俺は普通の日常が好きだ。
いや別に毎日を何の変化もなく過ごしたいなんて思ってはいない。
たまには友達とカラオケへ行ったり普段話さないような人とお喋りしたりといった刺激は欲しい。
なぜこんなことを急に語り始めたかというともちろん理由はある。
それは......。
「おーい紅葉(くれは)ー。お昼一緒に食べよー」
なぜかあの日以来毎日絡んでくるあの女生徒、鳳凰院(ほうおういん) 恋那(れんな)が俺の心にゆっくりと侵食してくるからだ。
「はいこれ、お弁当」
「......」
「それとこれお箸ね。お弁当箱の中に入らなくてさ」
「......なぁ鳳凰院」
「なに?っていうか名字で呼ばないでって言ってるじゃん。嫌いなんだよその名字」
まぁそうだろうな。ただの一般家庭のお前がそんなたいそうな名字を名乗ってたら恥ずかしいだろうさ。
というか俺でも恥ずかしい。
いや、そんなことはどうだっていい。
「なんでお前は「恋那」......恋那はこうやって毎日お昼を持ってきてくれるんだ?俺たちは恋人同士でもなければなんでもないよな?」
そうなのだ。この鳳凰院 恋那は俺の彼女でもなんでもない。
それなのにもかかわらずなぜか毎日お弁当を作ってきてくれるのだ。
「? そんなの当り前じゃん。僕たち友達でしょ?」
「お前は友達になったやつ全員にお弁当を作ってきてあげるのか?」
「何言ってるのさ。友達は紅葉だけでしょ?それ以外の人なんてどうでもいいよ」
「......」
この恋那という人物とは一週間ほど前に出会った。
いや、前から恋那という人物は知ってはいたのだが別段親しいわけではなかった。
それがひょんなことから話す機会があり、紅葉なら友達に認めてあげるよと言われてなぜかこうなってしまったのだ。どうしてこうなった。
話してみると恋那は心底人間というものを信じない。自分ですら嫌いという人間嫌いだった。
最初は俺を見る目も興味のなさげな目だった。
だったんだが......。
「どうしたの紅葉?なんなら僕が食べさせてあげようか?」
人間変わるものだな...。
「いや、いいよ。いただきます」
「ん、どうぞめしあがれ」
今日のおかずは卵焼きにからあげにポテトサラダか。相変わらず弁当はうまそうだ。
かなり癪な話だが俺は恋那の卵焼きが好きだ。
何が好きなのか俺にはよく説明できないが、とにかくうまいから好きだ。それでいいよな。
俺は恋那が作ってくれた卵焼きを最後に食べるために端に寄せる。
「ん?卵焼き食べないの?じゃあたべちゃおー」
ひょいっ
「あっ」
ぱくっ
「うん。今日もうまくできてるね」
「......」(ぷるぷる
こ、こいつ...恋那が作ってきてくれた弁当なの大声で文句は言えないが...くっ!
だいたいお前が作ってきたんだから中身は同じじゃないか!まず自分のを食え自分のを!
くそぉ...俺の卵焼き...。
「くーれは」
「...ん~?」
「すきありっ!」
「んむっ!」
もぐもぐ
ごくん。
「おいしい?」
「......」(コクン
「ならよかった」
無防備にこんな事ばかりされるんだから。
気になっちゃうのもしょうがないよな。