一話です。
よろしくお願いします!
徽章
今日も雨が降っている。
これで三日連続の雨。
あたりは昼間でも薄暗く、空気もどこかひんやりとしている。
薄着では肌寒いくらいだ。
だが、今の俺にはこれぐらいの方が心地良い。
なぜなら俺はもう・・・かれこれ五分は全力で走り続けているのだから。
この町はスラムが形成されているため、複雑に入り組んでいる。
もちろん、そんな場所の道は舗装などされているわけもなく、気を抜けばぬかるみに足を取られ転倒してしまうだろう。
俺は今まで何人もそんな奴を見てきた。
こけたら最後、ゲームオーバーだ。
まあ、俺はそんなドジ踏まないがな。
心の中でそう息巻いていると、目的の場所が左手奥に見えてきた。
安心感がじわりと心の中に生まれるが俺は絶対最後の最後まで気を抜かない。
泥を蹴散らしながら全速力で駆けていると三叉路へとさしかかる。
最短距離はあえていかず一度そとに大きく膨らみ左へと折れる。
こうしないと足が滑りこける羽目になるのだ。
曲がり角を無事に曲がると、また前方にT字路が見えるのだが、そこには向かわない。
右足で踏ん張りそれを軸にしながら、俺は突如体を反転させる。
すると、とてつもない慣性力が掛かったが、その勢いをうまく利用し、物陰へと滑り込んだ。
「はあ・・・はあはあ・・・はあ。」
さすがの俺でも一キロにも及ぶ、広場とここまでの道のりを全力ダッシュすれば息は上がる。
だが、体力には誰にも負けない自信があり、事実、今も二三度大きく深呼吸するとすぐに落ち着いた。
呼吸を整えた俺はソッと外の様子をうかがった。
・・・・・・がどうやら追っ手の様子はないようでなんの物音もせず、ただ雨音が響くのみだった。
「ふぅーなんとかまいたか・・・・・。」
俺は額に浮かぶ雨だか汗だかをぬぐい大きく息をついた。
そのとき・・・。
「お疲れ!バルト!」
「うぉっ!!びっくりした・・・。」
後ろから突然声が聞こえ俺は露骨に驚いた様子を見せてしまう。
「えへへ~。おどろいた?」
振り返ると、そこには無邪気に笑う金髪の少女がいた。
「驚かすなよ・・・。死んだかと思ったぞ・・・。」
「あはは。」
この笑顔が大変可愛い彼女は俺の仲間であり親友の一人、ソフィア。
仲間達からはソフィーと呼ばれて、親しまれている。
この笑顔と優しい心がむさ苦しい男達の心をわしづかみにしており、とてつもない人気者だ。
服装こそ、麻でできた簡素で素朴なモノであるがそのまぶしいほどの笑顔と、整った顔立ちはまるでどこかの国のお姫様のように美しい。
それだけでも十分彼女は俺たちにとって大切な存在なのであるが実はそれだけではない。
「また俺の後を付けてきてたのか?ソフィー。」
「うん、バルト一人だけじゃ危なっかしくって心配だからね?ついて行っちゃった。」
「ついて行っちゃったって・・・そんなことできんのお前ぐらいだぞ。俺に付いてこれるのなんて。」
「えへへ~そんなに褒められると照れるなあ・・・。」
「褒めてねーよ・・・。」
ほっぺに手を当ててしなをつくるソフィーに俺は呆れながらに突っ込みを入れた。
俺は体力に自信があると先ほど言ったが、こいつの前では少しその言葉を撤回したくなるときがある。
俺の足の速さは仲間のみならず町の住人ならば誰でも知っている事なのだが、そんな俺の足よりも数段こいつの方が速く、今も気づかぬうちに後ろから付いてきて、しかもこの余裕なのだ。
おそらく、戦いになれば俺の方が強いとは思うのだが、こと足の速さや俊敏性に欠けてはこいつに勝てる気はしない。
いや、もしかしたらこいつの本当の力はこんなもんじゃないのかも、と思いすらする。
ほんとにこいつは底知れない奴なのだ。
よって、以上から分かるようにソフィーは美しさと強さの両面に於いて俺たちにはなくてはならない存在なのである。
――まあ、こんなホクホク顔の奴がそうだとはにわかに信じがたいんだけど・・・。
「どうしたの?」
「ん?なんでもない。」
不思議そうな様子でこちらをのぞき込んできた彼女になんでもない、と告げると彼女は立ち上がりながら座り込んでいる俺に手を伸ばす。
「そ?なら、行こっか。私たちのアジトに。」
「おう、そうだな。行くか。」
伸ばされた彼女の白い手を握りよっこいせ、と体を起こし、地下へと続く重い金属製の扉を開く。
ここが我らのアジトへと続く入り口になっていた。
だから俺はここへと逃げ込んできたのだ。
「あ、そういえば、取るモノは取ったこれたの?」
その入り口から続く地下道を歩きながらソフィーが聞いてきたので、俺はニヤリと笑みを浮かべて得意げに言った。
「もちろんだ。俺を誰だと思ってんだよ?」
「ただの悪ガキ?」
「ちげーよ!それいったらお前も悪ガキだろ?」
「私は違うよ?私は可憐で清楚なお嬢様だから。バルトとおんなじになんかしないでよね?」
フフン、といかにも得意げに言い放つ彼女にカチンときた俺は彼女が一番気にしているアレを言うことに決める。
「・・・・・・貧乳。」
「な・・・なんていま・・・。」
「だから、貧乳って言ったんだよ!このぺちゃぱい貧乳色けなし最強女が!」
「貧乳のことは言わない約束でしょ!?それに最強ってあんまりののしれてないし!」
「最強は余計だったな・・・ごめん。」
「そっちをあやまるなら貧乳のこと謝りなさいよ!?それに私はまだ十二歳だからこれからだし!」
「いーや、女の成長期は十二歳までですー!もう一生そのままですー!」
「そんなことないわよ!今に見てなさい!ボインボインのバインバインになってやるんだから!」
「それは楽しみだ。せいぜいがんばるが良い!無駄だとは思うがな!」
フン!とお互いに顔を背けて腕組みしていると、「また君たちはけんかしているのかい?仲良いなあ。」という声が聞こえた。
耳慣れたその声の主の方を向き、呆れたような口調で俺は言った。
「おい、ジーク。冗談はそこまでにしろよ。どこをどう見たらこれが仲良しなんだ。」
「そうよ、ジーク。こんな山猿と仲良しなんてやめてよね。」
俺の抗議に乗る形でソフィーも遺憾の意を示す。
しかし、俺とソフィーが猛然と反論しているのもお構いなしに、ジークは楽しそうな笑顔を浮かべて言う。
「どこからどう見ても仲良しだよ?」
「「仲良しじゃない!」」
「ほら仲良し。」
俺とソフィーの声がそろってしまい、ジークはなおさら満足そうに笑う。
もうこいつの中では俺と彼女が仲良しだという事実は覆せそうにもない。
はあ、と大きくため息をつくと横で同じようにため息をつくソフィーの姿があり、互いに笑みがこぼれてしまう。
なんだかんだでソフィーも本気で怒っているわけではないのである。
ジークのおかげもあって俺たちのしょうもない喧嘩は収束し、先ほどはなしかけていた話題に戻っていく。
ジークがにこやかに俺に向かって言った。
「バルト、目当てのモノは手に入ったのかい?」
「ああ、なんとかな。途中追っ手をまくのに手間取ったがなんとか手に入れる事ができたよ。」
「なら、見せてよバルト。」
目を輝かせてソフィーが食いついてきたので俺はなんだか照れくさくなり、ぶっきらぼうに「ほれ」といってポケットからその品物を取り出した。
「「おおー!!これが衛兵隊の徽章か~!綺麗~。」」
取り出した徽章を見てさらにいっそう目を輝かせた二人。
俺のものではなく町の衛兵隊員のものなのだがなんだか俺の方が得意げになってきてしまう。
「まあな。でもこれとってくるのすっげー大変だったんだからな。衛兵隊員のやつひとりにわざと肩ぶつけて取るつもりだったんだけど、しくじってそのバッチ落としちまって、そこからはもう全力で逃げ帰ったんだよ。感謝してほしいぜ。」
鼻の頭をこすりつつそう言い放った俺。
すると・・・。
「「ありがとう!!」」
とジークのみならずいつもは素直にお礼なんか言わないソフィーにまでお礼を言われてしまった。
いや、普通に照れる・・・。
素直な感謝の言葉に照れる俺なんかをよそに二人とも徽章の美しさと手に入れた感動でもうテンションがぶち上がりまくり、他の仲間のもとに駆け寄って「これみて!バルトが取ってきたんだよ!すごいでしょ!?」と自分のことのように喜びまくってくれている。
ここまでの歓び用は予想していなかっただけに俺は素直に嬉しくなってしまい、お立ち台に上がると。
「よーし!皆、今日は宴だ!!」と言い放ってしまった。
アジトには幸いにも全員がそろっていたので、仲間総勢二十二名が全員立ち上がり野太い声で
「「おお!!」」と叫び返す。
皆が歓び、叫んでいるこの景色はなんとも壮絶であり、非常に心震えるモノだった。
宴では、いつもからは考えられない豪華な食事やソフィーの美しい舞などの余興が催されじつに愉快なひとときだった。
普段しっかりもののジークが水と焼酎を間違って飲んでしまいベロベロになっているなんかは特に傑作だった。
なにはともあれこうして今日は盛大に宴を楽しんだ。
これが俺たち「鴉」の日常である。
いかがでしたか?
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