ノーゲーム・ノーライフ I am a loser 作:飯落ち剣士
エルキア王国、もう日が暮れ辺りは暗くなり始めた、城などがある中心部からはやや少し離れた場所に建つ、廃屋の中。
椅子に座り、書類になにやらチェックを入れていた青年は、チェックを入れ終え、ペンを止める。漏れがないのを確認してからその書類を折り畳み、それをポケットに入れ、座っていた机を蹴飛ばした。
これで、青年の今日の仕事は終わり。
青年は建物を見回す。石造り二階建て、荒らされたように偽装した家具や床はぐちゃぐちゃと汚い。床には、
一階に降りると、階段の隣の部屋から物音がする。五分前には下に人はいなかった。なにかを引っ掻くようなその音に不信感を覚える——訳ではない。ないのだが、青年の用件はその物音にある。その部屋に繋がる扉を開き部屋に入る。青年の予想通り、ミハイール……協力関係にある
「終わりましたよ。そちらは?」
「こっちも終わった。今はチェックリストに記入をしてるとこだ」
「なるほど」
すぐに筆を止め、
「さて、じゃあ帰って経過報告済ませよう」
「ですね」
今日も不測の事態なく、危険な綱渡りを終えた安堵を覚えつつ。幸の薄い青年は玄関へ行こうと扉を開き、そして。
「あらぁ?どちらへ行かれるので?大臣さんと……
ミハイール先輩♡」
*
ほぼ同時刻のエルウン・ガルド、人類種領土があるルーシア大陸の領土。
とあるニュースが、街を駆け巡っていた。
「
「序列最下位の劣等種だ、当然といえば当然か。むしろよく潜り込めたな」
「
「捕まえた奴はあの出来損ないらしいけどな」
「はぁ?」
そんな街をぼんやりと、木にもたれて眺める
ローブのフードを目深に被った彼女の目線が何処に向いているのかはわからない。
彼女は、噂駆け巡る街から目線を逸らし風を捕まえて空へ、次の仕事に向かう。その全ては
自嘲の笑みは、精霊に荒らされた風に消えた。
……そして、テテフがもたれていた木、そのすぐ近くの屋敷。
「……何度でも聞くのですよぉ。内通者の名前、立場、情報を吐くのですよぉ?」
「知らないって。『十の盟約』に背いてるとでも?」
『名家の面汚し』『出来損ない』『半人前』。
様々な不名誉な呼び方をされるニルヴァレン家の主である
椅子に座らされ、建前上は客人扱いの海がただひたすらに質問を拒否し続ける。
5時間前のことだ。海は一人でこの屋敷を訪れ、フィール・ニルヴァレンにゲームを持ち掛けた。
ここ数日、海は
そんなある日のことだ。順調に進んでいた亀裂入れ、土台崩しが。
原因をすぐさま調査、海は修復者がフィール・ニルヴァレンということに容易く、あまりにも容易くたどり着いた。痕跡はわざと残されていたことを、
上手く嵌め技を使われたことを悟り、フィール・ニルヴァレンの屋敷に単身で向かう。
そして、ゲームを挑んだのだ。
「……俺が勝ったら、一日この屋敷を借り受ける」
「私が勝ったら、貴方の保有する情報全てを、私の気が済むまで吐いてもらうのですよぉ」
そう、そして屋敷内。絶対厳守の誓いは口にされた。
【
ゲームは一切の追加ルール無しのチェス。二人零和有限確定完全情報ゲームなら、
しかし、結果は。僅か30と少しの手数。
15分で、相手のルークは海の逃げ道を塞いでいた。
「チェック・メイト、なのですよ」
……頓死、だった。二五手目、海が勝負手として放ったビショップ。駒の動きが見えなかったかのような、致命的ミス。守備の構築同時に攻撃の牽制を担っていたビショップのタダ捨てにより、盤面は急変。
結果、敗北。そして間者について、ここに来た方法、etc、etc、etc…情報を片っ端から質問され————。
結果、
「もういいだろ。帰してくれ」
海のその一言に、フィールはやっと彼を解放し、彼は屋敷を離れた。離れた、が。
海はこの国に来る時はミハイールの転移を使った。いま、ミハイールは居らず、エルキアには帰れない。
……さて、彼は何処に帰るのだろうか?
6月から更新速度上げます