小説投稿は初めてですから、何かと不足なりがちです。
ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。
正義の味方に憧れていた──。
悪い怪人をやっつけて、世界の平和を守るんだって。
弱い人を助けて、自分が大切な人を守るんだって。
でも実際、悪い怪人なんていなかった。
世界は思っていたよりも平和で、弱い人も、思ったよりはいなかった。
いつからだろう、自分に出来ることと出来ないことが分かるようになったのは。
いつからだろう、出来ないと分かったことをやらなくなったのは。
いつからだろう、正義の味方を自己満足だと感じるようになったのは。
僕に出来ることは思ったよりも少なくて、思ったよりも小さかった。
世界をよりよくしようと思っても、出来ないことの方が多くてがっかりした。
弱い人を助けたいと思っても、解決出来ないことの方が多かった。
それでも、誰かに「ありがとう」って言われるのは嬉しかった。
笑顔でお礼を言われるのは心地よかった。
その人のために、何か出来たんだって思えた。
だから、僕は今日も正義の味方でいたいと思った。
悪い怪人が居なくても
世界の危機なんてなくても
ちょっと困っている人を助ける、僕はそんな正義の味方────
「いやぁ、助かったよ!」
外は暗く、人通りが少なくってきた時間帯、短針は10の数字を指していた。
「急にシフトは入れないって言われちゃってねえ、君が来てくれてほんと助かったよ!」
そんな夜の雰囲気とは打って変わって、目の前の齢40を超える大柄の男は豪快に笑っていた。
「気にしないで下さい、そのかわり、来週の土曜日は変わってもらいますからね?」
「おぉ!その日は今日休んだ奴に絶対に代わりに入ってもらうから安心しろ!」
そう言って僕の背中をバシバシと叩く、業務後にこのテンションを維持出来る体力は流石の一言である。
「あ、そうそう、あの話考えてくれたか?」
さっきまでのテンションはどこへやら、大柄の男は神妙な面持ちで問いかける。
「あー、すみません、もう少し待ってもらってもいいですか?」
僕はバツが悪そうにそう答えた。
「悪い話じゃないだろ?塾のバイトってのはそんなに割がいいのか?」
男は苦笑いして再び問いかける。
なんてことはない、僕に他のバイトをやめてもらってこのバイトに集中して欲しいということだ。
もちろん、給料も増えるし、時間や緊急のシフト変更もできる限り考慮する、と素晴らしく好条件を出してもらえている。
そこまでして僕を雇おうとしてくれるのはとても嬉しく思うのですが……。
「僕の授業を楽しみにしてくれている生徒がいますから」
「……まったく、かなわんなぁお前さんには!」
ニカッと笑って再び僕の背中をバシバシと叩く、店長、痛いです。
「まぁ気が変わったらいつでも言ってくれ!俺は待ってるからな!」
「ありがとうございます、それじゃあ、僕はこれで」
軽く会釈をし、僕はその場を後にした。
「おぉ!今日はありがとな!──篠崎!」
────篠崎 蓮、20年間変わることない僕の名前。
小学校、中学校、高校、大学──何不自由なく生活し、大きな努力もしないまま二十歳を迎えた。
両親はともに生きていて、妹も高校で頑張っている。
家族とは現在別居中、別に仲が悪いわけじゃない、僕が大学に通う上で一人暮らしをしたかったから、とそれだけの理由。
小学校中学校の頃の友人とはもうしばらく連絡をとっていないが、高校の時の友人とはそれなりの頻度で連絡をとっている。
大学にも気心のしれた友人が数名、数は多くないがちゃんと存在する。
特別なことは何もない、むしろ、何も不自由ないこの状況が特別なのかもしれない。
そんな僕にも、少しだけ、他の人とは違うことがある。
と言っても、別に特殊な能力だとか、そういうものじゃない。
今の生活に、ちょっと変わったことがあるというだけの話だ。
「ただいまー」
家の玄関を開けると、既に電気はついており、食欲をそそる匂いが鼻を突き抜けた。
「おかえりなさい、先生」
とことことのんびりした動きで玄関まで出迎えてくれた少女に、僕は思わず苦笑した。
「まだ起きてたんですね、明日も早いですよ?」
「先生のこと待ってた」
間髪いれずそう答え、少女は目をつむり僕を見上げた。
「……何してるんですか?」
「おかえりなさいのちゅー」
んー、と唇を突き出す少女。
サラサラの髪は重力に逆らうことなく、上を向くのと呼応するようにするすると下に落ちる。
ゆっくりと近いづいてくる少女の整った顔、僕は容赦なくデコピンを叩きこんだ。
「冗談はこの状況だけにして下さい」
「……冗談じゃないのに」
少女は額を抑えながら、涙目で抗議する。
もちろん本気でやってるわけではないのは分かっているのだが……。
心臓に悪い、いろんな意味で。
「この後、いただきますのちゅーとごちそうさまのちゅーとおやすみなさいのちゅーがある」
「その予約全部キャンセルでお願いできますか?」
何かにつけてちゅーをしようとするこの少女、名前は高坂 紗枝、現在高校一年生であり、僕の教え子だ。
「クーリングオフは受け付けておりません」
「購入した覚えもないんですけど?」
高坂さんは慣れた手つきで盛り付けをし、僕の座る席へ食膳を出す。
その後自分の分もよそい終わると、僕の向かいの席へと座った。
「まだ食べてなかったんですか?」
「先生と一緒に食べなかった日あった?」
そう聞かれて思い返してみると、確かに一度も先に食事をしていたことはなかったように思う。
そこまで気を使わなくてもいいのにと、そう言おうとした時。
「私がそうしたいから、そうしてるんです」
僕が何を言おうとしていたか分かったうえで、少しツンとした態度でそう答えた。
僕は思わず苦笑いし、
「それじゃ、待たせちゃったみたいだし、さっそく食べようか」
僕と少女が手を合わせ、いつもの調子で声がそろう。
「「いただきます」」
なんてことはない、これが僕の少し変わった状況。
高校生になったばかりのこの少女と、ただの大学生でしかない僕がこのような生活を送っている、ただそれだけのことだ。
少女がここにいる理由も、僕がそれを許容している理由も、それは今から少し前、1年前に遡ることになる。
僕と少女が、どのような旅路を歩んできたのか。
その旅路は、果たして正しかったのか────。
────これは、正義の味方になりたかった普通の青年の、少し変わった、大学生生活の一部である。
以上でプロローグとなります。
更新頻度は週に2,3話を目標に頑張っていきたいと思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!