私は巴マミ
あなたたちと同じ、見滝原中の3年生
そして
キュゥべえと契約した、魔法少女よ。
「……はっ!?」
目覚まし時計の電子音。朝の到来を告げる音に鹿目まどかは目を覚ます。
まどかを起こすという役目を終えた時計のアラームのスイッチは切られ、まどかもそのまま体を起こした。
「はぁ……また変な夢……」
まどかが「変」とする夢を見るのは、昨日に引き続き二回目だった。
どこが具体的に変かと言うと、昨日の夢もそうだったが、妙にリアリティのある夢だった事だ。まるで自分が体験したことをリプレイしているかのような、そんな感覚に陥ってしまいそうな夢。
だがそんな事はあり得ないはずだ。「魔法少女」なんて物も、あんな化け物も、常識的に考えれば存在しない。きっと、その手の妄想でもしたせいでこんな夢を見る事になったんだろう。…そう「常識的に」考えるならば。
だが、
「おはよう、まどか。」
昨日までは無かった、彼女への呼びかけ。声の方を見ると、白い猫ともウサギともつかぬ生物が鎮座していた。
そう。
既に彼女の世界には、紛れもない非常識が入り込んでいるのであった。
◇
朝食を食べ終え、いつもの時間に、いつもの待ち合わせ場所へ走る。何もかもいつもどうりの光景だったが、一つだけ違うところがある。
まどかの肩。その上に、今朝の白い生物が引っかかっていた。
まどかはそのまま背中のが見えてきた二人の友人に声をかける。
「おっはよ~。」
「おはようございます。」
「おはよ……うえっ!?」
仁美とさやかがこちらを振り向く。だがさやかはこちらを向くなりぎょっとした顔付きになって固まってしまった。
「おはよう、さやか。」
「え?あ、が……?」
固まってしまった元凶がさやかに声をかける。しかし、当の本人はどう反応すればいいか分からないようだった。
「どうかしましたか?さやかさん。」
さやかの様子に気づいた仁美が声をかける。が、さやかはそれを無視し、そのまままどかに近づいて耳打ちする。
「ホントにそいつ、私達にしか見えないんだ…」
「そうみたい。」
「あの……」
軽く無視され、状況が分からず戸惑っている様子の仁美。それに気づいたさやかがあわてて繕う。
「あ、ああ、いや、何でもないから!いこ、いこ!」
そう言ってさやかは仁美を連れて歩き出す。が、
(頭で考えるだけで、会話とかできるみたいだよ?)
唐突に頭の中に響く声に驚いたさやかは、立ち止まってまどかに振り向いてしまうのだった。
(ええ!?私達、もう既にそんなマジカルな力が?)
(いやいや、今はまだ僕が間で中継しているだけ。でも内緒話には便利でしょ?)
(何か変な感じ……)
突然使えるようになった非常識な現象にさやかは戸惑う。そして傍から見れば突然目を合わせたまま見つめあっているという異常な状態を見て仁美が口を開く。
「お二人とも、さっきからどうしたんです?しきりに目配せしてますけど…」
「え?いや、これは、あの、その……」
まどかがごまかそうとするが、仁美は聞いていない。
「まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?まあ!たった一日でそこまで急接近だなんて。昨日はあの後、一体何が……」
「う……いや、そりゃねーわ。さすがに……」
「確かにいろいろ、あったんだけどさ……」
鞄を取り落しながらそうのたまう仁美に、まどかとさやかは若干引く。だが仁美は無視して続ける。
「でもいけませんわ、お二方。女の子同士で。それは禁断の、恋の形ですのよ~!」
と、そのまま謎の思考暴走しながら走り去ってしまった。元々天然な所があるとは思っていたまどかだったが、流石のこれには微妙な顔を隠せなかった。
「バッグ忘れてるよー!」
「あぁ……今日の仁美ちゃん、何だかさやかちゃんみたいだよ……」
「どーゆー意味だよ、それは!」
まどかの言葉にさやかが抗議する。と、ここでまどかが思い出したように言った。
「そういえば、キッカちゃんは?」
「ああ、キッカなら朝メールが来たよ。風邪だってさ。」
「キッカ?誰の事だい?」
キュゥべぇが訊く。どうやら彼女らの友人であるキッカの事を知らないようだ。
「キッカちゃんっていう私たちの友達。小学校三年の時からの友達なんだ。」
「そうそう、金髪碧眼でハーフの美人さん。確か三年の夏休み中に引っ越してきたんだっけ?」
仁美の鞄を持って学校への道を歩きながらさやかは話す。まどかが相槌を打ちながら続ける。
「うん。でね?キッカちゃんのウチ、喫茶店やってるんだ。とってもおしゃれでキレイなお店なんだよ?」
「確か私や仁美より先に、まどかは引っ越しすぐのころに会ってたんだよね、その店で。いやー。転校初日にまどかの方から声かけるんだから、あの時はホント驚いたわ。」
当時、まどかは結構な引っ込み思案だったのだが。それが「金髪碧眼」の「転校初日の転校生」に「まどかから」声をかけたのだ。当時の仁美とさやかの驚きたるや、天地がひっくり返るようだったという。
「また後でメール送ってあげないとね。」
「そうだね。……そういえば、さ。」
と、さやかもふと思い出したように言う。
「キュゥべえ。昨日の`アレ`……仁美はどうだった?」
「一応、軽く見てはみたけど。どうやら彼女にもかかってるみたいだね。」
キュゥべえがさやかの問いに答える。
「!……そうなんだ。」
「まぁ、実害は今の所ないみたいだし、今すぐどうにかしないといけない訳でもないんだから、そう急くことは無いんじゃないかな?」
「そうなんだけど……」
昨日、彼女らの先輩に当たる巴マミの家に行った際に判明した事象。もしかしたらとは思っていたが、やはり知らない間に何かあったと言うのは少々不気味な物があったらしい。少しさやかの顔が陰る。
それに対してまどかが繕うように明るく言った。
「そ、それより早く学校行こう?予鈴なっちゃうよ。」
「……そうだね。とりあえず仁美、追いかける?」
さやかからの提案に、まどかは笑ってうなずく。
「おーし、じゃあ走るぞー。学校まで競争だ~。」
「うん!」
そう言って二人は学校に向かって駆け出すのであった。
◇
ショッピングモールの改装中のフロア。そこで起こった訳のわからない現象を解決してくれたらしい見滝原中の先輩、巴マミの提案でまどかとさやかはマミの住むマンションの一室に足を踏み入れていた。そして、そこで話されたことは、これまでの彼女らの常識からはるかに外れた物だった。
ソウルジェム、何でもかなうと言う契約、キュゥべえ、魔女、結界、呪い…………そして、魔法少女。
まどかたちの前に展開されたそれらは、あまりにも彼女らの知る常識から外れていた。が、彼女らも既に「非常識」を体験していた身である。それらの話を信じるほか、自らに起こった「非常識」を納得させる術は無かった。
最も、話がここまでならば「そういう世界もあるんだ、すごいなぁ。」で済んだのだろうが、まだ話は終わらない。何と、まどかたちもこの超常なる世界に参加する権利を持っているというのだ。当然、踏み込むか否かの選択を強いられる訳なのだが…
「……キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある。でもそれは、死と隣り合わせなの。」
「ふぇ……」
「んー、悩むなぁ……」
今日、そのような非常識を知ったばかりの彼女らには、とてもではないがすぐに決めるなどと言う事は出来なかった。それも命がけの事と言うなら尚更である。
そんな彼女らにマミは一つの提案をする。
「そこで提案なんだけど……二人ともしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」
「「えぇ!?」」
突然の提案に驚く二人にマミは続ける。
「魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみればいいわ。そのうえで、危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、じっくり考えてみるべきだと思うの。」
「……うーん。」
「どうしよっか?」
まどかとさやかは迷う。興味はある。幼い頃、誰もが一度は憧れた非日常の世界が目の前にあるのだ。至極当然の事だろう。だが同時に恐怖もあった。命がけなのだと脅されれば当然である。…最もその恐怖は、心霊スポットに行く時の「怖いもの見たさ」のような程度の物でしかないのではあるのだが。
と、二人が迷った様子を見せていると、何か思い出したかのようにキュゥべえが口を開いた。
「そういえばマミ。二人の体を調べなくていいのかい?」
「え?」
「どういうことですか?」
突然の事に二人は驚く。言われたマミ自身も失念していたらしく、少し驚いた様子を見せると「ああ、そういえば。」と小さくつぶやいてから二人に向き直る。
「ごめんなさい、すっかり忘れていたわ。さっきのショッピングモールの時に、ちょっとね……」
「な、何かあったんですか?」
どうやら自分たちが何かされたらしい事を読み取った二人が説明を求める。
「さっき魔女に襲われた時に気づいたんだけど。君たちの体から魔力が感じられたんだ。魔法少女じゃない君たちから魔力が感じられるという事は、何かの魔法をかけられている可能性がある。」
キュゥベえの言葉に二人は目を丸くする。するとさやかが恐る恐る尋ねて来た。
「な…何かって。もしかしてさっきの魔女の…?」
「いや、それは無いね。もし魔女の呪いにかかってるんだとしたら、君たち今頃お茶会どころの騒ぎじゃ無かったと思うよ。」
キュゥべえからの否定の言葉に少し安堵したようだ。するとマミが先ほど机の上に出したソウルジェムをとって立ち上がる。
「一応、危険性は無いとは思うけど。調べておくに越した事は無いと思って。とりあえず鹿目さんからそこに立ってくれないかしら。」
「は、はい。」
と、まどかを立ち上がらせると。マミはそのまままどかに近づき、ソウルジェムをまどかの体に掲げる。するとソウルジェムが反応して淡い光を放ち始めた。
「うーん……なにか魔法をかけられてるのは確かなんだけど……どういう魔法がかけられてるのかは分からないわね……一応害はなさそうだけど……」
「一応魔女特有の邪気は感じられないし。もしかしたら魔法少女による物かもね。」
マミのコメントに対し可能性の一つを提示するキュゥべえ。この一言を聞いたさやかがふと思い出したように口を開いた。
「あの転校生も、えっとその……魔法少女なの?マミさんと同じ……」
「そうね。間違いないわ。かなり強い力を持ってるみたい。」
さやかの問いに対してマミは肯定で返す。
「でもそれなら、魔女をやっつける正義の味方なんだよね?それがなんで、急にまどかを襲ったりしたわけ?」
「彼女が狙ってたのは僕だよ。新しい魔法少女が産まれることを、阻止しようとしてたんだろうね。」
「え?」
続けざまに放たれたさやかの問いに答えを返したのはキュゥべえだった。しかしその回答はさやかに更なる疑問を抱かせる。
「何で?同じ敵と戦っているなら、仲間は多い方がいいんじゃないの?」
「それが、そうでもないの。むしろ競争になることの方が多いのよね……」
「そんな……どうして……」
さやかの言うとうり、共通の敵を倒すなら協力して倒した方がいいではないか。というまどかの疑問にもマミは答える。
「魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの。だから、時と場合によっては手柄の取り合いになって、ぶつかることもあるのよね……」
見返り、報酬。いくら奇跡と引き換えに戦えと言われたところで、無報酬で魔女と戦おうなどと言う者はほとんどいないだろう。恐らくそれが無ければ魔法少女の多くは奇跡と結果を受け取ると、そのまま逃げ出してしまう事は目に見えている。
「つまりアイツは、キュゥべえがまどかに声掛けるって最初から目星を付けてて、それで朝からあんなに絡んできたってわけ?」
「たぶん、そういうことでしょうね……」
さやかの推論を肯定する。彼女らにとっては残念なことに、それが魔法少女における「常識」であった。
「次は、美樹さんね……とは言っても、多分かけられてる魔法は一緒だと思うけど。」
「あ、はい分かりました。」
さやかが立ち上がると、まどかにしたのと同じようにソウルジェムを掲げる。するとやはりこれもまたまどかの時と同じ反応が起こるのだった。
「どうやら美樹さんにもかかってるみたいね。」
「マジですか……」
「まぁ、さっきも言ったけど。邪気は感じられないし。今の所実害も無いみたいだから放っておいて大丈夫なんじゃないかな。恐らくかけなおさなければ自然消滅するだろうしね。」
そうキュゥべえは言うが、たとえ無害だとしても、だれか分からない人間に何かされているというのは、無条件に無気味であった。
「あなたたちの周りの人にも同じ魔法がかけられてる可能性もあるわ。一応キュゥべえに見てもらいましょう。」
「え?キュゥべえに見てもらうって。大丈夫なんですか?」
マミの言葉にまどかは驚く。キュゥべえをそう簡単に人前に出してはまずいのではないかと考えたが、その疑問にはキュゥべえ自身が答えた。
「僕の姿は魔法少女の素質がある人間か、魔法少女自身にしか見えないから何の問題も無いよ。」
「へー、都合のいいようにできてますなぁ~。」
「まぁ、魔法だからね。」
と、さやかが感心するのに対して。さも当然と言うようにキュゥべえは返す。
「……あら、もうこんな時間。結構話し込んじゃったわね。あなたたち、門限とかは大丈夫かしら?」
「あ、いえ特には。」
「一応、大丈夫ですけど。」
マミが時計を見てそう言う。一応二人には門限などは無かったが、そろそろ帰った方がいい頃合である。
「家に着くのがあまり遅くなってしまってはいけないし、そろそろ帰った方がいいわ。」
「あ、ハイ。そうします。」
「じゃぁ、私も。」
そう言って二人は荷支度を始める。と言っても荷物は学校制定の鞄だけだったりするのだが。
「明日魔女退治に付いてくるなら、放課後に学校近くの軽食店で待ち合わせましょ。学校からショッピングモールの方に行った所にある店だけど。場所分かる?」
「あ、ハイ。そこならわかります。よく友達とそこで話してるんで。」
巴マミが指定した待ち合わせ場所は、偶然にも彼女らがよく利用する軽食店だった。それを聞いたマミは笑って返す。
「そう、ならよかったわ。じゃぁ、今日の所はさようなら。帰りには気を付けるのよ?」
「ハイ、わかりました!」
「マミさん、今日はありがとうございました。」
そうしてその日、二人は巴マミの家からそれぞれの帰路に付くのだった。
◇
11月26日土曜日。近代都市化計画の一環として「脱ゆとり」も掲げていた見滝原中学校は、全国の公立でも珍しい土曜の六時間授業を行っていた。
そしてこの日の四コマが終わり、現在は昼休み。見滝原中学校の屋上には二人の少女と一匹の小動物がいた。その二人の片割れである鹿目まどかは、弁当からご飯を箸で一掴みすると小動物ことキュゥべえの前に差し出す。
「はい。」
パクッ
キュゥべえが差し出されたご飯を食べる。まどかにはそのしぐさがとても愛らしいように思えた。
そのまま弁当も食べ終わり、後片付けを済ませると、突然さやかが切り出した。
「ねえ、まどか……願い事、何か考えた?」
「ううん。さやかちゃんは?」
「私も全然。何だかなぁ……いっくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ……」
あれからお互い願い事は思いつかず仕舞いだったらしい事を確認して、さやかがそのまま続ける。
「欲しい物も、やりたい事もいっぱいあるけどさ。命懸けって所で、やっぱ引っ掛かっちゃうよね。そうまでする程のもんじゃねーよなーって。」
「うん……」
「意外だなあ。大抵の子は二つ返事なんだけど。」
キュゥべえが心底意外そうに返す。まぁ、何でも本当にかなうと言われて食いつかない人間はほとんどいないだろう。
「まあきっと、私達がバカなんだよ。」
「え……そうかな?」
さやかの思わぬ言葉にまどかは驚く。当のさやかの表情は背を向けられているまどかには見えない。
「そう、幸せバカ。別に珍しくなんかないはずだよ。命と引き換えにしてでも、叶えたい望みって……そう言うの抱えている人は、世の中に大勢いるんじゃないのかな?」
落下防止用のフェンスにかかるさやかの手に力が入る。
「だから、それが見付からない私達って、その程度の不幸しか知らないって事じゃん。恵まれ過ぎて……バカになっちゃってるんだよ……」
さやかの言葉に徐々に感情がこもる。そしてまどかは、さやかの言葉の訳をなんとなく察していた。
「何で……私達なのかな……?不公平だと思わない?こーゆーチャンス、本当に欲しいと思っている人は他にいるはずなのにね……」
「……さやかちゃん。」
「チャンスが本当に欲しいと思ってる人」。誰の事を言っているのかは分かっていたが、まどかにはさやかの言葉にどう返せばいいか分からなかった。
一瞬の沈黙の後、この場に新たな人物が現れた。屋上への入口に、昨日来たばかりの転校生であり、見滝原の二人目の魔法少女である暁美ほむらがいた。
それを見たさやかは、まどかの前にかばうように立ちはだかる。だがほむらはその様子を気にも留めずに近づいてくる。
(大丈夫。)
突如二人の頭の中に声が響く。別校舎の屋上を見てみると、巴マミがソウルジェムを持ってこちらを見ていた。ほむらもそのことには気づいているようだったが、軽い一瞥をくれてやりながらも気にせずまどかたちに向かって歩いてきた。
そしてほむらが二人から数メートル離れた所で立ち止まると、先に口を開いたのはさやかだった。
「昨日の続きかよ。」
「いいえ、そのつもりはないわ。」
さやかの敵意のこもった言葉に動じることなくほむらは否定する。
「そいつが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけれど、今更それも手遅れだし。」
憎々しげにまどかが抱いているキュゥべえを睨みつけながら言う。そして視線を改めて二人に向けてほむらは問うた。
「……で、どうするの?貴女も魔法少女になるつもり?」
「私は……」
「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」
先ほどより強い敵意を持った言葉だったが、ほむら自身はどこ吹く風。今度はまどかに対して問いを投げかける。
「昨日の話、覚えてる?」
「……うん。」
「ならいいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる。」
そう言うとほむらは「言う事は言った。」とばかりに元来た道を引き返し始める。
「あ……ほむらちゃん。あの……」
だがそんな彼女をまどかが呼び止める。まどかはそのまま続けて口を開いた。
「あなたはどんな願いごとをして魔法少女になったの?」
ほむらの足が止まる。すると急にこちらを振り向いたかと思えば、何も語らずにまどかを見つめ始めた。まるで、それ自体が問いに対する答えだと言うように…
しかし、すぐにまた歩きはじめる。結局まどかには、ほむら何を願ったのかが分からず仕舞いであった。
◇
現代アートのような不気味な装飾の円形の広場。その中心には、これまた現代アートのような不気味な物が存在していた。
その不気味な物体は知る者からは「魔女」と呼ばれる存在であり、この場はその魔女が作った結界の最深部だった。
「惜しかったわね。」
つりさげられながらも巴マミは勝利を宣言する。胸元に結んだリボンを解くと、それを使って自らをつりさげている魔女の腕を切断。そのまま円筒状にリボンを束ねると、これまでとは比較にならない大きさの「砲」が出現した。
巴マミの持った特大の火砲が魔女に向く。射線上の魔女は彼女のリボンでがんじがらめにされ、避ける事はかなわない。
「ティロ・フィナーレ!」
彼女の砲が火を噴く。発せられた閃光が辺りを包み込み、避ける事も防ぐ事もかなわなかった魔女を断末魔もなくそのまま消滅せしめた。
「かっ、勝ったの?」
「すごい……」
そして何の力も持たぬ一般人たる二人は、その光景に圧倒されていた。
周囲の風景が歪みだす。主のいなくなった結界が崩壊を始めたのだ。だんだんと世界が元の光景を取り戻しはじめる。
そして元の姿を取り戻した世界で、彼女たちは廃ビルの上層階に立っていた。むき出しになったコンクリの壁しかないそのフロアには西日が差しこみ、何もかもを赤く染めている。
少し離れた所に立っていたマミが魔法少女としての変身を解いて、床にある黒い物体を拾い上げた。近づいてきたまどかとさやかにそれを示しながらマミは説明する。
「これがグリーフシード。魔女の卵よ。運がよければ、時々魔女が持ち歩いてることがあるの。」
「た、卵……」
先ほどの魔女のグロテスクな見た目を思い出して、さやかは若干引く。その様子を見たキュゥべえが補足する。
「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ。」
「私のソウルジェム、ゆうべよりちょっと色が濁ってるでしょう?」
今度はソウルジェムを取り出して二人に示す。透明感のある明るいオレンジだったソウルジェムは、若干かすみがかかったようになっている。
「そう言えば……」
「でも、グリーフシードを使えば、ほら。」
そう言ってソウルジェムにグリーフシードを近づけると、みるみるうちにソウルジェムが元の輝きを取り戻していく。
「あ、キレイになった。」
「ね。これで消耗した私の魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ。」
そう説明するとマミは突然それを物陰に投げ込みだした。突然の行動に驚く二人。だが、投げられたグリーフシードが地面に落ちる事は無かった。
「あと一度くらいは使えるはずよ、あなたにあげるわ……暁美ほむらさん?」
物陰からほむらが姿を表す。手には先ほど投げ込まれたグリーフシードが握られていた。
「あいつ……!」
「それとも、人と分け合うんじゃ不服かしら?」
いつからか付いてきていたらしい彼女にマミは若干挑発的な態度で臨む。
「貴女の獲物よ。貴女だけの物にすればいい。」
ほむらがそう言いながらグリーフシードを投げ返す。
「……そう。それがあなたの答えね。」
もらわなくても十分ストックがあるからか、他人から恵まれるのはプライドが許さなかったのか、「お前と組む気は無い」と言う意思表示か。理由はなんであれ、「仲よくする気は無い」と言う事なのだろう。そんな意味合いを読み取ったマミの表情が険しくなる。
その様子を見たからか、ほむらはその場から背を向ける。マミがそれ以上彼女に声をかける事は無かった。
「くー!やっぱり感じ悪いやつ!」
「仲良くできればいいのに……」
ほむらが立ち去った後、さやかが憤慨したように言い放つ。一方まどかは純粋に彼女の事を悪く思えていないようであった。
「お互いにそう思えれば、ね……」
まどかの言葉に対してマミが言う。まどかには、その言葉に若干残念そうなニュアンスが含まれているように思えた。
廃ビルを出た一行は、魔女の呪いで自殺させられかけた女性の元へ向かった。すぐそこに寝かされていた彼女は、まどかたちが近づくとその気配に起こされたようだった。
「ここ……あれ、私は……?」
目を覚ました女性は周りを見回しながらつぶやく。すると突然自らを抱えて震えだした。
「やっ……やだ、私、なんで、そんな、どうして、あんな、ことを……!」
「大丈夫。もう大丈夫です。ちょっと、悪い夢を見てただけですよ。」
とうやら自らが投身自殺を図ったらしい事を思い出したらしい。震える彼女の肩に手を回しながら、マミがやさしく励ます。
「一件落着、って感じかな?」
「うん。」
さやかがその様子を見て一言。まどかもその一言に同意で返すのだった。
(叶えたい願いごととか、私には難しすぎて、すぐには決められないけれど。)
(でも、人助けのためにがんばるマミさんの姿は、とても素敵で、)
(こんな私でも、あんな風に誰かの役に立てるとしたら、)
(それは、とっても嬉しいなって、思ってしまうのでした。)
◇
とある建物の地下室。太陽光の一切入らないその部屋で、一人の人物が机に向かっていた。
机を照らす光源は、そこに置かれていう電気スタンドひとつのみ。そしてそれの発する光が照らしている物は、事日本においては非常に物騒極まりないものだった。
銀色のリボルバーに、それに使うと思しき何発もの実包。
しかもそのサイズが尋常ではない。リボルバーは銃身だけで二十数センチほどもあり、全長に至っては四十センチは届くのではないのかと言うほどに大きい。
周りに置いてある実包も、単三電池などよりも背の高い、いわゆる「ライフル弾」と言う物だ。拳銃用マグナム弾すら大きく引き離す威力のそれは、とてもではないが拳銃で撃てるような代物では無い。
そのライフル弾を拾い上げると、ムーンクリップと呼ばれる円形の金具に取り付けていく。六発の実包をクリップに取り付けると、リボルバーのシリンダーを取り出し、クリップに固定された六発の実包を装填する。
そのままシリンダーを戻すと、別のクリップにまた実包を取り付けていく。そうして六発×3セットの束が出来上がると、ふうとため息をついた。
時計を見る。現在時刻、9時58分。
「もう流石に帰ったかな?」
この街には三年前から活動している魔法少女が一人いるが、大体9時ごろには撤収している。時々それより遅くに動いているときもあるが、10時ともなれば流石にほぼ確実に帰っていた。
そしてその人物は右腰に先ほどのリボルバーの入ったホルスターを、左腰にクリップに固定した実包が一セットずつ入ったベルトポーチ三つを通してズボンのベルトを付け直すと、壁にかけていた黒いロングコートをとってそれを羽織る。
そのままその人物は部屋の出口へと向かう。目的はただ一つ。
「それじゃあ今日も、魔女退治と行きますか。」
彼女の、日課を済ませる事だった。
☆あんまり銃を知らない人向けの解説コーナー★
・実包:銃弾、薬莢、火薬が一緒になったもの。要は弾薬そのもの。「弾」と書くと銃弾単体のことか、実包のことなのか混乱すると思ってこう呼ぶことに。
・(リボルバーの)シリンダー:実包が格納されているレンコン状の穴の開いた筒。わからない人にはわからないと思うので、一応。
・ムーンクリップ:円形状、もしくは星形の金具。リボルバーへの実包の一斉装填、排莢ができるようになる優れもの。
【挿絵表示】
画像はWikipedia「スピードローダー」「挿弾子」より引用
原作から削りたくない→原作に毛が生えた程度しか変わってねぇ…そんな第二話。
作中の日程表はもう全部書きあがってたりする。あとは書くだけ。…まぁ、その書くってのがまた難しいわけですが。