メルヒェンには、まだ遠い   作:忍者小僧

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9、再び麻耶が自宅にやってきた

アパートに戻ると、もう22時だった。

私は、マヤに電話をして確認したいことがあった。

しかし、その必要はなかった。

今日も軒先にマヤが座っていたからだ。

私を見つけると、ぷんぷんと怒り出した。

 

「もぉー。探偵さん、遅いー!」

「だから、約束なんてしていないだろう? 大体不用心だ、こんな時間に女の子が一人で」

「大丈夫だよ。私、CQCできるし。結構強いんだよ?」

 

そう言って、唐突にうれしそうな表情をする。

 

「なんだよ」

「探偵さん、今ちゃんと女の子扱いしてくれた♪」

 

にししっと笑った。

 

「私よく、男の子っぽいって言われるから、なんか嬉しかった」

「そりゃよかったな」

 

私は自室の扉を開け、マヤに言った。

 

「ほら。入れよ」

「え!? いいの?」

「なんだよ」

「絶対に、遅いから帰れー!とか言われると思ってた!」

「そう思うなら来るなよ……。まぁ、訊きたいことがあるんだ」

「訊きたいこと?」

「そう……って、家主より先に入るな!」

 

私が手で開けているドアを、てててーとマヤの小さな体が駆け抜ける。

 

「ここ取ーった!」

 

そう言って、私のベッドにぽすんっと体を投げ出す。

 

「へへへー! 探偵さんのベッドだ! 今日もおじさんくせー!」

「だったらそこに寝転ぶなよ……」

 

私はため息をついた。

 

「今度、私が洗って干したげるよ」

「いいよ、別に」

「えー! 女の子の好意は受取っといた方がいいと思うぜー?」

 

ベッドの上で足をパタパタとする。

今日も短めのスカートを穿いているから、一瞬白い下着が見えてしまった。

私は思わず目をそらす。

 

「ぎょ、行儀が悪いぞ」

「はーい!」

「それで、訊きたいことなんだがな……って、人の話を聞け」

 

マヤは、今度はベッドから起き上がり、私の部屋をぐるぐると回っている。

 

「なんかすげー! ドキドキする! これが大人の男の人の部屋かぁ!」

「昨日も一昨日も入っただろうが」

「全然違うよ。一昨日はお昼だったし、昨日は夜でも8時ぐらいでしょ? やっぱ夜の10時過ぎてからの大人の人の部屋って、アダルトな感じがするじゃん!」

「どんな感じだよ」

「ん~。よくわかんないけど、ちょっとエロい感じぃ?」

「エロくなんかない!」

 

思わず叫んでしまった。

このマセガキめ。

 

「ま、こうして真夜中の探偵さんの部屋に入れたし、今日は満足かな。訊きたいことって何?」

「やっと本題に入れるのか……。あのな。リゼの名字って何だ?」

「天々座だけど?」

 

拍子抜けするほどにあっさりと明かされる事実。

これで、金髪の少女の先輩があのリゼであり、彼女が天々座家の一族であることが確定した。

私は次に、携帯のデータフォルダの金髪の少女の写真を見せた。

 

「この人を知っているか?」

「あっ! シャロだ! え? 探偵さん、これってこっそり撮ったの? 盗撮ってやつ?」

「人聞きが悪いな! 仕事上しょうがないんだ。 いずれにせよ、知り合いだな? 仲はいいのか?」

「うん! もちろん!」

「そうか。それじゃ、もう一つだ。甘兎庵って知ってるか?」

「え? 千夜の店?」

「それは、あの店の孫娘か?」

「うん。そうだよ。ココアの同級生。もちろん私らとも友達だよ」

「最後に。リゼの父親って、どんな風貌だ? キザな雰囲気で、ひげを生やしていて、眼帯をつけていないか?」

「うわっ。よく知ってるね!」

「わかった」

 

私はため息をついた。

やれやれ。

みんな繋がっているじゃないか。

 

「探偵さん。なんか、考え事?」

「まぁね」

「私、役に立てた?」

「あぁ。すごく役に立ったよ」

「そっか」

 

マヤが、へへへ、と笑った。

 

「さ、質問は終わりだ。これ以上遅いと、家族が心配するぞ」

「えー。まだ帰りたくないよ」

「しょうがないな」

 

私は立ち上がり、冷蔵庫の扉を開けた。

フルール・ド・ラパンに行く前に一度アパートに戻った時に買っておいたものを取り出す。

 

「これを飲んだら、帰れ」

「わっ。葡萄のジュースだ! 買っといてくれたの?」

「た、たまたまだ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

別れ際に、マヤが言った。

 

「ねーねー。またなんか質問あったら、いつでも訊いてよ?」

「あぁ。そうする」

「今度は、夜に電話してほしいな」

「電話? 夜に?」

「うん。大人の男の人から夜に電話って、なんかかっこいいじゃん! 絶対電話して? 約束だよ」

 

私は苦笑した。

この子といると、苦笑してばかりだ。

 

「その約束はできないな」

「えー? なんでだよー?」

「大人の男は、小さなレディに夜に電話なんかしちゃいけないんだ」

 

私は、不満げに唇を尖らすマヤの頭をポンポンと撫でた。

 


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