太陽が真上にくると、空腹を覚えた。
そろそろ昼飯時だろうな。
適当に商店街の中にあるお店に入り、俺たちは軽い昼食をとっていた。
「ねえくれはー」
「ん?」
頼んだパスタを食べていると、恋那が間延びした声でこちらへ問いかけてきた。
「ずっと気になってたんだけど今日何かあるの?商店街のあちこちに提灯とか国旗があるけど」
そこで俺もきょろきょろと周りを見渡すと、確かに提灯や国旗が規則的に商店街全体に飾られていた。
ふと目に入った店の中のポスターを見ると、どうやら今日は夏祭りがあるらしい。
「夏祭りがあるみたいだな」
「そうなの?せっかくだしいこうよ」
あれ、てっきり人が多いところにはいきたくないとか言いだすかと思ったんだけどな。
「むぅ...その顔、人の多いところにはいきたくないんじゃなかったのか。とか思ってるでしょ~?」
こいつ...エスパーか。
「紅葉の考えてることくらいわかるんだからね~?言っとくけど私は人の多いところは確かに嫌いだけど楽しいことは好きだよ」
そうなのか。そうだろうな。恋那だし。
「それにさ」
ん?
「夏祭りってなんかあれじゃない?なんていうか...賑やかだけどうるさいとは感じないって言うか...なんていうのかな?わかんないや」
...なんとなくだが分かる気がするな。
「ゲーセンより人間の汚いところが見えにくいって感じか?俺もよくわかってないけど」
「そうっ!できれば理由も付けてほしいけどとりあえずそれ!ゲーセンってなんか浅ましい感じがするじゃん」
お前今全世界のゲーセンファンを敵に回したぞ。
「ってことで!ね?いこ~?」
んー。
「そうだな。今日このあと何があるわけでもないし」
「やったっ!じゃあ一回家に帰る!」
「はぁ?なにしに」
「ふふふ~、秘密」
そう不敵に笑う恋那の目が、俺には何かを期待する女の子の目にしか見えなかった。
商店街のお祭りは意外と大きく、近くの公園を中心に屋台がずらりと並んでいた。
公園の噴水のところで待っててねという恋那の言葉で俺はかれこれ30分待っていた。
いや違うぞ?今度はほんとに恋那の遅刻だ。いったい何やってんだか...。
「ごめんくれはー!」
やっときたか...。
「遅いぞなにや......って......」
「ごめんごめん、着付けに手間取っちゃって」
恋那の姿は可愛らしい白と淡い青の浴衣姿だった。
「......」
「どうしたの?まさかほんとに怒っちゃってる?」
「......可愛いよ恋那」
「......え?ふぇ?えぇぇぇぇ!?ど、どどどうしたの!?暑さで頭おかしくなっちゃった!?」
「せっかく褒めてるのに失礼な奴だな」
「い、いや、だって......確かにそう言ってほしくて着てきたけど...紅葉の方から言ってもらえるなんて思ってなかったから...」
まぁ普段なら言わないだろうな。俺もびっくりだ。あれだ、うん。お祭りで気分が高ぶっちゃってるだけだ。
「可愛いもんは可愛いよ」
「も、もういいってば...そ、それよりはやくいこっ...」
顔を真っ赤にしている恋那はいつまで見てても飽きなかった。
「あっ、射撃だって。紅葉あれとってよ」
そういう恋那の指の先にあるのは。
「ってたばこじゃねえか!?誰がとるか!」
「冗談だってば...そんな怒んないでよ」
恋那が言うと冗談に聞こえないんだよ...。というか店の方も景品の一つにたばこがあるってどうなんだ。
「ん~...じゃああれとって」
「お前なぁ...簡単に言うなよ。俺射撃なんてやったことないぞ」
「台から身を乗り出して腕を伸ばせばとれるって」
じゃあ自分でやればいいじゃんか...。
「もうっ、いいから一回やってみてって。ほらあれ」
「...あれか。まぁあれくらいなら」
お店の人にお金を渡し、俺は引き金を...引いた。
「~♪」
「ご機嫌だな」
「紅葉からのプレゼントだからね~」
上機嫌な恋那の手首には俺が先ほど射撃でとった安っぽいシュシュがある。
別につけてても恥ずかしいものではないが、射撃の景品だということを知っている俺にしてみればあまり外でつけたいものではない。
恋那は気にした様子もなく、鼻歌を歌いながら自慢気に手首を晒していた。
少し注視すると...その手首には傷が見え隠れしている。
......まぁ見なかったことにしよう。俺は気にしないが恋那が気にするからな。
しばらく二人で屋台を回りながらぶらぶらしていると、花火がもう少しで打ちあがるというアナウンスが流れた。
「ね。せっかくだし、あそこ行こうよ」
恋那が指差している場所は中腹に神社のある小さな裏山だった。
「あそこからなら花火が綺麗に見えそうじゃない?」
...せっかくだし綺麗に見える場所があるならそうするか。
俺たちは少し距離のあるそこへ、ゆっくりと歩いて行った。
「なんとかなるものだね~。間に合っちゃったよ」
「だな」
少し距離があるように見えたため、時間的に間に合わないかと思ったがなんとかなるものである。
花火はまだ一発も撃ちあがっておらず、周りにも人影は見当たらなかった。
「ここなら静かだし丁度いいね」
「そうだな」
途端、空から花火特有のひゅ~っという撃ちあがる音が聞こえてきた。
どうやら始まったらしい。
「お~、おっきいね~。もっとしょぼいの想像してた」
「俺も。綺麗だな」
「ね~」
ふと、恋那の顔を見るとその目は花火に釘付けになっていた。
改めて恋那を見ると、いつもはツインテールの髪をアップにしてるせいなのか、浴衣を着てるせいなのか、はたまた両方か。いつもは感じない色っぽさを感じる。
ずっと見ていると変な気分になってきそうなので、俺は恋那から目を外し花火を見ることにした。
「ねえ紅葉」
「なんだ?」
「んっ!」
再び恋那の方を見ると、目を瞑ってこちらに顔をあげている。
「......なにしてんだ?」
「もうっ...だから、んーっ!」
...いや、さすがにそれは...俺には理沙がいるわけだし...恋那は友達な訳で...。
でも女の子にここまでさせといてそれに答えないのは男としてどうなんだ?
いやでも女としてみる前に俺には理沙が...。
などと頭の中で葛藤している俺に痺れを切らしたのか、恋那が顔を近づけてきた。
「今だけだから...」
そう俺に囁くと、恋那は俺の首に手を回しやわらかい唇を押し付けてきた。
「んっ...ちゅっ...」
「んっ...れんな...ちょっとまてって...」
肩に手を置き、俺はいったん恋那を引き離す。二人の唇を結ぶ銀の糸が艶めかしい。
「いまだけ...いまだけだから...」
俺に言っているのか...それとも自分に言い聞かせているのか...恋那はそういうとまた唇を合わせ、俺たちは舌を絡ませあった...。
自分で書いてて恥ずかしくなりました...