ただ、ただ働きます。
お持ちしていた方々。申し訳ございません。そして、有難うございます。
また、次話でお会いしましょう。
穏やかな漆黒の海に、水平線から昇る太陽の美しい光が差し込み、一気に闇が払われてゆく。
暖かい闇の静寂が破れ、光を友とする生き物達が騒ぎ立て始め、アンクワール諸島に様々な音が響き初めていた。
「各パーティからの連絡は纏めたのか?」
五十代に見える風体をした人種の男が、廻りで忙しく働く人々に見向きもせずに。アンクワール南方域の地図を見ながら、不遜な態度で質問を発していた。
「はい支部長。各隊とも概ね所期の目標を達成しつつあります」
側に控えていた兎系獣人種の女性が、取りまとめた報告を分析した結果を男に伝えていた。
「キングの動向は?」
地図から視線を外し、緊張を解いた気楽な態度で女性に尋ねる。
「一番層の厚い場所を、マクシーム様に担当して頂いた成果が出ていますね。 最も巨大なキングは、先程屠られたとの報告が入っております」
「他の戦区はどうなっている?」
テーブルに置かれていたお茶に手を付けながら、一息ついて質問を発する男。
「キングは四体確認されていますが、それぞれに討ち取られています。しかし・・・」
支部長の質問に対して、澱みなく答える秘書官である女性。だが、最後の報告は怪訝な態度であった。
「しかし・・・?何があった?」
冷めきったお茶を一気に呷り。鋭い視線を飛ばす男。
「マクシーム様が担当した戦区は、殴り屠られた岩蟹の惨状で凄まじい有様です。しかし、他の戦区では・・・探索者・傭兵・国軍そして、我がハンター協会の者達が仕留める前に絶命していた事が確認されました。・・原因は不明ですが、調査中です」
怪訝な雰囲気を纏いつつも、現在判明している事柄を伝える秘書官。
秘書官の伝達事項を頭に入れながら、次の事柄について指示を出す支部長。
「わかった。キングを仕留めたのならば、後は烏合の衆に成り下がるだろう。前線を一時縮小。各隊に休息を摂る様に伝えろ。後退した戦線の維持には国軍に担ってもらえ。初動の対応の遅れを挽回するには丁度良いはずだ。アッチのメンツも立たせなきゃならん。それと蝙蝠系獣人種達の偵察と攻撃は続行だ。疲れていて大変だと思うが、踏ん張り所だと伝えてくれ」
「分かりました。各隊はお互いに連携しながら、後退に入っております。組織的な岩蟹の追撃はございません。岩蟹の甲殻の変色も無くなったようです。蝙蝠系獣人種の連絡・偵察・攻撃は、とても効果がでております。情報を分析して各隊に伝達する効率が違いなす」
「そうか。これで、蝙蝠系獣人種達を積極的に雇用出来る様になればいいな・・。それと、攻撃に使用する樽・・何だっけか?」
「樽爆弾ですね。数量は確保されています。おって、製造されたモノが順次搬入される予定です」
手元に置かれた報告書に視線を落とし、樽爆弾の項目を確認。追加事項も含めて支部長に伝える。
「しかし、発案した奴には頭が下がる。精霊魔法でも無い、直接攻撃でも無い、こんな簡単な方法があるとは…定期的に樽爆弾をお届けすれば、岩蟹についての問題は解決同然だな?」
秘書官に同意を求める様に、緊張した雰囲気を解いて話し掛ける。
「樽爆弾の製造原価や、蝙蝠系獣人種達への報酬等を概ね計算してみましたが。費用対効果で考えれば大変効果的な手法ですね」
「よろしい!大変に宜しいじゃないか!さて、支部長としては少し休息を頂きたいのだが構わないか?」
「危機的状況は回避されたと考えますので。ベイリー支部長が休息に入られても問題は無いと思われます………煙草ですか?」
秘書官の冷静な態度のまま、現状についての分析を述べる。最後の煙草については嫌悪感を含んでいたが。
「まぁ………禁煙は諦めたよ。現役であれば煙草など考えもしないのだが、こうストレスが溜まるとな?悪い知らせは直ぐに伝えてくれ。少し出てくる」
言い訳をする様に頭を掻きながら、懐から取り出した煙草を咥えて臨時指揮所の天幕から出てゆくベイリー。天幕から十分に離れた木陰で火精魔法を使って火を付ける。
精神的な休息を味わう様に、肺に含んだ紫煙を鼻から吐き出して一息をつく。
これで、岩蟹については一段落ついたな。まったく…誰が考えたのかわからんが効果的な手法を編み出してくれたモノだ。国の上層部からの発案だと云うが怪しい話だな。旧態依然の体制で良しとする自分の故国が、被差別種族を表立って使う手法を選ぶとは思えない。王子なら気になどしないが、周りの官僚貴族共が其れを赦すとは思えない。マクシームの仲間である流民の二人が出処か?
ザンバラ頭の茫洋とした方なら、奴隷にした蝙蝠系獣人種の女がいたな。昇格の査察に立ち会ったから覚えている。空中を自由自在に飛び回り、的確な攻撃で岩蟹を屠っていた。こんな方法があったのか…と感心したもんだが、それ以上の効率的な手法が編み出されるとは…魔獣と面と向かって対決した時代は、過去のモノになってゆくのかも。
まぁ良い…俺の職責の範疇では概ね旨くいっている。岩蟹がキングに成った事については、迷宮を管理する探索者協会と国に問題があったのだろう。両方に配属された元部下や友人から、様々な話が漏れてきている。今回の事案を見過ごした人間が、元部下だというのが気に入らないが。あの鳥野郎、ウチをクビになった後で探索者協会に入ったようだが、何故キングの兆候を見逃すような事を成したのだ?
下手をすれば、国ごと亡びかねない事柄なのに?
早速、王子の配下の影達に捕縛されたが。今頃、丁寧な尋問を受けてる最中だろう。
金に困っていたから、その線で誰かに操られた可能性が高いな。国が亡んでも構わない連中が絡んでいるから、背後関係は洗い出せないだろうが、何某かの謀略の端緒でも掴めれば糸を辿ることができる。ウチで勤務していた時から、貴族や官僚との付き合いがあったからその線かも。旧態依然の貴族どもや官僚は、生き残る為に自らの妄想を信じて暴走する事があるのは、歴史が何度も教えている。
あの根性無し供を焚き付けた連中が居るのだろうが、其処まで辿り着けるだろうか?いや………この先は俺には関係が薄い話だ。ラッタナ王国ハンター協会支部長ベイリー・グッドマンの権限を超えている。ただでさえ超過勤務で妻にドヤされているのだ、この先は他の連中の仕事だ。
考えが纏まりかけた処で、自分が無意識の内に三本目の煙草に火を付けている事に気づく。火のついた煙草を惜しそうに見ながら足下に落として踏み消し、頭を振りながら天幕へと向かうのだった。
「今日はツイていたなぁ、何処に繰り出すかな?」
ラッタナ王国の演習場跡に造られた豪奢な商業施設群。その中でも一際大きく豪奢な建物から片腕を喪った鳥人種の男が、博打での成功を謳いながら機嫌良く出て来ていた。
ちょうど二日前に奴隷になった元妻の見受け金が入り、カジノでの賭け金が潤沢であった為に。焦る事なくジックリと勝負に出れた事が幸いして、チョットした一財産を稼げていた。一瞬、妻であった蝙蝠系獣人種の女の顔が浮かんだが。喪った筈の腕の痛みが甦り、スグに掻き消えてしまっていた。
「クソ!縁起でもねぇ…今日は久方ぶりに娼館にでも出向くか?」
賭け金をせしめた者共通の景気の良い独り言を吐き出し、繁華街の中心に向かう男。カジノで見事に散財した者達の羨望の視線を集めながら、上機嫌で娼館への道を歩き出すのであった。
高級娼館南国夫人
高級な娼館に相応しい豪奢な作りの部屋には、甘い男女の秘事を隠す様な香が焚かれていて、大きな作りの寝台に寝転ぶ男の匂いを消していた。
先程まで高級娼婦の卓越した技術に翻弄されていた男は、心地よい疲れと共に今日の賭け事を振り返っていたが。喪った左腕が責め苛む様に痛みをもたらし、現実へと戻っていた。
「クソッ!腕など無いのに。なぜ、痛みなど………」
あるはずの無いものからの痛みが、見捨てた息子と妻の過去の幸せな顔を思い出させて来ていた。
「ああ!そうさ!!見捨てた!!俺が見捨てたんだ!他の誰でもなく、俺自身が!」
ベッドから起き上がり、澱の様に淀んだ感情を吐き出す様に叫んでいた。しかし、片翼を喪った鳥人種の痛みが和らぐ事はなかったのだった。
ラチャムサットの繁華街に君臨する夜の女王『南国夫人』
「やっとだ………思えば長い道のりだったが、オレの情熱を阻むことは出来ない!!幾多の艱難辛苦が襲い掛かろうともな!!」
美しい装飾が輝く外観と、妖しげな光りが乱舞する照明によって道行く世の男性を惹きつける。其の建物の入り口となる大きな門の前で、鍛え抜かれた肉体を持つ巨人種の男が感慨深げに声を上げていたのだった。傍らに仲間らしき普通種の人種を従えながら。
「そんなに問題があったのか?秀人?」
3mに近い巨軀をもつ男の傍らに控えていた普通の人種が、もう一方の男に話しかけていた。
「うんにゃ。奴に掛かれば大抵の事は問題にはならないな。なんせ伝説の龍種にすら挑戦しようとしていたんだよ。問題は本人にあるんだろ?まったく自覚しちゃいないだろうがなぁ」
「そんな事まであったのか?今日の闘いでも化け物ぶりを発揮していたから、龍に挑んでも生き残りそうだが………」
茫洋とした表情に驚きの色味を帯びた男が、感想を述べている。
「キングを手甲装備だけで撃破出来るのなんてマクシームぐらいだろ?そんでもってほぼ無傷なんだから、チート持ちの転生者なんじゃねぇのか?召喚なんぞせずとも、コッチの世界に十分すぎるチーターが居るじゃんねぇ?」
溜息混じりに爆発寸前のマクシームを見遣り、肩をすくめながら応える秀人。
「確かにな。召喚された勇者連中も、マクシームの闘いを見たら自信を無くしそうだな?」
「なんだ戦友!!娼館、娼館と!二人の気持ちもオレと同じく逸り昂っているのだな!だが友よ!焦る事は無い………見ろ!この輝かしい門を!此処さえ潜れば驚天動地の安息の場所へと、我々を導いてくれるのだ!!」
昂りを抑えた表情で。幼児をあやす様に語り掛ける赤魔人。
「召喚違いなんだが………秀人サン………」
「まぁ、致し方無いですよ蔵人サン………」
マクシームの興奮振りを冷静に観察して、お互いに顔を見合わせる男達。会話の内容と表現が微妙に食い違っている事に嘆息する。
「
そんな二人にいつもの様に冷静な口調で話し掛ける蝙蝠種の女性。
「ひっ!?ヨビ?いつからそこに?宿に先に帰って無かったっけ?!」
自分の母親に、イケナイものを見つかった息子よろしく。素っ頓狂な声を出す蔵人。
「お申し付けがございませんでしたので。奴隷は主人に付き従うものです」
感情を消した普段どうりの受け答えのヨビ。しかし、これから女性と素敵な時間を過ごす目的の男にとっては、世にも恐ろしい雰囲気に感じられていた。主に蔵人にとってはだが。
「イヤー、その、なんだ…二人に誘われてね!ラッタナの夜も賑わっているし?なぁ秀人サン!?」
貞淑な妻に自分の痴態を見せたときの様な狼狽した態度の蔵人。どうにも自発的に性の解消に来ました!!と、開き直って仕舞えば傷も浅くて済むのだろうが。人間的に非常に正直な蔵人は、引率者である秀人に救いの言葉を発するのであった。が………
「秀人様ならマクシーム様と連れ立って、娼館にお入りになりましたが?」
退路を断つ絶好のタイミングで事実を確認するヨビ。まったく普段どうりの態度なのだが、蔵人にとっては死神にしか見えない。恋愛や、奴隷に対する肉体的な奉仕を要求する事が無い…いや、出来ない蔵人にとってヨビの存在はかなりの領域を占めていた。だからこそ、ヨビに対して狼狽することになり。秀人を共犯にして自らの釈明に用いようとしたのだが………
数々の戦場で生き残って来た秀人の危機回避能力はずば抜けており、場所や状況を選ばないで発揮される。この様な場合でも如何無く顕現し男女間の複雑な戦線からの離脱に成功していた。
「………その、ダナ。イロイロとワケがゴざいマシテ………」
シドロモドロに狼狽した蔵人の言語野は混乱し、複雑な言葉の応答になっていた。なんとか現状を打破しようと、脳細胞が活発に動き回るのだが。今までの人生で経験したことの無い色恋沙汰の知識など皆無に等しく、無駄にエネルギーを消費するだけであった。それでも、全力で向き合い、何某かの言葉を搾り出そうとヨビに向き合う為に顔を向ける。
しかし、顔を向けた先のヨビは此方を見ておらず。ヨビの向いた先に視線を向ければ、三十代中盤に見える片腕の鳥人種の男が、呆然とした様子で佇んでいたのだった。
南国特有の風の通りを意識した開放的な構造を多用した構造と、氷精が封じられた魔法具によってもたらされる涼やかな風も相俟って。茹だる様な暑さの外とは別世界の南国一の娼館『南国夫人』
様々な人種や立場の者達が、美しい女達に先導されながら各々の部屋に向かって行く。マサにパラダイス。
だが、そんな雰囲気を壊すかの様に受付の方から危険な空気が漂ってきていた。
「………どうゆうことだ?既に娼館に居ないだと……?」
『南国夫人』の受付で、地獄の底から響く様な低く太い声で尋ねる声が流れていた。
「で………ですから…先程も説明しました様に、彼女との契約は昨日まででして………お客様のご要望には応えられないと………?」
応え方を間違えれば、確実に明日の朝日を拝むことはできないであろう状況を察して、ひどく丁寧で言葉を選んだ対応をする受付。助けを求めるかの様に、マクシームの傍に立つヒデトに向けて視線を漂わす。
「………話は分かった…。で、彼女はどこに向かったんだ?」
流石に此処でマクシームの活火山活動は見たく無いので、沈黙の巨人を宥める様に叩きながらお目当ての女性の行方を尋ねるヒデト。
「専属契約ではないので…詳しく尋ねることは無いのですが…東南大陸の
今はまだ冷却材であるヒデトの存在で爆発を抑えられているが、ちょっとでも刺激を与えれば爆発的な噴火を起こしかねないマクシームの様子を伺いながら、慎重に伝える受付。
「………運命とは…残酷で容赦のないものだな………だが!!俺は挫けぬ!怯まぬ!諦めぬ!!」
娼館を揺るがす程の慟哭と、不退転の決意を滲ませた感情の爆発。清々しい程に明るい顔を秀人に向け、娼館の出入り口に向かう赤魔神。
「っおい!どこ行くんだよマクシーム⁈」
「知れたこと………新たな冒険へと旅立つのだ!止めてくれるな友よ!」
いや、止めるつもりは毛頭ないが。此処で言葉を掛けなければ絵にならない………イヤ…マクシームの脳内妄想に付き合わなければ、いじけてしまう。付き合いが長くなると、思っていた以上にナイーブな男だと分かってきていたから、落ち込ませない様に気を遣わなければならなかった。
蔵人といい、マクシームといい………面倒な奴が多いな俺の周り?
「
「また逢う日もあろう………その時まで御互いに息災でいよう?では、マクシーム参る!」
先程の音量を上回る声を張り上げて、意を決した覚悟の男が走り出していた。後日、余りの音量に、事に及んでいた何組かが痙攣に見舞われ悶絶する事になったのだが、其れはまた別の話であった。
「お客様はどうなさいますか?」
打って変わって、愛想の良い笑みを浮かべながら危険性の少ないヒデトに営業を掛ける受付。流石に南国一を謳う娼館の受付。変わり身が早くないとやってはいけない。
「ツレがアレではね…すまんが興が削がれた。また今度にするよ。此れは迷惑料だ、受け取ってもらうと嬉しい」
そう告げて、千ロドを渡す秀人。
「それはっ…かしこまりました、有り難くお受け致します。お立ち寄りくださったときは、全力でおもてなし致します!」
受付の見送りを受けながら、『南国夫人』を後にする秀人だった。
煌びやかな装飾を引き立てる様に、色とりどりの光源によって美しく照らされた『南国夫人』に続く通り。行き交う人の流れから僅かに外れた処に、怪訝な雰囲気を漂わせた男女三名が佇んでいた。
「………スックなのか?」
娼館から出てきた鳥人種の男が、茫洋とした声音でヨビに尋ねていた。
「………ナバー…」
確認する様に二度ほど鳥人種の男を見て、つぶやく様に答えるヨビ。普段から感情を表に出さないヨビにしては珍しく、驚きの表情が見えていたし。なんとはなく、全身から哀しみの雰囲気が感じられた。他人の気持ちなどを推し量る事が難しい蔵人にしてみても、それぐらいの事は分かるほどに動揺の色が見て取れた。
「誰なんだ、ヨビ?」
ヨビの態度と、あからさまに怪訝な鳥人種の男の遣り取りを見れば、人間関係を読み取る事が苦手な蔵人でも二人の関係性は見て取れた。多分、ヨビが奴隷になる切っ掛けになった家族だろうと当たりはついていた。それでも、今の所有者は蔵人であったから、其れを確認する意味でもヨビに尋ねていた。
「失礼致しました、
ちょっとした衝撃から立ち直る様に、冷静さを全面に出した態度で答えるヨビ。
「………そうだったな。今は赤の他人だ!アンタが今の所有者か?エラい高値で買ってくれたもんだ?有り難いかぎりだ。お陰で俺は賭博や酒代に困る事はない。娼館にだって入れて美しい女達も抱ける。
冷静な態度に戻ったヨビと、主人である蔵人を見ながら揶揄する様に大きな声で語り出すナバー。
「………そうか?其れは良い事だ。私も良い奴隷を手に入れる事が出来て助かっている。私の基準で言えば。ヨビに優る美しい女性は多くは無いと思うが…?まぁ、人それぞれだ。行くぞヨビ」
「アッ………ハイ、
ナバーの揶揄など全く気にしない態度で、ヨビを抱き寄せる蔵人。その際にナバーに見せつける様に抱き寄せた手で、ヨビの豊満な乳房を揉み上げる。突然の蔵人の行為に、艶のある熟れた女の声を上げつつ蔵人にしなだれかかり肌を重ねて寄り添うヨビ。
「……くっ!?アンタも俺と同じだ!可哀想な女に同情して善人ヅラしたいだけだ!いずれ後悔するだろうさ!?」
一瞬、支配される雌の姿を見せられたナバーの顔に、暗く爛れた感情の色が浮かぶが。其れを打ち消すかの様に、声を張り上げて蔵人を挑発するかの様に言葉を投げつけていた。
「ヨビと貴方の間に何があったのかなど興味も無いな。同情しないと言えば嘘になるが…私が購入した動機は、ヨビが使えると考えたからだ。実際、直ぐに九つ星のハンターに昇格したし。今回の
「アっ!?………痛っ…はい…申し訳ございません
ナバーの言葉を受けても態度も変えずに、ヨビを購入した際の事を思い出しながら事実を告げる蔵人。『良い商品』の感想を淡々と話し、抱き寄せたヨビの右胸の中心部を軽く摘み上げる。蔵人の痛みと甘美さをともなった予期しない牡の支配に、股を潤ませながら付き従うヨビだった。
「…クッ!?そうしていられるのも今のうちだ!!絶対に後悔するぜ!!」
既に興味も無くなった態度の蔵人の背中に向けて、意味のない声を張り上げるナバー。
しかし、娼館の煌びやかな光を背に受けながら一つの影となった二人には。全く意味の無い雑踏の音にしかならなかったのであった。