転生したらスライムだった件 ミリムと大地の竜王 作:ラ・ピュセル
念話で連絡して数分後、ミリムが現場に到着した。
「うーん、ここまでの強さを持っている竜族なら憶えている筈なのだが、心当たりがないのだ」
実際にこの竜を見たミリムの反応はこうだった。
「そっかぁ…。なんかコイツ、母上とか言ってたから一番関係ありそうなのミリムだと思ってたんだけどなぁ」
「ん?母上?ちょっと待つのだ。なんか思い出しそうなのだ…」
そう言うとミリムは竜を凝視し始める。思い当たる節でもあったのだろうか。そこで成り行きを見ていたゴブタが声を上げる。
「よく見たらおでこのところ、随分大きい傷跡があるっすね」
それを聞いて俺も竜のおでこを見てみた。確かに大きな傷跡だ。岩や鉱物で体が構成されているため、パッと見はその影響でゴツゴツしているように見えるが、何か爪で抉られたような跡があった。
「おでこに傷…、もう少しで全部思い出せそうなのだ…」
その時、件の竜人王がこちらに視線を向けた。こちらというよりはミリムのことを見つめている。
「!ハハウエ、ハハウエ!ワタシデス、まるすデス!」
マルスという名を聞いて、ミリムは全部思い出したというような表情をする。
「マルス!?お前マルスなのか!?久しぶりなのだ!」
マルスの鼻先に抱き付きながら、嬉しそうにするミリム。やはりミリムが関わっていたのか。そして俺はミリムから、マルスとどういう関係があるのかを教えてもらった。
十数年前、俺がスライムに転生するよりもずっと前のこと、当時からミリムは暇つぶしになりそうなものを探しにあちこち飛び回っていたそうだ。そんなある日、新しく竜族が誕生する気配を察知したミリムはとりあえず見に行ってみることにした。その場所に到着すると同時、地砕竜《アースドラゴン》がそこに出現した。
しかし、何が原因なのかわからないが生まれるには魔素量が足りず、いわゆる未熟児という状態で生まれ、放置すれば数分で消滅するところだった。かつてペットとして一緒に過ごした精霊竜の因子を持ったものが、生まれてすぐに命を落とすことを哀れに思ったミリムは、その地砕竜に名を付けることによって足りない魔素量を補おうと考えた。ミリムがその地砕竜に『マルス』という名を授けたことで、無事命を繋ぐことができた。それ以来マルスは、ミリムを母親のように慕い一緒に過ごしていた。
マルスのおでこの傷跡はその日々の中でついたものだという。他の竜がマルスに喧嘩を仕掛け傷を負った。ちなみにその竜は、怒ったミリムにコテンパンにのされたそうだ。
そんなある日、ある変化があった。マルスが地砕竜王へと進化する兆しを見せたのだ。本来ならば竜王への進化には数百年の年月を要するのだが、ミリムが名付けをした影響なのか数年で進化が始まったという。更には魔物は進化の際に眠りにつくが、マルスはその眠りがとても長いものだったらしい。その為ミリムは、マルスが無事に進化できるように、生物が寄りつかない程に魔素濃度の高い山奥にマルスを隠したという。辺りに漂う魔素がマルスの目覚めを早めてくれるという願いも込めて。
これがミリムが知る限りの、事の顛末である。そして俺の予想だが、ミリムがマルスを隠した場所の魔素濃度がミリムの想定よりも高かったことと、名付けによりミリムの因子が加わった為に竜王を超え竜人王へと進化したのだろう。
「それで、この後どうするつもりなんだ?ミリム」
「もちろん、ワタシが責任をもってマルスの面倒をみるのだ」
マルスの鼻先に抱き付いたまま、ミリムはそう答える。マルスもミリムと一緒にいられればそれでいいというように、ミリムに甘えている。
「わかった。マルスの住み処はこっちでなんとかする。ミリムは周りの皆に迷惑をかけないように、マルスに言い聞かせてくれ」
「うむ、わかったのだ」
こうして、また新しい仕事が増えるのだった。