「…あの男、来るなって言わんかったんか…」
「今度こそ、教えてもらうわ。私の過去を…」
「残念やが、もう1回帰させるだけや」
「ふん、そう簡単には帰らないわよ」
そうして、私はレーザーブレードを起動した。ついでに壁も抉っておいたから、存在には気付いただろう。
「そうか、だから…か」
「大人しく教えれば無傷で済むけど?」
「いや、良い。それに…それはこっちのセリフや。死んでも恨み言は無しやで」
さて、なんて返したものか。
……そうだ、これがいい。何となくだが、これしかない気がする。
「手加減はしてあげるわ」
「…なあ朱里、お前ホントに忘れとるんか?」
「……?」
…俺は知らぬ間に寝てしまっていたらしい。
そして、朱里が起きた事を示すようにおにぎりが亡くなっている。事実、ベッドには誰も居なかった。
…それにしては、物音がしない。
仕事…の可能性は少ないと思う。アイツの事だから、恐らく「昨日言えなかったけど仕事あるから」くらいの手紙は残していくはずだ。
「…じゃあ、どこいったんだ?」
最も良いのは手紙を書く時間が無かったという状況だが…。
(ズズーン…)
「な、何だ!?」
何かが崩れた音がした。結構遠くの方だが…
音のする方を見ると、昨日言った廃ビルが煙を上げていた。とは言っても炎は出ていないようだが。
「…あそこか…あそこなのか…」
空きっ腹に適当なパンを詰め込んで、俺は走り出す。
「唯一の勝算が無意味なんて、どんだけ絶望的なのよ…」
「…もっかい聞くぞ。本当にまだやるんやな?」
「人間捨ててまで来たのに、これしきで諦められるかっ!」
全力の右パンチだったが、いともたやすく受け止められた。
「くっ!」
「無駄や。そんなん効かんって分かっとるやろ?」
「黙れっ!」
左手のパンチも受け止められる。
「サービスタイムは終わりや」
直後、右足の感覚が消えた。蹴りを入れられたらしい。
ボキッという音が聞こえるまでは随分時間が掛かった気がする。
「パンチはな、こう打つんや!」
突如、視界が真っ暗になった。
その後私は気絶したのだろうが、全く覚えてない。
「…なんや、ブラック」
「…超音波装置」
「ああ、朱里の武器か。でも、ウチにはあんまし「彼が来るから。もう、すぐそこだよ」…黙っとったな」
「さあ。…ほら、来たよ」
「あ、ちょ…」
(昔もこんなことあったなぁ…面倒事おしつけよって…)
━━━━
「…朱里は」
「来とらん」
「嘘をつくな。それに…俺はもう思い出してるぞ大江」
「!」
「昨日言ったあの言葉。昔にも似たような事を言われたんだよ。あの時は…朱里が平和に暮らせるならと思ったし…それは今も変わらない」
「…だったら」
「でも、現に朱里は苦しんでいる。確かにアイツの性格は変わっていなくても、偽りの自分で居ることに。だから、断る」
(暗い…。ここは……痛っ!)
右足が痛い。…思い返してみると「ボキッ」とか言ってた気がする。
それはそうと、今ここが何処なのかというのが一番大切な事だろう。暗く、狭いという事だけは分かる。
取り敢えず、上手く力が入るかは別として壁を一発殴ってみようと思いついた。
「ふん!」
壁が吹き飛んだ。
外はまだ明るい。恐らく、足が折れてバランスを崩したおかげでパンチがあまり深く入っていなかったのだろう。
そして、私が居たのがロッカーだということが分かった。吹き飛んだのはロッカーのドアらしい。
すぐ先にあの女がいる。
再戦…は遠慮したい。ただでさえ勝算は無いのだから。
…いや、もう一人いる。
「は?え?」
なんて間の抜けた声を出してしまった。
「え、いや、なん…で…」
ここで気付く。普通の成人女性がロッカーのドアをパンチで吹き飛ばせるだろうか。
「……!」
少し先に居るアイツは今まで見せたことのないような険しい表情をしていた。
しかし、すぐにいつもの顔に戻って、これまた今まで見せたことのないくらいの笑顔で、
「朱里…帰ろう」
と言った。
「なーんて事もあったよな」
「何年前の話よ…それ」
今日はクリスマス。あれから、毎年俺達はクリスマスには二人でパトロールをするようにしている。
あの後、二人で大江に「この物騒な世界で生きる」と伝えた。
一応、大江が朱里の新型の体を持っていたらしく、朱里はそっちの体に乗り換えた。
しかしその新型というのも過去の話。サイボーグ界の成長は速く、朱里の体は今では旧型になってしまっている。
そんな朱里を俺はいつもおんぶして、昔の住処だった廃ビルへと送っている。
ついでに俺の事を話すと、俺はベイスターズにトレードしてもらった。理由は、お察しの通り朱里と会うのが楽になるからだ。
…さて、今の話に戻ろう。
俺達はひと仕事を終え、ボロボロになった朱里をおんぶしながらクリスマスを味わっている。もちろん、都会の喧騒に混ざることなんて夢のまた夢だ。
「あーあ、この道を選ばなければあそこにいれたのかしら」
「なあ、新型になって重くなったお前の体をおぶる俺の事を考えて言ってるか?」
「はいはい、文句言わない」
「自分の事は棚に上げやがってさ。ちぇっ。……メリークリスマス」
「…メリークリスマス。あ、そうだ、ちょっと下ろして」
「…了解」
次にする事は分かっている。
朱里は少し背伸びをして。俺は少し前かがみになって。たった数秒の、二人だけの静寂を楽しんだ。
「……じゃ、帰りましょ。ねぇ、おんぶして」
「さっきまで立ってたくせに…。…乗れよ」
まだまだ、俺の不思議な日常は続くらしい。
アナザーエンドの後日談、見ていただきありがとうございます。
これにて本編は完結、やる気が出ればバッドエンドを投稿して終わりとなります。
また書いておきたい事が出てくれば追記します。今のところ追記率百パーセントですからね。
いつもの追記:今回ちょっと本文の修正をしました。これで全話追記したぜ!
追記2:なんか色々と書き直したいところが出来てきたので(特に後半)いつかまた修正するかもしれません