「えっ?ロンなんだって?」   作:マッスルゴナガル

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「スネイプが女体化したらしい」前編

ロンが興奮した様子で早口で捲し立てた言葉をハリーは一つ一つ丁寧に頭の中で噛み砕いていった。ああ、それでも理解できないところがある。

「ごめんロン、もう一回言ってくれる?」

ハリーがのんびりというのにやきもきしてロンが大声で、怒鳴るようにさっきの言葉を繰り返した。

 

 

「だから、スネイプが女になっちゃったんだよ!!」

 

 

スネイプ女体化のニュースはまたたく間に全校に広まった。

たちの悪い闇の魔術をかけられたんだと主張する生徒と魔法薬にあたったんだと主張する生徒が論争をしていた。一番有力な説はウィーズリーの双子によるいたずらだったが、ハリーが真っ先に確かめにいったところ即座に否定された。

「あのなあ、考えてみろ。スネイプを女にして俺たちになんの得がある?」

「スネイプだぜ?とんでもないブスに決まってる」

それには同意だった。しかし双子でないとしたら一体誰がそんな事をしたんだろう?

当のスネイプはその日は一度も、授業にさえ現れなかった。

「明日来るかな?」

「その時はもとに戻ってるかもね」

ハリーの返事にロンはつまんなそうに頷いて占い学の課題をでっち上げる作業に戻った。明日は朝から魔法薬学なのでグリフィンドール生はみんなそわそわした。ディーンとシェーマスは噂がホントか賭けをしたらしい。

 

そして翌日。

魔法薬学にいる生徒たちはスネイプがくる30分も前にほとんど全員揃っていた。

みんながひそひそとスネイプ女体化について噂し合っている。

スリザリン生すらもスネイプが女になったらどうなるかについて真剣に議論していてハリーは笑ってしまった。

 

女になってもスネイプはスネイプさ…

 

そしてついに授業開始のベルがなり、扉が開いた。

全員の視線が扉に集中した。

扉から出てきたのは痩身の、全身真っ黒の女性だった。クマのできた目はたっぷりと嫌悪を含んで前を睨みつけていて、ベッタリした黒髪は長く伸びており後ろで雑にまとめられていた。いつも通りの黒いローブを引きずりながら教壇に登った。

生徒たちの間でざわめきがおこる。

ハーマイオニーですら口に手をやって驚いていた。

 

噂は本当だった!

 

 

目は三白眼だが睫毛が長くてクールな印象だ。そして何より胸。

胸がでかい!

ロンが誰にも聞こえないように囁いた。

 

ガタン

 

ハリーは思わず立ち上がっていた。

スネイプがこっちをキッと睨みつける。

「うっ…!」

なぜだ。ハリーは心臓が締め付けられるような感じがして胸を押さえた。心臓が早鐘のようになり、頬が熱くなる。心なしか額の傷も痛い気がする。

 

「ポッター、座れ」

 

精一杯低くした、それでも高い女の人の声がした。

ハリーは腰が抜けて椅子に崩れ落ちてしまった。ハーマイオニーがハリーを訝しげに見ているのがわかった。生徒たちはさらにざわざわしだし、スネイプは苛立たしげに教卓を叩いた。

 

「我輩は…魔法事故にあったが、諸君らの勉強が遅れんように授業をすると判断した。…故に邪魔をするものは容赦なく減点と罰則を課す」

 

淡々とスネイプは言い、有無を言わさぬ調子でいつも通り魔法薬の材料を配り始めた。それでもやはり生徒たちは動揺してて、スネイプがそばを通るたびにじろじろ見つめた。

 

女だ…女スネイプだ…。

 

ハリーはスネイプが横を通るたびに深く息を吸い込んだ。いい匂いがする。大勢の視線に晒されてかいつもは土気色の肌に赤みがさしている。スネイプが通り過ぎるたびに酷く心臓がいたみ、ハリーは蹲った。

 

なんだ…僕は一体どうしたっていうんだ!

 

出来上がった薬はひどいもので、ヘドロを煮詰めて固めたような見た目だった。

「ゼロ点だポッター」

スネイプはそう吐き捨て大鍋の中にある薬を全部消してしまった。

ハリーは胸の痛みで全然返事ができなかった。

授業が終わると生徒たちは教室から叩き出されてしまった。みんなスネイプの女体化について興奮したように話し合った。

「マジだったとは驚きだよ!見た?あの顔…全然男のときと変わらないのにすごい胸が…!」

「ロン!!」

ハーマイオニーが非難がましく叫んだ。

「失礼だわ、そんな言い方!」

「でもそうだろ?!胸のあるスネイプなんて…オエッ!悪趣味にもほどがあるよな?」

 

「ッあのひとの事をッ悪く言うなよなァ?!」

 

気づけばハリーは吐く真似までするロンの胸ぐらを掴んで壁に叩きつけていた。

「え…は、ハリー?」

ロンとハーマイオニーはびっくりしてこっちを見つめている。

「あ…ごめん…ついカッとなって…」

ハリー慌てて手を離してロンから距離を取った。ロンはぽかんとしている。

「ハリー、どうしちゃったの?貴方へんよ」

「僕、僕なんかおかしい…」

ハリーはまだドキドキしている心臓を抑えた。そして二人にごめんと謝り、ハグリッドの小屋へ走っていった。

二人は呆然とハリーを見送ることしかできなった。

 

 

「まあこれでも飲んで落ち着けや」

ハグリッドは濃いコーヒーを大きなマグカップになみなみついで出してくれた。ハリーはそれを一気に飲み干した。あまりの濃さに吐きそうになる。

「ほんで、何をそんなに慌てちょる」

「ハグリッド。ハグリッドは知ってる?スネイプが女体化しちゃったの」

「ああ!ダンブルドアも時々よーわからんことをするもんだ」

不意に明かされた真相にハリーは口に含んでたコーヒーを吹き出した。

「ダンブルドアがやったの?」

「ああ。わしはそう聞いちょる」

「ななななななんで」

「頭のええ人の考えることはわからん…が、例のあの人を倒すためらしい」

「スネイプが女になるのとヴォルデモートになんの関係があるんだ!!」

「その名前を言うな!…まあ落ち着け、ハリー。別に女になってもスネイプ先生はスネイプ先生だろうが。なんも変わりゃせん」

「変わるよ!大変なんだ!」

「なにがだ?」

ハグリッドがまだわかってなさそうに首を傾げた。これ以上いっても通じなさそうなのでハリーは諦めて小屋から出ていった。

 

夕食になってなおスネイプの女体化は生徒たちの話題の筆頭だった。ロンとハーマイオニーはハリーをそっとしておくと決めたらしく、その日は話しかけてこなかった。

 

「ごめん、僕昨日は気が動転してたみたい」

「まああれは驚くよな」

翌日になって二人に謝ったらちゃんと許してくれてハリーは安心した。スネイプは授業以外で人前に出ないようにしているらしい。

生徒たちは連日女体化スネイプについて感想を述べあったが一週間もすればみんな感想を言い尽くしたらしくスネイプの話題はすっかり聞かなくなった。

「まあそうだよな。顔はほとんど前のままで声がちょっと高くなって胸がくっついたくらいだし」

ロンがパン屑をこぼしながら言った。

「ロン、この前から胸のことばっかり。そういうのはあまりにも女性蔑視的だと思うわ。サイテーよ」

ハーマイオニーが注意してもロンはあまり悪びれた様子はない。

 

「何言ってるんだ?前と全然違うじゃないか。顔も輪郭が少し柔らかくなったしなで肩になったし手だってほっそりしたしなによりヒールを履いてるじゃないか。前の身長に少しでも近づくようにさ」

 

ハリーの怒涛の返しにロンはトーストを落っことした。

ハーマイオニーも日刊予言者新聞をめくる手を止めてハリーを凝視している。

「ハリーあなたやっぱり変よ」

「良くない薬でも飲んだのか?」

「変…変かな、僕」

「変だよ!スネイプが女になったんだぜ?普段の僕達なら笑い転げてるのに君ときたら怒ったり怒鳴ったり…一体どうしたんだ?」

「わかんない。わかんないけど…スネイプを見るとなんだか胸が痛いんだ」

「ハリー、それってまるで…」

ハーマイオニーが何かを言いかけてやめた。

「…とにかく、今日また授業でスネイプを見ることになるわ。その後話し合いましょう」

「ああ…憂鬱だ」

ロンはため息をついて落としたトーストを拾って食べた。いつもはロンと一緒で憂鬱な気持ちなのに、ハリーは何故かドキドキしている自分がわかって困惑した。

 

この気持ちは一体何なんだ?

 

魔法薬学の授業中ハリーはずっとそわそわしてしまった。スネイプの顔がまともに見れない。

いつも厭味ったらしく何か言ってくるスネイプを疎ましく思っていたけれど、女体化してからスネイプは極力誰とも話さないようにしてたし、当然ハリーへの厭味も言わなくなった。スリザリンの大好きなネビルいじりすらしない。

スネイプが高い声で喋る以外に面白いことがないせいかみんな退屈そうに鍋をかき回している。

ハーマイオニーがチラチラこっちの様子をうかがってるのがわかった。けれどもハリーは取り繕う余裕すら失いあわあわと震える手で鍋を無意味にかき回していた。

「ロングボトム」

スネイプがネビルの前で立ち止まり、鍋の中身を見てきりっと眉を釣り上げた。

「我輩は授業の前に言ったはずだ。安らぎの水薬を作るように、と。誰がリコリスを作れと言った?」

「す、すみません」

「グリフィンドール5点減点」

スネイプは養豚所の豚を見るような冷たい目でネビルを一瞥した。その途端、ハリーは胸の奥からせり上がってくるキリキリした気持ちに肺を絞られるようなきがした。

息ができなくなるかと思うくらいの焦燥感でまたハリーは蹲ってしまう。

スネイプは目敏くそれを見つけてハリーのそばに来た。余計に胸が苦しくなる。

来るな、来るな!でも来てほしい!

そんな矛盾した感情が胸の中でせめぎあい…

 

「ポッター」

 

スネイプの声を聞いた瞬間爆発した。

 

「わあッ!」

 

奇声をあげてスネイプの側から逃げ出すハリーに全員の視線が集まった。

スネイプもぎょっとした目で見ている。

「は、ハリー?ちょっと…」

「ポッター…貴様…」

「ッ!な、なんでも…なんでも!なんでもないです!ごめんなさい!」

ハリーは慌てて椅子に戻った。まだ心臓はバクバクなってたし頭の中はぐちゃぐちゃだったが逃げ出すのはまずい!そう思って必死に、祈るように椅子にしがみついた。

鬼気迫るハリーの様子に気圧されてか、スネイプはグリフィンドールから5点減点してすぐ教壇に戻ってしまった。

ハリーは深く深く息を吐いた。

 

授業後、早速ロンがさっきの奇行についてたずねてきた。

「傷跡が痛むのかい…?」

「傷跡じゃないんだ」

ハリーは心臓を上からぐっと押さえた。

「胸が痛いんだ…」

「呪文の後遺症か?」

「ちがうわ、ロン」

ふいにハーマイオニーが二人の間にぬっと入ってきた。

 

「ハリー、あなた恋してるのよ」

 

「僕が、恋…?」 

 

「え、ちょ、ちょっと…ちょっと待って!誰が、誰に?」

 

ロンがあわててハーマイオニーの肩を掴んで尋ねた。展開についていけないらしい。

それとも頭が理解することを拒否してるのだろうか。

ハーマイオニーは呆れてロンの手を振り払った。

 

 

「見ればわかるでしょ!スネイプによ!!」

 

 


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