魔法少女の「    」   作:戦艦大和

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第一話「夢の中で会った…ような…」

 風が気持ちい。

 

 彼女がまず最初に感じたのは、体をなでる心地いい風だった。

 冷たくもなく、暑くも無く。清涼感のある風が彼女の髪を、服を揺らす。

 そのままふと目を開けてみると、幻想的な風景が広がっていた。

 

 凹凸の無い平坦な大地に赤、白、黄の三色の花畑がどこまでも広がっていた。

 空は吸い込まれそうなほど黒く、無数の星たちがさんさんと輝き、ひしめき合っている。

 

 しかしこれらも幻想的ではあるのだが、この場において特筆すべきはそれでは無いだろう。

 

 地上三メートルほどの場所に、光でできた紋章が浮いていた。

 

 一つだけではない。高さ、幅共に1メートルほどの紋章が、大きな間隔を開けて無数に浮いている。しかもその紋章たちには、同じものは何一つなかった。

 

 銃弾をあしらった二本の剣がクロスしている物。

 一本の長い弓に、マシンガンを並べた物。

 クロスした二本の大鎌に火の玉が付いている物。

 一振りの刀を八本の刃で囲った物。

 

 一つ一つデザインも、色も違う紋章達が世界を照らしていた。

 

 風が吹き続く。

 紋章の放つ光の中で、花々が揺れるのが見える。

 そんな不思議な世界で彼女は何をするでもなく、一種のなつかしさと共にその光景を眺めていた。

 

 しばくすると、世界そのものが黒くフェードアウトしていった。

 地面も溶けるようになくなり、不思議な浮遊感が体を包み込む。

 そして

 

 

ピピピピピピピピピピピ

 

 

 

「うるさっ!」

 

 けたたましい電子音が、秋水 キッカを叩き起こした。

 

 

 

 

 

 

「うー、目覚まし時計のチョイス間違ったかな……」

 

 朝、パジャマ姿のキッカが耳を押さえながらぼやく。

 彼女は先日目覚まし時計が壊れたので新しい物を買ったのだが、どうやら彼女には少々音が大きすぎたらしい。

 

「こんなの毎日聞いてたら耳が馬鹿になりそう……

 音量の調節は出来ないのかな……」

 

 部屋の真ん中に置いてある背の低い机を見る。炬燵から布団を取っ払ったその机の上には、焼いた食パンと目玉焼きが置いてあった。

 喫茶店を経営している彼女の両親は、キッカが起きた頃には既に店を開店して仕事を始めている。故にキッカの朝食は彼女が起きる前に作られ、用意されているのが常であった。

 

 時計を見る。現在時刻、7時15分。

 年月日、2011年11月25日金曜日。

 

「とりあえず、とっとと朝ごはんでも食うか。」

 

 そう言いながら、部屋のカーテンを開け放った。

 

 

 

 

 

 

「いってきます!」

 

 7時58分。

 短いポニーテールをまとめて制服に着替え、朝食も食べ終わったキッカはいつもの待ち合わせ場所へ走る。

 

「何とか間に合うかな?」

 

 本来なら徒歩五分ほどの所で8時集合なのだが、朝食の後に起こったアクシデントのせいで出発が若干遅れていた。数分なら待ってくれるだろうが、生憎彼女に人を待たせる趣味は無かった。

 

 自宅から二分ほど走ったところで待ち合わせ場所が見えてきた。人影は二人。どうやらビリケツにはならずに済んだようである。その人影の内一人が彼女に気づいて手を振った。

 

「キッカー。おはよー。」

「おはようございます、キッカさん。」

「ハァ……おはようさやか、仁美。」

「なんか、いつもより遅いけどどうかしたの?」

 

 美樹 さやかと志筑 仁美。二人からのあいさつと、さやかの問いを受けたキッカは一息ついてから返す。

 

「朝ごはん食べた後にスカートに牛乳こぼしちゃってねー

別のスカートも干してる所だったからアイロンかけて無理やり乾かしてた…」

「なるほど、それはドンマイ。」

「朝から災難でしたわね。」

 

 と軽い間世話を始めると、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

 そちらを振り向くと、鹿目 まどかこちらに手を振りながら走ってくる姿が見えた。

 

「おはよー。」

「おはようございます。」

「おはよう。」

「まどか遅ーい。……お?可愛いリボン。」

 

 さやかがまどかのリボンを見てそう評す。昨日まで黄色だったまどかのリボンはピンク色にかわっていた。

 

「そ、そうかな?派手すぎない?」

「とても素敵ですわ。」

「なかなかかわいらしいチョイスだね~。でもその様子だと選んだのは詢子さんかな?」

 

 恥ずかしそうにしているまどかに、仁美、キッカがそれぞれ順に評す。

 そしてキッカの指摘に一瞬まどかはきょとんとする。

 

「うん、そうだよ。でもなんでわかったの?」

「そりゃまどかは自分から派手な色は選ばないもんね~。」

「あー、確かに。いっつも地味な色ばっかり選ぶよね。」

「じ、地味……」

 

 キッカ、さやか両名の指摘を受け若干へこむまどか。指摘が事実なだけに余計に来るものがあったようだ。そしてその様子を見た仁美は苦笑していた。

 

 

 そんな会話をしながら一行は学校に向かって歩きはじめた。無論、その途中に会話が途切れる事は無い。

 

「……でね?ラブレターじゃなくて直に告白できるようでないとダメだって。」

「相変わらずまどかのママはかっこいいなぁ……美人だし、バリキャリだし。」

「そんな風にきっぱり割り切れたらいいんだけど……はぁ。」

 

 …そしてこの年代の女子は、やはりネタさえあれば恋愛の方に話が傾くのはもはや必然であった。そのラブレターをもらった本人は困ったように嘆息する。

 

「まぁ、仁美はそんな性格だからね。でも断る時は手心加えちゃだめだぞ?」

「おお、モテる人のセリフですなぁ。流石金髪碧眼のハーフなんてアニメから出て来たようなお人は違う!」

「こら、さやか~。からかうなよもう……」

 

 さやかの頭にキッカが軽く小突く。

 だが彼女も先の「金髪碧眼のハーフ」というキャラのせいか、仁美とタメを張るほどモテているのは事実であった。

 

「しっかし、うやましい悩みだねえ…」

「いいなぁ。私も一通ぐらいもらってみたいなぁ……ラブレター。」

 

 まどかのうらやむセリフ。そしてイメチェンしたばかりの彼女の発言に反応したのはさやかだった。

 

「ほーう?まどかも仁美やキッカみたいなモテモテな美少女に変身したいと。そこでまずはリボンからイメチェンですかな?」

「ちがうよ、だからこれはママが」

 

 さやかの発言にまどかが言い返す。だが当の本人は全く聞いていない。

 

「さては、ママからモテる秘訣を教わったな?けしからーん!そんなハレンチな子は…こうだ!」

「や、ちょっと、やめて、や、め……」

「可愛いやつめ!でも男子にモテようなんて許さんぞー!まどかは私の嫁になるのだー!」

 

 そしてそのままじゃれあいを始めてしまった。子犬のようにじゃれあう二人に流石のキッカもあきれてため息が出ていた。

 そしてキッカは仁美と手をつなぐと

 

「え?あ、ちょっ……」

 

 そのまま軽く走り出してしまった。

 

「ほら、じゃれあってないでとっとと行くよ。予鈴鳴っても知らないからね?」

「あ、キッカちゃん待って~」

「こらキッカー!、私達を置いてくなー!」

 

 抗議の言葉が聞こえてきたが、あえて無視することにした。

 

 

 

 

 

 

「今日はみなさんに大事なお話があります。心して聞くように。

 目玉焼きとは、固焼きですか?それとも半熟ですか?はい、中沢君!」

「えっ、えっと……ど、どっちでもいいんじゃないかと……」

 

 朝っぱらからどうでもいいような質問を飛ばしているこの人物は、非常に残念なことにこの学校の教師のひとりでありキッカの担任である先生だ。

 キッカは中沢氏とはあまり話したことはなかったが、それなりに気の毒に思うのだった。

 

「その通り!どっちでもよろしい!たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違いです!

 女子のみなさんは、くれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!

 そして、男子のみなさんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと!」

 

 どうやら、ここ三か月付き合ってた彼氏と別れたようだ。HRの際にいつもノロケ倒していたが、その割には別れた原因は至極どうでもいいものだったらしい。少し離れたまどかとさやかの様子を見ていると、こちらも顔を見合わせあきれているようだった。

 

 と、ひとしきりしゃべり終えた早乙女 和子先生は先ほどまでの憤慨した表情を消すと、笑みを浮かべて話題を転換した。

 

「はい、あとそれから、今日はみなさんに転校生を紹介します。」

 

 先ほどの話題に、これ以上に優先すべき要素などあっただろうか?

 それとも何もないように見せかけからの転校生紹介と言うドッキリのつもりなのだろうか?

 

 と、軽くどうでもいい思考が一瞬キッカの頭をよぎったが、教室のドアが開かれ、転校生本人が入ってきたことによりそんな思考は霧散した。

 

 教室がざわめく。まぁ、無理からぬことかもしれない。その女の子は同い年と言うにはあまりにも大人びていた。

 遠くから見ても丁寧に手入れされていることが伺える長い黒髪に、整った顔立ち。

その表情と、堂々とした足取りがその大人っぽさを強調しているようだった。

 

「はい、それじゃあ自己紹介いってみよう!」

 

 早乙女先生が明るく促す。が、転校生は対照的にひったくるようにペンをとると、ホワイトボードに自分の名前を書き始めた。

 そして教室に向き直ると、

 

「暁美 ほむらです。よろしくお願いします。」

 

 と、必要最小最低限の言葉で自己紹介を終えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「ええ!?何それ?」

「わけわかんないよね……」

 

 その日の放課後、学校近くの軽食店でまどか、さやか、仁美、キッカの四人がだべっていた。話題については、もちろん本日転校してきた転校生についてであった。

 

 あのHRの後の休み時間。気分が悪くなったという転校生ことほむらが、保健委員であったまどかに連れられ保健室へ向かう途中、「家族や友達が大切か?」などといきなり妙な事を言われたらしい。

 もっとも、初めてのクラスで何も分からないはずのほむらが保健委員が誰かを把握していたり、実質的にまどかが連れて行ったというより連れて行かれた形になっていたことも妙なのだが。

 

「文武両道で才色兼備かと思いきや、実はサイコな電波さん。くー!どこまでキャラ立てすりゃあ気が済むんだ?あの転校生は!萌えか?そこが萌えなのか?」

「キャラ立ってることは同意だけど、それのどこに萌える要素があるのよ?」

 

 さやかの訳の分からない発言にキッカが突っ込みを入れる。まどかもこの発言には微妙な笑いになっていた。

 

「まどかさん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」

 

 仁美がまどかに尋ねる。

 あの転校生はHR中、ずっとまどかを凝視していたのだ、その上に先の妙な言動である。まぁ、そう思われても仕方がないかもしれない。

 そしてその問いに対し、まどかは少しためらった様子を見せてから口を開いた。

 

「うん…常識的にはそうなんだけど……」

「何それ?非常識なところで心当たりがあると?」

 

 まどかの意味深な発言にさやかが食いつく。当のまどかはかなり言いにくそうだったが答える。

 

「あのね…昨夜あの子と夢の中で会った……ような……」

 

 沈黙。きょとんとした顔でさやかが目を開く。だが次の瞬間には堰を切ったように笑い始めた。

 

「あははは!すげー、まどかまでキャラが立ち始めたよ!」

「ひどいよ。私真面目に悩んでるのに……」

「あー、もう決まりだ。それ前世の因果だわ。あんた達、時空を超えて巡り合った運命の仲間なんだわぁ!」

 

 まどかがさやかに抗議するも、笑いやむ事は無い。

 と、ここで先ほどまで何か考えていたような様子だった仁美が口を開く。

 

「夢って、どんな夢でしたの?」

「それが、何だかよく思い出せないんだけど……とにかく変な夢だったってだけで……」

 

 それがどうかしたの?と言わんばかりの顔をするが、仁美は続ける。

 

「もしかしたら、本当は暁美さんと会ったことがあるのかもしれませんわ。」

「え?」

「まどかさん自身は覚えていないつもりでも、深層心理には彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません。」

 

 と仁美は自らの推論を話す。が、さやかもまどかもいまいち納得はしていないようだ。

 キッカももちろん納得していない。だが彼女が納得していない根拠は彼女たちとは似ているようで違っていた。

 

 何故納得していないか、と言えばまどか達にとってもそうだがほむらの事を知らないというのもある。

 が、キッカにとっては何より彼女の「目」が決め手だった。

 強い、執着の念。しかもこの年代の女子が抱く物にしては、およそまともでないような代物。過去にあそこまでの感情を抱くような「何か」があったというなら、まどか自身が覚えてないと逆におかしいのだ。

 

 そもそも、キッカにとってはほむら自身におかしく感じる所が多すぎた。

 例えば、運動。

 朝のHRで早乙女先生はほむらに気おされかなり小さくなっていたが、確か最後にこう言っていたはずだ。

 「暁美ほむらは最近までずっと入院していた。」と。

 だが今日の体育の結果はどうだろう?ほむらはどんな競技でもそつなくこなし、先生の話が正しければ高跳びの県内記録までたたき出していたではないか。

 とてもではないが、最近まで入院していた人間に出来る芸当ではない。

 例えば、移動。

 滝見原中学校は、中学校としてはかなり大きい部類にあるものだ。当然のごとく、初めての人間はすぐ迷う。

 今日、何度か移動教室があったが、その間の移動をほむらは「全く迷うことなく」やってのけた。

 学校の見取り図を記憶していた可能性も考えられるが、それにしたって彼女の歩みは「迷い」がなさすぎた。

 まるでこれまで「何度もやっていたこと」のように……

 

「キッカー?帰るよー。いい加減にないと置いてっちゃうぞ?」

 

 と、そこまで考えてさやかの呼びかけで復帰した。他の三人は皆立ち上がっている、これから帰るようだ。

 

「ん?あ、あぁごめんごめん。ちょっと考え事してた。」

「たまにキッカちゃんってぼーっとしてることあるよね。」

「いつもしっかりしてるのにねぇ……」

「四六時中気を張り詰めてても疲れるでしょ?つまりはそういう事。」

 

 キッカも立ち上がりながら軽くごまかす。どうやらうまくいったようだった。

 

「じゃあ、帰ろうか。」

「そだね。」

「あ、キッカ。まどかも行くんだけど今日CD屋寄っていかない?」

「ん?もしかして上条君に?」

「まぁね。」

 

 へへ、と照れ臭そうに笑う。どうやら入院している幼馴染と聞くCDを買いに行くらしい。

 さてどうするか、とキッカは思案する。いつもならここで彼女についていくのだが、生憎今日の彼女には調べなければならないことが有る。

 別に今すぐ調べなければならないと言う訳では無かったが、少し悩んでから答える。

 

「ごめん、ちょっと今日うちの方で用事があってさ……」

「うちって、キッカの家の喫茶店の事?」

「うん、ごめんね。」

「いいよいいよ、喫茶店経営するのは大変だもんね。」

 

 気にしなくていいとさやかが言う。納得した様子である。

 

「じゃあ私はここで。」

「うん、じゃあねキッカ~。」

「またね、キッカちゃん。」

 

 店を出てしばらくしたところで仁美と別れた後、キッカもまどかたちと別れる。そしてまどかたちを見送った後、キッカも自宅に向かって歩きだす。

 

「さて、とっとと支度しますか。」

 

 

 

 

 

 

 走る、走る、走る。

 

 その白い生き物は暗い建物の中を走っていた。

 ここは見滝原にあるショッピングモール。その中の改装中のフロアである。

 

 追われている白い生き物は、その名を「インキュベーター」と言った。

 そして、一度限りの奇跡と引き換えに、「魔法少女」と呼ばれる存在を生み出す使命を負っている彼を追いかけるのは、皮肉にも彼らと契約し「魔法少女」となった存在そのものだった。

 名を暁美ほむらといった彼女は、明らかな「殺意」を持って彼に迫る。だが彼女は未だインキュベーターに軽い手傷を負わせたのみで、フロア改装用の機材とその小柄な体を利用した逃走術によってなかなかとどめを刺す事が出来ていなかった。

 

 しばらくインキュベーターが見えては攻撃するという事を続けてきたが、しまいには見逃してしまった。だがそれでもこのフロアの中にいる事を確信していた彼女は最後にインキュベーターが向かった方向へ走る。

 するとすぐ彼は見つかった。…出来れば、最も共に居て欲しくない人物と共に。

 

「ほむらちゃん……?」

「そいつから離れて。」

 

 ほむらが冷たく言い放つ。だがまどかは彼を抱いたまま譲らない。

 

「だ、だって、この子、怪我してる……ダ、ダメだよ、ひどいことしないで!」

「あなたには関係無い。」

 

 そう、あなたには関係ない。関係を持っちゃいけない。

 関係を持ったが最後、あなたを待つのは破滅だけ。そんなことは絶対にさせない。

 しかしそんなほむらの思いは届かない。

 

「だってこの子、私を呼んでた。聞こえたんだもん!助けてって!」

「そう。」

 

 まどかが彼を渡そうとしないなら無理やり奪い去るだけである。ほむらがまどかに近づく。

 が、次の瞬間ほむらの視界が真っ白に染まった。

 

「まどか、こっち!」

「さやかちゃん!」

 

 どうやら状況を見た美樹さやかが置いてあった消火器の消火剤をばら撒いたようだった。煙が収まったころには既に二人の姿は無い。

 すぐに追おうとするが、今度は辺りの景色がゆがみ出した。

 

「こんな時に……!」

 

 「魔女」。そう呼ばれる怪異が周囲を覆う。

 彼女らの作る「結界」は一種のダンジョンとなっている。今すぐ急行したいのはやまやまだったが、難しいだろう。

 しかし結界と言うのは何の力もない一般人が生きていけるような場所ではない。可及的速やかに助けに向かわねばならない。

 そのために駆け出そうとしたときだった。

 

 妙な感じが、ほむらの体を走り抜けた。

 

「え……?」

 

 これまで感じたことも無いような感覚に驚くほむら。だがその足が止まる事は無い。

 今の感覚は、何だったのか?走りながら考える。

 

 今の感覚は、明らかに魔力によるものだった。だが彼女の知る限りこんな妙な魔力を発する魔女は存在しない。

 魔法少女もまた否である。この街に存在する現状唯一のほむら以外の魔法少女もこんな魔力を発したことは無かった。

 では誰が……

 

 と、ここまで考えたところで再び周囲の風景がゆがみだす。どうやら魔女は逃げて行ったらしい。

 ほむらはまだ魔女に対し攻撃行為を一度も行っていない。と言う事は、必然的にここにはそれを撃退した魔法少女がここにいる事になるという事である。

 つまり…

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい……今回は、あなたに譲ってあげる。」

 

 巴マミ。彼女がいるという事だ。

 まどかたちもいる、どうやら結界がとけた際、ほむらが近くに出現してしまったようだ。

 

「私が用があるのは……」

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

 明確な敵意。彼女にとってはほむらは縄張りにいきなり現れ、「親友」を痛めつけた存在だ。警戒するのも無理からぬことだろう。

 

 ……既にインキュベーターと接触してしまった上に、巴マミとも接触してしまった。ここでインキュベーターをどうにかしても無意味だろう。なら彼女とここで事を構えるのは無意味だ。

 そう判断したほむらは渋々引き下がる。

 

 ……インキュベーターとの接触は避けられなかった。だがまだ希望はある。まだまどかは契約していない。まだ救うチャンスがある限り、絶対にあきらめない。

 が、彼女はあきらめない。鹿目まどかが助かる確率が僅かでもあるなら、彼女は絶対にあきらめない。

 そのための次の一手を考えながら、撤収するのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、同じ頃。

 ショッピングモール近くのビルの屋上に一つの人影があった。

 皮の靴に薄いカーキのズボンと、皮のベルト。上は白っぽいパステルイエローのシャツに、同色で少し濃いめのベストと白い手袋。首には中世貴族がつけてそうな、いわゆる「ヒラヒラ」事クラバットに、それを留めているように付いているイエローの宝石。それらの上に真っ黒なロングコートを羽織っている人物。

 ここまで書くと男性のコスプレのようにも思えるが、これを着ているのは生憎女性である。

 

「『シグナル』が来たけど、この様子だと大丈夫みたいだね。」

 

 ふう、とその人物は安堵した様子でため息をつく。

 

「しかしやっこさん追いかけてると、まさかこのショッピングモールに来ることになるとはねー…その上魔女まで現れるとは。こりゃ最初から行ってた方が良かったかな?」

 

 そう言いながら頭をかく。だがそのような事を言っても「やっこさん」はここに来るとは限ら無かったし、何より魔女がここに現れるなど考えもしなかったことだ。最初からこの事態を予見でもしていない限りはとてもではないがそのような行動は出来なかっただろう。

 

「まーでも、やっこさん。怪しいと思ってたらやっぱり『魔法少女』とやらだったか。後つけて正解だったかな?しかし……まー何ともファンシーな恰好なことで。魔法少女ってのはみんなそんな物なのかな?」

 

 自身も相当常識はずれな恰好をしていることを棚に上げての発言。不要なコスプレをしているくせに、よく言えたものである。

 

「一応、目的は達成したわけだし。……今日の所は一時退散しますか。」

 

 そう言って、身を翻し走り出すとビルの上から躊躇なく跳ぶ。

 そして少し背の低いビルに着地すると、今度は少し高いビルの上に跳ぶ。そんな感じにビルの上を梯子しながら、彼女は去っていくのだった。




題名が劇中セリフと言われて最初に出てくるのはガンダムX。「月はいつもそこにある」とかもーサイコー。

あと、オリキャラの名前が第二次大戦日本軍オタなら「あれか!」となるような名前なのは仕様です。
あと、「秋水」は「アキミズ」と読んでね?「シュウスイ」じゃないからな?

追記:考えた末一話の題名を変更することに…って誰が見てるんだろうなこの小説
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