正直ブラッドギアよりこっちの方がいいと思ってる。
一人の少女の前に立つ、一人の少年がいた。
「どうしても、ですか」
「ああ、どうしても」
遠慮がち、いや今から行う事を出来れば可能ならば避けたいという意思を感じさせる声音の少女に少年は逃げる事など決して認めないと言わんばかりの声音で応じる。
歳頃の男女、そんな二人のその言葉は聞く者からすれば二人が恋人かはたまたそれになる関係なのか、と勘ぐるやもしれない。
だが、残念な事にこの二人の間にそんな関係は無い。
「……わかり、ました」
「約束は守る」
悲痛そうな表情で拳を握る手に力がこもる少女。
冷静に決意に満ちた瞳を少女に向けながら左手を少女に伸ばしまるで心臓を握り潰すように手を握る少年。
この二人の間に色恋のそれはなく、あるのは嘗ての勝者と敗者という因縁のみ。
「私が勝ったら、未来の居場所を────」
「俺が勝てば、その勝利こそが報酬」
言葉を交わし、少女は目を瞑り聖詠を歌うために口を開き、少年は懐から取り出した紫色のひび割れの模様があるボトルを取り出し捻る。
────デンジャー!
鳴り響く機械音。少年は自身の腰に巻かれた水色と金色のドライバーの真ん中へとボトルを差し込む。
────クロコダイル!
待機音が流れ始め再び少女は目を開かせ、少年と視線を交差する。
「―――Balwisyall Nescell gungnir tron」
「変身」
紡ぐ聖詠、告げる台詞。
そうすれば、次の瞬間に暖かな光が少女を包み込んでいき、同時に少年のを中心に人間大のビーカーの様なモノが現れ中にいる少年ごとビーカー内に紫色の液体が満ちていく。
────割れる、食われる
そして、ビーカーの両サイドから機械のアームさながら鰐の顎が現れビーカーを噛み砕く。
────砕け散る!!
砕けたビーカーから姿を現すのは少年ではなく紫と黒のスーツを纏った何某。
────クロコダイルインローグ!!
そんな少年に応じる様に少女を包み込んでいた暖かな光は消え、その中からオレンジと白のスーツを纏った少女が姿を見せる。
互いの視線が交差し、互いに自身の拳を握る手へ力を込める。
「シンフォギア:ガングニール―――立花響!行きますッ!!」
「仮面ライダーローグ―――氷室幻冶……」
どちらが先か、など分からず互いに地面を蹴り、目の前の相手へと駆けその拳を握りしめる。
「オォォオオ!!」
「ウァアアァア!!!」
互いに勝たねばならぬ故。止められない戦いがここに始まった。
────────────────────
さて、勘のいい者なら分かるだろう。
これから起きるのは予定調和。
大体の者が予想出来、テンプレ的な出来事ではあるが決して外す事は出来ないお約束。
何の変哲もない日常。
変わらない人生。
時折、そんな変わらない平凡極まりない普通な日常がいきなり、小説漫画アニメさながらの非日常になったら、と抱いた事が誰しもあるだろう。
だがしかし、そんな事がいきなり起きたら……果たして喜べる人間がいったいどれほどいるというのだろうか。
「と、まあ……そんなわけで、だ」
横目で印刷した講義の資料内容からポイントとなる記述を確認し、つらつらとペンをノートに走らせながら彼は目の前に座る友人を見る。
一々ポイントとなる記述をノートに写さずとも資料に目を通せばわりかし、理解出来ると言ってはばからない友人に胡乱な視線を向けつつ、ドリンクに差したストローに口をつける。そんな彼に友人はにへらと笑いながらフライドポテトを口に運ぶ。
「―――はどう思うよ」
「……いきなり非日常が始まったとしたらどうしようもないだろ。喜ぶとか嫌がると関係無く、そんな非日常に抗う術がないならそのまま何しても無駄、諦めるのが一番」
「夢がないなぁ」
まるで彼が可笑しい様に笑ってみせる友人に彼は目頭を揉みながらため息をつき、ペンを置く。
「夢より今は単位だ」
「単位なんて普通に過ごしてりゃ取れるもんだって」
「…………試験は勉強しろ」
そう呟き、ペンをペンケースへとしまい込みノートや資料と共に鞄へ放り込み、空になったドリンクとゴミが乗ったトレイを持ち上げ席を立つ。
友人は残念そうな表情を彼へと向けるが彼はそれを無視してそそくさとテーブルから離れていく。
「んー、帰るのか?」
「帰る。ここにいたら、お前に時間割いてろくに勉強出来なさそうだ」
ゴミを捨て、トレイを片付けた彼は友人に後ろ手でひらひらと振るいそのまま店を出ていく。
「……非日常なんて、いきなり起きてたまるか」
寮への帰り道。
夕陽を背に住宅街にあるやや急な長い坂を下っていく彼。
そうしながら、彼はつい少し前に友人が口にした事を否定する呟きをしながら今夜の夕食を何にするかを考える。
非日常……確かにそんなものは普通に生きていれば到底訪れることは無い。だがしかし、何事にも例外はあり、逃れられない運命というのもある。
それがどれほどありえないような事でも起きる時は起きるのだ。
「今日の夕飯は……あー、農業科から貰ったのがあったな……あれ消費しよ」
背後になんて一切気を配らない。
「となると、夕飯はカレードリアにでも────ッアガッ!!??」
突如として彼は悲鳴を上げる。その背中、腰には直径30cm程のチーズ塊が叩き込まれていた。一体誰が……という考える暇はない。
チーズの形を見ればそれが彼が歩いてきた坂道を転がりながらやってきた事が理解出来る。チーズは円形、坂を転がりながらスピードに乗りそして途中の石に跳ね上がりそのままこうして彼の腰へと直撃しあろう事か腰の骨を砕き彼の生命を奪ってしまった。
正しく非日常。
日常では決してありえない出来事が彼を襲った。
普通に考えて円柱型のチーズ塊が住宅街の坂を転がってくるものか。
憐れ。ありえないと断じた非日常が彼を見事に殺してしまった。
そう、これこそ予定調和。
こんな運命を決めた者はきっとぎこちなく笑っているだろう。
と、いうわけでこうして彼は死んでそして転生する事となった。
────────────────────
「…………運命なんて、死んでしまえ」
そう、呟きながら俺はノートにペンを走らせていく。
どうして、こんな恨み言を呟いたのか……それは一重に昨晩見た夢が原因なのだろう。
思い出すのは夢の内容。その日の大学での授業が終わり、学期末の試験に向けて勉強する為に某バーガーショップで友人と話し合いそして、その帰り道に…………チーズの塊に恐らく腰の骨を砕かれて死んだ、手短にいえばチーズぶつかって死んだという恥ずかしすぎる死に方をした前世の最後の記憶。
ここから分かる通り、そう俺はチーズで死んだと思ったらまさかの転生をしていた。
言ったところで信じられんだろうが事実だ。とりあえず俺は諦めた。でも、運命は恨む。
「記憶もとい自我がある状態で赤ん坊からリスタートはもう、筆舌に尽くし難い」
果たしてこの感情を理解出来る人間は何人だろうか。
二次小説の主人公らの気持ちが俺には理解出来たよ……転生先の母親が美人とは限らないからな…………いや、アレだよ?俺の母親は普通だったよ?別に美人ではないけどそれでも文句を言うようなモノはなかった。
普通に優しかった。
「……父さんも父さんで前世の親父とは違う方向で尊敬出来るしな」
前世は武道家。今世は科学者。
どちらも聡い父親で文句は言えども馬鹿にはできない俺には出来すぎた父親だと思っている。……いや、親父、アンタはとりあえず母さんにはっ倒されろ。俺知ってたからな、アンタ幼馴染の未亡人と時折イチャついてるの。もはや、俺には関係ないから
……と、それでだ。
「俺が転生したこの世界。……自由に動けるようになって僅か数分で理解した」
それほどこの世界は分かりやすかった。
生まれてまもない頃は周囲の環境から前世の日本と大して変わらない……無論、年代は変わるが……何やらファンタジーな世界ではなかった為、最初よくあるなんかの作品を原作にした異世界転生ではない可能性を考えた。
だがそれでも考えるのは自由だ、と現代日本を舞台とした作品を色々と考えてみた。
例えば『とある』、『SAO』、『ハイスクールD×D』、『型月』、『仮面ライダー』色々と考え、自由に動けるようになった俺はふとテレビを付けてみたら……ニュースが映り、そこで出てきた単語に思わず真顔になってしまった。
『ノイズ』
シンフォギアの世界じゃねえか、おい。
少女が主役の作品で男の俺がどう参加するというのか。
OTONA枠で参加しろとでも?無理。
残念な事にシンフォギア男転生オリ主二次小説の様に何やら転生の間的な場所で特典なんか貰ってないわけで彼らのように共に戦うことは出来ない。
「ところがどっこい、あるんだな。その手段が」
そう、あるのだ。転生特典として貰ったわけでもないが何故かこの世界に無いはずのものが俺の手元に存在している。
それを手に入れたのは一年ほど前の事。とある事情で父さんの書斎の片付けをしていた際に見つけたものだ。どうしてそれが父さんの書斎から見つかったのか、当時は酷く悩み疑問に思った事だが今は納得している。だが、だがしかし……
「氷室泰山…………可笑しいな、アンタやられる側だろ」
そう呟きつつ、走らせていたペンをペンケースへとしまい込み俺は席を立つ。
時計にチラリと視線を向ければ案の定そろそろ予定の時間。
「仕事の時間だ」
机の引き出しからそれを取り出しコートで隠れた腰に吊るし、もう一つのモノを左の掌で弄ぶ。
この世界に転生してはや十六年。
色々な事があった……主に一年前の話だが。
その際に俺はとある人物と契約した。
単純にこの世界で起きる出来事の中心、その近くに行きたいのと父さんの残したものを完成させたいがために技術力を求めて。
────〜〜〜
「と、噂をすればなんとやらか」
鳴り響く黒電話の音……の着信音。一瞬、全裸変態人形を思い出したがそれを記憶の片隅の片隅へと放り投げ電話に出る。
「もしもし?」
『そろそろ観客入りが始まる。会場へさっさと迎え』
「ああ、分かってるとも」
『……仕事だ、と言った筈だ。なんで今日も今日とてお前は自室で勉強をしてるんだ』
電話の相手である契約者はまるで呆れたような声音でそんな事を言ってくるが、どうしてそんな事を言ってくるのだろうか。そんなの簡単な話だ。
「勉強すればするほど、目的に近づくんだから仕方が無いだろう?」
『……それもそうだが。まあ、いい……さっさと来い。予定に遅れたら容赦はしないぞ』
「ちゃんと、予定には間に合わせるさ。フィーネ」
そう言って電話を切りながら俺は左の掌の中にある一本のボトルを見て笑う。そして、そんな俺の笑みに応えるように蝙蝠のボトルは淡く光ってみせた。
この作品にはビルドドライバー及びエボルドライバーは出ません。
マッドローグやるのにエボルドライバー出さなきゃ、と思ったけどエボルト入れるには流石にアレだったから!