「えっ?ロンなんだって?」 作:マッスルゴナガル
霧が立ち込めていた。
ここはリドルの館にある墓場。
その中の一際立派で、そして手入れのされてない苔だらけの石像にハリーは囚われ、そしてヴォルデモートの復活の瞬間を目にしていた。
乳白色の液体がハリーの血でピンク色に染まった。人の垢を煮詰めたような饐えた臭いがあたりにたちこめ、霧をより濃いものにした。
人の形を失った、不気味な奇形児のようなヴォルデモートがその液体にどぷんと沈んだ。そしてついに完全復活を遂げたヴォルデモートが顕現する。
「あれっ?!」
ワームテールが悲痛な叫びをあげた。
「な、なんだ?!」
ヴォルデモートはその叫びに驚き、そして元通りになったはずの自分の体をみて再度驚愕した。
「俺様の体が幼女ではないか!!」
ヴォルデモートは確かに先程の姿より大きくなっていた。しかし、そこに立っているのは背丈は130もない。すとんとした体型。上から薄絹をまとっているが、明らかに丸くて柔らかそうな体。しかも髪の毛フサフサの女の子だった。
幼女以外にふさわしい言葉が見つからないほどの幼女だった。
「あれ?あれ?」
ワームテールはパニックになって胸元から取り出したメモを何度も何度も読み返した。手の震えのせいでほとんど読めなさそうに見えた。
「お、おかしいな…ご主人様。この通りに、やったのですが」
「ちょっと見せてみろ!」
ヴォルデモートは背伸びしてワームテールの手から紙をひったくって目を皿のようにして何度も何度もメモを読んだ。
「愚か者!何をどう間違ったらこんなふうになる?!」
ヴォルデモートはぷんすかしてワームテールの足を蹴った。ほとんどダメージになっていないがそれでもワームテールは悲鳴を上げてうずくまった。
「お許しを…お許しを…」とつぶやく姿は哀れを通り越して滑稽だ。
「ふふっ…」
ハリーは幼女にやっつけられる中年男性というシュールな光景にふっと笑ってしまった。
「…ハリー・ポッター……」
ヴォルデモートは思い出したようにハリーの方を睨んだ。
「笑ってられるのも今のうちだ!」
ハリーは昔近所に住んでいたわがままで意地っ張りな女の子を思い出してますます面白くなってしまった。拘束されてるせいでつりあがってく口角を隠せない。
「クソ!」
ヴォルデモートはワームテールの腕を無理やり掴んで杖を押し付けた。途端死喰い人たちが姿現しでやってくる。
不気味な仮面をつけた魔法使いたちはついた途端きょろきょろしだした。
「よう来てくれた、どーほーたちよ!」
若干舌っ足らずな幼女の声を聞いて死喰い人たちは困惑したように囁きあった。
「…どこの家の子だ?」
「さあ…」
「我が君はいったいどこに…?」
「ここだ!おい!おろかものどもめ!」
ヴォルデモートはぴょんぴょんはねて死喰い人たちの注意を引いた。
「コラッ!」
しかし誰ががその頭を杖でぶん殴った。
「大人にそんな口聞いてはいけません」
「お、おまえ…」
ヴォルデモートはくらくらする頭を抱えてその死喰い人を睨みつけた。すると窘めるような口調で、ハリーもよく耳にしたルシウス・マルフォイの猫なで声が仮面の下から聞こえてきた。
「子どもにムキになるなゴイル。…さて、お嬢ちゃん。ここらへんで不審な人物を見なかったかね…そう。なんというか人っぽくないかもしれないのだが…」
「アバダケタブラ」
「うッ」
ゴイルが倒れた。マルフォイは杖を構えた幼女を見て目を見開いた。
「ま、まさか…」
「やっとわかったか」
死喰い人たちは大急ぎで円陣を組んでからヴォルデモートの周りに跪いた。
「大変なご無礼を…」
「絶対に許さん」
ヴォルデモートは怒りでぷるぷる震えている。ハリーがどうとかいう騒ぎじゃなさそうだ。ハリーはもぞもぞ動いてみた。すると上手く抜け出せそうな位置に体が動いた。
ハリーが脱出を試みてる間もヴォルデモートと死喰い人のやり取りは続いていた。
「しかし我が君、なぜそのようなお姿に?」
「わからぬ」
「我が君…麗しい」
「うるさい黙れ!一体貴様ら今まで何をしていた?」
「クリケットをしていました」
「直前の話ではない!バカ者が!ゴイルもろとも殺すぞ!」
「我が君。お怒りもわかります。ですが我々はわからなかったのです。よもや幼女になっていたとは」
「ずっと幼女だったわけではない!ついさっきなったのだ!」
「幼女になる魔法、教えて下さい!我が君!我が君!」
「お前は黙っていろ!ええい!なんで揃いも揃って会話の成り立たんやつばかりがシャバにいるんだ!」
「しかし我が君、皆混乱しているのです。イギリスでは児童ポルノに対して厳しいので、単純所持だけでもアズカバン送りですから。もちろん幼女への変身も同罪です」
「今更そんなことに怯えると思うか?!この俺様が、何人殺してると思っている!」
「いえ、我が君。そのお姿では歩く犯罪です。とにかくお召し物を…」
「うちのしもべにもってこさせます。ちょうど同じくらいの娘が…」
「違う違う違う!」
ヴォルデモートは地団駄を踏んだ。
「ハリー・ポッター!ハリー・ポッターの話をしたいのだ!!」
そして石像の方を指差した。しかしそこにはすでにハリーの姿はなかった。
「あ」
こっそりポートキーの方へ歩いてたハリーと、幼女のヴォルデモートの目があった。
「ま、まてーっ!」
ヴォルデモートは駆け出した。しかし男の子の足の速さに幼女がかなうはずもなく、ハリーはあっさりポートキーを手にした。ヴォルデモートは足を縺れさせて転んだ。そして霞のように消え去ったハリーのいた場所を見てわんわん泣き叫んだ。
「いまにみてろーーー!!!」
数ヶ月後、ヴォルデモートを名乗るほぼ全裸の幼女が保護された。
幼女は聖マンゴ病院に収容された後、温かい家庭に引き取られて幸せな人生を送った。
めでたしめでたし。
「って夢を見たわ……」
「ハーマイオニー、君さ。疲れてるんだよ」
ハーマイオニーはスリザリンのロケットを握りしめてため息をついた。
「そうよね」
ロンが労しげにハーマイオニーの肩をさすっている。
ハーマイオニーは苦笑いしながらすやすや寝てるハリーの方を見た。
「幼女になったのはハリーだものね…」
おわり