メルヒェンには、まだ遠い   作:忍者小僧

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12、へぼ探偵

マスターが、私をにらんだ。

その瞳は、昨日の眼帯の男よりもよほど迫力があった。

 

「後、ついでにもう一つ。あなたと、天々座さんと、死んだ金髪の米兵と、千夜の父親とね。なんだか、ただならぬドラマがありそうなんだよなぁ。本当は友達だったとか、約束があったとか、まぁ。そうでないと成り立たないんですよね。今の状況が。あなたたちみたいな人間がやることにしては、情が過ぎる部分があるので。そこの部分は、別に真実を知ったって私には意味ありませんから。何かあったんだろうなぁと思っているだけなんですがね」

 

私がそこまで話し終えると、マスターが笑い出した。

 

「すごいですね。すごい想像力だ。お客さん、小説家になれますよ。小説家。いやはや、それにクライム・ムービーの見すぎなんじゃないかな。困ったもんだ。それ。うちの店の名誉棄損になりますよ。はは。今度、知り合いの小説家を紹介してあげます。プロの作家さんから、もっとちゃんとした妄想の仕方を教えてもらった方がいい。他人の迷惑にならないような」

「まぁまぁ、そうお怒らないでください」

「別に怒ってなどいませんよ」

「だったら、左手をカウンターの下に隠すのを止めてくれませんかねぇ」

 

マスターの笑いがピタリとやんだ。

 

「あのね。マスター。私は別に、あんたらの何やかやを暴露したくて動いてるんじゃないんです」

「……どういうことですか?」

「私は、全く別のことを頼まれただけ。それでいろいろ調べていたら、さっきの妄想に至っちゃったんです。そこを調べていけば、何かに突き当たるかと思ったら、全く関係がなかった。そのことが分かって、バカバカしいなぁと思っているぐらいです」

 

私は、へらっと笑って見せた。

 

「もともと、あなた方をどうこうするつもりも、もちろん、娘さんたちの幸せなお花畑を踏みにじるつもりも毛頭ないんです」

「…………では、何が知りたいのです?」

「私が教えてほしいのは、たった一つ。たわいのないことですよ」

 

そう言って、壁の絵画を見た。

 

「あの絵。どの絵が、チノちゃんが描いた絵ですか?」

 

その言葉に、マスターが、拍子抜けしたような表情をした。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

店を出るとき。

マスターが私の背中に行った。

 

「お客さんの“妄想”ですけどね」

「はい」

「まったく、違っていますよ」

「へぇ」

「“私たち”の人間関係は、もっと複雑です。あんな、劇画的な単純なものじゃないんです」

「そうですか」

「ええ」

 

私は振り向いた。

口元を少し歪めてつぶやいた。

 

「そいつは残念だ」

「そうですね。あんた、探偵さんなら、看板を下した方がいい」

 

彼はにっこりとほほ笑んで、そう言った。

彼の言葉は正しい。

私は、映画や小説のような凄腕の探偵ではない。

むしろそれからはほど遠い存在だ。

いつも、へまをやらかして困り果ててばかりなのだ。

 

 

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