次回からもっと働きます!!
内燃機関の発達による大規模工業が繰り出す大気汚染、文明の発達に於ける生活程度の上昇による水質汚濁。それらが複合的に絡まりあった環境汚染などとは無縁な、この世界。
自らが望んだとはいえ。転移した時は、自然が振るう恐るべき天候の洗礼に真剣に命の心配をしたものだが。自らの力と、他者との協力により生活についての命の安全は確保できた。しぜんと、自分の意識も余裕を持つ事になる。
『力』を手に入れる事は、良いか悪いかは別として。生きる事の有り難さと、他者への関心が大きくなってくる。すなわち、『周り』を観る事が可能になる事と同義であった。そうした環境に慣れてくると、生きるので精一杯だった過去の蔵人と同じような境遇を持つ者に、憐憫の情を持つ事も不思議では無かった。
そして、過去の蔵人が出逢った・・・どちらかとゆうと、転移してくる前の地球でだが・・同じアパートの隣に住んでいた、生活に疲れ切った三十代後半の女性と同じ雰囲気を醸し出している
「……買いませんか……?奴隷がダメなら、一夜の情けでも……買いませんか……?」
通りの端の薄暗い場所から。以前出会った獣人種の女が、今にも消え入りそうな声で蔵人に購入を持ちかけていた。
自分を売り込むなら、先程の者達のように自分の魅力的な部分やアピールポイントをひけらかして、購入意欲を高めようとするものだが。目の前の女に、そんな情熱は見られなかった。何度も声を掛けたのだろう。朝出会った時に聞いた美しい響きはなく。疲れ切った声帯が絞り出した、渇いた掠れた雑音になっていた。
蔵人自身の肉体と精神が求めていた、生物としての当然の欲求が熱を冷まし。ついで、ヒトとしての情が首をもたげていた。朝、出会った時にも思った事だが。三十代前半の均整のとれた見事なプロポーションと、美しい顔立ち。透き通るような白い肌は、世の男性であるならば放って置くことは難しい色気を漂わせていた。
だが、其れ等を覆い隠してしまう程の活力の欠如…どんなに綺麗で美しい物でも、本人に十分な気力が無ければ、人の気持ちを惹きつけることは難しい。作られた…ただ其処に存在している美しさには、ヒトの情動を動かす事は出来ない。
普段の蔵人なら、多数の人間が考える事と同じ様な態度になるはずだったが、生活に対しての心配の無さ。要するに、人生での余裕が素直な思いとなって、目の前の存在に対して行動を起こすのだった。
「……今、ここで
名前も知らない、背景も分からない女性に購入について質問を飛ばす蔵人。
「………え?私に聞いているのですか……?」
唐突な蔵人の質問に対して、なんとも言えない驚いた表情で聞き返す女。
「自分を売り込んでいるのじゃないのか?さっきまでの口上では、身売りとしか聞こえなかったし。この通りは『誘い道』なんだろ?」
身売りをしている女の間が抜けた問い掛けに、もう一度ハッキリとした口調で聞き直す。蔵人が協会の資料室で読み漁ったラッタナ王国での奴隷制度についての項目が、記憶の倉庫から引き出される。『誘い道』…夜の繁華街に於ける、奴隷売買や売春の場所…様々な理由で金銭を欲する者と。何かの目的の為に、或いは自らの欲求を満たす購入者との間でおこなわれる、資本主義のルールにのっとった遣り取りの場。
「そうです…でも…私などで宜しいのですか?見ての通り、
蔵人の確認の問い掛けに、先程とは違った光を目に宿し、ハッキリとした調子で再度問い掛ける女。
「そうゆう風に生まれたのは貴女のせいではないし、この地の人間ではないから種族の違いなどは気にしないタチでね。それに奴隷でもハンターに登録できるのは、今の俺にとっては有難い事だから。正直に言うと、あまり仲間づき合いできる程の器用さが無くてな?『八つ星の先導』をこなして七つ星の昇格条件を満たさないといけない。悩んでいるところに貴女がいたわけだ?如何かな?」
被差別階級である
「…そこまで正直に言ってもいいんですか?買取の額を上げるかもしれないのに…?」
先程迄の力の無い、光を喪った表情は影を潜め。明らかに気力が充実しはじめた顔つきで、気が入り出した声で返事を返す女。
「まぁ、奴隷だったら誰でもいいんだ。ハンター経験がなくて九つ星になれれば。他の奴隷とは違って、空を飛べるのも購入を決めるポイントかな?蝙蝠系の獣人種なのだから飛べるんだろう?あっと…購入代金を聞くのを忘れていた。幾らだい?」
真剣な眼差しに気づかないのか。お気楽な調子で質問をする蔵人。奴隷の購入を、気に入ったゲームのキャラクターを選ぶ様に軽い声音だった。
「………一晩の相手が二十パミット。奴隷なら10万パミットです………」
蔵人の言葉を受けて、弱々しく縋るような言葉で自分の値段を告げる。
女が告げた金額に若干の驚きと戸惑いを浮かべる蔵人。ハンター協会の書庫で、ラッタナ王国の経済状況を頭の片隅に入れておいた知識が、それ程驚くことも無いと知らせていたが。あくまでも知識が伝えただけで、日本の経済観念や道徳心を残す蔵人には、理解は出来るが納得のいく価格では無かった。
何せ、日本円に変換されれば。一夜が200円、奴隷契約が100万円である。今回の奴隷契約は、金銭での奴隷であるから解放の条件が設定される。要は、契約した元本に設定された金利を含めて返済すれば解放されて、元の身分に戻ることが出来た。一生に渡って拘束される訳では無いのだ………
だが、女が設定した元本に対して、ラッタナ王国の定めた金利は15パーセント……この国の平均年収である一万パミットとするならば、本人の稼ぎ次第であるが、借金は増えて行くことになる。余程の事がない限り女が自由を手にする事はあり得ないのである。先程の誘い道に居た連中も金銭目的であるが、設定した金額が低く。短期の奴隷契約?になっていた。
女が設定した金額は、事実上の終身奴隷契約ではあった。勿論の事、この契約はラッタナ王国での話であり。奴隷制度の存在しない国であるならば身分を含めた拘束は出来ない。最悪、他国に移れば逃げ出したとしても拘束される事は無い。だが、奴隷の大半が事情を抱えており(大抵は家族の養い)無碍に逃げ出したとすると、自分が守りたいモノに借金が向くことになる。であるから、逃げる事はほぼないのが実情ではあった。
「………わかった…君に決めよう。購入に関しての契約があるから、奴隷局に行かなければならないが、家族や親族に伝えなくても良いのか?一旦契約が成立すれば身分を喪って、名前すら変えられてしまうが?」
書庫で得た知識をなぞりながら、奴隷契約に伴う拘束案件を話す蔵人。
「………?何故、そこまで正直に話してくださるのですか?失礼ですが奴隷に対する態度として、稀有な部類になりますが?」
先程の態度とは打って変わった落ち着いた口調で、丁寧に疑問を口にする女。
「まぁ、奴隷制度の無い国の人間ならこんなもんじゃないのかな?それに、さっきも告げた通りに長期間にわたって拘束するつもりはない。最悪、君が昇格してしまえば問題は無い。俺が目的とする投資としては悪くは無いんだ?七つ星に成れば、受けられる依頼も多くなるし、ハンターとしてはソコソコの地位だ。よその国でも侮られる事が少なくなる。それに、他の国では奴隷制度は無いから、ラッタナだけでの契約だ。君の質問には答えた、これが最後だよ。俺の奴隷になってくれるかい?」
生真面目な態度と口調で、自分自身が考えている事柄を説明する蔵人。ここまで話して乗ってこない様なら、自分の見込み違いだと思って他の奴隷を見て回ろうと考えていた。正直、顔も身体も好みだったから断られたら惜しいとは思う。だが、いくら奴隷とはいえ無理強いは嫌だった。奴隷としての契約では無く、労使間の雇用契約としか考えていなかった。働いてお金を稼ぐとゆう行為に過去の自分を重ねてみて、ブラックな契約が多かったのが今回の考えのもとになっていたのかもしれない。
資本主義の悪い部分が出てしまっている日本の労働契約が嫌だったから、無理強いはしたくなかった。仕事における苦労は、それに見合う対価を雇用主側が支払うことによって成り立つ。一般基準に照らし合わせて過剰な労働は、憲法が禁止する苦役と何ら変わる事がないのだ。それは労働者側のヤル気を削ぎ、結果として労働の質の低下を招く。
コストを削ろうと賃金を出し渋った結果。請け負った仕事の失敗として跳ね返ってきてしまうのだ。効率を重視するといいながら、最終的には投資以上の負債として抱え込むことになる。まぁ、そこまで考えて決めた言葉では無いが。考えの根底にあるのは対等な契約だった。だからこそ、此方の条件に合致した獣人種の女性が欲しくなったのだ。
生気のない、生きた屍の様な気配から。蔵人の提案を受けた女の顔が、生来から持っていたであろう快活な雰囲気を蘇らせていた。何かを決断した様に、蔵人に対して挑むよに鋭い眼光を向けるのであった。
「何故、奴隷になろうと思っていたんだスック………すまん…ヨビだった。いや………喋るのが苦痛なら別に言わなくてもいいが…」
奴隷局で登録を済ませてハンター協会に向かう道の途中で、何気なく尋ねる蔵人。
奴隷局での登録の際に、正規の名前から奴隷身分への移行の意味も含めて、契約者が名づけた名前が奴隷の名前になる決まりだった。
「大したことではありません
蔵人の質問に対して身を正し、しっかりとした口調で答えるヨビ。
「……あのなぁ…その
ヨビに呼ばわれる
「
頭脳明晰な秘書が上司の問いかけに対して、優しく言い聞かせる様に応ずるヨビ。
奴隷での契約でありながら、どこか女性上位を感じてしまう蔵人。
誘い道に立っていた時の儚げな姿と、生気が感じられない幽玄な印象から『夜に瞬く灯り』のイメージで『夜火』と名付けたのだが・・・・急激に元気を取り戻してゆく姿と態度が、名前の由来を裏切りつつあった・・・。
「その呼び名で呼ばなければならない法律は無い。あくまで、慣習として付帯されているに過ぎない。が、この国の階級制度は国の根幹だから、従わないとイロイロと摩擦が起きるんだろうな………分かった…細かいことは我慢する。ただし、二人だけでの場合は別だ。さて…奴隷を持ったものは、其の者への待遇と衣食住を保障しなければならない…ともあったな?」
出来の悪い上司をたしなめる様な態度と感じてしまった考えを振り払う様に、ひどく男性的な雄々しい振る舞いでヨビを見遣る蔵人。
「……ええ…確かに…其の様になっておりますが…?」
先程迄の態度を払拭した蔵人に怯みながら、言葉を返すヨビ。
「なんだ?そんな格好でハンターに成れると思っているのか?探索者をやっていたのだろう?まずは衣食住の衣からだ!」
戸惑うヨビの手を牽いて、冒険に必要な装備を整えるために商店街に向かう蔵人。
「えっ!?あの…
「ご主人様に恥をかかせるつもりか!?ヨビ。お前はもう俺のものだ。であるならば、身も心も俺に従わなければならん!それに、お前が貧相な姿だと俺が侮られる!『北部の人間は奴隷の扱いも知らんらしい…』とな?俺はそんな事が我慢ならん!ここまで言って分からんお前ではないはずだ」
「…………」
「主人の問い掛けには沈黙を返すのがお前の作法か?俺の所有物ならば、答えは一つの筈だぞ?」
「……かしこまりました。
被差別種族の
しかし、自分の所有物をどう扱おうが蔵人の勝手であった。ラッタナ王国の法律に従い、少なくない契約金を払い、契約の手数料も国に払っている。ならば、ラッタナ王国が認めた奴隷契約なのである。違反していなければ、どうとゆう事は無い。それに、いちいち嫌悪を含んだ目で見られる事に正直苛ついていたから。意趣返しの意味も含めてのヨビに対する態度だった。
『俺が気に入った、俺のモノに文句をつけるのは気に入らない!せいぜい金満な北部人らしく派手に着飾ってやる!』
蔵人の意識の根底にあるのは、謂れ無い差別意識に対する反感だった。自分の境遇と重ね合わせ、力無きものを差別する社会に対する反抗でもあった。
突然の『剛いオス』に変貌した蔵人を観ながら、心と身体が熱くなるヨビ。獣人種らしく根底に流れている『強き者』に対する憧憬と、強い子孫を残そうとするメスとしての意識が、ストレートな反応を身体と魂に引き起こしていた。
「ならばいい!行くぞ」
「………ハイ……
オスとしての支配者たる蔵人の言葉に、自分の立場も忘れ、本能の従うままに所有物としての支配されるメスの意識が。自然と熱のこもった言葉を返していたのだった。
王都ラチャムサットの中心街。南国の特徴がある高床式の開放的な建物は姿を消し、北部の街並みの様に、全体的に石造りの豪壮な建物が並んでいた。
その街並みから僅かに離れた場所に、中心街の人の流れとは違った…少しラフで派手な姿の人々が、煙のたなびく工房や飲食店。店先に多様な雑貨を並べた商店や、魔獣素材や魔法具を扱う神秘的な佇まいの天幕の店の前で。商館の主人や番頭、丁稚の小僧などと丁々発止の商いの声を響かせていた。
「主人!俺が仕留めた六ツ足猪…いくらになる?」
「ほう…?これは大層なエモノでしたなぁ…そうですなぁ、少し傷みが気になりますが…3千パミットでは?」
「ナニ?…もう少しなんとかならんか?協会の買取を断って、真っ先に持ってきたのだぞ?」
「まぁ…ファルグ様には贔屓にしていただいてますから…では、3千5百では…?」
「致し方あるまい…それに、いつもの酒をつけてくれ!それでどうだ?」
「この魔法具。どの様なものなのでしょうか?」
「良きものにお目をとめられました!ラッタナより南の群島で持ち帰られたものでして……」
「小僧!いつも元気だの?ほれ、今回の冒険の土産じゃ。北方の珍しい菓子じゃぞ?」
「ノーデさん!いつも有難う御座います!」
「これ!さん。ではなくて、ノーデ様とお呼びしなさい!ノーデ様。店先の小僧にまで…ありがとう御座います」
「良いんじゃよ。これも冒険の楽しみの一つじゃてな」
「ノーデ様…まだ、二十代でしたよね?何故、年寄りの様にお喋りになるのですか?」
「まぁ、師匠の口癖が移ってしまってね。私的な時は普通に喋るけどね」
「ははぁ〜だからお店が終わった後の女将サンとは、普通に喋るんですね!」
「コレ!!商品の在庫でも数えておいで!まったく、いやですよぉ〜……」
どこか年末の商店街を思わせる雰囲気と、熱気溢れた掛け声が。蔵人に日本での記憶を呼び起こさせていて、なんとなく心が弾む気持ちになっていた。自分とは関係の無い第三者同士のやり取りであるのにもかかわらず、ココロをくすぐり温かくさせてくれるものだった。
最初にヨビの服を整えるために入った衣料店では、ヨビの種族が気になるのか鳥人種の服を売ってくれなかった。狸系の獣人種であろう店主は、気の毒そうにヨビを見ながら、鳥人種の顧客の機嫌のために
『鳥人種の連中は気位が高い奴が多くてね…昔、官位を授かっていたからなんだろうが…スマン、コッチも商売でね。売ったのがバレたら何をされるか分からない』
そこまで言われては事情を酌むしかない蔵人。仕方がないからヨビに普通種の服を選ばせて、糸と針。ボタンなども一緒に購入することしたのだった。勿論、下着などは分からなかったが。金払いの良い蔵人の財布事情を知った店主の奥方が、揉み手をしながら奥にある近頃流行りの物を勧めてくれた。
どう見ても現代日本で売っていた下着系列で、蔵人にはよく分からなかったから。ある程度の金額を告げて、見繕ってくれる様に頼むと。ヨビを引っ張り込んだ奥方が、楽しそうに会話しながらヨビと一緒に選んでくれたのだった。
狐系獣人種の女将さんが選んでくれた召喚された勇者が作成したランジェリーと、それに合わせたショートパンツと一体化したボディスーツを合わせ、その上には脇が大きく開いたタンクトップ。さらには、ショートパンツの下から伸びるガーターベルトが引き上げる紫のストッキングが。もともと脂肪が少ない
この世界では見ることの無いパンクルックと、ボンテージのようなボディースーツが合わさった姿は。筋肉質でありながら、成熟した肉を持つヨビには、背徳的な淫靡さを魅せる姿となっていた。
小一時間程、女将さんが格闘した末に生まれたジックリとコーディネートされた姿は。蔵人と店の店主、来客した皆を瞠目させ。雄であれば色の篭った視線を這わせ。雌であれば憧憬と嫉妬と、少しの淫美さを含んだ眼差しを向けるので合った。
女将さんの満足そうな笑顔と、今年一番の大商いでスッカリ鳥人種の事を忘れた店主に『またのお越しをお待ちしております!』と見送られる蔵人とヨビ。
割と感情の起伏を感じさせないヨビですら。蔵人と目を合わせて、ささやかな笑顔を見せていた。
「なんだ、お前でも笑顔を見せるのだな?」
意外そうな言葉を投げかけていたが、どこか揶揄う口調の蔵人。
「一応、オンナですから…
揶揄う趣旨が分かっているのか。此方もオンナを感じさせる、少し艶を出した笑みを見せるヨビ。
「ふん……まぁいい。自分の審美眼に間違いのない事が分かって気分が良い。お前の姿を見た街人が、色の篭った目で振り返るのは主人としては大変に喜ばしい。どうだ?少し大袈裟に尻を振るような歩き方をしては?」
蔵人の言葉に返事を返さず、すぐさま下品にならない程度に引き締まった臀部を魅せる様に歩くヨビ。白く美しい尻と腿が強調されるパンクルックのショートパンツも合わさって、蔵人ですら引き込まれる淫美さを放っていた。
「どうでしょうか……?私の全ては
自分の色の使い方を分かっている成熟したメスの色香を醸し出し、熱の篭った言葉を投げ掛けるヨビ。
地球世界に居た頃は、女性に関わる事など考えられない生活を送っていた蔵人にとっては刺激が強すぎで。自分で調子に乗って送った言葉で、トンデモナイ反撃が帰って来てしまい。充血しつつある股間を気にしながら、気を散らそうと微積分の数式をブツブツと呟きながら、ヨビの姿を捉えないように先を歩くのであった……