軌道降下兵   作:顔面要塞

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遅くなりました!!

年末になって来ました!!

更新頻度が危うくなるかもです!!

先に謝っておきます!!!では、次回 忘年会でお会いしましょう!!!

スイマセン・・・混乱しています!!

次回に向けて精進します!!


旅路

アレルドォリア山脈の裾野に広がる大森林地帯。大小様々な動植物たちが生存競争を繰り広げる生命の庭。一年の大半を極低温の気象状態に覆われ、まともな動植物達は生存すら困難な場所。

 

 そうであるが故に、貴重な素材を持つ魔物や秘薬の原料になる植物が存在していた。アレルドォリア山脈の裾野にあるサレハド村も、その様な素材を求める行商人達と魔物を狩猟するべく訪れるハンター達で賑わいを見せていた。

 

 狩猟や採集の出来ない冬を越え。初夏に当たるこの時期であれば、サレハド村の広場には様々な商店が並び売り買いの掛け声の喧騒で溢れかえって、大変な賑わいを見せる・・・のだが・・・

 

 サレハド村全体を覆う不穏な空気と、様々な装備を身に纏った旧冒険者三種によって過去の出来事など無かったかのように緊迫した雰囲気を漂わせていた。

 

 緊迫した雰囲気に飲み込まれる様に、サレハド村の家々は普段の喧騒が嘘の様に沈黙に包まれていた。明るく活気に満ち溢れた辺境の村が沈黙をせざる得ない状況は限られている。

 

 天変地異による大規模な災害。若しくは隣国による利益争いに端を発する侵攻・・・そして魔獣の暴走(スタンピード)と、怪物の襲撃(エクスプロード)であった。

 

 戦争や紛争の類なら求めるモノを差し出せば、ある程度の財産や家屋は保証され村としてもう一度繁栄の道を歩むことが出来る。

 しかし、上記二つの魔獣と怪物は違う。一度でも突破を赦せば生命・身体・財産・・・全てを喪ってしまう。だが、魔獣の暴走(スタンピード)はまだ対処することが出来る。対象となる魔獣の増殖が平時と違い、偵察を頻繁に行えば兆候を掴め迎撃や殲滅に動くことが出来る。

 時間的な余裕があり、旧冒険者三種を始め国軍を投入する事が可能で一般人の避難も行う事が出来る。

 

 対処が難しく、発生と同時に壊滅的な被害を被るのは後者の怪物の襲撃(エクスプロード)であった。一体や二体の目撃例があれば即座に探索隊を動員して徹底的に調査するのだが。怪物の襲撃(エクスプロード)に発展する事例は極端に少なく、調査は空振になることが多い。

 その為もあって魔獣の暴走(スタンピード)の様に大規模な動員は難しくさせていて、一旦有事になった時の被害は壊滅的なモノへとなっていた。

 

 兆候はあるが全てで発生する訳では無く。一旦始まってしまえば瞬く間に数を増大させ、全てを喰らい尽くす。時間的な余裕が無いため大規模な動員も間に合わず。結果、国が亡ぶ遠因になり得た。

 

 そのような非常事態に追い込まれているサレハド村が、重苦しい空気に覆われるのは仕方の無い事ではあった。

しかし、重装備を纏った迎撃に出る旧冒険者三種で溢れかえっていた村は数瞬前の出来事によって、若干重苦しさは取り払われ閑散とした状態となっていた。

 

 

 

 「あ~あ・・・み~んな行っちまったぜ・・?村の防衛はどうなるんだろうな?」

 ハンター協会支部に併設された酒場の主人が暇になった店を放り出し、すっかり寂しくなった広場を眺めながらため息交じりに独り言ちる。

 

 「怪物達の大多数は殲滅されましたから、あの数で行けば問題なく始末できると思いますよ?」

 酒場の主人(マスター)の言葉に後ろから声を掛けながら、疲れた顔で応じるハンター協会サレハド村支部長のラーヘン。胡散臭い旅人を登録してから目まぐるしく変遷する自分の人生に今の事態を重ね合わせていた。

 

 「お前さん、事務仕事をしなきゃいけないんじゃないのかい?」

 

 「こんな状態じゃ書き物仕事なんて落ち着いて出来ませんよ?酒場の主人(マスター)だって酒の量や料理の事を考えている場合じゃないでしょう?」

 

 「そうとも限らん。アイツらが関わっているから、この面倒事が終わればココを舞台にした宴会がおっぱじまるぜ?それに合わせて・・・・おっ?きたきた・・・」

 

 広場からタンスクに向かう村の門から大勢の装備を固めた兵隊や旧冒険者三種、様々な物資を牽引している魔獣車が見て取れた。

 

 「ラーヘンっ!!状況はどうなっている!?」

 

 集団の先頭に立つ騎馬集団の中でも、一際目立つ白の軍装に身を固めた指揮官が声を掛けて来ていた。

 

 「あれ・・・?グアディさんじゃないですか・・?なんです、その格好?」

 

 「いや・・俺も色々あってな・・俺の事はどうでもいい!それより村の防備部隊はどうなっているんだ?タンスク門にはセスカ爺さんが骨董品の装備で独りでいるだけだ。話を聞いても『勇者様が全て片付けてくれる。だから増援は要らん!!』なんて言っていたが・・ホントなのか?」

 

 「・・・そんな状態じゃ説明も何もあったもんじゃないですよ?取りあえず防備部隊は怪物の掃討戦に向かいました。そんで、村の安全は保たれています。心配でしたらお連れになった軍の偵察兵を送ってみては?」

 

 「どうゆう事だ?フェルゼンナー!三騎連れて前方偵察!クロイツ!歩兵隊をアレルドォリア門に展開し、防備体制を固めろ!旧冒険者三種は広場にて待機!状況を説明する!こんなもんか・・そんじゃラーヘン。説明を頼むわ?」

 

 毅然とした態度と明瞭な声で指示を出し終えたグアディが、自分の事を見て状況説明を促す。

 

 この人、こんなに頼もしいヒトだったかな?なんて考えながら、今までに起きた事を思い出し整理しながら説明を脳内で纏めてゆく。しかし、アカリさんが居ないから状況を映し出してくれる便利な魔法具がないし・・どうしたもんか。

 自分が見聞きした話を信じてもらうしかないな。だいたい、この状況の原因を引っ張ってきたのはグアディさんだし・・そこら辺を絡めれば納得してくれるかも。

 

 あ~あ・・なんでこんなことやっているんだろう?妻と一緒に避難出来た筈なのに・・支部長なんてなるもんじゃないなぁ・・

 

 そんなこんなを考えながらグアディを支部の中に案内する。ふと、騒がしくなった酒場の主人(マスター)が居た場所に目を向けると。様々な物資を積んだ荷馬車と、怪しげな老婆に引きつられた蠱惑的な化粧をした女の一団が酒場の主人(マスター)と欲に満ちた顔で話し合っていた。

 

 やれやれ・・・村が・・いや、国が亡ぶ遠因になるかもしれない状況でも人の欲望は果てしないモノだ・・だが責められるようなモノでもないか?俺自身、今回の事で支部長に昇進したし。仕事は増えるが俸給はかなりのモノになったしな。

 

 そんな事を思いながら自分の仕事を果たそうと。グアディが連れて来た補給官と打ち合わせするべく、ハンター協会支部に入って行くラーヘン。

 

 これから子供を成して厳しい人生を歩まなければならないラーヘンにとっては、怪物達の動向よりも身近な問題の方が重要であったし。荒事の無い人生を歩む事では、高くなった報酬の方が人生を豊かにする事だったのであるから正直な感想だといった所ではあった。

 

 

 

 『優勢なる敵勢力にあたっては、近隣部隊との密接な連携の元一旦打撃を与えたならば。後方部隊からの近接火力支援を受けて適宜後退戦を展開しつつ敵勢力の漸減に努め。味方打撃部隊と共に適宜反撃を試みるモノとする』

 

 訓練所時代に嫌とゆうほど叩き込まれた教則本の内容を思い返しながら、背部ユニットからハンドグレネードを取り出し。通信爆破モードにして自分達の後方に向けてばら撒いてゆく秀人。

 

 優勢な敵勢力は自分の放った遠距離火力によって壊滅していたし。近接部隊は・・・頼りになる雪白先生と魔法火力婆さんに付き人・・あと一名評価しずらいのもいたっけ・・。

 適宜後退戦を行うにも、後方陣地など存在せず。そもそも敵勢力は何も考えないで突撃してくるアホばかり。

 

 後方部隊は・・・連絡入れた途端に狂戦士の様に荒れ狂い。防衛部隊を根こそぎ動員して殲滅戦に移行する始末・・・・。

 

 この世界の軍事常識って存在しないのだろうか?少なくとも黒い神(ウチのアホ)の言う通り、俺達の世界が異常なのだろうか・・・。

 今まで考えた事も無かったが、2億3億の人間が吹っ飛ばされる戦争を経験する方が異常なのかもしれない。しかし、近代兵器や戦術から考えてみたら、近接戦闘が主流の世界ってのも呆れてしまう。

 

 損害が怖いのなら、より遠距離で相手を撃破。あるいは戦闘不能に出来る様に進化させるのが普通なのだが・・いったい何を考えているのだろうか?正直、訳が分からない?遠距離兵器の火力不足で、近接で殴った方が手っ取り早く最大火力が出せるって経験から導き出された最適解なのかもしれない。

 

 前衛が赤筋肉巨人ばかりなら戦法としてはありなのか?タンク役が攻撃を引き付けながらタコ殴りにするのは間違っちゃいないが、タンク役の先鋒が耐えきれない場合はどうするのだ?

 確かに俺達の世界でも同じような戦術は存在する。しかし、より遠くで相手を補足して損害を与えることが出来るから前衛に全てをおっかぶせなくても済む。何より地形障害や陣地を構築して利用するから酷い事にはならない事の方が多い。

 

 要は索敵手段の欠如と、遠距離通信技術の発達を繰り返さないと近接戦闘は主流のままだな。

 

 まぁいい・・・どっちにしろ全滅させなきゃいけないんだ。深く考えるよりも撃ち漏らさない事に重点を置かないと、足元を掬われる。

 アカリちゃんとイライダの物凄く気合の入った通信から判断するに、サレハド村に居る防備部隊全部を引っ張てきている様だし。ドローンによる観測情報も多数の人間の移動を確認している。

 迎撃地点は高山地帯と山岳地帯の境目辺りを考えている様だ。怪物達は初撃から立ち直り集合しつつある。時間的な余裕は十分にあるから、迎撃地点での伏撃の準備もしっかりと行えるだろう。人数が掛けられるってのは精神的に楽だね。

 

 「あの・・・・もう少し速度を落とせないでしょうか?」

 肩口に担ぎ上げた赤毛が特徴的な月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)の一人が、遠慮がちにヒデトに語りかけていた。

 

 『うん?ああ、すまない。怪物達の進撃も止まっているから、少し速度を落とそう。気づかずにすまない』

 「・・・・いえ・・・大丈夫です・・・」

 

 大人しい声で返事を返す赤毛の女性・・・名前は・・ヴィルア・・だったはず。怪物達の進撃を止めた後、サレハドの連中と合流して迎撃する計画が決まり。急いで合流しなければならなくなった為、月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)の移動速度が問題になった。

 荒事に慣れた連中を含んでいたが、オーフィアの婆さんを含めてアレルドォリア山脈を高速で移動するには不向きな人間が四人ほどいたのだ。(残り一人は兎系獣人種で山間部の移動を得意としていた)

 

 雪白先生にお願いしてオーフィア婆さんともう一人は運んでもらえる事になったが、残り二人は重量的にも無理だった。(体格的に重量が肥大気味であるのではなく、装備の重量の問題であった)

 

 仕方が無いので被災者等を搬送した経験がある秀人が運ぶことになったのだが・・月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)の構成員は過去に男性がらみのトラブルを経験しているモノが大半で、男性に担ぎ上げられ運ばれるなど・・精神的には厳しいモノだったから少々議論となった。

 しかし、最後はオーフィアの鶴の一声で決着。衝撃を吸収する非常用マットを肩口に置き、秀人が担ぎ上げて鉾ぶことになったのである。

 

 二人の女性は前衛も務める事が可能な体格をしていたが、持続的な身体強化魔法が不得意で。連続した強化が必要になる高速下山は苦手としていた。

 そんな見事な体格を持った人間を二人担ぎ上げ、急峻な地形が連続するアレルドォリア山脈を降るのは難しいと思われていたのだが・・・・いざ、移動に移るとイルニークである雪白に劣らない俊敏さで山を駆け下りてゆくことが出来たのである。

 

 これには秀人を除く全員が(雪白先生も)驚き、蔵人などは慌てて身体強化を掛けて追いつこうと必死で走り出す始末だった。

 

 担ぎ上げた女性のうち、アッシュブロンドの長髪の女性は最初の一分で気を喪い大人しくなり。もう一方の赤毛の女性ヴィルアは、かろうじて悲鳴をあげずに済んでいた。(ほとんど目を瞑っているのも効果的だったかもしれない)

 

 「・・・ヴィルア・・?顔が朱いわよ・・・」

 「・・・っ!?フェリージャ?!あんた起きてたの!?」

 「う~ん・・最初は気を喪っていたのだけど・・・男の人に宝物の様に大事に抱えられて山を降るのって悪い気分じゃないわね?」

 「・・・・。あんた前の旦那で懲りた筈じゃないの?」

 「あいつは人としてもサイテーだったから、逃げ出したのよ?それに部族の命令だったから逆らえなかったし」

 「やれやれ・・・直ぐに人を気に入る性格、直した方が良いわよ?」

 「あらら~~・・そんなこと言いますかヴィルアちゃん?右手の人差し指で髪を絡める仕草・・・気になる方が居る時のくせだったよねぇ?」

 「・・・っ!!?そんなことないわよっ!!」

 

 『おっと・・・どうされました?衝撃がありましたが、大丈夫ですか?速度を緩めたので・・・』

 

 「いいえっ!!大丈夫です!!フェリージャが目を覚ましたので、話していた所です!!」

 『そうですか・・乱暴な方法で申し訳ない。もうすぐ合流地点です、御辛抱を』

 

 「ふふっ・・異世界の『勇者』様か・・悪くないわね。美男では無いけれど・・今までの『彼』を見ていれば、そんな事は問題じゃないわね」」

 「フェリージャ!?あんたねぇ・・?」

 「ヴィルア。もうすぐ着いてしまうわよ?こんな気分を味わえる時はそんなにないわよ?」

 「・・・・そうね・・」

 

 女性二人の会話はそれっきり途切れてしまう・・しかし、二人の女性がヒデトに掴まる両腕に力を籠めるのにさして時間は必要としなかったのであった。

 

 そんな二人の様子を複雑な心境で眺めながら、秀人に少し遅れて追随する兎系獣人種のルエラ。

 (私だって殿方に宝石の様に扱われてみたい・・・・あ~あ・・なんで私は命精強化が上手いんだろう?女官長様の判断は間違っていないけど・・・異世界の殿方って蔵人さんを含めて優しいのかしら?でも、アルバウム王国の学園から抜け出してきた子の話は違っていたけど・・あっ!?あんなにシッカリとくっついて・・アッチが良かった・・)

 

 先頭を行く秀人の後を追随する雪白の背中で、秀人が出したロープに掴まりながら自分の隊員の様子を伺うオーフィア。

 本来なら雪白が先頭を譲る訳は無いのだが、背に不慣れな二人を載せている事もあり。蔵人の説得もあって不本意ながら二番手に甘んじているのだった。

 何より、背に載せた二人を落とそうものなら大怪我間違いなしの速度は出ていたから、無理をする訳にはいかなかった。

 

 「やれやれ・・・月の女神への信仰を維持するのも難しいものねぇ。あの三人は男性で苦労した経験が長すぎたわね。ヒデトさんにしても女性との交友関係は疎いみたいだし・・あら?雪白さんもそう思うのかしら?え?家にも似たような奴がいる?あらあら・・お互いに気苦労は無くなりそうにないわねぇ?」

 

 デリカシーや恋の機微に疎い男二人を交互に見やりながら、お互いに軽いため息をつくオーフィアと雪白だった。

 

 

 

自分の下した決断について、つねづね疑問を感じていた。タンスクから魔獣車で1日の距離にあるテサダ村で先祖代々農業を営む家族の元で、あまり不自由の無い生活を送り。ミドルティーン世代にありがちな勇者や英雄を語った吟遊詩人の話を真に受けて、家族の説得を聞かずに溜め込んだ幾ばくかの金銭を元にタンスクに向かい、傭兵協会の門を開いた10年前。

 

両親から受け継いだ恵まれた体格と、厳しい農作業で鍛えられた身体と精神は、傭兵として生きていくための基礎を築き上げていた。

 

しかし、傭兵となって戦場で武勲を挙げ、故郷に英雄として凱旋する事などできはしないのだと納得するのに時間がかかってしまい。他の道を探すのは難しいと思う年齢まで傭兵家業にどっぷり浸かってしまっていた。

 

吟遊詩人が歌い上げる輝かしい戦場や、冒険譚に華々しく語られる竜殺し(ドラゴンスレイヤー)などは遥か過去の物語になってしまっていたのだった。

国家間の境界が定まり、国同士の戦争は無くなり。軍や傭兵を必要とする場面は隊商の護衛や盗賊などの討伐。人々を襲う悪虐な竜などは存在せず、彼等の棲息域を侵さなければ無益な争いは起こらない。

不定期に発生する魔物や怪物の襲撃も、定期的に掃討を行えば大規模な災害に発展することは無かった(怪物の襲撃は余程のことが無い限り、発生することは無かった)

 

そんなこんなで夢を追いかけて傭兵生活を重ねて見れば、いつのまにか一廉の傭兵隊の隊長職…聞こえは良いが、やっている事は隊員の面倒と協会との調整や連絡。有力な商人への売り込みなどが仕事の、英雄とは程遠い現実を日々送るだけだった。

 

勿論、危険は伴うし。下手を打てば、自分を含めて明日の糧に困窮し。最悪、揃って草生す屍になってしまう。安定してきたとはいえこの世界(エリプス)は未だに危険な環境ではあった。しかしタンスク傭兵協会・上位傭兵隊『タンスクの護り』隊隊長ビルヘンナ・シュバイクは、今のところは上手く切り抜けて其れなりの人生を歩んでいた。

 

自分で今までの人生を振り返って見ても、そんなに悪くは無いと思う。しかし齢三十を越え先の生活に目を向けなければならない時期に来ているのも間違いは無い。

故郷の両親も歳をとり、農場を維持するのも限界はある。自分の人生にひと区切りをつける頃ではあった。

 

 「どうしたんですかぁ?タイチョー!!しけた顔になってますよぉ?怪物の襲撃も撃退できたし、私達が護衛してきた商隊も無事です。サレハド村・・・いや、ドルガンは救われましゅたぁ・・あれ?言葉がオカシイデショ・・・ヒック・・・」

 

 サレハド村の中央広場に設営された、簡素なテーブルと椅子を並べただけの場所で。少し考え込みながら過去を振り返っていたビルヘンナに、三年目の新人であるヨーシュフが酔っぱらった勢いのままに話しかけていた。

 

 「おお・・そうだなヨーシュフ。うん?かなり酔っている様だな。あそこにいる女性が視線を向けて来ているぞ?少し話をしてきてはどうだ?」

 父性を感じさせる低い声で、優しく諭す様に言いくるめるビルヘンナ。

 

 「え・・・御命令!!承りました!!ヨーシュフ・バイテル!!突貫しまシュ~・・・・」

 ただでさえ体勢を維持するのも難しい程酔っているヨーシュフ。蠱惑的な笑みを浮かべる女性に向かう途中で脚をもつれさせ倒れ込み、倒れたまま寝入ってしまい。宴席の盛り上がりに寄与する事になってしまっていた。

 

 「申し訳ありません・・・隊長。注意していたのですが・・・」

 『タンスクの護り』副隊長パライス・マイネルが、普段から血色の悪い顔を更に悪くさせて謝罪の言葉を述べていた。

 

 「パライス?無理をして酒を飲んだな?マクシーム殿と先程まで一緒にいたからか・・流石に一杯程度は飲んだのだろう?無理はするなよ」

 

 「ええ、流石に祝宴会の酒は断れません。しかし、マクシーム殿も一目で下戸と見抜いたようで・・一番酒精の少ない酒を回してくれましたよ」

 

 「そうか・・ああ見えて面倒見の良さは評判になっている御方だ。其れよりも隊の状況は?」

 

 「サレハドに帰還する前に報告したとうりです。死亡者は居ません・・・が・・」

 

 先程の血色の悪い顔を少し紅潮させて、ビルヘンナに質問しようとするパライス。

 

 「勇者殿の戦い方か?」

 

 「・・・ええ・・その・・どうにも言葉に表しきれない、もやもやした物が心に貼りついていて・・」

 

 「俺だってそうだよ。高山地帯で迎撃戦を展開したと言っても、満足に戦う事すらできない瀕死の怪物をイライダ殿とマクシーム殿を先頭に立てて捻りつぶしただけだからな・・しかも、その原因を造った勇者殿二人の活躍と猟獣の凄まじさも見せつけられてはな?」

 

 事実だった。秀人が撤退中に仕掛けた地雷モードのハンドグレネードによって更に数を減らした集団に対して、勢い込んだ気合の乗った巨人種二人を楔の先頭に立て。二人をサポートする様に二つの楔形のまま怪物達の集団に突入し突破して分断、突撃の混乱から立ち直れないでいる怪物達を、各個に包囲して撃破してゆく。如何に個の力が侮れない怪物達であっても、一体に対して三名以上で当たられては無残に骸を晒すことになっていた。

 

 

 特に突出していたのは巨人種二人に、勇者クランドの猟獣である雪白。雪白を援護する的確な精霊魔法を放つクランド。

 そして、恐るべき運動量で戦場を駆け巡り。綻びの出そうな場所に即座に駆けつけ、味方を鼓舞しながら援助を続けるヒデトの姿であった。

 

 巨人種二人のそれぞれに違う特色をもった力と技の対比。イルニークである雪白の目で追えぬ魔獣としての凄まじさ。エルフですらそこまでの魔力量は無いだろうと思わせる、クランドの魔法の連続行使。

 

 なにより無尽蔵の体力を思わせ、戦場を駆け巡りながら的確に指示を出し。見た事も無い軽い反りの入った長剣を見事に扱い、怪物達を瞬時に無力化してゆく戦神の如きヒデトの働きは目を見張るモノであった。

 

 「まるで戦場全体を鷹の様に俯瞰して観察しているかの如く、綻びの出そうな所に顕われる?どうやったらあんなことが出来るんでしょうな?」

 

 「マクシーム殿が言う所の『精霊の贈り物』(ドゥフバダラ)・・勇者の『加護』なんだろうよ?いろいろ驚き過ぎて、頭の中がマヒしている感じだ・・まったく・・さりとて、救国の英雄には違いない。私も挨拶をしてくるとしよう?子供の頃から憧れた存在が目の前にいるとゆうのは、得難い機会だからな?」

 

 「・・・副長としてはお供しなければならないでしょうな・・・?」

 

 広場の中央に目を向ける二人。

 

 二人が目を向けたサレハド村の中央では、二人の勇者を中心にして、朱い巨人と金の雌獅子。白銀のイルニークが囲み。更に周囲を護るかのように今回の戦いに参加した者達が宴席を形作っていた。

 勿論、普段は宴に参加などしない月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)達も一緒に酒精を楽しんでいた。

 

 「・・・・あの場所に辿り着くには・・少々、覚悟が必要ですな?」

 

 「だが、進まなければなるまい?なに、人生には覚悟が必要な場面はごまんとある。其れに対した時、勇気と無謀を間違えなければ良いだけだ。」

 

 「・・・私には後者の方がより多く含まれているような気がします・・・」

 

 ため息を吐きながら覚悟を固めるパライスを見ながら、華やかな戦場に向かう歩みを踏み出すビルヘンナだった・・・・。

 

 

 

 

 

 アレルドォリア山脈の頂から、素晴らしい光の輝きがサレハド村を照らしてゆく。その光の暖かさは・・いや、暑さを感じさせる其れは春のものでは無くなっていた。

 

 アレルドォリア山脈に連綿とした生命の活動が始まることを告げているかのようであった。

 

 

 朝の光を浴びたサレハド村。全日から夜をまたいで行われた祝宴会は村全体を覆い、酒精にあてられた村人達や怪物達の掃討に当たった者達。宴席に参加した全ての者達の心地良い眠りを覚ます事は出来なかった。

 

 ほんの数人を除いて・・・・。

 

 「旅立たれるのですか?」

 まだ、涼しさを感じさせる朝の空気と同じ様な声音で語り掛ける女性。

 

 「起きていらっしゃったんですか?何か逃げ出すようで申し訳ないですがね?」

 朝の光を受けて、不可思議な光沢を返す皮鎧の様なモノを装備した男が柔らかな声で返す。

 

 「蔵人さんと袂を分かつのですか?」

 

 「・・・いえ。オーフィア様のお話で、この『世界』(エリプス)における『勇者』の立場の危うさが分かりましたからね。もと『軍人』としては護るべき誓いが在りまして?でも、ハヤト君の査問会には出席致しますよ。アルバウムの王都に向かうには早い方が良いでしょうし」

 

 「・・・・やはり・・・いえ・・憶測で語るのは止めておきましょう。遅かれ早かれ『召喚者』の事はハッキリさせなければならないですからね・・」

 

 「・・・自分で調べて・・それから考えますよ?ドルガン議会のお蔭で身分保障も出来ましたし。蔵人も『ドルガン名誉議員』身分、雪白先生も『猟獣』登録出来ましたから。チョッカイ掛けてくる奴は余程の覚悟が要るでしょう。ヤツとは向かう先がチョット変わっただけです。縁があったら、また出会えるでしょうし」

 

 「・・・そう・・・なら、お祖母ちゃんが口をはさむ事では無いわね・・古い森の言葉だけど『巨木の枝葉は分かれてゆく。しかして辿り着く場所は同じ。いずれ地ににてまみえよう!』」

 

 「いいですね。では・・・『勇敢たれ!さらば戦友!』」

 

 

 エルフの長い一生では、ほんの瞬きするだけの間・・・。しかし、彼等と過ごした時間はオーフィアにとっては輝かしい記憶となって魂の幹に刻み込まれていた。

 

 晩年。月の女神の付き人(マルゥナ・ニュゥム)女官長を後進に譲り、身寄りのない者達を預かる学園の園長になった時。若々しい表情で、歌う様に朗らかに『サレハド戦役』の『勇者』達の活躍を語るのであった・・・。

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