軌道降下兵   作:顔面要塞

34 / 42
やっと書き込みました。序章が長すぎる・・・

これからタンマイの奴隷を散々可愛がってやる鬼畜ライフが始まりますよぅ。

いや・・・・冗談です。

でもね、異世界で奴隷が手に入ったら皆さんどうしますか?

俺だったら・・ああして、こうして・・ああ!そんなことまで!
 
なんて事になりませんか?

本編とは限りなく関係ないですけど・・・原作の蔵人さん?チョット聖人君子杉やしまいませんか?

次作に向けて、働きます。


王都

北方諸国では考えられないほどの年間雨量が創り出した、大小様々な河川が縦横無尽に広がるラッタナ王国。国土全域に流れる河川によって、内陸部より運ばれた栄養豊富な土砂が堆積して形成されたラッタナ三角州(デルタ)

 

 河口汽水域における塩性湿地帯に広がる泥性湿地地域に、根が地表面に生え出しタコの蝕腕様に密生した植物類が群生する肥沃な干潟が広がっていた。精霊魔法が一般に浸透する以前では、泥濘湿地帯と密生する海漂林に阻まれてヒトの生息域としては考えられなかったが。今では土性魔法を中心とした土木技術が発展して様々な集落が築かれ、肥沃な干潟が稲の長粒種の一大農地として確立されて、ラッタナ王国に大きな実りを与えていた。

 

 土精魔法を活用した土木建築で開発された河口域周辺に広がる、マングローブにも似た群生植物群と。常に凪のような穏やかな水面を行き交う大小様々な船が、実りの豊かさを象徴するかのように収穫された稲を満載していた。

 多くの船が三角州の上流域に位置する王都ラチャムサットに船首を向けていた。

 

 「どうだいクランド?結構な眺めだろ。我がラッタナ王国にようこそ!」

 ヤーラカンチャナから船を操るチャイが自慢げに両手を広げ、広大な三角州と水墨画の様な静かな景色に心奪われている蔵人に、満面の笑みで語りかけていた。 

 

「…ああ、何とも言えないが魅力的な光景であることは間違いがない…」

チャイに語りかけられ、ほんの一瞬だけ気の無い返事を返す。絵画の趣味があり、様々な絵を描きたかったのだが。地球世界では生活の為に時間を取られ、物事に感動する暇すらなかったから。目の前の壮大で静かな景色に心を奪われていた。

 

「…そうか。もうすぐで王都に入る。あそこに見える巨大な水門を抜けたら、すぐに王都の港だ。それまで景色を楽しんだら良い」

先程まで水面に生理的な魚の餌を盛大に振りまいていた状態も忘れて、呆けた様に沈黙する蔵人を見ながら話しかけるチャイ。しかし、返答は無く。取り憑かれた様に景色を観察し、何かの雑記帳の様な物に描き込む蔵人の姿だけがあったのだった。

 

 

 

「着いたぞ!王都ラチャムサットにようこそ!」

大きな水門を潜り抜けると、大きな港の中に様々な船が桟橋に停泊している光景が広がっていた。

 

「上陸したら、あそこに見える入国管理所に行ってハンタータグを見せて、身分と入国の目的を話すんだ。まぁ、ハンターなら何処の国でも歓迎してくれるから、詳しく聞かれる事もないけどね。でも、さっき話した通りに賄賂を渡しておくんだ。最初は10ロドで十分だ。次回からは2ロドで良い。あまり多すぎても集られるし、少な過ぎてもチョッカイを掛けられる。六つ星以上になれば、逆に歓迎される。少なくともアンクワール諸島国家では中位から高位のハンターが少なくてね。よっぽど欲しい珍しい素材でもあれば滞在してくれるんだが…何せ物価が違うから、報酬も少額になりがちで旨味が少ない。だから魔獣被害を抑えてくれるハンターが必要で、旨く滞在してくれれば国全体の利益になる。ハンター協会とラッタナ王国の関係も悪くはないしね。それと今回は此処でお別れだ。なに、会いたくなったらハンター協会で連絡を入れてくれれば良い。チョットカミさんが北方人種が苦手でね?本当は家で歓待したいんだが…」

蔵人に船の上で説明した事を、もう一度詳しく話すチャイ。話の後半では、すまなそうに頭を掻きながら家庭の状況を話していた。

 

「いや、ここまでしてくれて助かったよ。落ち着いたらもう一度逢おう。イライダにも会ってみたいと言っていたから、合流したら連絡するよ?」

快活で優し気なチャイの表情を見ながら、話しかける蔵人。

 

漂流者と、其れに助けられたも者。北方では考えられないほどの親愛さに戸惑いながら、長年の親友の様に付き合う事となったチャイとの別れは。この世界で孤立しそうになっていた蔵人の心に、一抹の寂しさをもたらしていた。

 

「さて…まずはハンター協会か…イライダから『ハンターは、その地域の協会に必ず挨拶しに行くのが仁義だよ!』と言われているからなぁ。チャイの話でわからない事もあったから、協会の資料室も漁らなきゃ。秀人から買ったホロパッドが役に立ちそうだ。いちいち記入するのも面倒だから、写真で取り込んで自動整理アプリを使用して纏めとこう。おっと…すっかりアイツのことを忘れていた!連絡は来ていたんだが…ヤッパリ男の方は気が向かないのかなぁ?勇者についてナンカ書かれていたけど…ラチャムサットの協会で逢おう。としか覚えてない…」

 

チャイと別れた桟橋から入国管理所に向かいながら、ブツブツと独り言ちる蔵人の姿は。様々な人々が行き交う埠頭でも珍しい光景で、奇妙な北方人種に怪訝な視線を注ぐラッタナ王国の人々だった。

 

「…っつ!…申し訳ありません!こちらの不注意で…!」

 

入国管理所で賄賂を送って無事に入国を果たした後。管理所を行き交う人の群れの中でこれからの事を考え込みながら、チャイに聞いたラッタナ王国ラチャムサットハンター協会に向かって歩いていた蔵人に、ふらついた現地の女性がぶつかってきた。

 

「…いや、此方こそすまない。少し考え事をしていた。そちらこそ怪我はないかい?鎧を装備したままだったから、それなりに痛みが出てると思うんだが?」

ぶつかってしまった相手に謝意を伝え、倒れてしまった女性を助け起こそうとする。ラッタナ王国の慣習を学習していたから、見ず知らずの女性を助けるために身体に触れる行為は問題が無い事は分かっていた。

 

「いえ!私は大丈夫です!…では、失礼します…」

蔵人が差し伸べる手を身振りで制しながら、慌てて立ち上がる女。そこで初めて、女の姿が蔵人の意識に認識される。

 

何かの獣人種なのだろう。腰まで届く灰色の髪の間から蝙蝠のような耳が覗いていて、顔は細面で儚げな表情がなんとも美しかった。南国にしては珍しく、白い古びたロングワンピースで覆われた肌は白く背は蔵人よりも若干高い。儚げで幽霊の様な雰囲気であるのにも関わらず、均整のとれた肉体の中でも胸は豊かさを主張する様にワンピースを押し上げていた。

 

ただ、衣服で隠しきれない顔を含めた身体のあちこちに切り傷や痣が見えていて、彼女が何かの事情を抱えている事を蔵人に教えていた。

 

「そうか…クランド、ハンターだ。何か問題があったなら、ラチャムサットの協会に来てくれ。異邦人が礼儀知らずと思われたくは無いのでね」

自分の好みの顔と身体だったのも手伝って、普段なら考えられない事を口走る蔵人。コッチの世界に跳んできてから様々な人々と出会い経験を積み重ねる事で、諦観を含んだ暗い性格が少しずつ改善されて来ているのかもしれなかった。

 

「…ありがとうございます…では…」

現地人では無い不可思議な人種に優しい言葉を掛けられて、驚いた様に返事を返す女。こちらのことも振り返らずに足早に立ち去り、人混みの中に紛れて見えなくなっていた。

 

管理所と王都の中心部を結ぶ主要街路を行き交う人の群れは、見慣れないハンターと思われる異邦人と蝙蝠系獣人(タンマイ)とのやり取りを珍しそうに見ていたが。すぐに自分達の用事を思い出して、各々の方向に向かって歩き出していた。そんな人混みの中で立ち止まり、何となく今のやり取りを思い返していた蔵人に声が掛けられる。

 

「旦那…旦那〜?どうしたんですかい、惚けた顔しちゃって〜。今の様な女が好みなんでしょ?イヤイヤ…分かりますよ、アッシにはよ〜く分かります…管理所からハンター協会支部に向かってるところを見ると、長〜い航海をして来たんでしょ?そりゃ、人肌が恋しくなりますよねぇ〜?切った張ったのハンター稼業…いつ死ぬとも知れぬ運命…そりゃ命の洗濯も必要でしょ?え?そんなつもりは無い?まぁまぁ〜そんな事を仰らず…急いでいる?それじゃ〜コイツをお渡ししときますねぇ。名刺ってヤツですよぉ?ハンター協会にもツテがありましてねぇ、其奴を協会で働いてる掃除婦に見せればアッシがすぐさま駆けつけて、旦那をこの世の極楽にご案内させていただきますよ!えぇ、えぇ〜何も言わず持って行って下さいな?他にもこの国の色んな話なんかも知ってますんで、決して損はさせませんよ?…もちろんそれなりモノは戴きますがねぇ?」

 

何処から顕われたのか蔵人よりも頭ひとつ低い小柄な男が、異世界では奇妙なアロハ柄のシャツと短パン下はサンダルを着こなしていて。上を見れば、大きめの黒サングラスを掛け愛想良く話し、もみてをしながら直ぐ側に立っていた。雪白と行動するようになってから、気配とゆうものを朧げながら掴んできたのだが。不思議な男の気配が掴めずに驚く蔵人。

 

そんな蔵人の気持ちなど御構い無しに、好きなだけセールストークを喋りきり。戸惑って返事も少ない蔵人に名刺を渡して、人混みに紛れて行く男。

 

「…?何なんだ、アレは…?」

呆気に取られて独りごちる蔵人。

 

アロハ柄のシャツにも驚いたが、サングラスの衝撃は大きかった。サレハドからラチャムサットまで、色々な物産を見てきたが、テレビで見たハワイ現地人の服装など何処にも売ってはいなかった。いや、召喚された『勇者』の中の趣味人が創った服は、少量ながら流通している話は新聞で分かっていたが。それですら上流階級の世界でしか出回っていないと書いてあったから、ハワイアンの服装には度胆を抜かれてしまっていた。

 

臆病さ故に、常に警戒を怠らない蔵人が呆けてしまう程の衝撃を受けていたのだった。

 

「南国は、もうちょい時間がゆっくりしているものだと思っていたが…ハワイアンとゆうより、東南アジアの雑多さと猥雑。熱気を帯びている感じだな…『南の楽園 南国夫人』か…どんな店だよ…?」

名刺に書かれた微妙な店の名前に嘆息しながら、ラチャムサットハンター協会の方向を確認して、渡された名刺を見つつ歩き出す蔵人だった。

 

 

ラチャムサットハンター協会の看板が見える中央広場から周りを見渡してみると。王都の中を流れる川から、縦横に引かれた運河に大小様々な船が行き交っていて、かなりの賑わいを見せていた。精霊魔法を建築に多用したこの世界の都市は、蔵人が持っていた都市に対する意識を大きく変えていた。何せ、其処に精霊が活動していれば建築専門の精霊魔法士がやってきて、瞬く間に建物や道路、運河を作り上げてしまうのだ。細々とした健材などは必要だが、それすらも建築物のアクセントぐらいにしか意味がなかった。

 

土精魔法をソコソコ得意とする蔵人にとって、中央広場に於ける新規の建築を眺める事は、新鮮な驚きと新たなアイデアを自分の感性にもたらす事になっていた。

 

中央広場で行われていた建築工事がひと段落すると、それに合わせたかの様に蔵人の右手に軽い振動が起きて、正午になった事を知らせてきていた。戦闘服に内蔵された時計が設定された時報を伝えていたのだった。中央広場にあるベンチでボンヤリと建築士達の仕事を眺めていた蔵人は、内蔵機器の伝達を受けて時刻を確認。自分が持つ腹時計もエネルギーを補給しようと鳴り始めたため、思い出したかの様にラチャムサットハンター協会の建物に入ってゆくのだった。

 

 

ラチャムサットハンター協会。

 

南国らしい風通しの良い高床式の建物で。木精魔法で作られたであろう内部は簡素な造りであるにもかかわらず、様々な意匠が施されていた。北方のハンター協会に多い威風に満ちた内装ではなく。何処と無く暖かみのあるサッパリとした仕様で、旅で疲労を感じていた蔵人も、なんとなく安心感を覚えていた。

 

「サレハドのハンター、蔵人だ。伝言が着いてないか?」

自分のハンタータグを受付の職員に見せて、自分宛に伝言が来てないか確認する蔵人。

 

「はい。承っておりますよ。イライダ様とヒデト様…それと…『勇者』ハヤト様から伝達便が届いています。こちらですね」

受付の犬系獣人種の女性職員が、にこやかな笑みを浮かべて応対してくれていた。

 

「………」

「…?…如何されました?何か問題でもありましたでしょうか?」

「イヤ…すまない…サレハドでの職員との対応に比べて…何となく暖かみが感じれれてね。何時もこうなのか?」

「…?ええ、ハンター協会職員はハンターの出自や人種にかかわらず公平に対応していますけど…」

蔵人に妙な質問に戸惑いながらも、当たり前のように温和な笑みを浮かべて対応する犬耳職員。

 

「そうか…ついでに素材の判定と買取を頼めるか?それと、この国の地理や文化、魔獣の生態を記した資料などは閲覧出来るか?」

「買い取りに付いては、奥の建物で行なっております。資料の閲覧はアチラの階段を上がった二階になります。其々に職員がいますので、詳しいことは確認してみて下さい」

「ありがとう。あと…飯は食えるか?」

「ええ!右手奥に運河に面したカフェがありますので、其方でお料理も出しています。ただ、食の好みの問題もありますので、係りの者にどの様な料理なのか聞くのをお勧めします。それと、支払いはタグで大丈夫です。他には、何かございますか?」

「いいや、大丈夫。ありがとう」

「お食事の前に魔獣素材を査定に出しておいた方が宜しいですよ?それなりに時間を頂きますので。それと、お食事が済みましたら此方にお立ち寄りください。魔獣駆除や素材採取の依頼がございますので、それとなく見繕っておきます。受けて頂いたら幸いです」

「…何から何までソツがないね?わかった。資料室を漁ったらお願いしよう」

 

近所に住んでいたアパートの大家さんが飼っていた、利発そうなゴールデンリトリバーを思わせる女子職員に感心しながら。警報を鳴らす腹を抑えてカフェに向かう蔵人だった。

 

 

「……なるほど…ちょっと面倒くさい国柄だな…歴史的に北部の連中にやられっぱなしじゃ、いい気持ちを抱けないのも頷ける。それに、この国は王族を中心に北部の国々に対抗出来たが…他の国は実質的に植民地だ。今の経済の記録を見ると…ダメだな…中央集権の支配体制と、それに伴った硬直した身分制度が発展を妨げている…経済の停滞に付け込んだ北部諸国の経済介入で、内部から突き崩される寸前だ…通りを歩いて観察してみないと実感出来ないが、北部の人間に対する鬱屈した感情を持っても仕方がないな…自分達が拠り所にしている王族を中心とした階級制度で、自分達の墓穴を掘り進んでいるんだ。革命に近い事を起こさないと、どっち道袋小路で仲良く経済奴隷だな…」

 

ハンター協会二階の資料室で、ラッタナ王国に関する書籍を、片っ端から読み漁りながら。気になった文献や魔獣資料、食や風俗、慣習と刑法などを眼鏡型情報端末(グラスパッド)で次々に読み込んで記憶させ、項目ごとに細分化してアイコンに振り分けてゆく。

 

退屈な作業に思われがちだが。生来から読書は苦にならなかったし、何より知らない事を刻み込んでゆく過程は純粋に楽しかった。懐は『勇者』からの賠償金と、サレハドでの討伐戦報酬で暖ったし。当面、雪白やイライダ。秀人と合流するまではヤル事が無かったから、時間潰しも兼ねた知識の蓄積は驚きと納得の繰り返しで、時間が経つのも忘れてしまっていたのだった。

 

「……申し訳ないですが、クランドさん。そろそろ閉館の時間になりますが…?」

時間とゆう概念が抜け落ちていた蔵人に、資料室の司書である兎系獣人種の女性職員が声をかける。

 

「おっと…すまない、もうそんな時間か…?長い時間、有り難う」

目にしていた『ラッタナ王国。夜の歩き方』とゆう、何とも裏がありそうな題名の本を戻して司書の方に目を向ける蔵人。

 

「いいえ。でも、朝から晩までこんなに長い時間をかけて資料を閲覧する方がハンターにいたなんて、考えもしなかったです。…あ…他意は無いんです。三年ほど此処で司書を勤めていますが、クランドさんの様な方は初めてで…」

礼儀正しいクランドを不思議そうにみた後。友好的な態度で話す女性職員。

 

「低ランクのハンターだったら、こんなもんじゃ無いのかな?『敵を知り、己を知れば。百戦危うからず』って…いや、すまない。自分の故郷の言葉でね。要するに臆病なのさ」

意外な言葉に戸惑い、誤魔化すように戯けるクランド。しかし、眼鏡型情報端末(グラスパッド)の奥の目は。三十代手前に見える豊潤な肉体美を持つ女性職員を、しっかり、ガッツリ堪能し。女性職員の肢体を録画までしていた。

 

「そんな事は無いでしょう。勇気と無謀が違うように、慎重さと臆病には大きな違いが在ります。どうぞ、此処での資料を活かしてハンター業務をしっかりと努めて下さい。正直、あまり本を読んでくれる方が居なくて、張り合いがなかったものですから」

まさか此の頃流行り始めた黒眼鏡の奥で、誠実そうな態度とは裏腹な行為に及んでいるとは思わず、愚痴のようなものを溢す職員

 

「そうなんだ?色々と参考になったよ、有り難う。此処での経験を活かして実績を積むさ?懐が暖かくなったら御礼をさせて貰う」

「…え?それ、誘っているつもりですか?」

「うんにゃ、純粋な気持ちだよ。御礼の言葉だけだと『ハンターにしては吝い奴…』とか、思われたくは無いから」

「…そうですね。その時はご馳走になっちゃおうかな?期待せずに待っています、ルアと申します」

「麗しい女性の期待には、答えなければなりませんな!」

「面白い方ですね。受付のエフィも言ってましたよ?『今度来た北方のハンター…私も含めてカフェのキムの身体を遠慮なく観察するのよ』って…」

「綺麗なものや、可愛いモノを愛でるのは男女共通だろ?まぁチョット行き過ぎなのは相方にも言われているが…ともかくも、有り難う」

「またのお越しをお待ちしております」

 

挨拶を返し、階段を降りて行くクランドを見送るルアであった。

 

 

長い時間を過ごした協会を出ると。いつのまにか陽は沈み、美しい星が輝く夜になっていた。

 

異世界に来てからとゆうもの、星空に瞬く輝きの多さに目をうばわれてきたが。南国で見る燦然と輝く天空のネオンは、いかに地球の環境が煤けているかを蔵人に思い出させていた。

 

星の瞬きを打ち消す大都市の灯りや、通りを走る車の騒音。なにに向かって進んでいるのかも分からない人の群れ。その人々に覆いかぶせるように、街中に流れる広告や宣伝の音楽。様々なものが溢れるばかりに押し寄せる社会。

 

人の欲が創り出した世界で、何とか踏みとどまって生きてきた自分。地球に還りたいと思った事が無かったから、環境の違いには戸惑いは少なかったが。自然が持つ、あるがままの美しさと。文明が放つ作り出された光の差異を考えた時。何となく蔵人の心に、寂寥感を抱かせていた。

 

思えば地球での生活には、『明るい未来』など考えられもしなかった。最初の就職に失敗して『普通』人生のレールから外れ。何とか用務員として生活の糧を得ることが出来たが、それ以上のものを得る事は出来ない。いや、それ以上の事など考えられなかったとゆうのが正直なところだった。生活に追われ、些細な事でも軽んじられ蔑まられる。生来の正確なのか、その様な感情をぶつけられても劣等感や敗北感などは感じられず『そおゆうものなのだろう…』と考え生きてきた。

 

それが突然異世界に跳ばされ、『加護』も奪われて生き抜かなければならなくなった。

 

成り行きとはいえ、『雪白』に出会い共に生きてきて。さらに『異世界のオッサン』に出逢わなければ、もっと荒んだ心持ちを持った寂しい人間になっていたのだろう。全てを奪われた事に対して複雑な考えを抱き、物事に対しての寛容さと余裕が無い性格になっていたかもしれなかった。

 

漂流してから今まで、南方の人達の優しさと寛容さが蔵人の心に響き。何とは無しに、過去と現在を対比させる事になっていた。普段から自分に絡んでくれる存在がいない事が、蔵人の心にちょっとした空虚感となって、軽い穴を作り出していた。

 

「……お兄さん?私を買わない?そこらの人種では味わえない天国が待ってるよ?ねぇ〜一晩デモイイから?」

「旦那、ダンナァ〜?俺を買いませんか?みて下さい、この力!そんじょそこらの野盗や山賊、魔獣だってオレにかかればコテンパンデスよ!」

「…其処な旅人…占って進ぜよう?人生とは悩み多きもの…我が水晶球が照らし出す未来に、目指すべき星を見出しては如何かな?」

「ハイハイ!チョットご覧になってみませんか!此処に並べたる龍華國(ロンファ)産の秘薬!一粒飲んでみたならば?殿方ならば、身体の底から溢れる精気!御婦人ならば、若さと美容。醸し出される艶!おっと〜?訝しんでますね?今日のオイラのこの元気!コイツを一粒飲んで此処に立ってるよ!アッチノ方も立ちっ放し!ウチのカミさんも嬉しい悲鳴をあげております!エエィ!?しょうがない!一粒だけはお試し様に飲んで行ってくれ!え?効くのは分かったけど高い!?こんちきしょう!5ロドで3つだ!これ以上は負けらんねぇ!…」

 

南国の空気に当てられたのか、若しくは人恋しさに心が浮ついたのか。考え事をしているうちに、煌びやかな灯りが煌めき。露店や呼び込み、自分を奴隷として売り込む歓楽街に入り込んでいた。

 

何とも言えない妖しい雰囲気の中。薄着を纏っただけの、豊満な肉体を持つ兎系獣人種の女性の売り込み。頑強な肉体美をひけらかす熊系獣人種の戦士。摩訶不思議な水晶球の光を受けて、ほんのりと浮き上がる狐系獣人種女性の妖しい表情。威勢のいい掛け声で、通りの人間を集めて出自の知れぬ薬を売り込んでいる鼠系獣人種の商人。

 

南方に限らず、北方系人種の交易商人。物見遊佐の旅人と流れのハンターや傭兵、探索者。様々な立場の人間が、一緒になって通りの熱気と狂気に混じり合い。独特の雰囲気を醸し出していた。

 

そんな狂熱に当てられたのか。おもむろに、今朝出会った女衒に渡された名刺を取り出す蔵人。其処には少し崩された文体で書かれた娼館の店名。裏には簡易な地図が描かれていた。

 

『異世界』に跳ばされてからこっち。一人の時は生きるのに必死で、チョット横島な事を考える事も出来なかったし。雪白と一緒の生活では、なかなかチャンスが訪れなかった。いや、アルにはあったのだが、サレハドの娼館では『流民を相手にしたくない』と断られ。ならばと、タンスクまで足を伸ばしてみれば。例年にない大豊作で、懐が暖かくなった農民達が連日押し寄せて相場が上がり。しがないハンターの報酬だけでは金額の折り合いがつかず、諦め無ければならなかった。

 

港湾都市オスロンでは相棒の機嫌が悪く、出発まで野宿をしなければならず、此処でも不発であった。いくら淡白な蔵人でも男性である以上、その手の事には興味が尽きない。いや、生活面でお金の事を心配しなくても良くなった現況では。コッチの世界に跳んできた時から溜め込んできた精神的肉体的な負債が、破綻寸前まで差し迫ってきていて限界を突破する寸前だった。

 

其処で蔵人の思考に天啓が射す。

 

確かに、セルフでケアをしてしまえば一定の安定は保つ事が出来たが。それだけではオスの充足感は得られないのである!だからこそ、保護者としての立ち位置にある雪白が居ない今こそ、我々は不断の闘争の中に安息を見出さなければならないのである!ならば!我々の取るべき行動は一つではないのか?

 

思えば異世界に召喚され、加護も奪われて人の優しさや温もりすら知らずに闘争に明け暮れた日々…言うなれば、修羅道に落ちかねない暗澹たる期日を過ごしていた。そして今!門は開かれた!我が肉体に宿りし情熱の炎よ!安息を求めてやまない精神よ!立ち上がるのだ!さぁ突撃の喇叭は鳴り響いた!其処に見える桃源郷に向かって、共に進もうではないか!

 

通りの騒がしい熱狂とは違った、澱の様に溜め込んだマグマの様な狂騒とした雰囲気を纏った蔵人の姿は。気軽な空気で今宵の相手を探す人々の中でも、次元の違う物を醸し出していたのだった。一言で表すならば…『あ…コイツ…チョット危ないわ…』であった。

 

いやさ!もはや是非もなし!我が覇道を阻むモノは居ない!体の奥底から突き上がる衝動に身を任せ、焦燥に駆られた肉体と共に前進するのだ!

 

周辺の人々が、蔵人の雰囲気に気押され距離を置く中。そんな事はアッシの知った事じゃございやせん…とばかりに、血走った目で名刺に記された店の名前と、眼前にある娼館の看板を交互に見比べ違いのない事を確認する。脳内で軽々な行動は慎めよ?と、雪白の姿を象った良心をコテンパンに叩きのめし。チョウチョウ結びにして、心の奥底にナイナイしてしまう。

 

準備は整った!いやさ、戦費を確認。充分な数字に満足を覚える。これならどんな激戦でも戦線を維持できる!朝までだって大丈夫さ!オイオイ…どこまで暴走するんだ?などと精神内で悪い顔をした煩悩と会話する。『煩悩最高決定会議からの電文です』 性欲海軍第一種軍装に身を包んだモノ達が緊張した顔で司令官を仰ぎ見る。

 

……諸君。機は熟した…『ニイタカヤマノボレ』

 

司令官の呟きにどよめく…

 

『我、目標ヲ発見セリ!』『トラ!トラ!トラ!』

 

万全の体制で走り出す蔵人。もう、誰も俺を止められん!アア、故郷ノ、オ母サン。クランド ハ オトコ 二 ナリマス。

 

「……買いませんか?奴隷を…一夜でも…」

 

ええい!何を呼び止める!ゴールはすぐ其処に…!ニ◯壺達が待っているのダァ!えぇ…もちろん、すぐさま入れるのが鬼畜道ってやつですなぁ…

 

「…買いませんか…?」

 

通りの灯りが照らす場所から影になった場所に、手に持った小さな灯りに照らされた儚げな女が声を掛けて来ていた。

 

「…君は、朝に出逢った…」

脳内の煩悩の暴走は終わりを告げ。少し冷えた精神が朝の記憶を呼び起こしていた。

 

「…貴方は…今朝の外国のハンターの方…?何かの縁です、買いませんか?それとも、一夜の情けでも如何でしょうか…?」

賑やかな繁華街に似合わない、ひどく無気力な声音で蔵人に商いを申し入れる女。

 

通りから聞こえる男女の嬌声が流れていたが。蔵人の気持ちは落ち着き、彼女の申し入れを考えるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

デモ、身体の中心の膨らみは。直ぐにはもどらないけどね!

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。