改修してまだ半年程度しかたって無い筈なのに、あれほどの操縦者が育つか」
何が凄いって、ISにおけるチームプレイをこなしていると言う点が凄いのだ。ISは従来兵器に比べて圧倒的な機動力を誇り、それこそが最大の武器だ。
そして機動力を生かすということは、どうしてもチームというモノが成立し辛い環境を生みやすい。何せ高機動戦闘における“時間”の価値と言うものは凄まじくたかい。一人が呼吸を乱せば、全体が躓く事になりかねないのだから。
然し実際あの三機のISは、総合的な操縦技術はまだ未熟ながらも、然し見事に三機での連携によって、見事ゴルザにダメージを与えているのだ。
――グギャアオオオオオオオオオアアアアアアア
日本も中々侮れないな、なんて考えつつ、視線を戦場に向ける。と、青色の機体がゴルザの周囲に光の輪のようなものを描き始めた。
何をする気だろうかとその様子を眺めていると、次は橙色の機体が青色の機体に変わってゴルザの注意を引き始め、その背後、少しは慣れた位置で濃緑色の機体が新たな装備を格納領域から展開していた。
その濃緑色の機体の両肩に展開されたのは、巨大な二つの箱。多分だが、ミサイルランチャーのコンテナだろう。もしかすると、アレこそが束さんから自衛隊に供与されたと言うスペシウム弾頭弾なのかもしれない。
そうして見守る視線の先で、濃緑色の機体はその肩から日本の極太ミサイルを射出する。それは橙色の機体の陰からゴルザに迫り、タイミングを合わせて離脱する橙色の機体と入れ替わるようにしてゴルザの顔面に着弾した。
ミサイルからあふれ出す白銀色の輝きは、ゴルザを飲み込むと凄まじい光を撒き散らし、また同時に周囲発砲に無作為に衝撃波を撒き散らした。
――ンギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
正に悲鳴、という鳴き声を上げて倒れこむゴルザ。その瞬間、青色の機体が空に残した光の円がその輝きを増す。
その輝きはゴルザを包み込むように広がり、一定の空間を輝く幕のような物で完全に被ってしまった。
その幕の中。悲鳴を上げるゴルザは身体中に銀色の亀裂を浮かべていく。ソレはまるで、俺のオルタによって断たれたメルバが、その内側から弾け出したオルタによって爆散した時の様子にも似ていて。
なるほどアレの再現なのか、と納得しつつその姿を見ていると、ゴルザはその身を内側からあふれ出した白銀の光に焼かれて大爆発を起した。
「……は?」
そしてソレを見て、思わずそんな声を漏らしてしまう。俺がメルバを倒したときに発生した大爆発。けれども目の前で倒されたゴルザは、確かに大爆発をお越しはしたものの、その爆発の大半は真上、空に向けてその威力を逃がしてしまっていた。
……まさかあの青い機体が敷設していた光の円? あれが爆発の衝撃波を天壌方向に逃がした? でもそんなモノを如何やって……。
『ハロハロまーくん、見た見た見てた!? あれこそ束さんの新装備、ケアシールドカーテン! ISの絶対防御をちょろっと応用した“柔軟なバリア”だよっ!!』
「……って、アレも束さんの作品?」
『そだよー。まーくんもちーちゃんも周りの被害を考えろ、って言ってたからね。あんまり面白い作品じゃないけど、作ってみたんだー」
そう言う束さん。何でもあの光の幕は、一種の膜状のバリアで、軟らかいそのバリアは受け止めるための物ではなく『受け流す』為のバリアなのだとか。上手くすればオルタ全開のリフェーザー砲ですら防げる、と束さんは豪語する。
『いわば束さん式ひらり○ント!! 使ってる技術も基本的にISのシールドバリアの応用だし、流出しても痛くも痒くも無いもんねー』
「なるほどね。それで爆発の威力を上空に逃がした、と。予めその事を自衛隊にアドバイスしてた?」
『うんうん。折角の束さんの作品何だから、上手く使ってもらいたいしね』
それで理解した。如何考えてもあの光の幕……ケアシールドカーテンだっけ? は、自衛隊のというか日本の技術力を大きく逸脱した技術だったし。束さんの技術だと言うのならば十分納得できる。
「まぁ、疑問は解消したけど――それで? この後はどうする心算なの?」
『ふっふっふー! 実は今の戦闘、自衛隊のヤツね、それを電波ジャックしてお茶の間に放送中なぅ!』
「……そりゃまた……」
普通あんな怪獣の存在なんてものは混乱しか生み出さない。世界各国の常識的な政府であれば、時間の問題とはいえ報道管制くらい引いて、多少成り時間稼ぎをしようとするのではないだろうか。
其処にまさかの電波ジャックを用いての強制認識。そりゃ世界がパニックになるんじゃなかろうか。
『まぁ、早速株式市場は混乱し始めてるみたいだけど、でも今は、そんな事は如何でも良いんだ。重要な事じゃない』
「何だか霧が――じゃなくて、目的は脅威の認識として、その収拾を如何納める心算だよ」
『んひひひ。そのためにこれから演説するんだよ。それじゃ、まーくんも基地に戻って見ててね』
「了解」
いよいよ束さんの演説が始まるのか、なんて考えながら遠隔操作で秘密基地の転送装置を遠隔操作で起動。自分を基地へと再転送し、ISを待機状態へ。
「……さて、どうする心算なのかな」
呟きながら、ミーティングルームに移動し、映し出されるディスプレイへと視線を向けたのだった。
「始めまして皆さん。……いや すでに逢った事のある人もいるかな? 私が噂の大・天・災! 篠ノ之束だよっ!」
束さんの演説。地球の上空に存在する大半の人工衛星をハッキングすることで、ほぼ世界中全ての人間に、テレビ、ラジオ問わず、ありとあらゆる電子情報媒体を利用して届けられたその言葉。
静かに、けれどもはっきりと、世界の――地球に住む全ての人たちへと語り始めたのだった。