prologueという名の1話。
朝、アカデミーに登校する時は小降りだった雨は、三限目チャクラの性質変化に関する基礎理論を説明する教師の板書の音を掻き消す程に窓を強く叩いていた。教室の雑音をBGMに雨水が滝の様に流れる窓をぼーっと眺めていると、白い光が教室を照らした一瞬後、里中に響き渡るのではないかと思う程の轟音が包み教室のそこここで悲鳴が上がる。
「あッ」
「おーい、みんな静かに――どうしたアザゼ?」
無意識に大きな声が出てしまった、落雷に驚いて声が出た訳ではない。ある事を思い出した、というより雷鳴と共に耳から記憶が飛び込んで来た様な不思議な感覚に声が漏れた。
「すいません、大丈夫です。」
そうか…、と先生に心配されてしまう。すぐにクラスを静めて授業を再開する。本当に良い先生だな、イルカ先生。
授業が全く耳に入っていないのは落雷前と同じだが、今、俺は教室をきょろきょろと見廻している。イルカ先生も含めて、何人か見知った顔がある。――いや勿論クラスメイトなので教室の全員とも顔見知りなのだが。
俺の隣には何時も道理賺した顔でノートを取るサスケ君、その取り巻きのピンク髪のサクラちゃんやプラチナの様なトゥヘッドのいのちゃん、サクラちゃんを後ろの席から見つめる金髪問題児ナルト君、ナルト君の隣で落雷に興奮しているキバ君。
さて、俺が雷鳴と共に知ってしまったのはこの世界の舞台と、俺の前世に関する極一部の事。つまり、ここが集英社の漫画「NARUTO」の世界であるという事と、この世界に生まれる前に真っ白な空間で、鼻からモアイが飛び出た四つ眼の魚という化け物然とした、状況的に恐らく神様?に幾つか、所謂、転生特典を貰ったという事だ。因みに真っ白な空間に来る前の自分の事は、歳も性別も、好きで漫画を読んでいたのかさえさっぱり思い出せない。
『――ということで、なにか要望はあるかい?』
モアイの化生なのか、魚の化生なのか、どちらにせよ化け物な自称神様は、四つの魚眼と二つの石眼で見つめ聞いてきた。「――ということ」の前にどの様な会話があったのか1mmも思い出せないが、俺の人生の幕が下りた事とNARUTO世界へ転生するという事を、目の前の怪異に既に教えて貰ったという結果だけ理解出来ている。それらを全く疑問にも思わず、寧ろ、脳が凍り付くかという程に冷静なのは自称神様の不思議パワーか何かなのだろう。
『じゃあ、物性を無視して金属を冶金、加工出来る様な能力をお願いします。』
『らーじゃ、矛盾ない感じにしとくよ。』
少し時間を掛けて考え、閃いた。冶金術、というか鋳造術は超重要だ。特にNARUTO世界で生きていく上で手裏剣、刀剣を自前で作製出来れば、忍者に限らず定期的に発生するコストをかなり抑えられる筈だ。そして何よりも、あの世界では貨幣制度が成立しており確か金属硬貨もあった。つまり偽造硬貨が造り放題、かも知れない。超科学的な偽造防止術があるかも知れないので此方は出来たら儲け物程度に考えておこう。
『もう無いのかい?』
んー、なんか頭使うのが面倒臭くなってきた。状況の所為か、はたまた自称神様の不思議パワーによるものか。
『あとは、神様の御意思に従いますので。なんか良い感じでお願いします。』
『らーじゃ、余り欲が無いのかな。』
一応、敬語を使っておいたが神様に対する言葉遣いはこんな感じで良いのだろうか。どちらでも良いか、俺は多分無宗教だし。
『では、また何時か、御機嫌よう。』
特に突っ込まなかったが「らーじゃ」ってなんなんだ。別段神様に固定化されたイメージを持っていた訳では無いが、こんな口調の神様は予想外だ。飽くまで自称神様だが。
こんな事を落雷と同時に思い出した。この世界に生まれ、九尾の災害にもうちはの事件にも巻き込まれず多くのクラスメイト達と同じ様に、平和に十年を過ごして来た、つまり十年前の出来事となるので、細かい部分は覚えていないのだが改めて自称神様、鼻からモアイが飛び出た四つ眼の魚を思い浮かべてみると、その時の自分をなぞる様に頭が冷えて来た。二次元の世界に居るという事と漫画のキャラクターと交流を持っているという事に気付いて思いの外興奮していたらしい。
「あんた、なにきょろきょろしてんのよ。大丈夫?」
ピン留めで暗い紫色の髪を左側が長くなる様に纏めた女の子、アミが後ろの席から声を掛けて来た。アミは原作に於いてサクラといのの回想でワンシーンだけ登場した。サクラを揶っていのに窘められた、ゲーム作品に於けるいのの忍術、毒花手裏剣忍花鳥兜の産みの親である。サクラちゃんともいのちゃんとも普通に接しているので、あの後仲直りしたか、あるいは俺は介入していない筈だが原作から乖離したのだろう。あと俺の友達である。あと可愛い。二次元の女の子だと思うと三割増しで可愛く見えるから不思議である。
「なんでもないよ。」
イルカ先生の時と同じ様に適当に反してから前に向き直る。頭も冷えたし真面目に授業受けようかな。雨は止めど無く窓に打ち付けては流れ落ちて行く。