軌道降下兵   作:顔面要塞

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遅くなりました・・・

あれ?なんか枕詞の様になっていますね・・・

これから始まる肉の宴に向けて、日々妄想を・・いや、構想を練っております。

しかしながら今回は、導入部分です・・・決して、構想力が足りなくてお茶を濁している訳では無いです・・・・はいぃぃ・・

後半部分は 秀人の過去をほじくってみようと思いまして。人物設定って大事。

 なにはともあれ、次回も働きます!!


南国

何処までも広がる紺碧の海。北国では考えられない強烈な陽の光と、それによって引き起こされる大気の循環によって様々に変化する気候が、人々の生活を豊かにもし奪う事もある。しかし、温暖な気候と海からもたらされる恵みの豊富さは人々の食を満たし、北国には無い穏やかな性格の人々を生み出していた。

 

今日もまた自分達の生活に恵みをもたらしてくれる海に、畏敬の念と感謝の気持ちを抱きながら、獲物を求めて漁に出る活気溢れる人々の姿があった。

 

「二頭抜けたぁ!」

 

海面から上半身だけを覗かせた海亀系獣人種のハンターが、辺り一面に響き渡る声で警告を伝える。警告を発したハンターの視線の先を、頭だけを水面に出した海狼(ターレマーパ)が、自分達の狩場を荒らす人種の漁師達に憎悪の念を抱きながら突進していく。豊かな恵みをもたらしてくれるアンクワールの海でも、全ての生きとし生ける者に満遍なく均等に与えてくれる程では無かったから。必然の結果として同じモノを求める者達が争うのは仕方のない事だったのである。

 

 

警告の声に、漁に勤しむ者達の動きが若干鈍るが、自分達にも守り育む愛しい者達が居る。その強い思いが肉体を叱咤して、数旬の躊躇いを振りほどいて、さらに早い動きを促す。自分達に迫る危険な存在を脳裏から追い出し、今日一番の漁獲量を約束してくれている網を引き込む事だけに集中する。何時もなら、ハンターの警戒陣を抜けた段階で漁を諦め自衛行動に入らなければならないのだが、そんな素振りは見られなかった。

 

 

漁に勤しむ船団に海狼(ターレマーパ)が迫る。狩場を荒らす憎き乱入者達を、研ぎ澄まされた牙と爪で屠る強い思いが肉体を奮い立たせて、凄まじい跳躍を可能とし海面から躍り出る。眼下に広がる無防備な人の群れに、自然と弑虐の笑みが浮かぶ。しかし、突然胸元に強烈な衝撃と熱さを感じ。笑みを浮かべたまま落下し、海中に没するのだった。

 

「6匹目か……」

 

漁に勤しむ船団の外周に、網も出さずにのんびりと浮かんでいる船の上で仁王立ちした男が。大きな『銃』に弾丸を装填し、海狼の襲撃を冷静に撃退しながら『獲物』の数を呟いていた。

 

「相変わらず凄いよね蔵人?私達を助けてくれた時も、その魔法具を使ったの?」

男が立っている船の後方から、船頭の女性の声が流れてくる。

 

「近接戦闘が苦手。さらには火精や雷精などの戦闘魔法に適正がないからな。どっかの遺跡から出てきたコイツに頼るしか無い。生き残る為に必死に働く。ジュマ達と変わらない・・多分」

小さな甲羅を背負ったように見える、だいぶ露出の多い服を着た海亀系人種の銀髪の女性の質問に、ゆっくりとした口調で答える蔵人。

 

「もう少し船団左手…そうだな…あの辺りまで船を進めてくれ。チャイ達も頑張っているけど、全部を護るには人手が足りない。其処は足でカバーしないとダメだから」

そう言って、船を操るジュマに指示を出す蔵人。

 

 「わかったわ!でも・・・なんで海狼(ターレマーパ)の居場所がわかるの?」

 蔵人の支持に従いながら手慣れた動作で船を操り、疑問を口にするジュマ。子供の頃から警戒し続けて来た海狼(ターレマーパ)達。海を生活の場とする海棲人種達ですら気配を察知することが難しく、幾人もの犠牲者を出してきた魔物。その難敵の襲撃を事も投げに察知して、簡単に撃退して行く北方人。

見た事も聞いた事もない魔法具を操り、警戒陣を突破した海狼を悉く仕留める八つ星ハンター。そのどれもがジュマの常識を覆すものだったのである。

 

「まぁ…其処はハンターとしての商売上の秘密だ。ネタを晒すと仕事に支障を来たしかねない」

 

嘘である。海上に展開した小型ドローンが索敵機器を使用、各機器から送信された情報がヘルメットのホロディスプレイに表示。味方のハンターとの位置関係から脅威度を判定し、最適な迎撃地点が表示されて目標に向けて射撃するだけ。簡単な事のように思えるが、揺れる船上で四、五十mもの離れた動的目標に当てる蔵人の射撃能力は、普通に考えても異常な部類に入っていた。

 

「さて…チャイ達の見つけていない群狼どもがきたな。でも、コッチには丸見え」

海上に浮かんだドローンの音響センサーに掛かった新たな海狼の群れが向かってきていた。別の集団に掛り切りのチャイ達には見つけられていない自信があるのか。はたまた、ただのバカなのか。判断がつかないが受動ソナーが捉えた数は六頭。先手を取られると厄介だから、指向性の強い音響ビームを群れに向けて放つ。

 

ドローン自体は小型の為、最大でも150デシベル程度の中周波までしか放出できない。しかし、水中で今まで感じたことの無い大音量を向けられた海狼にしてみれば、たまったものでは無かった。吹き荒れる大音量の嵐から逃れようと海上に向けて駆け上がって行く。彼等の頭の中を支配しているのは驚愕と危険回避の本能だけだったから、普段なら絶対に行わない、無防備な状態になる飛び出しをやってしまっていた。

 

「待ってたぜ!そんで、ご苦労さん!」

次々に飛び出てくる六頭の海狼に向けて、順繰りに射撃を行う蔵人。水中を駆け上がってきた海狼の運動エネルギーが、重力の影響を受けながら位置エネルギーに変換されゼロになる点に向けて。つまり、空中で静止する場所を狙って打ち込んで行く。先程行った射撃に比べれば予測もでき。かつ、静止しているのだから音速を超える銃弾にとっては全く問題にならなかった。

 

海狼にしてみれば不運以外の何者でも無かった。先週起きた精霊の悪戯によって海は荒れていて、満足な狩もできずに空腹だった事。天候が収まって狩に出れば、猟場を荒らす者共が普段より多かった事。何より、少し牽制すれば引き揚げていた連中が引かなかった事などが重なって、大きな危険を伴う襲撃を決意するしか無かったのである。

 

さらには、蔵人とゆう全く異質な存在がいたことが、海狼達の運命を決定的なモノへと変化させていたのである。より具体的に言えば…意識は強烈な痛みと共に肉体を離れ冥府へと旅立ち。肉体はハンター達の明日への糧に変化するのであった。

 

なんの事もない、普段から大自然で行われている自然淘汰。弱肉強食の食物連鎖の日常であった。もっとも、起きた過程と方法はコノセカイの常識とはかけ離れていたのだが…

 

 

「世話になった!出会ってから今まで、助けられてばかりだな?」

漁の護衛を終えたチャイ達と合流して村に戻り。幾ばくかの謝礼と共に、今回の漁の獲物達のご馳走を一緒になって食べている時に声を掛けられる。

 

「なに…相身互いってね?普段なら休む時間使って捜索の手伝いもしてくれたんだ。御礼を述べるのはこちらの方さ」

ヘルメットに内蔵された高感度カメラで、魚の切り身に寄生虫などがいない事を調理中に確認していたから、安心して料理に手を出す蔵人。秀人から購入した調味料セットを取り出して、味を付け加えながら食欲を満たしてゆく。北方では魚料理など食べられなかったから、久方振りの魚料理は胃も心も満たしてくれていた。

 

「そう言ってもらえると助かるよ。イライダから連絡も入ったのに手伝って貰えるなんて。大丈夫なのかい?」

蔵人が出した調味料に、最初は訝しげにしていたチャイ達だったが。今では様々な種類のドレッシングやポン酢、醤油を、先を争うように使用して舌鼓をうっていた。

 

「協会で受け取った手紙には無事な事と、向こうで断われない仕事の依頼があって急いで合流する事が出来なくなった事が書いてあった。そう急ぐ旅でもないし、南方の珍しい料理もいただけるから問題はないよ」

白身魚の刺身をポン酢で食べながら、やはり薬味が欲しいなぁ?と、考えながらチャイに言葉を返す。

 

龍華國(ロンファ)に向かうのかい?」

 

「旅が好きでね。定職を持って一つ所で生活するのは、所帯を持ってからかな。まだ、相手すらいないけどね」

 

「イライダが居るじゃないか?一定のパートナーを持たない『蜂撃』が、奇妙な男と一緒に旅をしている噂は協会でも話題なっていたけどね?まさか、その男に助けられるなんて思わなかったが」

 

「よせやい…!?そんなんじゃないさ。各国の言葉にチョイとばかり自信があってね。通訳の代わりだよ?確かに魅力的だが…カミさんにするには…そこんトコロ妻帯者の意見を聞きたいねぇ?」

 

「僕かい?う〜ん…妻以外の女性は目に入らなかったから…答えようがないよ。でも、人生の伴侶との出会いなんて千差万別だから。意外とイライダも満更でも無いんじゃないかな?」

 

「そんな事言っちゃってぇ〜…本人を見た事ないから言えるんだ。美人だが、女将軍って感じだぞ?一生尻の下に敷かれるよ」

 

「え?それが幸せな事だと思っているんだが・・・。イロイロ面倒が無くていいよ?女性上位の方が上手く行くし、楽なんじゃないかな。肩ひじ張って『俺は男だ!!』ってのもかっこつけにしか見えないけど?」

 幼馴染みと結婚したチャイにとっては、人生の真理は女性を持ち上げる事が物事の秘訣だと考えていたから。蔵人の考え方が不思議に思えるらしかった。

 

「・・・・人によって考え方は違うから、何とも言えないけど・・人生の先輩としての経験に基づいた意見は参考になるよ。正直、人間関係に自信が無かったから」

 結婚とゆう一大イベントをこなしたチャイの意見は、新鮮な驚きを持って蔵人の脳裏に刻まれたのである。異世界に跳んでくる前の人生でも、様々な立場の人を見て来たが。結婚した友人は持っていなかったから、幸福に降伏しているチャイの態度は、新たな要素を蔵人に植え付けるのだった。

 

「そんな風には見受けられないけどね。対人関係に自信が無ければ、旅など出来ないよ?初対面の僕たちを善意だけから救ってくれて、漁の手伝いまでしてくれた。そんな人が人嫌いなんて、チョット信じられないな」

 自信なさげな蔵人の態度に、肩を竦めて怪訝な表情で言葉を返すチャイ。

 

「何にせよ、あの海域での漁はこれで終わりだよ。ウチの実家もクランドのお蔭で大漁だったから、報酬にも色を付けて貰えそうだ。王都で帰りを待つ妻にもいい土産を買って帰れそうだしね。本当に世話になった」

 食事を済ませ、立ち上がり蔵人の握手を求めるチャイ。

 

「いや、こちらこそ。漂流者を迎えてくれ捜索までして貰って感謝の言葉が無いよ」

 チャイの握手に答えて、御礼を述べる蔵人。

 

「そうゆう所が変わって来たんじゃないのかな?礼には礼を返す。当たり前の様に出来る奴は、そうそういるもんじゃない。きっと、これからの旅に不可欠な個性になる筈だ。自分で言うのもあれだけど、嫁さんを貰った人の言葉は重みがちがうよ?」

 

「貴重な意見として、有り難く頂戴する。そろそろ出発するかな」

 

「王都まで送ってゆくよ。ゆきがてらラッタナ王国について少しばかり教えておきたいし。さっきは得難い個性だ、なんて言ったけど。王都の雰囲気は北方も南方も大して変わらないから、事前に情報を持っておけば対応できると思う。北方人に対してちょっとした偏見があるんだ。まぁ、随分昔に植民地になりかけた事があったからしょうがないと言えば、しょうがないんだけど。でも、クランドは北方人種ではないよね?肌の色はともかくとして、目や髪の色が黒だし」

北方人種との歴史的な軋轢を話して、アンクワールに於ける北方人種に対する人々の思いを伝えるチャイ。どう見ても北方人種に見えない蔵人に、暗に出身地を公に話す事はしないように注意を促していた。

 

「両親すら解らない流民みたいな出自で、住んでいたところも万年雪に覆われているようなアレルドォリア山脈の麓だし。北方の連中からはバカにされていたなぁ。ともかく、そこら辺は船の上で詳しく教えてくれると本当に助かる」

 

チャイの配慮に感謝しながら、村の人々に送られてチャイとともに王都に向かう蔵人だった。

 

 

 

 

 

「陽が昇る前だと言うのに、熱気が感じられるのは港町特有だな」

 

水平線から陽の光が差し込む前。夜と朝の中間を表す濃紺の空を見上げながら、忙しく働く人々の間を縫って。アンクワール諸島に向かう船が繋がれた埠頭に向かう秀人。

 灰色のローブに覆われていて表情は見えないが、僅かに除く口角が上がっており機嫌がいいのが分かる。

 

転移してきてから関わる事になった、蔵人と共に巻き込まれた勇者ハヤトに纏わる諸問題を解決して、召喚者に感謝されるとともに。少なくない謝礼金で懐も暖かくなり、自然と口元が緩くなってしまっていた。

 

 自分達が引き起こした事件とはいえ、若い男の人生を潰してしまった事に若干の罪悪感を覚えていたが。久しぶりに出会ったハヤトが、別な意味での性を・・・もとい・・生を謳歌しつつあることで最初の罪悪感は消えていた。もっとも、中性的な妙な色香に戸惑いを覚えて胸が高鳴る事が、新たなしこりとして残っていた。

 

 

「胸が痛くなるなんて・・・フォールダウン作戦での陣地防衛戦以来だ・・・まぁ、あの時は死を覚悟しただけだから、ちょっと意味合いが違うか?」

 そう感じながら。昇る朝日が造る影に身を潜め、過去に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

銀河中央星系におけるコリャ共和国連邦との共同戦線、いわゆるコリャ戦役に於いて。星間協商連盟の一員として星間貿易における不均衡解消の為に、M543星系における地球環境型惑星「ヨームⅢ」への上陸作戦。

 

 経済とゆう摩訶不思議な錬金術の為に、自らの忠勇を試される事になる地球連邦軍。星間協商連盟への加入が遅かったために、代わりのカードとしてノリア帝国同盟との最前線に供される、哀れな生贄。

 

 などと世間一般ではまことしやかに囀られていたが。

 

 実際には、交渉相手であるノリア帝国同盟側の不明瞭な交渉と(ノリア側の)全体としての纏まりの無さが、妥結寸前までいっていた条約を破棄せざる得なかったのだった。

 星間協商連盟側としては、貿易の不均衡を持ち前の交渉能力と、相手に与える利益などから判断して剣を出さずとも乗り切ってきたのだったのだが。前述の様に、相手側の、しかも同盟内部の不満分子同士のいがみ合いの混乱が原因では、如何する事も出来なかったのであった。

 

 さらに、加入が遅かったとは言え、地球連邦は連盟では数少ない軍備力を誇り。数多の宙域に於いて多くの武勲を挙げている事が、連盟側の軍事介入の決断の背景にあったのが本当の所だった。

対して地球連邦側も、連盟内での円滑な貿易交渉の為には、ある程度の地位を築かなければなかったから。連盟内での申し出を了承したのである。派兵戦力の総数の半分が帰ってこなくても、其れを遥かに上回る利益が出る事が、連邦中枢でのシュミレーションから導き出されては、手を出したくなるのも頷ける話ではあった。

 

こうして連盟内での地位を築きたい者達や、今まで目立った功績を出せていない星間国家が兵力を抽出して。連盟派遣軍が結成されたのであった。(正直なところ、新参の地球連邦が武勲を挙げ、連盟内での地位を確固たるモノにする事に反発する勢力や。この機会に貿易交渉で有利な立場を手に入れる為に参戦するものなどなど…派手で大きな戦力の割には、纏まりに於いて疑問符がつく事になっていた)

 

政治屋や経済屋が様々な思惑で旨味をすくい取ろうと画策し、魑魅魍魎のようなやり取りをして結成された派遣軍。誰も彼もが『自分達だけは成功しよう』と考えていたが。派遣される兵隊達にとってはハタ迷惑な事柄だったし、貧乏くじ以外の何者でもなかったのである。

 

 

『定時連絡・・・第11大隊。第三中隊、現在定数122名・・食料・弾薬共に補給を要す。繰り返す・・・』

 

 焼け落ちた樹木や、砲撃によって穴だらけにされた小高い丘に作られた塹壕の中で定時連絡を行う、古の戦装束を思わせる装甲服を身に纏った男。

 

 鎧兜に覆われた表情は判別する事が難しかったが、定時連絡の内容を考える限り、壮健な状態とは思えなかった。

 

 小高い丘に作られた野戦指揮所の中から、いつ来るか分からない援軍を待ち。文明が造りだしたモノによって破壊しつくされた荒野を眺めながら。緑豊かっだったこの星の事を考えるのであった。

 

 

 地球環境型惑星『ヨームⅢ』 豊かな生態系に恵まれ、今までに発見されていない生物や植物が多様に生存し、初めて此処に入植した者達に莫大な知識と富をもたらした美しい惑星(ホシ)

 様々な文明が、自分たちの利益の為に欲しいままに簒奪した悲劇の惑星(ホシ) 何人にも侵されず、豊かな恵みを享受してきたこの星の生物たちにとっては、青天の霹靂以外の何ものでもなかったのであった。

 

先程の敵軍の砲撃によって、巻き添えを食らって吹き飛んだ猪に似た原住生物の亡骸を見ながら、暗澹たる気分に落ち込む。深く昏い眼窩を覗き込むと、『お前も、いずれこうなる!』と訴えているようであった。

 

 『指揮官は常にみられている』と、士官学校で耳にタコが出来るほどに叩き込まれてきたが。装甲服のヘルメットに隠された表情など誰に見られるのだろうか?

 

 いや、自らが創り出す雰囲気を部下は敏感に感じ取ることは分かっていたから、愚痴に近い思いなのだと理解していた。この先の中隊の未来は、決して明るいモノでない事になると。気分とは裏腹なソコソコ優秀な脳が判断する事に、嫌な思いを抱くのであった。

 

 ええ、分かっていますよ教官殿・・指揮官は相談はするが、決断を委ねてはいけない・・でもね、独りでいる時は毒づくぐらい赦してもらえんでしょうか?

 

 通信手に合図を送り、通信を終えながら演習場での教官の言葉を思い出しながら。ため息をつきたくなるのだった。

 

 

 

『軍曹?定時連絡なんて意味あるんすかね?』

 

 『しょうがないだろ?いくら出力の限定された通信装置でも、何もやらないよりはマシさ?ここに中隊が存在している事が重要なんだよ。でもな、俺もミンの考え方に賛成だぜ?まぁバジット中尉殿には別の考えがあるんだろうさ?』

 

塹壕の中に蠢く男達が、装甲服に内蔵された通信機器で連絡を取り合い。諦めた様に呟く。

 

『送り出される時は勇壮で派手なもんでしたけど。今は悲壮感たっぷりで、ショボい戦になってますよね?』

 

 連盟派遣軍が結成された段階から二ヶ月間。共に訓練に励み、今の今まで一緒に行動してきたミン・ホンシン上等兵が。ため息と共に、絞り出すように考えを口に出す。

 

『そりゃ仕方がないさ?航宙支援に入る筈だった連盟艦隊が、軌道防御線で敗退して撤退しちまったんだからな。もう少し踏ん張ってくれれば、撤退用の地球軍艦隊が間に合うはずっだんだが・・中途半端な惑星上陸。揚陸物資の大半が艦隊に残ったままで、揚陸兵力の四割は艦隊と共に撤退。先行投入された俺達は遊撃戦を展開するはずだったのが、何故か穴倉に篭って防御線の構築ときたもんだ?答えになったか?』

 

 自嘲気味な声音で、ミン上等兵の呟きに返すタカハシ・ヒデト軍曹。本来ならば迅速に軌道降下した後に、重要拠点に対する強襲戦に入り。後続する占領部隊に拠点を受け渡す部隊なのだが。

 後続の部隊が艦隊と共に撤退しては、奪った拠点を基点にして防御線を展開して。軌道上に艦隊が来援するまで踏ん張り続けるしかなかった。

 

 先程行われた秘匿通信も。部隊が健在である事を示し続けて、来援を促す意味合いが強かった。

 

『どうなっちまうんですかね、俺達?』

 

『希望的に考えれば、連盟首脳部が突然ヤル気を出し。連盟艦隊の半数で帝国同盟を駆逐。はれて『ヨームⅢ』は連盟の管轄下に入り、同盟との重要な交渉材料になり。俺達は連邦議会殊勲賞を貰って、長期休暇や名誉除隊になり英雄として半生を送る事になる』

 

『絶望的な方は、どうなるんですか?』

 

『燃料・食料・弾薬が尽きるまで戦い。敵軍に大打撃を与え、伝説の部隊として語り継がれる・・そんでもって、あの世とやらで勲章を貰う事になる・・・言わせんな・・恥ずかしい・・』

 

『ですよねー・・・はぁ~・・彼女の言葉に従って軌道開発公社に入社するべきだったかなぁ・・』

 

『なんだ?けっこう大手で優秀な会社じゃないか?なんで航宙艦隊の、しかも軌道降下兵なんて志願したんだ?たしか・・あそこの会社は血統も重視しているから・・お前、なんぞ親族でもいるんか?』

 

『付き合っている彼女の父親が専務でして。『男なら、一度は戦場の匂いを嗅ぐものだ』とか言われて。婚約の条件になってまして・・彼女は大反対したんですが、婿になるなら矜持は示さないと考えたんです・・』

 

『はぁ~?今時、そんな考えの人間っているんだな?それで、こんなイジケタ所で塹壕に篭り、男同士身を寄せ合っているなんてな・・あほくさ?』

 

『そう言わないで下さいよ?軍曹に付き合ってれば、死なない事が分かっただけでも収穫です。降下戦からこっち、ウチの小隊は全員無事ですからね』

 

『そんなもん、なんの加護にもなりゃしないよ?だいたいだな・・・『敵弾襲来!』』

 

 会話の途中で、占拠した施設の通信塔で警戒している第二小隊から、隊内通信で警告が発せられる。

 

 対砲撃レーダーが感知した情報が、ナノケーブルによる有線隊内リンクで中隊全員のヘルメットディスプレイ上に表示される。先程の砲撃よりも三倍増しの砲弾の数だった。

 

『連中、今回でケリをつける気ですかね?』

 

 塹壕の上に作られた天蓋を見つめながら、ミン上等兵が秀人に語り掛ける。

 

『さあな?どっちにしろ敵味方問わず死体の数が増える事は確実だな?まぁ、その中に入るつもりはないが』

 

 砲撃が創り出す大音量(装甲服の聴音機器が大音量を自動的にカットして、気圧の変化の表示で音の大きさを表示していた)や振動にも動ぜずに。迎撃の為の重機関銃を点検している秀人。

 

『敵軍襲来!!軽装歩兵、おおよそ二個大隊規模!射撃準備!』

 

 砲撃でも吹き飛ばされなかった地下にある有線ケーブルから、中隊長の命令を受けた先任曹長の濁声が流れて来ていた。

 強奪した拠点の地下構造を利用して構築された陣地帯は、先ほどの砲撃に耐え。中隊の人員の損害は無かった。

 

『さぁ、何をしているミン!!遊んでいる暇なんてないぞ。奴等、勝った気でいやがる・・』

 

『ならば、教育してやりましょう軍曹!!軌道降下兵此処に在りです!!』

 

『いいぞ、いいぞ。未だ士気軒高なりだ!!さぁ、戦争だ!』

 

 凄まじい砲撃によって耕された地面から、地虫の様に這い出て配置に着く降下兵達。一つひとつ動きを重ねるたびに機敏な動きを取り戻し。持ち場に付く頃には精悍な雰囲気を纏う。

 

 その配置を待っていたかのように、中隊の所属する第11大隊の立体映像大隊旗が指揮所に翻る。中央に描かれた惑星に、稲妻を握り込んだ拳が突き立つ勇壮な絵柄が描かれている。

 

『第三中隊。射撃開始!!』

 

 先任曹長の命令一下。拠点を目指して進撃してくる哀れな歩兵たちに向けて、容赦のない火箭が突き立ってゆく。まるで、活火山の噴火の様に野戦築城された陣地から砲火が上がる。

 

 悲鳴をあげる事すら適わず『ヨームⅢ』大地に斃れる者達。そして、倒れ伏した肉体すら数旬の内に迫撃砲弾で吹き飛ばされ、腐れ融けて大地の養分になり果てる。

 

 コリャ戦役の一大転換点となる『246高地争奪戦』 幾重にも連なる地獄めぐりの出発地点となる戦いの始まりであった。

 

 


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