いや~昨年はキツイ年でしたw今年もキツイ年になりそうですw
副業で、世界的なアマさんにお世話になりますw働いてしっかり投稿してゆきたいです。
水平線から、一日の始まりを告げる旭日の光が昇り始める。今日も今日とて、日々の暮らしの為の一日がラチャムサットで始まる。昨日までのラッタナ王国に於ける、
そんな街の高級な宿屋が占める街区の一角。
一際豪奢な造りの大きな宿屋………いや、宿と呼ぶには相応しく無い偉容を誇る『南国の星空亭』
『亭』と呼ぶには不釣り合いな建築で。北方の荘厳な石造りと、南国の美しい木目を多用した様式が高い次元で調和をもたらした構造は。高価な宿屋が林立する宿街でも、ある種の高貴さを漂わせていた。
4m程度の美しい彫刻が彫られた木の入り口を通ると、二階部分と吹き抜けになっているロビーがあり。日が上り始めたばかりなのに、大勢の宿泊客で賑わっていた。その奥側に、大きな酒場兼食堂があり。大勢の宿泊客が賑やかに会話しながら、今日の活力の元となる食事に勤しんでいた。
朝からでも呑めるように、奥まった酒場のカウンターには壮年のバーテンダーが、少なくない客を相手に酒精を振る舞っていた。
「すまない、ビールを頼む。サイズは中ジョッキで」
宿泊客の一人である秀人が、夜明けと同時に起き出し。挨拶がわりの注文する。他の客の応対に入っていた壮年のバーテンダーに代わって、奥の厨房から兎系獣人種の栗色のショートヘアの女性が注文に応えていた。
何気ない客とバーテンダーの当たり障りのない会話を進めながら、ビールを減らしてゆく秀人。そろそろ二杯目を注文しようとした秀人が、振り向きもせずに声を上げる。
「よう?昨日は楽しかったか?」
「………なんだ…気づいていたのか?」
気怠げな視線を秀人に向けながら、獣人種バーテンダーにお茶を頼む蔵人。
「まぁ、そんなに女性の匂いを漂わせるのは、色男の証明みたいなもんだ。なんだ?そのツラは?文句でもあるのかい?イイ女だと思うが、何が不満なんだ?」
二杯目を口に運び、一息ついてから蔵人に尋ねる秀人。
「不満とか、そんなんじゃない!ただ………」
「ただ………?」
「異世界人の俺が………居場所のない俺が、ヨビを………必要としても良いのかって………」
秀人から向けられた視線に応えず、バーテンダーから差し出されたお茶を見ながら、望洋とした気持ちを応えていた。
「奴隷を購入した主人のセリフじゃないな?まるで、初恋の高校生の様な答えだ」
「………仕方がないだろ!前の世界でも、こんな感情を経験する暇なんて無かった!責任だってある!」
「責任ときたか?お前?責任感で人を好きになるのか?」
「違う!モノの例えだ!其れに、ヨビが求めているモノを追えるかどうかも分からない。元の旦那も腑抜けになっていたし………」
相変わらず茶器に視線を落としたまま、応える蔵人。
「ヨビが、何を求めているかか………そんなに深い話になっちまったのか?俺が見たのは、元旦那とお前達二人の遣り取りと。夜道に消えて行く二人の重なった姿だけだしなぁ?何があったのよ?オジサン、ソウダンノルヨ?」
色恋沙汰に疎い蔵人を揶揄う様に、妙チクリンナ言葉と態度で話す秀人。
「話を聞いて貰おうと思った俺が馬鹿だった!自分で解決する!」
流石に我慢の限界を越えたらしく。普段では見せない怒りを滲ませながら席を立とうとする蔵人。
「………まぁ、待てよ。ヨビの仇の話だろ?」
「…!!…知っていたのか!?………っ!まさか、ドローンで!?」
秀人の口から、ヨビと自分しか知らないと思われる事柄が飛び出し。慌てる蔵人。秀人が十機単位で索敵と諜報に使用しているドローンの事を詰問する。
「慌てんな。流石に仲間のプライバシーには踏み込まん。其れに、お前自身『商店』からドローンを購入して使ってるだろう?不意を打たれる様な事は無いだろうから、お前のトレースはやめているよ」
「じゃあ何故?!」
「落ち着け。朝から大声出しても注目を浴びるだけだぞ?この界隈じゃ、ちょっとした有名人になりつつあるんだ。目的を達成するには、あんまり派手にならん様にしないとな?」
三杯目のビールを注文しながら。ウエイトレスに『チョイと奥の個室を借りるよ?』と告げながら、会計にしては多めのチップを台に置き。蔵人に目で頷きながら、奥の個室に誘う秀人。
落ち着き払った秀人の態度に。若干苛立ちを含みながら、付き従う蔵人だった。
「どこまで知ってる?」
カウンターから奥まった個室に入るなり、詰問口調で秀人に詰め寄る蔵人?
「落ち着け。今、ドローンで音声シールドと光学ジャミングを掛ける…ヨシっと…お前の件とは別件で依頼された仕事絡みで、お前らの話が飛び出て来たんだ。こっちの方が驚いたよ」
席につき。カウンターから持ってきた三杯目に口を付け、ひと段落して喋り出す秀人。
「………?別件って、何の依頼なんだ?ヨビとの関係は!」
椅子に腰掛けるなり、秀人に迫る蔵人。
「オイオイ?守るべき者が出来ると違うな?まぁ良い、良い傾向だ」
「茶化すな!」
荒れていた気を落ち着かせる様に、二杯目に注文したチャイを飲み。秀人に返す蔵人。
「順を追って話そう。依頼の事は大した事じゃ無い。ドルガン議長がラッタナの王子と懇意でな。御互いに北方諸国の介入に嫌気がさしていたんだ。お前も見ただろう?この国に溢れる北方の商人や貴族共を」
「それとヨビとの関係は?」
「焦んなって。ドルガン議長の依頼で、王子の変革を手伝って欲しいだと。主に後ろ暗い方法で。で、昨晩別れた後。議長の親書と一緒にお邪魔したのよ。王子の部屋に」
「いきなりか?」
飲み干したチャイの御かわりを頼むべく。そばに待機させていたドローンを結界の外に出し、音声を外部出力にして注文を告げる蔵人。合わせて、起床しているであろうヨビの為に。自分の部屋にモーニングサービスも頼んでいた。
「…?感心するねぇ。気遣いの出来る優しさは知っちゃいたが…さり気無く出来る様になったんなら、色恋沙汰は合格点だな?」
「そうゆう秀人は如何なんだよ?」
「俺か?オッサンには、そんなもんは無い!からかって見たが、突っ込まれたら返答しようが無かったさ!笑えるだろ」
「何だよ…ハードボイルド気取りか?」
「お前が、あんまりにも動揺してたんでな?」
「余計なお世話だ。で?ヤッコさん、相当驚いていたろ?」
奇妙な顔つきのウエイトレスが持ってきた、チャイの御かわりを飲み。落ち着いた口調に戻った蔵人が尋ねる。
「お前とは役者が違う。警備体制についての改善を呟いた後に、平然と親書を要求されたよ。一通り読み終わった後に、アルバウムが絡んでいる魔薬の事と、カジノを隠れ蓑に暗躍しているカーソン商会の対応を依頼された。自国で繋がりがありそうな、裏の取れてない連中のリストも一緒にな」
懐から取り出したタバコの様なモノを咥え、蔵人に火精を要求する。
「煙草なんて吸ってたか?」
不思議そうな表情で、指に灯した火精魔法を使い煙草らしき物に火をつける。
「うんにゃ。これ、タバコの形した細胞活性剤。煙に含まれた成分が肺細胞を活性化してくれる。酸素が全身に廻る速度が上がるんで、眠気覚ましにもなる。便利だよ」
そう言って、もう一本を取り出して。蔵人に薦める秀人。
首を振って拒絶を示す蔵人。
「カーソン……?聞いた事が………あ?奴隷局での注意書きに載っていた姉ちゃんが、確か…何ちゃらカーソンだった様な?」
「ソイツの系譜だ。親父はアルバウムに巨大な根を張るフィクサーさ。で、この国に絡んでんのが次男。カジノ事業を牛耳っているし、魔薬売買にもチョクチョク出てくる。でも、官憲の取り締まりには絶対に引っ掛からない」
紫煙を盛大に吐きながらテーブルに脚を投げ出し、部屋の天井の木目を観ながらカーソン商会の構成を話す。
「なぜ?………いや、愚問だな。それだけの規模を維持するとなると、裏の顔も一つだけでは無いだろうし」
秀人の吐き出した煙に臭いの無いことを不思議に思いながら、自分が居た世界での巨大企業や権力者の事を考えていた。
「まぁ、納得が早くて助かる。で、この国の愚鈍な王様が死んだのを切っ掛けに大掃除を始めるらしい」
「誰だって、新居を構えるのにゴミが散乱していちゃ落ち着かないだろうしな?で、オマエさんに依頼が来た訳なのか?」
「そうゆうコッタ。さらに言えば、ドブ攫いをすれば自分も汚れるだろう?なら、専門職に依頼した方が失敗もないし…」
「自分も汚れず、新居も新品で気分が良い訳だな?」
蔵人が秀人の言葉を継いで、依頼の理由を述べていた。其れに対して大仰に肩をすくめタバコを口から離し、先端を蔵人に向けながら気怠げに頷く秀人。
「まぁ身も蓋もないが、ゴミ掃除を仰せつかった異世界の掃除屋でごぜ〜マスだよ」
吸い終わった灰も含めて『ポケット』に収納する秀人。
「で、本題はこれからさ?オマエの新しい相方が関わってくる」
何か言いたそうな蔵人を制して、話しを続ける秀人。
「王子に『要らない』リストを渡された時に文句を言ったのさ。『チョット多く無いですか?』とね。いくら異邦の人間で後腐れがないと言ってもダース単位で人が消えりゃうわさも立つし、要らん心配事も増える。しかも俺にはサレハドとアルバウムでの前科が有る」
「?………あの件は表沙汰になってないはずだよな?」
「表向にはね。でも、事情が分かっている奴らはいた訳だ?チョイと頭を働かせればハゲのオッサンの仕業じゃないのか?と疑う奴らは居るわけさ?何せ『魔法』の痕跡も無ければ、現場の近くに俺が居たわけじゃない。で、サレハドでの遠距離殲滅戦を思い出す奴が、事象同士をくっつけて連想してみると………あら不思議?ハゲのオッサンの噂がチラホラと脳裏をよぎるって寸法よ?面倒だよな?」
「王子は其れを知っていて…?」
「おくびにも出さなかったけどな?だが、リストのなかの主要人物を五名指し示してくれたよ。全部、前王の閣僚級の奴等ばかり…木が腐るのは根っこからとは云うが…まぁ、俺も『向こうの世界』じゃ特殊工作もやっていたから、なんとも思わんが」
少し残ったビールを飲み干して、蔵人に顔を向ける。
「どこの世界でも同じ様なものなんだな………神が存在を確認出来る世界ですら、こんな状況だし」
不味そうに茶を呑みながら嘆息する蔵人。
「星雲間大戦何ぞ起こしてる俺の世界だって、大して変わらんよ?利害が一致すれば平和になるし、調整が失敗すれば俺も含めた兵隊の出番って寸法よ。で、この五人がそれぞれ組織を持っているんだが。うち一つの組織に、オマエさんのパートナーに関わる家が出て来たわけさ?」
『ポケット』から瞬時に装備させた
「ナクロプ・イグシデハーン・ノクル・ルワン・プラサート」
確認する様に、サングラスにしか見えない
「………良く覚えられるよなぁ、訳分からん長い名前?確かにウチの連邦の友邦にも、先祖代々の名前を冠する連中も居たけど…オマエ素で覚えたの?チョイと見直したわ。ま、ソイツさ!組織の中じゃソコソコの地位らしいよ?魔薬関連の取引を任せられている。没落寸前の家を相続してから、何でもこなしながら上に取り入って上手くやったみたいだな」
「ヨビから、元旦那の家の事は聞いている。そのクソ親父がヨビの子供を殺させたらしい事も………」
秀人から伝えられた内容を脳内で消化しながら、関係を持った後に聞かされた哀しい母親の話を思い出していた。
「名誉殺人………クソ以下のことだが、ウチの世界でもあったしなぁ…ヨビさんには話すのか?」
「ヨビの子供を殺させた事については裏が取れたのか?」
秀人の目線を返しながら尋ねる蔵人。
「おおよそはな。ある程度は王子の影達が情報を収集していてくれてな?後は、街に放ったドローンが撮影した画像を影達に見せて人物照合。其処で影の一人から名誉殺人の話が出たのさ?ちょうど子供が殺された夜は、魔薬取引の日だったらしくてね。影達がルワン家の動向を見張っていたのさ。で、従者の一人…シンチャイってヤツが奴隷を伴って出て行くのを付けて、行われた一部始終を見たちゅうわけ」
「何故止めなかった………いや、国の命令で動く者にそんな権限はないな………言い方が悪いが、子供が死のうが冷静でいなくちゃならなだろうし…」
「ソイツの名誉の為に補足しとくが、子供と女が嬲られるのを見続けたのはキツかったらしいぜ?一応、影の証言は端末に記憶させてある。オマエからヨビさんに話すのか?」
「それが筋だし、契約の時の約束の一つだからな。俺の端末に記録を転送してくれ、ヨビに話す。それと、話終えたらヨビも連れてくる。敵討ちと、元旦那にも会わなくちゃならない」
「敵討ちは分かるが………元旦那に会ってどうすんだよ?まさか………殺すのか?都合良くその夜に居なかったから、元旦那も一枚噛んでいる可能性はあるけど」
「
「もう荒事は勘弁して貰いたいよ………王子の件で許容範囲は一杯なんだけどなぁ?」
肩をすくめて天井を見つめ、溜息をつきながら返事をする。
「ちょっと待っていてくれ。ヨビと話してくる」
席を立ち、ヨビの待つ部屋に向かう蔵人だった。
お互いの温もりを確かめた後に、湯を浴びて服装を整えたヨビが。いつもの冷静さを取り戻して、部屋の奥の椅子に座っていた。
「お帰りなさいませ、蔵人様」
二人でいる時は蔵人と呼べば良い。と、伝えてあったが。呼ばれ始めたのは昨夜の出来事の時からだった。少し微笑みを称えたヨビの呼びかけに、蔵人は身体が熱くなる感じを受けていた。
「待たせてすまない。朝食はとった様だね?」
気恥ずかしさを打ち消す様に、とってつけた様に朝食の話をする。いや、違う。ちゃんとヨビに向き合って話さなければ。
「秀人様とお話になられて…私の事について、お話になられたのですか?」
少し寂しそうに微笑みながら。蔵人を気遣う様に尋ねるヨビ。
「ああ………あまり話したく無い内容なんだ…何故?その話だと?」
ヨビの予測に若干の驚きを隠せずに、優しく哀しみを含んだ声を返す。
「優しすぎますから、蔵人様は。私を気遣う様に接してくれた昨夜と…私を起こさない様に、何かを決意された雰囲気を纏って秀人様にお会いに向かわれたのを感じていましたから…女の直感は侮れませんよ?特に肌を合わせた後では…」
先程の憂いを含んだ微笑みではなく。口に手を当てて、愉しげに話すヨビ。オスの全てを理解した女の表情が、蔵人に昨夜の事を思い出させていた。
「ああ………成る程…では、覚悟も決まっているのだろうし。詳しく話そう。だが、まだ確証は取れていない。ヨビと子を襲った連中は、奴隷解放を条件に君達を襲った様だ。それを先導したのはシンチャイとゆうイグシデバーンの従者だな。これから見せる映像は、ヨビ達の襲撃を目撃した者の証言になる。辛い事になったら直ぐに止めるから」
身のうちで起きた雄としての生理現象を打ち消すべく。思考を切り替えて、秀人との話で出た映像を
寂しく、哀しみを含んだ頷きで了承を伝えるヨビ。
その姿を見ながら、自分にできる事は何か考え込む蔵人。少なくともヨビの憂いを祓ってやる事はできないかと、情を持った美しい女へと視線を向ける蔵人だった。
ラチャムサットの郊外。とは言ったものの、食い詰めた連中が寝床にする貧相なスラム街と言った方がしっくりくる場所。
その一画に、うらぶれて潰れる寸前の高床式の小屋が佇んでいた。先程から降り始めた南国特有のスコールが通りを濡らし、普請に不安のある小屋にも雨漏りを起こさせていた。
雨漏りする小屋の中で朝から飲み続けている片腕の男が、酒瓶に当たる雨漏りの雫に耳を傾けていた。昨夜に起きた偶然の再会が、喪った腕の痛みと我が子を見捨てた自分の所業を思い出させ。後悔とゆう取り戻せない過去が、何度も何度も襲いかかって来ていた。
ふと、過去の呪縛を打ち消す音が外から聞こえて来る。今では使うことの無いハンターとしての感覚と、士官学校時代に鍛え上げられた経験が。人の訪れを教えていた。
「邪魔をする」
戸口に立った人の声は尊大であったが、親しみの情がこもったものだった。その声は男が過去に永遠の誓いの対象として、今でも心の奥底にあるモノを呼び起こすものだった。
「………!?皇子!?」
すぐさま戸口に立つ男の前に駆け寄り跪き。顔を伏せながらでも敬意を込めて、この国の皇に成るべき人に声を返していた。
「酷い有様だな?士官学校時代の貴様からは、遠く離れてしまった様だ」
ひどく優しげに語り掛ける。
「………面目次第も御座いませぬ。今は、片翼を喪った哀れな男に………いや、男ですらありませぬ………!」
最上位に敬意を向け、終生の忠誠の対象とした男に向かい。心の底からの悔恨を込める。
「良い………貴様の現況は伝え聞いておる。面をあげよナバー。士官学校時代の誓いは果たされておらんぞ?あの時、共に誓ったこの国の未来への変革を」
この国の最上位であるが、あくまでも優しげに語る皇子。
「………もはや、このナバー…皇子のお役に立てるとは思えませぬ!どうぞ、哀れな者の事などお忘れ下さい!」
過去の輝きを取り戻した瞳から、強烈な意思の光を皇子に返して。悔恨の言葉を述べるナバー。
「ふむ………まだ輝きを喪っておらぬな?奥方に真実を伝えておらぬな?イグシデハーンに囚われておったのだろう、あの日も」
「………!?何故、その事を!!」
「貴様が伝えた、我が国を蝕む暗部の一員となった父親だ。見張らせておくのが普通だ。自らに絶望する余り、贖罪のために人生を投げ出す男ではなかったはずだがな?まぁ良い。久方ぶりに貴様の燃える様な目を見れて嬉しいぞ。俺が行う変革には人が必要だ。未だに足りぬ、お前のような者が必要だ」
踵を返し、背を向けながら呟くように伝える。
「責任の取り方と、義務の果たし方………難しいものよな?本来のナバーなら、どの様に致したであろうなぁ?邪魔をしたな。お前が向き合うべき過去が訪れてくる様だ。全てを果たしたならば、皇宮の門を叩くが良い。さらばだナバー、我が同志よ」
ナバーが面を上げて、追う様に視線を向けるも。既に皇子の姿は無く、雨音だけが鳴いているだけであった。
「酷いスコールだなぁ?天気予報出せる程、気象観測出来ないし。軌道上に衛星も配置出来るほど『予算』もないしね」
土砂降りといっても良いほどの雨の中、三者ともにポンチョを被りヨビの家へと向かっていた。
「気象予測は不可能でもないだろう?お前が展開しているドローンは、俺のと違って高性能で数も有る?」
先頭を行くヨビの後ろに付いている蔵人が、通信装置で考えを伝えてきていた。
「軌道上からの観測も重要なのよ。雲の動きや大気の寒暖差、水温、などもデータ化しちゃいるが…何せ異世界。魔法や精霊の動き一つで何もかんも変わってくる。変動数値が不確定過ぎて、予測を立てられんのよ?量子演算装置も『マホー』なんて理解できんしな?データは取っちゃいるが…」
「科学万能って訳にもいかんのね?」
諦めた様に、嘆息しつつ感想を述べる蔵人。
「うんにゃ。予測可能に出来るまでのデーターが膨大過ぎて、手持ちの装置じゃ役不足なだけだから!艦隊の
科学を否定されかねない言動に、少しムキになって答えるが。確かに予算不足どころでは無い巨額な金額を『商店』のカタログに認めて、気落ちする秀人。
「まぁ、無いものねだりをしても始まらんし。雨具が充実しているだけでも、ありがたい。このポンチョ凄いね?雨はしっかり弾くし、中は汗や湿気を逃してくれる。湿っぽさが全く無い」
「連邦軍の正式装備さ。採用されてから五十年経っちゃいるが、アップグレードを重ねて未だに一線装備品だよ。お値段もお手頃。耐熱、耐寒、熱源遮蔽、電磁波中和と、なかなかに優れもんよ!」
先程のこともあってか、少し自慢気に話す秀人。ちょっとだけ鼻が高くなっていた。
「もう少しで、ナバーの家になります」
そんな能天気な雰囲気を吹き飛ばす様な、ヨビの冷静な声が通信装置を通じて響く。
「なぁ、此処まで来れば問題ないだろう?俺は周辺で監視業務に着くよ。此処は二人で何とか解決してこい。正直言って苦手なもんで…そんじゃね〜」
秀人が個人間通話で一方的に話して、音も無く離脱してゆく。この土砂降りの中で泥濘んだ路をものともせずに、二階建てのボロボロの倉庫の上に消えて行く。どうにも不可思議な体術を見ながら、音がしないのは何故だろうと考える。そして、両腰に配したトーラス・レイジングブルの重さを確認して、ヨビにつきしたがのだった。
土砂降りの雨に打ちのめされた様に見える、懐かしの我が家。
ヨビと呼ばれる様になって、未だ一週間しか経て無いとゆうのに。ひどく昔のことの様に感じられる。
両親と故郷を喪って、一人で生きてきた人生に初めて光を灯してくれた人と過ごした家。そして、質素な暮らしの中でダーオを授かり。幸せの頂点だったあの頃。そして、愛する人が片腕を失い空と自信を打ち砕かれた時も、この家は静かに佇んでいた。
乳飲み子を抱えて、彼が堕ちてゆく様を見続ける事しか出来なかった自分。果たして本当に彼を支えることが出来なかったのだろうか?探索者仲間に支援を願い出れば、或いは変わっていたかもしれない未来。彼の強烈な誇りが、其れを赦さなかったが。其れを押し留めることができなかっただろうか?
思い返せば、自問自答の波と後悔が何度も打ち寄せて心を削ってゆく。そして訪れる幸せを破壊する悲劇………私達の証とも言うべきダーオを喪う日が訪れる。
家の床下で忘れ去られようとしている、簡素な木の杭で作られたダーオのお墓に視線を落とす。
全てを輝かせてくれたダーオは、もう居ない。雨が少し打ちつける墓が、現実の光景を嫌でも思い出させてしまう。私達の力不足で可能性を奪われた小さな未来。二人の愛情を受けて育ち。いずれは幸せな家庭を築き、孫を伴ってこの家に来るであろう光景は。もはや幻想の彼方に行ってしまった。
そして始まる生きる為だけの日々…その日暮らしの為だけに、数多のオスの慰み者になり汚されてゆく。家に帰ればナバーに罵られ打たれる毎日。それでもダーオの死の真相と復讐だけは諦めることは出来なかった。しかし、重苦しい男達の獣欲が際限なく押し寄せ、全てを塗りつぶそうとしていた。様々な行為を強要され、女として使える処は全て汚される日々。そんな日々の積み重ねが、意思を削り切ろうとしていた時に、新たな灯りを点してくれたヒト。
優しくもありながら、どこか投げやりで不思議なヒトだった。それでも私を徐々に認めてくれて成長を助けて、横に並ばせようとしてくれる。そしてまた出会う、新しいカレの仲間達。とても可笑しく、明るくて。不思議と過去の重しが取り払われてゆく日々。そして、カレと身体を重ねて温もりを確かめ合い、肚に受け入れた昨夜。
身体を売っていた日々になした行為に比べれば、子供の遊びの様なものだったが。乙女の様に恥じらい、気持ちが重なる時間。久方振りの想いと身体の快感が重なる瞬間。その日の朝、私はナバーの事を赦せる気持ちになっていた。あさましい事なのだろうか?子宮を持つ女にしか分からない事なのかもしれない。
そして、蔵人様の言葉を受け入れて。過去に向き合う決心がついた。ダーオ…私は母親失格かも知れない。でも、アナタとの思い出を守る為にも現在につながる事柄は、放って置けない。アナタの母が行う事見守っていてね?
雨を受けて雫を流すダーオの墓。
そのお墓に、何処から取り出したのか。蔵人が乳児でも食べられそうなお菓子を供えてくれていた。
顔を上げた蔵人と視線を合わせるヨビ。覚悟を揺らがせない様に一歩ずつ階段を踏み締めて、以前の家に登るヨビ達であった。