ラブライブ!サンシャイン!!~Step! ZERO to OOO~   作:白銀るる

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ラブオーズ外伝 第二弾になります。

今回は本編後の話だったアクアとは異なり、39話~40話の間の話になります。

それから今回は閲覧注意です。
胸糞?なシーンがあります。
それではどうぞ……。


仮面ライダーバース

 憎い。

 僕からヨハネを、僕の全てを奪ったアイツが。

 ヨハネを崇める同士たちと共に彼女と一つの存在になるという願望を踏みにじったあの男が。

 

 緑衣の男に与えられた力で、僕は仲間たちを見つけて彼らと一つになった。

 膨大な数の意識を取り込み、計画はヨハネとの融合を残すのみとなった。

 だが、その前に奴が立ちはだかった。

 僕は願いを成就させる為に戦った。

 奴の攻撃は、僕の同士を一人、また一人と元の器へ還していった。

 

『ば、ばかな……!僕のヨハネへの想いが!こんなガキに負けるなんて!』

 

『想い?こっちは十年以上の片想い中なんだ!善子と同一化したいなんてふざけた欲望叶えさせるわけにはいかねぇんだよっ!!!』

 

 戦いの最後、僕は凄まじい光に飲まれて意識を失った。

 それから目を覚ました僕は、全ての力を失い、ただの人間へと戻ってしまった。

 もう一度力を手に入れる為に緑衣の男を探したが、既にあの男の仲間へと成り下がっていた。

 

 僕の望みは完全に絶たれた。

 

 僕にはただ見ているしか出来なかった。

 憎いあの男に向けられる彼女の笑顔を。

 彼女と共に笑う憎いあの男を。

 

 ……だが、それももうすぐ終わる。

 僕は遂に手に入れた。

 奴に復讐する為の道具を……!

 

 今度こそ彼女を手に入れてみせる。

 そして……復讐してやる!

 死以上の屈辱をお前に与えてやる!

 

 待っていろ、仮面ライダー……バース!!

 

 

 ***

 

 

 耳元で鳴り響く目覚ましのアラーム。

 それは朝が来たこと、一日が始まるという知らせだ。

「ふわぁぁぁ……」

 体を起こしても、脳の半分はまだ眠ったまま。

 少しでも気を抜けば、また夢の世界に戻ってしまうだろう。

 そうならないよう、重い体を動かしてリビングに向かう。

 半覚醒状態の俺の鼻腔をくすぐる匂いは、淹れたてのコーヒー……ではなく、お椀によそわれた味噌汁。

 そして並べられた朝食たちだ。

「おはよう、慎司、って凄い寝癖ね。早く食べて支度しちゃいな」

「へーい」

 キッチンに立っているのは、俺の母さん。

 その後ろ姿から感じる懐かしさは、あの日からおよそ一年が経った今も変わることは無い。

 

 初めてヤミーが現れたあの日、俺の中に封じ込められていた全ての記憶が頭の中を駆け巡った。

 

 俺は、一度死んで蘇ったのだ。

 

 遡ること十五年前、俺は交通事故で死んだ。

 あの世へ召された俺は、そこで一人の幼女……否、女神と出会う。

 その女神こそ、俺を今の世界へ転生させてくれた女神さまだ。

 

 生まれ変わった俺は仮面ライダーバースとして、世界の平和を守る為に戦うことになったのだ。

 

 朝食を摂った後はすぐに出かける準備をし、それが終わる頃にはインターホンのチャイムが鳴らされる。

「慎司ー、もう二人とも来たわよー」

「すぐ行くー!」

 タオルと水筒をカバンに詰め込んで玄関まで小走り。

「ようやく来たわね。最上位の我が眷属(リトルデーモン)!」

「おはヨーソロー、慎司くん!」

「おはようございます、曜先輩。善子も」

「む……善子じゃなくて、ヨ・ハ・ネ!」

 俺を待ってくれていた渡辺曜先輩と幼馴染の善子と挨拶を交わし、外へ。

「行ってきます」と母さんと我が家に告げ、俺こと宮沢(みやざわ)慎司(しんじ)は今日という日を始めるのだ。

 

 

 家を出た俺たちは、まず向かうのは十千万。

 内浦で営まれている老舗旅館にして、我らがAqoursのリーダーである高海千歌先輩の実家だ。

「おはヨーソローであります!」

「おはよう、曜ちゃん、善子ちゃん、慎司くん」

「「おはようございます」」

 迎えてくれたのは、高海家の長女の志満さん。

 この旅館の若女将を務めていて、俺たちにも何かと気をかけてくれる優しいお姉さんだ。

「今三人を呼ぶから、ちょっと待っててね」

 志満さんはそう言って奥へと消えていく。

 しばらくすると、千歌さんを初めとし、志満さん、耀太先輩とアンクの順で奥から歩いてきた。

「おはよう、曜ちゃん、善子ちゃん、慎司くん!」

「おはヨーソロー、千歌ちゃん、耀太くん、アンクさん!」

「待たせてごめん、三人とも」

「大丈夫ですよ。俺たち、今来たところですから。それより、体の調子はどうです?」

「ああ……あんな目に遭うのは、もうコリゴリだよ。コアメダルの方も、一応は大丈夫だったみたいだけど……

 耀太先輩は深い溜め息を吐いて答える。

 つい先日、彼は果南先輩と体を入れ替えられてしまう事件に見舞われた。

 コアメダルが体内にあるというのに、何とも間の悪い事件だった。

 事件は無事解決したものの、色々大変だったと言っていた耀太先輩だったが、今の彼の反応を見るだけでそんな目には遭うのはゴメンだと思う。

「ははは……でも、元に戻れて良かったね」

「もし元に戻れなかったらと思うと……」

 若干顔が青くなった先輩を見て、皆苦笑する。

 本当にそうなってしまっていたら、耀太先輩と果南先輩は一生に一緒にいなければならないだろう。

 それはそれで見てみたい気はする。もちろん、そんなことは言うつもりは無いし、言えるわけもないが。

「はあ……この話はもうやめようよ。そろそろバスも来るし」

「了解っと……ん?」

 耀太先輩に返事をし、体の向きを変えて外に出た俺は妙なものを目にした。

「慎司?どうかしたか?」

「いえ、今挙動のおかしいカンドロイドがいたような……」

「挙動のおかしいカンドロイド?」

 出入り口の目の前で、まるで何かを待っているかのように止まっていた黒いバッタカンドロイド。

 しかし、俺が見つけた直後に捕まえる暇も無く、逃げていってしまった。

「……少し警戒した方が良さそうだな」

 何かを感じとったらしいアンクも、耀太先輩にそう促す。

 同時に先輩の顔も少し深刻なものになり、「そうだな」とアンクに言葉を返した。

 

 結局この日は何事も無く終わりを迎えた。

 だが、既に俺たちは……いや、俺は復讐者にとらえられていたのだった。

 

 

 ***

 

 

 翌日、放課後の体育館に俺と耀太先輩の声が響き渡った。

「「曜ちゃん(先輩)が(も)来てない!?」」

「うん……。今日もいつもと同じ時間に家を出た、って曜ちゃんのお母さんは言ってたけど……」

「それに電話もつながらないんです」

 そう言って佐藤ちゃんは曜先輩に電話をかけ、スピーカーモードにして俺たちにも分かるように聞かせてくれた。

 佐藤ちゃんのスマホからは、通話が繋がらない時に流れるガイダンスの音声が聞こえるだけ。

 更に、何回も電話をかけた履歴が残っていることから、普通ではないことが伺える。

「ねえ、慎司くん。今、曜ちゃん『も』って言った?」

「はい……。実は善子も来てないんです。いつもは曜先輩と善子が迎えに来るんですけど、今日は来なかったんです二人だけで先に行った、ってのは妙な感じがしたんですけど、それしか考えられないし、いざ着いたら善子はまだ来てなくて……もう何が何だか」

「マルもまた何かやっちゃったのかなって思ってたんだけど……」

 初めは「心配ないずら」と言っていた花丸だったが、いつまで経っても善子が現れないことですっかり落ち込んでしまっていた。

 俯く花丸の肩を抱くルビィも。

 二人だけじゃない。

 他のみんなも心配そうな表所を浮かべ、そのうちの何人かは険しい表情をしていた。

「ストレンジな話ね。同じ二人と近くに住んでるのに、慎司だけ来てるなんて……」

 二人とも家を出るまでは確認できているが、学校には来ていない。

 善子はともかく、曜先輩が学校をサボるのは考えにくい。

 二人の身に何かあったと考えるのが自然だ。

「二人とも誘拐された、って言うのが一番有力だよね……。考えたくはないけど」

 果南先輩は苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 何度考えても、今回の事件を説明するにはそれが一番筋が通っている。

 一年前ならいざ知らず、今の彼女たちは世間が注目する人気スクールアイドルだ。

 誘拐する動機も十分にある。

「欲に溺れた人間がヨシコとヨウを誘拐した……。これで決まりだな」

 アンクがとどめを刺してしまい、ルビィは泣きだし、他のみんなの顔もより深刻さを増した。

 本当に誘拐だとすれば、そんな犯罪行為を働く輩が二人に危害を加えないはずがない。

 曜先輩も善子も怖い思いをしているに違いない。

 

 そう考えると心の底から激しい怒りが沸き上がってきた。

 顔も名前も知らない下衆に。

 そして、大事な人たちが危険にさらされているにもかかわらず、何も出来ない無力な自分自身に。

「クソ……!どうして二人が……!」

 思わず俺は拳を壁に叩き付けた。

 怒りをあらわにした俺に、みんな怯えてしまう。

「落ち着け……ってのは無理だよな。俺も同じだ。けど、何かにあたっても二人は見つけられないぞ」

 俺の肩を掴み、少し冷静になるように諭してくる耀太先輩。

 その手を振り払い、部室を出て行こうとした。

「待て、慎司!どこに行くんだ!?」

「二人を探しに行きます。先輩たちはみんなと一緒にいてください。これ以上誰かを危険にさらすわけにはいきませんから」

「慎司くん!」

 梨子さんの呼びかけも振り切り、俺は部室から走り去った。

 

 絶対に見つけ出す。

 曜先輩と善子を。

 この事件の犯人を。

 

 

 ***

 

 

「……ちゃん!善子ちゃん!」

 誰かがわたしの名前を呼ぶ。

 花丸?違う。ルビィでも無い。

 この声は……曜?

 次第にハッキリと聞こえてくるようになったのは、曜の声。

 わたしの意識は刺激され、意識が完全に覚醒した。

「良かった……目が覚めたんだね」

「曜……ここはどこ?」

「分からない……」

 薄暗く、埃っぽい空間。

 けれど狭くはなく、むしろ広い。

 多分、今は使われていない倉庫だろう。

「何でわたしたち、こんなところに……」

 

「やあ、ようやくお目覚めかい?善子ちゃん……いや、ヨハネちゃん」

 

 突然、向こうの方から男の声が聞こえてきた。

 カツカツカツ、と靴の音もする。

 暗さになれた目に映ったのは、見たことの無い一人の男。

「あなたがわたしたちを……」

「アンタ、こんなことしてタダで済むと思ってるの!?」

 わたしたちが男に噛み付くと、男は狂ったように笑う。

 いや、この男は狂っている。

 少なくとも、誘拐(こんなこと)をする人間が正常なわけが無い。

「誰も僕を止められないよ。警察なんてもってのほかだ。僕には力があるからね」

「力……?」

「そう……世界の理、秩序すらも凌駕する力さ」

 そう言って男が取り出したもの、それを見たわたしと曜は声を上げて驚愕した。

「それは慎司くんの……!?」

「バース……ドライバー!?」

「クックックッ……ハーッハッハッハ!違うよ、これはバースドライバーなんかじゃない。これはデスドライバーさ!」

 男はバースドライバーと似たベルト、デスドライバーを腰に巻いた。

 そしてシンが変身に使うセルメダルを填めてレバーを回す。

 男の体はベルトから排出されたカプセルに覆われ、アーマーに包まれた。

 

 バースそっくりで、それでいて全く違う。

 バースを機械的と表現するならば、デスは生物に近い見た目をしている。

 まるで本当に生きているかのように脈打ち、禍々しい雰囲気を放つデス。

 

 男の狂気と相まって、仮面ライダーというよりもグリードかヤミーに近いものを感じた。

 

「邪魔者を排除したら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 嫌な寒気が背筋を走る。

 この感じ……シンが初めてわたしの前で変身した時と同じ!?

 じゃあ、コイツの言う邪魔者って……!

「アンタ、シンをどうするつもりなの!?」

「どうって復讐するに決まっているでしょう。死以上の屈辱を味あわせてあげるんです。その為に……あなた方にも協力してもらいますよ」

 また、この男は狂気に満ちた声で笑った。

 

 嫌……!怖い……。シン、お願い、助けて……。

 

 わたしに出来るのは、シンが来てくれることを願うだけ。

 曜とわたしをこの狂った男から救い出してくれる仮面ライダーの到着を。

 

 

 ***

 

 

 どこだ!どこだ!どこだ!

 どれほどバイクを走らせ続けただろうか。

 カンドロイドたちの力も借りて二人を探すが、二人の「よ」の字も見えてこない。

 カンドロイドの警備は完璧なはずだった。

 怪しい動きをする者がいれば、すぐさまゴリラちゃんに伝わる。

 しかし、ゴリラちゃんは身動き一つとらなかった。

 警備の穴を突かれたか、あるいは……。

「(女神さま!女神さま!お願いだ……聞こえてるなら返事をしてくれ!)」

『聞こえておるぞ。大変なことになったな……』

「(事態(こと)が分かってるなら話が早い。女神さまの力で二人がどこにいるか探せないか?)」

『すまん……さっきからやっておるが、どうやら特殊な結界が張られているらしく、気配を感じとれないんじゃ』

「(そんな……)」

 女神さまでも見つけられないなんて……。

 カンドロイド、そして女神さまが追えないとなると、望みは完全に潰えたことになる。

 そして同時に、この事件の犯人がポセイドンの男と関わりがあることが証明された。

 つまり、二人を攫ったのはヤミーであり、犯人はヤミーを生み出せるほどの欲望を持った危険な人物ということだ。

 強く握り過ぎた拳から血が流れる。

 だが、怒りが痛みを凌駕している所為か、何も感じなかった。

『慎司、ぬしのスマホに地図を送った。そこに示されている場所まで来るといい。渡すものがある』

「(……分かった)」

 俺は女神さまとの念話を終え、スマホに送られていた地図を確認してからバイクを再び走らせた。

 

 

 目的の場所に着くと、大人モードの女神さまがアタッシュケースを持って俺を待っていた。

「渡したいものって……」

「これじゃ」

 アタッシュケースの中に収められていたのは、バースドライバーとそっくりな、だが俺の持つそれとは全くの別物のベルトだった。

「これはリバースドライバー。名前くらいは知ってるであろう。これを持っていけ」

「良いのか……?」

「ああ。だが、気を付けろ。これは試作品故、一度きりしか使えない。加えて長時間使い続ければ死は免れないぞ」

「分かった」

 女神さまからアタッシュケースごとリバースドライバーを受け取る。

 それと同時に、俺たちの前に二体のカンドロイドが現れた。

「コイツ……昨日見た奴と同じカンドロイドか」

 あの時、このカンドロイドは下見をする為に俺たちの元に来たということか。

『気付いてくれていたみたいだね、宮沢慎司くん。いや、仮面ライダーバースと呼ぶべきかな』

 カンドロイドから男の声と拍手の音が聞こえた。

「ナニモンだ?てめえが善子たちを攫った犯人か!?」

『そうだ、と言ったら?』

「一体何が目的だ!?」

『クックックッ……』

「何がおかしい」

『いやなに。今日は同じことをよく聞かれるな、と思ってね。そうだな、何も知らずに終わるのは可哀想だ。このロボットに従ってある場所まで来たまえ。そしたら教えてあげるよ』

 通信を切ったらしく、男の声はそこで途切れた。

「十中八九罠だと思うが……」

「行くしかない。善子と曜先輩が助けを待ってるんだ。女神さまは耀太先輩を呼んで来てくれ」

「……分かった」

 彼女は俺を止めない。

 止めても無駄だと分かっているから。

 俺は再びバイクのエンジンをかけ、カンドロイドたちの案内に従い、犯人と善子たちの待つ場所へ向かった。

 

 

 ***

 

 

 バイクを走らせること数十分、カンドロイドたちは廃倉庫へと俺を導いた。

 侵入を防ぐ為の有刺鉄線が張り巡らされていたが、一部が切り取られ、大人の人間一人が入れるほどの穴が空いていた。

 この中に奴はいる。

 そして善子と曜先輩も。

 

 バリケードから建物までの距離は十メートルほどだった。

 鉄線を潜り抜けた俺は、倉庫の内部に足を踏み入れた。

 光は無く、薄暗い。

 だが、そんな暗さにも次第に目は慣れていった。

「「シン(慎司くん)!」」

「善子!曜先輩!」

 闇に順応した目に映ったのは、ロープで拘束されている二人。

 そしてその二人をいやらしい目で見ている、犯人と思しき男だった。

「やあ、会えて嬉しいよ。慎司くん」

「約束だ。どうしてこんなことをしたのか教えろ!」

「良いだろう、教えてあげるよ。……冥土の土産としてね!」

 叫んだ男は、驚くべきことに仮面ライダーのベルトを装着した。

 それも、俺のバースドライバーとよく似たベルトを。

「それはバースドライバー!?」

「違う、これはデスドライバーさ。見たまえ、最凶にして最高の僕の姿を!」

 デスドライバーを装着した男はセルメダルを一枚取り出して、俺と全く同じ手順で仮面ライダーに変身した。

 俺のバースとそっくりな仮面ライダーデス。

 だが、ここで怯んでしまっては、二人を助けるなんて出来やしない。

「変身!」

 俺もバースドライバーを装着し、セルメダルを投入してバースの装備を展開した。

 変身した俺は、助走をつけてデスに殴りかかる。

 拳はデスの胸部にヒットし、奴を後ろに下がらせた。

「何の為に彼女たちを攫ったか……君はそう言ったな。答えは一つ、君に復讐する為だ」

「復讐だと……?」

「忘れもしない……『堕天使ヨハネとひとつになる』という崇高な願いを君に壊されたあの日は」

 覚えている。善子と一緒にスクールアイドル部に入った時、俺たちを襲ったクロアゲハヤミー。

 そうか、コイツはあの時のヤミーの親になった人間だったんだ。

「わたしはお前を許さない!わたしのただひとつの夢を奪ったお前を!」

 デスの反撃の拳がバースの腹部に突き刺さる。

 その威力は、不完全な状態のグリード以上だ。

 衝撃と痛みのあまり、俺は体をくの字に折ってしまう。

 そこへ回し蹴りの追撃が入り、吹き飛ばされてしまった。

「なんてパワーだ……。並のヤミーなんて目じゃねえ……」

「これは素晴らしい。まさかここまでのものとは、正直思いませんでしたよ」

 恐らく、デスの性能はバースを遥かに凌ぐ。

 真っ向から立ち向かっても勝てる見込みはない。

 女神さまが託してくれたリバースドライバー……。

 あれを使えば勝てるかもしれない。

 だが、後一歩が踏み出せなかった。

「うらああああ!」

「ショベルアーム」

 セルメダルを装填し、ショベルアームを展開してデスに攻撃を仕掛ける。

 デスは攻撃を受け止め、なんと、武装をセルメダルに変えてしまった。

「そんな攻撃、わたしには通じません。あの時とは立場が逆転してしまいましたねえ」

 奴は俺を見下し笑う。

 耳につく笑い声を俺は止めることが出来ない。

 俺の攻撃はデスには届かず、デスの攻撃を受けた俺は確実にダメージを蓄積させていった。

 

 とうとう、俺は立ち上がることすらままならないほど消耗し、変身も保てなくなってしまった。

 俺は、近づいてきたデスに足で仰向けに転がされる。

「良いですねえ。苦痛と屈辱で歪む顔……。復讐のしがいがあるというものだ……」

 俺にそう言い放つと、デスは俺から離れていく。

 そしてデスは縛られている二人のところまで歩いていった。

「君に死以上の制裁を下すにはどうしたらいいか……ずっと考えていた。そうしたら、とてもいい考えが浮かんだんだよ。僕は満たされ、君が悔しがる方法が……」

 奴が何をしようとしているのか、俺は一瞬で理解した。

 善子と曜先輩の命を奪う?違う。それでは奴の欲望は満たされない。

「よせ!やめろ!」

「ブッハハハハハハハ!!」

 デスは善子を無理やり立たせ、その身に纏っていた衣服を引き裂いた。

 手足の自由を奪われ、抗うことが出来ない善子はあられもない姿になっていく。

 善子と曜先輩の悲鳴。奴の狂った笑い声。

 奴は二人を辱めることで、俺に復讐することを選んだ。

 

「この……」

 

 かつてない感情の渦が……。

 

「……クソ野郎が……!」

 

 怒りが爆発した。

 

 大切な人を、何の罪もない少女を。

 

「うん?」

 

 奴は穢した。

 涙を流させた。

 

「お前は……お前だけは絶対に許さない……!」

 

 俺は、バースドライバーの代わりにリバースドライバーを装着した。

 そしてドライバーを起動、リバースの装備を展開し、この身に纏った。

 

「何だ……その姿は……」

 

 赤と金をベースカラーとしたアーマー。

 左腕は巨大なハサミになり、背中から主砲が伸びている。

 その他にめバースの武装を強化した武装がいくつも搭載されている。

 

「仮面ライダー……リバース」

 

 俺の再変身が完了すると、デスは善子から手を離し、俺の方に向き直った。

「何がリバースだ。私に勝つことは不可能だ」

 放たれたデスの拳。

 俺はそれを片手で受止めた。

「お前は……越えてはいけない一線を越えた。たとえ、『死』の名を冠する邪悪な存在だとしても、お前に『仮面ライダー』の名前を名乗る資格は無い」

 今度は俺がデスの腹部に拳を叩き込む。

 さっきの俺と同じように、奴は倒れ込んだ。

「バカな……わたしは最強なんだぞ……!」

「てめえは最強なんかじゃねえ。てめえは、俺が戦った相手の中で一番『最低』な野郎だ」

「黙れ……黙れ黙れぇ!調子に乗るな、この死に損ないがああああ!!」

 デスの一撃が顔面に直撃するが、痛みなど感じない。

 俺はもう一度デスの腹部に拳を撃ち下ろし、うずくまった奴に蹴撃を喰らわせる。

「これで終わりだ、デス。いや、名前も知らない復讐鬼」

「ふざけるなァァァァァァ!!」

 主砲の砲口を奴に向け、俺は引き金を引いた。

 放たれた光線は凄まじい威力をもって奴を飲み込み、そのベルトを消滅させた。

 デスは一人の人間に戻り、意識を失って倒れた。

 

 リバースドライバーも限界を迎え、火花を散らして砕け散った。

 それに伴ってリバースの装備も消失し、俺もまた力尽き掛けていた。

 俺は最後の力を振り絞って善子と曜先輩のところまで行き、二人の縄をほどいた。

「悪い……善子……」

「……バカ!怖かったんだから……」

 下着だけとなってしまった善子に上着をかけ、抱きしめる。

 俺よりも小さくて細い体は、まだ震えていた。

 もう絶対に離さない。

 俺が善子を守るんだ。

 たとえ、神さまが相手だとしても。

 

 

 ***

 

 

 事件から数日が経過した。

 デスに変身していた男は警察に逮捕された。

 色々と面倒なこともあったが、ようやく日常が戻ってきた。

「いてて……まだ体中がいてーな……」

 リバース自体が強力なライダーであること、そして使用したのがプロトタイプのドライバーだったこともあり、俺は全身筋肉痛に悩まされることとなった。

 まあ、それはさておき。

 俺が一番懸念していたのは善子のことだった。

 善子はデスの男から辱められ傷付いたはずだ。

 もしかしたら、また学校に来れなくなってしまうかもしれないとまで考えた。

 だがそれは杞憂だった。

 

「遅いわよ、シン」

「勘弁してくれよ……まだ痛みが引かねーってのに……」

 事件前と同じように、善子は俺を迎えに来た。

 前と違うことがあるとすれば、曜先輩がいないこと。

 曰く「善子ちゃんを元気づけてあげられるのは、慎司くんだけ!だからちゃんと見ててあげてね」だそうだ。

 曜先輩なりの気遣いなのだろう。

「なあ善子、お前もう平気なのか?」

「平気って?」

「えっと……こないだのこと」

 そう尋ねると善子は歩みを止めて俯いた。

「……『もう平気』って言えば嘘になるわ。あの時を思い出すと、怖くて震えが止まらなくなる。でも──」

 突然、善子は俺の胸に飛び込んできた。

 震えていた声からは一切の恐怖が感じられず、代わりに安堵感や落ち着きを感じた。

「シンがそばにいてくれれば、大丈夫よ」

「……あの、善子さん?人が見てるんですが?」

「なによ。いつも躊躇いもなくは恥ずかしいこと言うくせに」

「いや……言うのとするのでは……ああ、もういいや」

 俺は考えることをやめ、善子を抱きしめる。

 周囲から微笑ましい顔で見守られるが関係ない。

「大好きよ、シン」

「俺もだ、善子」

 震える善子を抱きしめたあの日の誓いをもう一度誓おう。

 この笑顔を、温もりを必ず守り通す。

 そして、いつか必ず──。

 

 

 




仮面ライダーバース、如何だったでしょうか?
前回同様、まずはライダーと敵キャラの紹介になります。

仮面ライダーデス
変身者は本編10話~11話に登場したヤミーの親。
堕天使ヨハネ名義でネットで活動している善子の熱狂的信者で、かつて「善子と同一化したい」という欲望をもとにヤミーを生み出され、自身もそのヤミーと意識を同化させた。しかし、仮面ライダーバース=宮沢慎司によってそれを阻止され、彼に強い憎悪を抱いていた。
本作のデスは原作とは異なり、装着型の仮面ライダー。戦闘力は非常に高く、バースからパワーアップしたバース・ツヴァイすらも凌駕する。

仮面ライダーリバース
変身者は宮沢慎司。
原作同様、バースや本作オリジナルのバース・ツヴァイを大きく上回る戦闘力を持つ。オリジナルのリバースと同じで変身者への負荷が大きい。また、今回登場したのはプロトタイプであり、変身した慎司は反動で全身が筋肉痛になった。
変身した際のデメリットから慎司は変身を躊躇うが、善子にむごい仕打ちをしたデスと躊躇した自らへの怒りで覚悟を決め変身した。

さて、ラブオーズ外伝もいよいよ残り一つとなりました。
外伝のラストを飾るのは、予告したタイトルでお察しかと思いますが、ラブオーズの実質的な主人公、島村耀太くんです。

来週、あるいは再来週には投稿したいと思います。
それでは、最後の最後までよろしくお願い致します。

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