僕は無力だ。
日曜日。
その時刻はもうすでに夜の8時を回っていた。
今日...何をしていたんだったか。
昨日の出来事以降、記憶が飛び飛びだ...。
恋那とキスをした。
その事実だけが頭の中をぐるぐると回る。
女友達とノリでしてしまうようなフレンチキスなどでは絶対にない。
紛れもない浮気行為だろう。
明日は月曜日。
俺は...理沙の顔を見て平気でいられるだろうか?
恋那の顔を見て...このどうしようもなく恋那が愛しい気持ちを隠していられるだろうか...。
学校へ行くまでの足取りはとにかく重かった。
どんな顔をしてあえばいいのか...。
なんて話しかければいいのか...。
昨日の夜からずっと悩んでいる...。
だというのに......。
「はろー。紅葉」
「てめぇはなんで平気なんだこらぁぁぁぁ!?」
「だってこれが僕だし。というか朝っぱらからうるさいよ?」
「ったく...」
しかし、恋那をよくみてみると手が震えている。
ファンデーションで隠しているようだが目の下に隈もできてしまってるようだ。
......恋那だって悩んだに決まっている。
あれで恋那は繊細な女の子だ。悩まないわけがない。
男の俺がしっかりしないでどうする。覚悟を決めろっ!
「......屋上行こうぜ、恋那」
「ふぇ?いや...今日は授業うけよっかなって...」
「いいからいくぞ」
俺は無理やり恋那の腕をつかむと自分たちの机にかばんも下さず屋上へと引き連れた。
「ちょっと紅葉離してって。きゃー犯されるー」
「誰が犯すか」
屋上へ行くまでずっとこの調子だ。
口では離してとずっと言ってはいるが、抵抗などはまったくせずに俺についてきている。
「おーい秋月、鳳凰院どこいくんだー。授業はどしたー」
少し遠くの方からこちらに声をかける人物がいた。
「うわっ...担任じゃん。どうすんの?紅葉」
担任でよかった。あの人なら...。
「鳳凰院に告白でーす」
「そうかー。じゃあ仕方ないな。頑張れよー」
「......それでいいの聖職者...」
「あの人はそういう人だ。そして俺は、担任に嘘をついてはいない」
「え...それって...」
「......」
立ち入り禁止!と書かれた屋上の扉を開くといつもと変わらない俺たちの憩いの場があった。
「よっこいしょ...っと」
「爺くさいよ~紅葉」
「うっせ」
腰を下ろし、そのまま寝転がると青い空が視界いっぱいに広がった。
恋那は寝転がらずに、俺の隣に腰を下ろした。
「眠そうだけど、寝不足?」
「それはお前もだろ。目の下の隈、隠しきれてないぞ」
「っ!.....それは......え?紅葉?」
俺は起き上がると、
恋那とおでこをくっつけた。
「ふぇ!?な、なに?急にどうしたの...?」
「...ずっと泣いてたのか...?」
「え?」
「目の下、隈しか気にしてなかったけど...泣きはらした跡がある」
「......」
「なんで泣いてたんだ?」
「......わかってるでしょ...」
「あぁ...わかってる...」
「ははっ...分かってて女の子に言わせようとするのはナンセンスだよ...」
「そうだよな...こういうのは男から言わねえとな」
俺は何度か深呼吸をすると先ほどから気持ちが悪くなるほど高鳴っている心臓を少しだけ落ち着かせた。
「好きだ恋那。愛してる」
「......友達として?」
「愛してるって言っただろ?異性としてだ」
「......だめだよ...紅葉にはあの女がいるじゃん...」
あの女て...。
「理沙とは別れる」
「そんなのあの子が可哀そうでしょ」
...確かに理沙からしたらたまったもんじゃないだろうさ...それでも。
「それでも俺は恋那を愛したい」
「自分勝手な男は嫌われるよ~?」
「恋那は俺を愛してくれるだろ?」
「自惚れ過ぎじゃない?......そうだけど...」
「ほんとに僕でいいの...?」
「恋那しかいない...恋那じゃないとダメなんだ」
「女々しいな~。......しょうがないなぁ。付き合ってあげるよっ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は恋那を抱きしめた。
「っ!......く、紅葉?」
「...恋那に初めて会って...話すようになって...一週間位した時だったかな...恋那が好きになってる自分に気付いた」
「......僕はすぐに好きになったんだよ?ずっとこうしてほしかったんだから...」
「俺もこうしたかった...恋那と」
どちらからともなく、俺たちは顔を近づけていった...。
唇を触れさせると今までずっと満たされなかった気持ちが心へ注ぎ込まれていく...。
離さない。
この人を俺は守っていく。
これからもずっと。