軌道降下兵   作:顔面要塞

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 遅くなりました。なるべく話を纏めて、短期間に投稿したいのですが。イロイロと立て込んだ案件が在りまして・・・

 嘘です。ゴブリン巣レイヤーの二次創作考えてました。案件が案件なので、エロい事も考えてしまいました。

 では、また。


因果応報

 アレルドォリア山脈に向かうサレハドからの道。急峻な地形から伸びる美しい山肌を見ながら、今日ものんびりと警戒配置に就くグアディ。傍らには秀人から貰ったタンスクオルド8年があり。氷精魔法で作り出した透明度の高い氷を入れたグラスには、若干色合いが薄まった琥珀色の液体がたゆたっていた。

 

 アレルドォリア山脈が積み重ねてきた悠久の刻にくらぶれば、一瞬の瞬きでしかない人生に思いを馳せながら。少しくすんだグラスを口に運ぶ。

 

 「なんだ?随分とご機嫌な事に時間をつかってんな?そいつが仕事ってんなら、羨ましい身分だ。」

 

 サレハドの中心から歩いてきた深いフードを被った壮年の男が声を掛ける。

 

 「もう帰って来たのか・・。面倒事が増えそうな予感がするよ・・。で?収穫はあったのか秀人?」

 口に運んでいたグラスを、くたびれたテーブルに置き。振り返りもせずに返事をするグアディ。

 

 「ふん・・・。タンスクで情報を仕入れて来た。それと、ブラゴイ家にも挨拶も兼ねて探りを入れたんだが・・。中々に興味深い事がわかったね。」

 グアディの対面に置いてあるもう一つの椅子に腰かけ。いつの間にか取り出した美しい小さなグラスに、タンスクオルド8年を注ぐ。ちょうど指一本分まで注いだところで、一気に飲み干す秀人。

 

 「やはり、若いな・・。だが、楽しめる。」

 

 「まぁ・・それなりにウチの団員も愉しませてもらってる。で、具体的には?風精は感知してないし、周りはウチの団員が固めてる。」

空になったグラスに、もう一杯注ぎながら山を見上げる。

 

 「準備のいいこって・・・。聞いたぞ?お前、実際は三つ星まで行ったんだってな?」

 

 「昔の事さ?今はしがない自警団。それでいいじゃないか?」

 

 「話に出て来ただけだ。アフレザもガトスも懐かしがっていたぞ?それと、何時でも復帰してくださいって。ああ、これはアフレザからの伝言だが・・。」

 

 「・・・・。」

琥珀色の液体を流し込み、沈黙を保って答えとする。

 

 「お互い、この年になるまでイロイロあった・・とゆうことか。お前に頼まれていたブラゴイ家の資金源も判明した・・。口で説明するのは面倒なんでコイツを見てもらう。」

 

 麗らかに差す日差しに目を細めながら、秀人が懐から出した見慣れない長方形のガラス板の様なモノに視線を合わせる。

 

  「なんだいそいつは?ガラス板にしちゃ薄いし、透明度も高い。」

 

  「まぁ…出どころは聞くな。人が見たモノや聞いたモノを移して記録するモノだ。映すぞ?」

 

  秀人が取り出した物を、テーブルの上に置き。見やすい様に長方形の装置をこちらに向けてくれる。長方形の透明部分に、風景を切り取ったかの様な美しい画が映し出される。しかも動きに合わせて自分の耳で聞く様な明瞭な音声が流れてきていた。

 

  「オイ…?コイツは…すごいなぁ!俺にも貸してくれよ?」

  あまりにも鮮やかな映像に感嘆の声を上げるグアディ。

 

  「何に使うんだよ…顔つきが、なんかエロい事になってんぞ?」

 

「いやいや…団員の訓練に使おうかと思ってな?…………コイツは事実に違いないんだな…?王都の魔法学院には写しの水晶球が有ると聞いた事がある…この映像と音声が事実なら…証拠に使えるかも…だが、絡んでいる奴も多いだろう…逃げられる可能性が高い…」

 

  先程まで見せていた、にやけた笑みを消しきり。秀人が見たこともない様な恐ろしく気合の入った表情に変わるグアディ。

 

  「お前…顔つきが三つ星ハンターのソレになってんぞ?で、なんか良いアイデア無いかと思ってな?」

 

  「ここにくる前に、なんか思いついてんだろ?」

グラスを秀人に向け、答えを誘う。

 

  「まぁ…なくは無い。ドルガン議会議長を知っているか?」

二杯目を味わいながら山に視線を向ける。

 

  「ああ…アイツもハンターだった。三つ星の時に組んでいた相棒さ…そうか…アイツはブラゴイ家とは議会運営で対立していたな?」

秀人から出た名前に、さして動揺もせずに思考を巡らす。

 

  「俺が証拠を掴んでも、官憲の連中は信用しない。かたや議会副議長。コッチは氏素性のしれない流民だ。お前が一緒に動けば立場的には大きい。」

  「ヤツの力を借りるのか…」

 

  「なんか含みがある言い方だね?」

 

  「ああ…元、俺の奥さん…」

思い出したくも無い無残な敗北の記憶。

 

  「はぁ…!?奥さ……?はぁ!!だって…フュードルフって…はぁ?!ええぇぇ⁈お前!ソッチ系⁈」

あまりの斜め上の展開にギャグの様なリアクションが出てしまう。

 

  「何をケツを押さえて離れてるんだ!!!チゲェーよっ!!!訳あって母方の祖父の名前継いでんだ!!イリアって名前付いてんだろ⁈」

 

  「なんだよ…いらん汗が流れたぞ?」

 

  「ったく!勘違いにもほどがある…人身売買に危険薬物、密輸、脱税、公文書偽造…大量殺人もあるかもしれん。分かった。協力は惜しまない。いや…こちらからお願いする。これが公になればドルガンの権威は地に堕ちる。」

 

  「なんだよ、改まって?ちょい気持ち悪い。」

 

「何!その言い方!かなり傷つくんだけども!お前が匿ってる勇者の件もある。ドルガンのはみ出し者連中が仕組んだ事で、女の子に迷惑かけっぱなしだ。それに、奴らが大人しく調査を受けるとは思えん…?」

二人して飲みきった空の瓶を眺めて溜息をつく。

 

「それで俺の出番か…?」

少し嫌気をさす声が漏れる。

 

「察しが良いな?伊達に歳食って無いね?」

 

「ほざいてろ…要するに査察を受け容れなかった時の保険だろ?ドルガンに関係の無い人間が、ブラゴイ家を始末しても問題ない。って事か。食えない話だね…」

 

「他に適任者が居ない。安心しろ?恩は仇で返さん。この件を秘密裏に片付けたらドルガンに恩を売れるぞ?」

 

「今回は、大人しく騙されてやるよ…忘れるなよ?」

 

「怖い怖い…ハンターランクが低いのに、お前さんが時たま放つ雰囲気は普通じゃ無いね?」

 

「どこから始める?」

 

「夫婦の契りを結んだ事のある方からだな…正直、気がすすまんが…」

 

グアディの意気消沈した姿を見て、肩をすくめながらタンスクに向かう支度を始める秀人だった。

 

 

 

 「なにやってんだ?お前は?グダグダじゃないかよ?」

 グアディとの話が纏まったので、すぐさま次の行動に移るために蔵人に会いに来たのだが。イライダがかなりの酒豪らしく、躰も心もグダグダになっている蔵人が目に入る。

 

 「あれ・・・?明日の朝になっていたのか?飲み過ぎたな・・・・。」

 話をする間も無くテーブルに突っ伏してしまう蔵人。揺り動かしてみても酒臭い息が溢れてくるだけだった。

 

 「少し飲ませすぎてしまったかねぇ・・?」

 少し酒に酔っているのか。露出の多い装備から見える肌を仄かな桃色に染めながら、艶然と微笑みかけてくるイライダ。

 野性味あふれた均整の取れた肉体も相まって、かなりの艶やかさを立てていた。

 

 「先程は失礼した九つ星のヒデトだ。目の前で沈没している男の仲間といった立場にいる。四つ星(ガボドラッツェ)のイライダ・バーギンさんとお見受けする。改めて挨拶・・・」

 

 「ああ・・堅苦しいのは性に合わないんだ!イライダでいいよ!さっきコイツからも少し聞いた。今度、先導者を引き受ける。よろしく!」

 手前にあった蔵人が空けたグラスに蒸留酒(ヴォギラ)を注ぎ、秀人に視線で促す。

 

 『今日の出会いと、明日の狩りを月の女神に捧げて!』

 お互いに唱和しながら杯を掲げて一気に流し込む。

 

 「へぇ・・?蔵人とは違うようだね・・。雰囲気も悪くない。何処かで修練を積んでいるね?九つ星のそれじゃない。」

 グラスをテーブルに置きながら、好奇心に溢れた豹の様な目を探る様に向けてくる。

 

 「この年までイロイロあるのは何処も一緒さ?」

 全てを見つけ出そうとする視線をあっさり躱して、自分のグラスに目を落とす。

 

 「いいね・・。こんな辺境で、こんな雰囲気を持つ男に会えるなんてね。楽しみが増えたよ。」

 両手をテーブルに置き、挑む様に身を乗り出してくる。自然、両腕によって持ち上げられた胸が存在感を放っていた。

 

 「ご期待に添える様に努力したいところだが・・。野暮用でタンスクに行かなければならなくなってな。このアホの面倒を頼んでもいいか?」

 何時の間に取り出したのか、テーブルの上に美しい琥珀色の液体の入った均整の取れたガラスのボトルが置かれていた。

 

 「気に入るかどうか分からんが、挨拶の代わりだ。受け取ってもらえると嬉しい。」

 

 「粋な計らいだねぇ?巨人種の扱いが分かっているじゃないか?頼まれなくても先導者だから、キッチリ面倒を見るよ。ご先祖さんに顔向けできない事はしたくないからねぇ」

 見た事も無い文字が書かれた美しいボトルを手に取りながら、見慣れない蓋に目を向ける。

 

 「ああ、そいつは右回りに廻してくれれば外れる。飲み終わったら、また逆に戻してくれれば大丈夫だ。」

 

 ヒデトに言われた通りに蓋を開ける。仄かに鼻孔をくすぐる華やかな香り。その香りはすぐさま周りに漂い、美しい景色を思わせる。

 今までに会った事の無い香りに誘われる様に、美しい琥珀色の液体を注いでゆく。すでに周りの事など気にならなくなり焦燥感に焼かれそうになりながら杯をあおる・・・。

 口の中に広がる様々な原酒が絶妙に混じり合い、目くるめくハーモニーを紡ぎ出す。酒を嗜み始めてから勢いで飲み、そこまで味わう事のなかったイライダに衝撃を与えていた。

 

 「おい・・・?!コイツは!!」

 

 イライダが自我に帰り、今飲んだ酒について聞こうと辺りを見回すが。既にヒデトはいなくなっていた。

 

 「こいつは大きな頂き物だ・・・。シッカリと面倒を見てやるさ・・。」

 

 誰に聞かせるまでも無く。艶然とした笑みを浮かべた雌豹が、陶酔感を伴った火がともった視線をヒデトが居た椅子に向けるのであった。

 

 

 

辺境に位置するサレハドでも、人々の往来はある。一般の人達の移動手段はもっぱら徒歩によるものだが。行商に出る人間がいれば少なくない金を出すことによって、荷馬車に便乗することが出来た。

そんな荷馬車に壮年の男が二人乗り合わせていた。サレハドからタンスクに帰る行商人と取り留めもない話に興じている。

 

「ヘェ〜タンスクから王都に向かうのかい?長い道のりじゃないか?」

旧ドルガン国軍の皮鎧を装備した男が、行商人の話に感心している。

 

「ああ、それでも儲けが大きいからな。娘が近く結婚するんだ。持参金は多い方が良いからな?」

相槌を打ち、可愛い娘の顔を思い出しながら荷馬車を操る。

 

「いくつだい?」

もう一方のフードを深く被った男が深い低音の声で尋ねる。

 

「16だ。まだ嫁に行くのは早いと思ったんだが…カカァが『良い話は早い方がイイ!』ってな?」

「確かに…そいつは奥さんの言い分が正しいかもな?」

「だがなぁ、旦那の言い分もわかるぞ?ヒデト?姪が嫁に行く時は辛かった…」

「そうだよなぁ…嬉しいんだが…こう、モヤモヤが晴れなくてな?祝いの席でこのままじゃマズイんだが…」

 

そんな様な話と、行商人が向かう王都の事やサレハドでの勇者の事件などを話しているうちにタンスクの城壁が見えてくる。

 

「世話になったな旦那。」

「何、相身互いさ?それに乗り合い賃も頂いたしね。」

肩をすくめて戯けた言い方をする。

 

「ほんじゃ…ああ、コイツも持って行ってくれ。ちょっとした婚姻祝いだ。」

 薄い布地に包まれた物を行商人に差し出す秀人。

 

 「こいつは・・・?紺碧大鷲(スニバリオール)の羽じゃないか?!しかも、こんなに・・!」

 渡された包みを開け。美しい紺碧の羽をみて感嘆の声が漏れる。

 

 「何事も初めては派手な方が良いだろ?何かの縁ってやつだ。気にすんな。」

 大仰な仕草で手を振り、些細な事だと話す秀人。

 

 「いや・・・恩は忘れん!王都に来ることがあったら商人街に寄ってくれ!ヴァシリィ商会だ。歓迎する!俺の名はヴァシリィ。まだ駆け出しだが、役に立てることがあるかもしれん。」

 

 「そん時は頼むよヴァシリィ?食い扶持に困ったら荷役人として雇ってくれ。俺はヒデト、コッチはグアディだ。またな?」

 

 お互いに大した詮索もせずにあっさりと別れる。どんな時代でも、一期一会のつながりは大切にするもんだと感じる秀人だった。 

 

 

 

 夜の帳が降りたサレハド近郊。辺境に似つかわしくない程の豪奢な造りの館が、外壁に揃えられた松明の明かりで浮かび上がっていた。

 明かりに照らされた館の大きな門に。火精魔法で明かりを灯した4人の集団が門番に言伝を頼んでいた。

 

 「夜分恐れ入る。ドルガン議会内務調査部の者だ。当主にお取次ぎ願いたい。こちらが議会調査権限状だ。」

 4人の内法服の様な厚みのある外套を着た男が書状らしき物を見せていた。

 

 「か・・!かしこまりました!!ただいま!」

 夜分に思った事も無い訪問を受けて、焦りながら館に走る門番。その声を聞きつけて、門衛を兼ねた用人が武装を伴って5・6人館から向かってくる。

 

 「なんだ?貴様らは?内務調査班と知っての狼藉ならば、ただではすまんぞ!」

 用人たちが好戦的な雰囲気を纏いながら、調査班の前に立ちはだかる。

 

 「待ちなさい・・。これは、ドルガン議会内務調査部の方々・・。生憎と主人は体調が優れぬ故、後日改めてタンスクの議会まで向かうとおおせになっております。書状をいただきますゆえ、今宵はお帰り願えませぬか?」

 用人たちの間から、屋敷の執事と思われる初老の男が慇懃な態度で話している。

 

 「お加減が優れんとは・・・致し方ない・・。御当主に書状をお渡し下され。では、これにて御免。」

 執事の言葉を受けて、苦い顔をしたものの。連れの者に告げてタンスクへの帰路に着く。

 

 

 「随分と大人しく帰りましたね・・?」

 調査班の姿が街道に消える頃に、用人の一人が執事に向かって疑問を投げかける。

 

 「余計な事は言わんでいい!私は旦那様にご報告する。『荷』の状態を確認しておけ!」

 

 いつもの執事とは違う荒々しい物言いに、ひるんだ様子を見せる用人。しかし、そんな事もあるだろうと思いなおして。自分の仕事に戻るのであった。

 

 

 ブラゴイ家執事。ジョルド・フーバーは焦っていた。二日前に納品書と同じく届けられた、タンスクに住む孫娘からの手紙。幼いころに娘夫婦を事故で無くしたジョルドにとっては唯一の肉親であり、命に代えても惜しくない愛情を注ぐべき存在だった。

 

 その手紙に同封された差出人不明の手紙が、自分の人生に恐るべき決断を迫ることになったのだ。

 

 『内部調査班が訪れ、帰った後。主人を二階バルコニーに誘い出せ。出来なければ、孫娘の生存は諦めろ。なお、お前たちの犯罪は全て明らかとなった。指示どうりに行動すれば、今までの事は闇に葬られる。』

 

 コチラの全てを見透かしている様な文面に、今まで取引のあった商人や議員の名前が書き留めてあり。さらには孫娘の姿を切り取ったかのような絵が付け足されていた。

 

 手紙が届いたその日に、家の用人をタンスクに向かわせてみたが帰ってこず。逆に自分宛ての手紙が届く。

 

 『無駄な事は止めろ。全て監視されている。当日、行動に出なかった場合は。ブラゴイ家に係わりのある者全てを抹殺する。』

 

 此処に至り、焦燥感は大きな恐怖となって襲い掛かり。ジョルドに決断を促す事になる。自らが行いによって罰せられるのは構わない・・・しかし!孫娘の人生を奪われるわけには行かなかった。

 先代から受けた恩は大きなものだったが、それ以上のモノを破壊されるわけには行かないのだ。

 

 そして、彼は決断する。忠実な執事としての仮面を被ったままで。自らの人生の平和と安寧の為に。

 

 

 

 ブラゴイ家の邸宅から180mの場所にある草叢。その草叢にしか見えない場所に突然男が現れる。手には見た事も無い装置が付けられた大きな弓を持っていた。

 

 「しかし・・あんな文面で上手く行くのかよ・・?グアディの元奥さんってのも、えげつない事考えるよなぁ・・。」

 ブラゴイ家の二階バルコニーに視線を向けながら『生命探知』を作動させる秀人。バルコニーに通じる部屋の中に人間二人の反応があった。

 

 バルコニーまでの正確な射距離と風向き等の射撃データを、ドローンから受け取り弓を構える。射撃姿勢に入りながらタンスクで行われたやり取りを思い出す。

 

 『グアディ・・・この魔道具に映し出されたことは事実なのね・・?』

 齢30に届くはずの肉体は衰えを見せずに、円熟味を増した色気すら放っていた。

 

 『すべて事実だイリア議長・・。取引先の商人どもの倉庫に潜入して手に入れた『薬』と、そこに映し出されている『荷』と言う女達が明確な証拠だ。』

 ドルガン国軍正規軍の服装になったグアディが、普段の態度からは考えられない姿勢で答えている。

 

 『で・・?そちらのハンターは?タグを見るに九つ星しかない様だけど・・。』

 感情を現わさない冷たい声で尋ねるイリア。

 

 『議長。いま必要なのはドルガンにとって何が最善であるか?が、重要だと思われますが?』

 深く被ったフードから落ち着いた声が流れる。

 

 『そうね・・・これが明るみに出ればドルガンにとっては致命的だわ。どうすれば納得してくれるかしら?』

 

 『私と蔵人のハンターとしての正当な評価と、今まで邪魔をしてきた者の排除。それと非合法な手段で囚われた者達の解放ですかな・・。』

 

 『俺は、『薬』の排除かな?確かに魅力的なものだが・・あんなものに頼ったら国としては終わりだ。他国に流して利益を得たとしても、いずれ自分達に跳ね返って来る。ろくでもない形でな?』

 

 『いいわ。その他諸々のドルガンに不利な案件はブラゴイ家に背負ってもらうわ。取引先の商人達にも言い含めておきましょう。従わなければどうなるか・・・。利に敏い彼等ならスグに答えを出すでしょう・・。それに、彼らが表舞台からいなくなってはドルガンの経済は破綻してしまうし。』

 

 『俺達としてもドルガンが混乱するのは願い下げだ。今の代の商人達には退場願って、跡取りに一新すればいい。それと、保護した女達をしっかりと世話してくれないか?』

 

 『月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)に託してしまうと、ドルガンの悪行が知れ渡ってしまうからグアディの願いに添える様になるわね。少し混乱するかもしれないけど実権を握ってしまえばどうとでもなるわ』

 極低温を思わせる冷たく妖しい笑みを浮かべて話を纏めるイリア。

 

 『それでは、ブラゴイ家の当主と一族には『事故』に遭ってもらいましょう・・。辺境では何が起きても驚きに値しないから・・。それとグアディ?いい加減戻って来なさい!ドルガンを混乱から立て直すには『人』が必要なの・・?大事な『人』がね?』

 

 先ほどまでの冷酷な議会議長の顔は消えて。美しく貞淑な妻の顔になってグアディに呼びかけるイリアだった。

 

 

 

 貞淑な妻と呼ぶには、いささか物騒な雰囲気を纏ったイリアと。普段の彼からは想像もつかない狼狽を見せるグアディの遣り取りを思い出す。

 

 「あいつ・・ホントに上手くやれんのかな?別れた理由を聞いてないから良く分からんが・・。」

 弓をしっかりとつがえ、装着した眼鏡型情報端末機(グラス・パッド)にスキル『生命探知』を重ね標的を確認する。バルコニーに出て手すりに手を置き使者達を確認しようとしているらしい。

 

 「まぁ・・運がなかったね・・。それに遣り過ぎは良くないよ。」

 

 静かに呟き。最適なタイミングで矢を放つ。

 

 増強化合弓Ⅲ型改にとっては至近距離に等しい183m。バルコニーに立つ標的の心臓目がけて放たれた矢は、人体を破壊するには十分すぎるほどの威力を持って標的に命中。

 心臓を正確に貫通した矢は、哀れな標的の生の残滓を纏わりつかせて館の壁に突き刺さる。あまりに唐突に起きた異変に、肉体が反応できぬまま倒れ伏すイヴァン・ギンフスキー・ブラゴイ。

 

 ドルガン議会に隠然とした影響力をもった人間の、あまりにもあっけない死だった。

 

 

 「先に逝って家族を待ちな・・。なに、そう遠い未来じゃないさ・・・。」

 

 カモフラージュポンチョの光学迷彩を作動させて夜の暗闇に融け込む秀人の背中から、抑揚の無い声だけが辺りに流れていた。

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