コロナ、コロナで自分の生活も覚束なくなっていて・・・マスク切れる死、トイレットペーパーで並ぶし・・・
今度は、小麦粉も無いなんて・・・
どうなってるんだこの国?まぁ、テンピンで麻雀出来るのが合法になったから。久しぶりにやろうかな?
皆様。次回までお元気で~
大小様々な島々で構成される、アンクワール諸島。
南国らしい豊かな動植物と、一年を通して温暖な気候が、アンクワールに暮らす人々の生活を支える。そして、其の気候風土が与えてくれる豊かさが、おおらかで穏やかな気質を生み育てていた。
しかし、命の心配をせずに日々穏やかに暮らせるとゆう事は。生活に根差した様々な発展を阻害する要素にもなっていた。平たく言えば、命の危険に晒される『冬』に備えて発展に勤しむ『北方』との『格差』を生み出していた。
『北方』は生き残る為に『文化』の質を高めていかなければならない。容赦なく襲い来る自然災害、魔獣、他国の脅威…それらに対抗するには、仲間と繋がり、お互いに練磨し助け合う。農耕、狩猟、魔術、鍛治、戦闘……数限り無い生への執着が、様々なものを昇華させ『教育』として民衆の中に落とし込まれてゆく。
勿論。『南方』も同じ様に災害や魔獣に悩まされては、『教育』に取り組んできたが。いかんせん、どうしても『必死』さでは遅れをとってしまう。そこまでやらなくとも食は確保できるし、お互いに国を挙げて戦争する事などが無かったのだ。であるならば、『北方』に侵略されるのも肯ける話ではあった。
そして、『北方』に対抗する為に国を纏めようとする事になるが、大抵は保守と革新で国を割ることになる。どちらかの勢力が果断に速度を持って『国』として確立しなければならない。何故なら、他国はこちらの事情など関係なく介入してくるからだ。そうすれば『亡国』に突き進むことになる。
其れが嫌ならば、お互いの血を流すとも覚悟を持って『国』になるしかないのだ。
ここラッタナ王国も変革の足音が迫ってきていた………望むと望まらずとも関わらずに……
煌びやかな装飾が施された王宮のバルコニーに、朱金の翼を持つ鳥人種が、夕方から降り始めた雨に濡れるのも構わずに佇んでいた。
「殿下………王の容態が………」
「うん………芳しくないのだな?」
「は…不遜ながら、御典医殿の見立てによれば。此の一週間程度が山場になるとの事………」
「そうか………我が父ながら、よく持った方だな?生来からの態度を改める事はなかったのが災いした…それでも私にとっては優しい父だったが、国政にかんしては…まぁいい…計画が少し早まるだけだ。ドルガン議会から派遣されてきた使者の様子は?」
「『寵姫の間』にてお待ちで御座います…」
「では、行くか」
「………よろしいので?些か不審な点がございますが?」
「持ち込んだ文書に書かれた筆跡と印は間違いなく彼女のものだ。議長とは面識があるのでな?それに『ドルガン』が提供してくれた資料は、我々が欲してやまない物だ。『共通の敵』とゆうのは、都合が良いものだ。彼奴等は些か野放図にやり過ぎだ…北方の国は昔から傲慢に過ぎる。何時迄も『コチラ』が成長しないと侮っている節がある。それに『ドルガン』には別件で頼まなければならない事もある」
傍らに控える従者に向き直り、歩み出す次期ガルーダ王となる王子。室内に入る手前で、両脇に待機していた侍女が寄り、濡れた身体を拭きあげていく。
「さて………どう転んでゆくか…せいぜい脚を救われないように、注意しながら進めるとしよう…此の国に巣食うゴミを掃除しなければならんからな………」
誰に聞かせるでもない、静かに揺らめく炎の様な呟きを残して。バルコニーを後にする王子であった。
ラッタナ王国の玄関とも言える、王都近郊の港のすぐ近くに新しく作られた商業施設群。北方諸国と取り決めた条約により、ラッタナ王国軍の演習場だった広大な敷地が商業施設の場として開放され、多数の商業人が入植し大きな賑わいを見せていた。
其の中で最も煌びやかで豪奢な作りの建物には、北部南部を問わず様々な国籍の者と多種多様な種族が出入りし、商業施設群の中では一番の賑わいを見せていた。北部と南部の建築家双方をうまく融合させた建物は荘厳な雰囲気を持ち合わせつつ、ところどころに取り入れられた南部らしい曲線美が合わさって、独特な様式美を創り出していた。
しかし、商業施設としては奇異な事に。入って行くものは柔和な笑みを見せるものは少なく、何処か緊張した雰囲気を見せ。出てくるものは満足感を見せるものと、落胆と悲哀を見せる者がいて。此の施設が普通の商業施設では無いことを教えていた。
其の施設の一室。豪奢な造りの部屋の中、効率と合理性を追求した家具の配置と事務机が並ぶ管理室。多くの職員が山積みされた各国の紙幣や貨幣を次から次へと計算し、金庫に運び込んでゆく。普通の金庫ならば業務の最後に開け閉めするものだが、余りにも多くの金が流れ込むものだから、ほぼ開けっ放しであった。
其の様にやり取りされる様子を冷静に見ながら、奥にある支配人室に何かの報告書を持った男が入って行く。
「遅い」
支配人室に響く冷たい声。発した人物は北方系の金髪碧眼で、二十代に見える男性であった。
「申し訳ございません。王子の息のかかった者が増え、少し手間が増えまして…」
入室した男は事実を淡々と告げるだけで、謝罪の意思など感じさせていなかった。普通の主従関係ならば叱責ものである。
「で…後、どの程度保つのだ?」
入室した男の言葉など気にせず、質問を発する男。
「王家出入りの医者の見立てだと、ここ一週間程度だと………」
「………案外と持った方か………」
「些か、困りましたな?当方が渡していた『薬』を常用していたのがトドメになった様です」
「もともと愚鈍な男だった…次期ガルーダ王は英明だ、計画通りに営業規模の縮小に入れ。十分利益は出した…これ以上は商会の名声と信用の低下を招く。其れと、貴様が進めていた『薬』の流通に関しては『商会』は一切関知しない」
事務的な遣り取りでは無く、少し感情の篭った言葉を投げ掛ける。
「………はっ………心得ております………『カーソン商会』の名は、一切出ておりません…」
冷静だった態度に、若干の狼狽が見えたが。すぐさま、元の表情に戻る。
「貴様の背後との関係は清算しておけ?まったく………アルバウム王家にも困ったものだ。『薬』の危険性は知っているだろうに…有力貴族の愚息が『肉団子』になった経緯は、一種の『警告』だ……其れと、本国から連絡が来た。ドルガンからの『商会』の撤退だ。義兄がやりすぎた様だ…貴様も同じ轍は踏むなよ?未だ父上に認められるには、人材も資金も足りぬからな?」
警告とも取れるカーソン商会三男。ラディット・カーソンの言葉に冷や汗が流れる男。
「それと………家の馬鹿娘はどうしている?」
先程までとは異なり。若干、苛立ちを見せるラディット。
「………コニー様でしたら、何時もの取り巻き連中と『説法』を行っていますが?」
表情を消し、事務的なまでの冷静さで語る。
「父上にも困ったものだ………妾腹の俺達にも分け隔て無く教育を施してくれた事には感謝しているが、女性には甘過ぎるところがな………で、護衛は?」
「其処は抜かりがない様ですな。ベルカンプ様が派遣された者達が、それと無くおらっしゃられる様で………家の者達にワザと気付かせて警告を頂きました」
「………ふん………勇者が要らぬ知恵を吹き込むからこうなるのだ………分かった。父上がコチラの状況を把握しているのだから、いずれ本国に帰るだろう。貴様も『清算』が完了したら本国に帰還して少し『事務』をおこなっていろ」
一方的に会話を打ち切り。山と積まれた報告書に目を通し始めるラディット。
ラディットから貰った警告に従い、アルバウムの王族から依頼されていた事柄を精算するべく。脳内にしまわれた事柄を引き出して対策を立てながら退出するのだった。
港の朝は早い。どの様な国の港でさえ、その点には変わりが無い。特に首都に併設された貿易港であるならば、一日中活気が消える事はない。
朝明けを背に一隻の大型帆船が入港してくる。巨大なマストに翻る白い帆は長い航海でも汚れておらず、何某かの魔法が付与された物だと見る者に教えていた。北方の雄、アルバウム王国の船だった。
「ヒデト………遂に着いたぞ!」
港に停泊した帆船から降り立った巨人種が、感慨深気に呟く。
「マクシーム君………そんなに感動することですか?まぁ、北方と違って殺伐とした雰囲気がないのは、何と無く感じるが」
巨人種に比べれば小さな人種が、人で溢れ返る港を見渡しながら感想を述べる。
「………其処じゃない………其処じゃないのだよヒデト君。君の友人が長年探し求めていた者に巡り合うのだぞ?共に歓びを分かち合うのが筋だろう?」
大袈裟な手振りで、自らの感動を共有する様に小さな友に告げる。
「筋肉だけに筋かよ………確かにヒトの欲求の中でも重要な事だから、分からんでもないが。知っているか?睡眠・食事・性事、三大欲求っていってな。抑える事が難しいんだ」
「何と⁉︎俺の為にある様なものじゃないか………その学説には興味が湧くな………では早速征こうか、
「イキッテルのは分かるが、まだ日が高い。この手の店は夜に行くものだろう?宿の確保もあるし、航海で得た獲物の報酬の件で協会にも挨拶に行かなければならん。お前?一つ星だろ?」
「………ムゥ………確かに・・・はしゃぎ過ぎたな。慌てる事もないか…」
「やっと落ち着いたか………俺は頼まれ事があるから、先に協会に行ってくれ。宿が決まったら
「分かった。夜は一緒に繰り出すぞ!お前も僧侶って訳でもないだろう?」
商業地区に向けて歩き出すヒデトの背に呼びかけるマクシーム。
「ああ。歓楽街は仲間と行かないと盛り上がらんし、その後の戦果報告を兼ねた呑み会が楽しいからな?喜んで付き合いますよ」
背にかかる声に振り向く事なく。右手を上げて、掌をヒラヒラと振って応える秀人。
「………まったく………南方まで来ても忙しい男だ?さて。俺もヒデト程では無いが、夜に備えて色々と野暮用を済ませておくか…」
意味ありげな含みを残して、それぞれ別の方向に歩み出す男達だった。
港から商業地区にある石造りの北方風の建物に入る秀人。貿易港ミゼラの宿屋で働く、留学生で鳥人種のファンフから預かった手紙を届ける為、ラッタナ王国逓信省に来ていた。
受付で用件を伝えて手紙を渡し、待合で手続きを待つ事数分。事務員の狐系獣人種の女性に手数料を支払い受領書を貰う。コッチの世界に来て思ったが、文化レベルはそんなに悪くはない。せいぜい江戸末期から明治にかけての発達具合と感じる。手紙なども所定の料金を支払えば、しっかりと相手に届く。勿論、ファンフが代理を頼むぐらいだから国際郵便は値が張るが、払えない程では無い。
逓信省の建物を出て通りに出て、街中ですれ違う人々の風体も決して卑しいモノでは無く、其れなりに清潔感はある。地球世界で読まれていたファンタジーなんかでは文明レベルが低く描かれているが、其れが当てにならない事が良く分かる。まぁ、魔法文明がここまで発達していれば、文化レベルも其れに見合ったモノになるのは、下士官教育の文化教育課程で学んだ事だから、さして違和感を感じ無かった。
獣人種が多数を占めるラッタナ王国は、北方に比べれば繁栄程度が下がると言うが、あからさまな差を見出すことは難しい。確かに、教育や社会制度、階級格差や人権意識はひどい所も見受けられるが。其れは国の成り立ちから続いてきて、自然に醸成されたモノだ。『実力を示した強者が上に立つ』とゆう考えが根底にあるのだから、『勇者』の召喚によりイイ意味でも悪い意味でも影響が出てきた北方の人種がとやかく言う事では無いのだろう。
まぁ、所詮は異世界人であるオレがとやかく考えても仕方がないことだ。そこら辺の土着の習慣や法を侵さぬように気を付けるしかない。蔵人もやっている様だが、異国に着いたら協会で資料を漁りトラブルを避ける事が肝要だ。ファンフに話を聞いたが、未だラッタナ王国の資料が足りないから夜の『宴』の前に協会の資料室に顔を出そう。
其処まで考えた所で、ドローンが発見した港から尾行してきている者達の映像を拡大する。其れなりに訓練されているし、予算も在るのだろう、確認できただけで二人一組の班が三組だった。何も気配を感じたのでは無い。上空で警戒中の隠蔽モードのドローンから送られてきた情報を元に、行動解析を常時行なっている腰に装備された量子回路が特定したので在る。
人種構成は雑多で、国家を特定するのは難しい。チョイと誘いのつもりで人通りの少ない路地に入ってみたが、付いてはこず。通りから繁華街に向かう道に出た時から、別の組がフォローしてきていた。ソロソロ協会に戻って資料漁りをしたかったから、此方から動く事にする。
この世界では珍しく無い、フード付きのローブにしか見えない光学迷彩ポンチョを深く被り。監視者達の視線を切るために、入り組んだ路地に入り迷彩を作動させ、強化された肉体を使用して二階建ての商店の屋根に跳ぶ。
標的を数旬で見失った監視者達は少なからず動揺を見せるも、各々別の方向に離れて行き俺に対する追跡を諦める。ドローンで監視しているから、奴等が何処に向かうのかいずれ判明する。その時にこちらから出向けば良いだろう。いくらハンター協会が緘口令を敷いたとしても『氷の軍勢』を殲滅した事実は消す事ができない。あの出来事から様々な国家や組織が、手を変え品を変えて接触を繰り返して来ていた。
まぁ、敵対行動に移る様な馬鹿は居ないから、血生臭い事にはなっていない。
どの様な思惑があれ、迷惑と感じなければ良いだけで此方の安全を考慮してくれていると思えば良い。しかし、港を出港してからドラゴンさんの助力もあって、短期間でラッタナ王国に到着したのに監視者がいる事がふに落ちない。今日の『宴』を終えたら、こちらから挨拶に向かうとしよう。蔵人達に迷惑は掛けられない。そういえば、アイツから連絡の返事は貰ってないな。雪白先生とイライダからは連絡が来ていて、センセイだけコチラに向かうと書いてあったが。イライダは勇者達のセンセーに捕まった様だった。手紙の内容的には面倒そうな文面だったから、ハヤトに聴いた噂の女教師だろう。社会派の人権主義思想だから、この世界の女性の地位の低さを嘆いていた処に、光り輝くイライダが現れれば話したくて離さないのは目に見えてる。だからこそ、雪白だけ単独で出発させたのかもしれん。隣国との距離は雪白の脚を持ってしても、三日は掛かるから。その間に今まで出来なかった事をやるにはちょうど良い。またぞろ、蔵人が面倒ごとを抱え込んでなきゃ良いが。
街の喧騒は変わらずに、日が沈みゆくラチャムサット。その街区を構成する石造りの屋根の上を、何かが通る証拠なのか。数十m以上の間隔で奇妙なホコリと振動が起こっていた。しかし、それらを起こしたであろうモノの姿は、見る事ができなかったのである。
「ヒデト様。もうそろそろ資料室の閉館の時間なのですが…?」
ラッタナ王国ハンター協会資料室で、王国の法律や慣習、歴史や政治経済などの本を片っ端から読み漁りながら。
「………すまない。南国に来てから、少し時間の感覚がズレて居てね?とても参考になったよ、ありがとう」
最後に読んでいた『ラッタナ王国。夜の歩き方』とゆう、現地風俗に付いて詳しく書かれた本を戻しながら礼を伝える秀人。
「………いいえ。入館されてから休みもなく、昼食も摂ることもなく熱心にお読みになられて居たので………ハンターの方で、此処まで熱心に資料を読まれる方は珍しい………あら?私、以前にも同じ様な事を…?」
秀人から礼をされた司書が、秀人の資料漁りについて感想を述べるのだが。以前にも同じような出来事があった事を思い出す。
「………?…何か気になることでも?」
落ち着いた雰囲気を纏う、三十代に見える兎系獣人種の女性の怪訝な態度が気になる秀人。
「いえ、何日か前も同じ様に資料を読まれて居た方が…ヒデト様と同じ北方からいらした方で…その………その方も同じ本を最後に読まれて居たモノですから…」
「ああ…女性が読まれる様な本では無いですね。ソイツ、最後に貴女の事を口説いて無かったですか?」
「え…?ええ、『何か御礼でもしたい…』と…満更でも無かったので、『期待せずに待ってます』と…」
兎系獣人種特有の魅惑的な身体の前で両手を下腹部の辺りで組み、少しはにかみながら俯く。交差された腕で豊満な胸が持ち上げられ、更に蠱惑的な姿になって居た。
「どんな場所にいてもアイツらしい………
「え?どうかなさいましたか?」
「いえ。コチラのことです!クランドは、その後誘いに来ましたか?」
少し躊躇いがちに、蔵人の事を尋ねる。
「いいえ!もっと若くて魅力的な女性を買取って、真面目にハンター業務をなさってますよ?受付の同僚の話では『八つ星の先導』の為に奴隷を買ったとゆう話でしたが。街でも少し噂になりまして…その…被差別部族の蝙蝠系獣人種の女性で既婚者でしたから…でも!」
「既婚者であっても、奴隷に身を落としたなら。ラッタナ王国の法律では家庭からは追放され身分を喪う…だったかな?」
先程仕入れた資料を
「もう暗記されていたのですか?その女性は、クランド様の惜しまぬ投資と教育を受けて『九つ星』の試験を受ける様ですが…同じ獣人種の鳥系の方達は、その事が気に入らない様で。ことある毎に邪魔をされて………」
「…なるほど。資料で読む以上に蝙蝠系獣人種への風当たりが強い様ですね」
「私達、獣人種は純粋に『強さ』に憧れて、それを目指します。だからこそ直情傾向な者も多いのですが…今回の惜しみない協力と、強さへの直向きな努力は評価の対象です。ですが…鳥人種は蝙蝠系への差別意識がとても強くて…」
「王国以前…神話の頃に『魔王』側についたとされる蝙蝠系獣人種への忌避感も手伝っていると…?」
「…?!よく、そこまで!ええ、クランド様は気にした様子はないみたい。と…コレも同僚の子からですが」
「奴のことです。どうせ『顔と身体が好みだったから』とか嘯いていることでしょう…」
「あの、クランド様とは………?」
「同じ『流民』出身の仲間ですよ…まったく…南方に流されても女好きは変わらんか…貴女も…失礼。御名前をお伺いしてませんで。改めて、北方サレハド『流民』『八つ星』ヒデトです」
「ハンター協会。元『六つ星』司書のルアです。イロイロと長い家名とか有りますが…ハンターになってから、あまり名乗る事が無くなりました。そうですか。クランド様は女性に良く声を掛けるのですね?」
「いや!誰でもとゆう訳ではなく………その…」
「ええ、『好みの』女性ですね?受付のエフィや、カフェのキムにも声を掛けていた様ですから…『女』としては悪くない気分です」
「ルアさんの同僚の方達ですね。クランドだけではなく。私から見ても御三方其々に美しく可愛いと思いますが?」
「あら?お上手ですね!でも、そんな嘘の無い眼差しで言われると…『女』が戻ってきそう…もう三人とも若い頃とは違うのに」
「………え?」
「あら?資料をよく読まれていた筈ですが?獣人種は二十代から三十代前半で老化が止まり、七十代程度で寿命を迎えるまでこの姿のままですよ?三人とも十年前にハンターを引退したので…今年で五十四歳になりますね。孫も居るんですよ?」
「………マジで?いや………本当に?」
「え?ええ。フェイは孫が三人、キムは四人。私は二人…まぁ三人とも夫とは死別してますから『未亡人』ですね。北方の方は年齢を気にしないで、よく『お婆ちゃん』に声を掛けて下さいますね。で、まぁ悪い気もしないので『女』を忘れない様に振る舞っているんです」
司書にしては胸元が少し空き肩口まで開いた服と、身体の線が美しく出るタイトなスカート。其処から美しく曲線を持って伸びる脚は、グラディエーターサンダルに包まれ、不思議な色気を放っていた。
「自分で年齢を言うのも何ですけど、三人とも同年齢になりますね。それでもお相手してくれますか?」
不敵で蠱惑的な笑みを見せて、挑発する様に尋ねる。
そんな態度のルアを一瞬で抱き寄せて、真剣な眼差しで見つめる秀人。
「いい覚悟ですね。では、付き合っていただけますか?」
「えっ………ちょ…待ってください!冗談、冗談ですよ!」
抱き寄せられた腕を振り解こうと獣人種特有の力強さで挑むが、ヒデトの身体はびくともしない。逆に背中に両腕を回され、抱き締められてしまう。しかし、無理矢理に力づくでは無く包まれる様に抱かれ、お互いの温もりが伝わって居た。
普段なら、通常の人種に言い寄られても。見かけに反した腕力で押し返す事で、相手の男も自信を無くして抱き寄せられる事は無いから、此処までの事態にはならない。それもあって、ヒデトの獣人種を遥かに超える力と、其れに反する優しい抱擁に『雌』としての波に、身体の奥底を揺さぶられるルア。
「………そうですか。冗談ですよね?でも、『牡』を意識させる素振りは誤解を招きますよ。特に年齢や見た目を気にしない、『女性』の本質に惚れる人間にはね?」
そう言いながら抱擁を解き、静かに距離を離す秀人。
「………ええ…御免なさい…少しおふざけが過ぎました…でも………いいえ…何でもないです。そういえば、カフェでお連れ様と待ち合わせでしたね!どちらかに連れ立って繰り出されるんですか?お気を付けて下さいませ!ラッタナの『女』は見た目年齢とは違いますよ?」
久方振りに味わった『
無言で手を振り、踵を返して階下に降りてゆく秀人。其の背中を潤んだ瞳で見つめながら、『次回』があるならば場所を変えて誘う決心をするルア。一瞬、同僚や家族の姿が浮かぶが。獣人種らしく、自らの感じた欲求には従順で有り。また、久方振りの身体の『雌』の反応が決心を後押ししていた。
「フェイやキムには悪いけど………久方振りの『良い牡』………逃す手はないわね………」
階下に降りて行ったヒデトのの残り香を味わいながら、火照った身体を抱き締めるルアであった。
司書のルアを、思わず抱き寄せてしまった自分を恥じながら。『でも、アレはさ誤解を招く態度だよね?』とか。『いやいや…軽率な行動だな。連邦下士官としてはあるまじき態度だ!』『ルアさんのアレは誘いだよ?もうチョットいけたんじゃね?』などの脳内会議を行なっている秀人。喧々轟々と良識派と快楽派が意見を飛ばし合う会議場を、何度か頭を振ることによって意識の彼方に吹っ飛ばして、これからの事に思考をシフトする。
コッチの地球製の装備も渡している事によって、生存に困る事が無くなったのも遠因かもしれない。しかし、連絡も無いのは困る。ルアから思いもがけない話も飛び出してくるし…確かに『八つ星の先導』を行うのに奴隷は便利だが、相手の氏素性などが分からないのは、何かのトラブルの原因になる事は考えないのだろうか?
まぁ、奴隷を上げて仕舞えば目的は達成出来るから、短期間なら問題が無いだろう。しかし、奴は妙なところで『優しい』から深みにハマるかもしれん。一応この世界に跳んできた時からの付き合いだし、自分に課した使命でもあるから見守るしかないか………それでトラブルに突っ込んでも大概の事は対応できるしな?
其れよりも先程の尾行だ。
尾行者達を追跡させていたドローンの情報が、本を読んでいる間に入ってきていた。なかなかの手練れらしく、三班に分かれていたチームは追跡を考慮してか、それぞれ別の拠点に戻っていた。其れもスラム街、中層階級の宿、旅人御用達の一般の宿と分かれていて、背景や組織を特定するのを難しくしていた。何かしらの連絡手段を構築しているようだが、こればかりは視覚情報が頼りのドローンには難しい。
蔵人と落ち合ってから、対処するとしよう。危害を加えて来る気配も無いようだから後回しで。
其処まで考えたところで、階下から馴染みのある声が聞こえて来る。どうやら協会の奥にあるカフェからの様だ。
「そこのタンマイを奴隷として買ったそうだが、其れはウチのモノだ。返して貰おう」
「まず、何処の誰か名乗る事も出来ないのか?礼儀を知らない訳でも無いだろう」
「野蛮で卑劣な人種如きに礼儀を語られるとはな。………良かろう。私は………」
片方は、勝手知ったる蔵人の声。もう一方は聞き覚えの無い、妙に勘に触る声質の男の声だった。まず、話の切り出し方から高圧的で礼儀など知りそうに無い。この時点で穏便に済ます気がないのが分かる。何やら長ったらしい名前を口上して、上から目線で蔵人に奴隷を返せとのたまっている様だが…王国の法に従って契約し、金銭をやり取りして手に入れた奴隷だ。いきなり返せでは、話も纏まらんだろう。
案の定、はした金しか提示していない。しかし、蔵人の方も返す気などさらさら無いだろう事が、話の仕方で分かった…其れにしても二十二万パミットとは…エラく張り込んだものだ。確かに、奴の好みの顔だし。ルアさんが言っていた様に綺麗な蝙蝠系獣人種だが…気持ち的にも入れ込んでいるな?
剣呑な雰囲気になってきたが…話している孔雀羽に赤毛の男はともかく。ツレの若い二人が忍耐マックスだな。怒りゲージ溜まるの早くね?ありゃ………腰の得物に手を掛けたよ?此処、協会だぜ?流石に抜刀はせんだろうと思うが…鳥だけに揚るの早過ぎだろ。協会の受付のフェイさんが、奥に何かを伝えに行ったな?
まぁ、蔵人だけでも対処出来るだろう。
そう思って、高見の見物に洒落込もうと階段の奥で見守ろうとしたところで。さらに聞き覚えのある、低く太い声が協会の入り口から聞こえてきたのであった。
「おお!クランドじゃないか?無事だった様だな?うん?何だ、其の周りの奴等は?知り合いか?」
全身筋肉の鎧で覆われた赤巨人が、協会中に鳴り響く大音声を響かせていた。