軌道降下兵   作:顔面要塞

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連投でヨビと蔵人の話です。

ヨビの武器に関してはイロイロと悩んだのですが・・・原作通りだと・・その、不都合な戦術が在りまして・・・

空中に滞空し続けるのは・・・ちょっと『的』になってしまうんじゃないかと?

自分なりの解釈でイロイロと付け足しました。原作者様。申し訳ございません。

次回は色んな人間模様を描いていきたいもんです。

では、また次回で。


飛躍

南海に広がる大小様々な群島と、大きな四つの島から形成されるアンクワール諸島。如何にも南国らしい気候が織り成す、変化に満ちた動植物たちは。豊富な生物の資源として、島で暮らす人々の人生を豊かなモノにしていた。海で取れた魚介類や海棲魔獣の素材が、山で採取された山菜や切り拓かれた耕地で栽培された農作物。陸棲魔獣の滋養に富んだ肉や素材などが原始的な物々交換によって取引される。どちらの領域で暮らす者達でも日々汗を流せば、自分の人生を豊かに送っていくことができたのだった。

 

………精霊魔法が発達した北方が攻め込んでくるまでは……

 

北方による侵略は、南方で穏やかに暮らす者達の生き方を根本から変化させてしまった。勿論、戦争や争乱による人的損害や生産地帯に対する簒奪があったのは大きな傷としてあったが。海や陸がもたらす豊富な恵みからすれば些細なもので。戦争が終われば、前と変わらない生活が取り戻され穏やかに暮らすことが出来ると、皆が考えていた。

 

だが、北方による侵略は物理的な衝撃以上に人々の生活を根本から変えてしまったのだった……

 

貨幣経済の流入による、物心両面に渡る恐るべき変革……限界の無い『欲』の増大による貧富の格差………いや、そもそも『欲』などは全ての人に備わっているもので、卑下されるものや畏れられるものではないし、極端な変革を招くものでもない。『欲』が無ければ働かないし、努力もしない平凡なモノだらけになる。だが、流入しもたらされたものは余りにも巨大な『欲』だった為。朴訥でおおらかな暮らしに慣れた者達には、余りにも途方のない物になっていた。

 

有り余る財力によって造られた様々なモノ……南国の者達が考えた事もない武器や防具、生活を便利にしてしまう道具。日々の生活には必要のなかった華美な装飾物や衣服……全てが光り輝き、南国の者達に強烈な閃光となって人生と脳裏に焼き付いてしまったのだった。

 

そうして、人々の心……いや、魂の中に深く溟い『際限の無い欲』とゆう影を、創り出していた……

 

言うなれば、北方がもたらした侵略で深く刻み込まれたものは。南国の人々の魂に落とし込まれた『満足の無い欲』であったのだ。

 

 

開放的な、風の通る道を考えて造られた宿の部屋で。木と乾燥した樹皮で造られた椅子に腰掛けて、眼鏡型情報端末(グラスパッド)を掛けた蔵人は。協会で手に入れた書籍情報を表示させて『北方の本当の侵略』とゆう題名の、現地人の学者が記した書物を読んでいた。

 

北方の頑丈な作りに、南方の趣き溢れる内装が施された4階建ての宿……いや、ホテルの最上階の一室。開放的なテラスが作り付けられている宿であるから滞在費用は高く、1日あたり800パミット。通常の旅人が宿泊する標準的な金額の10倍に当たる。しかし『勇者』に『借り』をつくった蔵人には一月に1万ロドが振り込まれるし、今までの稼ぎの貯蓄も十分にあったから、冒険の旅を圧迫する様なものではなかった。

 

何より、ヨビを連れて周辺の宿に顔を出してみたのだが…行く先々で、着飾ったヨビを見た現地人の女性達の嫉妬と羨望の眼差しが鬱陶しく。宿泊を考えていた宿で妙なザワメキを起こしていた為、支配人から『申し訳ない…蝙蝠系獣人種(タンマイ)は御遠慮願ないか…?差別はしたく無いのだが…この状況では商売にならないので…』

 

犬系獣人種のアイパッチをかました支配人に、頭まで下げられて願い出られては。蔵人としても引き下がるしか無かった。

 

其処で紹介されたのが、『かなり値段が張るが。差別的な騒ぎからは無縁で居られる一流の宿がある…』と言われてきたのが、今滞在して居る『南国の星空亭』であった。

 

 

「宜しいのですか?」

蔵人が寛いでいる椅子の傍らに、邪魔にならない程度の存在感を持ったヨビが侍り。蔵人に言葉を伝えて来ていた。

 

「……何がだ?」

透明度を落とした眼鏡型情報端末(グラスパッド)では表情は分からない。しかし、気怠そうな尊大な返事を返す蔵人。

 

「……いえ…。この様な三十路の傷だらけの女に……」

「其処までにしておけ。言ったはずだ…お前はもう俺のモノだと?俺が所有物をどう扱うかは、俺が決める。自分自身を卑下する思いがあるのは、お前の中の考えだから何も言わん。しかし、主人の審美眼と気分を害する発言は許さん。だいたい、この宿に移らなければならなかったのはお前の美しさのせいだぞ?見たか?鳥人種の女どもの嫉妬に狂った姿を?所詮、底辺を味わったことの無い上辺だけの連中だ。北方の成金によって美しさを引き出された蝙蝠系獣人種(タンマイ)のお前が気にすることでは無い……まぁ、その事が愉快だったのは、間違いは無いが」

 

ヨビの卑下する言葉を打ち壊す様に、語気を強めて嗜める蔵人。

 

その言葉で内に抱えていた何かがコワサレつつあるヨビは。尊大な言葉に反応する様に、胸と下腹部に熱を帯びるのだった。

 

先程まで吹いていた緩やかな風は弱まり、南国特有の激しい雨が降り始め。テラスの屋根に心地よい雨音を弾ませていた。

 

「そう畏るな?怒っているわけではない…」

自分が発した子供じみた感情のままの言葉を後悔したのか、謝罪の気持ちを込めた返事を送る蔵人。沈黙したヨビの気持ちが心配になった様な、弱気な態度であった。

 

「………分かっております…気を乱したのは、別の事柄が起きたからです………」

「なんだって?」

「………………いえ……何でも御座いません。そう言えば、今日は鍛冶屋に行かれる予定でした。新しい武具でも御注文なさるのですか?」

少し不機嫌そうにつっけんどんに早口で返すヨビ。全てを忘れる様に調子変えて、今日の予定を告げる。

 

「おお!そうだったな。いかんな…南国のゆったりとした雰囲気は。大事な事まで雨と一緒に流されてしまう様だ」

ヨビの若干不機嫌さを滲ませたやり取りに、何か気に障る事でも言ったかな?と、思いつつ。取り繕う様な調子で予定を引き出す蔵人。自分でも奴隷と主人の遣り取りが、あまり板に着いていないと思う。

 

「三日前にお前の特性と飛行能力を確認した時に、どうすればお前の力を生かせるか考えて注文した武器が出来上がっている日だった。ドワーフの職人に間違いは無い。それと、それに合わせた防具の採寸も済まさなければならないから…おっと、もう昼前か?この雨もすぐに止むだろう。出掛ける支度をしておけ」

「私に武具ですか…?」

「何を意外そうな顔をしてるんだ?契約の時に言っただろう。お前を九つ星のハンターにすると?まぁ、奴隷と主人の遣り取りも少し疲れたし。慣れない事はするもんじゃ無いね?人前で無い限り、普通の口調になるから、ヨビもそのつもりで。あ、スックと呼ばれたいなら二人の時はそうするが?性格的に無理強いは慣れてないのよ」

「……いえ……御主人様(ナインハンカー)がなさりたいのであれば、そう致します…名前はヨビでお願い致します。でも…探索者十級止まりの女に出来るのでしょうか?」

「それ?人前の時だけにしといてくれ。何かこう…背中から心がくすぐられるから?ヨビの能力は使い方次第だ。微かな音で三次元機動が出来て、反響定位も使えるとなると…まぁ見ていろ。あとはヨビのやる気だな?すぐさま、俺の級を超えてゆくさ。それと、クランドで良い」

「そうなのですか?クランド様」

「………まぁクランド『様』はしょうがないか…秘書の様な立場にいてくれると嬉しいが…え?秘書知らない?契約した上司の細々とした事をフォローする仕事なんだけど…そうだなぁ『ダメな旦那を支えるしっかり者の奥さん』って感じでいいかなぁ?どう?出来そう?」

 

 

自分を選んでくれた時の態度とはまったく違う、日向ぼっこしている気の良いヒトの様な言葉と仕草に面食らうヨビ。しかしながら、契約の時に自分自身が感じた熱と、クランドが語った内容を信じてついて来たのだから。次の様に応える事にするヨビ。

 

「はい。シッカリと努めさせて頂きます。クランド様」

 

書籍を閉じて、目に掛けた光沢にある装備を外したクランドの目を見ながら、ハッキリと応える。

 

チョット最初の時とは雰囲気が違うけれど、コレがこの人の考え方なのかな。でも、『メス』として熱を帯びたのは事実だし。自分の身体とココロの反応のままに契約したから、ココで考えられもしなかった待遇で居られるのだから間違いでは無いのかも。でも、本当に出来るのかしら?そして、其処まで到達したなら何が待っているのだろう…それにクランド様に伝えていない私自身の目的も…ううん、ここまで来たならば行くしかない。あの子が亡くなった時から私の刻は止まったまま…どの様な結果が待っているにせよ、進まなければダメ。

 

やるしか無いのよスック……いえ、ヨビ!

 

「では、参りましょう。クランド様」

 

何かの決意が込もったヨビの返事が。リズムを刻んでいた雨音が止んだテラスに、美しい陽の光と共に流れるのであった。

 

 

 

ヨビと契約してから、三日が経っていた。

 

何もせずに時が流れるまま、奴隷との爛れた性活を過ごしてる様に周りから見られていたが。初日に海岸線に向かったあとは、頻繁に鍛冶屋と道具屋、衣料店に雑貨屋を忙しく行き来し。着飾っていただけに見えた蝙蝠系獣人種(タンマイ)が、日を追う毎に充実した冒険者の装備を整えてゆくのを見れば。北方の人種が、真剣に蝙蝠系獣人種(タンマイ)を育て上げて、九つ星にしようとしているのが解ってきていた。

 

ラッタナ王国で多数を占める獣人種は、素直に『強さ』である程度ヒトを見る為。純粋に努力を重ねて『強く』なる者には賛辞を惜しまない。更に、クランドが育てる為に資金を惜しまないのも、他人に優しくする南方の気質にも合っていた。

 

そんな事が重なり合い。『成金の北方人』が、不幸な身を売るしか無い蝙蝠系獣人種(タンマイ)を弄んでいる…とゆう様に言うものは少なくなり。クランドに対する街や商店の人々の考え方も変化してきたのである。勿論、クランドが『金を惜しまない』とゆう実情もあり、幸運にも立ち寄られた店では売り上げが伸びているのも背景にはあったが…

 

 

『聞こえるか?ヨビ』

眼鏡型情報端末(グラスパッド)に内蔵された通信機器が、耳に付けた人工サファイアのピアスを擬態したナノサイズ骨伝道通話装置を通じて。地上で監督(モニター)しているクランドの声を届けていた。

 

「感度良好」

ずぶ濡れのスコールの中。多量に身体を叩く雨量に負けまいと、普段より多くの魔力を使用して滞空する。装着した眼鏡型情報端末(グラスパッド)が備えた索敵機器が受動した様々な情報が、網膜に投影表示され。そして、通信先のアイコン(相手はクランドで。アイコンの表示はデフォルメされた緑の作業着と長靴だった)の横の音声バーが、声に合わせて上下していた。

 

『結構だ。どうだ魔力の消費は?疲れないか?』

「大丈夫です御主人様(マスター)。普段より多めですが、気になる程ではありません」

『よし…周辺で監視しているドローンでも、飛行状況に特段異常は見られないな。しかし…闇夜に雨中で安定して飛行出来。しかも音も雨に消えるレベルか…恐ろしいな…』

 

初日に海岸線で見たヨビの特性である、ドローンの様に変幻自在に飛行できる能力。一般的な鳥人種とは違って、最高速度や上昇、下降の速度と限界高度は総じて低い数値であったが。小回りが効き、僅かな敷地でも離着陸が出来る事は。こと、冒険者が挑むスケールでは欠点ではなく利点でしかなかった。加えて、視界も効かない豪雨ですら苦にせず。自分の位置も喪わずに微かな音で飛行できる点では、鳥人種など喧しいだけの使い勝手の悪い競技用飛行機でしかなかった。

 

存在を秘匿しつつ、地形や敵情を把握し。場合によっては後方を撹乱して、味方の攻撃を援護でき。闇夜では微小な魔法力で感知も難しい距離から攻撃をかける事が可能。防衛になった場合でも、常に上空から警戒でき奇襲を防ぐ。専用の装備を整えてやれば、地形を考慮しない輸送にも従事可能。味方、傷病者の迅速な治療と搬送が出来れば。今まで侮られ差別されてきた蝙蝠系獣人種の飛躍にもつながる。

 

現代の軍事知識が少ない蔵人にしてみても。ヨビが持つポテンシャルは瞠目に値するものであった。場所を選ばない、地形を考慮しない、水中、空中での反響定位を使用しての索敵や調査。勿論。アクティブに超音波を使用しなくても、優れた聴覚によって様々な事を把握できるのだ。

 

攻撃にしても、防御にしても。何かを企む輩より先んずる事が可能なのだ。イニシアチブを握る。闘いの趨勢を瞬時に決める要素を、生まれながらに蝙蝠系獣人種は持っているのだ。

 

であるならば。地面を這いずり回るしか出来ない俺なんぞより、多方面で縦横に活躍する事が約束されている様なものだ。そのモノの本質を見ずに、生まれや貧富の差だけで活用しないなど馬鹿のする事なのだ。

 

 

御主人様(マスター)。周辺地形、照合完了です。続いて索敵情報を共有します』

『うん…データ連動…良いぞ…極端に悪い気象条件にも関わらず、ヨビのアクティブエコーの反響は良好だ。魔法力のおかげなのかもしれん。前回は眼鏡型情報端末(グラスパッド)は無かったが、シッカリヨビの反射を拾えている。秀人に感謝だな…』

『秀人様は、御主人様(マスター)のご友人でしたね。その方の持ち物なのですか?』

『まぁ………イロイロあってな…?すぐそこまで来ているらしいから…合流したら紹介するさ?さて、情報面は整った。後はシュミレーション通りに動けば上手くいくはずだ。万色岩蟹(ムーンヒンプ)も気付いた様子は見られんし…この天候じゃ、何時もチョッカイ掛けてくる鳥人種(アホども)も飛行出来んしな?よし…ヨビ、やって見せてくれ。言ったように、身体強化は慎重にな?』

『了解です。御主人様(マスター)。ヨビ、行きます!』

 

豪雨の中。地上から30m程で滞空していたヨビが、地上に居てゴソゴソと餌を探している万色岩蟹(ムーンヒンプ)の頭上に移動する。

 

『目標上空』

『よし…訓練も兼ねてるから緊張せずとも良い。岩蟹は腐るほど居る。眼鏡型情報端末(グラスパッド)の管制に従えば、まず外れん。今回は眼鏡型情報端末(グラスパッド)と自分の感性感覚を近づけるモノだ。パッドの指示と感性の違いを習得するんだ。数を重ねれば自分の感覚に近くなる。標的との距離を確認する目標物のスケールを覚えているな?右目に表示された照準表示の値も参考にしろ』

『了解!目標補足。照準入ります!万色岩蟹(チャーリー1)…撃ちます………Now!』

 

豪雨に叩かれている万色岩蟹(ムーンヒンプ)は、何も警戒せずに餌を探して砂地を掘り進めていた。自分の厚みのある身体に自信を持って居るのか、目立つ原色の巨体をイソイソと動かしていた。砂地の奥に潜んでいた無眼海牛を捕まえ、今日初めての食事にありつこうと口元をだらしなく開けた時。

 

強烈な衝撃が頭蓋から身体を突き抜け、食事の事に集中していた意識は瞬時に途切れて、口を開けたまま砂地に巨体を落とすのだった。

 

『何をしている?周辺警戒の後。標的の腕を切り落とすんだ。腐ってしまうぞ?』

 

通信装置から流れるクランドの冷静な言葉に促されるまま、仕留めた万色岩蟹(ムーンヒンプ)に向けて降下するヨビ。未だに自分が成し遂げた事に意識が向かず、半信半疑のまま万色岩蟹(ムーンヒンプ)の傍らに着地し、素早く右の胸元に装備したナイフで爪を切り落とす。

 

そこでさらに驚くヨビ。岩と同じ様な硬さで有名で、ほぼ斬撃武器が通じない万色岩蟹(ムーンヒンプ)の甲殻を、熟した果実を切る様に簡単に斬り裂いて爪を手に入れることが出来たのだ。自分がした事が信じられず。クランドから渡された不可思議な光沢を持つ、重さを感じさせ無いナイフをマジマジと見つめる。

 

『どうした?呆けてる場合じゃ無いぞ?ちょっと衝撃が強過ぎたか…近場に居た万色岩蟹(ムーンヒンプ)供が感づいて砂地に潜ってしまったな…しかし威力は十分だ。獣人種の強化した筋力で引く事が前提のこの世界の弩弓も大したもんだ。万色岩蟹(ムーンヒンプ)の甲殻用に、ボルトの先端に破砕用分銅を付けたから飛距離は落ちたが…空中から下に向かって撃てば充分だな…よし!腕爪は取ったな。次に行くぞ!離陸だ』

 

『了解です!離陸し、上昇。高度40mにて索敵に移ります』

事前訓練で言われた事を思い出し、周辺警戒しつつ迅速に離陸。その際に不規則な軌道を描きながら所定の高度まで上昇する。腰の鎧に装着された弩弓は二つあり。右側の弩弓で、もう一体は万色岩蟹(ムーンヒンプ)を狩る事が出来る。

 

やはり、威力が強過ぎたのかも…いけない、いけない…何を考えているのヨビ?初心を忘れては駄目。探索者十級でしかないのよ?ご主人様(マスター)が様々な手段を講じてくれたから万色岩蟹(ムーンヒンプ)を狩る事が出来たのよ?『慢心と増長は、死への一本道』そう言って送り出してくれた御主人様(マスター)の言葉を刻み込むのよ。

 

『方位38度。距離78m付近に反応。移動します…万色岩蟹(チャーリー2)確認!照準よし…Now!』

 

鍛冶屋の主人ドワーフのゴルバルトさんの腕は確かだ。腰の鎧に専用の装置を付けて、中型の弩弓を身体と平行に装備。両腕は飛行に使用する為に使えないから御主人様(マスター)とゴルバルトさんがアレコレ試行錯誤しながら、装置を介して口元に発射機構を付け。顎で押し込む事によって矢が飛び出す仕組みになっていた。勿論、誤射を防ぐ為に自由になる両脚の脛の裏に、爪先で操作出来る安全装置が付いていた。

 

腰に設置された弩弓は、先端に付けられた鐙により左右其々の踵で照準する仕様になっていた。さらに緊急離脱用に左右両腿の後ろに、踵で叩くと弩弓が装備から外れる仕様で軽装状態に移行出来た。最初は鎖付き鉄球を使うつもりだったが、十分な威力を持たせる為には目標上空で少なく無い時間滞空しなければならないし。5mも離れてしまうと、当てる事が飛躍的に難しく。かつ、岩蟹に気付かれてしまう為。20mでも難なく当てる事が出来る弩弓に変更したのだった。難点としては二発撃ってしまえば、再装填の為に後方に下がらなければならない点で。継戦能力は当てにできない。

 

しかし、索敵と奇襲が本分の蝙蝠系獣人種(タンマイ)に主戦戦を維持する必要は無いので、今はこれで充分だった。背中に装備した矢筒には20本入り。付けられた網籠は、採取物の収納に使える。鎧に弩弓、装備、背中の運搬器具、治療薬。離脱、緊急時に使用する閃光・気絶用呪符(フラッシュ・スタンペーパー)を含めても40kg程になるが。飛行には差し支えは無かった。

 

 

「良い感じだったな?成果は20体か…出来過ぎかな。だが、空中からの一方的な攻撃ならばこんなものか。矢の先端に付けた分銅の効果は想像以上だったのは収穫だ…ゴルバルトの爺さんに実験結果を報告するのが楽しみだ…さて!感想を聞こうか?」

朝から降り続けている雨は小降りになったが、蔵人の作り出した土壁のカマクラを相変わらず叩いていた。

 

「………正直なところ、自分がした事が信じられません。勿論、御主人様(マスター)とゴルバルトさんの装備のお蔭とは分かっていますが………」

土壁に背を預けて座り。弩弓を外して手入れをしながら蔵人を見上げて答えるヨビ。濡れた装備と身体は、蔵人が同時行使で作り出した火精によって乾かされてはいたが。濡れた髪は未だ水を含んでいて、肌に張り付いていた。

 

「………十分に誇って良い。ヨビの特性が無ければ、あんな芸当は不可能だ。さて…協会に報告に行くぞ?連中、絶対に信じないから。また装備を整えておかなくちゃな?多分、監視員付き添いで同じ事を要求されるだろうな…まぁいい…この方法が確立されれば、国にとっても蝙蝠系獣人種(タンマイ)にとっても良い事になる。魔獣の暴走(スタンピード)も抑制できるだろう………アホう鳥が邪魔だがな?」

妖しく濡れ光る、ヨビの肌に張り付いた髪と姿を見て心拍が上がる蔵人。そんな事を誤魔化す様に、饒舌にこれからの事を話す。

 

勿論、人妻であり。娼婦の経験も積んだヨビには、オスの些細な変化も手にとる様に把握出来ていた。軽く誘う様な仕草を魅せようと考えたが、御主人様(ナインハンカー)の趣味を思い出してやめる事にした。

 

でも、少しは悪戯をして距離感を縮めたいと思いついて………

 

「………あっ…?」

「どうした?………えっ⁉︎…ヨビ…!?これはその…オマエを支える為にだな…その………すまん!」

 

ふらついた様子を魅せて、蔵人にしなだれかかると。即座に反応した蔵人がヨビを支えるが………右手がヨビの豊かな胸を抑える事になっていた………

 

「大丈夫です。私は身もココロも御主人様(ナインハンカー)のモノですので………」

 

蔵人に身を預けた状態で、挑む様に妖しい目線と表情で語り掛けるヨビ………その姿は月の女神ですら、感心する美しさに満ち溢れていたのだった。

 

 

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