5時限、6時限と授業をさぼりHRくらいなら受けるよという恋那の言葉で俺たちは教室へと戻ってきていた。
一緒に戻るとクラスの奴らに変な誤解を(別に誤解でもなんでもないが...)生むからと俺が提案したのにもかかわらず恋那はというと。
「友達なんだからこのくらい普通じゃない?」
これである。
恋那はいったい友達というのをどれだけ大きな存在だと勘違いしているのだろうか...。
少なくとも男女の友達であればまず腕枕をしたりはしないと思う。
いや...腕枕は俺からやったんだっけ...なんてことをしたんだ俺は。
再三言うが、俺たちは彼氏彼女の仲ではない。
俺も恋那のことは友達だと思っている。
だが、こんなことが続くと困るのだ。
なぜ困るかというと。
「秋月君。一緒に帰ろう?」
「あぁ、帰るか。理沙」
俺にはもう...理沙という存在がいるのだ。
「くーれはー。いっしょにかえろ~」
恋那は紅葉の机の方へ声をかけるが返事はない。
「...ん?あれ?紅葉もう帰っちゃったのか」
誰か紅葉を見ていた人がいないかクラスメートに聞こうにも恋那にはその聞ける相手がいない。
というか恋那は人見知りとかではなく紅葉以外と話すことを嫌う。
紅葉以外の人間は汚いもの。
それが恋那の認識なのである。
もちろん、その汚いものの中には自分も入っている。
恋那は自分が好きになれない。
昔やんちゃしていたこともあり身体のあちこちには傷が走っている。
自傷行為だ。
そんなことをするほどまでに、恋那は自分が...人間が嫌いだった。
毎日をそんな汚いものと共存していく生活。
恋那は毎日がつまらなく、からっぽだった。
しかし、そんな毎日が少しだけ変わったのはほんの一週間前のことだった。
あの日恋那は普段絶対に頼まれたりしないプリント作りを教務主任に頼まれた。
恋那も普段だったらばっくれるのだが、この日は暇だったのもありなんとなくやってやろうかなというくらいの気持ちで教務主任に指定された上の階の視聴覚室へと向かった。
視聴覚室に入ると、一人の背の高い男子がすでに座ってパチンパチンとプリントをまとめてホチキスを打っていた。
男子がこちらの気配に気付いたのか、ゆっくりとこちらへ振り返る。
「おせーぞ。ほらよ、これあんたのホチキスな」
男子はそういうと恋那へホチキスを投げ渡した。
が、恋那はそれを受け取らずホチキスはガシャンと音を立てて床へと落ちた。
恋那にしてみれば人間が触ったものを触りたくなかったというのがあった。
自分も汚いものだという風に思っている恋那だがやはり汚いと思っているものが接触していたものは触れるのに抵抗がある。
しかし、人間はこういう恋那の態度を見ると機嫌を損ねるらしい。
この男子もそうなのかと気だるげに男子の方へ顔を向けると、その表情は『疑問』
別におかしな反応ではない。腹を立てるような人間もいるだろうが、なぜこの人は受け取らなかったんだろう?と疑問をまず感じる人間だっているはずなのだ。
しかし恋那にはその考えが浮かばなかった。人間は汚く浅ましい。
それが人間という恋那にしてみればこの男子の反応は新鮮な反応だったのだ。
恋那は汚いと思っていた人間に...この男子に少しだけ興味がわいた。
「いやごめんね。潔癖症の気があるんだ。気を悪くしないでね」
「あぁそういうことか。俺の方こそ悪かったな。まぁそれはいいから早く終わらそうぜ」
こんな会話から始め、少しだけこの男子と話した。
話せば話すほど興味のわく男子だった。
名は秋月(あきづき) 紅葉(くれは)というらしい。
恋那はこの日から、学校へ行くのがからっぽな毎日に少しだけ潤いを注いでくれる出来事となっていたのだった。
「それじゃここら辺でね。また明日ね」
「あぁ。気を付けてな。また明日」
理沙とはこの分かれ道で帰り道は別々の方向となるため、別れの言葉をたがいにかけていた。
俺がさっさと帰ろうと理沙に背を向けると後ろから声がかかった。
「ねえ秋月君」
「ん?」
理沙はすこし言いづらそうにしながら、こう言った。
「鳳凰院さんとは......ほんとになにもないんだよね?」
「............あぁ」
俺は理沙の顔を見ずにただ一言そう言った。