軌道降下兵   作:顔面要塞

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 徐々に、『用務員さん』の世界に関わっていきます。原作にチョット改変を加えて行きたいです。

 魔法が使えない人間は、ごみ葛の様に見られるでしょう。だから、対人関係は・・ちょっと主人公らしくなると思います・・・。

 では、また。宜しくお願い致します。


でかい・・・蜘蛛!!

 美しい白い雪が降り積り、陽の光を浴びて神々しく輝くアレルドォリア山脈の峰々。そのまばゆく光の中の静寂をかき乱す者が、山脈の中腹に存在していた。

 

 「くそったれぇ!!銭ゲバにもほどがある!!装備無くすと『全裸』とか・・?!何処のB級RPGだよ?!」

 この雪山に『全裸』で、何某かの文句を言っている。少なくとも、零下15度になろうかとゆう場所には似つかわしくない格好だった・・・。

 確かにゲームだったら全裸クリア等にチャレンジして、達成したことは何度かあるが。現実となると様々な問題が降りかかって来る。

 

 「えーと・・確か、初期装備が在るとか無いとか言ってたな・・」

 完全に油断していた。『加護』を与えてくれると思い込んでしまっていた・・。致命的なミスだ。こんな思い込みで命を脅かされる脅威にさらされるなんて?アホな話は大概にしてほしい。

 いかん!そんな事を考えている場合では無い。何とかして耐寒装備を手に入れなければ。いくら生体強化されていると言っても、限度がある。

 

 『ポケット』を念じてみる。早速、ウィンドウが表示されたので装備の項目を開く。

 

 「布の服・木の靴・ヒノキの棒・皮の盾・・・・・・」

 即座に装備してみたモノの。あまりの使い勝手の悪さに装備を解いてしまう。布の服は雪が浸み込んでくるし、気の靴は締め付けられて履けたもんじゃない。ヒノキの棒は、田舎の子供が振り回している棒にしか見えないし、皮の盾に至ってはサイズがA3用紙分の大きさしかない。

 

 「おい、まさか・・・シャレですよね・・・?」

 あまりの事に、鼻水が垂れてくる・・いや、素直に寒さがシャレにならなくなってきた。

 

 『おお・・すまん、すまん?まさか・・ホントに装備しちゃった?ま・・お約束だからなぁ?』

 ウィンドウの端に『神』様が表示され、音声オンリ―と出ている・・。

 

 「どうゆうこった・・?現場の状況は分かっているんだろうな・・?」

 怒りを通り越した感情のまま、『神』様に話しかけるヒデト。

 

 『オッケイ、O.K.落ち着けよ兄弟?少しは異世界に跳ばされたのが実感できただろう?』

 相も変わらずのフザケタ態度の声音の『神』。

 

 「真っ裸で!!見も知らん、雪だらけの山脈で!!アホな『神』ってヤツと喋っているのに・・『落ち着け』だと?」

 怒気も、ある一定を超えると冷静になる様だ。普段は真面目に『戦争』しているから、ここまで感情が表に出るのは久しぶりだった。

 

 『気に入ってくれたようで、何よりだ?』

 「・・・・・・・。」

 『・・・・冗談だ。『ポケット』の装備欄を、もう一度見てみろ?』

 

 反省したらしい『神』の助言を聞き入れ、もう一度装備を確認する。口の端に満足な笑みが浮かぶのを我慢しながら、『装備』を選ぶ。

 

 「強化戦闘服Ⅳ型装備に、近接戦闘用ムラサメブレードⅥ型改、多機能大型ナイフ、それにボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改セット。各種投擲弾、他に・・医薬品や食料は『ポケット』の中か・・・。豪勢だな?」

 初期装備のくせして、隠密作戦で使う装備の基本型が入っている。

 

 戦闘服は、強化された化学繊維によって作られていて、ある程度の極地環境でも問題なく行動できる。密閉型なので、専用ヘルメットを使う事によって宇宙空間での使用も可能な優れものだ。勿論、ヘルメットは付いているし、一体型のブーツで足も保護される。機動強化装甲外骨格(スーツ)の様に生体増強機構は無いが、斬撃や衝撃、化学薬品などにも耐性が在る。

 

 近接戦闘用ブレードは、見た目がまんま日本刀。しかし、それは形だけで、テクノタイト合金で作り込まれた刀身は頑丈で錆びず、チタンなどは軽く切ってしまう。(それでも、ガイウス連邦の強化装甲兵(三つ目ゴリラ)には手を焼くが)

 

 多機能ナイフは、さまざな場面で使える大型ナイフだ。普段使いするにはこれで十分だろう。

 

 増強化合弓Ⅲ型改。いわゆるコンパウンドボウだが、素材にグァナ弾性体を使用し、ヴィナ化学繊維によって作られたストリング。滑車に見える部分も、超電導モーターのサポートで強化されている。生体強化された兵士が使用すれば、恐るべき射程と貫通力を誇る。火器やエネルギー兵器が使用できない状況では頼りになる。

 専用テクノタイト合金製の矢は強化装甲兵(三つ目ゴリラ)の正面を貫ける。また、矢じりの部分に特殊弾頭の設置が可能で、多目的性を高めている。

 

 各種投擲弾は、爆発・炎熱・鎮圧ガス・閃光がある。状況に応じて戦闘服に着いたタクティカルハーネスに設置される。

 

 これだけの装備が初期装備ってことは・・・

 

 『ご名答だぜ、お兄さん!!お前さんが考えている通りだ。そこは、とんでもない危険地帯ってことさ?それに、『魔法』なんて使えないキャラだから注意しろよ?フザケタ『回復魔法』なんて効かないからなぁ?』

 ヒデトの考えを読んでいる『神』。

 

 「俺は、この世界の『魔法』を使えないんだな?」

 丁度いい、とばかりに、自分の『魔法』の有無について尋ねる。

 

 『言ってなかったな・・。『魔力』が無いらしいんだわ。だから『魔法』も当然使えない事になってる・・・。多分・・。』

 

 「随分と、頼りない答えだな?」

 

 『仕方がないさ?コッチノ『神』は免許取り消しで、講習会に行っちまった。詳しく聞ける奴がいないんだ?その代わりに、イロイロな『経験』を積んでいくと『スキルポイント』が溜まる。そんでもってポイントに応じてスキルを得ることが出来るのさ?どうだ?異世界らしくなってきただろう?』

 

 「さっきの話と同じで、スキルが無ければ生き抜くことが難しいってことだろう?」

 

 『おやおや・・・。わかっているなら、そいつがどんだけ重要な事かも理解したか?ポケットのウィンドウにスキル欄も設けておいた。ただ、簡単には貯まらないぞ?』

 

 『神』の説明を聞きながら、スキル欄を覗いてみる。スキルツリー状態では無く、ポイント変換方式のようだ。今は、1ポイント。『生命力感知』が選べるようだ。

 

 『ま・・・後は、自分で考えながら生きていきな?運が良ければ『還れる』さ・・でも、まぁ『戦場』に戻るのも同じかもなぁ?頑張れよ・・?俺の『創造物』?』

 『神』としての話は終わったのか、フザケタ調子でヒデトを励ます。

 

 「さて・・・そろそろ行くよ?」

 

 『ああ・・・。それとな?コッチノ世界の『神』が干渉してくるかもしれん。そん時は相手してやってくれ?講習明けで、気が立っているかもしれないがな?『ねぇ・・まだ、お仕事・・?』すまないな、ハニー・・もう終わるさ?』

 

 「おい・・・誰だ・・?」

 音声オンリーの通話に、聞いた事も無い艶やかな声が重なっていた。

 

 『おお・・言ってなかったな。今なマリブのビーチで休暇中なんだ。お前も早く帰って来いよ?軍を退役したら、ここで働くのも悪くないぞ?今のは・・・ヴァルキューレさんだ。たまらんね・・。じゃあな!』

 

 「・・・・・・。くたばりやがれ!!!この!!黒のトウヘンボクがぁ!!!」

 

 な~んにも無い雪山で、悲しい雄の遠吠えだけが響いていた・・・・。

 

 

 文句を言ったら何か改善されて、自分の思いどうりになる。と、ゆうような非常識な思考を持っていない為。これからの目標を定めてみる。

 

 まず第一に、帰還するための手段の確保。当然そうなるな。この世界に『まほー』によって巻き込まれ転移してきた訳だから、その使用者を調査して帰還の為に協力してもらう。それには、まずコノ世界の事を知らなければならない。

 

 そして、帰還手段を手に入れる為に探索・調査をしなければならない。何も手がかりが無い状態から始めなければならないから、資金なども必要になる。

 

 やっぱり、当面の生活を確保しなければならず。資金を稼ぎ出すための仕事も確保しなければ。そうなってくると、こんな辺鄙な山脈では何も手に入れることは出来ない。

 

 「さて・・・RPGの王道・・。町か、村を探さなければ。」

 思わず、呟きになってしまう。何もわからない状態で、いきなり危険地帯に放り込まれてしまったのだから仕方がないかもしれない。

 

 取りあえずスキル欄から『生命感知』を選ぶ。1ポイントの表示が消え、『生命感知』の表示が輝き自分の能力になった事を示していた。

 

 「なになに・・?任意の場所・時間で『生命感知』を念じれば、自己を中心として半径200mの範囲で『生命力』を感知することが出来る。なお、対象の生命力の強弱は色で表される。紫が最も弱く青・緑・黄・赤の順で強くなる。任意の強さを表示しない事も可能・・か・・・?」

  

 早速手に入れたスキルを使用してみる。半径200m以内に在るのは、黒に近い紫が雪原の下に点々と見えていた。

 こいつはどうやら、高山性植物の反応らしい。色合いで強弱が分かるから便利なことこの上ないし、普段の視線を邪魔しない任意発動も地味に嬉しい。この後の経験によっては任意の段階の色合いは排除しても構わないかもしれない。どんな状況でも、自分に関わるであろう動植物を先に発見し、観察できる事は大変に有り難い。猛獣と遭遇・一撃で死亡なんてことも無くは無い。

 

 先に発見する事が出来れば、対処も可能だし。その後の行動を有利な位置に持っていける。戦闘が主目的ではないから、逃げ出す事が第一だしな。

 

 「だが・・・地図も無い雪山でどうするか・・?最初は『地図』手に入れたいな。」

 人気もまるっきり感じられない雪山で、しかも危険地帯に好んで入って来る連中は、そういないだろう。自力で下山し人里を発見しなければならない。

 「問題は・・・その手段が皆無なところだな・・・。」

 ヘタに下山すれば沢に当たり、道が阻まれるし。最悪、その先は滝かもしれない。機動強化装甲外骨格(スーツ)だったならば、各種索敵機器が充実しているし。小型偵察ドローンが基本装備に入っているから地図を作製するのも簡単。

 滝に当たったとしても、300m程度の高さならば緩衝機構の働きで影響は全くない。それ以上の高さならば、アンカーワイヤーを壁面に打ち込み、安全に降下していける。そして、河を降れば『ヒト』の生活圏に辿り着けるはず。

 

 「でもまぁ・・無理な相談だし・・。何か、無いかな・・・。」

 航法支援機器が無い状態での敵地潜入戦を何度も経験していたが、最低限の地図はあったし、方位を知るすべもあった。天測航法をしようにも異世界だったし、そもそも天体が観測できない昼間であり、雲が出ていてそんな事が出来る状態では無い。

 

 そんな事を考えていると、山脈の麓にかけて広がる針葉樹林帯から遠雷の様な音が響いてきた。どう考えてみても雷が落ちるような天候状態では無い。しかも、聞こえてきた方向は麓・・自分が居る中腹よりも遥かに低い場所からだった。

 自然現象が発生する仕組みを知っている人間ならば、確実に訝しむ状況だった。普段どうりの世界ならば。そう、ここは異世界。何が起こっても不思議ではない。

 

 「おいおい・・・やっぱり危険地帯なのか・・。それにしても、こんな新雪が降り積もった山間で大音量を上げるとは・・雪崩でも起きたら困るじゃないか?」

 あからさまに、不可思議な現象が起きている事を感じてみても全く取り乱す態度が出ない。

 

 「ここに、ずっと居るわけにも行かん・・。何かしらの変化は必要だ・・。最低でも、この世界の危険地帯の状態が分かるかもしれん・・?行ってみるか・・。」

 一人なのを良い事に、呟き続けるヒデト。雪山の寂しい山間で、独り言をつぶやき続ける男が居たら。俺だったら近づかないね・・。自嘲気味に口の端を笑みで歪め、戦闘服に付随したヘルメット装着し、『生命感知』を発動させ。ボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改(ボーゲンヘン)を装備して、雷鳴が響いてきた場所に向かって歩き出す。

 

 「さてさて・・鬼が出るか・・おっと・・異世界だからモンスターか・・?」

 どちらでも構わない、どちらにせよ確認するだけだ。何もわからない状態はつまらないし、何かあるなら積極的に行って、主導権を握りたい。少なくとも、満足を幾ばくか感じてから迎える死の方が良い・・。

 

 

 

 「なんじゃありゃ・・・・?」

 目の前・・・といっても、目測で250m程度は班れているが。そこで繰り広げられている光景に、おもわず声が漏れてしまう。

 

 遠雷の様な音が聞こえた場所に向かって山を降ってきたが、歩みを阻む断崖や急流などは存在せず、さして時間もかからずに到着できた。

 強化された肉体が役目を果たしてくれたのは言うまでもないが、戦闘服が雪の侵入を阻み体温の低下を防いでくれたのも役立っていた。

 

 音が聞こえてきた場所に近づくと、ヒトの叫び声に混じって何かが炸裂した様な音も聞こえて来ていた。そして、眼前で展開される戦い・・。

 

 いや・・、戦いと呼べる代物では無かった。全長が6mはあろうかと思われる大蜘蛛が、統一されていない様々な装備をした集団を、ほぼ一方的に蹂躙していた

 先端が鋭い槍の様な形状の大蜘蛛の脚に刺し貫かれて、なお命を失わずに助けを乞うもの。脚に刺し貫かれて、生きながら蜘蛛に半身を食われている者。その巨体に踏みつぶされ、うっすらと降り積もった雪に血の沁みを留めているだけのモノ。

 その光景を見て、戦意を喪って逃げ出すものがでていた。

 

 その集団から離れた藪の中に、女性が一人座り込んでいた。黒髪のショートカットで、顔つきは東洋系。自分と出自は同じ民族に見えた。

 

 「ああ・・もう駄目だな。」

 凄惨な光景を見ている者とは思えない、落ち着いた声の調子で呟くヒデト。

 

 あそこまで士気が崩壊してしまっては、もうどうにもならない。強大な敵の存在があっても、個の力には限界がある。最初の人数が何人居たか分からないが、少なくとも10名以上だろう。確かに屠るのは難しい怪物だろうが、お互いに援護しあいながら森林地帯に逃げ込めば、大蜘蛛の巨体が邪魔をして奴が追撃するのは難しい事になっていたかもしれない。

 結果、全体の八割以上は助かる公算が高い。しかし、士気が崩壊し部隊として行動できないならば、殲滅されるだけ。仲間だったモノが食われている内に、逃げ出すしか無い。『どうか自分だけは助かりますように』と、神に祈りながら、若しくは降りかかってきた不運を嘆き、呪いの言葉を吐きながら。

 

 そこまで考えた所で、この場所が危険地帯の範囲に入っている事を再確認できた。

 

 今現在の装備で、大蜘蛛を倒すことが出来るか考えてみたが、正面切っての戦闘は論外。蜘蛛に感知されない距離からのボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改(ボーゲンヘン)による一撃しか思いつかない。それも、爆薬弾頭を使用し破壊効果を狙わなければ。

 全長6mに達する巨体に、いくら貫通力が有るといっても矢を射込んだところで殺傷効果は低いだろう。蜘蛛の表面は岩の様な外見だし、その厚みは生半可な攻撃では破砕出来ないと推測できる。

 実際、先ほどの戦闘を見る限りでは矢や槍がはじき返されていた。HEAT弾頭を用いてみたいが、表面が岩ならば単純な破壊効果を及ぼす爆薬弾頭で十分かもしれない。

 今所持している爆薬弾頭は榴弾・HEAT・粘着榴弾の三個のみ。必中を期さなければ、自分が先ほどの連中と同じ末路を辿ってしまう。

 

 「くわばら・・くわばら・・あんな末路は遠慮したいもんだ・・・。」

 蜘蛛との仮想戦闘に区切りを付け。改めて戦場を見渡してみる。先程の連中の中では場違いな、黒髪のショートカットの女の子が、白い豹の様な生き物に咥えられて戦場から離脱するところだった。

 

 「・・?!」

 まったくの偶然だろう、白い豹と目が合った。向こうも以外だったのだろう、眼を見開いて、長い尻尾を警戒するように立たせていた。

 コチラに敵意が無い事を確認したのか、それとも興味を無くしたのか。音も無く素早い動きで山脈の中腹に向けて走り去っていた。

 

 「敵意はなかったが、女の子をお持ち帰りしてどうするのだろう?」

 自問する声が、知らず口に出ていた。マルカジリカ?いやいや・・お肉としては豊満な肉体では無かった。かといって柔らかさを感じさせる躰でもない様に見える。

 どうするのだろう?状況から考えてみれば、あの大蜘蛛から彼女だけ助けた様に見えたが・・・。

 

 『うぐぅあぁぁーーー!!!』

 

 針葉樹林の中から凄まじい絶叫が響き渡り、ヒデトの思考を中断させる。

 

 悲鳴が響いた針葉樹林帯に目を向ける。逃げ込んだにも関わらず、運悪く捕食された奴が居たようだ。捕食されている場所から、谷に向けて必死に逃げているのは4人しか居ない。

 どうやら、あの谷を抜けた先が文明圏になっているようだ。あの蜘蛛の勢いなら人間の生活圏に入り込んでしまうかもしれない。

 

 「まずいな・・・。」

 これから集落や町などに辿り着きたいのに、いってみたら蜘蛛に滅ぼされていましたでは話にならない。自分の目的に近づく手段を節足動物門に邪魔されるのは気に食わない。

 それに、この世界の『危険地帯』の基準を定めるには・・・。

 

 「戦ってみるか・・・。」

 声に出して決意を新たにする。

 

 ボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改(ボーゲンヘン)の装備の中から粘着榴弾弾頭を選び、森林地帯に向けて蜘蛛に気取られない様に進んでゆく。

 

 3分ほどで森林地帯を見下ろす岩場に辿り着く。

 

 「上手く行ってくれよ・・・。」

 そう、呟きながらボーゲンヘン増強化合弓Ⅲ型改(ボーゲンヘン)を構え、大蜘蛛の岩の様な背に狙いを付ける。

 深い呼吸の後、数瞬息を止め放つ。

 

 近代科学の技術を盛り込まれた弓から放たれた矢は、秒速300mにもなる。これでも、アシスト機能を働かせていないのだから恐れ入る。

 

 標的までの距離は150m程度。即座に蜘蛛の背に着弾し、粘着榴弾が爆発する。その爆発で蜘蛛は一瞬伸びあがった後に、痙攣を起こして沈黙する。岩の様な見た目の体表に亀裂が入り、破壊効果があったことを証明していた。

 生死の確認もかねて、普通矢でもう一度蜘蛛を刺し貫くが、反応が無い。仕留めたと思いたいが、異世界の事も手伝って慎重に行動する。

 『ポケット』で装備交換。近接戦闘用ムラサメブレードⅥ型改(ムラサメ)に切り替える。そして完全に沈黙した蜘蛛の頭部に刃を入れる。流石に切れ味は抜群で、大した抵抗を感じさせずに切り落とすことが出来た。

 

 「これで、一安心。しかし・・粘着榴弾を使っちまったな・・。」

 でも、この世界の『危険度』が認識できた。何も知らない状態から一歩前進だ。改めて蜘蛛を観察してみると、大きさと体表面の頑丈さが実感できる。しかし、先ほどの戦闘で見せた強靭さは感じられない。活動していた時の様な分厚い装甲感が無いのだ。

 なぜ、死んだ後で強靭さが喪われたのか分からない・・・まさか、この世界の動植物は魔法が使えるのだろうか?

 それが事実なら恐るべきことだ。どの様な種類の魔法があるのか分からない状態から抜け出さなければ。どのような状況に陥っても知識があれば対処は可能だし、そもそも知識が豊富にあれば危険を回避する判断を下す事が出来る。

 

 「やはり、ヒトの生存圏に向かわなければならないか・・・。」

 このような遭難状況では、ヒトの生存圏に向かうのが得策なのだが、誰もが魔法を使える世界では話が違ってくる。当たり前の様に魔法を使う社会で、魔法・・いや、魔力すらない人間が存在したとするならばどの様な事態になるか・・。

 ま、ろくなことにはならないのは確実だろう・・。

 

 しかし、行かなければならない。『自分の世界への帰還』が目標なのだから。それに、人間一度は死ぬものだ。その覚悟さえあれば、どうとゆうことはない。いや、死ぬのは怖いが・・。

 

 矛盾した思考をもて遊びながら、一人の男が人里に向かう谷に向かって、歩き出していた・・・・。

 

 

 

 「あ?!素材回収すんの忘れてた・・・?くっそ・・チョットグロイなぁ・・・。変なのついた!!?解体メンドクサ!!!」

 

 食い散らかされた死体が散乱する森林地帯で、ブツブツ文句を言っているオッサンの声だけが響いていた・・

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