ちょっとやり過ぎました・・申し訳ないです。
これから、とても難しい物語の世界に突入です・・・やりがいはあるのだけれど、本当に厳しい展開が待ってそうです。
振り返ってみれば、結構書き連ねてきました。砂漠の世界まで長すぎる・・
本編の用務員さんもウェブ版は更新止まってるんで。其処まで行けたら幸いだなぁ
夜の空に美しく瞬く星々が、水平線から昇ろうとする太陽に退場を促され始め。深い黒の空が、美しく鮮やかな青色に染まってゆく。
しかし、眠る事のないこの都市港湾都市ミゼラでは、吟遊詩人が唄うような情景に心を奪われているものは数える程しかいなかった。各国から入国する交易船への案内や、それらの積荷の通関と検査。着岸した船からの積荷の入れ替えや食料の積み込み。長い航海から解放された船員達の弾んだダミ声。
降りてくる旅人や船員に声をかける酒場の酌婦や宿屋の小僧。景気良く声を張り上げる土産物屋と屋台の店主。それらの声を受けて、冷やかしや酌婦に手を出そうとする者達の掛け合いの声。沖合に繰り出そうとする釣り船に乗り込む趣味人達の釣果を争う話し声。
一日の中のほんのひと時ですら、声が絶える事のない場所であった。あるいは『眠らない女』と渾名されたミゼラの魂が、その名を頂く都市に流れているのかもしれなかった。
「異世界に来ても、貿易都市の活気は変わらんか…まさかミン達とのやり取りで口走った事が実際に起こるとはなぁ…実は、あの戦闘でフラグでも立てたんじゃなかろうか…イヤイヤ、ここんところ妙な事が立て続けに起きてるから疲れてるのかも…」
喧騒で溢れかえる街並みの角で立ち止まった男。深く被ったフードの下から独り言が漏れ出していた。
いかん。異世界に来てからシッカリとした休みを取っていない事が原因なのか?さっきも過去を振り返って、気を緩めてしまった。こんな開けた射界に突っ立っているなんて、元いた世界ではあり得んかった。イヤ、そもそもそこまで警戒しなければならんのか?確かに妙ちくりんな連中に絡まれる事は多いが、それだって元ネタは蔵人の所為だし。今回の出張だって蔵人が原因…まぁ実際はアイツが転移して来る所まで遡る事だし、彼奴の所為ではないか?ダメだ駄目だ!アンクワールに旅立つのはもう少し間を空けるか?アイツもイキナリ冥府の門をくぐる事は無いだろうし…イヤ、キャンセルしても料金は戻ってこないから…
「ちょっと!何すんのさ⁉︎」
「姐ちゃん…持っているもの出してみようか?さっき俺達から擦ったモノがあるはずだ」
「いくら長い船旅でも、そこまで鈍くなっちゃいねぇよ?」
「だいたい、アンタは本職だしねー」
「うるせい!今じゃ立派なハンターだ!」
秀人がブツブツと妙な雰囲気を醸し出しながら街角に突っ立っていると。屋台が並んでいる通りで男女の諍いの声が響いて来ていた。その声に秀人の身体が反応して、急速に現実への対応を脳に促す。
深く被ったフードから様子を伺うと。一人の十代初めに見える猫系獣人種の女性に、ハンターらしき装備を纏った男女のパーティーが詰め寄っていた。どうやら先程聞こえてきた遣り取りから察するに、擦った擦らないでの押し問答の様だった。周りで忙しく働いている者達は関わり合いを避けるべく、無関心を装いながら絶妙に距離を離しつつあった。
様々な出来事が溢れている港湾都市では珍しい事ではなく、軽犯罪に類する行為は日常茶飯事であり。港湾都市を管轄とする治安組織も形ばかりの受理で、真剣に捜査をしてはいなかった。何も犯罪を軽視しているのでは無く。より重大な密輸や麻薬取引、人身売買や、商人を装った海賊達の捜査に人手を取られていたのが実際のところではあった。それにこの手の犯罪は立証する事が難しく、基本的には現行犯での逮捕でしか対応が出来なかった。
普段なら秀人も距離を取りながら関わり合いを避けるのだが。アンクワール諸島に向かう船の埠頭へ行くにはこの道しかなく、出航の時間も差し迫っていた為。警戒しつつ足早に通り過ぎて行こうとしたのだが…
「なんだい?なんだい⁉︎お天道様も上がりきらない時からイイ大人が女の子を囲って!恥ずかしくないのかい?」
妙に透き通る声が通りに響き渡る。時間が押していなければ、事の顛末を見届けたくなる程の魅力的なものだった。
「ミゼラ姐さん!」
「フェルナ。何があったんだい?え?財布が落ちていたから官憲に届けようとしたのかい?ハンターの皆さん。何某かの誤解が双方にあった 様だよ、この財布で良いかい?この子も謝ると言ってるんだ、この程度にしちゃくれないかい?」
「オイオイ…ソイツはちぃっとばかりムシが良すぎでないか?」
「なんだい?藪から棒に!この子が拾った財布を渡す。アンタらは感謝する。他に何かあんのかい?それともこの子が擦ったとでも言うのかい?証拠もなく?ソイツはいただけないねぇ?」
「なんだと?いきなり出て来て何様だ!すっこんでろ!」
威勢の良い遣り取りが暴力沙汰に発展しそうな雰囲気を醸し出し。ハンター達の中の熊系獣人種一人が、ミゼラを突き飛ばそうと勢い良く腕を突き出す。しかし、その腕をミゼラは上手く躱し身を引く。勢い良く押し出した腕は、ミゼラの横を通り過ぎようとしたフードを深く被った男を捉えていた。
思いのほか強く突き出された腕が捉えたのは目標とした相手ではなく、目立たない土気色のフードを深く被った男だった。獣人種の中でも剛力がある熊系獣人種の突き押しをマトモに喰らった男は、新鮮な果物や野菜を販売する露天商まで突き出され。派手な音と共に、綺麗に積まれた商品を巻き込みながら倒れるのであった。
「何しやがるんだ!大事な商品が滅茶苦茶だ!」
自分の商売とは関係の無い争いに巻き込まれて、生活の糧を無残に破壊された露天商ががなり声を挙げる。
「ち、違う⁉︎俺は…」
自分が予想した展開からかけ離れた事態に、弁明を試みる熊系獣人種の男。小煩い北方人種の女を、軽く小突いて黙らせようと手加減した突き押しで。思いの外吹っ飛んで行く見知らぬ男に怪訝な思いを抱く。まさか、あそこまで行く訳が無い!と。
「なんだと?お前がこの男を突き飛ばしてウチの商品を駄目にしたんだろうが!お代を頂こうか!」
熊系獣人種の言い訳など聞きたくも無い!と、ばかりに代金の催促に疾る露天商。先程までのスリの話どころではなく、露天商が怒り心頭で熊系獣人種に詰め寄ってゆく。
しかし、そんな事態に水を指すように。奇妙な形の果実を潰した男の辺りから、凄まじい臭気が漂い始め辺り一帯を覆い尽くし始めていた。
「リット…お前さんの処の商品で、ダリアン扱ってるのか?滅茶苦茶臭いぞ⁉︎」
自分の鼻を摘み、臭気を吸い込まないように惨劇の現場を覗き込んだ隣の露天商が。恐ろしくも苦々しい表情で奇妙な形の果実を指し示す。
アンクワール諸島原産。ダリアン。
西瓜の表面に不規則な突起が生えた外見を持ち。採集して二週間程度置いて、熟した果実を食用にする。奇妙な見てくれに反して、果肉は驚くほど甘い。しかし、果肉に塩を適度に振りかけ無いと凄まじい臭気が立ち込め食用どころでは無くなり。周囲一帯で呼吸できなくなる程の、恐ろしい果物だった。
「うぉ…不味い!まさかダリアンが潰れたのか…うぇ…凄まじい臭さ!」
「やだ⁉︎商売どころじゃ無いわ!早く塩を持ってこないと!臭いが服に着いちゃう!」
「バド!お前さんの処に塩があったな?早く持ってきてくれ!それと水魔法が得意な連中は来てくれ!洗い流さないと大変だぞ!」
先程の諍いに対する無関心さから一転。それぞれの店主や従業員、通行人までが慌てながら次々にニオイの元を断とうと動き始める。
幸いにも通りの近くを流れる海水運河があり。水精魔法が得意な連中が、海水を哀れな男と露店に流し掛け。最臭兵器の発動を阻止することができたのだった。
「やれやれ…お前さんも災難だったなぁ?」
「本当に。ダリアンの臭いは強烈だからね!でも、海水で洗い流しておいたから其のローブまだ着れるよ」
「念のために塩水に浸け置きした方が良い。少しでも果肉が残っていると、後が悲惨だよ」
「あのハンター達、逃げて行っちまったね。後でハンター協会に苦情を入れとかないと…」
ダリアンの恐ろしい臭気を防いだ安心から、気の毒な犠牲者に同情の声をかける露天商達。伝説の勇者達に発破を掛ける、威勢のいい姐さんだったミゼラと同じで。気風の良さと、見ず知らずの他人に対する温情深さが、港湾都市ミゼラの人間の特徴であった。
「ありがとうございます…いや、酷い目にあった…」
ダリアンに埋没した身体を、周囲の人に助け起こされながら。身に纏ったローブを外す秀人。
「すまなかったね…巻き込んじまって。でもさ、あんなヘナチョコに突き飛ばされるアンタも大概だよ?」
美しい顔立ちに憐憫の情を浮かべたのは一瞬。即座にだらし無い男を奮起させる声音を掛けるミゼラ。
「おいおい?ミゼラの処のフェルナも原因の一端じゃなかったか?」
「無駄無駄。ミゼラに言ったところで変わりゃしねぇよ?相変わらずの男勝りで…」
「なんだって⁉︎もういっぺん言ってみなバド?そこまで言われちゃ、アンタがガキの頃にアタシに告白した事を…」
「ああっ!わかった、分かったよ…勘弁してくれ…」
美しい顔立ちと、均整の取れた身体。さらに持ち前の気風の良さと情の深い事も相まって、人気のあるミゼラ。さっきまでの喧騒が嘘のように穏やかで陽気な雰囲気が辺りを包む。
「それじゃ、私は急ぎますので…それと、此れは果物のお代です。イヤ、私もハンターでして…女性でも避けられる突き押しを食らったと噂されると…口止めも兼ねていますから、どうかお願い致します」
ミゼラと周りの人間達の遣り取りの合間に。ダリアンを扱っていた露天商と遣り取りをし、足早に埠頭に向かおうとする秀人。
「…待ちなよ、兄さん?アンタにも落ち度があるように、アタシにも不始末があった。急いでいるところに悪いけど、一応は落とし前をつけないとアタシの気持ちが収まらなくてね?アタシの店に来てくれないか?この先でチョイとした宿屋を営んでいてね。其の服の始末もある。え?アンクワールに向かう船が出てしまう?」
急ぎ埠頭に向かおうとした秀人の肩に手を掛けて、義理を通そうとするミゼラ。しかし今朝の便を逃せば、明日の夕刻まで発つ船が無く。先払いした船賃も戻らない為に、ミゼラの誘いを固辞する秀人。
「大丈夫だよ、兄さん!さっき、船便告知板が更新されて。アンクワール諸島行きの船便は、明日に延期になったよ。なんでも、精霊が安定してないらしい」
事の騒動の発端である獣人種の少女フェルナが、ミゼラの後ろから半身だけ覗かせて秀人に告げていた。
「それじゃ、問題はないね!さぁ、良い年したでかい図体の男がマゴマゴしてるんじゃないよ?フェルナ!店に先に帰って準備しときな!身体を洗ってもらわなきゃならないからね!」
二人の迫力に押されてまごつく秀人に畳み掛けるように、次々と決めてゆくミゼラ。汚れたローブをひったくるように持ち、秀人の肩を遠慮なく叩きながら、フェルナが向かう通りの奥を指し示す。
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。ミゼラさんでしたっけ?宜しくお願い致します」
出航しないのなら急ぐ必要もない。着用している戦闘服は水で洗い流せば問題は無いが、ローブはそうはいかない。仕方なくミゼラに付き従う秀人だった。
「へぇ〜、アンクワールに居る友人に会いにゆくのかい?そいつは長旅だね。つい先だっても精霊の悪戯で、他の国に向かう航路が閉鎖されていたからね。え?友人は其の船に乗っていて、運良くアンクワールに流れ着いて連絡をよこしてきたのかい?そいつは運がいいねぇ」
港湾都市の宿屋らしく、威勢の良い掛け声と騒がしい話し声が飛び交い。なんとも言えない熱気を含んだ空気が漂う、食堂を兼ねた酒場。
これから新しい世界に旅立とうとする旧冒険者三種の者達や、交易の情報を交換する仲の良い商人。航海から帰ってきた船員達の酔いどれたダミ声と、そんな連中を諌めながら気候や海流、海賊などの話で盛り上がる船長達。
店の外の通りでお客を呼び込む威勢の良い掛け声と、可愛らしく働く若い女給の弾んだ注文の遣り取り。女給の可愛らしい仕草を冷やかしたり、口説いたりする常連客の酔狂な会話。吟遊詩人が謡う英雄とミゼラの悲恋の物語。情緒に溢れた遣り取りを耳に流し込みながら、ミゼラと世間話に興ずる秀人。
店の中央にある大きなカウンターで、店主であるミゼラと話し込む深いフードを被った男は、ミゼラを気にしている少なくない男女の目にとまっていた。
「こちらの野暮用も済んだので、アンクワール諸島のラッタナ王国の王都ラチャムサットで合流し。当初の予定である
「そうかい…何か旅に役立つ話でもあれば良いんだけど…」
「いえ、こんな素敵な宿に連れてきていただいてローブまで洗ってくれたのですからそれで十分です」
「お世辞でも嬉しいね。そうだ!ラッタナ王国からの留学生が逗留しているんだ。向こうの話を聞いてみちゃどうだい?今は小遣い稼ぎで、厨房に入ってもらっているんだけど…時給10ロドで話を聞けるよ?そうかい!テルダ母さん!ファンフを呼んでくれないか?そうだ…向こうの話をを聞きたいってお客がいてね…頼むよ!」
さまざまな種類の酒瓶が並ぶカウンターの壁に、奥の厨房に通じる出入り口が三つ開いていて、そこから奥に向かって厨房に声をかけるミゼラ。
「先ほども思いましたが、女性ばかりですね?」
「私の婆さんの代から女ばかりだから、不思議に思わないけど…考えていることは分かるよ?確かに酔客に絡まれる事はあるけれど、酷い客はウチには来ないねぇ。ウチの女達、元は冒険者三種だった人がほとんどさ?怪我や何やらで引退して、それでも働かなきゃならないからねぇ。酔客のあしらいは心得ているさ。勿論、自分の魅力の使い方もね…」
通りであった時とは服装が変わり、大きく胸元と背中が開いた魅力的なドレスに着替えていた。もっとも、港町にあった動きやすい簡易なモノだったが。彼女の北方種らしい豪奢な金髪と白い肌が相乗効果を発揮して、なんとも艶っぽい雰囲気を醸し出していた。
「あんまりソッチの方は興味が無いのかい?」
艶のある声で軽くシナを作り、誘惑するような流し目を秀人に送るが。深く被ったフードからは、何の反応も返ってこなかった。
「あ〜あ…其れなりに男を誘う業には自信が在るんだけど…駄目だね?」
「美しく、艶がある魅力的な女性って事は分かります…けれども、自分が愛情の対象になっていない事が分かってるんで。反応は返せませんねぇ」
「あっ…ヤッパリぃ〜?」
「それにこの国の女王に近づくには、この場所では無理そうですしねぇ?」
ミゼラにしては珍しく、何となくこの男が気になっていた。自らも母から店を継ぐ前までは、ダンジョンに潜る探索者だったから。あの騒動での秀人の動きに微かな違和感を感じて、興味が湧いたのだった。探索者五級で引退しなければならなかった自分の勘が、見た目と違ったナニかを秀人に見出していた。
それが、何なのか答えを得ようと話し込んでいたのだった。しかし、周りから見ればフードを被った怪しい男と、楽しげに話すミゼラの姿は十分に嫉妬の対象になっていたし。普段なら魅力的な(例え接客の為とはいえ)笑顔が、自分に向けられない事は不愉快な事実として積み重なっていた。
「ふ〜ん…時間切れかな?ファンフ!忙しいところ悪いね?この人がラッタナについて聞きたいってさ?ヨロシク!それじゃ、また後でね?ヒデト!」
厨房から均整の取れた、未だ可愛らしさが優る赤毛の鳥系人種の少女が、ミゼラの後ろに来ていた。
「ラッタナ王国からの留学生で、ファンフと申します。宜しくお願い致します」
カウンターを挟んで目礼でお互いに挨拶する秀人とファンフ。
「こちらこそ。忙しい中、時間を割いてくれてありがたい。勿論、先ほどの条件で対価を払うよ?さらに有益な情報があれば、其方もそれ相応の対応はさせてもらう」
「結構です。では、最初に北方との文化の違いについて。それに伴うトラブルの回避の仕方などから…」
生真面目な態度と、年齢層の可愛らしさを含みながら秀人の提案に応じるファンフ。他人から見て自分がどの程度の存在に見えるか、ある程度心得ている様子で。アクセントとして挟む笑顔の使い方は、ミゼラに教わったのかもしれなかった。
「…などとなっています。先程お尋ねになった事柄については、現地のハンター協会の資料室の方が文献も多く参考になるでしょう。でも…ここまで私の国の文化や習慣に興味を持つ方は初めてですね」
「根が小心でね?知識や経験で避けられるトラブルは少ない方が良いだろう?長く時間を拝借した。こちらが対価だ」
丁度、店の中央の壁に掛けられたドワーフ謹製の刻時機が、話を聞き始めて三時間経ったことを告げていた。
「…え?こんなに頂けません。私が提供した情報に見合った報酬にしては多過ぎます」
「なに。対価のボーナスは顧客の満足度に比例するのさ?丁寧な受け答え、誠にもってありがとう。宿屋担当の者を呼んでくれないか?明日の出発に向けて心地よい睡眠が欲しいのでね?」
「わかりました!ありがとうございます!」
秀人に正真の笑顔を向けて、足取りも軽く係りの者を呼びに行くファンフ。思った以上の収入と、自分の故国が在る南方に対して敬意を持った秀人の話し方に嬉しさを感じていた。
過去。ラッタナ王国を含む南方諸地域が、北方諸国に侵略され植民地に近い状態にされた事が、先祖代々語り継がれ。今を生きるファンフにしても、複雑な心境を持っているのだが。
留学先の宿舎に選んだ、ミゼラが経営する『眠らずの戦乙女亭』の人々は。主人であるミゼラをはじめ、みな優しい人達ばかりであったから、心の奥底に溜まった言いしれぬ澱の様なモノが流し出されていた。
そんな事もあって、生来の快活さと無邪気な可愛らしさが相まって、『眠らずの戦乙女亭』で働く女給の中ではかなりの人気を集めていた。
港湾都市ミゼラに於いて、かなりの人気を集めるミゼラを筆頭として、様々な魅力を持った女性達が働く『眠らずの戦乙女亭』。
其処の女王であるミゼラと、そこそこの人気を集める鳥人種の少女を独占した秀人には、何とも生臭い臭気を含んだ視線が集中するのだが。嫉妬と憎しみの視線など一向に気にしない態度で、供された海産物を中心とした料理に舌鼓を打つ秀人。
それがまた、新たな火種を生むのだが。必要な情報を手に入れた秀人の思考は、アンクワール諸島で面倒を起こしているかもしれない蔵人の事に向けられているのだった。
さてさて・・・イライダとも連絡が取れたし。雪白先生と一緒にクメジア共和国に流れ着いていたとは・・・保護者の立場の雪白先生は、さぞや心配だろう。先発して旅立ったようだが、一睡もせずに跳んでゆくんだろうな。
まぁ、コッチはそこまで速度の出る乗り物は無いしな。『商店』で購入できるサイズでは、丁度良い乗り物が存在していない。いや、ある事はあるのだが。この前のアップデートで購入出来なくなっていた。カスタマーセンターの天使ちゃんに問い合わせたら『転移した世界との協約で、購入が制限されています。現在、当社代表が交渉中です。続報をお持ちください』との事。
移動用に高機動装甲車なんぞあれば便利だが、悪目立ちしすぎる。今んところは間に合っているし、カスタマーサポートの話しぶりからすると今後のアップデートで改善されそうだしな?
何かの縁で跳ばされた世界だ、なるべく馴染む様に生きていくしかない。それに、こんな一人旅も悪くは無い。幸い懐は温かいし、仕事も腐るほどある。国や組織の思惑が絡む強制依頼が面倒だが・・階級にこだわりも無いしな。協会を通さない『仕事』も多い。そう言えば、ドルガンの領事館にも顔を出せとグアディが言っていたな?
明日の出港は午後だから、出向いてみるか?アイツけっこう偉くなったんだよなぁ・・カミさんと上手く行っているんだろうか?まぁいい・・今日はゆっくりと休もう。
ファンフと入れ替わりに対応に出て来た、三十代のふくよかな女性に部屋への案内を頼み。二階の宿泊施設に向かう秀人だった。