それと、多くの温かい言葉ありがとうございました。自分の書きたい小説を書いていくように頑張らせてもらいますね
「こうして桐生くんに会うことができて嬉しい!」
久しぶりに再会した少女『成瀬帆波』、いや、『一之瀬帆波』はその身で嬉しいという感情を表現しているようであった。実際、桐生の手を握って飛び跳ねて喜んでいる。突然のことに桐生はまだ完全には追いついていないため、まだ呆けているところもあったが、今はただ飛び跳ねて喜んでいる一之瀬に揺するられていた。
「うん、嬉しいのは分かったから、少し止まってくれ。揺れすぎて気分が…」
「あっ…ご、ごめんね…」
ようやく桐生は解放された。しばらく揺れたことにより、少し体がフラフラとする感覚がしていたがしばらくするとその感覚も収まって来たが、先ほどまで一之瀬が握っていた手の温もりは残っていた。
一之瀬は久しぶりに桐生に出会えた嬉しさでテンションが上がっていたのが少し落ち着いたのか、恥ずかしさで顔を覆っていた。
「…あの、なんだ…上手く言えないけど久しぶり会えて俺も嬉しいよ。えっと…今は成瀬じゃないんだよな?」
「私も嬉しいよ。せっかく助けてもらったのに学校に行けなくなっちゃって…ちゃんとしたお礼も出来てなかったし、ごめんね。今は一之瀬だからそっちで呼んでもらった方がいいかな。…でも桐生くんになら帆波って呼んでほしいな…?」
ジッと上目遣いで見られるとドキドキとしてくる。しかも少し涙のような物を浮かべながらこちらを見ているため、いやだなんて言えない。ここで嫌だなんていう人は人としてどうかと思うレベルで一之瀬が可愛く見える。
「ダメ…かな…?」
「いや、いいよ。これからよろしくな、帆波」
「…よ、よろしくね。でも、本当に呼んでもらえるなんて思わなかったよ…」
なんだか、すごいテンション高いな。さっきからあっちこっち見てて動きも落ち着かない様子だし、どうしたのだろうか?分からないけどしばらくしてたら落ち着くかな。
しばらくすると落ち着いたようで、深呼吸をしてから一之瀬は話し始めた。
「…こ、これからは私も司って呼んでもいいかな…?」
「うん。いいよ。別に誰からどう呼ばれてもそんなに気にしないし、帆波がそう呼びたいなら呼んでくれていいよ」
「う、うん。じゃ、じゃあこれからよろしくね、…司」
「よろしく」
なんだか最後はちょっと聞き取りづらかったけど、呼び方の問題は解決したみたいだ。それにしても今思ったが、なんでこんな場所に帆波はいるんだ?特別棟から出てくる人なんて放課後にはあまりいないのに…。
「もしかしてなんで私が特別棟から出てきたのか気になってる?」
「確かに気になってるけど…なんで分かった?」
「それはね、なんだか気になってますって顔に出ていたからだよ」
顔に表情が出やすい方だとは思っていたけど、まさかそんなに分かりやすいとは…。もう少し気をつけないといけないな…。
「それでね、その質問に答えると、理科室にペンを落としてなかったか確認に来ていただけなんだよね。お気に入りのペンだったから気になってて」
「確かにそれは気になるな。それで見つけることが出来た?」
その問いに一之瀬は顔を縦に振って答える。どうやら見つけられたようだ。その証拠にそのお気に入りのペンをカバンから取り出して俺に見せてくれた。シンプルなデザインに、ワンポイントが印刷されているペンで、あまりそういったものに疎い俺でもオシャレで可愛らしいものに見えるものであった。
「お気に入りのものみたいだし、見つかって良かったな」
「うん、見つかって良かったよ。それで司はどうして特別棟に?」
「あー…それはだな…」
桐生は一之瀬に特別棟に来ることになった経緯を丁寧に説明した。須藤がCクラスと揉め事を起こしていること、その証拠が特別棟に残っていないか確認きたことをある程度まとめて話をした。
話し終えると一之瀬もホームルームでその話は聞いていたらしく、その時のことを教えてくれた。
「確かそんな話を今日の朝先生が話していたなー。誰も知らないって言っていたし、先生も、『Bクラスにはあまり関係はない話だけどねって』言ってたよ。けれど、教えてもらった事を聞くと結構根が深そうだね」
「そうなんだよな。どちらが嘘をついているとも分からず、互いに決定的な証拠を持ち合わせていないからな…そこで俺はこっちの棟に監視カメラがないか見に来たんだ」
「なるほどね。…あのさ、もし良かったら私も付いて行っていい?」
「?いいけど、面白いようなことはないよ。地道に確認を取るだけだから」
「うん、いいよ。これからすることもなかったし、その方が面白そうだから」
「帆波がいいないいけど。じゃあ行こっか」
「うん!」
それから二人は特別棟二階に移動してカメラの確認をした。それは須藤が殴ったと言っていた現場やその近く、他の階もくまなく調べてみたが、カメラはどこにも見つからなかった。
「カメラないみたいだね」
「カメラがあれば一発で分かったんだけどな…」
「確かにあったならすぐに分かるんだけどねー」
「ここでは何も見つからなかったし、ここに用はないから帰りながら話す?」
「そうだね。ちょっと暑くなってきていたからそうしよ!」
熱気のこもった特別棟の中は暑く、しばらくいるだけでも汗が吹き出てくるほどであった。実際、桐生も何度か汗をタオルで拭っていたが、一之瀬も暑そうにしていたのでそうしたのだった。
とりあえず特別棟から外に出て、寮を目指しながら二人は会話を続ける。
「それにしても帆波とこんなところで再会するなんて思いもしなかったな」
「そうだよね。私も図書館で会った時、もしかしたら…って思ったけどあのときは聞くような雰囲気じゃなかったからねー」
「あのときは止める側の俺が熱くなっててたしなめられていたから恥ずかしかったな」
「でも、私は詳しく知らない子だけど、関係のないCクラスの子に暴力をふるおうとしていた須藤くんが悪かったよ。司はあの子を守ろうとしただけだよ」
あのときのことを思い出す。度重なるCクラスの生徒による挑発、イライラが溜まっていた須藤は、挑発をしていたCクラスの生徒に代わり、謝った椎名に怒りの矛先を向けた。椎名はただ謝る側だったため抵抗をしようとはしていなかったが、危ないと思ったから俺が須藤の前に立った。その後は必死だったから何を話したのか覚えていない。けれども帆波がいなかったら須藤は間違いなく俺にも手を出していただろう。
そう考えるとCクラスの龍園というやつは随分と前から須藤を退学にさせる気だったのではないだろうか。あのときの山脇というやつらの挑発具合、人目につく図書館での騒動。間違いなくあそこで須藤が殴ったりでもしていれば即退学もあり得た。けれどもそこに一之瀬帆波という、龍園にとって全く考えていなかったイレギュラーが現れた。そのイレギュラーによって須藤は退学にならず、Dクラスは退学者を出すことなく試験を乗り切った。そのため、今回人目のつかないところで一人須藤を呼び出させた。須藤という人間は単細胞だ。煽られればすぐに逆上し、暴力に訴える。しかも今回はそんな彼を止めるような人間はいなかった。そのため案の定須藤は暴力を振るい、怪我をさせた。そして退学者を出し、Dクラスを下げようとしている。
これはあくまで俺の予想の範疇だが、限りなくあり得る話だ。そうでもなければ須藤を何度も狙い撃ちなんてしない。そう考えると龍園ってやつはなかなかエグいことを考えるな…。
「もしもーし、聞こえてる?」
帆波の呼ぶ声が聞こえてくるため、考え事をやめて会話に戻ろうとする。すると顔の近くで帆波がじっとこちらを覗いているところであった。
「うわっ!びっくりした…」
急に目の前にいたため驚いて後ろに後ずさりする。その様子に驚いた帆波もギョッとして後ろに後ずさりをした。
「びっくりしたのはこっちだよー。さっきから話してるのに私の独り言になってたし、声をかけているのに全然聞こえていないみたいだし。ようやく気がついたと思ったら、大きな声をあげるだもん」
「それは悪かったな。また今度何か奢らせてもらうから許してくれ。それでさっきは図書館でのことを思い出してたんだけどな…」
「本当!?じゃあ今度ケヤキモールに行こう!日にちはまた決めようね。それと、図書館のことで何か分かったことがあったの?」
「うん。多分図書館でのことも、Cクラスの仕組んだことだと思うんだ。狙いは徹底して須藤を退学させてDクラスに損害を与えること。そう考えると、やけにあのときに、つっかかってきたことにも納得がいく。ただ椎名はそういうことには加担してなそうだけど。そうじゃなきゃあんなに怒っている人に謝らないし、椎名は本が好きだから純粋に図書館で争われるのが嫌だって言っていたからな」
「確かにあのときもCクラスの子たちが須藤くんにいちゃもんをつけたよね。そう考えるとそうなのかも。Cクラスの子たちは他のクラスにも結構仕掛けているんだね」
「というと?」
「実は私たちBクラスもCクラスの生徒ともめた人がいるんだよね。それ以降はCクラスの挑発には乗らないってみんなで決めてはいるんだけど、しつこくしてくる人もいるんだよね」
正直Dクラスだけを狙って攻撃しているものだと思っていたからびっくりした。龍園というやつは余程の変人だな。他クラスを一斉に攻撃するなんて普通じゃ考えられない。普通に思えば考えの狂った人間だと思う。
しかしながらここまで狡猾な手立てを取って、証拠を握らさないように動いていることを知っている今なら、龍園というやつは相当な切れ者だと判断できる。いずれ敵対するのも時間の問題だが、敵対するとなるとなかなか大変そうなやつだな…
「そこでなんだけどさ、BクラスとDクラスで協力関係を結ばない?」
「協力関係?」
「そう!だってさ、Cクラスとはお互いに敵対関係じゃない?Bクラスとしては追ってくるもの、Dクラスとしては追う立場だからさ。そこで私たちが協力しない?卑劣な攻撃もしてくるから互いのクラスで協力した方が対応もしやすいと思うんだよね」
確かにいい考えだと思う。未だこちらは敵の正体が分からない。その中で無駄な敵を増やすよりかは、味方にしておいた方が損はないだろう。
「いいと思うな」
「だよね!じゃあ…」
一之瀬が言い終わる前に桐生は続けて話す。
「ただ、これは俺の独断では判断しかねる話だ。クラスで話し合ってみて、意見が出たらまたBクラスに返答をしようと思うんだが、いいか?」
桐生の質問に一ノ瀬は笑顔で答える。
「そうだね。すぐには答えが出せないよね。じゃあ、決まったら教えてね!」
「ああ。それとその結果を教えるために連絡先交換してもいいか?」
「うん!」
一之瀬と連絡先を交換したとき、一之瀬は笑顔を浮かべていた。その様子にそんなに嬉しいことかと不思議に思った桐生であったが、気にすることはなく、ここで二人は別れて自室へと帰ったのであった。
二巻はこの後はサクッと終わらせます
三、四巻は変更部分が多いのでゆっくりになると思います