「えっ?ロンなんだって?」   作:マッスルゴナガル

5 / 5
パワポ・ポッター

ついに魔法省にコンピューターが導入され、社内から連絡用紙飛行機が一掃された。

デジタル化の波はマグルたちから一歩遅れて魔法界にもやってきた。人々は皆携帯デバイスを持ち歩き、魔法よりGoogle。ふくろうよりAmazonという若者も珍しくない。

ウィーズリーのいたずら専門店はインターネット化にいち早く迎合し、Amazonに商品を出品した。ホームページも立ち上げて、アフィリエイト収入をえている。彼らのYouTubeちゃんねるは製品を試してみたという動画が山盛りで、ホグワーツ入学前のティーンエイジャーに大人気だ。

闇祓い局局長のハリーはそんな急速な技術の進歩に追いつけず、パソコンの前で頭を抱えていた。

 

「一体…なにがどうなってるんだ?」

 

パワーポイントを前にハリーは絶望に満ちた声を出した。

明日の朝までにパワーポイントでホグワーツの授業で使う資料を仕上げなければいけない。

しかし、パソコンが突然ダウンし、データが全て消えたのだ。

「ハリー、もういい時間だぜ?」

ロンが気楽な調子で話しかけてきた。

「ごめん、僕…ちょっと今立ち上がれそうになくて」

「何言ってるんだよ。明日はホグワーツでの特別授業だろ?」

「真っ白なんだ」

「え?なにが?」

「パワポが、真っ白なんだよ!!!」

 

ところで、読者の皆さんは超人気YouTuberのルーナ・ラブグッドをご存知だろうか?彼女はアイルランドのある湖の辺で原始的魔法使いの生活を再現した動画で一躍有名人だ。ハリー・ポッターは彼女の一つ上で、彼女の動画をまだ一度も見たことがない。…なぜならハリー・ポッターはパソコンが苦手だからだ。

クラッブはTwitchでゲーム配信をしている。彼はタワーディフェンスゲームで負けるたびに自分の身体に電流を流しているが、実はあれは魔法なので本当はちっともビリビリしていない。同様に、魔法使いのマグルをからかってみたシリーズはやらせである。いたずら目的でマグルに魔法をかけるのは法律で禁じられているので、流行したての頃は闇祓いが出張らなければいけないほど違反者が現れた。

 

「なんで突然?」

「わからない…」

「エロサイトをみていたわけじゃないよね?」

「馬鹿言うなよ!見れるものなら見たいよ!僕はインターネットがわからないんだ!」

「そう怒るなよ!とれどれ…」

ロンはかちかちっとマウスを動かしてなんだかよくわからない画面を出し、色々調べてくれた。

「ウィルスにやられたみたいだな」

そう言ってロンは何かをクリックした。

すると画面に大写しで写真が出てきてケタケタと笑い声がながれる。

「なに、この人」

「さあね。どっかの国のポルノスターらしいけど…ヴォルデモートみたいなもんさ」

ロンは2、3回クリックしてそれを消した。

「かんたんだけど悪質なやつだ。運が悪かったな」

「パワーポイントは?消えちゃったの?」

「残念だけど…」

「そんな!レバロ!直せ!直れよ!」

「ハリー、これはマグルの機械なんだ。魔法じゃ直らないんだよ」

「そんなの理屈にあってない!」

ハリーはキーボードを叩きつけて怒鳴った。ロンは苦笑いしてハリーの肩を叩いた。

「しょーがない。手伝うよ」

 

ロンのおかげでパワーポイントはなんとか朝までに終わりそうだった。

「まさか今になって必死にマグルの機械をやる羽目になるとは思わなかった」

「僕もだよ。知ってる?日刊予言者新聞がIPADアプリでリリースされるんだけど、あれ魔法使わなくても写真が動くらしいよ」

「時代は変わったね…」

ハリーはため息をついてアニメーションを追加した。

アニメーションのせいでファイルは激重。パソコンがだんだん動かなくなってきていた。

 

「ネビルのクラス大変らしいよ。毒草食べてみたで重症者が多数」

「あー、ローズも前自分も動画を上げてみたいとか言ってたな…ほら、ハーマイオニーが自分のチャンネルを持ってるから」

「え…彼女役人だろ?」

「あ、これ秘密。副業なんだ」

「どんな動画を上げてるの?」

「歌ってみた…」

「意外だ…。ジニーは興味ないからな」

「最近じゃ組分け帽子もどんな動画を見るかとか、どんなSNSが好きかで組分けするらしい」

「へえ。ちなみにグリフィンドールは?」

「Facebook」

「あー、なるほど。僕はやってないけど…」

「レイブンクローはInstagram。ハッフルパフはTwitter。スリザリンはmixiだそうだ。時代は変わるね」

「待って、みくしーってなに?」

「極東のSNS…らしい。招待制だから詳しくはわからないけど」

「閉鎖的なコミュニティなんだ。あいつららしいや。…ちなみにロンは何やってるの?」

「僕はこれさ」

そう言ってロンが自慢げに出してきたのは…

「…?なに、これ」

「4ちゃんねるさ」

「ええと、これは掲示板ってやつかい?」

「そう、これは僕が常駐しているアイスクリーム販売車追跡スレッド」

「へ、へえ…」

何が面白いのかさっぱりわからないが、ロンはかなりネットに詳しいらしい。

ヴォルデモートが滅んでもう20年になろうとしているが、今滅ぼすべき悪はこのパソコンを使わなきゃいけない世界なのかもしれない。

 

ハリーは朝日が登る頃、コテコテにアニメーションがついたパワーポイントを完成させた。

 

「やったー!」

「よかった、これであるバスにいいところ見せられるぜ」

「ありがとうロン!あとはこれを保存して…」

 

そして、

 

激重アニメーションはクラッシュし、ソフトは強制終了された。

 

これがハリー・ポッター闇落ち事件のことのあらましである。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。