軌道降下兵   作:顔面要塞

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ど~もスイマセン。遅くなりました・・・

言い訳はいろいろあるんですが…やめときます。雄々しく戦った日本代表の様に生きたい!!

ホントスイマセン・・・全敗すると思ってましたぁ!!でも、思いっきり応援するために仕事も休みました!!

結果、健康診断の数値が・・・・半端ない運動と仕事で正常値に戻します。

今回の教訓・・・『人事を尽くして、天命を待つ』

でも・・・ベルギーの高さって反則だよね?

今回で一区切りがつきそうです。まだまだお仕置きタイムを期待していた皆さま、申し訳ございません。でも、自分が書きたい事は書いたので、ご批判お待ちしてます。

では、ご愛読ありがとうございます。

あと、用務員さんの作者さんが新作描き始めましたね。まだ読んでいないので楽しみです。

また、次回お会いしましょう!


禍根

アレルドォリア山脈森林地帯。普段でもしっかりと装備を整えた経験豊富なハンター達と一緒でなければ、無事に帰って来るのは難しいサレハド深部の魔所。逆を言えば、経験豊富な者にとっては見返りの大きい狩場だった。

 

 ハンター同士、連携しながら大きな見返りを見出す場所。ハンター達の信頼と協力の成果を持ち帰る森。

 

 であるはずだった・・・・・。

 

 

 森林地帯は元から存在する魔素を受けて、精霊達が活発に動く場所であったが。今起きている多数の精霊による蠢きは、説明のつかないモノだった。

 

「婆さん!!?コイツはチョット異常だぜ・・・?如何に親和力が低い俺でも、この精霊力の集まりは尋常じゃない!」

2mをゆうに超えて、3mに近い巨体を紅く染めながら。背中にローブを着た初老の女性を載せて、凄まじい速度で樹々の合間を駆け抜けて行く巨人種の男が。厳しい顔に若干の焦りを滲ませながら、自分が感じた事を女性に向けて言い放つ。

 

「そんなに大きな声で喋らなくても聴こえますよ?歳はとりましたが、耄碌するほどではありません。確かに巨人種である貴方にも、異常と感じられる精霊力の増大ですね。これは…暴走一歩手前でしょうか?普段の貴方のようですね?」

巨人種の背中にチョコンと載せられた様な体勢のまま、深く被ったフードの下で微笑を浮かべながら言葉を返す女性。闇精を除く全ての精霊が集合し、暴走寸前の状態になっている事を敏感に感じ取って居た。

 

「長命種のエルフともなると、こんな状態になっても肝が座ってんなぁ?ヤッパ経験の差かい?オーフィアの婆さん?」

先程までの焦った感じは鳴りを潜め。背中のオーフィアと呼んだ女性に、呆れた様に語り掛ける男。

 

「ええ…まぁその様なものですね。100年単位で歳を取ったと感じますが…何せ赤児の時分のマクシームのオムツを替えたこともありましたしねぇ?」

精霊の異常なまでの集中と増大を感じとっても、近所に散歩に向かう合間に知り合いに会って、世間話に興じる様に。マクシームと呼んだ巨人に過去の話を、さり気なく振るオーフィア。

 

「……ったく…!いつの時代の話だよ……だから頼るのは嫌がったんだ……」

「おや……?その様なボヤキは心の中に留めておくものですよ?何せエルフの耳は長い事で有名ですから?何なら、貴方が最初に喧嘩に負けた日の事も思い出しましょうか?……確かあの日は……」

「ダ〜〜!!わかった、分かったよ!?勘弁してくれ!それよりも事態を確認するのが先だ!急ぐぜ!」

「先行したアルバウムの『勇者』達が関わっているのは間違いないでしょう。そうして下さい。」

 

先程までのふざけた遣り取りは鳴りを潜め、複雑な表情のまま緊迫感のある会話になる二人。

 

『ウニャ〜〜!!追いつけませんです〜女官長さま〜!』

オーフィアの耳元で風精が後続の仲間の声を伝えてくる。

「マーニャ。ユックリついて来てください。貴女達にも精霊の状態が感じ取れるでしょう?最悪を考えて距離を取るのです。状況は風精で流しますから、臨機応変に対応して下さい。」

『ソンにゃ〜〜…無理ですにゃ〜…』

「いつまでも私は生きていませんよ?後輩達の為にもシッカリしなさい!日頃の教えを思い出すのです!ディアンティア、アリー。頼みましたよ?」

『分かりました女官長様。マーニャ、距離を置きながら事態に対応出来るように準備しますよ。女官長様、後程』

 

隊内で頼りになる二人に後事を任せるオーフィア。後半、マーニャの泣き言が聴こえたが無視する。あの子も実力はあるのですが…修行が足りませんね…そう思いながら、さらに修行内容を増やそうと決意するオーフィアだった…。

 

「女達を置いて来て正解だったな?こりゃ、俺でも逃げ出したくなる様な濃密で嫌な精霊力の集中だぜ…きっとロクでもないことになるぞ!」

「あながち間違いではない分析です。普段からその様にすれば国元とも上手く付き合えたでしょうに?」

「あ〜〜……もう何も言えん……連れてくるんじゃなかった・・・」

「冗談はこのぐらいにして・・・急ぎましょう!流石にこの規模の精霊が暴走したら酷い事になります。事態を見極めて対策を講じなければ・・」

「確かに・・・アカリが気になる。あの野郎ども、しっかり仕事してくれてりゃいいが・・急ぐぞ!!」

 

 独り言にしては大きなセリフを吐きながら、命精の強化を最大限まで持ってゆくマクシーム。避けきれない低木は打ち倒しながら、精霊の中心地点に向けて突入して行く。どちらが暴走なのか、分からない動きだった。

 

 

 

青々とした葉が広がる、生命力に満ち溢れたアレルドォリア森林地帯。普段でも精霊達が自由気ままに踊り、街中では想像もできない魔素が充満しているのだが。倒木によって開けた場所で起こっている精霊達の集中の程度は、充満とゆう言葉を100回重ねても表せない程に増大していた。

 

「おいおい…コイツは想定外な事態だな?蔵人さんよ…」

異常に集中した精霊達の中心部に立ち。叫びなのか、呻きなのか判別のつかない声を漏らし続けるハヤトを見ながら、蔵人に意見を求める秀人。

 

「まぁ…アレだな?この状態のままだったら、お互いに無事じゃすまないね。あれ?魔力感知できたっけか?」

秀人と同じ様にハヤトの状態を確認する蔵人。その横では雪白が尻尾を立てて唸り声を上げ、警戒感を露わにしていた。

 

「ボケっとしてないでなんとかしろ?俺は物理的にしか処理できないぞ。魔法を使えるお前達の領分だろ?」

魔力を感知できない秀人でも、この状態が異常なのは理解できた。何せ、先程まで静かだった森林地帯に風が舞い上がり、光が明滅し、地面は波打ち、気温は上昇。さらにハヤトの周りでは小さな放電現象が起きていた。

 

「魔法を使えるといっても独学でして…深いところまでは理解してないのよ?」

「お前なぁ…けっこう深刻な場面な気がするんですが?しゃあないなぁ…オイ?そこのトンガリ少女。アイツを止めるにはどうすればいい?」

いい年したオッサン達の、場に馴染まない緊迫感の薄い会話を打ち切り。ハヤト達のパーティの中で、最も魔法に詳しそうなアリスと呼ばれていたトンガリ帽子の少女に尋ねる秀人。

 

「トンガリ帽子ではありませんわ!?アリスと言う名前があります!」

秀人に外見だけで判断されたアリスが、怒気を含んだ言葉を返す。

 

「そんじゃアリスちゃんよ?このままだとお互いにロクでもないことになりそうなんだが、解決策はあるんかい?」

「その意見には同意いたしますわ。ハヤトが以前暴走した時はドラゴン型のモンスターと戦った時でした。暴走した精霊の力は、ほとんどがモンスターに向かいましたので学園に被害はなかったのですが…それでも、モンスターが居た丘を吹き飛ばしてしまいましたから。今回は力の集中度が違いますので、それに見合った被害が想定出来ます。雷は嵐の様に降り注ぎ、溶岩が吹き出し、空気まで凍りつき、目を潰すほどの光が…」

「ああ…もうそんくらいでイイです…しかし、本当に『勇者』なのか?ラスボスよりヒデェな!アレか?ラスボスは『勇者』を止めるために存在してましたって落ちか?笑えないRPGだな?で、対策はあるんだろうなぁ?」

「…未だハヤトの協力の元に研究中です。精霊の最愛(ボニー)が原因なのは間違いありませんが…そもそも勇者が持つ『加護』自体が解析されていません。さらに、ハヤトに至っては二つの加護を持っているため。お互いの加護が干渉したり、融合する可能性もあります。」

「聞いた俺が馬鹿だった…制御出来ない力なんぞ災害と変わらんぞ?しかも子供の様な理屈と感情に振り回されるヤツが『力』を持っているのか…面倒だな。」

「アリスといったか?秀人の言う様に制御出来ないなら危険極まりないが。1回目の暴走は止まったのだろう?キッカケはあったのか?もしくは、停止できた理由は?」

「ハヤトの暴走が止まった理由はいくつか考えられます。多分、魔法力を使い果たしたからでしょう。精霊達は魔力が存在しなければ影響力を発揮できませんから…」

「ますます手に負えん…燃料切れまで待つのか?ま…その前に物理的、生物的に処理しちまうのが楽そうだな。どれ…いっちょ吹っ飛ばすか…」

周りに伝える様に呟き。『ポケット』からスメラギを呼び出す秀人。

 

「待て秀人。ハヤト本人の意識が無い状態で殺害しても、魔力を渡し終えた場合は暴走は止まらんぞ?下手をするともっと酷い事になるかもしれん」

 

「そうですね。貴方の考える事が正しいでしょうね。蔵人さんかしら?マクシームの伝えた人柄があっていた様です…それにイルニークを従えているとは…ますます興味を惹かれます」

 

蔵人の仮説を証明する様に、落ち着いた初老の女性の声が頭上から降りてきていた。

 

「誰だ…」

緊迫した場面に似つかわしく無い声の主を見つけようと、声のした方向に顔を向ける蔵人。

 

「俺だよ!マクシームだ!ナンジャこりゃ〜!!?」

先程の声とは似ても似つかない、野太く息の荒い声が降ってくる。

 

「ああ…赤ひげ筋肉はどうでもいい…」

「やっと来たか…探知圏内に入ってから到達時間を考えると…遅くね?」

「…お前ら…デカくて筋肉だったら何言っても許されると思っているだろう?」

「「え…違うの?」」

「それ!根本的に間違ってるからな?それよりもオーフィアの婆さん!この状態はマズイぜ!?」

 

今にも身体全体から蒸気を吹き上げそうなマクシームを見ながら、二人揃って同じ言葉を繰り出す秀人と蔵人だった。

 

「あらあら…そんな戯れ言をこの子と言い合えるなんて…いい人達に巡り会えましたね?申し遅れました。月の女神の付き人(マルゥナニュゥム)で女官長を務めておりますオーフィアと申します。お見知り置きを。状況は宜しくありませんねぇ…アリス?解決策は見出したのですか?」

先程までの穏やかな口調とは裏腹に。詰問する様な厳しい話し方で、アリスに問い掛けるオーフィア。

 

「何故貴女が此処にいるのです!?」

「私が来てはいけませんか?アカリさんの保護の為に馳せ参じたまでです。動揺を隠せない口調から察するに、都合の悪い事を行なっていましたね?」

「……別に…貴女が気にかける事は無かったですわ…」

「嘘はいけねぇなぁお嬢ちゃん…あそこで正気を喪っている勇者と、ここに居る蔵人には揉め事があってね。当事者間で和解が成立したのに、女性達がしゃしゃり出て来て、俺に返り討ちにあってさ?その現場を見たやっこさんがブチ切れて暴走してるってわけ?」

「………っ!?」

「アリスの狼狽えようと、パーティの仲間達の表情から推察すると…事実の様ですねぇ…まったく…アルバウムの王族ともあろう者が軽率な行動に出たものですね?」

 

この場において最年長者であり。ハンター協会に隠然とした影響力を持つ勢力の長として、威厳に満ちた発言だったが。アリスや女達、ハヤトに向ける視線には憐れみと諦観の念がこもっていた。

 

「で…どう収めるんだい?ハンター規約に違反している事柄がケッコウあるんだがね…?」

「その事については、この事態を収めた後で如何ですか?」

「確かに…死体も残らないような状況になり掛けてんのに、言い出す事じゃ無かったな。で、どうすりゃあのバカを止められるんだ?」

 

緊迫感をカケラも感じさせない気楽な口調で声を掛けながら、周りの『マホー』が得意そうな面子に視線を廻す秀人。

 

しかしながら、顔をしかめる者、思案にふける者、ため息を吐く者などに分類されるだけで、気の利いた提案を出される事は無かった。

 

「いったい何が起こっているんですか!?あっ!?マクシームさん?…その横に…ええっ!!?オーフィア女官長様ぁ!?えっと…あの…アっアカリと申します!!…って…あれ?一原君…?なんか凄い事になってる?暴走した時と同じ状態になりつつあるような…?」

 

山脈の洞窟に待機していたのだが。ヘッドセットから流れてくる蔵人と秀人のリアルタイムの遣り取りを聴くうちに、居ても立っても居られなくなり。氷戦士の棍棒と秀人の『商店』で購入した装備を持って森林地帯に降りて来たアカリだったが、あまりにも急な変化を起こす状況と、意外な人物の登場に慌てふためき。完全に混乱してしまっていた。

 

「あれ…?アカリちゃん?いけね…通信回線繋がったままだった…」

「アカリちゃん。同級生さんが暴走しそうなんだけど、止める方法は無いかな?以前、学園を襲ったモンスターを倒す時に同じ様になったみたいだけど。そこの王族のお嬢ちゃんの話じゃ、魔力が尽きるまで待つしか無いみたいだが。」

「…え?…ええっと……あの時はモンスターを倒した後でも暴走状態が続いて……確かに魔力が切れるまで待っていたのですが……そうだ!一原君と親しい人が必死になって話しかけていた時は暴走が止まりそうでした。私も必死になって呼びかけたから、覚えています!」

「オイオイ…ベタな話だなぁ?パーティの姉ちゃん達に頑張ってもらうか?しかし、あんな近辺で放電やら炎、氷や石飛礫が飛び交っているところに向かわせるのは気がひけるけどな。」

 

アカリの話を聞き、肩をすくめながら次善策を考え口に載せる秀人。秀人の言葉を聞き、何かしらの覚悟を決める三人の女達。

 

「俺がやろう………。」

何か思いついた事があるのか。視線で女達を抑え、秀人から購入した装備を確認しながら前に出る蔵人。

 

「よっ!!漢だねぇ!腐っても勇者!!カッコイイ!!…で、なんか上手い事出来そうかい?」

「あのバカには無理だが、暴走してる片方の『加護』には心当たりがある。」

「ヘェ〜〜以前に聞いた蔵人のモノになる筈だった『加護』ってやつか?そんでも、他人のモノになってしまったんだろ?言って聞かせる事ができるんかい?」

「それを試すのさ?それとも揃ってあの世とやらへ旅立つかい?」

「うんにゃ、遠慮しときます。駄目だったら早目に言ってくれよ?トンズラしなきゃならん・・余計な荷物も増えたし・・。」

「・・・それ!?俺達の事?!」

「自覚はあるんだね?」

 

 三人のオッサンが悲壮感の欠片も無い会話で、場に似合わない遣り取りに興じる。しかし、傍から見れば肝の据わった歴戦の強者にしか見えない行動だった。

 

 「勝算はあるのですか?」

 三人の遣り取りを見ながら、最も勇者らしい行動を起こそうとする蔵人に向かって言葉を掛けるオーフィア。

 

 「まぁ・・無くは無いかな?嫁に行った姪っ子を・・加護に性別が在るか分からんけど・・叱りつけに行くようなもんです。それに、何か訴えかけてくるものがあって・・。其れに賭けてみます。しくじったらオッサンが何とかしてくれそうだしね。」

 諦観の念を浮かべた微笑みを造りながら、暴風の中心に向う蔵人。

 

 「私も行きます!!」

 独りで歩き出した蔵人の背中に、恐ろしい音量で言葉が投げつけられ。氷戦士の棍棒を担いだアカリが、『文句は言わせん!!』とばかりに同行を申し出る。

 

 「ええっ?!アカリちゃん?!」

 「先程の話に光明があるなら、私もお役に立てるはずです!一原君の目的は『仲間を護る事』でしょうから、目的である私が語り掛けたならば反応が出るかもしれません!」

 「・・・・わかった・・・それじゃ頼むよ。まず俺が先に行き、俺なりの『会話』をしてみる。それでもダメだったら、アカリちゃんの出番だ。」

 「はいっ!!私も『会話』が成立するように頑張ります!!」

 「それじゃ行こうか!!『勇者』を止めに!!」

 

 普段からは考えられない程の覇気を感じさせる言葉を挙げて、災厄の中心地に向かう蔵人。後ろに続くアカリを庇いながらも、何処か吹っ切れた表情で突き進んでゆく。

 先程まで蔵人の傍にいた雪白は、音もたてずに秀人の傍までやって来ていた。警戒感を顕わにしていた唸り声と、緊張させていた尻尾は大人しく潜めていた。

 

 「おっ!?雪白先生。・・いいのかい?」

 

 秀人の問いかけに対して座り込む雪白。『あそこまで覚悟を決めた雄に、何を言っても無駄でしょ?』とばかりに、欠伸を噛み殺し頭も垂れていた。

 

 「まぁ・・・本当に利発な仔だこと・・。私が、もう少し若ければ一緒に旅をしてみたいものだわ?」

 「おいおい・・婆さんまで・・・いいのかよ?」

 「あの二人でダメだったら、何しても無駄だろ?コッチは信頼に応えられるように逃げ出す準備でもしとくさ?」

 

 マクシームの心配を他所に、加護である『ポケット』を呼び出し何事か準備を始める秀人。

 

 「やれやれ・・・肝が据わっているのか、気が吹っ飛んでいるのか・・」

 

 秀人の妖しい動きを見ても何をしているのかサッパリ分からなかったが、所々で『予算が・・・』とか『赤字かよ・・』などの場違いな言葉が流れて来たのは空耳だと思って聞こえない振りをするマクシームだった。

 

 

 

最愛の精霊(ボニー)は歓喜に打ち震えていた。

 

自分が最も愛する存在に求められ、必要とされる事に。流入してくる魔力の量も、前回とは桁違いに大きかった事も喜びの大きさに繋がっていた。

 

感情など持たないはずなのに、始めて語り掛けるてくれた『彼』の『アタタカイ』流れ…始めて経験する意識の遣り取り…全てが新鮮で、素晴らしい経験となっていた。

 

だからこそ、精一杯応えたいと思っていた。また、そう思える『自分』に驚きを覚え。それがまた、大きな『感情』のうねりを巻き起こしていた。

 

『彼』に求められ、最大の『愛情』を持って答える…それが『自分』の全てだった。

 

でも、『感情』を感じた故に察する事が出来た『彼』の微妙な乱れが気になっていた…『力』を振るいたい!…でも、何処かに…小さく、止めて欲しいと願う『彼』の『ココロ』…

 

でも、どうにも出来ない『自分』・・・・。

 

 

 自身の力を振える陶酔感と、『彼』に求められる充足感の中で『ココロ』に刺さる一筋の影。得体の知れない影を気にしながらも『誰か』に救いを求める『小さなココロ』

 

 そんな状況に困り果てていた精霊の最愛(ボニー)に、語り掛けてくる懐かしい感じが迫って来ていた。

 

 

 

「そんなに困り果ててどうしたんだ?『お前』がやりたい事はそんな事か?いい加減、そこの莫迦と一緒に目を覚ますんだな?」

 

 精霊達の攻撃を受けながら災厄の中心に向けて進み、ハヤトの頭上で一際輝きを放つ存在に語り掛ける蔵人。

 

 蔵人の語り掛けに少しずつ反応を示す精霊の最愛(ボニー)。増大の一途を辿っていた力の暴走が徐々に収まって来ていた。

 

「さて・・・・一応、親戚のオッサンの話は通じたみたいだな・・。だが、『お前』についた莫迦男に説教をくれてやらなきゃならん。ハヤト?聞こえるか?全ての事柄はアリスって王族から始まっている。しかし、今の状況を招いたのはお前だ。

 動かない所を見ると自覚はある様だな?説教で治る様な事なら、前の世界でも更生できてただろが・・・」

 

 精霊の最愛(ボニー)の暴走を抑えて、少し自意識が戻り始めたハヤトに語り掛ける。

 

「で・・だ・・。やっぱり一番分かりやすい方法で収めた方が良いな・・。」

 

「な・・・何をするんですか蔵人さん・・?」

 

 蔵人の後ろで固唾を飲んで見守っていたアカリが、たまらずに声をあげる。

 

「オーソドックスな方法さ?こうっ!!やるんだっ!!!」

 

 精霊などで強化されていない蔵人の一撃。しかし、古式武術によって鍛え上げられた筋肉は恐ろしい躍動を示し。さらに秀人の勧めで服用した細胞強化剤の影響もあって、この『世界』でも巨人種の一撃と代わりの無い威力となっていた。

 

 凄まじい威力を持って放たれた右の拳がハヤトの顔面に炸裂する。瞬間、蔵人の体内から魔力が一気に失われてゆく。

 しかし、疲労感は無い。蔵人の魔力を受け取った精霊の最愛(ボニー)は、無文別な力の要求から解き放たれて。自らの『意思』で精霊力の行使を止めていた。

 まるで、大好きな親戚の叔父さんに怒られて頭を冷やし。気恥ずかしくなって自分の部屋に戻ったといった所だろうか。

 

 たいして、蔵人に残った気だるくも充足感のある精霊の最愛(ボニー)からの気の流れ・・決して手元に戻ってくることは無いが、愛情を持って叱ってくれた大好きな叔父さんへの感謝の念なのかもしれなかった・・。

 少なくとも蔵人はそう感じ、そう受け取ったのだった。

 

 「精霊の暴走が止まって来ている・・?!蔵人さん!!やりましたね!!」

 森林地帯に満ち溢れていた暴走寸前の精霊力は、アカリが感じた通りに静かなモノへと変化し始めていた。

 

 「もう一度ヤレと言われても出来ないな・・・」

 精霊の最愛(ボニー)を止めた事による達成感と、ハヤトを思いっきりぶん殴った充足感。そして、精霊の最愛(ボニー)から受け取った感謝の念によって軽い浮遊感を味わっている蔵人。躰は正直な反応を示し、その場に座り込んでしまていた。

 

 

 蔵人から受けた凄まじい一撃で吹っ飛ばされ、大木の幹に叩きつけられたハヤト。普通なら立ち上がるのも困難なはずだが、精霊の最愛(ボニー)が残した障壁によって、なんとか意識を失わずに済んでいた。

 

 「・・・・なん・・だ・・?何が起こっている・・・?」

 ハヤトはぼうとした様子で殴られた頬を手で確認していた。そして、口の中に広がる血の味と二、三個の固形物の違和感を感じ吐き出す。

 地面に広がる自分血と、見慣れない白い固形物。それが自分の歯であることに気付くと、自分に呼びかけている声に脳が反応を示していた。

 

「ハヤトっ、大丈夫ですか」

 

「ハヤトっ、怪我はありませんか?」

 

「ハヤトっ、戻ってこい。わたしに恩を返させてくれ」

 

 聞き慣れた女達の声。こんな俺を受け入れてくれた・・気遣ってくれた大事な仲間達。混濁した意識が明瞭なモノへと昇華していく。そして、視線に入って来る蔵人の姿。さらに後方で怪しげな素振りを見せる挙動不審な薄毛のオッサン・・・。

 

「そうだ・・・決着をつけなければっ!!」

 未だ回復しきっていない思考力を奮い立たせながら。大事な仲間を傷つけたアイツに責任を取らせなければならない。

 

 ハヤトの気の充足によって辺りにもう一度立ち込める精霊の最愛(ボニー)の気配。

 

「一原くん!!!もうっ!!いい加減にして!!」

ハヤトの状況を見守っていたアカリだったが。再度立ち込める精霊を感じ、元凶であるハヤトに言葉を投げつける。

 

「・・・え・・・藤城・・・?」

 救おうとしていた本人に、思っても見ない言葉を投げかけられ戸惑うハヤト。しかし、ハヤトの気を受けた精霊の最愛(ボニー)は動き出すのを止めなかった。

 

「蔵人さんが必死になって一原くんを止めたのに!!もう一度、眼を覚まさせてあげる!!!」

 

 凄まじい勢いで氷戦士の棍棒を振りかぶりながらハヤトに向かって突進していくアカリ。その動きは熟練の戦士であるヒデトやマクシームを瞠目させるに値するモノだった。

 

「歯ぁっ!!!食いしばれやぁっ!!!!」

今までの雰囲気をかなぐり捨てて、鬼気迫る形相で氷戦士の棍棒をハヤトに振り下ろすアカリ。

 

「・・・・えっ?・・なに?」

 

 あまりの状況の急変に、明瞭さを取り戻した脳は追いつけない。普段のハヤトならば、反射的に躰が動き避けきることも可能だったはずだが。精霊の最愛(ボニー)との遣り取りで肉体も疲労していて、先程の蔵人の一撃のダメージも残っていた為、まともに一撃を頭部に貰う事になりそうだった・・・。

 

「フニャ?!?!」

 

 マクシームに習った通りの、狙いすました体重の乗った一撃をハヤトの頭部に振り下ろそうとしたアカリだったが。

 ハヤトの頭部を捉える寸前に、大木から延びた細い幹に脚を取られる。

 

 結果、見事な放物線を描いて頭部に命中する軌道から僅かに逸れ、頭部から下半身のある部分に終着点を変える事になってしまっていた・・・。

 

 その終着点とは・・・・・

 

「huguUUUUuuuuuuUUUUuuuuuuuuuuaaaaaaaaaa!!!!」

 

 言葉にならない叫びとは存在する。

 

 アカリが放った目覚めの一撃は・・・ともすれば、ハヤトを別の世界へと誘う・・いや、旅立たせる一撃になってしまったかもしれない・・・。

 凄まじい威力の乗った一撃の終着点は・・・ピンポイントで正確に『雄』の急所を打ち砕いていた・・・・。

 

 

 

 叫びにならない叫びでもって、即座に精霊の最愛(ボニー)の気配が掻き消える・・・ハヤトと同調していたことが災いして、『彼女』にもハヤトが受けた苦しみがダイレクトに伝わっていたのだった・・・

 

 

 「・・・・・ありゃ・・・・終わったな・・・・・。」

 

 深く大きなため息を吐きながら、自分の股間を抑えつつ天を仰ぐ男達の呟きだけが、静寂を取り戻した森林地帯に流れてゆくのだった・・・・・・・

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