チーズ系転生者   作:カチカチチーズ

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長い。
チーズのくだりは今回はいいよね?
刑部姫を見て思ったのはまずその服、おまえ……

なんとなく欲しくて引いてみたらまさかの槍おじ様。

……いや、あんた去年のイベントキャラじゃん!?




転生剣士の一切紫電:落第騎士の英雄譚

 

 

 

 

 紫電が迸る。

 

 無数もの紫電が紅蓮の炎を穿ち切り裂いていく。

 

 

「アァッ!!」

 

「────」

 

 

 振るう。一振りするだけで十束もの紫電が炎を食み喰らう。

 刃渡り二尺六寸五分の刃がまるで舞うように紅蓮の姫君へと殺到する。

 

 

「ッう────!!」

 

 

 秒に三振り、一振り十束ならば秒に三十束もの紫電が次いでに襲いかかる。炎では対処に追いつかず、紅蓮の皇女は防戦一方でしかなかった。

 この状況より脱するには彼女の最大の一撃をもってこの無数もの紫電を消し飛ばし、それと同時に目の前の騎士を倒すしかない。

 しかし……

 

 

「ぐぅぅぅッ!!(それを、させてくれないッ!!)」

 

「どうした、ステラ・ヴァーミリオン。啖呵を切った割にはなんとも調子が悪そうだな!」

 

 

 どれだけ逃れようとも紫電の騎士は間合いを保ったまま打ち合う。魔力による強化を利用した身体能力で離そうとも魔力は互角且つ紫電の如き雷速より逃れることは不可能。

 故にステラ・ヴァーミリオンはこの状況より脱する事が出来ず歯痒い感情を隠せなかった。

 

 

 

────さて、この状況を説明するのにしばし時を遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 はてさて、どうするか。

 

 昼間のランニングを終えた俺はタオルとスポーツドリンクを片手に今日の昼食を何にするかを思案していた。

 今は春休みの真っ最中……と言っても新学期開始の直前で俺は少し早めに学生寮へと戻ってきていた。

 本来なら入学式前日に戻ってくる方が生徒会の雑務に駆り出されなくて済むのだが、生憎な事に我らが生徒会長様に少し早めに戻ってきちんと手伝えと連絡されてしまい、それに対して反応してしまった以上こうして今学生寮にいるのは仕方のないことだった。

 

 ちなみに戻ってきたのは今日の朝で学生寮の自室に行く前にランニングをして来たのでまだ今日は一度も部屋に入っていない。

 春休みの間に埃が被っていたらどうしようか。いや、もしかしたらお節介焼きの我らが生徒会長様辺りが掃除してくれているかもしれない。

 

 

「で、昼飯は何にするかね」

 

 

 適当に外で食うか、学校にいる筈の生徒会長様やうたに貴徳原辺りでも誘って…………いや、間違いなくうたは俺に奢らせるな。やめよう。

 なら……適当に何か買って作るか?

 

 そうだ、確か一輝も今日辺りに戻ってきてるんだったな。となると、原作的に着替え中のステラ・ヴァーミリオンと出会うわけだ……しかし……ふむ。

 

 

「まあ、決闘になっても早期から手を加えた分、原作よりは楽になるだろう」

 

 

 誰もいない廊下で俺は笑い、自室のドアノブを掴み……そのまま開いた。

 

 

「え────?」

 

「は?」

 

 

 鍵の掛けていた筈の扉が鍵を使ったわけでもないのに開き、部屋の中には一人の少女がいた。

 燃え盛る炎を体現するかのようなウェーブのかかった紅蓮の髪をツインテールにし、日本人離れした美しい顔立ちの中心で突然の侵入者により驚愕で見開かれた真紅の瞳。

 いや────まて、おい。

 

 部屋を間違えたか?ンなわけあるか。角部屋の左隣の部屋は俺が一人で使っている部屋の筈で俺が間違えているわけはなく……ということは目の前の少女が間違えているということになるが……いやいや、違う。

 

 

「ひ────」

 

 

 少女の喉から引きつったような悲鳴が漏れる。続いて聞こえるのは少女の肺が空気を吸い込む音。

 もはや、遅い。言い繕った所で無意味。ならば此処は────!

 

 

────タアンッ!!

 

 

 速攻で扉を閉める。

 

 いや、きっと遅いんだろうけども……

 

 

『いやぁあああああ!!!ケダモノぉおおおお!!!!』

 

 

 かくして悲鳴は午前の静寂を切り裂き、天を衝いたのであった。当然である。

 俺は部屋の前でこれからの事……具体的には刀華や一輝らになんて言おうか、と昼飯どうしようか、などと少しズレた事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伐刀者(ブレイザー)》。

 己の魂を武装────《固有霊装(デバイス)》として以下略。こんなん説明するまでもない気がする。

 とりあえずライトノベルやマンガ、ゲームにありがちな魂から固有の武装を召喚して魔力使って異能を行使する異能系ファンタジーな特異存在と思っておけばいい。

 古い時代には『魔法使い』だの『魔女』だの言われていたらしい……とりあえずアーサー王やジャンヌ・ダルク辺りは伐刀者だったんじゃなかろうか。エクスカリバーしかりアロンダイトしかりガラディーンしかり聖女の旗しかり。

 

 さて、そんな『伐刀者』に……『魔導騎士』と『免許』という社会的立場諸々を与えてくれる専門学校の内の一つが今俺がいる日本の東京都に東京ドーム十個分───ちなみにぶっちゃけ東京ドーム一個分の大きさが俺は全くわからない───という広大な敷地を持つ『破軍学園』なわけだが…………

 

 

「やれやれ、寮へと戻ったと思えばこうして痴漢とは」

 

 

 その破軍学園の理事長室に、悲鳴を聞きつけた寮の警備員に痴漢として現行逮捕されてしまった憐れな男こと俺、皆許蕾興(かいもとれき)は連れてこられていた。

 皮のソファーに座る、煙草を咥えたスーツ姿の麗人、破軍学園理事長・新宮寺黒乃は一連の騒ぎの経緯を聞いて呆れた表情で俺に言い放った。

 

 

「いやいや、痴漢なんてしてませんって……いや、確かに見てしまいましたけどアレはもはや不可抗力じゃないですか」

 

「不可抗力をうたうならすぐさま閉じればよかったろう」

 

「いや、まあ、そうですけど……でも普通驚いたらしばらく動けないでしょ?」

 

「確かにそうだな……とは言ってもな皆許。彼女の立場になって考えてみろ。春休みで人の少ない学生寮で着替えをしていたら、突然扉が開いてそこには見知らぬ男がいたら……どうだ?」

 

「とりあえず俺なら逃がす前に八つ裂きですね」

 

 

 そう、理事長の言葉に俺は返すが内心割りとどうでもよかった。いや、確かにうら若き乙女しかも歳下の着替えを見てしまったのには心が痛む……だがしかし、俺にはこれから恐らく待っているであろう刀華の雷速剣舞・戦姫変生の方が大事だ。

 いや、乙女の心の傷より俺の身体の傷の方が重いわけがないんだがしかしそこは俺が一度たりとも女になってそういう経験が無いという故のもので罵倒しくれて構わん。

 

 

さて────どうするか。

 

 

「ヴァーミリオン嬢には酷い事をしてしまったというのは思いますよ……」

 

「なんだ、皆許はヴァーミリオンの事を知ってるのか」

 

「なんとなくは、俺と同じAランクという程度には知っていますよ……ついでにヴァーミリオン皇国の姫さんでしょ?」

 

 

 ステラ・ヴァーミリオン。ヨーロッパ辺りの小国であるヴァーミリオン皇国の第二皇女だった筈だ。ついでにいえば原作における主人公のメインヒロイン。

 彼女が破軍に入学した事はそこそこ大きなニュースになったらしいが俺は刀華づてで知っただけだ。後は原作知識でなんとなく知っている……彼女が俺と同じくAランク騎士だということ

 

 

「そうだ、《総魔力量》なんかは平均の三十倍だそうだぞ?……能力値が低すぎて留年してもう一回一年生をやる誰かとはえらい違いだな」

 

「それ、あまり言わないでもらえます?一応俺としては結構心に来てるんですよ?もう少し早くに対処してやってれば……ねぇ」

 

 

 煙草を吹かす理事長の言葉に俺は若干のイラつきを覚えながら反論する。

 しかし、否定はしない。何せ件の留年生もとい原作主人公の《総魔力量》は平均の十分の一しかないのだから。

 

 

「しかし、これは大変な事だな。この一件、下手すれば国際問題になりかねん……だから皆許に非はないが責任を取ってもらう。理不尽だろうが男の度量を見せろ」

 

「男ってそんな都合の良い言葉でしたっけ?」

 

 

 と、そんな風に理事長と話していると不意にノックが聞こえた。

 

 

「……失礼します」

 

 

 ノック音のもと、理事長室のドアへと視線を向けるとドアが開き件の少女、ステラ・ヴァーミリオンが入室してきた。

 その際、俺の姿を視界に入れたからかこちらへ涙を流したのか赤く腫らした目元ながらも恨みがましい視線を投げてくる。

 流石に歳下の乙女を泣かしたのはばつが悪いため俺は大人しく頭を下げる。

 

 

「すまない。あれは不幸な事故で、俺も別に君の着替えを覗こうなんて微塵も思わなかった。しかし、見てしまった以上詫びるしかない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「……潔いのね。これがサムライの心意気なのかしら」

 

「まさか。千の言葉を重ねるよりもこうした方が何より良いと思っただけだ」

 

 

 澄んだ声の彼女に俺は表情を変えず答える。

 すると彼女は……強ばった表情をやや和らげ薄く微笑んだ。

 …………普通ならこれで許されたないしなんとかなるだろうと思うだろう。少なくとも何も知らなければ俺もそう思う。ただ、まあ……

 

 

「貴方の潔さに免じてこの一件、───ハラキリで許してあげる」

 

 

 だよな。

 俺は表情を変えずにとんでもない事を抜かした彼女を見て……

 

 

「とりあえず切腹はおかしい」

 

「本来なら丸太に縛り付けて国民全員で一発ずつ石打ちにするところを本当に特別なのよ?なのにおかしいってどういう事かしら」

 

「伐刀者的にそっちの方がまだマシなのでは?と思うのは俺だけなんだろうか」

 

「名誉死にしてあげるだけでも出血大サービスよ」

 

 

 いや、出血するのは俺だ。

 というか切腹は死ぬとしても国民全員で石打ちなら耐久いかんによってはなんとか耐えきれる筈……だが彼女は俺に切腹をやらせるようだ。

 無論、する気は無いがね。

 

 

「皆許。お前の生命一つで日本とヴァーミリオン皇国との恒久的平和が買えるんだ。安い買い物だと思うわないか?」

 

「そんか買い物するぐらいなら全力で《解放軍(リベリオン)》に特攻仕掛けますよ。そうすればとりあえず屍山血河が築けますよ」

 

「それはやめろ」

 

 

 ちょっとした理事長とのコントじみたものを挟みつつ俺は彼女に向き直る。

 

 

「他にないのか?」

 

「何よ、日本男児にとってハラキリは名誉なんでしょ?何が不服なのよ」

 

「いや、それ結構昔の話だからな。俺に切腹を名誉と思う考えはない」

 

 

 俺の言葉に明らか彼女はその表情を再び険しくした。

 

 

「なによ!さっき煮るなり焼くなり好きにしろって言ったじゃない!!男なら自分の言った言葉には責任持ちなさいよッ!!」

 

「いや、まあ、そうだが。それは日本独特の言い回しとして流してくれ」

 

「まったく呆れた物言いだな皆許。男としてのケジメとはなんだったのか」

 

 

 うるさい。茶々を入れるな。というか男としてケジメをつけるとは一度も言わなかったろう。

 

 

「ともかく、たかだか下着姿を見た程度で命を支払うつもりは無い」

 

「たっ、たかだかですって!?し、しし信じられない!信じられないわッこの変態ッ!!??」

 

 

 俺の挑発まがいの言葉に彼女の瞳に怒りの炎が灯った。来るか────

 

 彼女の周りの大気が、ひりつくような熱を帯びて、燐光を散らし始めた。

 

 奴の固有霊装。それは…………

 

 

「もう許せない!アンタみたいな変態・痴漢・無礼者のスリーアウト平民はこのアタシが直々に消し炭にしてやるわ!!!傅きなさい!《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!」

 

 

 瞬間、理事長室を熱を帯びた極光が照らし、ステラの両手に炎を纏う大剣が顕現した。

 それは伐刀者の魂を具現化した固有霊装。

 様々な形状を持つ『魔法の杖』、そして奴の能力は全てを焼き尽くす灼熱の炎────

 

 

「覚悟しなさいこの変態……!!この世から塵残さず蒸発させてやるわ………ッ!!」

 

「……はぁ」

 

 

 まったく誰が変態だ。誰が。

 振り下ろされる炎剣。それに対し俺は言霊を告げる。

 

 

「黄泉より迸れ。《冥月》」

 

 

 現れるのは藍の布が巻かれた黒紫の鞘に収まった刀。俺は刃を抜かず鞘でそれを受け止めた。

 

 

「微温い」

 

「え……はぁッ!?」

 

 

 如何に彼女の炎が強かろうとも経験は俺の方が上。彼女の一撃を受け止めたと同時に俺は彼女の剣を弾いた。

 予想外のそれに彼女は目を丸くして驚愕の声を上げる。

 その間に俺は彼女へ事実を叩きつける。

 

 

「ともかく、あそこは俺の部屋だ。間違えた君が悪いんじゃないか?」

 

「はァっ!?何言ってんのよ!!アタシの部屋に勝手に来たのはアンタの方でしょ!?アタシはちゃんと理事長から貰った鍵であの部屋に入ったのよ!?間違えてるわけ無いでしょ!!!」

 

 

 俺の言葉にまた表情を険しくする彼女。しかし、彼女が口走った言葉に俺はやはりと零しながら理事長に視線を向ける。

 そもそも俺は春休みで外に出る前にきちんと鍵をかけていた。で、彼女が鍵を開けて入った?

 というかなんで一輝ではなく俺が……というか仕方ないのか。俺はAランクなんだから。

 

 

「とりあえず勿体ぶらず真実を教えてもらおうか、理事長」

 

「く、くくく……」

 

「……り、理事長先生?」

 

 

 二人揃って理事長へと視線を向けると、彼女は何やら堪えかねたようにくつくつ笑いだし、

 

 

「ふふ、いやいやすまない。何やら面白い事になっていたのでな……どういうこともそういう事さ。破軍学園の寮が基本二人一部屋なのは皆許も知っているだろう?いや、去年まで一人部屋だったお前が知らないかもしれないが……まあ、ともかく皆許もヴァーミリオンも部屋を間違えたわけではないさ。簡単な話……君たちはルームメイトなんだよ」

 

 

 原作知識で知ってなければ……というより知っててもとんでもない事を言い放った理事長に俺は呆れつつ耳を塞ぐ。

 

 

「え、ええええええええええ!!??」

 

 

 無論、それは叫ぶヴァーミリオン嬢の叫び声から耳を護る為

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 皆許蕾興がルームメイトである事に理事長・新宮寺黒乃へ抗議をぶつけるステラ・ヴァーミリオン。

 しかし、黒乃の方針である「完全な実力主義、徹底した実戦主義」に基づいた部屋割りと言われステラはその抗議を一度切られ、そのまま黒乃が話し続ける。

 

 

「ここ数年、破軍学園は他の騎士学校六校と比べてあまりいい所がない。年に一度、七校合同で主催される一番強い学生騎士を決める『七星剣舞祭』でも負け続きだ…………いや、すまんそれは一昨年までだったな。ともかくほんな破軍学園を立て直すために理事会に呼ばれた私がこの学園を立て直すための第一歩、それがこの部屋割りだ。出席番号、性別、年齢なにも関係ない。力の近い者同士を同じ部屋にしている────互いに切磋琢磨させるためにな」

 

 

 どうだ凄いだろう、と不貞不貞しく己の思惑を明かす黒乃にステラは唖然とし、原作知識故に事情を知っている蕾興は呆れた表情で見ていた。

 と、一拍遅れて蕾興は一つ気がついた。

 

 

「あ?待て、いや、待ってください。つまりはもしかして一輝が一人部屋ですか?」

 

「ああ、黒鉄は一人部屋だ」

 

 

 黒乃の言葉に蕾興は嘘だろ?と言うふうにソファーに深く座り直す。今まで一人部屋を満喫していたがために知り合いにそれを奪われたのがショックだったのだろう。

 

 

「まあ、そういうわけだ。Aランク同士のお前たちがルームメイトになるのはある意味必然なわけだ。納得したか?」

 

「納得できるわけないでしょうッ!?」

 

───バンッ!!

 

 

 ステラは理事長の執務机を手のひらで叩き抗議を再開した。

 そんな彼女に諦めの視線を向けながら蕾興は一人懐から取り出した飴を口に放り込む。

 

 

「だ、だいたいアタシ達みたいな年代の男女が一緒の部屋で生活だなんて、ひ、非常識だわ!間違いが起こったらどうするんですか!」

 

「おやおや。ヴァーミリオンは年頃の男女が一緒にいるとどんな間違いが起こると思ってるのかな?是非聞かせて欲しいな〜」

 

「そ、それは……その……ぅぅ」

 

 

「もはやオッサンの絡みだぞアレ」

 

 

 黒乃に呆れた言葉を投げかける蕾興を他所に黒乃とステラの話は進んでいく。

 蕾興は当事者だというのにもはや諦めているため話は聞かず二つ目の飴を取り出し口に放り込む。

 と、唐突にステラが蕾興の方を向いて三本指を立てる。

 

 

「わかったわ。ただし、一緒の部屋で生活する以上アンタに三つだけ条件があるわ!!」

 

 

 唐突だった為、蕾興は少しむせかけながら、ステラの条件とやらに耳を傾ける。

 無論、なんとなく察しがついているのだが

 

 

「話しかけないこと。目を開けないこと。息しないこと!」

 

「とりあえず三つ目以外ならしてやらなくもない」

 

「この三つが守れるなら部屋の前で暮らしていいわ!」

 

「おい、部屋から追い出すな。というか一緒の部屋で生活じゃないぞ、それ」

 

 

 蕾興は冷静にツッコミを入れつつ、ステラの背後で笑いをこらえている黒乃に苛つきの視線を向ける。

 

 

「何よ、出来ないの?」

 

「せめて呼吸をさせろ」

 

「いやよッ!どうせ息を吸うふりしてアタシの匂いを嗅ぐつもりなんでしょ変態!」

 

「誰が変態だ!それと口呼吸すればいいだろ!?」

 

「駄目よッ!どうせ舌でアタシの吐いた息を味わつもりなんでしょ!?」

 

「そんな気持ち微塵もないわ戯け!」

 

 

───知っていたとはいえ自分が言われるとこんなふうに叫び返すしかないな、おい。

 

 心中で蕾興はそう愚痴りながらいい加減に何か折半案でも出せと黒乃へと視線を向けると彼女はやれやれと呆れたように首を振り……

 

 

「では、模擬戦でもしたらどうだ?勝った方が部屋のルールを決めるんだ。己の運命を剣で切り拓くのが騎士道なれば、これに異論を唱えるものはいないだろう?」

 

 

 それは二人で正々堂々試合をして勝った方が意を通す、単純明快なモノ。

 騎士同士の揉め事を解決する常套手段だ。

 その提案に微妙に蕾興は面倒な表情をしつつ了承する。

 

 

「仕方なし。これ以上面倒事になる前にそれで終わらせましょう」

 

「え、あ、アンタそれでいいの?」

 

「なんだ、嫌ならいいけど?負けるのが怖いなら」

 

 

 そんな、あからさまな蕾興の挑発にステラは乗ってしまった。

 理由は不明ではあるが……だが、蕾興の予想以上にステラは挑発に乗りすぎた。

 

 

「いいわ。わかった。わかりました。やってやるわよその試合。でもアタシをこれだけバカにしたんだから、もう賭けるのは部屋のルールなんて小さなモノじゃすまないわよ!負けた方は勝った方に絶対服従!どんな屈辱的な命令にも犬のように従う下僕になるのよッ!いいわね!!??」

 

「いや、まて、これだけバカにってバカにしてないからな!?」

 

「今更怖じ気付いても無駄よ。アタシをここまで本気にさせた自分を呪いなさい!これはもう模擬戦ではなく、決闘なんだから!」

 

 

 蕾興にとっての事実を言ったところでもはや後の祭り。蕾興の言葉を挑発と受け取り続けていたステラはその怒りを爆発させた。

 もはや、止めるには決闘をするしかない。

 

 

「話はまとまったようだな。ならば、第三訓練場を使え。許可は私が出す」

 

「ちょ、理事長ッ!!」

 

「覚悟しなさいよねッ!!フンッ!!」

 

 

 時既に遅し。ステラは鼻を鳴らして蕾興を置き去りに理事長室から出ていった。恐らく第三訓練場へと向かったのだろう。

 理事長室に残ったのは笑う黒乃と呆れる蕾興。

 

 

「……理事長、恨みますから」

 

「くく、流石に下僕は嫌か?」

 

「嫌ですよ。刀華とかにそんなん殺されかねないですからね」

 

「ほう、勝つ気満々のようだな。彼女は近づくだけで相手を焼く灼熱の炎。先ほどは怒りによる突発的なもの、決闘ではさっきのようには出来んかもしれんぞ?」

 

 

 残った蕾興にそう笑う黒乃。しかし、そんな黒乃に蕾興は嗤いながら答える。

 

 

「まさか。まだアレは孵化していない竜ですよ。ならば、仕留めるのは容易い」

 

「……なるほど。ならば、見せてやれ。彼女のこれからの成長にもお前の様な奴や黒鉄の様な奴が必要不可欠だからな」

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 

 そして二人は理事長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 破軍学園の敷地にはいくつものドーム型闘技場が点在しており、内部には直径百メートルほどの戦闘フィールドと、それをすり鉢状に囲む観客席が設けられている。

 そのうちの一つ、第三訓練場の中心に皆許蕾興とステラ・ヴァーミリオンの姿があった。

 レフェリーである黒乃を挟み、二メートルほどの間を空けて対峙する両者。

 

 そして、そんな二人を見つめるいくつもの視線が観客席にある。

 元々この訓練場を使ってトレーニングしていたり、噂を聞きつけて見学に来た、二、三年生たちの視線だ。数は二十強と、春休み中に突然決まった模擬戦の見学者としては数が多い。

 その半分弱が鳴り物入りで入学した超新星(スーパールーキー)ステラがお目当てだった。

 

 

 

『あの娘がヴァーミリオンの《紅蓮の皇女》かー』

 

『すっげぇ美人じゃん』

 

『髪の毛が綺麗……。燃えているみたいで素敵……』

 

『で、相手は…………おい』

 

『…………どっちが勝つんだ』

 

『皆許蕾興……』

 

『Aランク対Aランク……か』

 

『《紫電》……』

 

 

 

 本来ならそんなものはいらない、と一蹴するがステラは勝利を確実にする為にもと大したものは無いとわかりつつも観客席から漏れ聞こえる言葉に耳を澄ませていたが、やはりたいしたものはなくすぐに止めてステラは目の前の蕾興に集中する。

 

 

「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装を《幻想形態》で展開しろ」

 

「黄泉より迸れ。《冥月》」

 

「傅きなさい。《妃竜の罪剣》!」

 

 

 ステラ、蕾興共に魂の具現である剣を、刀を《幻想形態》────人間に対してのみ、物理的なダメージを与えず、体力を直接削り取る形態で召喚する。

 

 

「……よし。では────LET's GO AHEAD(試合開始)!!」

 

 

 告げられる合図。

 それと同時にリングに紫電が迸った。

 

 

 

────そして、冒頭に至る

 

 

 

 

 

 

「シッ────」

 

「つぅ!!?」

 

 

 肩口を狙って放たれる突き。ステラはそれを寸前で回避するが追走してきた十束の紫電がステラを弾き飛ばす。

 観客席近くまで弾かれたステラは即座に体制を整えその手の剣に魔力を込める。しかし、そんな彼女に襲いかかるのは無数の紫電。

 今年で3年となるAランク学生騎士・皆許蕾興の二つ名は《紫電》。それはその能力である紫色の雷光とその鋭い剣筋から付けられたモノ。そんな蕾興にとって距離などさしたる問題にはならず、こうして距離があるステラに大技を出す隙を与えない為に無数の紫電を放っていく。

 

 勝負の天秤は既に蕾興へと傾いている。

 

 その事をステラは察していた。

 目の前の騎士は今まで自分が戦ってきた中の誰よりも、そう自分よりも強い相手なのだと。だがしかし、ステラはそれがどうしたと一笑する。

 自分よりも強い相手?願ってもいない。もとより更なる高みへと至る為にこの破軍学園へと入学してきたのだ。

 自分よりも強い相手と戦うのは当たり前だ。だからこの戦いに全力を注ぐ。

 

 

「はァァァッ!!」

 

 

 ステラは放たれた紫電を回避しつつ剣で撃ち落としていく。その際の衝撃は一つ一つ重いがしかし耐えれないものではない。

 動きながら蕾興の隙を伺う。いくつか隙は見つけられる、だがそれは誘いであるのをステラは持ち前の勘で察し中々踏み切ることが出来ない。

 

 

「────迸れ」

 

 

 紫電が止んだ。

 何故、とステラが目を見開くがすぐにその理由はわかった。

 

 頭に平行に立てた蕾興の固有霊装《冥月》に紫の魔力がまとわりついていく。紫電という形でないため雷特有の音は鳴らないがしかし相当量の魔力が集まっているのが理解出来た。

 明らかな隙だ。

 

 決闘が始まってから一番大きな隙。

 

 ただ突っ込めば確実に負ける、とステラは直感していた。だからこそステラはこの選択を選んだ。

 

 

「────私の最大の敬意で迎え撃つわ」

 

 

「蒼天を穿て、煉獄の焔」

 

 

 ステラが《妃竜の罪剣》を天に掲げた瞬間、剣に宿る炎がその光度と温度を一層猛らせ────炎ではなく光の柱へと変化させドームの天井を溶かし貫いた。

 

 

『な、なんだこれぇぇぇっ!?』

 

『《紫電》も《紫電》だが、同じ人間かよ……ッ!!』

 

 

 百メートルを優に超える光の刃は、───太陽そのもの。

 ありとあらゆるモノの存在を許さない滅死の極光。

 これぞAランク騎士《紅蓮の皇女》が誇る最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 蕾興が自分よりも遥かに強い剣客。それを認めるが故にステラは己が持つ力で戦域全てを焼き払うつもりなのだ。

 この自分の最強の一撃で蕾興を打ち倒してみせる、と決めて。

 

 

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》────!!」

 

 

 訓練場を焼き切りながら振り下ろされる光の剣は間違いなく蕾興へと迫って────

 

 

 

 

 

 

「遮那王流離譚────」

 

「え?」

 

 

 都合八度の跳躍音が響いたと思えば、ステラの意識は暗転した。

 

 

 

 




頑張った。
とりあえず2話構成です。
2話はしばし待たれよ。オルレアンの方を投稿してからですね
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