軌道降下兵   作:顔面要塞

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遅くなりました・・・いやぁ台風凄かったですねぇ・・

貧乏所帯のアパートのトタンが吹き飛びましたw生活は出来ますが停電になったりして・・データ他所に移しておいて正解でした。

この話で終わらそうとしたのですが、なかなか思いどうりには行きませんねぇ・・

読んでくれている皆さま。誠にありがとうございます!!

執筆スピードを挙げれる様に精進します!!

さっ!!保険屋さんとお話ししなくちゃ!!

では、また。


掃討

アレルドォリア山脈地帯。

 

人という短命な、小さな者達がつけた呼び名。呼び名を付けたのは良いが、山脈の高山地帯迄しか調査が行われておらず。未だ、山脈の奥地や頂には誰も到達していない。

 

夏は活発に活動する魔獣によって。冬は、全てを凍りつかせるかの様な凍てつく環境が人の侵入を拒んでいた。

 

 しかし、永遠に続くかと思われた静寂は。アレルドォリアからしてみれば、はかない瞬きを放つ小さな者達によって破られていた。

 

 

 山脈の中腹にある、なだらかな傾斜を持つ谷の広がった場所に、静寂を破る連続した爆発音が響いていた。聴こえようによっては、世に知られていない高位魔法が炸裂したのではないかと思わせる大音量ではあった。

 

 しかし、その高位魔法を自由自在に扱う事の出来る(いにしえ)のエルフであるオーフィアをして表情を青ざめさせ、畏怖たらしめんとする圧倒的な規模での破壊が、装着した眼鏡型情報端末(グラスパッド)を通して眼前に繰り広げられていた。

 

 三千体を優に超える規模の氷の軍勢による怪物の襲撃(エクスプロード)。長い年月を月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)で重ね、数々の怪物の襲撃(エクスプロード)に対処してきたオーフィアにとっても記憶にない数の怪物の襲撃だった。

 これ程までの規模に拡大した怪物の襲撃(エクスプロード)であるならば、近隣の村や街にあるハンター協会だけでは無く。傭兵協会や探索者協会にも応援を頼み、国にも軍の派遣を要請しなければならない災害級の出来事である。

 

 それだけの規模のハンターや軍を投じても、莫大な損害を覚悟しなければならない。だが、眼前に広がる光景はオーフィアの中にある『常識』を根底から覆すものだった。

 

 千体程度の群団で進軍する怪物達の頭上に、一瞬の光の瞬きの後に火球が膨れ上がり、鈍い光を反射しながら極小の金属球が拡散し、辺り一帯を砂煙で覆い尽くす。

 砂煙が晴れた後の地面は細かく耕され。恐るべき数を誇っていた氷の軍勢は、何かに食い荒らされたかのようにボロボロの穴だらけにされ、地面に打ち倒されていたのだった。

 

 爆発の範囲から外れていた数十体の氷の怪物達は生き残っていたが、少なからず打撃を受けて動きが鈍っていた。

 

 『オーフィア女官長。あらかたカタが着きましたが、各集団共に僅かばかりの撃ち漏らしが出ました。一度、そちらに戻り『聖霊魔法』を掛けなおして頂けますか?残りの数から考えて、いま放った『兵器』を使用するには『効率』が悪すぎます。こちらも『装備』を整えなおしておきますので。よろしくお願い致します』

 

 「・・・・えっ?・・ええ・・・分かりました。こちらも準備をしておきます・・・。しかし・・あれほどまでの軍勢をたった一人で殲滅してしまうとは・・・」

ヒデトから渡された耳に装着した『ツウシンソウチ』から音声が流れる。どの様な仕組みなのか不明だが、遠距離の連絡手段に乏しい世界に生きてきたオーフィアにしても、驚きを隠せない。

 

それにしても…あれ程の軍勢を一瞬にして葬り去った者の声には思えない。たとえ経験を積み重ねた一級ハンターにしても、これ程の成果を成せば冷静ではいられない(もっとも、この様な事を成すことは一人では不可能だけど…)

どちらにせよ、怪物の脅威は減っていた。どの様な事であれ喜ぶべき事で、自分の感慨にふけっている場合ではない。ヒデトさんが来るまでに、サレハドに居る者達に現状を報告して対応を変えていかなければ…

そこまで考えて、眼鏡型情報端末(グラスパッド)に表示されたアカリに連絡をとる。オーフィアの眼球の動きを検知した端末が視線を読み取り、即座に通信がアカリに繋がる。

 

『こちらアカリです!…?オーフィア様?どうなされました?』

距離を全く感じさせない明瞭なアカリの声にため息が出かかる…まったく…こうも隔絶した世界の人間が、この世界に及ぼす影響のなんと大きな事か…しかも、たった一人の『ヒト』なのだ。

アリスが研究している『召喚魔法』については、私も参加して絶対に成功させなければ…そうして、『彼等』には自分達の『世界』に『還って』貰わなければならない。勿論、各国の首脳陣との会談も…『勇者』を軽々しく扱ってはならないと…

 

『……?オーフィア様?』

「ああ…ごめんなさい…アカリさん。状況は分かっていますね?サレハド村の防備態勢についてですが…」

アカリと連絡を取りながら、この先の自分の役割について考えると眩暈がしてくる。しかし、長い年月を重ねてきた自分が年端もいかない少女の様に、心をときめかせている事に歓びを覚えているのも事実だった。

 

やれやれ…この人生で一人の『男』に振り回されるなんて…まんざら私の『生』も捨てたもんじゃ無いわね?さてさて…ヒデトさんが『敵』にならない様に取り込むには、どうすれば良いのかしら?

 

先程までの『異界』の技術に畏れを抱いていた表情は消えて。冷徹な月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)の最高指導者としての顔付きに変化し、怪しくも魅力的な微笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 「なんなんだ・・・こいつは・・・?」

 

 サレハド村、中央広場。広場と言っても、さして広くも無い。名も無い建築家が造成した噴水が中央にあるだけで、他にこれと言って特徴は無い。

 村の老女や子供達、世話好きな女達が男どもを働かせて作った花壇が、可愛らし気に噴水の周りを飾っているのが妙に雰囲気に会っているぐらいだ。

 

 いつもは牧歌的な空気の中、朝市が立ち。サレハド村周辺で採れた作物や、アレルドォリア山脈森林地帯で狩猟された獣肉。山から流れるアレサド川で釣れた川魚、草原地帯で行われている養蜂などの商品が並び、それなりの活気を見せていた。

 

 しかし、今は殺気立ったハンターや自警団員、月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)達が。噴水の流れ落ちる水面に映し出された映像に食い入る様に視線を向け、各々が映し出された光景に息を飲んでいた。

 

 「コイツが現実にアレルドォリア山脈の奥地で起きている事なのか・・・?」

 

 サレハド村に立ち寄っていたハンター達や、商人の護衛に駆り出された傭兵。オーフィアに連れられて来た月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)の沈黙を破って、マクシームが巨体に似合わない旋律で声を放っていた。

 

 

 アカリの眼鏡型情報端末(グラスパッド)の外部投影装置によって描き出された情景は。様々な戦場や危地を乗り越えて来た巨人をしても、戦慄を覚えなければならないモノだった。

 

 一つ星のハンターであるマクシームにしてこの状態であるならば、彼よりも経験や乗り越えて来た修羅場の少ない他の者達がどう感じるか・・・

 

 広場の重苦しい雰囲気と、息も吐くのも苦しく感じる呻きによって物語られていた。

 

 

 「ええ・・残念ながら現実です。これがヒデトさんがたった一人で行った『成果』です・・」

 マクシームの皆の感想を代表した言葉の呻きに反応して、投影者であるアカリが恐ろしい程冷静な言葉で反応する。

 

 「アカリ・・・これがヒデトの『精霊の贈り物』(ドゥフバダラ)だっていうのかよ・・・?」

 自分が声を漏らしてしまった事に、若干の後悔の念を含みながら。いつもの陽気さを闇に覆わせた気持ちのまま、アカリに確認する。

 

 「先程行ったイライダさんとの短距離通信で、この『魔法具』が正常に稼働しているのは皆さん確認しましたよね?であるならば・・・目の前で映し出されている光景は、アレルドォリア山脈奥地で行われている事に間違いはありません。正直、わたしも此処までとは想像もできませんでしたが・・・」

 少しばかり震える音を絞り出しながら、マクシーム・・いや、広場の皆に覚悟を固める様に、緊張した音を紡ぎ出すアカリ。

 

 「・・・莫迦なっ!!?こんな壊滅的な破壊をもたらす『魔法具』など聞いた事も無い!!マクシーム殿の狼狽から推察するに、一つ星のハンターでさえ戦慄する『魔法』など・・・」

 

 商人達を護衛してきた傭兵達を率いる三十代に見える頬傷のある男が、皆の疑問を代表する様に心の奥底に溜めていた畏れの感情が流れるままに叫びを放っていた。しかし、後半になればなるほど、自分の口にした事すら現実とは思えず、声量は噴水の音にかき消されてしまうのだった。

 

 「では、現場に行って確認しますか?この後『掃討に入る』と連絡が在りましたので、安全は確保されていると思いますよ?それに、どの様な過程を経たとは言え怪物(モンスター)達が殲滅されるのは喜ばしい事では無いのでしょうか?」

 

 「・・・・・っ!!」

 

 何時に無く冷静な口調で、ヒートアップした疑問に応えるアカリ。

 

 あまりにも冷静な対応だった為に、聞くものによっては酷薄さが勝っていたようで。小娘としか思っていない傭兵達を激昂させる寸前にまでにしてしまっていた。

 

 「其処までにしときな!まったく・・・今はそんなで揉めてる場合じゃないだろうに・・。前を張ってくれているヒデトの為にも、安心して闘える環境を整えるのが後衛の務めなんじゃないのかい?」

 

 巨人種らしい大きな良く通る声が響き渡る。皆、声の方に顔を向けると。金髪の特徴のある美しい髪を無造作に後ろで束ねたイライダが、不機嫌そうな表情で皆を見渡していた。

 

 「・・・イライダ殿・・・しかしっ!?」

 

 傭兵隊長がイライダの話しに割り込もうとする。

 

 「あんたが不安なのは分かる。アタシもそうだったからね?確かにヒデトの能力は想像を超えているし、それが万が一でもこの世界に向けられたら・・と、考えたらアタシだって焦燥にかられたさ?でもね、今は怪物達に正面切って仕掛けているハンターの一人にすぎない・・で、ヤツはなんて言っていたか覚えているかい?サレハド村を頼む。そう言っていた様にアタシには聞こえたんだけどね?」

 

 「・・・・・。」

 イライダの冷静な指摘に言葉を飲み、冷静さを取り戻す傭兵隊長。

 

 「ハスク!隊を二分する!!後衛は弓と矢を準備してアレルドォリア門の防壁に着け!!前衛はマクシーム殿に付き、マクシーム殿の援護に入れ!!俺はイライダ殿と迎撃戦について詳細を詰める!!」

 

 先程までの言いしれない不安に悩まされていた顔つきは一変し、数々の修羅場をくぐった歴戦の傭兵隊長に戻っていた。的確な指令を配下の傭兵に出しながら、アカリに顔を向ける。

 

 「すまなかった勇者殿・・少し先走っていた様だ?ついてはアカリ殿の能力が必要だ。イライダ殿と共にハンター協会で指揮に参加してくれまいか?」

 

 「分かりました・・・私の方こそ至らない言葉で、申し訳ありませんでした・・」

 

 「よし!!話はまとまったね!ハンターと探索者は事前の計画に従って、各々配置に着け!村人の避難は順調だね?タンスクからの救援も来てくれている!!根性見せなっ!!!何より一人のハンターに美味しいところもっていかれちまうよ!!?」

 

 わだかまりを一瞬で捨て去り、戦士の顔に戻った二人に目配せしながら、野次馬の如く固まっていた他の冒険者三種に声を張り上げて気合を入れるイライダ。

 

 「マクシームさんも凛々しいところがあるけれど・・・イライダさんには敵わないかな?」

 

 「聞こえてるぞアカリ!まぁ、アイツの方が指揮・統率は慣れているから、間違っちゃいないわな・・・なんだ?珍獣を見かけたような呆けた面して・・?」

 

 「いや・・・マクシームさんがイライダさんを褒めるなんて・・・」

 

 「俺だってちゃんと評価するし、褒めもするよ?まぁいい・・ヒデトが創り出してくれた貴重な時間だ。有効に活用するぞ!」

 

 「・・とゆうことは・・あれだけでは終わりではないと・・?」

 マクシームが言外に滲ませた言いしれない雰囲気に、不安げな顔でマクシームに躰ごと向き直る。

 

 「・・・何事も用心が必要なのさ?しすぎるって言葉は現場を知らない奴の戯言でね・・終わってみて何事も無けりゃ酒の席の話にすりゃいい。もっとも費用対効果を望んでいるなら話しは別だがな・・」

 

 「費用対効果って・・・・?頭でも打ったんですか?それとも・・・」

 あまりにも異次元の言葉が、目の前の筋肉タワーから流れて来た事に驚愕するアカリ。

 

 「本当にぶん殴るぞ?一級なんてなるとな、イロイロな事を学ぶんだよ・・さ、指揮本部に向かってくれ。くれぐれも注意を怠るなよ?」

 指揮本部がある協会支部に背を向け、傭兵達に気合を入れながらアレルドォリア山脈に続く門に向かうマクシーム。

 

 そんな頼もしい要塞の姿を記憶に遺しながら、自分の能力を全て発揮できるように自らを奮い立たせるアカリだった。

 

 

 

 

 

 「やれやれ・・・力があるってのも、問題だな・・・しかし・・アカリちゃんがねぇ・・」

 アレルドォリア山脈の中腹に居るオーフィア達に向かって降下しているヒデトに、眼鏡型情報端末(グラスパッド)の通信が入れっ放しになっていたアカリ達の会話が流れ込んで来ていた。

 

 あんなネンネの嬢ちゃんに庇ってもらえるなんて・・・戦争の道具だったころに比べれば良い人生を送れているのかもな・・

 だが、この世界には俺の力は強大過ぎるかもしれない。さっさとアホ王女を焚きつけて『自分の世界』に戻らなきゃいかん・・コッチノ世界も悪くは無いが、今回の騒動を聞きつけたアホ共が接触してくるのは間違いない。

 人間の欲なんてもんは、何処の世界だって変わりはしないだろうし。

 

 一瞬、思考の海に潜り込む秀人を叱る様にオーフィア達が視界に入り、オーフィアから連絡が入る。

 

 「ヒデトさん。聖霊魔法の準備は整っていますから、いつでも大丈夫です」

 

 『ありがとうございます。オーフィア女官長。では、すぐに魔法を掛けて貰います。その後は洞窟の隠れ家に下がって下さい・・・いやいや・・戦術的後退ですって・・これから使用する武器は誤射する確率が高いモノで、味方の損害を減らすためです』

 

 秀人からの通信を聞いたオーフィアが、『洞窟に下がって』の部分で大いに反応してきた。

 

 あの婆様、年齢を偽っているんじゃないだろうか?

 

 『紅蓮のエルフ』なんて呼び名もついているらしいし・・・魔法の強大さだけで付いた『通り名』じゃなさそうだ。

 まぁいい・・怪物どもは初手の一撃で壊滅的被害を被っている。あれだけ一塊になって進軍して来たら、演習の標的を粉砕するよりも簡単だ。

 前回対戦した連中も、自分達の欲望を満たすためだけにしか動かないから戦いにもなりゃしない。だが、怖ろしい程タフだったから遠距離兵器の発達していないコッチノ世界なら苦戦は免れないか。

 正直、機動強化装甲外骨格(スーツ)が無ければ、あんな奴等と近接戦闘するなんて悪夢以外の何物でもない。マクシームが筋肉要塞になるのも頷ける。科学兵器万歳ってなもんよ。

 

 さてさて・・・大盤振る舞いしすぎたせいで、コッチノ予算の都合がつかなくなってきた。残存勢力も100体程度は残っているし、どうしたもんか・・。

 殲滅した怪物どもが残した氷属性の武器が大量にありそうだけど、100体に一個程度しか出てこないみたいだから期待値は薄いし。

 この前のアップデートで、自分の装備以外は『収納』と『解体』ともに戦闘が終了したとスキルが判断しなければ使用できなくなった。何気にアップデートでデバフされてんじゃねぇか?あの黒神(アホ)の差し金では無いだろう。基本的にはアッチノ世界の神様をやってるから、わざわざ弱体化はしないだろう・・コッチノ世界の神様が復帰した影響かも知れない・・・『ポケット』新着ニュースで表示が出ていたな。

 

 ・・・しょうがないけど節約するしかない・・・。ホントは旧式だけどM1134ミニガンで一掃する予定だったんだけども、機動強化装甲外骨格(スーツ)のメンテナンス費用を考えていなかった。

 

 予算の事を考えながら戦わないといけないなんてなぁ・・貧乏なイジマシイ戦いは嫌いなんだが。限られたモノで最大の効果を引き出さなきゃならんから、コッチノ人達に頑張ってもらうか。

 

 ブツクサと考えながらオーフィア達の頭上30m程度で、機動強化装甲外骨格(スーツ)と強化戦闘服Ⅳ型を瞬時に入れ替え装備しなおして降下してゆく秀人だった。

 

 

 

 

 

 オーフィアの眼前に空から降りて来た男がいた。

 

 先程までの白い斑模様の甲冑では無く、異様にツルリとした奇妙な質感をもった皮鎧の様なモノを纏った装備に変わっていた。頭部を覆う兜は、スッキリとしたラインで構成されていて。目のある部分は半透明なガラスの様なモノで覆われているが、中を伺うほど透明感は無い。

 

 皮鎧に装着された武器は、この世界でも見慣れた弓に矢。奇妙な反りを持った刀剣があり。腰の部分には見た事も無い不思議な光沢を持つ筒状の物体が、何個か括り付けられている。

 皮鎧の右胸の部分にはスッキリとした直線状の形態をした短刀が、柄を下にして抜きやすいように填められていた。

 

 先程の甲冑の様な頼もしさは無いが、強大なイルニークに似た剽悍な雰囲気を放っていた。

 

 「ヒデトさん・・・ですよね・・?」

 あまりの装いの変化に戸惑いながら、通信機を通じて呼びかけるオーフィア。

 

 『姿を変えてしまって申し訳ありません。オーフィア女官長。誠に遺憾ですが、残敵の掃討にご助力願えないでしょうか?蔵人?お前もだ・・なに逃げようとしてる・・?雪白先生・・お願い致します』

 

 あっけにとられているオーフィアがヒデトの言葉をかみ砕いている内に、ここぞとばかりに逃げを打つ蔵人だったが。秀人の呼びかけよりも早く、雪白が蔵人の頭を丸かじりにして逃走を赦さなかった。

 

 「・・・いやいや・・逃げないよ・・逃げないけど、お前さん偉そうな事言って飛んで行った割には大した事無いんじゃない?」

 雪白さんに『っぺ!!』されて、情けなく横たわる蔵人が咎める様に抗議の声を挙げる。

 

 『そこら辺は謝罪の言葉しかない。いやはや、グアディから貰えるはずの報酬が先延ばしになっていた事をすっかり忘れていた。残高が厳しい状況で機動強化装甲外骨格(スーツ)の整備費を含めると、皆さんに手伝って頂かないと赤字に転落するんだわ?』

 

 情けない感じでヘルメットの頭部をポリポリと掻くヒデト。

 

 「でも、赤字なんて大した事無いだろ?後で補てんすればいい」

 

 『それがね・・赤字になると一週間は『ポケット』の能力が使えなくなるんだよ。勿論、『商店』も使えないから皆が欲しがっていた商品も購入できない・・・』

 

 「・・え?マジで?食料や酒なんかも?」

 

 『当然、買えなくなる。イライダやアカリちゃんが注文していた『商品』も届かなくなる・・』

 

 『いけませんっ!!!オーフィア様、秀人さん、蔵人さんに雪白さん!!スグに高山地帯に下がって下さい!!そこでマクシームさん達と合流して迎撃戦です!!ですよねっ!!イライダさん!!』

 

 『当然だよ!!何、ちんたらしてんだい!!大の男どもがみっともない・・怪物の数は100体以下まで減ったんだ!!サレハド周辺の獲物を怪物どもに滅茶苦茶にされてもいいのかい!!掃討戦だよ!!アタシについておいで!!アカリはヒデトとの中継を頼むよ!!『精霊の贈り物』(ドゥフバダラ)をつかって効率的に指示を頼む!!』

 

 秀人と蔵人の遣り取りに金切声に近いアカリの声が乱入してくる。切羽詰まった様子で、捲し立てる様に指示を強要した後に。同意を促す様にイライダに声を掛ける。

 

 アカリの声に反応したイライダが、普段の冷静さをかなぐり捨てて。暴走状態の筋肉巨人の様にサレハドの防衛に付いていた傭兵やハンター、探索者に激を飛ばし、物凄い速さで高山地帯に向かってゆく。

 

 『・・・蔵人・・俺、なんか彼女らの逆鱗に触れるような事言ったかな・・・?』

 近代科学の象徴である強化戦闘服Ⅳ型に、しっとりと浮かび上がる様な汗の線を見せながら困惑した声で蔵人に話しかける秀人。

 

 「・・・『商品』が届かないってのがマズかったんじゃないのかな・・?二人で、声を弾ませながら『商品』をチェックしていたから・・・それが原因でないの・・・?」

 横たわる身体を起こしながら返事をする蔵人。緊迫した状況にも関わらず、何時もと変わらない態度を崩さないまま雪白の尻尾を弄っては、殴り返されていた。

 

 『選んでいた商品が何なのか分からんが、偉く気合の入った動きだな?食料や酒、衣類なんかは俺の世界のモノを知ってしまえば、コッチノ世界のモノとは勝負にならないからなぁ?あれ?何時になくヤル気になっているんですか蔵人さん?』

 

 装備を整え、以前購入した強化戦闘服Ⅳ型のヘルメットを被る蔵人。

 

 『そのヘルメット、何処から出したんだ?』

 

 「ああ・・俺の数少ない『加護』さ?食料品なら結構な量が入るリュックがあってね。この戦闘服に携帯食料を巻き付けておくと収納できるようになった。バグみたいなもんかな?え?いろいろ考えるって?そりゃ、生き残るために必死さ?試行錯誤は重要だよ。それに、雪白も気に入ったトイレットペーパーが購入できないとドヤされるからなぁ・・アイツらも生理用ひ・・・イテェ!!!」

 

 女性の尊厳にかかわる単語を言い放つ寸前で、雪白の半分本気の前足払いが飛んでくる。ヘルメットを装備した蔵人の右頬に炸裂!!

 

 声だけ残して6m程跳ばされる蔵人・・・・

 

 そんな蔵人を見て、呆れるヒデト。

 

 やれやれ・・・・口は災いの門とはよく言ったものだな・・アイツ、元の世界ではモテた事は無いと言っていたが・・・原因はデリカシーの無さなんじゃないだろうか?

 

 

 肩を竦めながら雪白に視線を合わせ、同意の呻きを貰ってから背部ユニットに装備されたボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改を構える秀人。

 

 その姿を見て満足した様な息をつき、美しい瞳に獰猛な光を燈らせる雪白。どうやら前回の借りはシッカリと返す気でいる様だった。

 

 

 しかし・・・公衆衛生に関わる欲望で殲滅される怪物達って、ファンタジー世界の設定でも存在しないだろうな?

 

 クダラナイ考えを浮かべながら、迎撃地点まで即座に合流できるように移動を始めるヒデト達だった。

 

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