軌道降下兵   作:顔面要塞

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 遅くなりました。今回も前置きみたいな回になってしまった・・・申し訳ないです。

 登場人物についての設定は、少し改変しています。そこらへんご了承のほどよろしくお願い致します。

 どうにも、調子が出ない季節になりました・・・鼻腔の身体強化をしたい今日この頃です。

 マジ!!目玉取り出して洗えないかなぁ・・・・。


黄昏

 アレルドォリア山脈の麓。針葉樹林帯から、人が踏み固めた道とは呼べない道を行くと。辺境の村サレハドに辿り着く。

 国際的な基準に照らし合わせてみたら、村では無く町に近い規模なのだが。昔からの慣習や因習を大事にするドルガンの人々にとっては、国際基準などはどうでも良く。先祖から受け継がれてきた土地をどう呼ぼうが、自分達に係わりの無い者の基準などどうでもよかった。

 

 勿論、名称などは別にして。今日もサレハドの朝がやって来る。アレルドォリア山脈から上る朝日を受ける前から、村の彼方此方で朝餉の煙が上がり。人々の挨拶の声や、狩に出かけるハンターのだみ声。行商人たちの売り文句が飛び交う。

 何気ない毎日の始まり。サレハドで生を受けた者達の大半は、外国などに出る事も無く。家族から受け継がれた稼業に勤しみ。そして、天寿を全うする。代わり映えの無い日を過ごすのであった。

 

 ・・・・・・後ろ暗い記憶と所業を持つ者以外は・・・・・

 

 

 「タンスク支部からの呼び出しだと?」

 サレハドハンター支部。支部長ヤコフ・セルゲリー・マイゼールは龍華(ロンファ)国産の高級なお茶を楽しみながら、相も変わらず表情の読めない部下(といっても、自分の庶子であるイヴァン・ミナエフ)から定時報告を受けていた。

 

 「ええ。なんでも月の女神の付き人(マルゥナ・ニュウム)筆頭女官長オーフィア様が、今回の勇者の件でお見えになるそうでして。その受け入れについての緊急会合の様です。」

 サレハド出身であり、少し貧しい家庭で育ったイヴァンは。支部長が飲んでいる高級なお茶を羨ましそうに見ながら報告をする。

 

 「ああ・・・あの件か。わかった・・。定期便の魔獣車の出立は2時間後か・・。よし、今日の業務はキャンセルだ。タンスクに向かう、随行員は・・・」

 

 「申し訳ありません、支部長。もう一件連絡事項がございまして・・・ブラゴイ家からの使いですが。」

 

 「うん・・?定期会合には早いな・・。わかった、タンスクに向かう途中でお伺いしよう。それと、あの生意気な流民のハンターの処遇については・・解っているな?」

 先程までの上機嫌な雰囲気は鳴りを潜め。苦虫を噛み潰したかのような表情のヤコフ。尊大な態度で鉄面皮の自分の息子に囁く様に告げる。

 

 「はい・・しかし、十つ星の流民などにそこまでしなくても宜しいのでは?」

 全てを解っている様に頷くが、そこまで拘る必要も無いと思えて質問を発していた。

 

 「ブラゴイ家を虚仮にした・・。理由はそれで十分だろう?」

 話は終わったとばかりに、手を振るヤコフ。

 

 その動きに促されるままに、支部長室を退室する。支部長の言う通り、実力者に逆らっても旨みは無い。それに、次期支部長選もある。ヤコフ支部長は王都の支部に栄転(勿論、ブラゴイ家の後ろ盾があっての事だが・・)それに伴って次期支部長候補は、俺とラーヘンの二人だけ。

 ラーヘンはグアディに連なる関係者で、ブラゴイ家には反感を持っている。であるならば・・

 

 自分の将来について明るい兆しが射しているのだ。むやみに手放すのは愚者の選択と考えるべきなのだろう・・。含み笑いを残しつつ、日常の業務に戻るのであった。

 

 

 

 「あんた・・・ヤル気あんのかい?」

 美しい金髪を掻き揚げながら、目の前の仮登録の十つ星の男に声を掛ける。

 

 「いや・・・対人戦は初めてで・・・。それに槍の使い方がしっくりこなくて・・」

 雪白とは違った意味で猛獣の雰囲気を漂わせている、イライダの呆れた声に情けない声で反応する蔵人。

 

 「やれやれ・・先が思いやられるよ・・。」

 狩に同行する前、実力を知りたいがために模擬戦を行ったのだが。武器の使い方がまるっきりの素人だった。だが、魔法に関しては初級魔法とはいえ同時行使を器用に使いこなしていて。とても十つ星とは思えなかった。そのちぐはぐさが気になって、槍を合わせてみたら何か分かるのかと思い模擬戦を行ったのだが・・・結果は惨憺たるものだった。

 

 いや、初級のハンターに何かを求めていた訳では無い。ハンターを志す者は何かしらの欲求や野心を持っていて、その感情が戦いの原動力になるのだが。蔵人の動きには、そのようなモノが一切なかった。

 だが、魔法に関しては見るべきものが在る。蔵人の様に同時行使数が多ければ多い程、多様な状況に対応できる。其の事を今までの経験で分かっていたイライダは、その点を非常に評価していた。

 今時のハンターは破壊力の大きさや、便利さに目を奪われがちで。同時行使の特訓などは基本にも関わらず、あまり関心が無かった。

 結果、変化する状況に対応できず。最悪、命を落としていた。その様を何度も見て来たイライダにとっては蔵人の多様性は目を見張るものだったが・・・

 

 「近接戦闘をしっかりこなせないと、早晩死ぬことになるよ?どれ、体力はありそうだ。斃れるまで実戦形式で稽古をつけてやるよ?・・・なんだい、その不満そうな顔は?早く構えな!!」

 

 少し苛立ちを見せるイライダ。直情傾向なまっすぐな性根に好感をもつ巨人種らしく。斜に構えて世間を眺めている蔵人の態度が気に障ったのか、稽古に若干殺気が混じっていた。

 

 そんなイライダの行為に辟易しながらも、有難味を覚えて感謝しながら稽古に臨む蔵人。両者の出発点は違えど、目的とするところは同じ場所だから。稽古の中で折り合いがつくだろうと考えていた。

 

 イライダから渡された訓練用の槍をしごきながら、ふとサレハドの正門に目を向けると。見たくも無い顔を見る事になってしまった。

 上機嫌な雰囲気を漂わせたムカつく支部長が目に入る。タンスクに向かうのか魔獣車に乗り込むところだった。

 

 「うげぇ!!!」

 

 「何処見てんだい!?実戦なら死んでるよ!!」

 

 いつの間にか始まっていた稽古。実戦さながらの訓練用木槍を腹に受けて、吹っ飛ぶ蔵人。命精による強化は済んでいたが、胃液がこみ上げてくる。

 

 (くそぅ・・何もかも奴のせいだ!!何処かで不幸な目にあってしまえ!!)自分の不注意から起きた出来事なのだが。怒りの感情はどうしても嫌いな奴に向いてしまう。

 

 こればかりは蔵人の感性というよりも、人間全般に通じるものであり。其処に理性的な思考を求める方が難しい。その不条理な怒りを穂先に込めて訓練に励む蔵人だった。

 

 

 まさか、自分が思ったことが現実になるとは。神ならぬ身である蔵人には、思いもつかぬことであった。

 

 

 

 サレハドからタンスクに向かう街道。そこかしこに人の手が入り、気候の変化によって直ぐに道が荒れる事も無くなっていた。財政的に豊かとはいえないドルガンにとっては重要な交易路だった。

 

 「いつもの会合の場所に向かうには、道が違うのではないか?」

 ブラゴイ家から託された『商品』目録から目を上げ、獣車の窓から周りの景色を伺うヤコフ。

 

 サレハドから離れ。タンスクに向かう街道の中ほどにあるブラゴイ邸に向かうには、もう少し手前の道に入らなければならないのだが。魔獣車は曲がりもせずにタンスクに向かっていた。

 

 「いえ・・コチラの道で間違いございません・・。」

 深いフードを被った御者の男が、低い声で答えていた。

 

 「聞いた事も無い声だ・・?いつもの御者は何処だ?いや・・お前は何者だ!」

 御者の背に向かって、詰問するヤコフ。

 

 「いやはや・・・そんなに慌てる事も無いでしょう?今まで自分が行ってきた事の負債を払っていただくだけですから・・・ねぇ?」

 低く落ち着いた声でヤコフに答え。フードを上げながら振り返る御者。

 

 「お前は・・・?!グアディと一緒に居た・・!!」

 短く刈り込まれた頭髪と、少し薄くなった前頭部が陽の光を反射していた御者の男・・。確か、ヒデトと名乗っていた流民のハンターだった。

 

 「おや?覚えていてくれましたか?負債の支払い期限が迫っていましてねぇ・・。動かれない方が宜しいですなぁ。なに、殺しはしませんよ・・」

 

 フードと一体となっているローブの隙間から短くも鋭利な短剣が見えていた。

 

 「ど・・・!どうするつもりだ?!」

 狭い獣車の中を、短剣から離れたい一心で後ずさりする。

 

 「何処に行こうってんだ?ヤコフ?」

 

 突然、魔獣車の扉が開き。聞き覚えのある声と、見知った男がコチラを覗き込んでいた。

 

 「貴様・・?!グアディ!!何故ここへ!?」

 

 「いや~年貢の納め時って事かな?ヤコフ・セルゲリー・マイゼール!!密輸、人身売買、禁止薬物の取引、脱税、公文書偽造、殺人教唆!!え~他にもなんかあった?・・え?・・いいから、身柄を確保しろ?・・以上の罪状により。身柄を拘束する!!」

 

 グアディの逞しい腕によって車から引きずり降ろされるヤコフ。

 

 何が起こったのか理解したのだが。この後に行われるであろう激しい尋問を考えて、躰が硬直してしまい。口からは泡を吹き、下の服は失禁により濡らしてしまっていた。

 

 「おい?脅かし過ぎじゃない?」

 短剣を懐にしまい。獣車から降りて来たヒデトがグアディに声を掛ける。

 

 「こいつが勝手に漏らしやがっただけだ。罪状を述べただけだよ?あ~あ・・失神しちまいやがった・・・」

 

 「おいおい・・・誰が運ぶんだよ?おれ?!嫌だよ・・?お前の国の人間だろ?・・え・・ジャンケンで?おまえなぁ・・?」

 グアディに目で合図され、渋々ジャンケンに臨む秀人。

 

 「ふ~~ん!!ふん!!ふん!!ふ!!!あちゃ~~~・・普通言い出しっぺが負けるんだがなぁ・・」

 負けるもんかと、気合を入れて繰り出す!!しかし、結果は無情にも敗北を示していた。

 

 「日頃の行いってやつだろ・・?後でしっかり尋問するんだ。丁重にな?」

 勝負がついて気が緩んだのか。秀人から貰った煙木の様なモノ(ハバナ産の葉巻だったが)を取り出し。器用にナイフでカットして吸い口を作る。指先から火精魔法を灯し、先を遠火で満遍なく焦がす。全体が炭化した頃合いを見計らって、遠火で息を吸いながら火をつける。

 

 「ふざけんな!!くそ!!しっかり商人共に対する証言を引き出せんだろうな?あの欲ボケ商人共からもふんだくってヤル!!」

 悪態をつきながらも、ヤコフの躰を持ち上げようと態勢を変える。

 

 「せいぜい頑張んな?しっかりやらないと、御駄賃がでないよ?」

 深く濃厚な味わいに加えて、鼻から抜ける時の香りがたまらなく良い香りをはなつ。満足げに頷き、魔獣車に寄りかかりながら碧い空の下に見える美しいアレルドォリア山脈を観賞する。

 

 「あ・・・こいつ、デカい方も漏らしてやがる・・・。裸に剥いていくのかよ・・。」

 

 グアディが吹き出す香りの高い紫煙の下で、薄毛のオッサンの溜め息だけが響き渡っていた・・・・。

 

 

 

 

 「兄貴!!いったいどうなってやがるんだ?!」

 

 タンスクからブルオルダに向かう街道から、少し東に寄った場所にタンスク憲兵隊長アレクセイ・イヴァール・ブラゴイの邸宅があった。

 見るからに贅をつくした旧貴族様式の屋敷のテラスから、苛立ちに満ちた声が響いていた。

 

 「落ち着け、ザウル。叫んだところで何も事態は好転せんぞ?」

 低く落ち着いた声で、ザウルに返答する男。身長はザウルと変わらない位だが。躰を覆う筋肉の厚みが一回り以上も違う。その身に纏う雰囲気からも、ザウルの様な実力不足のハンターなどでは無く。豊富な実戦経験を積んでいる事は明白だった。

 

 「しかし・・!!親父からも連絡が途絶えたっきりだし。執事のジョルドからも『自重してください』としか伝えが来ないんだぜ?!そうだ・・?親父と兄貴達がやっていたことがバレたんじゃないか?!それだったら、親父と連絡がつかないのも説明がつく!!ドルガン内務調査官が動いているんじゃ・・・?」

 焦りを伴った感情を隠そうともせずに、狼狽えた感じのまま喋るザウル。

 

 「ザウル・・・?」

 低い声はそのままに。少し威圧をこめた言葉を投げかけるアレクセイ。

 

 「・・・っつ?!すまない・・兄貴・・。でも、オリェーク兄貴はローラナに行政官として派遣されているから連絡には時間が掛かるし・・。マリーナは結婚式の準備で、イングート議会議員の旦那の家に行ったままだし。どうすればいいんだよ・・・?」

 

 「だから、落ち着けと言っている。オリェークとの連絡に時間が掛かるのはいつもの事だ。それに連絡用の魔鳥便が、もうすぐ着く。追って連絡があるだろう。マリーナには妻のラリーサが付いている。連絡用の魔鳥も飛ばした・・。問題は親父だが・・・あの人と連絡が取れなくなる時は、決まって『荷』の検品の最中だ・・。」

 龍華(ロンファ)国産の高級なお茶に口をつけ、今までの事態を確かめる様に整理してゆく。しかし、『荷』の検品をする父の姿がよぎったのか。その部分だけ表情が歪んでいた。

 

 親父も親父だ・・・。なぜ、ああも愛らしい存在を痛めつけることが出来るのだろう?いや・・確かに没落寸前のブラゴイ家を、一代で再興してみせた手腕には畏敬の念を覚えるが。あの趣味だけは理解が出来ん・・。

 しかし・・・いくら集中していても、ここまで連絡が無いのもおかしい・・・何かあったのか?ザウルの心配する事も一理あるか・・・?

 

 「・・貴。・・・兄貴?!なんだよ・・いきなり黙っちまって?いま親父からの連絡が来たぞ!!サレハドの先の針葉樹林帯に勇者が降りてくるらしい。月の女どもがやって来るのに合わせて合流するつもりの様だ!二日後だ・・・チャンスだぜ兄貴!!」

 

 「・・・わかった。お前は人の手配をしろ。一族に連なる者達だけにしろ!いらん噂は必要ないからな。勇者様には大棘地蜘蛛(アトラパシカ)の餌になってもらおう・・。」

 

 先ほどまでの迷いが嘘のように。野生に満ちた獣のような目を輝かせて装備を整えに向かうアレクセイだった。

 

 

 

 

 サレハド村。今日も変わりなく一日が始まろうとしている。何も変わらない長い月日の内の一日。サレハドに住む者達にとっては何気ない日常の連続の一部。

 

 朝餉の支度に、水場に向かう女達や。ハンターや村の者達相手の雑貨店にむかう店主。村に一つだけの鍛冶屋は日が明けるうちから槌を振っている。門衛に身分証を確認される顔なじみの行商達。誰もかれもが見慣れた景色。

 

 その何気ない日常に似つかわしくない雰囲気を漂わせた、深いフードを被った男が。行商人達に混じってサレハドの門を潜っていた。

 

 「あれ?秀人さん・・?グアディ隊長は一緒じゃないんですか?あれ・・なんか臭いませんか・・?」

 フードの男と顔なじみの自警団の若い男が、声を掛ける。

 

 「ああ・・・当分、帰ってこない。身内のゴタゴタがタンスクであった・・。それと・・俺から臭うのか?」

 若い男に顔を向けずに。地獄の底から聞こえるような冷たい声で、匂いの事を聞く秀人。

 

 「いえ・・・・。秀人さんでは・・・ないような・・はは・・。見回りいってきますぅ!!」

 麗らかな朝が。一転して暗黒に落ちたような雰囲気にのまれ。アサッテノ方角に向けて走り出す男。

 

 「ふん・・・グアディの野郎・・。『風呂に入っている余裕は無いと思うよ?ブラゴイの長男に偽の情報流したから、明後日には針葉樹林帯に来ちゃうよ?』・・だと?くそったれめぇ!!下手な金額じゃ納得なんてしないからなぁ!!」

 フードの中でブツクサと呟きながら、もう一方の『勇者』に話をつけるべく。ハンター支部に向かう秀人だった。

 

 

 

 サレハドのハンター支部に併設された酒場で。今日もまたイライダと共に酒を酌み交わす蔵人。イライダの容赦のない修行で、身体強化しても躰のアチコチに擦り傷や打ち身が絶えない。

 

 『身体強化の効率が悪いんだ。私達巨人種は精霊魔法が苦手だけど、身体強化もただやっている訳じゃない。自分の肉体の強化するポイントを、自分の得意な武器や動きに合わせて効率よく強化しているのさ?魔力も体力も無限にある訳じゃないしね。マクシーム・・・?アイツは別枠と考えた方が良いよ?ま、真似しようたって無理だけどね。』

 

 酒を酌み交わしながら、修行での改善点や気になった事などを丁寧に説明してくれるイライダ。最初の修行の時は、殺されるんじゃないかと思う程の殺気のこもった槍捌きで。生きた心地がしなかったが。それも、短期間で上達・・・は、諦めたのか。対人における戦い方のポイントや気の配り方、地形や環境などを利用した実戦での動きを教えてくれていた。

 

 その事柄を思い出しながら酒を傾け。目の前の雌ライオンの様な女偉丈夫に目を向ける。鍛え抜かれた肢体は均整がとれているにも関わらず、女を感じさせる部分は怪しい色香を放っていた。

 

 「なんだい?そんなにジロジロ見るもんじゃないよ・・?女の扱いってもんが分かってないね?」

 蔵人の遠慮のない視線に晒されても。全く動揺しないで、女の扱いについて言葉を放つイライダ。

 

 「だってなぁ・・そんだけ露出されたら目のやり場は決まって来るだろう?美しく惹かれるモノに目を向けるのは当然だろ?」

 悪びれもせずにイライダに視線をむけた後。また、同じ部位に目を向ける蔵人。

 

 「やれやれ・・・あんたに言われると、不思議と怒る気が無くなるよ・・・。褒められてるんだか、スケベなのか分からないね・・・。」

 

 そんなドウデモイイ会話を中断させるように。協会の入り口から、少しキツイ臭いが漂ってくる。酒場の全員が気づくぐらいの匂いで。どう表現するのか迷う臭いだった・・・。

 

 その臭いの中心は。どう考えてみても深いフードを被った、今入って来た男と皆が感じていた。

 

 カウンターや、他のハンター達には目もくれず。一心に蔵人達の居るテーブルに直進してきていた・・。

 

 「おい・・・?美女を侍らして、随分ご機嫌な事に時間を使っているじゃないか・・・?あん・・?」

 フードも上げずに、酒場の陽気な雰囲気を一気に氷点下にでも持ってゆく気配を漂わせた男。

 

 他のテーブルのハンター達や、カウンターに腰かけていた支部の職員などは。そそくさと勘定を済ませ、関わり合いを恐れて店の外から様子を伺って居た。

 

 「なんだ・・?秀人じゃないか?もう帰ったのか?あ・・・聞いてくれよ、イライダの修行の付け方なんだけどさ・・」

 秀人の雰囲気に、イライダでさえ言葉を挟めない状態なのだが。生来から鈍いのか、全く関係の無い自分の話を始めようとする蔵人。

 

 「・・・・お前に何かを期待した俺が馬鹿だった・・・。まぁ、いい。アレルドォリア山脈に戻るぞ。詳しい話は塒に戻ってからだ。」

 先ほどまで漂わせていた雰囲気が一変して、何もない凪の様な状態になる。

 

 「いきなりだね・・?」

 

 「状況が変わった。ここでする話でもない。イライダ。申し訳ないが、少しコイツを借りていく。」

 

 「はん・・・?いきなり凄まじい雰囲気を漂わせてきたから何事かと思ったけど、すぐさま素の状態になるなんて・・・怖い(ヒト)だねぇ・・。ソイツはアタシの生徒になっているんだ。話ぐらいは聞かせてもらえるんだろうねぇ・・?」

 上位ハンターとしての武威と、女としての色香を同時に放ちながら二人の男に同意を求めるイライダ。

 

 「仕方がない・・・。イライダにも付き合ってもらう。ただし、その後に何が起きても責任は・・」

 

 「野暮な事言いなさんな?分かっているさ。其処まで未通女(おぼこ)じゃないとおもうけどねぇ・・。」

 

 イライダの受け答えを受けて蔵人に目配せをする秀人。

 

 「それじゃ、イライダをささやかなアジトへとご案内致します。」

 秀人からの合図で、仕方ない素振りをみせ。店の出入り口に向かう蔵人。

 

 「おい・・?蔵人。スノウクィーンへの貢ぎ物は用意したんだろうな?勿論、俺は用意したが。」

 

 秀人の放った言葉が重々しく蔵人にのしかかる・・・。

 

 一瞬動きが止まり、全身から汗が吹き出し始める蔵人。

 

 その脳裏には・・・タシーン・・タシーーン・・・タシーーーン・・・と、忌まわしい音が再生されるのであった・・・・・・。

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